氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

出会い-ルァクルと

「誰この子は?」

その日の朝、ゴルダはミリシェンスのその一言で目を覚ます。
どうにも昨夜の記憶が思い出せないあたり、久々に相当な量を飲んできたのだろう。
居間のテーブルの上には、携帯と財布が乱雑に放り投げられており酔っていたことは一目瞭然。

しかし、ミリシェンスの一言がどうにも引っかかる。
自分の頭を軽く掌底で叩きながらゴルダが起き上がると、
そこには狐に似た幻獣族がゴルダをじっと見つめていた。

「知らん、酔っていた時に何をしていたのか思い出せん」

ゴルダは酔っていた時に何をしたのかが思い出せないとはいいつつも、
その幻獣族の名前が「ルァクル」という名であるのはしっかり覚えていた。
脚がかなり発達しており、そこら辺の木であれば忍者のように飛び乗れるだろう。
それ以外に目を引くのは、背に生えたおそらく羽のような何かと、首に下げたペンダント。

「頭が覚醒すれば何か思い出せるでしょうね、はい水」

ミリシェンスから水を受け取り、一気に飲み干すゴルダ。
まだ酔いは覚めていないが、昨夜自分が何をしていたのかを思い出してきた。
それは昨夜依頼を終え、依頼主と飲んでいた時の事---。

「乾杯」

「うむ、乾杯」

外見は人だが、実は異界の魔族だという依頼者からエマセレスとミスリルの買い付け手伝いの依頼を終え、
行きつけのバーでスピリタスのショットグラスで乾杯する2人。
怪しい依頼でもなく、普通に買い付けて依頼者の出身世界へ送るだけで50万ゴールド近い報酬。
こういう羽振りのいい依頼者はごくまれに存在し、
ちょっとしたボディーガードの依頼だけで過去に300万ゴールド近い報酬をもらったことがゴルダにはある。

「やはりスピリタスは効く」

「ほとんどアルコールだがな」

スピリタスを引っ掛けて上機嫌な依頼主と、スピリタスの次は獺祭の磨き二割三分を飲むゴルダ。
2人は次から次へと酒を頼んでいき、滅多に酔わないゴルダも程よく酒が回ってきた辺りで依頼者がこんな話を持ち掛けた。

「あんた、幻想獣医師とか言ってたよな。ちょいと見せたいものがあるんだが、興味はあるか?」

本格的に酔っているわけでもなく、ほろ酔い状態のゴルダはふむと呟いて肯定する。
依頼者はそうこなくてはと言って2人分の勘定を押し付けてゴルダと共に店を出た。

「見せたいもんってのはこれだ」

依頼者にバーの裏へ連れてこられたゴルダは、目の前に狐に似た幻獣族を差し出される。
大きさはレルヴィンより少し小さい程度で、背に羽を生やし、ペンダントを下げている。

「こっちの世界で言う、幻獣族の一種だな」

ゴルダはその狐に似た幻獣族の目線の高さまでしゃがみながら呟く。
すると、狐に似た幻獣族はゴルダの匂いをスンスンと嗅ぐと、その周りを回りだすという仕草を見せた。
おそらく、ゴルダに強い興味を示しているのだろう。

「ふぅむ。ルァクルが他人に秒速で懐くとはあんたやっぱ素質があるな」

依頼者の一言にゴルダは、そうなのかと返し狐に似た幻獣族改めルァクルに自分の手の匂いを嗅がせてから頭をなでる。
それにルァクルは一切嫌がらず、むしろゴルダの手に自ら頭を擦り付けてきた。
依頼者がゴルダにルァクルを会わせた理由は、ほぼ間違いなく里親になってほしいということなのだろう。

「里親になれという追加依頼か?ならさらにドネート(報酬)をもらうぞ。最低20万ゴールドだ」

里親を探せ、一時的に預かってほしいなどの依頼は珍しくはないのだが、里親になれという依頼は初めてである。
ゴルダは里親になれという依頼であれば最低20万ゴールドからだと交渉を持ち掛けた。
依頼者は渋い顔をしながらも、どこからか1万ゴールド紙幣を50枚も取り出して

「向こうへ戻ったら値段ピンパネして売らねぇと大赤字だ。報酬を受け取れ、これで足りるだろ?」

これで足りるだろとゴルダに押し付け、夜の闇へと消えていった。
残されたゴルダは、ルァクルに

「俺はゴルダだ、今後とも見知り置きを」

自らの名を名乗り、帰路へと着いたのだった。

それから30分ほどして、ゴルダは酒の抜けぬまま家へと帰宅。
家の明かりはすでに消えており、ミリシェンス達はもう寝いているようだ。
家の中へ入り、明かりをつけて台所へ行き水を飲もうとしたところルァクルが常について回ることをゴルダは知る。
だが、ルァクルは決してゴルダが歩く邪魔にならないように配慮をしてついて回っていることから、
主人と認めたものにはどうやらとことん尽くす?性格のようだ。

「お前はどうやら俺の言っていることを理解はしているらしいが、お前の話す言語が分からん」

冷蔵庫のミネラルウォーターをぐいと飲み、じっとゴルダを見つめているルァクルにゴルダはそんなことを呟く。
するとルァクルは急に口を開いて

「これでお分かりかと思うが、いかがだろうか?」

聞いた感じではメインは幻獣語、サブ言語としてエルフ語とアストライズ方言の
ドランザニア語が混じったような言語をルアクルは話した。
メインは幻獣語なので、幻獣語が理解できれば十二分な意志疎通は可能だろう。

「とりあえず、俺は寝る。お前は好きなように寝てくれ」

水を飲み終えたゴルダは居間のテーブルに携帯と財布を放り投げ、ソファへ横になってそのまま寝てしまう。
一方ルァクルはソファの傍で丸まって寝ることにした。
これが昨夜の出来事である。

「依頼で、里親になった。それでいいのね?」

ようやく頭が覚醒し、昨夜のことを思い出したゴルダは経緯をミリシェンスに話す。
一方ルァクルは何を食べるか分からないので、ミリシェンスが適当に用意した朝食を何の文句も言わず食べていた。

「それ大金掴まされて、里親にさせられたと言ったほうが早いんじゃないの?」

ミリシェンスの言葉に、ゴルダはあながち間違いでもないと返しながらコーヒーを飲む。
大飯食らいなレルヴィンが居ても家計に全くダメージが入らない程度には収入が潤っているゴルダ家の家計だが、
あまり同居人が増えすぎるのも考えものである。

「なるようになるだろう」

ゴルダのその一言に、ミリシェンスはわずかに呆れるのだった。

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小説(一次) |

他者の鍛錬より見出されるもの

「はい」

「どうも」

フィルスからルーエとアイレの血液検査の結果を受け取り、
それぞれの数値を眺めていたゴルダは突如アイレの検査結果に目を細めた。
目線の先にあったのは、
エーテルへの耐性を示す数値とこの世界の幻獣族でしか検出できないはずのエーテル-マナ変換能力の変換比率。

「ルーエの変換比率がN/Dに対して、なぜアイレが4:6なんだ?」

何かの間違いかと思ったが、計測機器が間違えるはずがない。
ゴルダはそれ以上気にせず、
その他の数値が正常値であることを確認してから、問題なしのサインをする。
そもそも、この血液検査はルーエとアイレの健康診断をやれとシアから命じられたからであるが。

「ああそれ、もう外して大丈夫だよ」

微妙な雰囲気で互いに少し距離を置いて座っているルーエとアイレに、
フィルスは血液検査後にゴルダが巻いた包帯を外して問題ないと言う。
幻獣族の血は劣化すると有害なため、
取り扱いには人間などの血液以上の注意が必要だが、
魔力が高いので採血程度の出血は数分で止血されて傷も元通り塞がる。
なお、これは魔力による代謝の高さからこれは来ている。

「なんでまたシア様は健康診断なんかを受けさせたんだろう?」

ぽかんしているアイレに対し、ルーエは

「ボクなんか今日の講義全部サボっちゃったよ、学年度の始めの講義は重要なのに」

今日の講義を全て欠席せざるを得なかったことを愚痴っていた。
ルーエは一度フィルスに幻獣語を教えてもらって以来、週一で幻獣語を習いに通っている。
おかげで片言ながら人並み幻獣語を理解できるようにはなったが、
今度は詠唱でコケたので現在は幻獣語の詠唱を習っているとか。

一方のアイレは『誰かを守るが為の強さ』を持つべくシアの元で鍛錬をしているものの、
その鍛錬の一つの、剣術においてシアが剣の切っ先をアイレの眼前で寸止めし、怖気ついてろくすっぽ身に入っていない。
一応ゴルダからも苦言を言ったのだが、
シアは防御を教えるためだと言って聞かなかった。
その一方でシアは、
ルーナも本人からの申し出とアルガティアからの頼みでこちらも鍛錬をしている。
ルーナの方は遠距離攻撃の弓がメインなため、
シアが教えているのはどう自分の世界へ没頭しつつ、周囲に注意しながら標的を狙うか。
ルーナの潜在魔力に着目し、魔法の矢の具現化方法とその射り方を中心に鍛錬。

それ以外には基礎鍛錬として、瞑想による精神統一や弓そのものの演習などを行っている。

「ルーエ、アイレ、来い。結果がまとまった」

ゴルダに呼ばれて、ルーエとアイレはゴルダの居る部屋の中へ。
呼ばれて入ったのは、セイグリッド城の医務室。
いつもは暇なサフィか城の専属医が居るのだが、今日は2人とも居ない。

「結果としては2人共特に引っかかるところはないが、まずアイレは恐怖性のストレスの影響が出ている。血中汚染魔力濃度が最大基準値ギリギリだ。これは原因に思い当たりあるから俺から言っておく」

手始めにゴルダはアイレに健康診断の結果を告げ、恐怖性ストレスの影響が出ていることを指摘。
アイレ少々ギクリとした様子だったが、
ゴルダの「俺から言っておく」の一言でホッとした。

「ルーエは徹夜、あるいは寝不足が続いていないか?血液検査の結果にもろに出ていたぞ。基準値内だったから問題なしと判断はしたが」

ルーエはゴルダから徹夜と寝不足が続いていると指摘されて

「ふみゅう」

とだけ呟く。
これはルーエが図星だった時によく陥るパターンだ。
ゴルダはそれに対しては

「ともかくしっかり寝ろ、寝不足と徹夜は後から来て、幻獣族でも寝不足が慢性化すると急病で突然死の例もある。それに絡んで縁起は悪いが、お前の検死をするのは真っ平御免だ」

しっかり寝ろとだけ告げ、2人にもういいぞと言って医務室から出て行かせる。
2人が出て行った後、ゴルダは物は試しとルーエにアイレ、ルーナの鍛錬の一部を見せてみようかと考えた。
それに特に理由などはなく、単なる思いつき。

「丁度今日は俺もアイレとルーナの鍛錬に付き合う。ちと見せてみるか」

ゴルダはルーエとアイレの健康診断の結果をファイリングして片付け、医務室を出た。

その頃、ルーエとアイレはシアに連れられて城の中庭へ。
セイグリッド城の中庭はとてつもなく広く、
その一角が農園になっていたり城の警備兵達の訓練場などが設けられている。

「やってる?」

その訓練場で1人魔法の矢を射るルーナに声をかけるシア。
それにルーナは射るのを一旦やめてシア、ルーエ、アイレの方へ向き直ると

「もちろんです、安定して具現化できるようになってきました」

鍛錬をちゃんとやっているかという問いに対して、肯定の返事を返す。

「いわゆるエネルギーを具現化させて射る攻撃手段だね。一定の魔力を継続的に放出して矢を形作って射る。でも射った後も標的に命中するまで定格魔力を維持しないと途中で雲散霧消したり威力が減衰してしまう。そこが実物の矢を使うより難しいところだね」

ルーエの解説にアイレはちんぷんかんぷんだったのか、
頭上に魔力で?を具現化させていたのに対し、シアはそうねと頷いて理解したことを示す。

「もうここに居たのか。シア、アイレは俺に任せてルーナを頼む。ルーエは…アイレとルーナがどういうことをしているのかを見ているといい」

その直後、遅れてゴルダがやって来てシアにアイレを自分に任せてルーナを見るように言い、
ルーエには2人の鍛錬を見ているよう伝えてアイレとの鍛錬へ。

「かまいたちを展開するんだ」

ゴルダはハガネマツから削り出された警備兵の訓練用の木剣を構え、
アイレにかまいたちを展開するよう指示。
ちなみにこのハガネマツの木剣、やろうと思えば人間の頭を一撃で粉々にして殺害することすら可能な硬さを持っている。
その殺傷力抜群の硬さの裏返しで、
真剣とやりあってもやたらめったに折れないので重宝されているという。

「ふむ、今日は風の剣か」

アイレがかまいたちではなく、風の剣を出したことにゴルダは一瞬興味を示したがすぐに木剣を構え直す。

「魔力を具現化させた剣に、実体のある物理の剣で挑むのは不利だと思うんだけどなぁ」

シアと共に魔力の矢を的へ射っているルーナを左目で見ながら、ルーエは右目でゴルダとアイレを見る。
左右の目でそれぞれ違う情報を視認し、同時に処理する魔法を留学してから習得したルーエにはこれくらい朝飯前なのだ。

「若干威力減衰が見られるわね」

10回ほど射ったところで、シアはアイレの魔法の矢に微妙な威力減衰が見受けられたので、
それをルーナに指摘する。

「どの辺りでですか?」

どの辺りで減衰しているのかとルーナに聞かれ、シアは即答で次のように返す。

「的に当たる少し手間、あなた的に慈悲を感じてないかしら?」

「やはりそうですか…」

的にに対して慈悲を感じている。
シアの指摘に、傍観していたルーエはどういうことかと思った。
しかし、答えは自ずと浮かんでくる。
ルーナが優しさを捨てきれていないのが原因なのだ。

「確実に仕留めるという意思がなければ、攻撃魔法は術者のそういった感情に反応して威力を下げる。だったかな?逆に殺意や憎しみ、怒りなどの負の感情が強ければ攻撃魔法は威力を増していく。逆に回復や補助魔法は正の感情が強いほど威力を増す」

術者の感情と魔法の威力の関係の講義で得た知識を、ルーエは頭の中で復習しつつアイレとゴルダの方を見やる。

「そんなものか?」

「うぅ…」

アイレの風の剣を、右斜め下からの切り上げで打ち消したゴルダは淡々とアイレに問う。
これでも昔のように、切りつけるとかまいたちや風の剣を解除し、
逃げ出すなどといったことは少なくなったが今ひとつアイレは踏み込めていない。
誰かを守るが為の強さとは、誰かを守るために他の誰かを傷付ける、あるいは殺める覚悟も必須となる。

「慈悲だけでは誰も守れないというのは、俺もシアも何度も教えている」

木剣を下ろし、アイレにそう言い放ったゴルダはそれ以上何も言わずに沈黙。

「師匠も言っていた。自分だけではなく、誰かを守る為には誰かを殺す覚悟を持たなければならないと。でもそれは簡単なことではないと師匠もボクも理解している。誰かの命を奪うというのは、生けるもの全てが負う原罪。ふみゅう」

呆然と立ち尽くすアイレと、小休止だと言わんばかりに沈黙を続けるゴルダを見て、
ルーエはそんなことを考えた。

「アイレ、俺を殺す気で来い。覚悟を決めろ、誰かを守る強さとはそういう覚悟も必要だ」

「分かった。じゃあ…本気でいかせてもらいます」

ゴルダの力強い一言に押されたのか、アイレはスイッチが入ったらしく先ほどまでの雰囲気とは打って変わり、
核石を自身の魔力で輝かせ、
さらにその目に覚悟の光を宿して風の双剣を生み出す。

「何がフラグになったんだろう?アイレの雰囲気が180度変わった。多分アイレは本気を出すまでに時間がかかるのかも?」

本気を出したアイレを見て、ルーエはその雰囲気の差に驚く。
若干その雰囲気の中にシエロを連想し、恐怖が芽生えたが。

「まず深呼吸、心を落ち着かせて。そしてあなたが標的としているのは的ではない。あなた命を狙うもの。自衛のために相手を殺める覚悟を持つ」

その一方、ルーナとシアは深呼吸のちに的を敵と見なし、
確実に急所を狙って殺めなければならないというイメージを持って矢を射る。
迷いを絶った上での鍛錬であれば有効だろうが、はたして吉と出るか凶と出るか。

「どっちも本気モードかぁ」

高みの見物なルーエは、2人の本気状態を興味深そうに見つめる。

そして、ルーナが本気状態になったようだ。
いつものような雰囲気は消え去り、目は獲物を狙う狩人のそれと化し、感じる魔力も先ほどとは倍近く違う。

「よし来い」

「仕留めなさい」

シアとゴルダ、2人が同時にそう言った瞬間。
ルーナとアイレが一斉に矢を射り、ゴルダへと切りかかる。

0コンマ数秒後。
ルーエは左から矢が何かに刺さる音ではあるが、非常に大きな音。
右から木が砕け散るような音を同時に聞いた。

注意深くルーエが左右の目でルーナとアイレの様子を見ると、
ルーナは弓を下ろしていつもの魔力と雰囲気へ戻り、
アイレは本気状態を維持したまま、
砕け散った木剣を防御態勢のまま構え続けるゴルダからバックステップで離れた。

「的用の案山子の頭が消えてる?」

ルーエが的用の案山子の方を両目で見やると、頭の部分だけがきれいさっぱり無くなっており、
その頭は地面にボロボロになって転がっていた。

「次はスイッチが入るまでの時間短縮だな」

未だ本気状態のアイレに、ゴルダはそう呟く。

そしてこの鍛錬を見てルーエが思ったのは

「限度はあれど、本気状態になればできることは増える」

というものであった。

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小説(交流) |

誰かを利用するのに理由はいらない

突如として鳴った携帯の着信音で、昼寝をしていたゴルダは即座に目を覚まして電話に出る。

「シアが居ないんだけど、そっちに来てない?」

電話の主はサフィで、昼前からシアの姿が見えないのでそっちに来ていないかとのことだった。
それに対してゴルダは

「来てない。シアのことだから帰ってこないことはないだろう」

来てないと否定した上で、帰ってこないわけはないと言って電話を切る。
それを不思議そうに見ていたルァクルにゴルダは

「気にするな、大したことではない」

と言って、家の中へ。
家の中ではフウが相変わらずゲームをしていて、ユウはへフィアと裁縫。
そしてミリシェンスなぜか同時に来た瑠璃夢とセフィールの相手をしていた。

「どういう反応を示すか分からん組み合わせだな」

2人に聞こえるか聞こえないか声で呟くとセフィールが振り返り

「上がらせてもらっている」

素っ気なく上がらせてもらっていると話す。
一方の瑠璃夢はというと、セフィールのことは眼中にないらしくミリシェンスの淹れた紅茶を黙々と飲んでいる。

単に読めない瑠璃夢と、他者を信用せず、利用するだけ利用しようとする上に読めないセフィール。
この2人が居ることにより、どんな反応が起きるのかは全くの未知数。
今のところはセフィールは瑠璃夢を利用する気がなく、むしろゴルダを利用しようという雰囲気が伺える。

「とりあえず、2人ともゆっくりしていけ。ただし、ユウ達に手は出すな。いいな?」


瑠璃夢とセフィールにユウ達に手を出すなと釘を刺した上で、ゴルダはミリシェンスの横を通り過ぎて冷蔵庫へ。
ルァクルも付いて来たが、ゴルダが足をひっかけて転ばないよう注意しながら付いて回っている。

「変な生き物だ、飼い始めたのは最近からか?」

セフィールにルァクルのことを聞かれ、ゴルダは肯定の頷きだけを返してそれ以上は語らない。
机の上で欠伸をするマティルーネの頭を撫でつつ、セフィールはどうしてこんなに誰かを信用できるのかと内心首をかしげた。
誰かに期待されるだけされて、用済みとなった瞬間掌を返したかのように捨てられたセフィールにとって、自分以外の第三者は信用するのではなく、利用するだけ利用して自分の都合よく捨てるもの。
瑠璃夢は見る限りでは人を利用する側面が見受けられるが、面白いからという理由で他者を信用する側面も見受けられる。

「いい味じゃの」

「適切な条件で淹れてこそよ」

この他愛もない会話から、セフィールは瑠璃夢と自分が決定的に違う点があることを確信した。

---上っ面だけの信用だけではなく、深いところまで信用した上で利用できるところは利用する。---

「馬鹿馬鹿しい」

セフィールはぼそりとそう吐き捨てて、椅子から立ち上がると缶入り炭酸飲料を飲んでいるゴルダに

「私に付き合うのだ」

とだけ伝えて外へ出る。
ゴルダはセフィールが瑠璃夢とミリシェンスの雰囲気に嫌気がさしたのだろうと判断しつつも

「フウ、ちょっと来い」

フウを呼び、その横に座っていたレルヴィンとルァクルと共に外へと出る。

もはや春の陽気は過ぎ去り、湿気った梅雨と初夏の訪れが見え始めた大気の状態。
暑くもあり、ジメジメもしている不快指数が急上昇しそうな外気の中、ゴルダは何も言わずにセフィールの後を追う。

「待ってよー」

ゴルダとセフィールの歩く速さが速いので、フウはレルヴィンの背に乗せてもらってルァクルと共に後を追う。

やがて一行はゴルダの家の裏手にある森の中へ入って来た。
ここはたまに鹿などが出るが、野犬などの危険な動物はあまり見受けられない。
フウもたまにゴルダに連れられてこの森に入るのだが、この森どこか来るもの拒まず雰囲気を醸し出しているとフウは感じていた。

やがて、セフィールが歩みを止め、ゴルダも同様に立ち止まる。
遅れてレルヴィンとルァクルも止まるが、ルァクルが

「一悶着ありそうだ」

と重い口を開いて呟いたが、フウには何のことだかさっぱり。
その次の瞬間、セフィールがこんな問いをゴルダとフウに投げかけた。

「お主らはなぜ誰かを『信用』できる?」

その一方、家の方では人の姿のシアがやって来て瑠璃夢に強い興味を抱いていた。

「なんじゃ、お主は人にも化けれるのか」

「最近からよ、人の姿を取れるようになったのは」

人の姿でも感じる力の差に若干身構えながらも、瑠璃夢は淡々と話を続ける。
その後、シアは瑠璃夢目をじっと見たまま沈黙していたが、唐突に

「あなた、面白がって誰かを信用する傾向にあるのね。誰かを利用するためならそれもありかしら」

瑠璃夢が面白がって人を信用することと、それが誰かを利己のために利用するためにやっていることを指摘。
しかし、瑠璃夢は妙な笑いをするだけで、それが図星なのかも不明。

「認めはするのね」

相変わらず裁縫をしているユウとへフィアを尻目に、シアは紅茶を飲む。
瑠璃夢にはシアが何を探ろうとしているのかが分からないので、ミリシェンスに目線で聞いてみるも

「あなたがどのように他者を利用するのかを探ろうとしていること以外は分からない」

と返されてしまう。
これに瑠璃夢はシアにこう言った

「誰かを利用するのに、理由はいらないじゃろう」

それを聞いたシアはふふっと笑い

「その答えが聞きたかったのよ。さあ行きましょ、今から面白いものを見に」

瑠璃夢の手を取り、マティルーネを連れて外へ出て行く。

その頃、森の中では座禅状態から浮遊しているゴルダと、レルヴィンの背に乗ったままルァクルと共に守りの体勢に入られているフウ。
そして脇腹に片手を当てた状態で立ち尽くすセフィールが、かれこれ30分近く沈黙を貫いている。

「なんで急に2人とも黙ったんだろう?」

喋ってはいけないような張り詰めた空気が漂っていたので、フウは心の中でそう呟く。
ルァクルの言っていた一悶着が、これで終わりとは到底思えない。

やがて、セフィールの方がゴルダ達の方を前かがみになるように見つめながら沈黙を破る。

「改めて問おうかの、なぜお主らは誰かを『信用』できる?」

そのセフィールの威圧的雰囲気に、若干怖気ついてレルヴィンの背の毛を強く掴むフウ。
一方のゴルダは座禅からの浮遊状態で目を開き、一つの解を返す。

「世というのは信用で成り立つ。誰かを信用し、信用されなければ生きていくことは非常に困難だ」

セフィールはその解を聞き、切り捨てるかのように

「よくもそんな戯言を言えたものよ。最終的に信用できるのは自身のみ。自分以外の誰かなど、利用するだけして都合のいい時に切り捨てればよい」

結局信用できるのは自分自身だけなのだから、利用するだけして捨てればいいと言い返す。
ゴルダはその返しに二、三頷いて座禅と浮遊を解除するとセフィールの目の前まで近寄り、目線の高さを合わせて

「今ので、お前が瑠璃夢と決定的に違う点が垣間見えた。瑠璃夢が面白いから誰かを根まで信用して利用するのに対し、お前は上っ面でしか信用せず、上っ面だけで利用して捨てるというのがな」

セフィールが瑠璃夢と決定的に違う点を指摘し、数歩下がる。
それが図星だったのだろうか、セフィールは今までにないほどの形相でゴルダ達を睨み付けた。

「怖っ」

それを高みの見物で傍観していたフウは、思わず声を出してセフィールから視線を逸らす。

「ここまでコケにされたのはいつ以来だろうか、まあよい」

謎の構えをとったセフィールに、ゴルダはめんどくさそうに

「そうムキになるな」

一応なだめたものの、セフィールの気が収まる様子はない。
それどころか、片目に殺気を込めて睨んできた。

「この私が、他者上っ面でしか信用しない理由を教えてやろうかの」

初撃が来るかと思い、さすがゴルダも自衛のために剣を抜きかけたが

「そこまでにしておけ、ゴルダに手を出せばこの私が相手をしよう」

突如としてシアとマティルーネを連れてやって来た瑠璃夢が、得物の鎌を構えつつゴルダに一撃を入れようとするセフィールをけん制。
ゴルダは瑠璃夢を見てどういう風の吹き回しだ?と思いつつも剣から手を離し、ゆっくりと後ろへ下がる。

「お主らはなぜそこまでして他者を信用し、純粋に誰かの為に行動できる?」

瑠璃夢にけん制されたセフィールは構えを解き、目を細めてため息をつく。

「そこがあなたと決定的に違うところだからよ、誰かを信用することを捨てたあなたとはね」

またもや同じ図星を突かれ、シアを睨み付けたセフィールだが、あまりの堂々たる雰囲気と力の差に聞こえない程度に舌打ちし、目線を逸らした。

「それに、誰かを信じるのは自由だ。勝手に裏切られたと憤慨しない限りはな。上っ面だけの信用で利用するのもまた自由、それはお前のアイデンティティだ」

もうこの辺にしておくかと言わんばかりに放たれたゴルダの一言に、セフィールは

「余計な世話だ。利用するしないは私の自由」

と一蹴した。

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