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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

ちょっと変わった迷子

ゴルダの何でも屋としての仕事は実に多岐に渡るが、その中でも報酬を取ることが全くと言っていいほどない仕事がある。
それは、異界から時空の歪みなどで別の世界からこの世界へ放り出されてしまった者を保護するなどという仕事だ。
大抵、こう言う場合は向こうが礼をさせてくれないかと言われない限り、ゴルダが報酬を取ることは全くない。
そして、今日もそんな仕事が唐突に舞い込んできたようだ。

「うんざりするくらいに降ってるな」

冷たい本降りの雨が降るあまり舗装されていない道の中を、ワイパー全開の軽トラを運転して帰宅途中のゴルダ。
今日も都心部の方で依頼を片付けてきた帰りなのだが、ご覧の通り天気予報では言ってなかった本降りの雨に降られ、若干不機嫌になっている。
だがそれでも、無茶な運転はせずに安全運転をしているのはさすがと言ったところだろうか。

「続いて天気予報です。ドランザニア中部に先ほど大雨洪水警報が発表されました、河川などには危険ですので絶対に近づかないでください」

棒読みにも聞こえるラジオを聞きながら、ゴルダが軽トラの速度を落とした時だった。
視界の隅に、雨に打たれて呆然と震えている何者かの横を通り過ぎたのだ。
それに気付き、何だと思ったゴルダはギアをリバースに入れてその辺りまでバックする。

「この辺りだったはずだが」

大雨に打たれるのも気にせず、ゴルダは懐中電灯を持って外へ出る。
冬に入って日の入りが早くなっているため、辺りは既に真っ暗。
その上、大雨で余計に暗くなっているので視界もあまり良くない。
そんな中でも、懐中電灯の光と自分の目で先ほどいた何者かを探す。
そして探し始めて数分、8か9歳くらいの子供の獣人を発見した。

「大丈夫か?こんな所にいると風邪ひくぞ」

ゴルダはその獣人に話しかけてみるものの、獣人は震えるだけで何も返事を返さない。
言語が通じているのかどうか以前に、冷たい雨に長時間打たれていて返事を返す気力すらないほどに寒さで衰弱しているのが、長年医者をやってきた中で培った診察眼で確信できた。
無論、このまま何もしないで放置していたら命に関わるのでゴルダは本人の意思を確認せずにそのまま抱き抱えて自分の軽トラまで戻る。

「…この世界の者の匂いがしないな。また面倒な奴を保護しちまったか」

助手席に座らせ、たまたまあったタオルで頭を拭いてから暖房を最大にしてゴルダは家へと急ぐ。
なお、ここから家までの距離は安全運転でも数分という距離だった。

「よし着いた。まずは濡れてる服脱がして、暖炉の前に座らす。これで行こう」

ガレージの中へ突っ込むようにして軽トラを入れ、ゴルダはそそくさと降りて助手席側の獣人をまた抱えて家の中へ。
案の定、アルガントとウラヘムトは部屋にこもっていたので邪魔は入らないだろう。
ゴルダは真っ先に獣人の服を脱がせ、部屋干しされていたバスタオルで体を拭いてからブランケットを羽織らせ、一先ず暖炉の前へ座らせた。

「これで大丈夫だな」

そう言って、ゴルダは様子を見つつ夕食の支度を始めた。

それから1時間くらいが経過しただろうか。

「う、うーん…へくしっ!」

ゴルダにほぼ強引に保護された獣人は、しばらくうとうとしていたが唐突に目を覚まして辺りを見る。
まず最初に気付いたのは、自分がどこかの家の中で暖炉の前に座らされていたということ。
次に、服が全部脱がされて身に纏っているのはブランケットただ1枚。

「あ、あれー?ここどこ?」

なおこの獣人、名を白牙フウという。
言われたことなどを額面的に受け取ったり、親譲りの天然な性格の持ち主の獣人だ。

「なんだかいい匂いする…」

背後から漂う匂いに、フウが振り向くとそこには台所に立つ見知らぬ男が居た。
どうやら、せっせと夕食の支度をしているらしい。
夕食の準備をしているというこの見知らぬ男の状況から、フウは少し嫌な予感がした。

「あはは、まさかね…」

「おう、動ける位には温まったか?今飯の用意してるぞ」

まさかねと言っていると、その見知らぬ男がこちらに気付いて話しかけてきた。
一応、フウが理解できる言語を話しているので、その辺は問題ないだろう。
しかし、飯の用意をしているという見知らぬ男の一言にロウは

「へっ?温まった?飯の用意?…」

「どうした?」

冷や汗を垂らしながらその男を見る。
なおこの男は、フウが飯の用意をしているという一言を、自分を料理するという意で受け取っていることには気付いてないようだ。
そして次の瞬間、フウは

「うわあああ!」

と叫んで家の中を逃げ回り出す。
男は、フウが何をしたいのかが全く理解できないようで、何がしたいんだこいつはという目で見ている。

「げ、げ、玄関はどこー!?」

フウは男に変な目で見れれているのも御構い無しに、ここにいると自分は料理されてこの男の夕食にされてしまうと思い込んでいるらしく、とにかく逃げ回る。
そしてやっとの事で玄関と思わしき扉を見つけて外へ出たフウだが

「ま、まだ止んでないの?」

外は未だ大雨で、止む気配は寸分もない。
これぞまさしく背水の陣、絶体絶命だ。

「おいおい、どういうふうに理解したかは分からんが落ち着け」

「た、食べる気なんでしょ!?僕を!本に出てくる悪い魔女みたいにさ!」

男は落ち着けと言うが、フウはここで自分を食べる気だろと本音を漏らす。

「何で亜人を食べなきゃいかん?幾ら何でも人とそれに類する者を食うのはいくら飢えていようがやってはならんことだ」

だが、男の言っていることはまだ8歳ばかりのロウには難しかったようで

「しっ、知ってるんだからね。そんなことを言って安心させておいて後から食べる気なんでしょ!?」

安心するどころか、余計に疑いと敵対心をむき出しにして話を聞こうとしない。
これには男の方も呆れたのか、いきなりフウをひょいと掴み上げると台所の方へと戻る。

「や、やめてー!」

「お前を食わんという証拠を見せてやる」

掴み上げられてじたばたと抵抗するロウを物ともせず、男は台所の椅子に座らせて

「大人しくしていろ、テーブルの行儀は分かるだろ?」

と言ってフウの前に皿を出すと慣れた手つきで料理を盛り付ける。
ここでフウもようやくこの見知らぬ男が自分を食べようとはしていないということを理解した。

「お前がどこから来たのかは分からないが、大雨に打たれて凍えてたから家に連れてきた。あのままほったらかしとくと命に関わるからな」

「えっ、あっ…そうなんですか。ありがとうございます。僕白牙フウと言います」

早く食えと促しながら男に自分が保護して家までの連れてきたと言われ、フウは先ほどの誤解を詫びるような口調で礼を言ってから自らの名を名乗る。
男は、それを気にしてないという顔をしながら

「俺はゴルダだ。今日は泊まっていけ、明日どうするか決める」

ゴルダと名を名乗った。
なお、この後は何事もなく一夜を過ごしたとか。

そして翌日。
ゴルダからどこから来たのかと聞かれて、フウは全く分からないと返した。

「それは困ったな」

「うーん…」

ゴルダに困ったなと返され、フウもうーんと考え込んでしまう。
フウがこの世界の者ではないことは、お互い理解はしているのだが、肝心のどういった世界から来たのかが分からないと、フウを送り返すのが難しくなる。

「…少し出かけようか?」

「あっ、はい」

しばらく悩んでいた2人だが、ゴルダに出かけようかと切り出され、フウはそのまま出かけることに。
ちなみに、ゴルダからはどこに行くというのは聞かされていない。
そして、フウが連れて来られたのは目の前に見たこともないような城がそびえ建つ地。

「えっ?お城?」

「ついて来い」

ゴルダについて来いと言われ、フウは言われるがままについて行く。
しばらくフウがゴルダについて行くと、雲の上まで伸びている高い塔の前までやって来た。

「登るの?ここを?」

「なに、簡単だ」

登るのかとフウに聞かれ、ゴルダはあっさり簡単だと答える。
それにフウは本当なの?という顔をしつつも、ゴルダについて行く。
塔の内部は、1本の柱にむき出しの梯子が掛けられているだけの初見では危険すぎると思われるような作り。
だが、この梯子は手を掛けずとも勝手に上へ押し上げたり降ろしたりしてくれるのだ。
無論、ズレて落下という事は絶対に起こり得ない。

「うわっ…!」

「どうだ、簡単だろう?」

梯子の前に立っただけで、体が勝手に上昇し出したのに驚くフウだが、ゴルダは日常茶飯事という顔をしながらフウに簡単だろうと聞く。
塔の頂上へは、押し上げられ始めてから1分足らずで着いた。

「ん、居ないのか」

「こんなところに誰か住んでいるの?」

「一応はな」

フウがここに誰か住んでいるのかと聞き、ゴルダが一応と言った瞬間。
音もなくシアが戻って来て、ゴルダとフウをちらりと見てから

「あら、保護してたの。まあいいわ…要件はその子がどこからきたのか知りたいって事でしょ?」

フウがどこから来たのかを知りたいのだろうと聞く。
なお、フウはシアを見てかなり警戒している。

「そうだ、分かったか?」

「うーん…その前に私はシアよ、よろしく。フウ」

「はっ、はいぃ…」

ゴルダが分かったのかと聞くと、シアはうーんと言った後にフウに自分の名を名乗った。
フウは、シアのよくわからない雰囲気に押されつつもはいと返す。

「結論から言うと、少し時間がかかりそうね。この手のケースの異界の者は少なくはないしね」

「やはりか…」

シアが少し時間がかかると言ったのに対し、ゴルダはそうかと返してその場で顎に手を当てて考え込む。
なお、フウは一体何がなんだかわからないので混乱している。

「でも、完全に手がかりがないわけじゃないから1ヶ月くらいあれば元の世界に帰せるわ」

「1ヶ月、か。こっちで面倒見るのはちょいと厳しいが、なんとかする他なしと」

完璧においてけぼりなフウは、どうやら頭がオーバーヒートしたらしく、ただぼけーっとしている。

「とりあえず、頼んだぞ」

「まあ、異界から時空の歪みに巻き込まれてここの世界に迷い込んできた者ってほとんど適応してそのままになることが多いから。これくらい大丈夫よ…あっ、フウはちょっとこっちいらっしゃい?」

「えっ…はい」

ゴルダがシアとの話を終えると、シアは唐突にフウにこっちへ来なさいと言う。
ぼけーっとしていたフウは、突然我に返ってはいと言ってシアに恐る恐る近寄る。

「もふっ?」

「わわっ…!」

するとシアは、フウを前足で軽く触って微かに笑う。
フウの方はかなりびっくりしたようだが、ゴルダはまたかという顔をしていた。
こうして、フウはしばらゴルダの所に世話になったという。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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