氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

裏の性格のアルガティアとルーエ

梅雨で不快指数が高止まりなある日のこと。
あまりにも暑いので購買で買ったアイスを食べながらルーエはルーン語演習の講義の部屋へとやって来た。
なお、ルーエの履修しているルーン語演習はあのアルガティアが直々に教鞭を執っている。
この世界では国王が自ら王立大の講義で教鞭を執ることはごく当たり前のように行われていること。

たとえばアルカトラスは政治や神学を教え、エルフィサリドは風水の魔法や海洋学などを教えている。
その他にはシアも神学の講義の教鞭を執ったり、メルムーアは癒術や聖魔法に関する教鞭を執っているという。

「室内は涼しいからいいね。屋外に面している通路通ると暑くてかなわないよ」

いつの間にかアイスを食べ終えてアルガティアを待つルーエ。
講義開始の5分前にアルガティアはやってきたのだが、いつもと雰囲気が打って違っていたのでルーエは

「いつもみたいなおっとりした雰囲気じゃない?なんと言うか、歩き方も堂々としていて喧嘩腰、かな?目つきも鋭いし」

アルガティアのいつもと違うところを分析。
まずいつものようなおっとりかつゆったりした歩き方ではなく、
早歩きで国王たる堂々した雰囲気で歩いている。
次に目付きが鋭く、ひしひしと感じる喧嘩腰の雰囲気。
それ以外は姉御肌気が感じられた。

「もう時間ね、全員着席しなさい。講義を受ける気がないものは今すぐ出て行ってもらえるかしら?邪魔よ」

やがて講義開始の鐘が鳴り、アルガティアはいつもは考えられないような口調で全員に着席するよう促し、
講義を受ける気がないなら出て行けと言い放つ。

これがいつものアルガティアならば

「時間だから席に着いて、講義を受ける意思がないなら出て行ってもらって構わない」

といった感じで言うので、
ルーエはそのギャップに

「ふみゅう?」

首をかしげる。
だが、アルガティアの雰囲気が違うからと講義をサボるなど言語道断なので、
ルーエはいつもと同じように羊皮紙を広げてルーン語の本を開く。

「今日はここからね。よし」

アルガティアは前回までの講義録を振り返り、ルーン語の本を開いて板書を始める。
出席を取らないのかと言うと、アルガティアは魔法で出席管理をしているのでいちいち出席を取る必要がないのだ。

そんないつもと違う雰囲気のアルガティアに茶々を入れたくなったのか、
ルーエの後ろ3列目辺りの猫獣人の男子学生がアルガティア目掛けて魔力が込められた紙飛行機を飛ばした。

紙飛行機は空気抵抗を一切無視して目にも留まらぬ速さでアルガティアの後頭部に命中。
したかに思えたが、いつの間にかその紙飛行機は飛ばした猫獣人の男子学生目掛けて戻って行き、
壁に突き刺さった。

「カルファキアアス、私にちょっかいを出すならば容赦はしないがいいのか?庭園の噴水に強制転送されたくなければ真面目に聞くように」

その直後、アルガティアは猫獣人の男子学生を名指しで注意する。
無論、振り返ることなく。
カルファキアアスと呼ばれた猫獣人の男子学生はいつものアルガティアではないことに怖気ついたのか、
その後は真面目に講義を聞いていた。

「さて、これをドランザニア語に訳してもらおうかしら。ルーエ、訳してみて」

講義が始まってから30分ほどが経過した辺りで、突然板書されたルーン語を訳せとルーエが指名された。

ルーエはアルガティアのいつもと違う鋭い目つきから感じる、
特に期待もしていない期待の眼差しを向けられながら黒板の前に立ち、
描かれていたルーン語をドランザニア語へと訳していく。

「いつもと違う目つきで見られているからやりにくいなぁ」

ルーエがそう思いながら訳していると、
アルガティアはそっとルーエから目線をそらしてノートを取る他の学生たちを見やる。
どうやら心を読まれたらしい。

無論いつものアルガティアは心を読もうとしてくるなどいったことは滅多にしないのだが、
今の性格の時は違うようだ。
それに、近くに居ても感じるくらいには普通の時の放出魔力と今の放出魔力は倍近い差がある。
しかも感じる魔力の形が強大でこちらを包み込んでくるようなものなのだが、
今感じているアルガティアの魔力は刺々しく、確実にこちらを捕らえて混沌へ引きずり込もうする強大なもの。

「近寄り難い」

思わずそんな一言が漏れ、アルガティアに見られたルーエは何か言われるのでは?と身構えたが、
アルガティアはふふっとかすかに笑うと

「分かるところまでで構わないわ」

分かる範囲で構わないので無理しないよう促す。
ルーエはそれに頷き、8割ほど書いたところで席へ戻る。

「70点といったところか。ここは『〜したところ』という言い回しではない。『〜をした』という言い回しよ」

アルガティアはルーエの訳を細かに解説し、間違っている部分は訂正していく。
その解説はいつものアルガティアと変わらないのだが、やはり口調や雰囲気が異なるのでルーエはどこか落ち着かなかった。

「今日はここまでよ。次々回の講義は小テストするからそのつもりで」

やがて講義終了の鐘が鳴り、
アルガティアが講義の終わりを告げると学生たちはそそくさと講義室を出て行く。

ルーエも講義室を出ようとしたが、唐突にいつもと違う雰囲気のアルガティアに

「待て、ルーエ。この後講義は入っているかしら?」

「特にはないですが」

この後講義はあるかと聞かれてルーエはないですとアルガティアに淡々と返す。

「そうか。では私について来い、話をしよう」

やはりいつもと違う口調で言われると違和感しかなかったが、
ルーエは下手に断ることはせずに承諾してついて行くことに。

講義室を出、いつもと違う国王たる堂々とした歩き方で歩くアルガティアの少し後ろを歩くルーエにアルガティアは

「今の私は違和感しか感じないか?」

今の自分は違和感しか感じないかと問う。
それに対してルーエは

「違和感しか感じませんよそりゃ。でもそれもアルガティアさんらしさだと思うのですよ」

違和感しか感じないものの、それも一種のアルガティア自身の自分らしさであると返す。
それを聞いたアルガティアは一瞬鼻で笑った後にふふっと笑い直して

「アイデンティティというものね。このもう一つの性格の私も、また私である」

今の性格の自分もまた自分自身であると返し、
大学棟から王宮の方へと足を運ぶ。
ルーエはそんなアルガティアに遅れを取るまいとその横へ並んで歩く。
こうして歩くと、100センチもないルーエと160センチ台の身長のアルガティアとであからさまな身長差が見受けられる。

「私の部屋に入るのは初めてか?いつもは応接室か庭園でのティータイムだから聞くのだが」

自分の部屋へ入るのは初めてかと、エゼラルドも入れそうな大きさの扉を開きながらアルガティアに再び問われ、
ルーエは初めてであるとの返事を返す。

「正直なのはいいことよ、でも時に嘘をつかないと世渡りは上手くいかない。正直者が馬鹿を見るというやつね」

アルガティアはやれやれねと肩をすぼめてルーエを来客用のソファへ座らせて、
自分は近くの棚まで歩いて茶を淹れる。
淹れる動作自体はおっとりしている性格の時と変わらないが、
ルーエはいつになくアルガティアが自信に満ち溢れているように見えた。

「どうぞ」

アルガティアに茶を出され、ルーエは一瞬ぽかんとしつつもそれを飲む。
どうやら性格の変化は淹れた茶にまで出るらしく、
いつもならば癖もなく飲みやすいアルガティアの紅茶は若干の癖があり、
さわやか風味もしっかりした風味に変貌していたのだ。

「ルーエ。あんたはもう一人の自分、内なる自分の存在を信じる?」

いきなりアルガティアにあんた呼ばわりされ、
ルーエはむっとしたものの問いに対しては

「ボクは第2の人格が存在すること自体が異常であると認識してますよ。それと、アルガティアさんを貶す意図は毛頭ないとだけ断言しておきます。特殊なパターンですから」

第2の人格が存在すること自体が異常であるとの考えを持っていると返す。
それにアルガティアは堂々たる姿勢で座りながらルーエに

「あんたも大概、第2の人格が芽生える兆しが見えるわ。でもそれは誰にもあるもの、けどあんたの兆しは毛色が全く違う」

第2の人格が芽生える兆しがあるがそれは誰しも持っている。
だが、ルーエのそれは毛色が全く違うとのことであった。

「どういうことです?」

ルーエがそれについてアルガティアに問いただすが、
アルガティアは何も答えない。
鋭い目つきでニヤニヤしながら紅茶を嗜むばかりだ。

「やっぱり今のアルガティアさんとは付き合いにくいです」

ルーエの断言にアルガティアは昂ぶることもせず、
こう言った。

「あんたがそう思うならそれでいい。私も本心を押し殺されて関われるのは好きではない」

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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