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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

詩の姫とアルカトラスとその仲間たちのクリスマス

12の月も下旬へ入り、ほぼ毎日のように雪の降る光竜王国セイグリッド。
大陸のほぼ北に位置するという事もあり、年中寒いが冬はそれがさらに厳しさを増す。
そんな中、セイグリッド城のとある場所。
アルカトラスから学を学び、ある程度の補佐は出来るようになった詩姫は四六時中付いて回っている。

「うーん」

仕事を一通り片付けて休憩しているアルカトラスの呟きに、詩姫は

「どうかしましたか、りゅうさま?」

ときょとんとした表情で聞いて来た。
少しぼーっとしていたのか、アルカトラスはそれに気付くと我に戻っとような表情になって

「もうすぐクリスマスだからな、今年はどうしようかと考えていた所だ」

今年のクリスマスをどうするかと考えていたと答える。
セイグリッドでは年末年始の祭りの他にクリスマスなども祭りをするのがほぼ当たり前で、例年異界からも参加者が来る。
クリスマスの祭りの後もセイグリッドに留まって、ここ年を過ごす者も多い。
地球の太陽暦とこのドランザニアの大陸歴は、1000年ほど時間がずれているだけでほとんど同じである。
なので、地球からここへ来て年を過ごし。帰る者が後を絶たない。

「ですわね」

ニコニコしながら詩姫は言った。
それをどこで聞いていたのか、突如として紫の髪に赤い目のメイドが現れる。

「あら、こちらは既に大丈夫よ。例年この時期にはやるって言いだすだろうから」

「では頼むぞ、例年の如く期待しているぞ。サフィ」

アルカトラスにサフィと言われたメイドは新たに入れた茶を差し出すと一礼して消えた。
テレポートの魔法を使ったようだ。

「たのしみですわ」

「毎年の事だからな」

2人はこうしてまた仕事へ戻る。
そしてその頃、城の北にある塔ではシアが暇そうに身の回りの掃除をしていた。
こちらもなぜか雪が積もり、雪かきをしなければならないほどだ。

「今年は何かおかしいわね、ここは何時もは雪なんか積もらないのに」

めんどくさそうに雪をかき集めて巨大な雪玉にしては投げ捨てを繰り返しながらシアは呟く。
しかも雪が今も降っているので油断すればすぐに元通りになる。
下に落ちた雪がどうなるかなど、シアは知るつもりもないようだ。
ただ1つ言えるのは、落下点にはただ地面などが広がっているだけだという事だけは分かっている。
そして何個目か分からない雪玉を投げようとした瞬間、ポンと言う音とともに詩姫がなぜかシアの前へ現れた。

「やれやれ、また変な本を読んだな?」

「こんにちわですの」

雪玉をその場へ置いたシアは詩姫をじっと見る。
流石に高所なだけあって寒いのか、詩姫はすぐにシアをもふもふし出す。

「寒いなら戻してやろう、この時間だとまだ仕事中だろう?」

シアが言い終わる前に詩姫は

「すこしこのままがいいですの」

と言ってぎゅっとシアの体毛に潜り込む。
どうせアルカトラスの事なので、気にせずに1人で黙々と片付けるだろうと思ったシアはそのままにする。
それから数時間後、アルカトラスがやって来た。

「クリスマスの時ぐらい降りて来い、どうせ暇なのだろう?」

祭をするので降りて来いとアルカトラスに言われたシアは

「ええ、そのつもりよ」

と答える。
ちなみに詩姫は、いつの間にか熟睡していた。
アルカトラスはそれを引き取って、また城へと戻った。
そして1週間後のクリスマス数日前、城の周りと中は祭の準備で慌ただしくなっていた。
この時はアルカトラスと詩姫も準備を手伝っている。

「ちょっとおもいですの」

「無理はするな」

城は重要なところ以外はほとんど一般開放しているので、飾り付けも一苦労だ。
あちこちに道具などを持って行ったりなどと慌ただしい。

「ツリー、おおきすぎせん?」

「どうせならばこのサイズが良いだろう?」

中庭のクリスマスツリーの飾り付けを手伝いながら、詩姫はツリーの大きさに唖然とする。
アルカトラスは大きい方が良いだろと言う。

「それもそうですわ」

詩姫は何だか納得がいかない口調で言った。
ツリーの飾り付けが終わった頃、雪が降って来た。

「大雪にならなければいいが」

雪が降る量を見て、アルカトラスはそんな事を漏らす。
詩姫は手伝いで疲れたのか、ずっと背の上で寝ている。
しかしそんな心配とは裏腹に、雪は大した量は降らずに夜中には降りやんだ。

「さむいですの」

翌朝、一人で上着を羽織って城の中をよろよろと歩いている詩姫が居た。
普段はアルカトラスが起きる時に一緒に起きるのだが、今日に限って早く起きてしまった。
ちなみに明日はクリスマスイヴ、今日が準備のピークだ。
詩姫が中庭へ出ると、城の近辺に住んでいる子供が雪遊びをしている。
一見普通の人の子だが、人あらざる者の血をひいている事を詩姫は知っていた。
普通の人の子ならば詩姫はかなり距離を置いただろう、人あらざる者の血をひいていても距離は置いていたが。

「たのしそうですの」

よろよろと中庭へ出て外の冷気に触れていると、近くでサフィが何かをしていた。
詩姫が何をしているのかと近寄ると、サフィは凍った何かを雪の中から出している。

「なにをしているのですの?」

詩姫が近寄って聞いてみるとサフィは詩姫に凍った何かを見せつけて

「なんだか分かる?魚よ、なぜかここで降る雪の中二一晩寝かせると美味しくなるのよ」

その何かは魚だと言った。
詩姫はふむふむとでも言いたそうな顔をしてそれを見る。

「どうせなら、一緒に朝食でもいかが?多分もうアルカトラス起き…あらおはよう」

「うむ、おはよう」

「りゅうさま、おはようですの」

朝食でもどうかとサフィが詩姫に聞いたと同時に、アルカトラスが急に現れた。
2人ともこれには慣れているので普通におはようと言う。
そして、サフィと共にメイドの執務室へ行く。
朝早くから朝食の準備と明日からの祭りの準備に追われていてサフィ以外誰も居ない。
しかもそれが終わればまた年末年始のさらに大きな祭りの準備もあるので、メイド達にこの時期はほとんど休む暇がない。
しかしそれでも辞める者が居ないのは、アルカトラスがちゃんとした福利厚生を整えているからだろう。

「ふう、2日の祭りの後にさらに大きな祭り。普通なら参ってるわね」

「普通はな、そうさせないためにも手厚い福利厚生を行っている」

「そうじゃないと、皆逃げてるわ」

そんな話をしながら、朝食が終わる。
今日から数日は緊急以外の国務は全てオフになるので、詩姫もアルカトラスものんびりしている。
しかし、のんびりしている2人に客人がやって来た。

「お前か、孫よ」

「雪が酷くて避難して来た」

「雪かきしてキリが無かったわ」

やって来たのはアルカトラスの孫と思わしき男に、桃色と白い毛に羽をと桃色の目を持つ竜がやって来た。
詩姫は竜の方とは一度は会ったことがあるが、男の方は面識がない。
ちなみに、男の方の名はゴルダ。竜の方の名はセレノアである。

「あら、詩姫。久しぶり」

「おひさしぶりですの」

ゴルダの方に少し警戒しながら詩姫はセレノアにニコニコと笑いかける。
そんな詩姫を尻目に、セレノアはゴルダに横目で名乗れと言う。

「詩姫だったか?爺さんから色々聞いてると思うが、ゴルダだ」

「よ、よろしくですの」

少し警戒しながら詩姫はゴルダと握手を交わす。
詩姫にはなんとなくゴルダが半分人間ではない事が分かっていた。
なぜならば、アルカトラスにもゴルダは半分竜の血が混じっていると聞いたからだ。
しかし詩姫には、ゴルダのあまりの無表情さが壁となっている。
かつて同じくらい無愛想な者と関わったことはあったが、ゴルダはそれ以上かもしれない。

「出てくる時も雪をかき出したりしたから疲れたし、少し休む」

「うむ」

疲れたので休むと言って、ゴルダはその場を離れた。
その場に残されたアルカトラスと詩姫とセレノアは少し雑談をした後に

「ちょっと連れてくわね」

とセレノアが詩姫を連れ出す。
特に何をするという訳でもないが、ただ単に詩姫が喜ぶからだろう。
無論、詩姫はずっとセレノアから離れようとはしなかった。

「どこか、いきますの?」

詩姫はセレノアに聞く

「あなたにあてがあるならね」

セレノアはあてがあるならばと答えた。
羽が抜けかねないほどにぎゅうと抱き付きながら詩姫は

「ないですの」

とストレートに答える。
その答えにセレノアは面食らう。あてがあるならと言って帰ってきた答えが「ない」の一言だったからだ。
そしてどうするかを考えていると、サフィが現れて

「あら、丁度良かった。シアの所まで乗せて言ってくれない?」

シアの所まで乗せて行ってもらえないかと言いだす。
セレノアは少し考えて頷いてサフィを背に乗せた。詩姫もそれに気付いて背へ乗る。

「あのりゅううさまのところ、いくのですの?」

「アルカトラスからちょっと用事頼まれてね、自分で行けばいいのに」

「そうですの」

城から塔までは、10分ほどで行けた。
サフィ達が行くと、そこではゴルダがシアと何やらチェスをしている。

「あら、休んでるんじゃなかったのね。シア、アルカトラスから伝言よ」

セレノアの背から降りたサフィがゴルダに言う。
一方のゴルダはチェスに集中していて、聞く耳を貸さなかったが。
シアは伝言と聞いて、何かを悟ったのか、いきなりチェス盤を片付けると

「下へ降りるぞ、引き分けだ」

ゴルダにそう言い放ってそのまま飛び立つ。
流石に3人もセレノアは乗せ切れないと思ったゴルダは

「先行ってろ、俺はのんびり降りて来るさ」

と言って煙草のようなものに火を付けた。
セレノアはあっそうと言う顔をして2人を乗せてその場を後にする。
セレノアに乗っている間、詩姫はずっともふもふしていた。

「さてと、私は仕事に戻るわ」

そして、城まで戻って来るとサフィは仕事があるからとメイド執務室へ戻って行った。
未だにもふもふしている詩姫をすっぽかしてセレノアが振り向くと、シアがどっしり構えていたので

「早いのね」

と声をかけた。
シアはそうか?という顔をして

「結構飛ばしたからな」

と言い返す。
シアはいまだにセレノアの背でもふもふしている詩姫に

「本当に好きだな」

といつもの台詞を投げかける。
詩姫はそれにニコニコとして同じように

「もふもふはきもちいですもの」

と答えた。
セレノアが何も言わないのは、いつものやり取りだからだろう。
その日はその後も詩姫がセレノアから離れずに終わった。
そして祭の日、今日は前夜祭で夜からだが。異界から来た者達でごった返している。
詩姫は無論、部屋から一歩も出ようとはせずに読書に没頭していた。
アルカトラスは来た者達と面会しなければならないので、部屋には居ない。

「ひまですの」

詩集を読みながら詩姫は呟く、どうにも人が多い場所へは行きたくないので部屋に籠っているがやはり暇なものは暇だ。
サフィは間違いなく多忙、セレノアはどこに居るか分からない。シアもアルカトラスと同じく来た者達と面会しているので居ない。

「ちょっとへやからでてみますわ」

と言って詩姫は部屋から出る。
城内も人はそれなりに多かったが、外よりは少なかった。
1人でとぼとぼと歩いていると、ちょっと様子のおかしいセレノアと遭遇する。

「ああら、詩姫じゃないの…」

どうやらこんな時間から酔っているらしく、喋り方がおかしい。
詩姫もそれに多少気付いたのか

「よってますの?」

と聞いてみる。
セレノアは微妙に首を横へ振って

「全然、そんなに飲んでないわぁ」

といかにも酔っ払いらしい嘘をついた。

「うそはだめですの」

詩姫はそれを見抜いて鋭く言い放つ。
そう言われたセレノアは目をパチパチさせて

「まあいいわ、どうせ暇なんでしょ?」

話を逸らそうとしたが、詩姫にむっとした顔で

「はなし、そらさないでほしいですの」

と言われ、セレノアはしょんぼりした顔になる。
詩姫はそれを見て

「はなしをそらすのはよくないと、りゅうさまいってましたの。ひとのはなしはちゃんとさいごまできくべきですの」

と容赦せずに言い放つ。
何分ぐらい経っただろうか、少しセレノアの酒が抜けたのか

「はあ、もういいわ。それより何か食べない?サフィがあれこれ持ってて来てくれたんだけど」

ため息をついて、詩姫に何か食べないかと聞く。
そう聞かれて、詩姫は

「あまりおなかへってないですの」

とぎごちない口調で答える。

「まあ、菓子程度でもつまめばいいんじゃない?」

あまり腹が減っていないという詩姫にセレノアは菓子だけでもどうかと聞く。
それに対しても詩姫は曖昧な返事を返した。

「まあ、とりあえず来れば?暇なんでしょ?」

「ひまですわ」

「じゃあ来なさいよ」

セレノアはそう言い放ち、部屋へと戻って行く。
詩姫はせれのあをもふもふしたいので後から付いていく。
部屋には明らかにサフィが持って来たとしか思えないほどの料理が並べられていて、セレノアと似たような竜が沢山いる。

「ああ、私の同族よ。アルカトラスから聞いてるでしょ、ここで保護してるって」

「きいてましたわ、あったことはないですけど」

詩姫はアルカトラスから風癒竜について教えては貰っていたが、セレノア以外の風癒竜とは会ったことは無かった。
最も、詩姫にとってはこの上ない至福の空間だったのかもしれないが。

「ここに居たか、ようやく暇が出来たから戻って来たぞ」

他の風癒竜にわしゃわしゃと触られたりしていると、ようやく時間に余裕が出来たアルカトラスがやって来る。
アルカトラスがやって来ても、詩姫はほかの風癒竜達に触られていた。
しかしアルカトラスを見るや、全員一礼して下がる。
何故風癒竜達がこうするのかは定かではないが、保護してもらっている身として敬意を払っているのだろう。

「りゅうさま、おかえりですの」

「少し外へ行こうか?」

アルカトラスに言われて、詩姫はゆっくりと頷いてアルカトラスの背へ乗る。
そして詩姫を連れてやって来たのは、国を一望できる城の一番高い所。
うっすら雪が積もって真っ白なその場所でアルカトラスも下手すれば同化しかねない。

「ぜっけいですの」

「あまりここへは来ないからな」

そんな会話をしていると、日の入りの時間になった上雪が降って来た。
アルカトラスの体毛に積もって行くが、両者とも気にしない。

「いいクリスマスイヴですの」

「うむ、ホワイトクリスマスイヴだな」

ほどよく積もった辺りでアルカトラスはまた下へと降りる。
夜になって、昼間より大分人が多くなぅていた。

「いい年過ごせそうですわ」

「我が居る限りは毎年そうなるさ」

アルカトラスの一言に、詩姫はくすりと笑った。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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