氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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フォルテの森の七夕

6の月も終わりに差し掛かった今日この頃。
ゴルダはシアからこんな話を持ち出された。

「フォルテの森で七夕らしいことしない?」

それに対してゴルダはシアにこう突っ込んだ。

「なんで七夕なんだ?何を考えているのかさっぱり分からんぞ」

一応これでも曽祖母に当たる関係なので、多少何を考えているのか分からないことには特に何も言わないことの多いゴルダだが、さすがに今回のようなことには突っ込むことが多い。

何を考えているかさっぱり分からんと言われたシアは、人化した自分の髪をいじりながらふふっと笑ってその場を濁す。

「それで、ついて来るやつを見繕えというんだろ?」

サフィが出してきたリヴァルスの硬水をぐいと飲み、ゴルダはシアに問う。
それにシアは、あまり女性らしかぬ姿勢で座りながら

「そうね、ルーエとアルガティアは最低でも連れて来て欲しいわ」

ルーエとアルガティアは絶対に連れてくるように言う。
なぜその2人をチョイスしたのかの理由が不明だが、ゴルダはそれに了承の意で頷いて

「善処しよう」

とだけ返してその日はルーエとアルガティア話をしに行くために帰った。

「そう、フォルテの森で七夕をね」

「師匠が七夕の願いは叶いやすい傾向にあるって話してたかな」

その後、リフィルへ行ってシアが言っていたことをアルガティアとルーエに話したところ、2人ともあっさり食いついてくれた。
この様子ならば、ついて来てくれることはほぼ間違いない。

「ところでシュトラーレンは?」

ここで、いつもならルーエに付き添っているシュトラーレンがいないことに気づいたゴルダがルーエに聞くと

「師匠?今幻獣の里ってところに行っていて居ないよ」

幻獣の里へ行っていて居ないと話す。
それを聞いたゴルダは、シュトラーレンにエーテルへの耐性があったかどうかを気にしたものの

「シュトラーレンのエーテルへの耐性はよっぽどのことがない限り受け付けないレベル。だから許可出した」

「ならば心配無用か」

アルガティアの口からシュトラーレンのエーテルへの耐性が桁違いに高いものであることを告げられ、それなら問題ないなと返す。

「2人とも行くということでいいな?」

「ええ」

「もちろん」

ゴルダが行くかどうかと聞くと、アルガティアとルーエが行くという返事をしてくれた。

後日、フォルテの森。
セイグリッドから持ってきた笹の葉を担ぎ、ゴルダは人化状態のシアとアルガティアにルーエ、マティルーネとフィルスを連れてやって来た。

「夏だというのにこの森は涼しい」

担いでいる笹の葉を揺らしながら歩くゴルダがそんなことを呟くと、シアは当たり前でしょという顔をしたがゴルダは気づかなかった。

「夏はこれくらい涼しい方が過ごしやすいかなぁ。寮の部屋はちょっと夜暑いし」

これくらい涼しければ夏も過ごしやすいと言うルーエにアルガティアは

「あら、なら王宮に部屋を移す?部屋なら空いているし、季節問わず快適に過ごせるけど?」

王宮の空き部屋に部屋を移るかと冗談には聞こえない口調でルーエに提案する。
だがルーエはそれに対しては

「そ、そんなつもりで言ったんじゃないんですよー」

と釈明する。
それに対してアルガティアはふふっと笑う。
するとそこへ、ミスティとスノーウィーがやって来て

「あっ、前に来た危なっかしいやつ!」

「こんにちは、バウ様ならいつもの場所」

ゴルダ達に挨拶した。
ミスティは相変わらずシアやゴルダを危険なやつ扱いしていたが。

無論、いつものことなのでゴルダもシアも無視してバウムのところへ。
なお、マティルーネはスノーウィーとどこかへ行ってしまった。

「今日はまたなぜそのようなものを?」

笹の葉を担いで現れたゴルダを見て、バウムが開口一番に言ったのはそれだった。
それにはシアが

「一足早い七夕をと思ってね」

と説明する。
バウムはそれになるほどと返した上で、前足の辺りをもふもふしているアルガティアに目線を移す。

「でもシアは短冊なんて持ってきてないよね?」

短冊はどこなのかと聞いてきたルーエに、シアは心配無用と言わんばかりに念写紙と呼ばれる自分のイメージが描き出される紙で作られた短冊を出す。

「念写紙、ねぇ」

フィルスはそう言いながら念写紙の短冊を核石に当たらないよう気をつけながら額に当てて願い事を刻む。
ルーエもぽかんとしつつ、フィルスと同じように額にその短冊を当てる。
それから10秒もしないうちに、フィルスとルーエの短冊に文字が浮かび上がった。
フィルスの方は幻獣語、ルーエの方はおそらく元居た世界の言語と思わしき文字でそれぞれ願い事が刻まれていた。

「やっぱり幻獣語で刻まれるか」

「ふみゅう、ドランザニア語じゃない」

どこかがっかりする2人から、シアは有無を言わせず短冊を預かり、ゴルダに笹の葉へ下げるように促す。
ゴルダはアルガティアにもふもふされて困り顔のバウムを尻目に、笹の葉を地面に刺してフィルスとルーエの短冊を下げる。
短冊を下げた瞬間、なぜか大きく笹の葉がしなったが、これは短冊に込められた想いの重さがそうさせているので、何らおかしな現象ではない。

「私も1枚書いてみようか」

自分も書いてみたいというバウムに、シアは渡すのではなくバウムの額に直接短冊を押し当てた。
すると短冊は砂のように風化すると風に乗ってどこかへ飛んで行ってしまう。

「念写紙の許容量を超えた念が送り込まれたせいだね」

ルーエが短冊が風化してしまった原因を解説すると、バウムは前足を顔に当てて

「やはり想いを糧にして生きる私が願い事を刻むなどおこがましい行為だったか…」

などと言いながら落ち込んでしまった。
するとそこへ運悪くスノーウィーとマティルーネがやって来て、落ち込んでいるバウムを見たスノーウィーは

「バウ様に何したの?ねえ?」

事の発端のシアではなくゴルダに詰め寄り、何をしたのかと問い詰める。
それに対して、ゴルダはスノーウィーに

「今回は俺じゃない。シアだ」

シアが原因だと言うが、スノーウィーはそれを信じようとせずにゴルダを睨む。

ゴルダはもはや一切気に留めなくなったが、相変わらずスノーウィーはゴルダを睨んだままなのでルーエは思わず

「スノーウィー。君って状況把握しようとしない短絡的思考の持ち主なのかな?ボクから見ているとそうにしか見えないんだけど違う?」

と、思っていたことを口にしてしまう。
これにスノーウィーは完全に機嫌を悪くしたようで、もう知らないと言わんばかりの目線をルーエとゴルダに投げつけてからどこかへ行ってしまった。

「やれやれね。あっ、スノーウィーの事は気にしなくていいわ。少ししたら何事もなかったかのように戻ってくるから。それより落ち込みっぱなしのバウムをどうにかしたら?」

スノーウィーがどこかへ行ってしまった後、マティルーネはゴルダとルーエに気にするなと言った上で、バウムをどうにかした方がいいんじゃないかと言う。

「確かにそうだな」

マティルーネの提案にゴルダは淡々と答え、シアに

「許容量の引き上げをすれば、バウムでも短冊書けると思うが、できんか?」

念写紙が扱える念の許容量を引き上げられないかと聞く。
だが、シアから帰ってきた返事は

「念写紙そのものの材質で許容量が変わるから、無理矢理引き上げることになるから難しいわよ」

というものだった。
しかし、他にいい方法が思いつかない以上はこの手しかあらず。
シアはルーエとフィルスに短冊の裏にあるものを書くように告げ、自分はバウムの肉球をぷにぷにしようとしては咎められるを繰り返すという端から見れば意味不明な行動をし始める。

そして完全にほっぽり出されたゴルダとマティルーネは、木の上にフォルテの姿を確認して木の上へ飛び乗り、フォルテに軽く頭を下げて横で瞑想を始めた。

「そういう時間の使い方もないわけではないな」

瞑想を始めたゴルダとマティルーネに、フォルテはそう呟いた。

さて、それからどれだけの時間が経っただろうか。
アルガティアはバウムの腹の辺りで眠り、シアは前足の辺りに座って何か考え事をし、ルーエはじっと短冊を眺め、フィルスはバウムの頭の上で寝ている。
なお、スノーウィーは戻ってきておらず、ゴルダとマティルーネは相変わらず瞑想中だ。

「よし、これならいけるわ」

突如として口を開いたシアに、ゴルダとマティルーネは瞑想を中断してシアを眺める。

そんなゴルダとマティルーネをよそに、シアはルーエが眺めていた短冊を預かり、何かを詠唱するとバウムにそれを渡す。

「今度は大丈夫よ」

半信半疑なバウムの額に短冊を当て、シアは様子を見る。
するとどうだろうか、先ほどは風化してしまった短冊に文字が刻まれたのだ。

「上手くいったみたいだね」

「存外簡単に許容量上げられて良かったわ」

そしてその短冊をゴルダが笹の葉に下げた次の瞬間、今まで以上にしなった笹の葉は折れるか折れないかの角度までしなったかと思えば元に戻り、ルーエとフィルスとバウム短冊を空高く吹っ飛ばしてしまった。

「こんなことが起きるなんて初めてだわ」

「ふみゅう、せっかく書いたのに」

バウムの短冊を下げた瞬間に吹っ飛んで行ったので、それぞれがどんな願い事書いたのかは、分からぬままである。
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瑠璃夢と七夕と短冊

今年も笹の葉に願いを書いた紙を下げる季節が近づいて来た。
今年は早くからセイグリッドでは七夕の時期が訪れており、シアの塔やセイグリッド城の庭園や入り口には短冊の下げられた笹の葉が数多く飾られている。

「この世界でも七夕はあるのじゃな」

「まあな」

そんな七夕シーズン真っ最中のセイグリッドに、ゴルダは瑠璃夢とフウとユウ、マティルーネを連れてセイグリッドへとやって来ていた。
もっとも、シアから短冊を書きに来なさいと呼び出されたからやって来たのだが。

「来月でもよかったんじゃないですかね」

「シアにわざわざ呼ばれたんだ。行かないと後々面倒なことになる」

来月でもよかったのでは?と言うユウにゴルダは、シアに呼ばれたのでは行かないとめんどくさいことになると返す。

「なんじゃ、お主はそのシアとやらに逆らえんのか?」

その一連の会話を聞いていた瑠璃夢に、お前はシアに逆らえないのか?と聞かれてゴルダは

「逆らえば後々面倒事を招く」

後々面倒なことになると瑠璃夢に改めて説明する。
それを聞いた瑠璃夢は鎌の柄でゴルダを小突ながら

「お主でも歯向かえん相手が居るとはな、これは興味深いの。私もそのシアというものに会ってみたいの」

自分もシアに会ってみたい言った上で、ゴルダの右に並んで歩いていたフウをわしゃわしゃと撫でる。
フウはすっかり瑠璃夢に撫でられることに慣れたらしく、嫌がる様子もなく撫でられていた。
なお、瑠璃夢はフウだけでなくユウにも同じことをするが、あまりいい反応をされないので自重しているようである。

「いらっしゃい、瑠璃夢もね」

「何故私の名を知っておるのだ?会ったことも名乗った覚えも全くないのじゃが」

いつも通り応接室へ行くと、シアがアイスを食べながら待っていた。
もちろん、瑠璃夢の名を呼んで。
瑠璃夢は、シアが自分の名を把握していたことに対して会ったこともないのに何故名を知っていると突っ込む。

これにゴルダが自分の口から説明しようとしたが、シアの赤い目が私から説明するから余計なことは言わないでと咎めて来たのでゴルダは特に何も言わずにフウとユウに座るよう促し、自分はシアの隣へ瑠璃夢と座る。
瑠璃夢は今にも鎌を出してシアに切りかかりそうだったが、ゴルダとマティルーネが目線で

「お前が勝てる相手ではない」

と説得して鎌を出させないようにした。
だが、瑠璃夢もそこまで愚か者ではなく、シアのゴルダ以上に感じる只者ではない雰囲気に押されて

「シアと言ったかお主は?その…触っても良いかの?」

鎌を出そうとすることすら止め、触ってもいいかとシアに聞く。
さすがにシアのもふもふには瑠璃夢とて勝てなかったようだ。
だがシアは、それに対して

「まだだめ。ほら、これ書いて。書いてもらうために呼んだんだから」

まだ駄目だと言った上で全員に短冊を渡す。
そう、シアがゴルダ達を呼び出したのはこれを書かせるためである。

「シア、書くものがないのにどう書けと言うのじゃ?」

渡された短冊をひらひらさせながら書くものをよこせという瑠璃夢に、シアは

「その短冊を額に当てて念じなさい。これは思ったことが勝手に書き込まれる短冊なのよ」

念じると書き込まれるタイプの短冊であることを説明する。
瑠璃夢はその説明に、嘘だったら有無を言わせずもふもふするぞという目線を投げつつ、フウやユウにゴルダがやっているように額に短冊を当てて念じ始めた。

それから数十秒して、瑠璃夢が額に当てていた短冊にいつの間にか文字が刻まれていた。

「一発で成功するなんて珍しいわね。フウなんか最初は暗号みたいな支離滅裂な文になってたのに」

「ふふふ、フウならありえる話じゃの」

「むーっ」

フウに同じことを初めてやらせた時は失敗したという話を持ち出したシアに、瑠璃夢がフウならばありうる言ったところ、フウが多少機嫌を悪くする。

なお、瑠璃夢の短冊に刻まれた願いは何かというと

「もっといろんなもふもふに触れたい」

というものだった。

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出会いは勘違いから

原則、国王の居る書斎などの一部の部屋を除いて大陸の国王の住まう城や王宮、屋敷は一般的に解放されていることが多い。
そのため、観光客の他に一般市民も時には暇つぶしだったり避暑や避寒のために訪れることも決して少なくはない。
それはリフィル王宮でも同じで、常日頃からいろんなものが出入りしている。
そして今日も、その中に。

「あっついわ」

麦わら帽子を被り、エゼラルドとイレーヌと共に王宮の畑の手入れをしていたイファルシアはどこからかひょうたんで作られた水筒を出して水を飲む。
梅雨も明けて夏本番を迎えたリフィルは、長雨日から打って変わり、連日猛暑日が続いている。
畑に植えられている野菜たちは、すべてそういった極端な天候の変化に強い品種ばかりなのだが、それでも病気になる時にはなる。
今のところ目立った病害は確認できないが、念には念を入れて調べているのだ。

「雑草もしつこいわね、普通のと魔法雑草が入り混じっているから余計厄介」

蔦と手、両方をうまく使って雑草を抜いていたイファルシアだが、チャチャルチというカブが植えられている部分の雑草を抜こうとした瞬間

「いたたっ!僕は雑草じゃないって!」

雑草と思って引っ張った緑の何かの下から雑草じゃないという声が聞こえたので、イファルシアはため息交じりに

「畑の中で隠れて何やってんの?」

と声の主に問いかける。
すると、チャチャルチの葉と葉の間から緑毛のカーバンクルが現れた。
ただ、他のカーバンクルと違って額の核石だけではなく頬にも髭のように並んだ石があるのだ。

「頭がハゲちゃうかと思ったよもう」

緑毛のカーバンクルは、イファルシアに引っ張られた頭の毛をさすりながらぶつくさ呟く。

「まず、ここの畑は無許可の場合は関係者外立入禁止よ。知らなかったとは言わせないわ」

腕組みをして不機嫌そうな顔をしながらイファルシアはそう言う。
だが緑毛のカーバンクルはそんなことを一切気にせずにまだ自分の頭の毛をさすっている。

「ねえ、あんた私の話聞いてる?」

イファルシアが蔦で突くと、緑毛のカーバンクルはようやくイファルシアの目を見て

「聞いてるよ。ばっちりね」

話は聞いていることをアピールし、イファルシアの額の核石に触れた。
その次の瞬間、イファルシアのプロボクサーも顔負けの鋭い蔦ストレートが緑毛のカーバンクルを吹っ飛ばす。

補足までに説明しておくが、この世界のカーバンクルは核石と呼ばれるカーバンクル族が持つ独自の石を触られることを非常に嫌う。
理由は諸説あるものの、有力な説としては核石そのものが敏感な場所であり、触られることで体内の魔力のバランスに悪影響を及ぼすからだと言われている。

「大丈夫かい?」

吹っ飛ばされた緑毛のカーバンクルを、エゼラルドはもふっと受け止めてから怪我はないかどうかと聞く。
緑毛のカーバンクルは大丈夫と答えてから、イファルシアに敵意のある目線で睨みつける。

「たやすく核石に触るってことは、あんた異界出身ね」

またもや飽きれた様子でため息をつきながら、イファルシアはそう呟く。
緑毛のカーバンクルはそんなことを呟くイファルシアを睨みつけたままエゼラルドに

「ありがとう」

と礼を言ってイファルシアに近寄る。
なお、イファルシアは喧嘩を売ってくるなら容赦はしないといった感じで緑毛のカーバンクルを見ていた。
やがて、互いに睨み合いの状態に入ってしまった。

「困ったねこれは」

サトイモの葉を日傘代わりにしながら、エゼラルドはどうしたものかと考える。
現在イレーヌは魔法植物の手入れ中で手が離せず、フィルスでは止められるかどうかすら怪しく、アルガティアはおそらく仕事中。
となれば、自分が仲裁に入るほかないのだ。

「僕はあまり仲裁とかするのは好きじゃないんだけど仕方ないか」

自分しか居ないなら仕方ないと、エゼラルドがまだ名を聞いてない緑毛のカーバンクルとイファルシアの仲裁に入ろうとしたその時。

「あっ、アイレじゃない。イファルシアと何しているの?」

突然ルーナが現れ、緑毛のカーバンクルの方に声をかける。
さすがにルーナの前で喧嘩はできないとどちらも思ったのか、イファルシアはアイレと呼ばれた緑毛のカーバンクルからそっと目線をそらし、アイレの方も何事もなかったかのようの振舞う。

「一件落着かな」

喧嘩勃発の危機が回避されたことを確信したエゼラルドは、アイレとイファルシアとルーナに近寄って

「ここは暑いよ、日陰へ行こうか」

と3人をひとまず応接室へ連れて行くことにした。

そして場所は変わって応接室。
アイレとイファルシアは互いに話そうとはしないが、ルーナとアイレは最近どう?などといった他愛もない話をしている。

「じゃあ、僕はまだやることがあるからこれで失礼するよ」

そう言って応接室を出て行くエゼラルドを、ルーナはニコニコしながら見送った。

「あんたアイレって名前だったかしら?イファルシアよ」

息が詰まりそうな空気になったために、イファルシアは自らアイレに名乗る。
アイレはそれを聞いて右耳につけているアクセサリーを揺らしながら

「長い名前だね、短くした方がかわいいと思うけどなぁ。僕はアイレだよ」

イファルシアの名前を皮肉った上でこちらも自分からアイレと名乗り、また額の核石を触ろうとするが

「ダメよアイレ、イファルシアはそこを触られるの一番嫌うから」

ルーナに咎められてしまう。
さすがのアイレも、今度蔦ストレートを食らったらどうなるか分からないので自重することに。

「こんにちは」

それから十分ほど経って、仕事の席を外してきたと思わしきアルガティアが従者とフィルスを連れて応接室へと入ってきた。
ルーナはすぐにアルガティアとフィルスに挨拶をしたが、アイレは知らん顔を決め込み、イファルシアにいたっては自分で出したみかんをどこ吹く風で食べている。

「イファルシア、何かあった?」

どこ吹く風でみかんを食べるイファルシアを見て、フィルスがルーナに聞くも、ルーナは分からないとしか返さない。

「もしかしなくても君がイファルシアの機嫌悪くさせた?」

フィルスに問い詰められ、アイレはぎくりとしながら頷く。
フィルスはそんなアイレの反応を見て、そこそこ呆れた様子で

「一度機嫌悪くなると、イファルシアの機嫌直すの大変だから気をつけてね。ところで君名前は?僕はフィルス」

イファルシアの機嫌を直すのは大変だと言いつつ、自らの名を名乗る。
アイレはフィルスの核石も触ってみたくなったが、触ればおそらくイファルシアの時のような目に合うだろうと思い、ここはぐっとこらえて

「アイレだよ、よろしくフィルス」

普通に挨拶を返した。
フィルスは、アイレが自分の核石を触ろうとしていたことを感じ取って

「うん、よろしく。それと僕の核石も触らないでね、イファルシアの触ったでしょ」

イファルシアが意思を飛ばしてアイレに核石を触られたことを教えてきたので、それについても触れつつよろしくと返す。
アイレはなんだか自分が丸め込まれたような気分になり、従者が置いていった氷がほとんど溶けた緑茶をぐいと飲む。
なお、この後アイレはアルガティアにも挨拶し、名乗ったのだが核石をなぜ触ってはいけないのかを1時間近く教えられたとか。

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出会いは不意打ちから

やけに短く感じた梅雨が明け、夏が訪れた今日この頃。
庭の畑の野菜の手入れをフウの手を借りず1人でやっていたゴルダは、一応の作業を終えてタオルで汗を拭う。

「暑いからフウには手伝わせなかったが、様子見つつ手伝わせりゃよかったな」

そう呟きながら今しがた収穫したてのトマトを軽く拭いてからそのままかぶりついていると、突如として視界に今まで会ったことのない少女の姿が入った。
服装としては、ロングスカートのワンピースのようだが、そのデザインにどこか違和感を感じるデザインをしていた。
具体的にどんな違和感かというと、服装のデザインが和と洋を混ぜた中途半端なものだったがために感じるもの。
普通なら勝手に家の敷地に入ってこられた時点で叱ったりするのが普通の反応なのだが、ゴルダはその少女に対しては勝手に家の敷地に入って来られた怒りや不快感は一切感じず、医学的なものを含めた興味を抱いていた。
そして、遠目でも普通の少女ではないと分かるほどに異様で読めない雰囲気を出している少女は普通に人が歩く平均的な速さでゴルダに歩み寄り、いきなりどこかか鎌を取り出すや、横一文字に切りつけてきた。
ゴルダは少女が鎌を切りつけてくるよりも早いタイミングでブリッジ姿勢をとり、鎌の斬撃を回避。
ゴルダに当たらなかった鎌はその背後の野菜をバッサリと切り刻んだ。

「お嬢さん、あからさまな敵意があるわけでもない見ず知らずの相手に突然切りかかるのはどうかと思うぞ?」

ブリッジ状態を解除し、ゴルダは外したかとがっかりしている少女に見ず知らずの相手にいきなり切りかかるのはいただけないと話しながら自身もすぐに武器を構えられる態勢になる。
すると少女は鎌を下ろしてふふふと笑うと

「ふむ、コロンの奴の言った通りじゃな。これは骨が折れる相手だ」

いきなりコロンの名を口にする。
どうやらコロンと知り合いらしいが、詳細が判然としない。
ゴルダはなおも警戒を解かずに少女に

「コロンの名を出したということは、その知り合いだな?だが、それを差し引いても不意打ちしてきたことに関しては納得がいかん」

コロンの知り合いだなと確認した上で、それでも不意打ちしてきたことには納得がいかないことを話す。
少女は、警戒しっぱなしのゴルダの目を見据えながら至近距離まで近づくと

「お主はコロンの暗殺術をもってしても倒すのは難しいと聞いておってな、その実力がいかがなものかを試してみたかっただけじゃ。だがその様子ではそれを試そうとすれば私もただでは済まなさそうということでやめじゃ」

以前コロンがゴルダに話していたことと同じ話を聞いて興味が湧き、試しに決闘のようなものをふっかけに来たが、それをすれば自分がただでは済まないと判断したのでやめたと話す。
これで少女が自分に明確な敵意がないと断定したゴルダはすぐに武器を出せる構えを解き、少女に

「コロンの知り合いということは、名は聞いているだろうが改めて名乗ろう。ゴルダだ。お嬢さんの名前は?」

顔の前で両手を合わせて頭を下げるという挨拶をしながら少女に名を聞く。
すると少女は、先ほど野菜を切ってしまったせいで汚れた鎌を気にしながら

「瑠璃夢、これでよいかの」

瑠璃夢と名を名乗った。

「かわいい奴よの」

「離してよー」

その後、ゴルダは家の中に瑠璃夢を招き入れて不快に思われない程度にコロンとはどういう関係なのかを聞いていた。
なお、瑠璃夢はフウを気に入ったようで自分の膝にずっと座らせたままにしている。
一方でユウやミリシェンスにへフィアにも興味を示していたが、忙しそうにしていたので結局フウに白羽の矢が立った。

「詳しくは話したくないが、コロンとは友人ということでいいんだな?」

「そう話したじゃろう?ミリシェンス、もう一杯もらおうかの」

確認がてらに聞いたゴルダに、瑠璃夢はそう話したではないかと不満げに返した後、ミリシェンスにアイスティーのおかわりを要求する。
ミリシェンスはそんな瑠璃夢を図々しくないかと思いながらも、グラスにおかわりを注ぐ。
瑠璃夢は注がれたそれをいかにも上品そうに飲んでから

「コロンから聞いておったが、お主は変わった生き物の医者をしているようじゃな。竜、そして竜以外の幻想生物とやらを診るとのことじゃが」

フウの頭を撫でつつゴルダの幻想獣医という仕事について触れてきた。
その物言いから真意を完全に読み取ることは不可能だが、瑠璃夢は竜などの普通とは違う幻想生物への概念を理解ていることを前提に聞いてきているようである。

「知っていて聞いていると判断した上で話すが、診る相手が人間や亜人でないだけでそれらの医者とは変わらん仕事だ。人間や亜人のそれより死神は近くにいるがな」

ゴルダのこの返しに対して、瑠璃夢は軽く口元に笑みを浮かべてフウを解放すると

「よきかなよきかな、私は断然お主に興味が湧いた。今度はコロンと一緒にお邪魔するとしよう」

遠回しにもう帰ると言い出す。
するとミリシェンスが

「あら残念。雪見だいふく出そうと思ったのに、お帰りなら必要なさそうね」

雪見だいふくを出そうとしていたと言った瞬間、瑠璃夢は急に掌を返して

「やはりもう少し居るとしよう」

まだ帰らないと言い出す。
どうやら雪見だいふくは瑠璃夢の好物のようだ。
ミリシェンスは急に掌を返した瑠璃夢に特に苦言を漏らすわけでもなく、冷凍庫から雪見だいふくを出して皿によそってユウに運ばせた。

「ふふふ、私はこの至福の時のために生きているといっても過言ではない」

ユウから雪見だいふくを受け取った瑠璃夢は、今まで見せたことのない笑顔をゴルダに見せつけた。
それを見て、今の今まで傍観を決め込んでいたマティルーネが

「やっぱり至福の時って顔に出るのよね、あなたと違って」

皮肉交じりにそんなことを呟いたとか。

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フォルテの森に作用をもたらさんとするものたち

例年より多少早めに梅雨が明け、夏の入りを果たしたリフィル。
王立大では、この梅雨明けの時期から前期末試験が始まる講義もある。
そして、ルーエが留学中の学科でももう前期末試験が始まっていた。

「師匠、何かヒントくださいよー」

「ダメです、まずは自分で考えてみないことには何も始まりませんよ?」

「ふみゅう」

講義棟の涼しい自習室であらゆる魔法書を広げながら調べ物をしていたルーエは、シュトラーレンにヒントをくれないかとせがむも、
あっさり拒否された。
ちなみに、ルーエが今何をしているのかというと、とある講義の前期末試験代わりの課題レポートの題材探しである。
その課題レポートとは、魔法やそれに類する能力や事象のことをまとめなさいというものだった。
しかし、このジャンルが多岐に渡るがためにどれについてまとめようかと悩んでいるうちに期限が過ぎて単位保留となる学生も決して少なくはないのである。

「何事もまずは自分で調べないと身に付きませんよ。調べたうえでどうしようもないというのならば誰かを頼るというのもありですけど。でも私はレポートに関しては一切手を貸しませんからね」

誰かに頼る前にまず調べなければ身につかない、それでも分からなければ聞くことと言っておきながら自分は一切手助けしないと宣言したシュトラーレンにルーエは

「師匠のけち」

と言って、そこらじゅうに広げていた本やレポート用の紙を片付けてどこかへ行ってしまった。
シュトラーレンは、そんなルーエを引き留めもせずにいってらっしゃいと言いたげな目線で見送る。

「フィルス、います?」

「あれ?どうしたのまた今日は?」

そんなこんなでルーエがやって来たのは、リフィル王宮の図書館。
どうにもこうにもレポートの題材が決まらないので、フィルスに助言をもらおうと思ってやって来たのである。
なお、今日もフィルスは王宮図書館の司書の仕事をしていたようで、案外簡単に見つかった。

「なるほどね、レポートか」

貸し出し中の本のリストを整理しながら、フィルスはルーエの話を聞いてそう返す。
ルーエはフィルスがどんな返答をしてくれるのかを期待しながら待っていたが、フィルスから返ってきた返事は

「僕もちょっといい案は思いつかないかな」

自分もいい案は思いつかないというものだった。
やっぱり自分で探さなければらなないのかとまたがっかりしかけたルーエだが、フィルスは続けて

「でも、あそこに行けばいいレポートが書けるかもしれないな。そのためにはアルガティアに話を通してゴルダにもついて来てもらわないと」

何かレポートの題材が見つかるいい場所があるようなことを言う。
それを聞いたルーエは、ようやくかと目を輝かせてフィルスを期待の目で見つめる。
ルーエに期待の目で見られていたフィルスは、リストの整理を終えて図書館を出た。

「フォルテの森へ行きたいのね」

「ルーエのレポートの題材が見つかるかなと思ったんだけど、今から行けるかな?ゴルダも同伴で」

フィルスがアルガティアに持ち掛けたのは、ルーエをフォルテの森へ連れていけないかというもの。
おそらく、バウムとアルガティアが一緒にいることにより生じるあの二者間限定の相互反応に関してのレポートが書けるのではないかとにらんだのだ。
だが、アルガティアだけでフォルテの森へ行くと確実にアルガティアが帰るのを拒むことが分かっているので、ゴルダも連れていくというのが条件ではあったが。
その提案にアルガティアは持っていた紅茶のカップを置いてから

「じゃあゴルダと話してきてもらえる?畑でイファルシアとエゼラルドと話をしているはず」

ゴルダが畑でイファルシアとエゼラルドと話をしているはずなのでフォルテの森へ行くからついて来てくれないかと話をしてきてほしいと言う。
フィルスはそれに頷き、庭園の畑へ。ルーエはそのままアルガティアと話をしていた。

「ん、何か用か?」

カボチャ畑の前でイファルシアとエゼラルドと話をしていたゴルダが、フィルスに気づいて何か用かと話しかけてきた。
頭の上には当然ながらマティルーネが居座り、暇そうにしている。
フィルスはゴルダにフォルテの森へルーエを連れていきたいことを話し、ついて来てくれないかと頼む。
ゴルダはそれに対しては二つ返事で

「構わん、お前の頼みならばな。だがルーエ本人の口からも聞きたいな」

フィルスの頼みならばと了承はしたものの、ルーエ本人の口からも頼むという一言を聞きたいと言う。
そのゴルダの一言に、フィルスはそれにだと思ったという顔をして

「ルーエなら今アルガティアと話しているよ」

アルガティアのところにいると話す。
ゴルダはそれに分かったと呟くと、アルガティアのところへ行ってしまう。
残されたフィルスはイファルシアに

「ルーエがフォルテの森に、ねぇ。大丈夫かしら」

フォルテの森にルーエが行っても大丈夫なのだろうかと聞く。
フィルスはそのイファルシアの問いに首を横に振って分からないと返す。

「あらあら、ルーエとどこへ行かれるつもりですか?そしてフォルテの森とはどんな場所で?」

背後から突然聞こえた声にフィルスが振り向くと、そこにはシュトラーレンがいつものにこやかな表情で立っていた。
どうやら、今までの話を何らかの手段を使って聞いていたようだ。
これは答えないと何をされるか分からないと咄嗟に判断したフィルスは、シュトラーレンに

「ルーエの課題レポートのヒントになりそうな場所だよ、危ない場所ではないから大丈夫」

フォルテの森がルーエの課題レポートのヒントになるかもしれない場所であることと、そこまで危ない場所ではないことを話す。
シュトラーレンは、フィルスの話を聞いてふうんと言いたげにしながら

「そうですか。では私もご一緒させてもらいますね、やはりルーエが心配なので」

自分もフォルテの森へ行くと言い出す。
フィルスはこれにはだと思ったという顔をしながらかなりの大御所になると思うのであった。

その頃、フォルテの森ではというと

「ふぅむ」

物思いにふけるバウムが思わずそんな一言を口にした。
すると、それに反応するかのようにフォルテが木の上からどうしたのかねとバウムに声をかける。
バウムはそれに対し、フォルテにこう返す。

「いえ、またアルガティアが来そうな気がしましたので。そして新たな客人も」

「またあの女王が来るというのか、今日こそは暗くなる前に帰ってほしいが難しいかもしれないな」

「ですね。しかし今は待つことしかできませんよ」

アルガティアのことだけに気が向いてしまい、新たな客人に関してはフォルテは全く気にも留めなかったが、バウムも結局は追及はしなかった。

それからしばらく経ったフォルテの森。
そこへゴルダとマティルーネをはじめとしたルーエ、シュトラーレン、アルガティア、フィルス、イファルシア、エゼラルドの一行がやって来た。
初めて来るというのに、ルーエもシュトラーレンも特に驚く様子もなく

「いい場所ですね」

「師匠もそう思います?」

まるで何度か来たことがあるかのような素振りで森の中を見回していた。
それを見ていたゴルダは初めてフォルテの森へやって来た自分を思い出しつつ、森の奥の方へと歩みを進める。
少し森の奥へ進むと、どこからかスノーウィーが現れゴルダの肩へ乗ると

「新しいお友達でも連れてきたの?」

シュトラーレンとルーエを顎で指しながらそんなことを聞く。
ゴルダは、肩に乗って来たスノーウィーの思考が理解できないような目線を投げかけながら一応そうであると返す。
スノーウィーはそれを聞いて変なことしなければいいけどと呟き

「そういえばバウ様はあなた達が来ることを察知していたようよ、そこの新しいお友達のことも」

バウムが来ることを察知していたと話す。
すると、察知という言葉に反応したのだろうか、シュトラーレンがスノーウィーに

「そのバウ様というお方は、かなりの力を持っているみたいですね。まだ会ったことのないものを含め、誰かが自分のところへ来ることを察知するというのは熟練の魔術師や魔法使いに魔女でも厳しいですからね」

バウムはかなりの力を有しているのだろうと、とても興味があるという意を含めて言った。
それを聞いたスノーウィーは、いきなり話に割り込まれたことよりも、シュトラーレンがバウムに興味を抱いていることにむっとしたのか

「ば、バウ様にはボクが手を出させないよ!絶対にね!」

バウムに手は出させないとシュトラーレンに宣言する。
シュトラーレンはそんなスノーウィーにこう言う。

「安心してください、私がそのバウ様という存在に興味があるのは魔法的なものだけですよ。とっ捕まえて何かひどいことをするということは絶対にありません。それと名乗り忘れていましたが、私はシュトラーレン。あなたは?」

「…ボクはスノーウィー、氷竜の類さ。シュトラーレン、そうは言ってもボクは完全には信用してないからね」

完全にではないがスノーウィーの誤解が解けたことにゴルダはやれやれと思いつつ、冷凍イチゴをスノーウィーに差し出す。
冷凍イチゴを差し出されたスノーウィーは、今しかたあったことを忘れたかのように差し出された冷凍イチゴを頬張った。

「師匠を悪く言うなんて、好感が持てない竜」

「まあまあ、スノーウィーはそういう一面もあるから大目に見てあげてよ」

スノーウィーの態度にルーエは好感が持てないと愚痴ったが、フィルスがそういう一面もあるとフォローを入れる。
だがそれでもルーエはシュトラーレンのことを悪く言われたことを根に持っているようで、絶対にスノーウィーと目を合わせようとはしなかった。

「ようこそ、フォルテの森へ。私はバウムだ」

やがて一行は神木がある場所へ到達し、バウムに出迎えられた。
シュトラーレンはバウムを見て一瞬いつもの笑顔の表情から険しい表情をしたかと思えばまた元通りの笑顔へ戻り、頭を下げる。
ルーエは、シュトラーレンがバウムからとてつもない何かを感じ取ったのだろうとは判断できたものの、追及すると厄介なことになりそうなので帽子を取り、同じくバウムに頭を下げる。

「もふもふ」

しばし互いに沈黙のまま突っ立っていたが、唐突にエゼラルドの背に乗っていたアルガティアが飛び降りてバウムをもふもふしだしたことで一応両者の沈黙は破られた。
そして、アルガティアがバウムをもふもふしだした瞬間ルーエは今までとは違う力を感じる。
一方はバウムから放出される想いの力、もう一方はアルガティアの純粋な魔力。
それらがどういう原理で反応しているのかは全く持って不明だが、魔力でも想いの力でもない全く別の力。
あえて言葉で表現するならば、落ち着きと安らぎをもたらす力、すなわち癒しの力だ。

「師匠、力と力が相互反応を引き起こして全く別の力になるってことはあり得るんですか?」

ルーエの問いに、シュトラーレンは答えようとしない。
どうやら、この癒しの力について長考に入ってしまったようだ。
これではダメだと思ったルーエは、今度はスノーウィーとマティルーネにそれぞれ冷凍果物とニンジンを与えているゴルダと、何かを記録しているフィルスに同じことを聞く。
すると、ゴルダとフィルスから

「ないわけではないが、極めてまれな例なので詳しい原理などは分からない」

という全く同じ回答が返って来た。
ルーエは詳しい原理は分からないという回答に納得がいかない様子だったが、フィルスもゴルダも本当にその点だけは分からないというのを察し、この力と力の相互反応を題材にどんなレポートを書こうかと考え始める。

「あなた、想いの力は信じる?」

どんなレポートにしようかと考えているルーエに、ふとスノーウィーが話しかけてきた。
ルーエは最初こそは無視したが、スノーウィーがかなり真剣に聞いていることを察して

「何であれ力は力に変わりないとボクは思うよ、そしてそれをどこでどんな風に使うかは使用者次第」

力は力に変わりないことと、どんな風に使うかは使用者次第であると返す。
スノーウィーはそれにあなたもそういう考えなんだと言いたげな顔をして

「やっぱりそうだよね、ボクも同じ考え」

自分も同じ考えであると言った。
ルーエはスノーウィーが自分と同じ考えであるということに大して驚くわけでも嫌な気分になるわけでもなく

「ふみゅう」

と同意も否定もしないと言いたげに返すのだった。

さて、それからどれくらいの時間が経過したのかは不明だが、ゴルダはいつの間にか木の上で瞑想をし、シュトラーレンはアルガティアとバウムにもたれかかっており、フィルスとルーエはバウムの背に乗ってレポートについて考え、イファルシアとエゼラルドは昼寝中、ゴルダはスノーウィーを肩に、頭にマティルーネを乗せたまま瞑想をしていた。
そしてそれを少し離れた場所からフォルテが傍観している。

「ここまで神木の周りが賑やかになるとは、な。いいことなのか悪いことなのか、私にはまるで判断できない」

フォルテはそんなことを呟きながら瞑想中のゴルダの隣へと移動し、バウムに

「癒しの力とはまた別の力が生み出されているようだ。だがこればかりは私にもどんな力なのかは分からぬな、そこの竜の医者も分からぬだろう」

シュトラーレンがもたれかかっている影響でまた力の相互反応が生じて新たな力が放出されているが、それがどんな力なのかは自分にもゴルダにも分からないだろうと言う。
バウムはそのフォルテの一言に、シュトラーレンは分かっているようですよと言いたげな目線を送る。

「ふふっ、バウ様の想いの力と私の魔力がどんな相互反応を起こしてどんな力を放出しているか。知りたいですか?残念ながらそれは私にも分かりません。でも、悪い力ではないでしょうね。むしろこのフォルテの森に正方向での作用をもたらすもの、私はそう思っています」

だが、シュトラーレン自身もそれがどんな力なのかは分からないとした上で、それが悪いものではなく、むしろこの森に正方向での作用をもたらすと話す。
フォルテはそれに短く鳴いた後にこう言う。

「正の方向の作用であれ、負の方向の作用であれ、力の使いどころを間違えると取り返しのつかないことになることもあるだろう。お前さんも、その弟子も、ここにいるもの皆全てそれは一番よく理解しているはずだ。さて、そろそろ日が暮れる。暗くなる前に帰りたまえ」

「ええ、そうさせてもらいます」

この時、シュトラーレンは若干気づいていた。
自分の魔力とバウムの想いの力が反応した結果、どんな効果のある力を生み出すようになったのかを。
バウムとアルガティアの間で放出される二者間限定だったはずの癒しの力を取り込み、その効果の対象を非限定的にしていることを。
そして何より、ルーエ自身の魔力も相まって神木の近くにいるものたちの運気をわずかながらにあげていることを。

「うん、これならいいレポートが書けそう」

「手伝うよ、たぶん君だけじゃ書けないだろうから」

「ふみゅう」

ここで、ルーエのレポートの題材が決まったようだ。
フィルスが自分の力を借りないと書けないだろうと言っているあたり、それなりに難易度が高い様子ではあったが。

「ふかふか、ふかふか」

ずっとバウムの毛をもふもふしているアルガティアを見て、シュトラーレンはどうにも自分はルーエへの接し方が間違っているのではないかと思うのだった。

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ある長雨の日に

長い雨の影響でろくに牧場の仕事もできず、めぼしい依頼も最近はめっきり来なくなり、診察依頼は2日に1件あるかどうかの日々が続いていたある日。
今朝は牧場と庭の畑の作物に長雨対策の魔法を施して戻ってきたゴルダは、冷房と除湿機が同時に稼働している居間のソファでタイトル不明の若干ゴシップ寄りの雑誌を顔に乗せて寝ていた。

「また寝てる」

「起こさないで、昨日は久しぶりに朝から夜までぶっ通しの依頼に行ってて寝てないんだから」

そんなゴルダを、へフィアがまた寝てるとまるで何もしていないかのような口調で言ったのに対し、ミリシェンスは起こすなと咎める。
咎められたへフィアは、起こすわけないでしょという顔をしながら刃物研ぎの作業へ戻った。

「暇が出るってのはいいことだけど、どうにも違和感があるのよね」

ゴルダの腹の辺りで丸まって寝ていたマティルーネが目を覚ますや、そんなことを言う。
やはり、ほとんど働き詰めにもかかわらずミリシェンスが健康だと医者の判断を下すゴルダがこうして暇を持て余しているのを見ると違和感を感じてしまうのは誰しも同じなようだ。

「不思議よね、今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなった瞬間にまるで穴でも空いたかのように違和感を感じるようになるんだから」

ミリシェンスのその言葉に、マティルーネはうんうんと頷く。
なおへフィアは聞いてなかったのか、包丁研ぎに集中している。

「何の話をしていた?」

とここで、ゴルダが目を覚ましてミリシェンスとマティルーネに何を話していたのかと聞く。
それにミリシェンスは他愛ない話よとはぐらかし、マティルーネは起きたゴルダにニンジンを要求するかのように爪を立てる。
しかし、半覚醒睡眠をしていたゴルダには2人が何を話していたのかはお見通しなのであえて触れずにマティルーネを撫でてひとまず退くように促し、退いたのを確認してからソファから起き上がる。
外は相変わらず雨が降り続いていて、除湿機の真上にはずらりと洗濯物が干されていた。
一応乾燥機がないわけではないのだが、それでも間に合わないほどに洗濯物が溜まっている。

「あと数日は雨続きだと聞いているが、ここまで降られると除湿機を常時稼働させないと面倒だ」

頭にマティルーネが乗ったのを違和感で感じ、除湿機のそばで爆睡中のレルヴィンを尻目にゴルダは言う。
体感的には湿度は普通より少し高い程度の湿度だが、それでもジメジメしていると感じるものは感じるだろうが。

「む、野菜にカビが生えている」

「私のニンジンは大丈夫?」

常温でも保存の利くものを置いてある食料庫へ入ったゴルダだが、真っ先に食料庫に置いてあった根菜類がカビにやられているのに気付く。
カボチャやジャガイモ、タマネギに大根などなどに色とりどりのカビが生えていた。
マティルーネにニンジンは大丈夫かと聞かれてゴルダがニンジンを調べると、いくつかはカビだらけになっていたが全滅はしていなかったのが幸いだろう。

「環境一定化の魔法の効力がまた弱まってきて湿度が上がった結果なこれは」

根菜類がカビた原因をすぐに食料庫の環境一定化の魔法の効力の低下によるものだと判断したゴルダは、すぐにそれを修復。
カビがひどくて食べれそうにない根菜類は、ミリシェンスに頼んで種にしてもらった。

「雨はいい、嫌なことを洗い流してくれる。だが長雨はダメだな、気が滅入る」

「雨は嫌い、毛がベタベタするから」

そして今日も雨は降り続ける。

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小説(一次) |

スノーウィーと語る

昼の淡い日差しが池の水面に反射し、より一層幻想的な雰囲気を醸し出すフォルテの森のとある場所。
その池のほとりで、スノーウィーはまどろんでいた。
特に自分を狙うものがいるわけでもなく、何かが起きるわけでもなく、悠久とも言える退屈な時間だけが流れている。

「暇ねぇ」

スノーウィーは小さくあくびをし、水面に写る自分の顔を眺める。
そこに写っているのは、独特の角を持ち、青い羽とふわふわの体毛に覆われた氷竜としての自分の姿。
スノーウィーはそんな自分の姿を嫌ったことも好いたことも生まれてこのかた一度もない。
いや、正確には嫌ったあるいは好いたことは一度はあるだろうが、そういった記憶は自分の主が死去した際にぽっかりと空いた心の穴と共に抜け落ちている。
今でこそ、その心の穴はフォルテの森で生きていく上で支障が出ない程度には表面上塞がっているが、今でも時々その穴がまた顔をのぞかせることがあった。
心の穴が顔をのぞかせる引き金は、スノーウィー自身にも分からず、気がつけば穴が現れていたということ珍しくはない。

「なんで先立っちゃうのよ」

今は亡き主にそう愚痴をこぼしていると、背後に何者かの気配がした。
慌ててスノーウィーが振り向くと、そこには他でもない最近この森へ良く来るようになった半分は人間だが、もう半分は自分と同じ竜族の匂いがする男ことゴルダと、その頭の上にいつも乗っているマティルーネという紫毛の竜だ。

「何か用?」

そっけない態度でゴルダに何か用があるのかとスノーウィーが聞くと、ゴルダはスノーウィー目線の辺りまでしゃがんでから

「会いに来るのに必ず理由がなければならないのか?あるとすれば少し話をしたいから来た」

会いに来るのに理由はいるのか?と疑問を投げかけた上で、理由をつけるなら話をしたいから会いに来たと話す。
スノーウィーはそれにむすっとした表情で

「あなた読めないから苦手」

ゴルダに読めないから苦手だと言い放ち、聞いてあげるから何を話したいのか言いなさいと上から目線の態度を見せる。
スノーウィーのその上から目線の態度にゴルダは何も言わなかったものの、マティルーネは

「何よその態度」

上から目線な態度が気に入らなかったようで、吐き捨てるように苦言を漏らした。
スノーウィーはそれを無視し、ゴルダに早く話してよという目線で見る。
それにせかされるように、ゴルダは冷凍イチゴを差し出してから

「お前の過去への迷いについてちょっと聞きたいことがある」

スノーウィーの過去と、それが原因の迷いについて聞きたいと切り出す。
それを聞いた瞬間、スノーウィーはゴルダからもらった冷凍イチゴをぽとりと地面へ落とす。
自分が死去した主への想いを捨てきれないことから来ている心の穴と迷い、それらをゴルダ見抜かれていることに衝撃を受けたのだ。

「それから一つ断言しておくが、俺が問題視しているのはお前の心の穴と迷いだ。亡き主への想いは捨てる必要はない、亡き者が恐れるのは忘れ去られることだ。忘れ去られた時、亡き者への完全なる無へと帰す。それが死者の完全なる死となる」

衝撃を受けているスノーウィーにゴルダはなおも話を続け、スノーウィーに主への想いだけは絶対に捨てるなということと、亡き者は忘れ去られる事を恐れることを話す。
そこでスノーウィーは、あることを自覚した。
自分が生きている限り、主のことを忘れてはいけない。主はまだ自分の心の中に生きている。
だが自分が主のことを忘れてしまえば、心の中に生きる主は無へと帰してしまうということを。

「だがしかし、想いを忘れずして過去と決別するのは難しい話だ。そこで聞きたい。スノーウィー、お前は主の死で何か後悔していることはないか?誰かが死ぬことで、それを引きずる者のほとんどがその死んだ者のことで何かやり残したことなどがあることが多い」

また冷凍イチゴをスノーウィーに差し出し、マティルーネにはニンジンを、自分は得体のしれない木の実をかじりながらスノーウィーに主が死去した時にやり残したことはないかと聞く。
だが、そのゴルダの問いは無理に答えなくてもいいという慈悲を込めた物言いにも聞こえた。
再び差し出された冷凍イチゴを頬張りながら、スノーウィーは自分の心の穴と向かい合おうとする。
だが、心穴をのぞいた瞬間得体の知れない何かが穴の奥底から出てきた気がしてスノーウィーは思わず飛び上がり、若干涙目になる。

「向き合うのが怖いのよね、自分の心の穴と。大丈夫、ゴルダは無理に向き合わせようとはしないから」

それを見たマティルーネは、ゴルダが何か言う前にスノーウィーの側へ行き、なだめる。
ゴルダと長い間居たためか、マティルーネはこのようななだめ役などを率先して買って出ることが多い。

「ありがとう…優しいのねあなた」

「優しさで誰かを救えるならたやすいことよ」

この一件以降、マティルーネとスノーウィーの距離は一気に縮まり、ゴルダとの関係も若干良くなったとか。

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帰る気配のない王とフォルテの森の住人

目が覚めた時、アルガティアの視界に入ってきたのはすっかり日も暮れて月が空に浮かぶフォルテの森の夜空だった。
どれくらいの時間寝ていたのかは分からないが、アルガティアが起きたことに気がついたバウムは顔をアルガティアの方へと向けて

「だいぶ長い間寝ていたようだが、目覚めはどうだい?」

目覚めはどうかと淡々と聞く。
それにアルガティアは肩の辺りで両手を水平にして横に首を振る。
なんとも言えない、あるいは分からないという返事を意しているようだ。

「アルガティアに寝起きにそんなこと聞かない方がいいよ、頭が完全起動しているかどうかすら不明だし」

バウムの頭の上でずっと魔法書を読んでいたフィルスの一言に、バウムはわずかながら唸って

「読めないとはこのことか」

何かを悟ったかのような一言言い放つ。

「君は寝ないのかね?」

木の上で一緒に月を眺めているイファルシアに、フォルテはそう話しかける。
だがイファルシアは、フォルテを蔦で小突いただけで何も話さない。
おそらく、月ぐらい黙って見させてよという意思表示だろう。
フォルテはイファルシアの態度にホウと短く鳴いて

「眠らないというのならそれもよし。だが関心はできないものだ」

どこかへ飛び去ってしまった。
どうやらまた狩りへ行くようだ。

「邪魔しないでほしいわ、集中力途切れたらやり直しなんだから」

夜にしか草の魔力を放出しない植物の探知をしていたイファルシアは、そんな愚痴を漏らした。

「そろそろ帰った方がいいのではないかな?君は仮にも一国の王だろう」

なおもその体にもたれてもふもふしているアルガティアに、バウムは帰った方がいいのではないかと言うが、アルガティアは混沌とした目線を投げかけるだけで何も言わずにバウムの体毛を指に巻きつける。

「相互的に癒しの作用が仇になった例と言っても過言じゃないね」

読んでいた魔法書を閉じ、バウムの毛を指巻いて遊ぶアルガティアを見て、フィルスはそう呟く。
なおバウムは先ほどよりも困った顔でアルガティアを見ながら

「確かに」

とだけ返す。
その一方でイファルシアは何かの探知に成功したのか、それを探しに行ってすでに木の上には居なかった。

さて、それからどれくらいの時間が経っただろうか。
いつの間にか狩りから戻ってきたフォルテは堂々と獲物をついばみ、フィルスはバウムの頭の上、アルガティアはまたバウムにもたれて寝ている。

「バウム、少し話をしても?」

程なくして獲物を食べ終えたフォルテが、バウムに話があると言ってきた。
バウムはそれに構いませんともという顔をしてフォルテの方を見やる。

「その一国の王のことなのだが、どうにもお前と一緒に過ごすようになってから森の安定度が強化されている」

フォルテが切り出した話は、アルガティアとバウムが一緒に居ることでこの森の安定度が以前に増して強化されているとのことだった。
それに関してはバウムも薄々感付いていたので、フォルテに言われてもそこまで驚かなかったが。

「森の安定度が強化されるのはいいことだが、一国の王が森に入り浸るのは感心しないというのはお前も分かるかね?」

「それはもちろん。承知の上ですよ」

アルガティアとフィルスを起こさないように配慮しながら、フォルテとバウムはなおも話を続ける。
だが結局行き着いた話は、今後アルガティアをどうするのかという一点に絞られた。
しかし、それも容易い話ではない。
今の状況を見るに、アルガティアはバウムのことをとても気に入っているのは火を見るよりも明らか。
しかも一応のストッパーであるゴルダも毎回一緒に来るとは限らない。
この間もアルガティアが帰るのを渋っていたのを、どうにか説得して一緒に帰らせたのもゴルダである。

「困ったな」

「困りましたな」

具体的な対策案が思いつかないまま、バウムとフォルテは互いに首をわずかにかしげる。

「ともかく、現状を変えなければならないのは事実だ。夜が明けたらアルガティアを帰すように。私は一人で対策案を考えことにしよう」

とフォルテは後のことをバウムに丸投げし、また飛び去ってしまった。
残されたバウムは、その翼で上半身を毛の中に埋めて寝ているアルガティアを覆う。
眠りを妨げぬように、何かから守るように。

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夜のフォルテの森で

昼とは打って変わり、幻想的な月明かりに照らされたフォルテの森。
鳥たちは眠りに就き、今この森で起きているのは古くからこの森に住まう尾が蛇のフクロウのフォルテと、精霊のバウムくらいだろう。

「実に美しい月だ。そうは思わないかねバウム?」

バウムの住む巨木がある部分だけは空が見えるほどにぽっかりと穴が開いており、昼は柔らかな日の光、夜は幻想的な月明かりが顔を覗かせる。

「そうですな、しかし空が淀んでいる世界ではこのような光景は幻も同然」

何かを気にするようにバウムは同意する返事を返す。
バウムが何を気にしているのかというと、座っているバウムの腹の辺りに1人のエルフと、緑毛のカーバンクルがもたれかかっているのが見える。
そう、他でもないアルガティアとイファルシアだ。
なお、ゴルダも一緒に来ているがフォルテの隣に座っているのでそこにはいない。
なんとなく3人を連れてやって来たゴルダだが、アルガティアがバウムのことをどういう意味でかは分からないが気に入ったらしく、日が暮れてもこのままの状態で動こうとしないのだ。

「暗くなる前に帰りたまえとは言ったが、無駄だったようだ」

「ああなると簡単には動こうとしないからな」

いつの間にか狩ってきたネズミをついばみながら言うフォルテに、ゴルダはアルガティアはあのようになってしまうと簡単には動かなくなると話す。
フォルテはそれに困ったものだよと返し、またネズミをついばみに戻る。

「今日の月は下弦だね」

「そうは言われても、私はあまり月のことは詳しくないな」

「じゃあ星は?」

バウムの頭の上で月を眺めるフィルスの呟きに、バウムは自分は月に関してはあまり詳しくないと苦笑いしながら言う。
月については詳しくないと返したバウムに、フィルスは今度は星は分かるかと聞く。
バウムは一瞬月を眺めるのをやめ、ふうと大きく息を吐いてから

「星なら少しは分かるよ。フォルテに教えてもらったからね」

フォルテに教えてもらったので少しは分かると返して、木の上に居るゴルダとフォルテを見る。
ゴルダは何をするわけでもなくただ夜空を見上げており、フォルテは食事の最中だった。

「うーん」

一方、ずっとバウムの腹の辺りにもたれていたイファルシアは大きく伸びをして特に理由はないがバウムの腹を小突く。

「こら、私の腹を突くんじゃない」

バウムはすぐに突かれたことが分かったのか、顔をこちらへ向けずにイファルシアを咎める。
咎められたイファルシアは、ちぇっとつまらなさそうにまたもたれかかった。

「もふもふ、ふかふか」

一方アルガティアは、時折バウムの体毛を揉むように触る以外は特に何もせずにもたれたままだ。
最初こそはバウムの肉球を触って咎められたが、アルガティアの放出している魔力とバウムの放出する何かが互いに心地のいいものらしく、こうしてもたれたまま動こうとしないのだ。

なお、ゴルダはこれをバウムが放出する想いの力とアルガティアの魔力何らかの原因で相互反応を引き起こして、二者間限定の癒しの力を生み出していると見ていた。
なお、この仮説はフォルテもフィルスも支持しているものである。

「ごちそうさま。おや、まだ一国の女王様はお帰りではなかったのか」

狩ったネズミを食べ終えてゴルダの方へ向き直ったフォルテは、少しばかり心配そうに言った。
いくら癒しの力を生み出しているとはいえ、ここまで長時間居座っているのはよろしくないとフォルテは思って言っているのだ。

「悪いな、そろそろ俺も帰りたいがアルガティアがあの様子ではまだ無理なようだ」

ゴルダのその言葉に、フォルテは 参ったなとだけ返してアルガティアに視線を移す。
相変わらずアルガティアはバウムの体毛を揉むようにもふもふしており、帰ろうという意思が感じられない。
さすがにバウムも困っているようで、どうにかならないかとフォルテに目で訴えている。

「これはどうにもならんな、そして俺も眠くなってきた。しばし寝かせてもらおう」

そんなバウムとフォルテをよそに、ゴルダは木から飛び降りてバウムの後ろ足を枕代わりにして寝てしまう。

「寝ちゃったね」

「そのようだ」

「私はもう一狩りしてこよう」

フィルスがゴルダが寝てしまったのを見てそう呟くと、バウムは困った様子でそのようだと答え、フォルテはもう一狩りしてくると言ってどこかへ飛び去った。

そしていつしか気づけば、バウムもフィルスもイファルシアもアルガティアもゴルダも、ゴルダを除いて熟睡していた。
夜空の月は、バウムたちを見守るわけでもなくただ夜を照らすためにそこに存在していた。

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ゴルダとフォルテの森の仲間たち

今日もフォルテの森には淡い日差しが差し込み、幻想的な雰囲気を維持していた。
そんな森の中に、互いに向かい合ったまま微動だにしない幻想生物の医者と森の精霊が居た。
医者の名はゴルダ、この森とは別の世界からやって来たというよく分からない半人の男。
精霊の名はバウム、このフォルテの森に住まう者の想いを糧として生きている。
さて、なぜ2人が向き合ったまま微動だにしないのかという理由を説明しよう。
答えは単純明快で、単にお互いに瞑想をしているので微動だにしないのだ。

「バウさま、バウさま」

バウムの角とは違う頭から伸びた枝にミスティが止まって話しかけるが、バウムは目を閉じたまま深い集中状態にあり、一切耳を貸さない。
ミスティはそれを知らずになおもしつこくバウムに話しかけるが、やはり返事はない。

「無視するバウさま嫌い」

数分話しかけもなんの反応も示さないバウムに、ついにミスティは拗ねてどこかへ飛んで行ってしまう。
そして、ミスティが飛び去ってどれくらいの時間が経過しただろうか。
今の今まで瞑想を行っていたゴルダは瞑想状態を解除し、ゆっくりと立ち上がる。
ゴルダが立ち上がったと同時に、バウムも瞑想状態を解除して目を開き、じっとゴルダを見つめながら

「ミスティを知らないかな?」

ミスティはどこかと聞く。
その問いに、ゴルダはバウムの前右足を触りながら首を横に降る。

「そうか、知らぬかならば致し方ないな」

それにバウムは少し渋い顔でゴルダを見ながら、知らないならば仕方ないと返す。
森の中は相変わらず淡い日の光が差し込み、鳥たちの歌声がどこからか聞こえてきていた。
いつの間にか勝手に自分の体毛の手入れを始めていたゴルダをよそに、バウムはこの後どうするかを考える。
まずはミスティを探そうと考えたが、どこにいるのかの検討すらつかない状態だ。

「さてさて、どうしたものかな。ところでゴルダよ、もう手入れはいい。私の背に乗りたまええ、ミスティを探しに行こう」

異常に伸びていた毛を切ろうとしていたゴルダにバウムはもういいと言って、自分の背に乗るように促す。
するとゴルダは、普通の人間では出せない跳躍力で飛び上がり、もふっとバウムの背に正座状態で乗った。

「まだ瞑想を続けるのかね?」

バウムに正座状態で背に乗っているのでまだ瞑想を続けるのかと問われたゴルダは、いいやと否定してから

「ミスティの気配を探る、それだけだ」

ミスティの気配を探ると答えた。
それにバウムはふふっと笑うと、ゴルダが落ちないようゆっくりと歩き始める。
その体毛をもふもふと揺らしながら。

それからしばらく森の中を歩き回っていると、ゴルダが池の近くにミスティの気配を察知したので、そこへ行ってみるとミスティとスノーウィーという氷竜が池をじっと眺めているのを発見した。

「ここにいたのかミスティ」

「あらバウ様、ミスティが無視されたと嘆いていたけど?」

「少しばかり瞑想をしていてな」

バウムが声をかけると、ミスティではなくスノーウィーが反応する。
スノーウィーの話し方から、今はバウムと話をしたくないようである。
それをバウムの背の上から眺めていたゴルダは、ミスティが完全に拗ねていることを確信したものの、機嫌を直す方法までは思いつかずじまいであった。

「あなたですか?バウム様に瞑想しようと言い出したの」

「俺が否と言えば?」

傍観を決め込んでいたゴルダに、スノーウィーはバウムに瞑想をしようと言い出したのはあなたかと聞いてくる。
それにゴルダは違うと言ったら?と返す。
スノーウィーはバウムの背に乗っているゴルダのところまで飛んでくると

「さすがにあなたが嘘を言うとは思えませんけど、ボク的にはどうにも引っかかるのよね。あなた読めないところが多すぎ」

読めないところが多すぎるなどと言ってからバウムの背から降りる。
ゴルダはなんだかなという顔をしながらバウムの背から降り、こちらに背を向けたままのミスティに首輪のあたりを掻きながら

「極度の集中状態になると、誰しも自分の世界しか見えなくなる。瞑想も似たものだ」

誰でも集中し過ぎると周りが見えなくなることを説明して聞かせる。
なお、ミスティは一応それを聞いてはいたようだが全部を理解してはいないようだ。
それをスノーウィーが、ミスティにも分かりやすいように噛み砕いて再度説明して、ようやくバウムが何故自分を無視していたのかを理解した。

「なーんだ」

「しかし、あなたミスティの知力を把握して話していますか?半分くらいしかしていないよう気もするけど」

スノーウィーの小言にゴルダは、どこからか冷凍みかんを差し出して

「乙女がそんなくどくどと小言を言うもんじゃないぞ」

小言にはよろしくないと穏やかに言い放つ。
ゴルダから冷凍みかんをもらったスノーウィーは、一口で食べてから

「乙女だなんて」

とゴルダに尻尾ビンタを喰らわせた。
それを見たバウムは思わず吹き出して

「これこれ、友人にその仕打ちはないのではないかな?」

スノーウィーを咎めた。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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