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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

輝星とメルムーア

梅雨も半ばを迎え、しとしとと雨の降るセイグリッド城の回廊で輝星は1人でたたずんんでいた。
久しぶりにシアに会いに来たのだが、アルカトラス不在で代わりに仕事をしているので忙しいとサフィに言われて来た意味をなくしていたのだ。

「なんでこうタイミング悪いのかな」

などと嘆いていると、回廊の向こう側からシアによく似た白毛の竜がもっふもっふと毛を揺らしながら歩いてきた。
輝星は最初は仕事が一通り片付いたシアが気晴らしに城の中を散歩しているのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
その姿は一見するとシアやアルカトラス、アルカトラスに変身しているゴルダに似ているのだが、まず角がない。
角の代わりにフィルスのような耳がついていて、目は左右で色が違う。
しかも、アルカトラスやシアのような魔力の強さが感じられずその魔力は2人の3分の1といったところか。

「誰だろう?」

輝星が誰なのだろうかと考えていると、その白毛の竜は輝星の目の前までやって来、
目線を下げてからにっこり笑うと

「輝星ちゃんこんにちは、私と会うのは初めてよね?私はメルムーア。姉さんであるシアの妹よ」

輝星の名を口にした後、メルムーアと名を名乗り、シアの妹であることを説明した。
メルムーアがなぜ自分の名を知っているのかというのは輝星は眼中になく、
シアに負けじと劣らずの白いもふもふに心を奪われて前足へともふっと抱き着く。

「あらあら、姉さんに聞いていたとおりね」

メルムーアは突如として抱き着いてきた輝星に拒否感を示すことはなく、
しばしさせたいようにさせておいてから輝星に背に乗るよう促す。

「いいの?」

「減るものじゃないし、構わないわ」

最初はいいのかと躊躇していた輝星だが、
メルムーアがあっさり構わないと言ってくれたので輝星は座った状態のメルムーアの前足からその背とよじ登る。
その際輝星は、シアにもふもふされた時に感じた母親のような包容力とはまた別の癒しとしての包容力を感じた。
それに気づいてメルムーアの背の毛へ顔をうずめる輝星に、メルムーアはふふっと笑いながら

「実は私は癒しの神なの。姉さんのような包容力は感じないとは思うけど、癒しの神としての包容力では負けないわ」

「どっちも素敵だよ、だってもふもふだもん」

そんな会話を交わしつつ、未だに雨の降りやまない外を横目に2人は城の回廊を歩く。
その間、輝星はメルムーアが歩くたびに揺れる毛の中でただひたすらにもふもふしていた。

「あら姉さん、仕事は終わったの?」

「一応はね」

その後、数分ほど歩いたところでメルムーアは仕事が終わったと思わしきシアと出くわす。
一応ねという一言からは、仕事を溜めたまま異界会談へ行ったアルカトラスに対しての不満感がうかがえる。
シアの声を聞いて、輝星はメルムーアの背から頭の上へと移動してシアの姿を確認。
輝星の姿を見て、シアはあらあらという顔をしながらメルムーアへ視線を移す。

「輝星ちゃんが黄昏れてたから声かけたのよ、ダメだった?」

輝星がシアと会えず黄昏ていたので声をかけたと言うメルムーアに、
シアは悪いとか悪くないとかの話ではないと言ったうえで

「輝星は一度もふもふし始めたらなかなか離れないわよ?」

輝星が一度もふもふし始めると離れなくなることを告げ、いつものように応接室へと向かう。

「降りて」

「はーい」

応接室へとやってきた輝星は、メルムーアに降りるように告げられて素直に頭の上から背へと滑り落ち、
前足から降りてソファへと座る。
そこには既にサフィが出したと思われる菓子と茶が置かれており、輝星はそれを何の迷いもなく手をつけた。
それを見たメルムーアは、ふふっと笑いながら輝星を見つめるのだった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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