氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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竜医師より、真心をこめて

冬が訪れ、一年でもっともエーテルの濃度が下がる時期になった幻獣の里。
だがそれでもエーテルへの耐性がない者には依然として危険なことには変わりない。
そんな幻獣の里のエレティーヌ村に、月一の定期往診のためにゴルダはやって来ていた。
だが今日はフィルスが居ないため、ゴルダ一人での往診である。

「お久し振りです」

「そんなに期間は空いてないだろうが」

いつものように村長であるルヴェルニッチに出迎えられ、その挨拶に突っ込むゴルダ。
よく見ると、ルヴェルニッチの両目が透明な薄紫色ではなく、透明ではない薄紫色になっている。
これは、診療所兼村の薬の保管庫が完成してすぐに、ゴルダの紹介でルライエッタにルヴェルニッチの眼球透過症を患った目を治療してもらったためである。
それ以来、定期往診の時にゴルダが診察してはいるが再発は今のところない。

「私にとっては、一ヶ月でも久しく感じるものですよ。要するに時間の感覚の違いというやつです」

ゴルダの突っ込みにルヴェルニッチはそう返し、自分の家へ案内する。
相変わらず、エレティーヌ村のカーバンクル達はゴルダを不思議そうに見ているが、もはや見慣れた光景だ。

「どうぞ、昨日までのリストです」

「うむ」

ルヴェルニッチの家でゴルダは、昨日までの村での患者のリストを見させてもらった。
昨日までの患者は、特に自分が診察をしないといけないような者は居らず。ルヴェルニッチの目を診察して、減った薬の調合を済ませれば帰れる状態。

「この村の住人は、実に健康的だな。多少の怪我と体調不良に目を瞑ればだが」

リストを一通り見終わり、ルヴェルニッチに返しながらゴルダは言う。
それに茶を出したルヴェルニッチは

「あなたがこの村に定期的に来るようになってからですよ。本当に感謝しています」

とゴルダに深々と頭を下げる。
だが、このルヴェルニッチの態度にゴルダは昔から持っている疑問を再び蒸し返す。
それは、本来あるべき医者としての像とは何なのか?などというものである。
大抵は考えるのが馬鹿馬鹿しくなって考えるのをやめるのだが、今日はどことなく違う。

「医者とは『感謝だけ』されるものなのか?」

これまた、過去に浮かんだ疑問の一つである。

「どうかしましたかな?」

少々首をかしげたルヴェルニッチに聞かれ、ゴルダは何でもないと返して立ち上がり

「薬の在庫を確認して来る。せっかく茶を入れてもらったのに悪いな」

蒸し返された疑問を押さえ込むべく、診療所へと向かう。
ゴルダのこの行動に、ルヴェルニッチは若干の違和感を覚えたが、恐らく疲れてるのだろうということで片付けた。

エレティーヌ村の薬保管庫は、診療所の横に併設されており。普段は鍵が掛かっている。
診療所の方から鍵を持ち出したゴルダは鍵を開け、薬保管庫の中へ入る。
薬保管庫の中は、畳にして12枚分ほどの広さで、左右に天井まで据え付けられた棚に、奥には調合用の作業台が置かれている。
そして柱には薬の在庫と、その素材の在庫を記した紙が二種類、何十枚と張り付けられている。
ゴルダはその一番上の紙に目を通す。
相変わらず幻獣語で書かれていて、幻獣語が分からないものには何が書いてあるのか全く理解できないが、ゴルダは最近からミリシェンスに幻獣語を教わっているので、一応読んだり話せなくはない。
なおミリシェンスによれば、幻獣語は世界が違えど文法などに大きな違いはないので、ある程度は通じるとのこと。

「消毒薬が減っているくらいか、風邪薬なんかはまだ作らなくていいな」

そこまで在庫が減っているわけでもなかったので、ゴルダは消毒薬の在庫補充のために素材を出す。
使うのは、どんな素材を使って作っているのか不明な純アルコールにいくつかの薬草。
アルコールに薬草を漬けておくだけで完成するのだが、薬草とアルコールの比率を間違えると効果が薄れてしまうので注意が必要だ。

「…よし、これでいい」

減っている分の消毒薬の調合終えて、ゴルダは柱に張り付けられた紙にそれぞれ幻獣語で書き記し、薬保管庫を出る。

「あっ、お医者さんのゴルダさんだ。いつもありがとう」

薬保管庫を出、鍵を閉めてその鍵を戻そうと診療所へ入ろうとすると、また1歳くらいの子供のカーバンクルにそんなことを言われ、ゴルダは再びあの疑問を蒸し返してしまう。
だが、子供の前で大人気ないことはできないので

「うむ、よく学んでよく遊べ。子供はそれが一番だ。ほら、もう行け。俺はまだやることがある」

ありきたりなことを言って、やることが残っているのでどこかに行くように言う。

「はーい」

カーバンクルの子供は、素直に話を聞き入れて向こうへ行った。

「今日はさっさと引き上げるか。やることやったからな」

これ以上することなくここに居たら、疑問がどこかで表に噴出しそうになったので、ゴルダはそそくさと鍵を戻し。ルヴェルニッチに今日はもう帰ることを伝えに行く。

「悪いがやることやったから今日は帰るぞ」

「うむ、そうか。また何かあれば連絡しよう、気を付けて帰ってくれ」

ルヴェルニッチは意外にもあっさりとゴルダが帰るのを引き止めず、何かあれば連絡するので気を付けて帰るように言う。
それにゴルダは、ではといつものお辞儀をしてエレティーヌ村を後にし、帰路へ。

「ただいま」

「あらお帰りなさい」

家へ帰ると、ミリシェンスとレルヴィンが真っ先に出迎えたが、ゴルダはレルヴィンに退くように言って退かせる。

「エーテル除去薬飲んでから行った?」

ゴルダのエーテル濃度に気づいたのか、ミリシェンスはそんなことを聞く。
それにゴルダはいつもの半分しか飲んでないことを告げる。

「そこまで健康に害が出る量じゃないけど、後で飲みなさいよ」

ミリシェンスは後でちゃんと飲むように言うと、台所へ戻る。

「さて、何するか」

まだ頭の中で蒸し返された疑問が渦巻いているが、何かしていれば消えるだろうとソファへ座ったゴルダは昨日途中で見るのをやめたBONESのDVDを見ることにした。
さて、それから一時間は経っただろうか。
DVDをずっと見ているゴルダにミリシェンスがコーヒーを淹れてきた。

「どうぞ」

「悪いな」

ミリシェンスの淹れたコーヒーは、今日は後引かないすっきりした苦味のものだ。
それを飲んでいると、ふとミリシェンスが

「過去に考えても解の出なかった疑問。また今日蒸し返したでしょ?」

今日のことをずばり言い当ててきたので、ゴルダは一瞬コーヒーを飲む手を止める。
しかし、ミリシェンスが精神魔法などを得意とする水属性持ちだったことを思い出し

「竜医学科時代からの疑問だ。『医者はどうあるべきか』というな。ただ患者を診て、治療するなり薬出すなりして終わりではないはずとは思うが。答えは今だ出てない」

その疑問をミリシェンスに話す。
それに対してミリシェンスが返したのは

「要するに医者としての心の有りどころをどうすべきか?ってことでしょ?簡単よ。それは『患者のために最善を尽くす』って思い。分かった?」

患者のために最善を尽くす思いを持てというものだった。
なお、ゴルダはミリシェンスのこの返しを聞いて

「簡単には言うが、現実はそれが難しいもんだ」

と言った。
どこに真心をこめるか?それは人それぞれだろう。
だがしかし、正の方向にも負の方向のどちらにも、真心をこめてやったことはいずれ何らかの形で自分に戻ってくるということを。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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