氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |

溶けた花は、涙のように

第六平行世界のリヴァルスにも、本格的な冬が間近に迫っていた。
日に日にブリザードが吹き荒れる日が増え、リヴァルスウルフや春先以外姿を消す氷花竜がちらほらと王都リャダヴィルチの近くで目撃されることが多くなった。
だが、リヴァルスウルフも氷花竜も、王都の近くに出没はすれど王都の中までは入って来ない。

「また氷花竜か、最近頻繁に現れるな」

そして今日も、第6平行世界のゴルダことエインセルスが氷花竜の出没を双眼鏡で確認していた。
基本的に、氷花竜が姿を見せるのは三から四の月の春先。
それ以外は姿を消し、どこに居るのかすら判然としない。
だが、本格的な冬の入りのこの時期だけリヴァルスウルフと共に姿を表す。
しかし、今年は例年に比べてリャダヴィルチ近辺での目撃例が多い。

「直接会って調べる他ないな」

エインセルスはそう呟き、国章入りのマントを翻して王都の外を監視する監視所を後にする。
その際、見張りに

「ゴルダ陛下、どこへ行かれるので?」

と聞かれたが、エインセルスはそれを聞くなという目線を投げた。
監視所を後にしたエインセルスは、下水に併設されるような形で張り巡らされた地下道へ入り、王都と雪原の境目の門の前まで移動する。

「陛下、なぜ雪原へ?とやかくは言いませんが、夕方からブリザードが来ると通達が入っているので夕方には王都へお戻りください」

門をくぐろうとした際、リャダヴィルチ気象台から今日の夕方から夜中にかけてブリザードが来るとの予報が通達されていることを、エインセルスは門を守る民に言われ、ャダヴィルチに戻る時間の期限を夕方とする。
リヴァルスは国内治安を維持するための衛兵しか持っていないが、こうして民一人一人がいざという時に自衛できるだけの能力を有すような王政をエインセルスは行っているのだ。

「行くか」

「お気をつけて、陛下」

門をくぐり、雪原へ出たエインセルスは氷花竜に会うため、歩き出す。
生まれた時から雪国で暮らし、積もった雪の中を歩くコツこそは身に付いているが、それも積もった雪の中を歩くのは骨が折れる。
それから十数分歩き、エインセルスは氷花竜がそこに居た証拠を発見する。

「氷花か、まだ咲いてからそこまで時間は経ってない」

氷花とは、雪の結晶が花となったもので、雪の結晶の数だけ花の種類がある。
触ると凍傷を起こすほど冷たく、氷属性でもない限りは手袋が必須。
しかもこの花、普通に摘もうとすると枯れるのではなく、溶けるのである。

「どれ、一つ…溶けてしまったな」

手袋を外し、素手で氷花を摘もうとしたエインセルスだが、氷花はすぐに溶けてしまう。
その際、溶けて水とは違う液体になった氷花が、まるで涙のようにツーっとエインセルスの手のひらから流れ落ちた。
それを見てエインセルスは何か嫌な予感を感じ取り、氷花竜を探す足取りを速める。
だが氷花竜は、それから数分もしないうちに十匹ほどの群れで居るのを発見することができた。

「どうしたんだ?今年はやけに頻繁に見かけるが」

その群れの長と思わしきオスの氷花竜に警戒されていたようで、エインセルスは唸られたがそれに動じずにそのオスの氷花竜に話しかける。
やがて、エインセルスが敵ではないと判断したのかオスの氷花竜は唸るのをやめて匂いを嗅ぎ始めた。
唸って警戒するのはやめたものの、やはりもう一度敵ではないことを確認する意味合いがあるようだ。

「もう一度聞く。何か俺に用か?」

エインセルスが改めて聞くと、そのオスの氷花竜はついて来いと言わんばかりにエインセルスに背を向けて歩き出す。
それに応じるように歩いていくと、今年生まれたであろう氷花竜の子供が、母親と思わしきメスの氷花竜に舐められ、ぐったりとしていたのだ。
それを診察眼で一目見たエインセルスは、半ば危篤状態であることを悟ると、その氷花竜の子供を

「この子供はすぐに治療しないと命が危ない、治療するために連れていくぞ」

エインセルスはどこからか清潔な布を出してその子供の氷花竜を包んで抱きかかえ、母親の氷花竜にそう言って背を向ける。
すると、先ほどの群れの長と思わしきオスと、母親の氷花竜がついて来るそぶりを見せた。
それを見たエインセルスは二匹に

「俺を信用しろ、言っていることは分かるな?だがついて来るなと言ったところで聞くはずもない。ついて来い」

ついて来いと言って、城への帰路を急いだ。

それから三十分ほどでエインセルスは二匹の氷花竜と共に城へと戻ってきた。
氷花竜が王都であるリャダヴィルチにまでやってきたことに驚く者は多かったが、それ以上探りを入れる者はいなかった。

「よし、始めるぞ」

城の中に作られた診療所へと駆け込んだエインセルスは、子供の氷花竜を診察用ベッドの上へ寝かせて診察を始める。
なお、病魔の正体自体は診察眼で診たときに見破っていたので、あとは投薬治療が間に合うかどうかだ。
その病魔の正体とは重症化した風邪である。
氷花竜は風邪のウイルスに対する免疫は極めて高いのだが、子供となればそうはいかない。
おそらく、軽い栄養不足からくる免疫力低下が仇となり、風邪をひいて重症化してしまったのだろう。

「まだくたばるなよ。お前は次の世代を継ぐものだ」

エインセルスはそう言いながら用意した重症化したときに用いられる風邪薬を氷花竜の子供にゆっくりと飲ませる。
無理に飲まそうとすれば、ただでさえ重症化した風邪で呼吸機能も低下しているところにとどめを刺してしまいかねないからだ。

「よしいい子だ、全部飲んでしまうんだ」

後ろで母親と長が固唾を飲んで見守る中、エインセルスはなんとか薬を全部飲ませることに成功した。
あとは、この子供が持ちこたえられるかどうかである。
その頃、城の外からはブリザードが迫っていることを知らせる鐘が無関心に鳴っていた。
薬を飲ませ、打つ手は打ったので後はこの子供に残っている免疫力次第。おそらく今夜が山場だろう。

「打つ手は打った、あとは付き添って看病してやれ」

エインセルスは二匹にそう言い、診療所を後にする。

そしてそれからどれくらいの時間が経ったのだろうか?
氷花竜の子供はどうなったのかというと、結果から言って一足遅かった。
就寝前に不快になるほどの胸騒ぎを感じて診療所のほうへ行ってみれば、診察用ベッドの上に寝かされていた氷花竜の子供の姿が消え、ベッドの上には氷花が一輪咲いており、ついて来ていた二匹の氷花竜がどこか物悲しげな遠吠えをしていた。

「遅かったか、だが仕方のないことなのかもしらん」

そう言いながら、エインセルスはその二匹を慰めるように撫でた。
その際、母親のほうの氷花竜の頭の花が溶け、その溶けたものがまるで涙のように頭を伝って床にぽたぽたと落ちていたという。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |
| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。