氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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シャールイズの頼み事

北風の吹くカヴェルニーエの路地を、ゴルダは1人で歩いていた。
今日はマティルーネもレルヴィンも連れてきていないが、その理由はシャールイズにゴルダ1人で店まで来てほしいと電話で呼び出されたからだ。

「俺単独で呼び出すとは、何を考えてんだあいつは」

そんなことを呟きながら、ゴルダはシャールイズのカフェ、Yrizer(イェリゼラ)の前までやって来る。
カフェの入り口には「本日、私情によりお休みします」という張り紙がされていたが、ゴルダはお構い無しに店の中へ。

「待ってたわ、早かったわね」

中ではシャールイズがいつものローブに、手袋と帽子をして待っていた。
シャールイズは吸血竜なので、一応紫外線や日光には耐性を持っているのだが、中にはその耐性が弱い者も居り、シャールイズがそれである。
そのため、シャールイズは紫外線と日光が肌に当たるのを防ぐために厚手のローブをし、店内には日光を極力入れないように閉め切っている。
ただ、ここは路地なのでそこまで日が差し込むことはないのだが。

「で、今日は何の用で呼び出した?」

閉め切られているためか、空気が淀んでいるのを鼻で感じながらゴルダはシャールイズに用件を聞く。

「死の森へ行くからついてきて欲しいの」

それに対するシャールイズの返事に、ゴルダはなるほどと返して

「お前の頼みなら仕方あるまい」

と二つ返事で了承。
シャールイズはそれにそうだと思ってたわという顔をして

「じゃあ、行きましょうか?」

不適な笑みを浮かべながら、なぜかゴルダの手を取るのだった。

死の森、それはかつて闇竜の国アルヴァスがあった頃の国土。
まだアルヴァスがあった頃はここは小さな森でしかなかった。
だが、アルヴァスという国が消えた今。森はじわじわと広がり、今では元のアルヴァス国土のほぼ全てが森となり、その森には闇竜などの闇に生きる者達がひっそり暮らしている。
そしてこの森が死の森と呼ばれる所以は、生半可な準備で森に入れば、この森に住む闇の者の糧にされるからである。

「もはや森と呼ぶには大きくなりすぎたなここは、もはや死の樹海だ」

「死の樹海、それも素敵ねえ」

2人並んで森と呼ぶには巨大化しすぎたその中を歩きながら、そんな会話を互いに交わす。
ローブ姿とは思えないくらい軽快な歩みを見せるシャールイズを、中型竜なら数撃てばギリギリ仕留められる威力の弾を装填した狩猟用散弾銃を持って、ゴルダはその後を追う。
吸血竜の歩く速さと走る速さはそこまで速いわけではないが、それでもゴルダが早歩きして追い付けるくらいだ。

「ねえねえ」

とここで、急にシャールイズが立ち止まり、ゴルダに向き直って両手を背にして少し前屈みになりながら声をかける。
それにゴルダは、危うくシャールイズに銃を向けそうになったので、銃を仕舞ってからどうした?という目線を投げ掛けた。

「こんなのは好き?」

その投げ掛けられた目線に答えるかのように、シャールイズは突然本来の吸血竜の姿に戻った。
白に近い銀毛、紫目に人間の姿の時に被っていた帽子という姿に、ゴルダはほうとだけ呟き、その姿をまじまじと見る。
するとシャールイズは、前足の鋭利な爪をゴルダの腕に当てて

「あなたのなら、飲めるかなって思ってね」

回りくどく血をちょうだいと言ってきたのだ。
そして、ここ死の森ならば絶対に人目に付かずに血を飲めるということを確信したゴルダは、自分の腕に置かれたシャールイズの前足をもう片方の手でそっと掴むと

「俺は竜滅病を持病として持っている。血液感染するからやめておけ」

今の今までシャールイズに隠していた、持病の竜滅病のことを告げ、感染するからやめろと言いながら前足を下ろす。
それにシャールイズは少し残念そうな顔で

「それでも良かったんだけどね。あなたを主治医にするのも」

ゴルダなら主治医にしてもいいとぼそりと言い放つ。
なお、それに対してゴルダは

「それはちと厳しいものがあるな」

それは厳しいと苦い返事をする。
その返事を聞いてシャールイズはゴルダの一瞬の隙を突き、首輪の上から牙を這わせて

「あなたの血、頂いたらだめ?」

と静かに、返事によっては問答無用でその首に噛みつくという意を含ませて改めて聞く。
普通の人間ならば、命の危機を感じて期待していた返事を返すのだが、ゴルダは

「ダメだ」

の一言をストレートに返す。
その返事にシャールイズはやはりねと言わんばかりにそっと首に這わせていた牙を離した。

それから暫しの間、ゴルダとシャールイズの間には沈黙と緊張の空気が漂っていた。

互いに並んで地面に座っているのだが、ゴルダはナイフをいじり、シャールイズは毛繕いをしていて互いに目を合わせない。
やがて、ゴルダがいきなりナイフを目の前数メートル先の古木に投げつけたのを見て、シャールイズはビクッとしてその古木をに視線を移す。
だが、そのナイフには何も突き刺さっていなかった。

「外したか」

ゴルダはそう言って、古木に刺さったナイフを抜き、植物用の復元魔法でその傷を治す。
シャールイズが何を外したのかを聞く前に、ゴルダは

「どうやら2人きりの時間を邪魔する奴が割り込んで来たようだ」

と言って立ち上がり、シャールイズに行くぞとハンドサインを出す。
シャールイズは何を見たのかを聞かずにそれに従い、ゴルダの後を追ってその場を離れる。

それからどれくらい歩いただろうか。
ふと森が開け、目の前に湖ともはや廃墟と化した屋敷が現れた。
かつてこの一帯は、とある闇竜の富豪が住んでいたとされるが、今ではその面影はなく。住んでいたとされる屋敷もすっかり廃墟になっている。

「ここ、懐かしいわ」

「来たことが?」

シャールイズの一言に、ゴルダは来たことがあるのか否かを問う。
その問いにシャールイズはええ、と頷いて屋敷の方へ目線をやると

「私の同族がここに居を構えていたのよ。でもアルヴァスという国が消えた時にここを捨ててどこかに行ってしまった」

同族の吸血竜がかつてここに住んでいたと話す。
それにゴルダはそこまで興味がなさそうな口調でそうかと返す。
なお、シャールイズは最初からゴルダがそんな反応しかしないと分かりきってたらしくなにも言わずに湖に近寄り、水を飲む。
そしてその後ろ姿を見ていたゴルダは、思わず

「銀毛を木漏れ日に輝かせしその後ろ姿たるや、吸血竜という名の闇の者とは思えぬ凛々しさ」

と詩の一節のようなことを紡ぎ、呟いた。
それに耳を微かに動かし、スッとゴルダに向き直ったシャールイズは

「その凛々しさ、人を惑わし血を啜りし者という闇の者本来の姿であること、忘れるなかれ。…とでも返せばいいのかしら?」

それに続くような一節を新たに紡ぎ返す。
その返しに、ゴルダは表情こそは変えないが、興味を持ったかのような口調で

「お見事。一緒に俳句でも詠んでみたいものだ」

シャールイズに一緒に俳句を詠んでみたいと言う。
俳句が何たるものなのかはシャールイズには分からなかったが、お見事と誉められたのに機嫌を良くしたのか

「じゃあ、その生き血を少し貰っても?」

またゴルダの腕に前足の爪を乗せながら聞くが、当然ながら

「答えは否だ」

あっさり拒否されてしまったとか。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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