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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

孤独は、他者不信の者のために 上

孤独は人に限らず、多種の者の心を歪めてしまう。
孤独とは、他の者との関係を一切合財絶ち。全てを己自身で判断して行動し、己で何かあった時に代償を償うと言うことをする。
無論、孤独…すなわち身勝手に己ですべてを判断したりすると言う自己中心的な考えは社会では通用しない。
時に、そのような自己中心的な考えを持つ者は社会から離反して影に生きることもある。
これは、そんな社会から離反して一人で暮らす。ある一人の者の話。

聖竜により創造され、聖竜の手で管理されている世界。ドランザニア。
竜などの幻獣と言った生物から、亜人に人間と言った様々な種族がそれぞれ国を持ち。生活している。
その中で、ドランザニアと地竜国アストライズとの国境付近に位置する誰も名を知らない山。
この山の頂上付近は、年間の平均の湿度が70パーセント以上と、とてつもなく高く。一年中晴れない霧に覆われている。
そんな、人が到底住めるような場所ではないこの場所に、一人の女が人一人がかろうじて不便なく住める広さの小屋をドランザニア側に構えて住んでいた。
その女の容姿は、紫の髪と青い目で一般的な女性の標準体型をしている。その名はシスイ=アルディリス。
元はドランザニアのある竜族の村出身だが、まだ幼い時に両親共にとある理由で村八分され。追い出された村の刺客に両親を殺害された。
そして、ある空白の時間を得てこの山で生活している。

「今日もいい霧だ」

早朝、濃い霧の中に射し込む日の出の光を受けてシスイは起床して小屋から出てきた。
湿気が高いにもかかわらず、さらっとしている髪をいじりつつ。シスイはその場で軽く体操をする。

「さてと」

軽い体操を終えると、シスイは突然謎の構えをした。
まるで、拳法でも使うかのようなその構えははたから見れば警戒されることは間違いないだろう。
だが、シスイのこの構えは拳法を使う構えではない。その理由はこの直後に分かる。

「…はっ!」

両手を平行に体の前で構え、ゆっくりと体の方へ引くシスイ。
体の方へ手を引いた直後、すぐさまシスイは引いた手を体の方へ突き出す。
すると、どういう訳かシスイの住む小屋の周りの霧だけが綺麗に晴れてまともに日差しが射し込む。
これはシスイが水の属性の力を持っているからこそ使える技。
だが、シスイの本当の属性は水ではなく闇。それはなぜなのか、理由はその生い立ちにある。


今から百五十年ほど前、前述通りシスイは闇属性の竜族だけが暮らす厳しい仕来りや掟を持つ村に住む闇竜の両親の間に産まれた。
生まれた当初、シスイを見た村の占い師は両親にこう告げたと言う。

「この子供はこの村に生まれてはならん存在だ、闇の力を有していない。無の属性の力を有している、この村の危険因子となり得るから始末しろ」

だが、両親は占い師の忠告に耳を貸さず。シスイを匿い、占い師以外の村の誰にも悟られないように注意しながら育てた。
しかしそれも長くは続かずじまい。
シスイが人間換算で十歳を迎えたある日、占い師が村の長にシスイの事を密告。
それを聞いた村の長は怒り、シスイとその両親を村八分して村に居られないように仕向けた。
シスイの両親は、このままではまともに育てることができないとシスイと共に村を去り。新たな場所での生活を始める。
しかし、危険因子の芽は摘まなければならないと長は刺客を送り。シスイとその両親を殺害しようとした。
刺客は両親を殺害することには成功したが、両親を殺されて怒り狂ったシスイに撃退されシスイの殺害には失敗。
両親を失ったシスイは、両親の遺体と僅かな家具と共にこの山へ登り、この山へたどり着いた。
その後シスイは、その山の頂上付近に自分が住む小屋と、その傍に両親の墓を作って埋葬した。

「もう誰も信用しない、信用できるのは自分だけ。他は皆敵だ」

両親を埋葬し終え、未熟な魔法を使って墓石を作りながらシスイはそう心に決めたという。
この頃からシスイは他者との関係を一切合切絶ち、一人孤独に人の姿をして小屋で生活していた。
食べるものと言えば、かろうじて自生している山草を採ったり山鹿の類などの生物を狩って食料にして生き延びた。
食料が無い時には、物心付いたころからなぜか使えた水属性の魔法で霧を集めて水としてそれだけを飲んで生活したことも。

ここで言っておくが、シスイは完全に闇竜の血を引いて生まれてこなかったわけではない。
後天覚醒症---それは生まれた当初は本ら両親から引いているべき血の力が覚醒しておらず。無属性と判断される病気。
竜を専門に診る竜医でも、あまり例を知らないと言う珍しいこの病気はシスイの場合に様に厄介事を引き起こす原因にもなる。
治療法はなく、無理に覚醒させようとすると体に何らかの障害や寿命の減少。最悪の場合死に至る場合もある。
なので、本来引くべき血が覚醒するまで根気よく待つしかないのだ。
だが、知名度が低いこの病気は属性差別や竜族差別にもつながる原因にもなるので一刻も早い知名度の向上が叫ばれている。

ここで、話はシスイへ戻る。
両親の死後から十数年、すっかり大人になったシスイにある転機が訪れた。
それは、いつものように自分の小屋の周りの霧払いをして朝食の支度をしていた時の事。

「…?」

その時、シスイが感じたのはいつもの狩りの対象とは違う何かの気配。
どこに居るかは分からないが、僅かながら感じる霧とは違う大きな水の塊の存在。

「そこ!」

その水の塊の存在がした方に蹴りを入れるシスイ、だがその足は空しく空気を貫く。
そこに居ると言うことは分かるのに、攻撃が通用しない。
どういうことだと疑問に思っていると、その存在は姿を現す。
薄緑色の鱗の無い体で竜人体系のかなり尻尾が長い西洋竜、そして目は青くただの竜ではない雰囲気を出している。
どこかの国の長でもしているのだろうか、その雰囲気にシスイは少々驚く。

「ふむ、なかなかいい身のこなしだ。だが…敵意のない者にいきなり攻撃とはいただけないものだ」

尻尾の長い竜は、警戒を解かないシスイを見て少々呆れたように言う。
それもそのはず、シスイは自分以外は信用しないと決めてこの数十年を過ごしてきた。
もはや他者を信用すると言うことを忘れたその思考では、警戒を解くことは無いだろう。

「何者だ?」

シスイは尻尾の長い竜に問う。
尻尾の長い竜は、さらに呆れた顔をして

「自ら名乗るのが礼儀ではないのかな?…だが、その様子だとだいぶ長い間外界との関わりを絶っているようにも見える」

と言うと少し沈黙した後に

「私はエルフィサリド、エルフィサリド=スリュムヴォルド。水竜王国スリュムヴォルド現女王…と言ってもやはり分からないか」

エルフィサリドと自らの名を名乗った。
シスイはその名前を聞いて、どこか聞き覚えがあるような顔をした後に

「シスイ、シスイ=アルディリスよ。用が無ければ帰って」

自らの名も名乗り、エルフィサリドに帰るように言う。
エルフィサリドはふむと頷き、シスイに背を向けて

「また来る、お前が私に少しでも心を開くまで」

と言って霧のようにその場から消えた。
エルフィサリドが帰った後、シスイは小屋に引き籠ってずっと考え事をしていた。
何のためにエルフィサリドはこんなところへ来たのか、ここは誰もが行くのをためらう場所。
そして何より、エルフィサリドはなぜ自分かここに住んでいることが分かっていたのだろうか。
信用はせずとも、今度来た時に問いただしてみよう。
シスイはそう心に決めた。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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