氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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人となりて何を知る

ある日、シアの元にアルガティアからどういう風の吹き回しかは不明だが幻獣布製のやや青がかった白いローブが送られてきた。
当然ながら、アルガティアが何を考えてこれを送ってきたのかはシアに分かるはずもない。

「着ろってことかしら?でもこの姿じゃ無理ね」

着ろという意を込めて送ってきたことは間違いないのだが、今のシアの姿で着ることはできない。
何故なら、これは人の姿を持つ者が着るために作られているからだ。

「できないことはないけど、やったことが生まれてこのかたないわ」

アルカトラスが人の姿を取れるように、シアも人の姿を取ることが可能だ。
だが、シアは創造された当初からその能力を一度たりとも使ったことがない。
それはなぜかというと、別に人の姿を取らずとも苦労しない生の創造神としての生活を送ってきたからに他ならない。
だがそれでも確実人の姿を取れるという自信があるのは、根本的な部分が同じだからだろう。

「やってみようかしらね、物は試しだわ」

そう呟いたシアは、自身の種族と姿の定義を書き換え始めた。
人化に限らず、変身魔法や能力をするためには、このようにして自身の姿と種族の定義を分解し、再構築する必要がある。
これは、シアでも自由に改変できる数少ない定義のひとつ。
だが、いくら自由に書き換えられるとはいえ、定義の書き換えをミスれば大変なことになる。
例えば、種族の定義を中途半端に書き換えてしまい、この世界のどれにも属さない異形の者に成り果てた者もいないわけではない。

「うんうん、上手くいきそうだわ」

それだけ自由に書き換えることが可能な定義というのは、リスキーなものなのだ。

やがて、シアの住処もとい部屋である塔の頂上に腰を超えて膝にまで届きそうな長い白髪に、170センチほどの身長。血めいているも、ルビーめいているとも言える赤い目に片方二本で一対四本の角にネグリジェを着た女性が立っていた。
当然、本来の姿よりは落ちたものの、それでも桁外れの魔力を放っている。

「角までは隠せないようねえ」

人化に成功し、どこからか出した姿見で人の姿を取った自分を見たシアはそう呟く。
正直、髪の長さと角が気になって仕方がなかったが、そこは妥協することにしたようだ。

「こっちもあまり大きくなくて良かったわ」

アルガティアから送られてきた例のローブを着て、また姿見で自分の姿を見たシアはやれそれ口に出して言えないある部分の大きさがそこまで大きくないことにほっとする。
それは、もし下手に大きかったりすると、黙ってはいない者が知り合いに居たからである。

一通り人化した自身の姿を見ることに満足したシアは、突然何を思ったのか城の武器保管庫にあった剣を魔法で取り寄せ、それを引き抜いて構える。

「剣術は基礎ぐらいしか知らないけど、やってみたかったのよね」

シアはそう言うや剣に魔力を流し、素振りを始めた。
本来の姿では簡単なことではないことも、人の姿を取れば簡単にできるようになる喜びを、シアはしかと噛み締めていた。

「居るかしら?アルカトラスが…」

剣の素振りに夢中になっていたシアは、サフィが来た事も知らずに剣を振り続け、思わずサフィを切りつけそうになる。
だが、サフィもそうやすやすと素人の攻撃を受けるようなヘマはそうそうしない。
あと数ミリで切りつけられるというところでブリッジをして攻撃を回避。

「姿が変わったところで誰か分からなくなるわけじゃないけど、気をつけなさいよね」

服についたゴミを払い落とし、サフィは剣を下ろしたシアに言う。
どうやらサフィは、シアが人化していても、雰囲気や放出されている魔力でシア本人だと判断できているようだ。

「アルガティアからローブ送ってもらったから、着ようと思って初めて人化能力を使ったのよ」

と説明するシアを軽く流して、サフィは再度

「アルカトラスが呼んでる。それだけ」

アルカトラスが呼んでいることを伝え、シアの胸を一見してから座標指定テレポートで城へと戻って行った。
残されたシアは剣をしまい、人化能力使ったのがバレたかしら?と首を傾げながら同じく座標指定テレポートでアルカトラスのところへと向かう。

「まだ新年度始まって一ヶ月だというのに仕事溜めすぎだ祖父さん」

「新年度早々異界会談で不在の日が多かったからな」

と言いながら、書斎で書類の処理をしているのは他でもないゴルダとアルカトラス。
なお、ゴルダはアルカトラスに仕事を手伝って欲しいと小遣いをちらつかされて来ている。

「噂をすれば来たか」

「誰がだ?」

書斎の扉が開いて閉まる音が聞こえたので、来たかというアルカトラスにゴルダは誰がだと聞くもアルカトラスは答えてくれない。
だがしかし、誰が来たのかはすぐに分かることとなる。

「お呼び?」

ゴルダの目の前に、突然シアの面影を残す謎の女性が青がかった白い幻獣布のローブ姿で剣を携えて書斎へ入って来たのだ。

「ほほう」

「ふぅむ、そうだな…誰だ?」

アルカトラスがすぐに分かったのに対して、ゴルダはそれがシアだと分からず、誰だと聞く。

「あら、サフィは魔力と雰囲気で分かったのに」

謎の女性はやれやれねと膝まで届きそうな髪と共に首を横に振る。
それにゴルダはどういうことだと、診察眼で調べたところ、ようやくこの謎の女性が人の姿を取ったシアであることに気付く。

「分かりにくいな本当に」

「あらまあ」

ゴルダとシアが微妙な空気になってきたところで、アルカトラスは書類を片付ける手を止めると

「少しばかり外へ出ようではないか。詰まった空気は良くない」

外へ出て気分転換しようと言い出す。
それにゴルダとシアはそれもそうだなという顔をしてアルカトラスについて行った。

「こうして出かけるのも久しいな」

城下町をゴルダとシアと並んで歩きながら、アルカトラスは2人に言う。
それにシアは軽く頷き、ゴルダは無言でシアをさりげなく見ている。

「人の姿を取って何か知ったことはあるか?」

そしてゴルダは、シアにふと気になったことを聞く。
今の今まで、20メートル近い体で生活してきた者が突然170センチほどの人の姿になったのだ。
何か気づいたことなどがあるはずなので、ゴルダはこういう問いかけをしたのである。

「そうね、体が大きければいいってものではないことを再認識したかしら?」

その問いにシアは、体が大きければいいというものではないと再認識したと答える。
髪があまりにも長すぎるせいかどうかは不明だが、歩くたびにシアの髪は右へ左へと大きく揺れていた。

「人の姿の時は束ねたらどうだ?」

その髪の揺れっぷりを見て、アルカトラスは髪を束ねてみてはとシアに言う。

「束ねるならツインテールでかしら」

「汝の好きなようにすればよい」

人化してもしなくても、シアとアルカトラスの関係は相変わらずであった。

「これはアルカトラス陛下」

「3人で、構わぬかな?」

やがて、アルカトラスは城下町で唯一自分の大きさの者でも入れるカフェへとやって来た。
このカフェはセイグリッド建国当初より続く店で、どんな種族も分け隔てなく過ごせるカフェをという初代店主の申し出をアルカトラスが受け入れ、建てたと言われている。
それ以来、アルカトラスが度々来るようになり、カフェの主人がどんどん世代交代していくうちにこのカフェの知名度は上っていき。今ではセイグリッドの観光ガイドに

「国王兼創造神の来る、どんな種族でも入店を断られないカフェ」

と載るまでになった。

そんなカフェでアルカトラスとシアは紅茶を、ゴルダはとても苦いがいいのかと言われたコーヒーを頼んだ。

「おいしいわね」

「いかにも、ここの店主は本場で修業を積んできたからな」

ちびちびとコーヒーを飲むゴルダに対して、シアは紅茶をそれこそぐいぐい飲んでおり、アルカトラスは少し飲んでは同時に頼んだビターチョコのケーキをこれまたちまちま食べている。

「人の姿も一長一短ってところかしら」

片手で自分の髪を指に巻いていじりながら、シアは人の姿を取って知ったことの結論を言う。

「確かにな。相当に鍛えるか魔力を使ったり異能でないと人間の体は脆い。それに普通にやったら飛べない」

このゴルダの返しに、シアはふふっと笑っただけだった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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