氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

避暑とフォルテの森

夏も最盛期に差し掛かったある日のフォルテの森。
いつものように過ごすバウムの足元では、人化したシアとゴルダとフィルスにマティルーネとルーエという珍しい組み合わせが何かをしていた。
具体的に何をしているのかというと、水の魔力もとい氷の魔力を駆使してアイスを作っている。

「なぜにそのようなものを?」

バウムの問いに、ゴルダは何も答えずただただ携帯冷凍容器の中に入ったアイスの種をかき混ぜている。
この携帯冷凍容器は、水あるいは氷の魔力を使って容器の中の物を冷凍あるいはそれに近い状態に維持するという魔道具の類なのだが、少々古いものなので定期的に水か氷の魔力を送らなければならない。
そして、その容器に魔力を送っているのは最近水の魔力が覚醒した他でもないフィルスだ。
一応シアも魔力を送ってはいるのだが、バウムをもふもふしているのであまりあてにはならない。

「なんでこんなところでアイスを作ろうと思ったの?」

今度はルーエから聞かれるが、ゴルダはやはり何も答えずにただアイスの種をかき混ぜる。
普通ならここでマティルーネが人の話は無視しないと小言を言うはずだが、マティルーネはスノーウィーとどこかへ行っていていない。
かと言ってフィルスは、魔力を時折送る以外は魔法書に没頭しているので何を言うわけでもない。
この状況から、ゴルダに何を聞いても無視されると思われがちではあったが

「涼しい場所で冷たいものを食う、それに何か問題があるか?」

というもっともらしい一言を言った後に、今までかき混ぜていたアイスの種がアイスになったことを確認して盛り付け始める。
盛り付ける際にカチャカチャと音がしたためか、フィルスは魔力を送るのをやめて完全に読書の世界へと入り込んだ。

「わーい、アイスだ」

そう言ってルーエは盛り付けられたアイスを受け取り、食べ始める。
一方シアとバウムは、はて?という顔をしてしばらく盛り付けられていたアイスを見ていたが、それぞれ食べ始めた。
もちろん、バウムはもう一つの姿になってたが。

「おい、溶けるぞ」

ニコニコしながらアイスを食べているルーエを尻目に、ゴルダは魔法書に没頭しているフィルスに早く食べろと促す。
早く食べろと促されたフィルスは、わかったよと言わんばかりの顔をしてからアイスを口にする。
アイスそのものは甘さ控えめの何の変哲もないものだったが、それに万年桜のジャムの程よい甘酸っぱさがアイスの味を引き立てるという一品だった。

「ちょっと万年桜のジャムの主張が強いかな」

「でも悪くはない」

ルーエとフィルスのそんな会話を聞いて、ゴルダはそれはよかったと言いたげな目線を投げながら、シアとバウムを見る。
シアは豪快に食べているのに対し、バウムはちまちまつついて食べているので食べるよりも溶けるスピードの方が速かった。

「食べるより溶ける方が早いとはこれいかに」

「致し方なかろう、元の姿なら一口にも満たない」

こうしてフォルテの森の夏の日は過ぎていくのである。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(交流) |

フィルスと水の属性の目覚め

人に限らず、全ての生物には適性のある属性が存在する。
一般的にはその適性のある属性がそのもの自身の主属性となるのだが、これがいつ決定されるのかははっきりと分かっていない。
生まれたときに決まっていることもあれば、後々鍛錬などで適性が見つかったり、元から有していた主属性とは別にまた主属性が見つかったという話もないわけでもない。
今回は、元から有していた主属性とは別の主属性が覚醒したパターンの話を見てみよう。

7の月も半分に差し掛かろうとしているある昼下がりのリフィルの王宮の図書室で、フィルスはいつものように司書の仕事をこなしていた。
司書の仕事を任されるようになったのは最近からで、それまでフィルスはアルガティアの仕事を手伝っていたが、ある日唐突にアルガティアから王宮の図書室の司書に任命されたのである。
理由は定かではないが、アルガティアの仕事を手伝っていないときはフィルスはいつも魔法書を含めた本を読んでいたのでそれで任命したのだろう。
基本的に王宮の図書室の本は、全て盗難防止対策の魔法が施されているので盗まれたりする心配はないのだが、今は盗難などが相次いで閉鎖されてしまったリフィル王立大の図書館に置かれていた、禁忌レベルから日常で使われるまで様々な魔法書やその類の本が置かれているため、勝手に魔法書を読まれたりすると厄介なことになるのだ。
それを防ぐためにフィルスが司書となり、一定レベル以上の魔法書やその類の本の貸し出しの審査などを含めた本の管理を含め、図書館での司書としての仕事を担っている。
だが、最近フィルスは王立大の学生の図書室利用マナーの悪さに頭を痛めていた。

読んだ本を戻さない、所定の場所以外でレポートを書こうとしてインクで本を汚しかけたり汚したりする、虚偽申請をして禁忌レベルの魔法書を借りようとするなどさまざまである。
だがそれは一部の学生だけであり、大部分の学生はマナーを守って利用しているのも事実。
その一部だけが問題なのだ。

「また本を戻してないよ、困るなぁ」

定期的な図書室内の見回りをしていると、読んだ本が出しっぱなしにされていたので、フィルスはそれを元あった本棚へと戻す。
この作業ももはや日常茶飯事なので、フィルスも文句は言えどそれ以上は考えないようにしてさっさと片付けることにしている。
一応「整理・整頓・清掃・清潔・しつけの5Sを徹底しましょう」などという張り紙をしてはいるものの、これといった効果は現在のところ見られない。

「こういう学生は図書室への出入りは禁止にしたいけど、アルが許してくれないからどうしようもないや」

一度は出入り禁止処分にすることも考え、アルガティアに申し出たのだが、やんわり断られてしまいそれ以降フィルスはそういう学生に対しては見かけるたびに厳重注意を行っている。
とはいえ、最近は意思を飛ばしての厳重注意どころか魔法で実力行使することもしばしばあるのだが。

「あっ、閲覧制限有のスペースに行こうとしているのが居る。また注意しなきゃ」

そして今日も、使い方を間違えると大惨事になりかねない危険な魔法書の数々が置かれ、入るのも閲覧するのもフィルスの許可が要るような場所だ。
そこへ明らかに王立大の魔法系の学科の学生が入ろうとしていたので、フィルスは注意しようと近づく。

「ちょっと待って、君許可出してないよね?入っちゃだめだよ」

ひとまず許可なく入ってはいけないことを伝え、入らないように促す。
だが学生はフィルスの忠告を聞こうとはせず、そのまま入ろうとする。
フィルスは日ごろのストレスのせいか無視されたことにすぐカチンと来て

「入っちゃだめだって言ったよね?」

自分でも無意識のうちに氷で手裏剣を作り出し、投擲していたのだ。
学生はそれを障壁魔法で防いで事なきを得たが、フィルスに畏怖を抱いて逃げるようにして図書室を出ていく。
一方残されたフィルスは、自分がいつの間にか水属性を使えることにどうにも納得がいかないようであった。
元からフィルスが自身で把握してる使える属性というのは、聖属性のみ。
他の属性に関しては魔法書などを読むことはあれど、使えるかどうかも分からない上に本格的に覚えようともしてこなかった。

「何なんだろう?自分でも分からないや」

その時は全く気にも留めず、フィルスは司書の仕事へと戻る。

だが、その日一日の司書の仕事を終えて日報を書いていた時のこと。
もう日も傾いて昼よりは涼しくなったが、それでも暑いことには変わりない。

「暑いや、今日も熱帯夜かな」

汗こそはかいていないが、フィルスは不快になるほどの暑さを感じていた。
もちろん、どうにかできるわけもなくさっさと日報を書き上げてアルガティアのいる涼しい部屋へ行くのが得策だろう。
だが、昼間学生に氷の手裏剣を投げてしまったことの報告書も書かなければいけないので、そうは問屋が卸さない。

「暑いっ」

あまりの蒸し暑さにそう頭の中で呟いた次の瞬間、フィルスの体から白い煙が放出されたかと思えば急に涼しくなる。
これは、水属性や氷属性の使い手が使う暑さ対策の一つで水あるいは氷の魔力で体の内側から熱を下げるというもの。
無論やりすぎれば夏場に低体温症なんてこともありうるので制御は必要だ。

「やっぱり僕水属性使えるようになってる?なんだか複雑な気分」

なおこの後、アルガティアに正式に水属性への適性が覚醒しているとフィルスは教えてもらったとか。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

七夕の前に

7の月に入り、本格的な夏が訪れたリフィル。
王宮のあちこちに笹の葉が置かれ、紙で作られた飾りと長方形の短い紙が下げられていることから、これが七夕のために置かれた笹の葉であることが分かる。
そんな笹の葉の前で、ゴルダとルーエとルーナが下げられた長方形の短い紙を見て話をしていた。

「ルーエ、ルーナ。お前は想いの力を信じるか?」

「信じるよ。呪いを含めた呪術はは人の負の感情という想いがあってこそ成り立つものだし」

「そうですね、信じてないといえば嘘になるかな。想いの力はどんな風にも作用しますから」

ゴルダに想いの力を信じるかと聞かれた2人は、それぞれ信じるという返事を返す。
その返事を聞いたゴルダは、ふむと頷くと次はこんな質量をする。

「では質問を変えよう、想いに質量があると聞いたら信じるか?」

この質問には、ルーエもルーナもきょとんとして何も答えなかった。
これにはマティルーネも

「質問のハードル上げすぎ」

と苦言を漏らすが、ゴルダは一切気にしていない様子である。

「あっ、ルーナだ」

その頃、笹の葉の前に立っているルーナを見つけたアイレは他にも誰か居るのを見て 警戒して様子を伺う。

「誰だろう?全然知らないのが2人…いや、3人?」

ルーナとは別に、自分と同じカーバンクルと全く見たことのない異様な雰囲気を醸し出す男とその頭の上に乗る紫毛の竜。
カーバンクルと紫毛の竜の方は問題なかったが、異様な雰囲気を醸し出す男だけにはアイレは警戒を解くことができなかった。

「とりあえず話しかけてみようかなぁ」

というわけで、アイレはカーバンクルと異様な雰囲気を醸し出す男に

「こんにちは〜…」

と話しかける。
すると男はアイレに興味深そうな視線を投げかけて

「アイレだったか?話は聞いている。イファルシアの奴に雑草と間違えられたらしいな。俺はゴルダ、頭の上のはマティルーネだ」

イファルシアに雑草と間違えられた時の話を持ち出し、名をゴルダと名乗り、頭の上の紫毛の竜の名前も教えてくれた。
一方、カーバンクルの方はアイレをあまり興味がなさそう目つきで見ながら

「アイレだっけ?ボクはルーエ」

そっけなくルーエと名乗る。
アイレは自分がルーエに初対面にもかかわらず、そっけない態度を取られたことにしょんぼりした顔になる。

「アイレ、気にするな。ルーエは親しくない奴にはこういう態度を取ることが多い」

一応ゴルダがフォローを入れるが、それでもアイレはしょんぼりしたままだ。
これには横で見ていたルーナもどうしたものかと、ゴルダにどうするのかと視線を投げかける。
それにゴルダは、少し考えた後に

「こうも暑いと溶ける。応接室に行くぞ」

応接室へ行くぞと言い、ルーエたちを応接室へと連れて行く。

応接室にはなぜか人化したシアとアルガティアが優雅にティータイム中で、ゴルダたちが入ってくるや

「ちょうど良かったわ。短冊書きなさい」

全員に短冊を押し付けて書くように促す。
しかし、短冊を渡されても書くものがないのでルーナとルーエは同時に

「書くものがないんだけど?」

とシアに聞く。
一方、アイレは短冊には全く興味を示さず、人化しているシアに釘付けになっていた。
どこに惹かれたのかは定かではないが、おそらくはその腰まで届く長い髪と吸い込まれそうな赤き目に惹かれたのだろう。

「その短冊は使用者のイメージを文字や絵に具現化させる特殊な紙で作られているから、願い事イメージするだけでいいわ。あと…アイレだったかしら?こっちにいらっしゃい」

ルーナとルーエにこの短冊は書くものを必要としないので願い事をイメージするようにと言った後、シアはアイレに自分のところへ来るように促す。
それに最初はえっえっと動揺していたアイレも、惹かれた相手においでおいでをされたのでは拒否できなかったらしく、最後は素直にシアの膝へと座る。

「いいなー」

シアの膝の上に座るアイレを見て、羨ましそうにするルーナに対し、ルーエは何かを感じ取ったかのような顔をして

「かつてないほどの癒しの魔力が放出されてるね。アイレとシアが原因かな?」

かつてないほどの癒しの魔力が放出されていることを指摘する。
ゴルダはそれには何も返さずに、アルガティアから出された紅茶に手をつけて

「真夏の昼下がりに涼しい部屋で熱々の淹れたての紅茶をたしなむ。一見するとどこか矛盾しているな」

などとよく分からないことを言う。
このゴルダの一言に、アルガティアは

「涼しい場所に熱いものは似合わないってこと?そう言われてみればそうかもね」

理解できないわけではないという意と似たようなことを返した。

「んー…」

どうイメージすれば短冊に願い事が書かれるのか分からないルーナは、短冊を両手に挟んだり、二本指で短冊を持ってポーズを取ったりとあの手この手を試しているが、短冊に願い事が刻まれる様子はない。

「ふみゅう、できた」

一方ルーエはあっさりと願い事が刻めたようで、なおもアイレを膝に乗せているシアに短冊を渡す。

「なるほど、ねぇ」

アイレを撫でながらルーエから受け取った短冊を読んだシアは、そんなことを呟いてパッと短冊をどこかへ消してしまう。
それにルーエは、せっかく書いたのにと今にも言いそうな顔でシアを見たが

「大丈夫。セイグリッドの笹の葉に飾ったから」

セイグリッドに置いてある笹の葉に飾ったから大丈夫よと言って安心させる。
なお、それを見たゴルダはシアに

「何も言わずに転送するか普通?それだと処分されたと勘違いされてもおかしくはない」

一言言ってから転送しろと言う。
だがシアはうふふと笑いながらアイレを撫でてごまかした。
アイレはシアに撫でられたりして骨抜きされたのか、すっかりシアに甘えている。

「なんで書けないのかな?」

その一方、ついに打つ手を全て打ったルーナが諦めムードを見せ、がっかりした顔になる。
それを見たルーエは、ルーナにこんなヒントを出す。

「額に当てる」

額に当てる。
なぜそれを思いつかなかったのだろうかとルーナは自分に問いかけながら額に短冊を当てた。

「あはは。ルーナ、キョンシーみたい」

額に短冊を当てた姿がそう見えたのか、アイレはルーナにキョンシーみたいだと言う。
ルーナはアイレのその一言にそう?とだけ返して願い事をイメージし出す。
するとどうだろうか。
白紙だった短冊に文字が浮かび上がり、しっかりと刻まれたのだ。

「あっ、出来たみたい」

そう言ってルーナは短冊をシアへ渡す。
短冊を受け取ったシアは、ちらりと短冊に刻まれた願い事を読んですぐに転送してから

「面白い願い事するのね」

とだけ呟いてアイレにも短冊を渡して書いてみなさいと言う。
いきなり短冊を渡されたアイレは、ルーナの見よう見まねで額に短冊を当て、目を閉じてイメージする。

「あら?これはどういう意味かしらね?」

アイレの短冊に刻まれた絵を見て、シアは不思議そうにする。
アイレの短冊には、何かの紋章とも取れるものが描かれており、その下には幻獣語に近い文で

「寂しくならない未来を」

と書いてあったのだ。
これが何を意味するのかは、最後まで誰にも分からなかった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(交流) |
| HOME |