氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |

一人では解消できないストレスの解消法

正月も終わりを迎え、日常の戻りつつある日になった頃。
ゴルダは地球での依頼を終えて帰って来た。
時刻は深夜零時過ぎ、キャリーバッグやらなんやらを家の中に入れ、真っ暗な居間のソファにゴルダは座る。
どういうわけだかこの世界に戻って来てからというもの、なんとも言えない違和感を感じていたのだ。
それの原因の一つにストレスがあるのは、一応医者であるゴルダ自身も分かってはいたが、厄介なのはそれが簡単には解消できないものということだ。

「ええい、どうしたものか」

実はこのストレスは昔からあるもので、感じる度に抑え込んでいたが限界のようだ。
これ以上溜め込めばどこで爆発するかも分からない以上、今すぐどうにかしないとならない。

「仕方ない、今日は寝るか」

そう言って、ゴルダはそのまま部屋に行って寝ることに。
すでにぐっすり寝ているミリシェンスたちを起こさぬようベッドに入り、ゴルダはすぐに就寝することができた。

翌朝。
あの違和感が取れないまま朝を迎えたゴルダは、ミリシェンスの用意した朝食を黙々と食べていた。

「依頼はどうだったの?」

ミリシェンスに聞かれ、ゴルダは法医学者が生きている人間を観察するような目をして

「これといっては」

と返す。
ミリシェンスはそれにやや不満げな様子でコーヒーを注ぐ。
今日は依頼はないのでゆっくりできるので、誰に相談しにいくかを考える。

「ルライエッタのやつは理論的かつ極論ぶつけるから論外だ。となるとシアくらいか」

結局相談しにいく相手はシア一択だが、シアに相談して解決しそうにない。
しかし、また溜め込むという選択肢はもはや通用しない。
ゴルダは何かを察して離れて座るマティルーネを見て覚悟を決めたかのように

「シアのところに行く」

「そう」

ミリシェンスにシアのところに行くことを告げる。
ミリシェンスはそれにぶっきらぼうな返事をして、ゴルダの食器を片付け始めた。
今日はレルヴィンとマティルーネをつれていったところで何かが変わるはずもないと留守番させておくことにした。

ところ変わって、ここはシアの塔。
次年度計画書のようなものを書いているシアの目の前に、ゴルダは座標指定テレポートで現れた。

「あら、アルカトラスには挨拶しないで私のところに来るのね」

そういいながら、シアは書く手を止める。
いつもならば、ここで抱きついて来るのだが、今日は違った。
ゴルダのその目線から、今日はしてはいけない何かを察してのことだった。

「相談したいことがある」

その場にどっかりと座り、ゴルダはシアに用件を切り出す。
そしてシアは、ゴルダが相談したいことを話し出す前にこう言った。

「身近な第三者には相談できないことがあるから、どうしたらいいのかってことでしょう?ちょっと待ってなさい」

見透かされていたことに別途驚くこともなく、ゴルダはシアに言われた通り待つ。
やがてシアは、一枚の手紙らしきものと地図を持って戻ってきた。

「雲竜は知っているでしょう?一人知り合いに相談とかそういう仕事してるのがいるから当たってみて」

雲竜とは、雲の上に村を作って暮らしている風竜族である。
ゴルダも、体重が異常なまでに軽いことしか知らず、会ったことすらない。

「幻獣の里の上空か、だが紹介されたからには行ってみるとするか」

地図を見たゴルダはそう呟くと、シアに礼を言って幻獣の里へ向かった。

場所は変わり、幻獣の里。
今日は若干エーテル濃度が高いのか、妙に体に違和感を感じながらもゴルダは地図に記されたところまでやって来た。
そこは森と草原の境目で、空には山のように頑として動かない大きな雲の塊が浮かんでいる。
ここで、ゴルダはどうやってあの雲の上へ行こうかを考え出す。
実際のところ、首輪を外して変身して飛んで行けば簡単に行けるのだが、今日はそんな気分ではない。
ならばどうするか?
それを考えながら空を見上げていると

「何を迷っている?風の魔力を使うのだ。風の翼で飛んで行けばいいではないか」

ゴルダの頭の中に自分の心の声ではない別の声が響く。
それは他でもない、賢王竜の声だ。
最近はそうでもないが、ゴルダが普段身につけているあの鎧の素材の主が賢王竜なのだ。
その魂が鎧に入っていて、ゴルダが装備したことでその魂がゴルダの魂とくっついて今の状態に至る。
普段はあまり茶々を入れることはないが、たまにこうして干渉してくるのである。

「風の魔力か、そうだな」

賢王竜のおせっかいで風竜魔力を使う方法を思い出したゴルダは、風の魔力を展開して風の翼を作り出すと

「もう口出しするなよ、老ぼれ」

と言って賢王竜を黙らせ、飛翔した。

「到着」

飛翔して数分後、ゴルダは例の雲の塊の上に着地した。
どうやらこの雲は風の魔力で固めてあるらしく、風の翼を解除した瞬間に風の魔力が途切れ、足が沈んで地上に落ちそうになったため。ゴルダは足に風の魔力を送って事なきを得た。

「家らしい家を持たないのか?雲竜は」

その雲の上を歩いていると、家らしい家はなく。敷地の境界線を示す屋根が建てられているくらい。

「紹介状にはルピル=マェリエーシュと書いてあるな。そして精神神経科医と」

シアから渡された紹介状に書いてある名を頼りに、ゴルダはどこに住んでいるかの聞き込みを始める。

「失礼、ルピル=マェリエーシュという精神神経科医を捜しているんだが知らないか?」

ゴルダは、手近に居た紫と緑の毛の雲竜にルピルがどこに住んでいるかを聞く。
すると、紫と緑の毛の雲竜はゴルダを珍しそうな目で見ながら

「こんなところに人間がくるとは珍しい。それでルピルだったかな?この辺りに住んでいるよ。家の前にネームプレート出しているからすぐわかるよ」

この辺りに住んでいることと、家の中でネームプレートを出していることを教えてくれた。
ゴルダはその雲竜に礼を言って、ネームプレートを出している家を探す。

「ここか、こじんまりとしてる家だな」

探し始めて数分後。
ルピルの家は簡単に見つかった。
しかも、他の雲竜の家と違ってちゃんとした家になっている。
そして、家の前には

「精神神経科医 ルピル=マェリエーシュ 悩み事、相談に乗ります」

と幻獣語で書いてあるネームプレートが確かに出されていた。

「ルピル。幻獣語で確か心みたいな意味があったはずだが」

ここで突っ立っているわけにもいかないので、ゴルダはルピルの家の扉の鐘が鳴らす。
鳴らしてから数十秒、静寂の時間が流れたが一分ほど経過してから

「はーい、どうぞ」

と聞くと癒される方向で眠くなりそうな声が聞こえてきた。
どうぞと言われたゴルダは、無言で扉を開けて中へ。
ルピルの家の中は、病院ではなく完全な民家の作りで、台所にシアかアルカトラスを小さくしたような竜が茶の準備をしていた。

「座ってて、お茶の用意しているから」

ルピルと思わしき竜に言われるまま、ゴルダは居間のソファに座る。
どういった素材で作るとこうなるのかは不明だが、座ると勢いよく体が沈み込んだ。

「お待たせ、私はルピル=マェリエーシュよ。あなたは?」

やがて、茶を用意し終えたルピルと思わしき竜が居間へやって来た。
改めて見たその姿は、どちらかというとアルカトラスに似ているが、体毛は白と銀。目は水色で似ても似つかなかった。
そして、何を考えているのかわからないほど不気味にニコニコしている。

「どうも、俺はゴルダだ。シアの紹介で来た」

とゴルダも名乗り、シアに渡された紹介状をルピルに渡す。
ルピルはその紹介状を受け取ると、そのまま読み始めた。

「お茶は飲んでいいのよ」

紹介状を読んでいるルピルにそう言われたゴルダだが、初対面の信用もへったくれもない相手から出された飲み物に手をつけるのは、本能が許すはずもなく。ただただルピルを見るだけ。

「私が毒なんて入れるとでも?ずいぶん孤高な人なのね」

「なんとでも言え」

遠回しに私を信用してくれないと話なんかできないわとルピルに言われ、ゴルダはなんとでも言えと突き放す。
ルピルはゴルダのこの態度から何かを感じたように頷き、紹介状を読むのに戻る。

相手が同じ医者ということもあってか、ゴルダはルピルにぼんやりとした何かを抱いていた。
だがそれが何なのかは、喜怒哀楽の怒以外を持たないゴルダにはさっぱりわからない。

それから三十分ほどして、紹介状を読み終えたルピルはニコニコした表情を崩さずにゴルダに急に前足を差し出す。
「握手しましょう?」

ルピルの謎の行動に、ゴルダははて?と首をかしげる。
この時、ルピルの背の毛が青くなっていることに気づいたゴルダは、氷属性の力で相手の精神と神経の状態を読み取ろうとしていると解釈。
なお、ルピルが風と氷の複合属性持ちであることにゴルダは薄々気づいていた。

「いいだろう」

ゴルダはそう言って、青い肉球のあるルピルの右前足を握り、握手を交わす。
ゴルダが握手をすると、ルピルは両前足でゴルダの手を握ってきたのだ。
それをされて、ゴルダは最初は無理やりにでも振り払おうとしたが、手にルピルの触り心地のいい毛が触れていたのでやめた。

「うーん、あなたって複雑ね。死に対する恐怖がないどころか、怒り以外の感情がない。そして何事にも動じない。でもそれでいて世話焼き…」

この後、ルピルは五分ほどノンストップで精神分析をする傍で話し続け、最後に

「よくサイコパスにならなかったわね」

と、気になる一言を言って茶をがぶ飲みした。

「さてと、あなたの口から相談を聞こうかな。言ってみて?」

いきなり相談したいことを言えと言われ、ゴルダは本当にルピルが精神神経科医なのかどうか疑いたくなったが、個々の診察の仕方にいちゃもんをつけるのはナンセンスだという考えの下に、それを口に出すのは抑えた。

「少し時間をくれ」

「ええ、日が暮れても待つわ」

シアより読めないこの相手にどう相談するか、ゴルダは考えを張り巡らせる。
そしてその答えはすぐに見つかった。
アルガティアと付き合うかのようにすればいい、すなわち読めない相手を無理に読もうとしないということだ。

「話は変わるが、聞きたいことがある。どうして医者になった?」

少しだけルピルを信用してみようと思ったゴルダは、なぜ医者になったのかを問う。
ルピルはゴルダが自分を信じてみる気になったことを察し、こう返す。

「第三者の精神ってものに興味があったからよ」

ゴルダはそれを聞いて納得したように頷き、自分が医者になった理由も話す。

「俺は…なんでだろうな。気づいたらこうだ。知識を追い求めた結果だな」

知識を追い求めた結果竜医になったと聞いて、ルピルは思わずふふっと笑う。
その時、ゴルダはルピルから今まで感じたことのないタイプの氷属性の魔力を感じた。
それと同時に、ルピルの診察と治療のやり方も把握できた。
それは、氷属性の力を駆使して相手の精神状態を把握。さらに氷属性の魔力と光の魔力で相手の精神や神経に直接処置を施す。というものだ。
だがこれはあくまでゴルダの憶測でしかないのだが。

「あとひとつ聞きたいんだが、いいか?」

「どうぞ」

ゴルダがまだ聞きたいことがあると聞くと、ルピルは上機嫌でどうぞと答える。
どうやら、ゴルダが自分を信用する気になったと感づいたからのようだ。

「シアと出会ったきっかけは?シアからは知り合いだと聞いている」

シアとどうやって出会ったのかと聞かれた途端、ルピルの目が笑わなくなったかと思えば

「ちょっとそれは言えないわ」

それは言えないと返した。
無論、ゴルダはそれに対してはこれ以上の追求はしなかった。

「さあて、そろそろあなたの口から相談したいことを話してもらおうかしら?」

もはや診てもらいにきた姿勢ではなくなったゴルダに、ルピルは尻尾でつんつんと突いて姿勢正すよう促しながら言う。
その尻尾での突きすら心地よいものに思えたゴルダは、分かったと一間置いてからルピルに解消できずに溜め込んでいるストレスを含めた様々なことを話す。

「なるほどね、それは確かに身近な第三者には相談しずらいわね」

ルピルはゴルダの話を聞いて、相談しずらいという現状を認めてくれた。
一通りルピルに話し終えたゴルダは、ようやく出された茶に手をつける。
ハーブティーの一種のようだったが、冷めきったそれの風味は損なわれており。おいしいとは言えない代物になっていた。

「それで思ったのだけれど、あなたのその溜め込むところ。直さないと同じことの繰り返しになると思うのよ」

ルピルの突然の一言に、ゴルダは

「それができたらこうはならないさ」

と極論を返す。
今の今まで、ゴルダは仕事とそれにより満たされる知識への欲求以外をあまり気にせずに生きてきた。
誰かに相談することなど、仕事上必要不可欠なもの以外したことはない。

「自分のことは自分がよく知っている」

「自分で解決できることは自分で」

その二つの言葉がゴルダをここまで溜め込む性格にしてしまったのだろうか。
それも結局は、ゴルダ自身しか知るはずもないのだ。

「溜め込むことをやめられないなら、そのガス抜きの方法を考えないといけないわ」

そう言って、ルピルは体重の軽い雲竜らしい身のこなしで飛び上がり、ゴルダの隣にふわりと着地する。

「その方法とは?」

いつでも剣に手をかけられるようにして、ゴルダはルピルに聞く。
すると、ルピルはゴルダの腰の剣を尻尾でどこかに飛ばして反撃されないようにしてから

「こうするの」

尻尾をゴルダに巻きつけ、そのまま自分の方に引き寄せた。
こんなことを、ニコニコしながらされては恐怖そのものでしかないはずだが、ゴルダは動じる様子はない。

「やっぱり動じないのね、普通は逃げようと抵抗するのに」

そこまで強くは締め上げず。あくまで逃げられないようにしただけなので、ふさふさしたルピルの尻尾の感触は今の状態を除けばたまらないものとなっていた。

「なあ」

「なにかしら?」

尻尾に捕らわれた状態のまま、しばし無言だったゴルダが口を開いたのでルピルはどうしたのかと聞く。

「手洗いに行きたいんだが、あと鎧を外したい」

トイレに行かせてくれと言うゴルダに、ルピルは

「逃げない?」

と聞く。
それにゴルダは

「逃げるならさっき抵抗して逃げたさ。構わんだろ?」

逃げるならさっき尻尾を巻きつけられた時に抵抗して逃げたと反論。
それを聞いたルピルは、ゴルダを一時的に解放して

「トイレは台所の左よ。それと一応逃げられないようにしておくから」

トイレは台所の左であることを教えてくれた。
ゴルダは、ルピルに一応どうもと言ってからトイレへ。

「風と氷と光の三つの複合属性とはたまげたな」
ルピルの体格に合わせて作られたトイレの中に落ちないようにしながら、ゴルダは着替えの魔法で鎧を外し、ジーンズとシャツに着替える。

「しかし、尻尾で巻きつかれたあの感触はなんとも言えんかったな。氷と光の属性を持つだけのことはあるな」

あまりルピルを待たせるわけにもいかないので、ゴルダはさっさとトイレから出てルピルのところへ戻る。

「本当は逃げられるようになってたんだけど、逃げないとは驚いたわ」

ルピルにそんなことを言われ、ゴルダは

「俺を食べるなら構わんが、試すのはやめてくれ。疲れるだけた」

食うなら食って構わないが試すのはやめろときっぱり言って、ルピルの近くに座る。

「ふふっ、いい子ね」

そう言うや、ルピルはゴルダの頭を前足で撫でながらまた尻尾を巻きつける。
先程と同様に、やはり抵抗できないように腕までしっかり尻尾に拘束されたものの、やはりそこまで強くは締め上げられない。

「じゃあ、始めるわね」

そう言うやルピルはゴルダの頭に前足を乗せ、目を閉じ。
その途端、ルピルの背の毛が青くなり。ゴルダは頭の中に何かが干渉してくる強く不快な違和感を感じる。

「ダメよ拒んじゃ、受け入れるのよ」

その干渉してくる違和感を追い払おうとしていたことがルピルに察知されてたようで、拒むなというルピルの声が頭の中に響く。
やがてその声に応じるかのように、ゴルダは拒む力を徐々に緩めていき。最後はルピルの干渉を完全に受け入れた。
するとどうだろうか。
今まで解消、あるいは発散されずに溜め込まれていたものが一つづつ泡のように消えて行ったのである。

ルピルの治療。
それは患者の精神と神経の状態を把握した状態で、ピンポイントでそこに干渉し、処置するというもの。
これは、精神と神経に関する医学的な知識と技術に、氷と光の属性の力を扱えなければできない芸当だ。

その後、十分ほどかけてルピルはゴルダの頭の中に干渉し続け、背の青い毛が白く戻ったところでゴルダは干渉から解放された。

「これでいいわ」

ルピルが尻尾の拘束を解きながらそう言うと、ゴルダは自分の中で何かが弾け飛んだような感覚を覚える。

「お前の処置法は好かないが、お前のもふもふは気に入ったよ」

思わず本音が出てしまったが、ルピルはそれを気にも留めず

「あらあら、じゃあこれからは定期的に来るようにね。爆発寸前まで溜め込んじゃあダメよ。あと報酬はいいわ、シアにはいろいろ借りがあるから」

爆発する前に来るように釘を刺し、その日は帰してくれた。

「…シアより上のもふもふだったな」

帰り際、ゴルダはそんなことを呟いた。
なおこれ以降、ゴルダはしょっちゅうルピルの世話になるようになったという。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |
| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。