氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

ルーエと詠唱防止詞

「もうこんな時間か、今日の講義はここまでだ」

講義終了の鐘が鳴り、ルーエは幻獣語演習の本を片付けて次の講義へ行こうとする。
すると、講師である黄色い毛並みのカーバンクルがまだ話があると講義室を出ようとする学生を制す。
なんだなんだとざわつく学生に講師のカーバンクルはこう言う。

「次回の講義は初回から今回までの範囲で小テストを行う。特に詠唱防止詞に関してはこれから幻獣語魔法を覚える上で最も重要なものだ。重点的に出すのでそのつもりでな」

小テストと詠唱防止詞という単語に、ルーエはぎくりときた。
なぜならルーエは幻獣語の中でも詠唱防止詞に関してはちんぷんかんぷんのレベルだったからだ。
単語や詠唱防止詞以外の動詞などは問題なかったのだが、詠唱防止詞だけは詠唱詞と区別がつきにくく、ようやく基礎の基礎が理解できるようになったレベル。
そんな状態で小テストをされては、結果がどうなるかは混ぜると爆発する組み合わせの魔法薬を調合するよりも分かりきったこと。
次の幻獣語演習は幸いにも来週末だが、それは運命の日が先延ばしされただけ。

「全然分かんないや、どうしよう」

その上、幻獣語演習は必修科目なので落とせば留年は確定。
留年すればシュトラーレンに何を言われるかも分かったものではない。

「駄目元で師匠に相談してみよう」

寮へ戻ってからシュトラーレンに相談してみようと決めたルーエは、そのことを一旦忘れて次の講義へと向かうのだった。

「ダメです」

「まだ何も言ってませんけど師匠?」

その日の夜、寮へ戻ったルーエにシュトラーレンは開口一番に拒絶の言葉を漏らす。
師匠の勘なのかなんなのかは不明だが、ルーエが言わんとすることは見透かされていたようだ。

「幻獣語が分からないので私に聞こうとしていましたね?」

「ふみゅう」

シュトラーレンの口から幻獣語について聞こうとしたなと言われ、図星だったルーエは口癖を漏らす。

「残念ながら私は幻獣語にはあまり詳しくはないのです。もし詳しかったにせよ、私は教えなかったでしょうが」

遠回しに自分に聞くのではなく、まずは自分で調べなさいとシュトラーレンに言われて、ルーエはどこか渋い顔をしてその日は寝てしまうのだった。

「幻獣語関係の本ってなんで全部貸し出し制限ありの棚にあるんだろう」

翌日、午後は講義が入ってなかったため王宮の図書室にやって来たルーエは幻獣語の詠唱防止詞に関する本を探していた。
だがしかし、ルーエのような考えを持つものが多いのか、幻獣語の本はほとんど借りられていてもぬけの殻。
ルーエが講義で使っている本は詠唱防止詞については詳しく書かれておらず、小テスト対策には使えない。

「ふみゅう」

若干絶望したような口癖を漏らし、ルーエは室長席で書類処理をしているフィルスをじっと見つめる。
それにフィルスはすぐに気づいて書類から顔を上げてルーエを見た。

「何かお困りで?」

「そうじゃなかったら見つめたりしないよ」

ふわふわと近寄って来たフィルスに何か用かと聞かれて、ルーエは用がないのに見つめたりはしないと返す。

「それで、本題は?仕事溜まってるから僕もそんなに時間ないよ」

用件を早く言えとフィルスに急かされて、ルーエは詠唱防止詞の話をする。
フィルスはルーエの話を聞いて軽く頷いてから

「今日の夜6時以降にここ来て、教えるから」

教えるのでまた夜に来るように言い、自分はまたふわりと室長席へと戻り書類の処理を再開。
ルーエも状況を把握したのか、その場は一旦下がることに。

そして夜。
まばらではあるものの、まだ僅かに人の居る図書室へとルーエはやって来た。
フィルスは相変わらず書類の処理をしていたが、昼間よりは明らかに数が減っている。

そしてフィルスはルーエが来たことを察知して手招きした。
ルーエは入っていいものなのかと訝しんだが、室長であるフィルスが来いと言ってるなら問題はないだろうと判断して普段は入ることのできない図書室のカウンターの内側へ。

「詠唱防止詞だっけ?確かにあれは一見すると詠唱詞と区別がつけにくいけど、一定の法則性は存在するよ」

そう言ってフィルスは書類を横にどけてメモ用紙を引っ張り出す。
そして

「Mēlyr(注:幻獣語のスペルや発音は様々だがフィルスは「Mēlyr(メーャル)」と発音する)」

「動け」と「動く」という意を持つ単語を書いた。

「あんまし複雑なものでやっても仕方ないから、簡単な単語で説明するよ」

「一見するとどっちも同じだけど?」

「動け」と「動く」という意を持つ幻獣語の単語を見たルーエは、どっちも同じに見えると言う。
それにフィルスはとにかく話を聞いてよと言わんばかりの顔で、

「Mélr(注:発音は変わらず「メーャル」だが「é(ャ)」を半音上げて発音する)」

と書いた。
だがルーエに違いが全く分からず、首を傾げて

「ふみゅう?」

と疑問の口癖を漏らす。
フィルスはそのルーエの態度に首輪の辺りを掻きながら

「詠唱防止詞は半音上げるか下げる、あるいは伸ばす、またはそもそも発音しない。幻獣語は単語もスペルも発音も画一じゃない上に、詠唱詞と言う厄介な詞があるからエルフ語以上に習得難易度が高いんだよね」

などと言いながら「幻獣語本格入門-つまずきやすい詠唱詞と詠唱防止詞をしっかりカバー」という題名の本を出す。
どうやらこれを教科書代わりにしてルーエに詠唱防止詞を教えるつもりらしい。

「じゃあ本格的に始めようか」

こうしてルーエは毎晩のようにフィルスの所へ赴いて幻獣語を一からおさらいし、どうにか詠唱防止詞を理解可能なレベルに達した。

そして、小テストの結果はというと講師が意地悪な問題を出してきたせいで芳しくなかったという。

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時期尚早の氷花

その日はブリザードもなく、澄んだ万年雪国の夜空に下弦の月が淡く光っていた。
そんな月夜の元でエインセルスは雪原移動用の竜に乗り、夜の雪原を駆ける。
なぜこんな夜から城を出て雪原を移動しているのかというと、氷花竜の気配を1月ほど早く感じ、不思議に思って調べるために城を飛び出したのだ。

例年では、氷花竜は3の月から4の月の間しか現れず、それ以降は一切姿を見せなくなる。
それが1月も早く現れたということは何かあったに違いない。
スノーヴァにも気になるなら今すぐ行動を起こせと背中を押され、城の者の制止を振り切ってエインセルスはこうして夜の雪原をスノーヴァと共に駆けている。

「魔力観測所からは今年に入って特に変化はないと最近報告を受けたばかりだが、気づけていない何かが起きているのか?」

ふと独り言を漏らしたエインセルスに、スノーヴァはかすかに尻尾を揺らして

「ほぼ間違いない、実は2の月に入ってすぐからいわゆる『春の魔力』というものが強く感じられた。この魔力は普通2の月の終わり辺りから感じるものだ」
例年より早く春の魔力を感じたと話す。
それに対してエインセルスはそうかと頷き、例年氷花竜が必ず現れる場所へと急ぐ。

一方で、リヴァルスウルフ達も氷花竜の気配を感じ取り、族長のシェリスが行動を起こしていた。
他の同族は連れず、ただ1人で。

「おかしい。現れるには早すぎる」

エインセルスと同じ考えをしていたシェリスは、氷花竜の出現場所へと走る。
例年より早く現れるということは、何かがあるはずだ。
やがてシェリスは氷花竜が現れる場所へと到達した。

「気配はする、でもまだ現れてない。そして氷花が咲いている」

氷花が咲いているところを見ると、出没したのはほぼ間違いないのだが肝心な氷花竜の姿が見えない。
シェリスがしばらく辺りを注意深く調べていると、雪原移動用の竜に乗ったエインセルスとスノーヴァがやって来た。

「来たのね」

シェリスは素っ気なくエインセルスに言うと、顎で氷花を指す。
エインセルスは指された方に咲いている氷花に近寄り、調べようとしたがスノーヴァがふわりと肩から降りてその氷花を食べてしまった。

「無味か、普通はほんのり甘いんだけど」

それがどういう意を示すの?とシェリスに目線で訴えられたスノーヴァは、他にもたくさん咲いていた氷花を前足で1つ摘み取ると

「氷花は例年通り咲いていれば春の魔力を含んでほんのり甘い。だがこの氷花は無味。誰かが人工的な春の魔力を放出したせいだろう」

それをシェリスの前に突き出して、誰かが人工的な春の魔力を放出しているからだと言う。

シェリスはそれに納得したような顔をして、あとはあなた達に任せるわと言わんばかりに去っていく。

「人工的な春の魔力には心当たりがある。農業研究所の連中が最近研究用に置いてあった四季の人工魔力のうち春の魔力を誤って外へ放出したという障害報告が上がっていたのを今思い出した」

人工的な春の魔力が氷花竜を例年よりも早く出没させたというスノーヴァに、エインセルスは農業研究所で四季の人工魔力のうち春の魔力が外へ放出されたことがあったことを思い出したと呟く。

「それでか、なかなか厄介なものだ。以降厳重注意するよう伝えたんだろうな?」

「無論の事」

そんな会話をしながらリャダヴィルチへと戻っていく2人を、1匹の氷花竜が木の陰から見送っていた。

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