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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

幻獣の里の村で過ごすようです

翌日、ゴルダはルヴェルニッチに連れられてとある一軒の家へとやって来た。
昨日話した通り、真っ先に見る必要がある患者が居たので、診察しに来たのである。

「私だ、入るよ」

「どうぞ」

ルヴェルニッチが家の扉を叩くと、中から女性と思わしき声が聞こえてきた。
ゴルダは昨日なぜルヴェルニッチが言い渋ったのかの理由を考えつつ次いで家に入る。
そして、その理由はすぐに分かった。
家の中には余計なものが一切なく、台所に風呂場と思わしき入口の扉、2人掛けの食卓テーブルが置かれていて、窓際には相当やつれた幻竜がベッドで横になっている。
この幻竜は完全な寝たきり状態らしく、横に座っている幻竜が介護をしているようだ。
そしてこの2人の幻竜、ルヴェルニッチは一言も言っていないが夫婦であることをゴルダは見切った。

「どうも、手紙をもらってここへ来た医者のゴルダだ。旦那…でいいのか?寝たきりになる前に何があったのか教えてはくれんか?」

そしてゴルダはいつもとは違う口調で妻の方の幻竜に挨拶し、どういう経緯で寝たきりになったのかを聞く。
すると妻の方の幻竜は

「はい、もう何時からかは忘れましたが。気になる症状は数十年前にありました」

数十年前、つまり夫が寝たきりになるはるか前に気になる症状があったと言った。
ゴルダがそれはどんな症状なのかと聞くと

「そうですね、あの時は足のしびれが頻発すると言ってました」

頻発する足のしびれという症状が妻の幻竜の口から伝えられた。
これで該当する病気はかなり絞られる。
そして次に妻の幻竜から語られた症状でゴルダは血液検査をしようと思った。
それは何かというと

「それ以降足だけではなく、手にもその症状が表れるようになって歩けなくなり、寝たきりになって体も自力では起こせないような状態になっています」

しびれる個所が増えたというもの。
一通り寝たきりになるまでの症状を聞き終えたゴルダは、ルヴェルニッチに席を外すように伝えて

「血液検査をしても?思い当たる病が一つしかないもんで」

妻の幻竜に血液検査をしてもいいかと聞き、構いませんという返事をもらったのでゴルダはどこからか血液検査用の道具を出して寝たきりの夫の幻竜から血を採取。
そして、ある試薬の入っている使い捨て試験管の中にその血を投入して反応を見る。
するとどうだろうか、今まで無色透明だった試薬が赤紫に変化したのだ。
これが何を意味するのか?それはすぐに判明することとなる。

「事実を伝えてもいいのかどうかは分からんが、どうやら竜滅病の末期のようだ」

竜滅病、それはゴルダもどうにか薬で進行を抑え込んでいるいまだ有効な治療薬が見つからない病。
発病すると足の神経から徐々に浸食されていき、最終的には脳や心臓の神経を蝕まれて死に至る恐るべき病である。

「そう、ですか…薄々分かっては居たんですけどね」

妻の幻竜は覚悟していたかのような表情をし、夫の幻竜の頭を撫でる。
竜滅病は、末期まで進行するといつ脳や心臓の神経をやられてもおかしくはない状態。
ゴルダが知っている論文などのデータを調べても、末期になってから3年生きれればいいほうである。

「末期になってどれくらいかは分からんが、3年持てばいいほうだ。明日ぽっくり逝くかもしれない、最後の時間は大切にな」

「ありがとうございます…」

ゴルダはその後片づけをして妻の幻竜に一礼して家を出る。
外に出ると、ルヴェルニッチは家へ帰ったのか姿が見えず、村の住人達がいつもと変わらない生活を送っていた。
ゴルダはそのままルヴェルニッチの家へ戻ったが、ルヴェルニッチは家にも帰っていないようだ。

「どこへ行った…ん?」

どこへ行ったのかと家の中を探していると、居間の食卓テーブルの上に

「エゼラルドとフィルスを連れて隣の村へ行ってきます、夕方には戻るのでご心配なく。追伸、お昼ご飯は台所と食材を勝手に使って構いません」

というルヴェルニッチからの置手紙があった。
ゴルダはその手紙を読んでふっと鼻で笑うとまた外へ出て村を一周見て回る。
この村は一番大きいと言う割には家が20軒ほどしかなく、それ以外は畑や果樹園の他に共用の井戸があるくらい。
しかも、村と平原や森との境目を定めていないためか、家の裏手が整備されていない草原だったり森だったりもしている。
幻獣の里に住む者たちは、自然と村との区別をつけない文化か何かがあるようである。

「井戸周りの整備をもう少しまともにやったほうがいいと思うが、住んでいるのがほとんどカーバンクルじゃな」

日常的に使う分にはひとまず申し分ないのだが、長年使っていると不便と感じるような作りの井戸を見てゴルダはそんなことを呟く。
それは何かというと、井戸の高さがカーバンクルに準じて作られていて、幻竜たちはいちいちしゃがんで井戸から水を汲まなければならないというところ。
だがしかし、この村の人口比率はざっと見た感じ幻竜が2にカーバンクルが8。
あからさまにカーバンクルが多いのでカーバンクルに合わせた作りの村になるのも仕方がない。
だがしかしゴルダの考えは違った。
どうにかして幻竜もカーバンクルもどっちの種族も快適に暮らせるバランスのとれた作りに村を変えられないかと考えているのだ。

「しかし実際には難しい話だな」

しかしそう簡単にいかないのが現実。
その作り直しの労力やコストをどこから持ってくればいいのかが分からない以上は机上の理論に過ぎない。
なのでそれ以上このことを考えるのをやめたゴルダは今度は森の方へ。
森の方でもいろいろと集めているのか、ちらほらカーバンクルたちの姿も見える。

「野草の採取か?」

幻獣語が全く話せない上に理解できないので、カーバンクルたちに何を採ってるのか聞くことはできないが籠に入っているもので大体分かった。
それはエーテルの影響でまた別の進化を遂げたと思わしき薬草や食用の野草や木の実。
しかし、それをエーテルに対する耐性のないものが食しても大丈夫なのかどうかは不明である。
だが、昨夜の夕食や今朝の朝食にはエーテルの影響を受けた食材を使っていたにも関わらず何の変化もないところを見ると、おそらく大丈夫なのだろう。

「さて、ここで改めて俺がここに来た目的を確認するとするか」

近くにあった切り株の上に座り、自分がこの幻獣の里に来た目的を整理するゴルダ。
ゴルダがこの幻獣の里へ来たのは、アルガティアにこの里には医者が足りないという手紙が来たのでちょっと行ってきてほしいと言われたからである。
だがしかし、このままこの村に居てもまともな診察はできないだろう。

「仮設でもいい、診療所が要るな…」

そしてゴルダが真っ先に挙げた問題点は、診療所がこの村にはないということ。
家庭医学で全てを済ましてきたであろうこの村にはまず医者がいないというのはもちろんのこと、医療行為をする場所すらない。
そこでまずは、仮設でもどこかの家の一室でもいいので診察ができる場所あるいは部屋を設ける必要があった。
しかし、この村はあと1軒くらいなら家を建てる余裕はあれど、それは村長であるルヴェルニッチの許可を得る必要がある。

「とにかく、帰ってきてから話をしてみるか」

そう言ってゴルダがルヴェルニッチの家へ戻ろうとした時だった。
何かを感じ取ったゴルダは、突如森の奥まで走る。
そしてゴルダが駆け付けた先には、野犬型の魔物に襲われている幻竜が居た。
幻竜の方は脚を負傷しているのかその場から動けないでいる。

「おい、お前の相手はこっちだ」

気が進まないものの剣を抜き、野犬型の魔物を挑発するゴルダ。
見た感じ狂犬病を発症してはいないようだが、何があるか分からないのでさっさと追い払うなりして処置をしなければならない。
だが野犬型の魔物はゴルダの殺気か何かに怖気ついたのか、そそくさと森の奥へと逃げて行った。

「大丈夫か?傷が少し深いな」

ゴルダはそう言って幻竜の足に適切な処置を施してから包帯を巻いて背負おうとそのまま村の方へ運ぶ。
なお、この幻竜は幻獣語しか話せないらしく意思の疎通が不可能だった。

「やれやれ、大変だったな」

「幻獣語学んだら?」

その夜、昼間あったことをフィルスとエゼラルドに話していたゴルダ。
だが、フィルスから帰ってきた一言は何とも言えないものだった。
そしてゴルダは、ルヴェルニッチにこの村には診療所が必要であることを話すも

「すぐにというのは難しいね、だがしかし仮設なら私の家の一室を使うといい。どのみち私1人しか住んでいない」

すぐに建てることは難しいという返事を返された。
だが、代わりに自分の家の一室を使ってもいいという代案を出されたのでゴルダはそれでも構わんという返事を返す。
それでこの件に関する話は終わったのだが、ゴルダはその後ルヴェルニッチに居間で2人で話をしたいと言って居間へ連れ出す。

「まだ何かあるのかね?」

「あんたの目についてだ、少し診させてくれ」

まだ何かあるのかと聞かれ、ゴルダは目を少し診させろと言ってルヴェルニッチの目を軽く診察し始めた。
ルヴェルニッチの目は両方とも薄紫色が透明になったような感じで、ゴルダは左目に着目する。

「今左目に光を当ててるがどうだ?眩しいか?」

「全然分からないね」

左目に光を当ててルヴェルニッチの反応を確認するも、全然分からないという返事が返ってきた。
なお、右目はかなり眩しく感じるとの反応だった。

「眼球透過症だなこれは、左目が見えてないのは透明になった目が紫外線に焼かれたせいだろう」

「うぅむ、困ったね。どうにかならないかい?」

そして、これは眼球透過症だとルヴェルニッチに告げる。
眼球透過症とは、原因はまだ分かっていないが、眼球がだんだん透明になっていき、健康な眼球に比べて紫外線への体制が著しく低下することで紫外線で目を焼かれて失明することもある病気だ。
現在のところは目薬で進行を抑えるか、復元手術で発症前に戻すかの2択しか治療法がない。
しかも、後者の場合は再発する可能性が高く、そのたびに復元手術をしなければならない。

「左目は復元手術で戻せる可能性はある、右目はこれ以上悪化しないよう目薬を使う必要があるが…あいにくその目薬は今は手持ちがない」

「そうかそうか、じゃあその目薬をもらうまでは紫外線には今まで以上に注意するようにしよう」

「そうしてくれ、全盲になると復元手術が面倒だ」

こうして、ルヴェルニッチは右目も失明せずに済むようになったという。
そして翌日、ルヴェルニッチから借りた部屋を掃除し、ゴルダは仮の診療所をこしらえた。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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