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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

竜が舞い降りた世界

ある日、アルカトラスが書斎の本棚を整理しているとかなり古い日記が出てきた。
どれくらい前のものかは不明だが、少なく見積もったにせよ数百年前のものだろう。

「我は日記など書き記していただろうか?」

ふと疑問に思い、日記の適当なページを開くアルカトラス。
なお日記に書き記された年は、大陸歴2000年前半と大昔。
また、そのページはざっと読んだ限りでは、アルカトラスが初めて地球という名の異界へと行ったことに関する内容になっている。

「まだ産業革命など知己じみた夢の時代か。ちなみに行った場所はヨーロッパになっているようだな」

アルカトラスは角の辺りを掻きながら、その日記を読み始めるのであった。

時は今から1000年は遡った、大陸歴2000年代前半セイグリッド。

この世界で最初に建国され、今の今まで分裂などは一切起きずに当初のままを保っている。
そんなセイグリッド城の一室で、この世界の創造主にしてセイグリッド国王のアルカトラスと、従者が話をしていた。

「はて、地球とは?」

「この世界と似てはいますが、竜は居ませんし、魔法もない世界だそうで」

従者から地球という異界の話を聞いて、わずかながら興味を持ったアルカトラス。
すでにドランザニア辺りがこの時代に関わりを持っていたものの、その関わりはごくごく限定的なものでしかなかった。
それはなぜかというと、アルカトラスがその世界へ赴き、本当にその世界と関わりを持ってもいいのかを確認して許可を出していないからだ。
この時代のドランザニアは、まだアルカトラスを意識していたため、そこまで好き放題やってはいなかった。
それも時代が移り変わるにつれ、アルカトラスのことなどお構いなしに好き放題やるようになっていったのが現代のドランザニアである。

「一度赴いて、このまま関わりを拡大してもいいのか否かを判断してはいかがでしょうか?そのために地球の話を持ちかけたのですが」

赴いてみては?と従者に言われ、アルカトラスは書きかけだった書類のサインを終わらせてから顎に前足を当てて、しばらく思慮に更けると

「現状情報が乏しい、シアに何か情報がないか聞いてからにしよう」

シアに何か詳しい情報がないかを聞いてから決めると答え、従者に下がるように言って残っている書類を片付け始めた。

それから数時間後、アルカトラスはシアの居る塔の上へと来ていた。
この塔はセイグリッド建国当初に建てられ、以来数百年に一度の期間で改修などが行われたりしている。

「あら、国務は?」

と、アルカトラスが来たことに気づいて読んでいた定義の書から目を離すシア。
アルカトラスはそれに

「今日で処理しないとならない分は終わらせた」

今日が期日の仕事は終わらせたと返し、ちらりと定義の書に目をやる。
アルカトラスが一瞬定義の書を見たことに気づいたシアは、今日は定義はいじってないわよと言いたげにそれを閉じ、尻尾でアルカトラスの前足を軽くつつく。
前足をつつかれたアルカトラスは、一度大きく咳払いをしてから

「地球へ赴こうと思うのだが、何か情報は持っていないかね?持っていれば教えてほしいのだが」

地球の情報を持っていないかと、シアに対しては珍しい口調で聞く。
それを聞いたシアは、ちょっと待っててと言わんばかりに、塔のてっぺんの一角に作らせた自室の方へ行く。
自室とは言っても、魔法書や生の創造神にして管理者にとっては必要不可欠な門外不出の本などを保管しているだけの場所に過ぎないのだが。

「これでいいかしら?なんともまあ、人間が人間らしく生きている世界ね」

やがて、シアが地球に関して自分がまとめたと思わしき本と紙束を持って戻ってきた。
その量、本は十冊程度、紙束は数十束に及ぶ量だ。

「うむ、すまないが借りるぞ」

借りるぞと言ったアルカトラスに、シアはどうぞどうぞと言ってまた定義の書を読み始めるのだった。

この後、城の自室へ戻ったアルカトラスはそれらを夜通し読み更け、一通りの地球の情報を頭に入れたのであった。

それから数日後、アルカトラスはこの日の仕事をシアに任せて地球へと向かった。
一応、竜も居らず魔法も存在しない世界であることは知っているため、向こうの世界に住む人間に見つからないための対策は講じることに。
とはいえ、不可視化魔法で姿を消しただけなのだが。

「やけに何もない場所へ降り立ってしまったな」

そうしてアルカトラスが地球へと降り立った最初の場所は、周りに家など見当たらない殺風景な場所。
どうやら田舎へと降り立ってしまったようだ。
誰もいないならば不可視化魔法を使うまでもないだろうと思ったアルカトラスは、大きさを今の三分の一程度にまで縮小し、のそのそと歩き出す。
今のところはこの世界の危険因子は確認できないが、何が起きるかが分からないのが異界探索なので、気を抜くことはできない。

「はて、本当にこの世界は人間が人間らしく生きているのか?」

改めて周りを見ても、人間どころか動物一匹すら見かけいないのでアルカトラスは少し心配になりつつも探索を続ける。
歩くたびに感じる魔力らしい魔力を一切感じない大地に、改めてここが地球であることを認識させられながら歩いていると、アルカトラスは畑らしき場所を発見した。
何を植えているかは全く分からないが、とりあえずは近寄ってみることに。

「これは、小麦か?」

植えられているものがおおよそ小麦であると予測できたアルカトラスは、ぐるっと畑の周りを歩き回ってみた。
だが、どこからどう見てもただの小麦畑に過ぎなかったので、誰か来ないものかと待ち伏せてみる。
そして、それからどれくらい経過したのかは分からないがアルカトラスはいつの間にか寝ていたようで、何やら騒がしい声で目が覚める。

「はて、何事だ?」

あまりにも騒がしいので、アルカトラスが片目を開けてみるとそこには農民と思わしき人間二人が腰を抜かして畏怖の表情でこちらを見ていたのだ。
さすがのアルカトラスも、これには完全に目を覚ましてその農民二人に対して

「こんにちは」

と話しかけるも、ここがセイグリッドではないことを思い出し、慌てて翻訳魔法を通して

「こんにちは、取って食べるような真似はしないのでご安心を。それよりここはどこですかな?」

相変わらず腰を抜かしたまま動けない農民二人に、アルカトラスはそう問う。
すると農民の一人が

「あ、ああ…見たこともない生き物がまさか喋るとはな。それでここがどこかと?ここはしかないフランスの田舎さ」

ここがフランスの田舎だと聞いたアルカトラスは、ふうむと返して農民二人に

「我という存在と会ったことは忘れるのだ、よいな?」

自分と会ったことを忘れろと言い残し、不可視化魔法を使ってどこかへ行ってしまうのであった。
こうして、地球も竜が舞い降りた世界の一つになったのだった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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