氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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後を追えぬものが思うこと

その日、ゴルダが帰って来たのは日付が変わってだいぶ経った2時過ぎだった。
冠婚葬祭にも用いられる、アルガティアのものと同じフィルスの毛と同じ色のローブ姿のままゴルダはソファに座り、宙を仰ぐ。

「なぜあいつが先立つ必要があったんだ?」

このゴルダの独り言から察しがつくかも知れないが、今日は地球からこちらへ移り住み、数年ではあったもののそれなりの付き合いのあったとある友人の葬儀に出ていた。
聞いた話では、竜に追突されて即死したなどと言われているが、結局のところ定かでない。

「…っ」

誰に向けるわけでもない、心の奥底で渦巻く憤怒を自覚しながらゴルダは煙草のようなものを取り出し、火をつけて吸いだす。
ふと時計を見ると、時刻は午前3時過ぎ。
かすかに聞こえる自室のサーバーの動作音と、冷蔵庫の稼働音を耳にゴルダは煙草のようなものを吸い続ける。

「矛先不明の憤怒もとい怒りは、己の精神状態に非常に悪影響であるから気をつけなさい。自分を蝕むわよ」

ルピルから聞かされていた忠告を思い出し、ゴルダはどうにかそれを抜こうと模索するも、それが逆に憤怒を増大させる。

「ろくなもんじゃないな」

そう言って煙草のようなものの火を消し、ローブを脱いだゴルダは左手で頭を押さえながら自室へ行くと、そのままベットへ。

「なぜあいつだったんだ、シア?」

横になり、そう呟いたゴルダはそのまま眠りに落ちた。

そして翌朝。
寝起きが最悪の状態でゴルダは覚醒し、おはようも言わずに食卓の椅子にどっかりと座る。

「きついのなら誰か頼りなさいよ、ルピルでもシアでも私でも。そんなに溜め込んでても精神状態に毒よ」

ミリシェンスには察されているようで、誰かを頼れと命令に近い口調で提案されたゴルダはそうだなとだけ返して、あらかじめ淹れられていたコーヒーのポットを掴んで手近なカップへ注ぐ。
いつもならその苦味が心地よいのだが、今日は苦味が憤怒を増大させる燃料に他ならない状態だった。

「クソめが」

舌打ちと同時に放ったその言葉にマティルーネはびっくりして、ゴルダとかなりの距離を置く。
誰に向けているわけでもないゴルダの内なる憤怒が、誰かに無差別に向き始めた瞬間だった。
標的なしに投げられた手裏剣も、いずれは失速して落ちるかどこかへ刺さる。
闇雲に振り回した棍棒は宙を切るだけか何かに当たる。
この場合は、何かに刺さったり当たったりした状態だ。

「っ…ぐぅ」

マティルーネに八つ当たりしてしまったことを自覚した瞬間、ゴルダは己を責めるかのような目をしたかと思えば急に立ち上がり、部屋へ戻る。
そして数分したのちに普段着姿で出て来たと思えば、乱暴に玄関のドアを開けてどこかへ行ってしまう。

「そっとしといてあげて、友人が亡くなったことで動転しているのよ」

どうしちゃったのよという顔をするマティルーネに、ミリシェンスはそう言ってなだめる。

その頃、家を飛び出したゴルダは携帯の電源を切ってスリュムヴォルドのとある岬へとやって来ていた。
海面まで10メートルはあろうかという岬の端にゴルダは立ち、煙草のようなものを1人寂しく吸いながら黄昏る。

「なぜだ?なぜなんだシア」

手ごろにあった石ころを海へ投げ捨てながらゴルダがそう呟いた瞬間、頭の中にシアのイメージが入り込んできて

「来なさい、待ってるから」

とだけ告げてふっと煙のようにシアのイメージは消え去った。
どうやら、ゴルダの精神状態が看過できないレベルに達したのを察知したようだ。

「クソめが」

1人悪態をついたゴルダは、素直になりきれないままシアのところへ向かう。

場所はまた変わり、シアの塔。
この上ないほどに不機嫌な雰囲気を醸し出しながらまた煙草のようなものを吸っていると、シアが深刻そうな様子で現れる。

「呼んだ理由は言わずとも分かるわね?」

シアはゴルダに対し、淡々と問いかける。
その問いにゴルダは、突然手裏剣を取り出すや

「なぜだ?なぜあいつだったんだ?」

お前の問いに答える必要はないと言わんばかりに逆にシアに問いかける。
答えなければ手裏剣を投擲するという意思表示をしながら。

「答えろ」

いつもの接し方と全く違う接し方をしてくるゴルダに、シアは突如として真剣な目付きになり

「落ち着きなさい。そして私の話を聞いて」

話を聞けと言い放つ。
だがゴルダはそれに応じず、シアめがけて手裏剣を投擲した。
謎の材質の手裏剣は空気を切り裂きながらシアに命中したものの、体毛から放出される魔力が刃をなまくらにして攻撃を防ぐ。
有毛竜ならば、ほとんどの者が備えている防御能力の一つだ。

「お前の話を聞く耳を俺は今日は持っていない。俺の問いだけに答えろ」

そう言ってゴルダは今度は剣を抜くと、有無を言わさずシアと切りかかる。
だが、体毛の魔力に防がれて思うように攻撃が通らない。

「っち…」

ここでようやくシアの体毛のことを思い出したゴルダは、剣を下ろして

「本当に話せば聞いてくれるのか?」

本当に話せば聞いてくれるのかと確認するように聞く。
シアはそれにただ頷いて側へ来るよう促すだけで、何も話さない。
それはシアが全ての生命の母として慈悲深く受け入れようという意思表示でもあった。
剣を戻し、ゆっくりとシアに近づいたゴルダは前足の辺りに胡座をかいて座る。

「そう、それでいいの。自分を出し切って」

シアに頭を尻尾でわしゃわしゃされて、ゴルダは昔父親であるロドルフォに同じようなことをされたことを思い出した。
それはなぜだったかは定かではないが、初めて自分で狩りに成功したことを褒められたという記憶がかすかに蘇る。

「なぜあいつだった?」

頭をわしゃわしゃされながらゴルダはシアに問う。
それにシアは幻獣語の子守唄を口ずさみながら

「死の訪れまでは私には止められないわ。不死者でもない限り死は絶対だもの。ただ、一つ言えるのはその予兆は感じていたとだけ」

死の訪れは絶対に止められないが、そぼ予兆だけは感じていたと話す。
渦巻いていた憤怒も一応収まり、いつもの冷静さを取り戻してきたゴルダはそれはどういうことかと聞き返す。

「あなたもたまにいつも感じる違和感とは違う違和感を感じることがあると思うけど、それが死の予兆よ。魔力や魂がくすんでいるように感じていたらそれがそうよ。予兆の感じ方は個々で違うけど」

シアの説明を聞きながら、ゴルダは後頭部で両手を組んで両前足の間の毛の中へ埋もれる。
いつもならばやめろと言って絶対にやらないのだが、今日は心の奥底にあった癒されたいという気持ちが打ち勝ったようだ。

「ところでシア、俺はどうすればいいんだ?また誰かが逝く度に憤怒を燃やし続けないといけないのか?」

少々寝そうな声で聞いたゴルダにシアはなおも幻獣語の子守唄を口ずさみ続けながら

「受け入れるしか憤怒を抑える方法がないわ。あなたはこれから何百、いえ数千年の単位で生き続けることになるんだから」

受け入れる以外に方法はないと断言した。
無論ゴルダもそれは分かっていたが、たやすいことではないのも事実。

「ゆっくり受け入れていけばいいのよ、時間をかけてね。そのために私が居るから」

その言葉にゴルダが答えることはなかった。
なぜなら、毛に埋もれて寝ていたからだ。
ゴルダが親しき者の死を受け入れられるのはいつになるのだろうか?それは誰にも分からない。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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