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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

もう一つのアルガティアとアイレにルーナとルーエ

夏真っ盛りのリフィルの昼下がり。
暑さに完全にやられ、干からびたような状態のアイレの横では、
ルーナがダメになった弓の弦を張り替えようとあの手この手を試すも上手く行かずに困っていた。

「せっかくシアさんから聖竜毛の弦をもらったのに」

この世界の弓の弦は幻獣の抜け毛から作られた弦や竜毛で作られた弦など、
様々な種類の弦が存在する。
ルーナがシアからもらった弦は、使用者の純粋な心に応じて様々に変化するものである事以外は一切不明。
ルーナは幻獣毛の弦と同等に引きしぼりやすいとのことでもらったのだが。

「溶ける以前に蒸発しそうだよ」

影に居ることは居るのだが、
それでも防ぎきれない暑さでアイレは水に戻った氷のごとくだらけていた。

「さっきまでゴルダさん居たのに居なくなってるし、アルガティアさんも姿を見てない。誰に教わればいいのかしら」

つい先ほどまで、ここにゴルダも居て軽く話をしていたのだが、
いつの間にかマティルーネとルァクルを連れて姿を消しており。
アルガティアはというと、
ゴルダの話では朝から講義や王としての仕事が忙しいので午前中は暇ではないと聞かされていた。

なお、アルガティアに関してルーナとアイレはゴルダからこんなことを言われている。

「今日はやたら王の威厳たっぷりで喧嘩腰かつ姉御肌だが、たまにあるから普通に接しろ。態度を変えられることをあまり好かないからな」

いつもはおっとりお姉さんな感じのアルガティアが、今日は姉御肌で喧嘩腰。
しかも王の威厳を放っていると聞いて、
アイレは頭上に魔力を具現化させた?をいくつも浮かべ、
ルーナは喉に魚の小骨でも刺さったかのような違和感を覚えた。

「どう言う意味なんだろう?」

なおも弦の張替えに挑みながらそんなことをルーナが呟いていると、
ゴルダからリフィル王立大だと教えてもらった建物の方から本を片手に抱え、
いつものようなゆったりした歩き方ではなく確かに地面を踏みしめ、
国王たる威厳を示す歩きで移動するアルガティアが視野に入る。

「なんだか目つきも鋭い」

そしてアルガティアがいつもと違うのは歩き方だけではなく、
その目つきすらも、いつものとは打って変わった鋭い目つきをしていた。

「なんだか声掛けの怖いなぁ。でもゴルダさん居ないし、弓の弦の張り方知ってるのアルガティアさんくらいだろうし」

一瞬いつもと違う雰囲気のアルガティアに怖気ついたが、
ルーナは他に弓の弦を張り替える方法を聞ける相手がアルガティアくらいしかいないので、
雰囲気のことなどかなぐり捨ててアルガティアに声をかけた。

「アルガティアさん」

その一言にアルガティアは鋭い目つきのままこちら側に向き直り、
口元を緩めてルーナ後ろで溶けた氷のような状態のアイレを見てから

「私に何か用かルーナ?用があるなら聞く。午後はそこまで忙しくはない。それとこの時間は影にいても暑いが大丈夫か?アイレが溶けているぞ」

要件を聞いた上でこの時間は影にいても暑いことを指摘し、
アイレが溶けていると話す。

アルガティアのこの一言でルーナが振り返ると、
そこには暑さで溶けぐったりしたアイレの姿が。

「どこか涼しいところありますか?」

状況を理解したルーナの一言に、
アルガティアは踵を返して無言でアイレを連れてついてくるよう促す。
ルーナはそんなアイレを抱えてアルガティアの後をついて行く。

「従者に一言言えば良かったものを、こんな暑い外にいたら熱中症で死んでもおかしくはない。危機管理が薄いぞ」

移動しながらアルガティアにそんな説教をされながら、
アイレを抱えたルーナはいつもの応接室とは違う部屋の前までやって来た。

他の部屋の扉と違い、国章が彫られた扉から察するにここはアルガティアの自室だろう。

「入れ、遠慮は要らない。ゴルダも入ったことがある」

入れと言われたからには入らない訳にもいかず、
こんな暑い回廊で棒立ちするのも危険なのでともかく入ることに。

部屋の中は涼しいことには涼しいのだが、
アルガティアの部屋は一国王の自室であるにもかかわらず、
家具類はベッドや本棚に机とソファにテーブルなどの必要最小限。
壁の収納もそこまで容量は大きくなさそうである。

「国王の部屋ならもっと物があるかと思いましたが、必要な物だけなんですね」

アイレをソファに寝かせ、
部屋を一通り見回したルーナに言われてアルガティアは鼻で笑うと

「国王としての仕事と、講師としての仕事は全て書斎だ。自分一人の時間を作るだけなら家具類はこれだけで構わん」

プライベートな時間を過ごすだけならこれで十分だと返すと、
アイレにどこからか取り出した薬のような何かを飲ませた。

「熱中症の薬で水分補給も可能な薬を飲ませた。1時間ほど安静にしてれば治る」

何を飲ませたんですかと言いそうな顔のルーナに、
アルガティアは飲ませたのは熱中症の薬なので落ち着けと遠回しに言う。

アルガティアのそんな一言と鋭い目つきの中に私を信じろという一言を感じ、
ルーナはそれ以上何も言わずにアルガティアに聞かれる前に自分の弓を取り出す。

「アルガティアさん、弦の張替え方教えてくれませんか?ゴルダさん居たので聞こうとしたんですがいつの間にか居なくなってて」

弦の張り方を教えてくれと言われたアルガティアは、
ソファに座って脚を組みながら

「構わない。が、この後ルーエが来ることになっている。すぐには無理だがいいのか?」

ルーエが来るのですぐには教えられないことを話す。
ルーナはそれでも構わないという意思表示を込めて頷く。

「お前もルーン語などに興味があるなら、私とルーエの話を横で聞いてるといい。知識への探究心は生きる上で重要なものだ」

アルガティアはそう言ったきり、
アイレとルーナに関わることをやめてテーブルの上に本を並べるとまた脚を組んだ姿勢で座る。

「随分堂々とした座り方するんですね。こう言うのは失礼かと思うんですが、あまりにも女王らしかぬ振る舞いをするなとも」

アルガティアの座り方に、女王らしかぬ座り方だと無礼もへったくれもないルーナの一言に対し、
アルガティアはふふっといつもと違うおっとりした雰囲気の笑い方ではなく、
威厳のありそう雰囲気の笑いを飛ばし

「悪くは無いだろう?もっとも、いつもの性格の私を知っていれば違和感しか感じないとは思うのだが」

悪くはないだろう?とルーナに問いかけつつ、
元の性格を知っていては違和感しか感じないだろうと言う。

「来ましたよ、アルガティアさん」

ルーナがアルガティアの問いに再び頷いて返答したと同時に、
ルーエがアルガティアの部屋の中へと講義で使っていると思わしき本を抱えて入ってくる。

「こっちだ、とりあえず座れ」

やはり脚を組んだままの状態でルーエを迎え入れたアルガティア。

「あっ、ルーナさん居たんですね。それにアイレも」

「ちょっとアルガティアさんに用があってね」

ルーナもアイレもルーエに会うのは初めてではないが、
会う機会がそこまでないためこうして会うことは珍しい。

「さて、始めようか」

ルーエとアルガティアがルーン語について話している間、
ルーナは薬を飲んでから一切起きる気配のないアイレを撫でながら2人の話に耳を傾ける。
やはり言っていることは断片的にしか理解できないが、
聞いていて飽きるものではなかった。

「訳してみなさい。今の話が理解できれば訳せる」

いつの間にか脚を組む姿勢をやめて、
普通の座り方でルーエに自分の書いたルーン語を訳してみるように言うアルガティア。
ルーエはそれを難なく訳し、それをアルガティアに見せる。

「悪くはないわ。私の言ったことを的確に抑えていて訳し方も申し分ない」

その後もこんなやり取りを続けてる傍で、
ようやくアイレが目を覚ます。

「んー」

寝ぼけているのだろうか、
ルーナが撫でるのをやめるとアイレは何を考えたのか唐突に自分の尻尾を咥えて食べ始めた。

「アイレ、何やってるのよ」

ルーナが話しかけてもアイレは自分の尻尾を食べたまま虚無の表情を浮かべている。

「あら、暑さで頭をやられたのか?」

ルーエにルーン語を教える手を止めて聞いて来たアルガティアにアイレは

「ふぉんなふぉとにゃひよ」

寝ぼけた口調で尻尾を食べたままそんなことはないと否定。
そんなアイレの姿を見たルーエは思わず

「口の中に毛が残っちゃいますよ?」

冷静に口の中に毛が残るのでやめておけと言う。
だがそれでもアイレはやめる気配がない。

「しばらくそのままにしときなさい、そのうち正気に戻る」

何を言っても無駄なのでしばらくそっとしておくように言うアルガティアに、
またもやルーナは思い出したかのように

「弦の張り方教えてください」

アルガティアに弓の弦の張り方を教えて欲しいと言う。
それに対してアルガティアはティーセットなどが入っている戸棚の前まで歩き、
茶の準備を済ませて戻って来てから

「いいわ。でも今はティータイム。急ぎで要り用ではないのだろう?午後は私もそこまで忙しくはないと話したはず」

教えるのは構わないが、急ぎで必要としないならば今はティータイムだと言う。

「そ、それもそうですけど」

アルガティアの鋭い目つきに押され、
ルーナは少し引き気味になりながらも肯定。
するとアルガティアは鋭い目つき一瞬緩ませて微笑むと

「よろしい。アイレはそっとしておいてルーエもティータイムにしよう」

2人に茶を出してティータイムに入る。

その間アイレはやはり尻尾を咥えたままボーっとしていた。

さて、それからどれくらい経ったかは不明だが唐突にアルガティアの部屋の扉が開く音がする。

「ルーナは居るか?」

ゴルダの声に気付き、ルーナが振り向くとそこにはマティルーネとルァクル。
そしてミリシェンスよりも濃い紫の毛に黄色い目。
額にアメジストを宿したフィルスと同じ尻尾のカーバンクルがルーエと同じ二足歩行で歩いてこちらへやって来た。

「ゴルダか。その姿、よほど気に入ったのかしら?」

「この姿で居ると癒される」

ルーナと未だに尻尾を咥えていたアイレがハッと咥えていた尻尾を離し、
このカーバンクルがゴルダなのか?と信じられないと言いたげな顔で見つめている。

「ゴルダさんに変身能力があるのは知ってましたけど、ボクと同じカーバンクルに変身できるとは知りませんでした」

アルガティアにおかわりを注いでもらい、
それを一口飲んでからルーエは謎のカーバンクルの姿のゴルダに言う。

「ゴルダにも色々ある。そちらが知らないようなこともな」

ルァクルの一言にルーエはなるほどと一人納得。
一方のアイレとルーナは、未だに理解が追いついてないのか混乱しているようにも見える。

「2人はまだ知らないと思うが、ゴルダはカーバンクルの魂がくっついている。そのせいで今のような姿になれるし、精神属性もかなりの適性がついている」

アルガティアから説明されて、
ゴルダはルーナとアイレの間に割って入るように座り、
マティルーネはアルガティアの膝の上に、
ルァクルはルーエの足元に座る。

「飲む?」

「いや、いい」

アルガティアに茶を飲むかと聞かれてゴルダはいいと返し、
アイレが先ほどまでやっていたように自分の尻尾を咥えて目を閉じる。

「それ、幻獣族の間で流行ってるらしいな。私の記憶ではユキヒョウと言う動物が自分を落ち着かせる為に尻尾を咥えることがあるようだが」

自分の尻尾を咥えて目を閉じたゴルダを見て、
アルガティアは最近幻獣族の間で流行っていると言いつつ、
ユキヒョウが落ち着くために自分の尻尾を咥えることがあると話す。

「居ますね、ボクが出ている講義にもユキヒョウ亜人の学生がいますけど、たまに自分の尻尾咥えてるの見かけます。こんな風に」

アルガティアの話を聞いて、
ルーエは自分が出ている講義に居るユキヒョウ亜人もこうして居たと自分の尻尾を一瞬咥えた。

「よく咥えられますね、私には無理ですけど」

ルーナは一瞬尻尾を咥えたルーエとずっと尻尾を咥えて目を閉じているゴルダを見て、
ルーナは自分もやってみようとしたが無理だったので私には無理だと呟く。

「無理にするものでもない」

そう言うアルガティアに、
アイレはまた尻尾を咥えて目を閉じたままのゴルダに向きなおる。

「なんとも微笑ましい光景だわ」

皮肉か本音か分からないマティルーネの一言にルーエがまた自分の尻尾を咥えて

「ほひれほひふくふぇ」

落ち着くねと静かに返す。

「アルガティアさん、弦の張り方教えてください」

「構わない。少し準備するから待て」

弦の張り方はティータイムの後に教えると言われたことを覚えていたルーナは、
尻尾を咥える3人をよそに今度こそは弦の張り方を教えて欲しいと言う。

アルガティアはそれにすんなり応じ、
自分の弓と道具を取り出してルーナに弦の張り方を教え始める。

「そうだ。あまりきつくし過ぎるな」

ルーエが尻尾咥えをやめてルーン語の自習を始めた頃、
ルーナとアルガティアは弦の本格的な張替えへと入る。
使用者の癖に合わせて調整が必要なため、
アルガティアもその調整の方法をルーナへと教えた。

「実際に引いてみるんだ。軽く感じればきつくするし、重く感じれば緩める」

ルーナは魔力の矢を装填せず、アルガティアの言う通りに弓を引き絞る。
引き絞った感じでは重くも軽くも感じず、
聖竜弦は幻獣弦とはまた違った感覚を得られた。

「問題はなさそうね。それでいいなら仕上げをして終わり」

アルガティアは張替え後の仕上げまで丁寧に教え、
ルーナは問題なく弦の張替えを終える。

「かすかに今の性格のアルガティアに畏怖しているな。ルーナ、アイレ」

尻尾咥えを解除し、ゴルダは静かに言い放つ。

今の今まで尻尾を咥えて黙っていたのは、
精神を集中させてルーナとアイレの精神に探りを入れていたからだ。

「だっていつもと雰囲気が変わりすぎだもの、そりゃ怖くもなるよ」

と言うアイレに対してルーナは

「でも、結局いつものアルガティアさんとそこまで変わらないので、恐怖心も話していくうちに薄れましたよ」

話せばいつものアルガティアとそこまで変わらないので恐怖心も薄れたと返す。

すると2人の言葉の対してアルガティアが

「私はどんな性格であろうとお前達をどうこうするつもりはない。少なくとも今の所は。だが、お前達を傷付ける奴らに私は容赦しない」

どんな性格であろうが悪いようには扱わない。
そして傷付けるような奴は放っておかないと話した。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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裏の性格のアルガティアとルーエ

梅雨で不快指数が高止まりなある日のこと。
あまりにも暑いので購買で買ったアイスを食べながらルーエはルーン語演習の講義の部屋へとやって来た。
なお、ルーエの履修しているルーン語演習はあのアルガティアが直々に教鞭を執っている。
この世界では国王が自ら王立大の講義で教鞭を執ることはごく当たり前のように行われていること。

たとえばアルカトラスは政治や神学を教え、エルフィサリドは風水の魔法や海洋学などを教えている。
その他にはシアも神学の講義の教鞭を執ったり、メルムーアは癒術や聖魔法に関する教鞭を執っているという。

「室内は涼しいからいいね。屋外に面している通路通ると暑くてかなわないよ」

いつの間にかアイスを食べ終えてアルガティアを待つルーエ。
講義開始の5分前にアルガティアはやってきたのだが、いつもと雰囲気が打って違っていたのでルーエは

「いつもみたいなおっとりした雰囲気じゃない?なんと言うか、歩き方も堂々としていて喧嘩腰、かな?目つきも鋭いし」

アルガティアのいつもと違うところを分析。
まずいつものようなおっとりかつゆったりした歩き方ではなく、
早歩きで国王たる堂々した雰囲気で歩いている。
次に目付きが鋭く、ひしひしと感じる喧嘩腰の雰囲気。
それ以外は姉御肌気が感じられた。

「もう時間ね、全員着席しなさい。講義を受ける気がないものは今すぐ出て行ってもらえるかしら?邪魔よ」

やがて講義開始の鐘が鳴り、アルガティアはいつもは考えられないような口調で全員に着席するよう促し、
講義を受ける気がないなら出て行けと言い放つ。

これがいつものアルガティアならば

「時間だから席に着いて、講義を受ける意思がないなら出て行ってもらって構わない」

といった感じで言うので、
ルーエはそのギャップに

「ふみゅう?」

首をかしげる。
だが、アルガティアの雰囲気が違うからと講義をサボるなど言語道断なので、
ルーエはいつもと同じように羊皮紙を広げてルーン語の本を開く。

「今日はここからね。よし」

アルガティアは前回までの講義録を振り返り、ルーン語の本を開いて板書を始める。
出席を取らないのかと言うと、アルガティアは魔法で出席管理をしているのでいちいち出席を取る必要がないのだ。

そんないつもと違う雰囲気のアルガティアに茶々を入れたくなったのか、
ルーエの後ろ3列目辺りの猫獣人の男子学生がアルガティア目掛けて魔力が込められた紙飛行機を飛ばした。

紙飛行機は空気抵抗を一切無視して目にも留まらぬ速さでアルガティアの後頭部に命中。
したかに思えたが、いつの間にかその紙飛行機は飛ばした猫獣人の男子学生目掛けて戻って行き、
壁に突き刺さった。

「カルファキアアス、私にちょっかいを出すならば容赦はしないがいいのか?庭園の噴水に強制転送されたくなければ真面目に聞くように」

その直後、アルガティアは猫獣人の男子学生を名指しで注意する。
無論、振り返ることなく。
カルファキアアスと呼ばれた猫獣人の男子学生はいつものアルガティアではないことに怖気ついたのか、
その後は真面目に講義を聞いていた。

「さて、これをドランザニア語に訳してもらおうかしら。ルーエ、訳してみて」

講義が始まってから30分ほどが経過した辺りで、突然板書されたルーン語を訳せとルーエが指名された。

ルーエはアルガティアのいつもと違う鋭い目つきから感じる、
特に期待もしていない期待の眼差しを向けられながら黒板の前に立ち、
描かれていたルーン語をドランザニア語へと訳していく。

「いつもと違う目つきで見られているからやりにくいなぁ」

ルーエがそう思いながら訳していると、
アルガティアはそっとルーエから目線をそらしてノートを取る他の学生たちを見やる。
どうやら心を読まれたらしい。

無論いつものアルガティアは心を読もうとしてくるなどいったことは滅多にしないのだが、
今の性格の時は違うようだ。
それに、近くに居ても感じるくらいには普通の時の放出魔力と今の放出魔力は倍近い差がある。
しかも感じる魔力の形が強大でこちらを包み込んでくるようなものなのだが、
今感じているアルガティアの魔力は刺々しく、確実にこちらを捕らえて混沌へ引きずり込もうする強大なもの。

「近寄り難い」

思わずそんな一言が漏れ、アルガティアに見られたルーエは何か言われるのでは?と身構えたが、
アルガティアはふふっとかすかに笑うと

「分かるところまでで構わないわ」

分かる範囲で構わないので無理しないよう促す。
ルーエはそれに頷き、8割ほど書いたところで席へ戻る。

「70点といったところか。ここは『〜したところ』という言い回しではない。『〜をした』という言い回しよ」

アルガティアはルーエの訳を細かに解説し、間違っている部分は訂正していく。
その解説はいつものアルガティアと変わらないのだが、やはり口調や雰囲気が異なるのでルーエはどこか落ち着かなかった。

「今日はここまでよ。次々回の講義は小テストするからそのつもりで」

やがて講義終了の鐘が鳴り、
アルガティアが講義の終わりを告げると学生たちはそそくさと講義室を出て行く。

ルーエも講義室を出ようとしたが、唐突にいつもと違う雰囲気のアルガティアに

「待て、ルーエ。この後講義は入っているかしら?」

「特にはないですが」

この後講義はあるかと聞かれてルーエはないですとアルガティアに淡々と返す。

「そうか。では私について来い、話をしよう」

やはりいつもと違う口調で言われると違和感しかなかったが、
ルーエは下手に断ることはせずに承諾してついて行くことに。

講義室を出、いつもと違う国王たる堂々とした歩き方で歩くアルガティアの少し後ろを歩くルーエにアルガティアは

「今の私は違和感しか感じないか?」

今の自分は違和感しか感じないかと問う。
それに対してルーエは

「違和感しか感じませんよそりゃ。でもそれもアルガティアさんらしさだと思うのですよ」

違和感しか感じないものの、それも一種のアルガティア自身の自分らしさであると返す。
それを聞いたアルガティアは一瞬鼻で笑った後にふふっと笑い直して

「アイデンティティというものね。このもう一つの性格の私も、また私である」

今の性格の自分もまた自分自身であると返し、
大学棟から王宮の方へと足を運ぶ。
ルーエはそんなアルガティアに遅れを取るまいとその横へ並んで歩く。
こうして歩くと、100センチもないルーエと160センチ台の身長のアルガティアとであからさまな身長差が見受けられる。

「私の部屋に入るのは初めてか?いつもは応接室か庭園でのティータイムだから聞くのだが」

自分の部屋へ入るのは初めてかと、エゼラルドも入れそうな大きさの扉を開きながらアルガティアに再び問われ、
ルーエは初めてであるとの返事を返す。

「正直なのはいいことよ、でも時に嘘をつかないと世渡りは上手くいかない。正直者が馬鹿を見るというやつね」

アルガティアはやれやれねと肩をすぼめてルーエを来客用のソファへ座らせて、
自分は近くの棚まで歩いて茶を淹れる。
淹れる動作自体はおっとりしている性格の時と変わらないが、
ルーエはいつになくアルガティアが自信に満ち溢れているように見えた。

「どうぞ」

アルガティアに茶を出され、ルーエは一瞬ぽかんとしつつもそれを飲む。
どうやら性格の変化は淹れた茶にまで出るらしく、
いつもならば癖もなく飲みやすいアルガティアの紅茶は若干の癖があり、
さわやか風味もしっかりした風味に変貌していたのだ。

「ルーエ。あんたはもう一人の自分、内なる自分の存在を信じる?」

いきなりアルガティアにあんた呼ばわりされ、
ルーエはむっとしたものの問いに対しては

「ボクは第2の人格が存在すること自体が異常であると認識してますよ。それと、アルガティアさんを貶す意図は毛頭ないとだけ断言しておきます。特殊なパターンですから」

第2の人格が存在すること自体が異常であるとの考えを持っていると返す。
それにアルガティアは堂々たる姿勢で座りながらルーエに

「あんたも大概、第2の人格が芽生える兆しが見えるわ。でもそれは誰にもあるもの、けどあんたの兆しは毛色が全く違う」

第2の人格が芽生える兆しがあるがそれは誰しも持っている。
だが、ルーエのそれは毛色が全く違うとのことであった。

「どういうことです?」

ルーエがそれについてアルガティアに問いただすが、
アルガティアは何も答えない。
鋭い目つきでニヤニヤしながら紅茶を嗜むばかりだ。

「やっぱり今のアルガティアさんとは付き合いにくいです」

ルーエの断言にアルガティアは昂ぶることもせず、
こう言った。

「あんたがそう思うならそれでいい。私も本心を押し殺されて関われるのは好きではない」

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ロベリアと月の属性

ロベリアがドランザニアへとやって来てから、しばらくが経った。
セイグリッド城の敷地内から許可なく出ることを許されてないロベリアは、
極力1人の時間を作るべく城の図書館に毎日のように入り浸っている。

「ここならシアもメルムーアもあまり来ない」

自分とは対となる聖なる炎を持つ2人をことごとく避けているロベリアにとって、
よっぽどのことがない限り2人の来ないこの場所は聖地とも言える場所であった。

「それにしても、魔法書だけで何冊置いてあるのかしら?」

ほとんど失明に近い状態のため、
字を読むことすらままならないと思われているロベリアだが、
ゴルダを含め誰にも教えていないとある方法で字を読むことは可能である。

「四大属性とその上位及び派生属性に、光と闇、時の属性すら存在しているのに、炎属性と闇属性の派生属性の月属性は高レベルなものとなると使い手が非常に限られる。と」

この世界の属性に関する本を読んでいたロベリアは、
この世界の属性は火風地水の四大属性の他に、
それらから派生及び応用された氷雷草の属性と光ないし聖。
闇ないし暗黒属性とそれから派生した月属性が存在することを理解した。

「月属性、これは気になるところ。私の内なる炎がそう示している」

元から闇の属性への適性のあったロベリアにとって、月属性とはとても興味深いものがあった。
誰か使い手は居ないかとロベリアは考えたが、頼るとしたらまずゴルダだろう。
だがそのゴルダもシアやメルムーアを通してしか呼び出せない。

「食事の席ですら私にしつこく構ってくるから、関わりたくないのだが」

ロベリアは口を不機嫌そうに曲げ、歯ぎしりをしながら本を片付けて図書館を後にした。

「そう、興味あるのね。でも私も姉さんも月属性は今ひとつよ」

塔にいたメルムーアに相談しに行ったところ、
月属性は今ひとつだと返される。
ロベリアはそれに知っていたかのような感じで首を傾げ、こう聞く。

「言われずともね、他にあては?」

それに対してメルムーアは数秒考えた後に

「ないわけじゃないわ。ゴルダちゃんのところにいるミリシェンスちゃんが月属性使えるようだから、呼ぶ?」

ゴルダの所にいるミリシェンスが月属性が使えるので、
呼んでみるかとロベリアに問う。

「呼べるものならば、頼みたいわ。じゃあ私はこれで、あなたと居ると私の内なる炎が消えかかるわ」

ロベリアはそれに肯定の返事を返し、
メルムーアに一緒に居たくないと遠回しに言ってまた図書館へ。
そしてロベリアが居なくなった後、メルムーアはゴルダに意思飛ばしで

「ゴルダちゃん、都合いい時にミリシェンスちゃん連れて来て。ロベリアが月属性について聞きたいそうよ」

と伝言を投げつけた。
それにゴルダは了承の返事を一言返しただけでそれ以上は何も返さなかった。

その翌日。
メルムーアから今日ゴルダがミリシェンスを連れてくると言っていたと言われ、
まだ来ないかと待ちつつ城の中を歩いていたロベリアの目の前に、
ゴルダとその隣で足音を殺して歩く紫毛の幻獣が現れた。

「よう」

「ええ」

友人同士が挨拶するかのような挨拶を交わし、
ロベリアが紫毛の幻獣の方へと目線を向けると、
その紫毛の幻獣は唐突にゴルダが持っていたような投擲武器を構えた。
何なのとロベリアが身構えると、その紫毛の幻獣は投擲武器を片付けてじっと観察する。

「なるほどね、深淵に焼かれはしたものの闇への適性は高い。暗黒属性よりさらに上位の属性の深淵および混沌への適性がなかっただけで」

腰のあたりまでしかない前掛けエプロンを風になびかせながら、
紫毛の幻獣はロベリアを見ながらそう呟く。

「そこまで私を調べられるってことは、ゴルダと同様の能力を?」

ロベリアが問うと、紫毛の幻獣は軽く頷いて肯定。
そして今の今まで沈黙を貫いていたゴルダが口を開いてこう言う。

「こいつがミリシェンスだ。俺と同じ診察眼も一応使える」

「見知りおきを」

改めてゴルダにミリシェンスを紹介されて、ロベリアは警戒しつつ軽く頭を下げる。

その直後、ゴルダが突如として剣を抜いて何かを斬り払う。
次いで何かが破裂あるいは爆発するような音が聞こえた。

「あらあら、そいつは敵ではないの?」

ロベリアがゴルダの視界を通して見据えた先には緑目のエルフがライフル銃を構え、
喧嘩を売っているかのような目線をロベリアに向けていたのが確認できた。
どうやらゴルダはロベリアに向けて放たれたライフル弾を超人的反射神経で見切り、
剣で切り払ったようだ。

「どうしたアルガティア、裏の方が出たか?」

「どうかしらね」

ゴルダとの会話を聞いている限り、どうやらアルガティアというこのエルフはいつもはこの性格ではないらしい。
どういうことかと、ロベリアがゴルダに問おうとするとミリシェンスが

「アルガティアはああ見えて、いつもはおっとりしていてあのような雰囲気ではない。ごくまれにあのような弁えはするものの喧嘩を売るような性格があらわになる。あと一国の女王よ」

アルガティアの性格がいつもはおっとりとしていることと、
たまに今のような喧嘩を売る性格が出てくること、そして女王であることを説明。
ロベリアはそれに対してあまり興味がなさそうに

「そう、おっとりした性格でもあまり相手にはしたくないわ。なぜなら内なる炎があらゆる面で混沌とし過ぎている。近寄ればこっちが焼き尽くされかねない」

と返してアルガティアから視線をそらす。
その後はアルガティアとゴルダが何かを話していたようだが、ロベリアは聞き耳を立てずにミリシェンスを見る。

「ついて来い」

ゴルダに言われ、ミリシェンスとロベリアはライフル銃を肩に担いだままのアルガティアを気にしながらも付いて行くことに。
やって来たのは応接室。
ロベリアとアルガティアの反対側にミリシェンスとゴルダが座り、しばしの沈黙が流れる。
その間アルガティアはとても一国の長とは思えないような態度で座っていて、
ミリシェンスはロベリアを見てクスクス笑い。
ゴルダはアルガティアとロベリアを交互に見ていた。

「それにしても、あんたそう言う文化出身の世界かしら?随分と露出度高いけど」

アルガティアが急に話しかけてきたので、ロベリアはそうよと返した上で

「俊敏性を最重視した結果」

と返してミリシェンスへ

「月属性について教えてはくれない?」

月属性について教えてはくれないかと本来聞こうとしていたことを切り出す。
ミリシェンスはまたもやクスクス笑いながら妖艶な雰囲気でロベリアを見つめながら

「そうねぇ、とりあえず月属性が闇属性の派生であることは理解していると判断して始めるわ」

月属性についての解説を始めた。
基本的には闇魔法であることには変わらず、月の満ち欠けによって得られる魔力の量が違うという。
使い手によっては得られる魔力が最大になるのが新月と満月、それで変わって来るとか。

「それであんたはどうしたいの?月属性を手にしたいの?」

時折首を突っ込んできたアルガティアに月属性を使えるようになりたいのかと聞かれて、
ロベリアはもちろんと即答。
するとミリシェンスがどこからか謎の赤い液体の入った瓶を出して

「これが舐められるならね」

この液体が舐められるならばと言う。
ロベリアはミリシェンスが出したこの液体が何なのかと蓋を開けて臭いを嗅ぐ。
嗅いだ瞬間鼻についた血生臭い臭いにロベリアはこの液体が何であるのかを確信し、吐きそうになる。

「血を舐められないようでは、真の闇属性使いにはなれないわね」

「そんな危険なことはできないし、あなた正気?それに私は吸血鬼ではない」

ミリシェンスの指示した狂気とも言える行為に、
深淵を覗いて目を焼かれた経験のあるロベリアですらも正気なのかと口元に若干の怒りを含めて言い放つ。

「ミリシェンス、正気の沙汰じゃないわね。血を舐めろなんてリスクの高い」

アルガティアにまで呆れ顔で言われたミリシェンスは、
開き直ったかのようにこう言う。

「手段の一つを受け入れる覚悟の有無を見たかっただけよ」

それにロベリア達はなんなんだ一体という目線をミリシェンスに投げつけつつ、
今度はアルガティアの方から

「月属性に認められるか否かを単純に調べる方法ならあるわ」

という一言と共にロベリアに三日月とどこぞの秘密結社の紋章のような目が彫られたメダルと思わしき物に首かけ用の鎖を通したものを渡す。

「それは月属性のルーンの一つで、今宵の月は満月。月明かりの下で踊ってみるといいわ。深淵の踊り子さん?」

「何故それを?」

アルガティアに二つ名を言い当てられ、どう言うことかとロベリアは問い詰めるがアルガティアはニヤリと笑うだけでなにも答えない。

「物は試しだな」

そう言いながらゴルダはミリシェンスを膝へ乗せる。

「ではやって見せましょうか、深淵の踊り子の真髄を見せる時」

やけに自信満々にロベリアはゴルダらに返し、
夜に備えるのだった。

そしてその日の夜。
夜のセイグリッド城の庭園にゴルダ達は集った。
ロベリアの月明かり下での踊りを見るべくして。

「どうにも今日の満月はいつもと違うこと」

未だに裏の性格が出たままのアルガティアが月を眺めながら言う。
それにゴルダはべったりなミリシェンスをよそに月を見、こう呟く。

「今日は年に数度の満月の夜の中でも特に月の力が強まる夜だ。違和感を感じるのも無理はない」

アルガティアはゴルダの呟きにそう、と一言返してロベリアを見やる。

ロベリアは手始めに首に下げていた鎖付きメダルを月夜に掲げ、次に自身の杖を同じく月夜に水平に掲げる。
そして掲げていた杖を下ろすと右足を大きく前に突き出し、舞い始める。

その舞は月明かりの下の舞踊には不釣り合いなものであったが、
ロベリアの口元は真剣さを示すかのように固く結ばれていた。

「流石といったところね、深淵の踊り子の二つ名に恥じない舞踊。月も興味を示している」

月が興味を示している。

アルガティアのこの一言の意を理解するためにはロベリアの首に下げられた例のメダルに注目する必要がある。
そのメダルをよく見ると三日月の形に彫られた部分の輪郭がわずかに光を帯び、
目の部分が赤く輝いてるのが分かる。

これが何を意味しているのかと言うと、
月がロベリアに興味を示し、闇の属性がロベリアの内なる炎に闇の力を見出して強く反応しているためだ。

ロベリアはそんなことを気にせずに杖を振り回し、
それを宙へ放り投げて飛び上がり、キャッチ。
この服装だからこそできる芸当なのだろうが、
ロベリアには一切関係のないこと。

ただ月に認めてもらうがために踊り続ける。

「月がようやく認めた、深淵の踊り子を自らの属性の素質があるものとして」

それからどれくらい経っただろう。
ただ黙って見ているミリシェンスとゴルダの横で、浮遊しながらロベリアの踊りを見ていたアルガティアが月属性がロベリアを認めたと言い放つ。

今やその首に下げられたメダル月は金色に輝き、目の部分は紅月のような紅さで輝いている。

「深淵の踊り子、ここに月属性を携えん」

「ふふふ、面白くなってきたわ」

ロベリアが月属性に完全に認められた瞬間だった。

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輝星とメルムーア

梅雨も半ばを迎え、しとしとと雨の降るセイグリッド城の回廊で輝星は1人でたたずんんでいた。
久しぶりにシアに会いに来たのだが、アルカトラス不在で代わりに仕事をしているので忙しいとサフィに言われて来た意味をなくしていたのだ。

「なんでこうタイミング悪いのかな」

などと嘆いていると、回廊の向こう側からシアによく似た白毛の竜がもっふもっふと毛を揺らしながら歩いてきた。
輝星は最初は仕事が一通り片付いたシアが気晴らしに城の中を散歩しているのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
その姿は一見するとシアやアルカトラス、アルカトラスに変身しているゴルダに似ているのだが、まず角がない。
角の代わりにフィルスのような耳がついていて、目は左右で色が違う。
しかも、アルカトラスやシアのような魔力の強さが感じられずその魔力は2人の3分の1といったところか。

「誰だろう?」

輝星が誰なのだろうかと考えていると、その白毛の竜は輝星の目の前までやって来、
目線を下げてからにっこり笑うと

「輝星ちゃんこんにちは、私と会うのは初めてよね?私はメルムーア。姉さんであるシアの妹よ」

輝星の名を口にした後、メルムーアと名を名乗り、シアの妹であることを説明した。
メルムーアがなぜ自分の名を知っているのかというのは輝星は眼中になく、
シアに負けじと劣らずの白いもふもふに心を奪われて前足へともふっと抱き着く。

「あらあら、姉さんに聞いていたとおりね」

メルムーアは突如として抱き着いてきた輝星に拒否感を示すことはなく、
しばしさせたいようにさせておいてから輝星に背に乗るよう促す。

「いいの?」

「減るものじゃないし、構わないわ」

最初はいいのかと躊躇していた輝星だが、
メルムーアがあっさり構わないと言ってくれたので輝星は座った状態のメルムーアの前足からその背とよじ登る。
その際輝星は、シアにもふもふされた時に感じた母親のような包容力とはまた別の癒しとしての包容力を感じた。
それに気づいてメルムーアの背の毛へ顔をうずめる輝星に、メルムーアはふふっと笑いながら

「実は私は癒しの神なの。姉さんのような包容力は感じないとは思うけど、癒しの神としての包容力では負けないわ」

「どっちも素敵だよ、だってもふもふだもん」

そんな会話を交わしつつ、未だに雨の降りやまない外を横目に2人は城の回廊を歩く。
その間、輝星はメルムーアが歩くたびに揺れる毛の中でただひたすらにもふもふしていた。

「あら姉さん、仕事は終わったの?」

「一応はね」

その後、数分ほど歩いたところでメルムーアは仕事が終わったと思わしきシアと出くわす。
一応ねという一言からは、仕事を溜めたまま異界会談へ行ったアルカトラスに対しての不満感がうかがえる。
シアの声を聞いて、輝星はメルムーアの背から頭の上へと移動してシアの姿を確認。
輝星の姿を見て、シアはあらあらという顔をしながらメルムーアへ視線を移す。

「輝星ちゃんが黄昏れてたから声かけたのよ、ダメだった?」

輝星がシアと会えず黄昏ていたので声をかけたと言うメルムーアに、
シアは悪いとか悪くないとかの話ではないと言ったうえで

「輝星は一度もふもふし始めたらなかなか離れないわよ?」

輝星が一度もふもふし始めると離れなくなることを告げ、いつものように応接室へと向かう。

「降りて」

「はーい」

応接室へとやってきた輝星は、メルムーアに降りるように告げられて素直に頭の上から背へと滑り落ち、
前足から降りてソファへと座る。
そこには既にサフィが出したと思われる菓子と茶が置かれており、輝星はそれを何の迷いもなく手をつけた。
それを見たメルムーアは、ふふっと笑いながら輝星を見つめるのだった。

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深淵の炎宿せしものと

「随分露出の高い服装だな」

「そうね、まあそういう文化の世界なんでしょうね」

シアから念写されたロベリアという少女?の写真を渡され、ゴルダはさして興味もないように呟く。
至急案件で身柄を確保してほしい者がいるとシアから言われ、来てみればこれである。
その容姿は非常に露出度が高く、8割方裸といっても過言でもない。
そして何となくではあるが、この少女の目隠しの目をイメージしたような印からゴルダはシアがこの世界に悪影響を
及ぼしかねない存在だと判断したことを察する。

「出身世界がいかんともしがたいのよね。とりあえずこの子の位置のサポートはするからよろしく」

「めんどくせえがやる他なしか」

ゴルダはサングラスをどこからか取り出し、いつの間にかスーツ姿になるとシアの塔を離れた。
さっさと身柄を確保してシアに渡して帰ろう。

そう思い、ロベリアの身柄の確保に向かったのだがゴルダは思った以上に面倒なことになることを未だ知らない。

ロベリアの現在地は、セイグリットの城下町であることはシアから既に通達されており、
ゴルダはスーツとサングラス姿で歩き回る。
なぜこのような服装なのかは不明だが、サングラスをつけているのはある種の自衛のためだとか。

「うーん。あなたの現在地から西北西に100メートルくらいね」

すぐ近くにロベリアがいることを知らされ、ゴルダはスーツの中に手を入れて手裏剣を取り出す。
銃を使おうかとも思ったのだが、どうにも気が乗らなかったので手裏剣にしたのだ。
シアから言われた位置に向かったところ、ゴルダはついにロベリアを視界に捉えた。

相手は周囲を異様に警戒しており、城下町の市民はそんなロベリアには我関せずと避けている。
そしてゴルダは手裏剣を改めて構えなおしロベリアに静かに近寄った。

「…?」

「動くな。ロベリア、お前はこの世界に悪影響を及ぼしかねない懸念がある。ついてはこの世界の創造神であるアルカトラスとシアの名のもとに身柄を確保する」

ようやくゴルダの気配に気付いたのだろう。
ロベリアが振り返ると、そこには5人ほどに分身したスーツとサングラス姿の謎の男が自分を取り囲んでいた。
諸事情あって目隠しをしており、視力もほとんどないロベリアが自分の近くに誰かが接近したことを知るためには
嗅覚と聴覚が重要になってくる。
だが、この男はそのロベリアの研ぎ澄まされた嗅覚と聴覚を潰して接近してきた。

「ただものではなさそう。そう感じた」

自分を取り囲む男に向かってロベリアは警戒心を一切解かない冷ややかな口調で呟く。
実力のわからぬものの相手をするのは自殺行為であると認識しているロベリアは、
下手に迎撃には出ず、まずは相手の出方を伺うことにしたのだが、相手も取り囲むだけで下手な攻撃はしてこない様子。

「それでいい、俺とて実力の分からん相手を攻撃するのは良しとしない」

男がカチャリと何かをしまう音を聞き、ロベリアはひとまずこの男が下手に自分を傷つけるつもりはないということを判断したが警戒を解くつもりは毛頭ない。
それは男のほうも同じなようだ。
やがて気配が5人から1人へ減り、男が自分の目の前に立っていることを感じたロベリアはこてんと首をかしげながら

「何用かしら?」

すっとぼけてはいるが絶対に警戒を解かない口調で男に問う。
男はロベリアの目線のあたりまでしゃがみ、目隠しの向こうの目を見ようとしていた。
そのときロベリアはこの男のから感じる内なる炎に強い興味を抱く。
深淵に染まっているというわけでもないが、完全に神聖でもないというよくわからないその炎は、
今まで深淵あるいは神聖な炎しか見てこなかったロベリアにとっては興味深い以外の何物でもない。

「ついて来てもらおうか」

「仰せの通りに」

男にシンプルに告げられて、ロベリアは男の数メートル後ろを歩き、ついて行く。
互いに下手なことはしないほうがいいと思っているのか、男の方は時折ロベリアがついてきているかを確認し、
ロベリアは男が振り返るたびに見える内なる炎を見て口元に笑みを浮かべる。

「警戒を解く気は一切ないけど、名前を聞いても?」

口元に笑みを浮かべたまま、ロベリアは男に名を聞く。
自ら名乗らずとも、男の方は自分の名を知っていたのであえて名乗らずに男の名を聞いた。
そして男はロベリアに背を向けたまま、こう名を名乗った。

「ゴルダ。今はそれだけを名乗っておこう」

ゴルダという名を聞いて、ロベリアはまた口元に笑みを浮かべてこう返す。

「名に恥じぬ人」

ゴルダはそのロベリアの一言には何も返さず、黙って背中を見せたまま歩くのだった。
その後30分近くゴルダの後をついて行き、ロベリアが連れてこられたのは感覚的にどこかの城の応接室と思わしき場所。

「そこに座れ」

座れと言われ、ロベリアはソファに座り、目の前を見据えた。
何か自分よりもはるかに大きな存在が2つも居る。
しかもその強さはゴルダの強さがかすんで見えるほどのレベルの違い。

ロベリアと対になる神聖なる炎の気配。
感じた姿はシアの方は4本角に赤き目、メルムーアはロベリアと似たような耳に青と赤の目。
そして、2人とも白い毛の竜であることが分かった。

「さて、どこからどう話したものかしらね。ああ、名乗ってなかったわ。私はシア、この世界の神の1人。隣はメルムーア、同じくこの世界の神の1人で私の妹」

自身の世界で敵対する組織、曼珠と同じ神聖な炎の気配に嫌悪感を抱くロベリアだが
相手が神では簡単にのされてしまうだろう。
ましてやゴルダも運が良ければ勝てるレベルの相手だ。
格上の相手に囲まれているロベリアはそれを自覚したうえで一層警戒心を強める。

「まず、あなたの世界のことを単刀直入に言うわね。脅威となりうる可能性がある要素が確認できたわ」

シアの一言に、ロベリアは口元を一の字にしたまま耳を傾ける。
いくら用心深くしているとはいえ、相手の話は聞くべき時は聞くという常識をロベリアは一応持っていた。

「あなたの世界は今おそらく宗教紛争のようなものの真っただ中。聖なる炎の宗派と、深淵の炎の宗派。根底にあるのは価値観の違い。間違っていない?」

優しくシアに問われたが、ロベリアは警戒を一切解かずに軽く頷いて肯定した。
どうやら間違ってはいないようだが、嘘をついている可能性もあるのでこの肯定が十割真というわけではない。
ゴルダもシアもメルムーアも、それは把握していた。

「あなたは深淵の炎側の宗派ね、深淵の炎こそが至高であるという考えを持った」

どうにも見透かされているような感じがして不快でならないロベリアは口元をへの字にしてシアとメルムーアを交互に見た。
それを見てもシアとメルムーアは顔色一つ変えず、次なる話へと移る。
だがここで、ゴルダはメルムーアが渋い顔でシアを見ているところから何かシアがやらかしたのだろうと思っていたのだが

「それを踏まえてあなたは本来であれば元の世界へ有無を言わさず帰すんだけど、姉さんがとんでもないポカやってくれてね。あなたの世界に関する記録を全部抹消した上に世界との繋がりを閉じちゃったのよ」

案の定、シアがロベリアの出身世界に関する記録を帰す前に消去した上に閉じてしまって帰せなくなったのだと言う。
こうなると、ロベリアから情報を計測して出身世界へまた繋げなければならないのだが、
ロベリアの警戒心が強いために計測できず、帰そうにも帰すための術がないという状態である。

「あなたが警戒心弱めてくれれば解決する話だけど、そうもいかないでしょうからね」

「私よりも強い相手には簡単に警戒心を解くことはできない、ということは私をここからつまみ出すのね?」

自分をつまみ出すのかと聞いてきたロベリアに、シアはそんなことはしないと言わんばかりに首を横に振る。
ゴルダはそれを見て、シアに何か策があるのだろうと考えたが

「まず、しばらくあなたにはこの城の敷地内だけで過ごしてもらうわ。その分生活は保障する。そして、あなたの相手はゴルダが務めるわ」

生活を保障する代わりに城の敷地内から出ることを禁じ、ゴルダに相手を務めさせるとシアは言ったのだ。
それを聞いたゴルダはやはりなと言わんばかりにいつの間にか出されていた茶を飲む。
一方でロベリアは、ゴルダが自分の相手を務めと聞いてほんのわずかだが警戒心を弱めた。

「かくなる故は、その内なる炎をしゃぶりつくす」

ロベリアのこの世界での目的は、ゴルダの内なる炎を知るということに今この瞬間から固定された。

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