氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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師匠の挨拶訪問

「師匠ー、もう少し速く歩いて下さいよー」

「暑いのだから仕方ないではないか」

そんな会話をしながらゴルダの家の近くの農道を歩くのは、他でもないルーエとシュトラーレン。
今日は講義がないということもあり、ルーエはシュトラーレンにゴルダとミリシェンスを紹介しようと自宅の場所をフィルスから聞き出し、こうしてやって来たのだ。
なお、シュトラーレンはあの日アルガティアから滞在許可をもらって以来、ルーエの部屋に居候し、自身は星の魔術を使って細々と生活費などを稼いでいた。
それに対してルーエは、シュトラーレンが居候していることには一切の文句を言わずにさせたいようにさせている。

「ここがゴルダの家かな?一軒家持っているなんて大分余裕があるんだろうな」

やがて、フィルスに教えられた場所もとい座標へたどり着いたルーエは突如として目の前に現れた一軒家を見て、ゴルダはそれなりの余裕があるのだと確信した。
話では幻想生物の医者以外に何でも屋として依頼を受けたりもしていると聞かされていたルーエだが、その生活ぶりまでは聞いていなかったのだ。

「なかなか立派な家じゃないか。さて玄関はどこかな?」

シュトラーレンはそんなことを言いながら玄関を探したが、玄関はすでにシュトラーレンの視界に入っていた。
玄関は何の変哲もない木製のドアで、特にこれといった防犯魔法がかかっているわけでもない。
ただ、ネームプレートが無いのでここに住んでいると教えてもらわなければ誰もゴルダがここに住んでいるとは思わないだろう。
ルーエがゴルダの家の周りを見て回っている間に、シュトラーレンはドアをノックする。
ドアをノックして十数秒後、ドアが開いて中から濃いめのワインレッドの体毛のカーバンクルが応対した。

「どちら様で?」

濃いめのワインレッドの体毛のカーバンクルはシュトラーレンを若干警戒するような目付きで見ながら誰なのか聞いてくる。
シュトラーレンは相手が変なことをすれば手を出すという雰囲気を出していることに気付き、まずは警戒を解いてもらおうと

「ミリシェンスというカーバンクルがここに居ないかな?あとはゴルダという医者が。私の弟子であるルーエが世話になったようで会いに来たのだが」

ゴルダとミリシェンスの名を出し、その2人にルーエが世話になったことを話した上で自分はルーエの師匠であると話す。
それに濃いめのワインレッドの体毛のカーバンクルは、シュトラーレンに対する警戒を完全にではないが、初対面の第三者レベルにまで落として

「どうぞ、ルーエの話は姉さんとゴルダから聞いてるわ」

家の中へ上がることを許可してくれた。
シュトラーレンはそれにいつも以上の笑みを口元に浮かべて

「ありがとう。お邪魔させてもらうよ、ところで名前は何というのかな?」

濃いめのワインレッドの体毛のカーバンクルに名を聞く。
すると、カーバンクルは

「へフィア。へフィア=エルティーネよ、ちなみにミリシェンスは私の姉さんね。姉妹なの」

名をへフィアと名乗り、ミリシェンスは姉で自分たちは姉妹であると説明した。

それからしばらくして、家の中へと上がったシュトラーレンとルーエは居間のソファに腰掛け、へフィアとミリシェンスと談笑していた。
ゴルダは今別に所有している牧場へ行っているので、帰ってくるのはしばらく後になるのだという。

「錬金術かぁ」

へフィアが錬金術の使い手であると知り、ルーエは強い興味を示す。
錬金術は生まれつきの適性で程度が変わってくるので、できる者はどんどん伸びるが、適性が皆無だとどんなに修行しても伸びないのだとか。

「私にも錬金術の適性あるかな?ねぇ師匠?」

シュトラーレンにそう聞いたルーエに、へフィアはくすっと笑って石ころをルーエとシュトラーレンに差し出してこう言う。

「その石ころに地の魔力を注いでみて?それで簡単に錬金術の適性の有無が分かるから」

いきなり簡単ながら錬金術を試せと言われたルーエとシュトラーレンは、若干ぽかんとしながらも言われた通りに地の魔力をその石ころに注いでみることに。
ミリシェンスはそれに、また変なことさせてと言いたげな目線を投げかけていた。
数分後、シュトラーレンは

「どうやらダメみたいだね」

と石ころをへフィアへ返す。
一方のルーエは、師匠ができないなら自分がとものすごい眼力で石ころを凝視したまま、まだ地の魔力を注ぎ続けている。

「ルーエ、無理は禁物だ。その辺にしておきなさい」

だが、極限まで集中しているルーエにはシュトラーレンの言葉は届かなかった。
ミリシェンスも、ルーエの魔力が空っぽになりかけているのに気づいてそろそろ止めさせようとしているが、タイミングがつかめない。
するとそこへ

「ただいま」

ゴルダが帰ってきた。
その頭にはマティルーネを乗せているが、熟睡中のようだ。
なお、ミリシェンスがいい加減止めさせないとと思っていたルーエはゴルダの声と気配でで集中が途切れたらしく

「ふみゅう、もう限界」

魔力を注ぐのをやめて、ソファへもたれかかる。

「へフィア、お前何か余計なことしたか?」

ソファにもたれかかるルーエを見て、ゴルダはミリシェンスとへフィアの2人にそう聞く。
ミリシェンスはゴルダの問いにはため息をつき、へフィアはやっちゃったわという顔をした。
それらからへフィアが何をしたのかを察したゴルダは、一言だけこう言う。

「客人に変なことをするのはやめろ、いいな?」

その後ゴルダはシュトラーレンに向き直って

「アルガティアから話は聞いていたが、ルーエの師匠のシュトラーレンだったかな?ゴルダだ」

人から挨拶される姿勢ではないシュトラーレンに両手を体の前で合わせてお辞儀をしつつ名乗る。
シュトラーレンは、珍しく表情から笑顔を消して真面目な表情になると

「弟子のルーエがお世話になったようで何よりですよ。アルガティアから話は聞いています」

と言った後にまたいつもの笑顔を浮かべた表情に戻り

「留学中はルーエのこと、よろしく頼みましたよ」

ルーエをよろしく頼むと、ソファから立ち上がって頭を下げる。
それにゴルダは、初めから立ち上がってやれよとは思ったがそこは大人の対応で口には出さず

「任せておけ、アルガティアからも直々に頼まれたからな」

任せておけとだけ返す。
シュトラーレンの笑顔の真意を理解することは難いが、ゴルダはシュトラーレンが非常に弟子思いであることは理解できた。

「ミリシェンス、へフィア。あなた方もルーエと同族のようですので仲良くしてやってくださいね」

ゴルダにルーエをよろしく頼むと言ったシュトラーレンは、今度はミリシェンスとへフィアにルーエと同族なので仲良くしてやってくれと頭を下げる。
ミリシェンスとへフィアはそれに対して

「え、ええ…」

としか返すことができなかった。
何せ、シュトラーレンのその笑顔の意を読み取ることが困難だったからである。
もし読み取れたとしても、それは酷く混沌としたものだっただろう。

とここで

「ふみゅう」

魔力の使いすぎでダウンしていたルーエが復活したらしく、握っていた石ころを見てぽかんとしていた。
それを見たへフィアがどうしたのとルーエの手に握られていた石ころを受け取ると

「あらあら、不純物が多いけどこれミスリルね」

石ころが不純物が多いながらもミスリルに変化していることを告げた。
つまり、ルーエには少なからず錬金術の素質があるということになる。

「ふぅむ、これは驚きですね」

「ふみゅう」

そのシュトラーレンの一言が意するものが何なのかは、誰も知らない。
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小説(交流) |

妹とも強制契約

梅雨がすっ飛ばされていきなり夏が来たような暑さのある日。
ゴルダが家を空けているので、ミリシェンスは淡々と家の中を掃除していた。
とはいえ、常日頃から綺麗にしているのでそこまで掃除をする必要もないのだが。

「どうにも綺麗すぎるのも困りものね、変な話だけど」

綺麗すぎるのもどうだかなどと従者らしかぬことを呟きながら、ゴルダがほったらかしにしている雑誌類を整理しているとその中から見慣れない魔法書が現れた。
表紙の材質はよくわからないが、革で製本されたものらしく作られてから3桁の年月は経過していることが伺える。
そんな魔法書を見て、ミリシェンスはゴルダがまたどこからか依頼の報酬でもらったのだろうかとも考えたが、もしそうならばミリシェンスが気づかないはずがない。
自慢ではないが、ミリシェンスは魔法書などの気配を感じ取れる何とも微妙な能力を有している。
感じ取れるのは、魔法書の匂いや放出されている魔力だが、これらは普通に感じ取ることは難しいのだとか。

「参ったわねえ、ゴルダに聞いたところで知らないの一点張りだろうし」

一通り雑誌を片付け、ソファに腰かけて問題の魔法書を改めて手に取ったミリシェンスがポンポンと魔法書を叩きながらそう呟いた瞬間、魔法書から先ほどまで放出されていた以上の魔力が解放された。
ミリシェンスはそれをあら?と特に驚く様子もなく、どこからか手裏剣を出して身構える。
なお、ミリシェンスが手裏剣を構え終えた時には先ほどまでそこにあった魔法書は消え、代わりに黄色い核石に濃いめのワインレッドの体毛に青い目のミリシェンスとは違うタイプのエプロンをしたカーバンクルが立っていた。

「あら、ミリシェンス姉さん」

濃いめのワインレッドの体毛のカーバンクルは、手裏剣を構えたままぽかんとしているミリシェンスにそう話しかける。
姉さんと呼ばれ、ミリシェンスはどういうことなのか状況を理解したうえでため息をついて

「姿見た時から嫌な予感がしてはいたけど、やっぱりね。ヘフィア」

ミリシェンスはそのカーバンクルのことをヘフィアと呼び、手裏剣をしまう。
ヘフィアと呼ばれたカーバンクルは、辺りを一通り見回してから

「で、契約者はどこなのかしら?姉さん」

契約者、つまりゴルダはどこにいるのかと聞く。
どうやらミリシェンスのした行為で、ヘフィアもゴルダと契約状態となってしまったようだがその原因は不明のままである。
帰ってきたゴルダに何と説明するかはあとで考えようと、ミリシェンスはヘフィアに

「何年ぶりかしら?最後に会ったのって私の体感で200年くらい前なんだけど」

こうして会うのは何年振りかと問う。
ヘフィアはそれに対してはも肯定も否定もせず、こう答えた。

「思い出せないわ、最後に何を話したのかすら」

そう、思い出せないと。
これにはミリシェンスもその場で尻餅をついて何よそれという顔でヘフィアを見た。

なおその頃、依頼で地球は日本で電車に揺られて移動中のゴルダはどことなく嫌な予感を感じ取っていた。
その嫌な予感とは、また同居人が1人増えるという意味でのもの。
だがしかし、また1人同居人が増えたところでそこまで生活がきつくなるわけでもない。
その程度にはゴルダの収入にはまだ余裕がある。

「ミリシェンスが同居人を増やしたか、やれやれ」

とここで、記憶などを共有しているが故に入ってくるミリシェンスの記憶から同居人が増えたという確信を持たせる記憶が入ってきてゴルダは心の中でやれやれと呟き、電車を降りるのであった。

「ああうん、なるほどね」

その一方、増えた同居人ことヘフィアはミリシェンスと同じようにゴルダと記憶や知識、技術などを共有するようになったので、共有されたゴルダの記憶やらを整理して一体どういう契約者なのかを把握する。
なお、ミリシェンスは妹であるヘフィアを若干心配していた。
それはなぜかというと、ヘフィアは「仕事は程よく手を抜く」というスタンスなのだが、そのスタンスをはき違えて実行しているのでゴルダに怠けていると認識される可能性が大いにあるからだ。
ヘフィアはミリシェンスほどではないにせよ、従者としては問題なくやっていけるレベルであり、火と地と聖の属性を持ち、火と地の属性を駆使した錬金術も使える。
だがしかし、はき違えたスタンスがそれらを台無しにしていると言っても過言ではない。

「ヘフィア、これを機にあなたのはき違えているスタンスを見直してほしいものね」

「見直せたらね」

ちなみに、ゴルダはヘフィアのスタンスのはき違えに対しては

「直していかんと後悔するぞ、俺との生活はとても長いものになるからな」

の一言だけで、それ以上言及することはなかったという。
なお、マティルーネはヘフィアに対しては

「なんだかなね」

とだけしか言わなかった。

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小説(一次) |

ヘフィア=エルティーネ

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性別:多分♀
種族:地と火と聖のカーバンクル
年齢:ミリシェンス同様、契約幻獣化時に概念が消えたためない
身長:ミリシェンスより微妙に大きい
性格:従者としては若干不真面目、それ以外では???(よく分からない)
イメージCV:ボイスロイドの琴葉茜と琴葉葵を足して2で割ったような感じ
唐突に現れ、唐突に強制契約する羽目になったミリシェンスの妹だと言い張るカーバンクル。
額の核石が黄色く、濃いめのワインレッドの体毛にアルカトラスと似た青い目で体型はミリシェンスと同じ。
なお、エプロンはしているがミリシェンスのような前掛けタイプではなくちゃんとしたエプロン。
地と火の属性を生かして錬金術が使えるが、そのレベルはアワパラゴンの半分程度。
それでも錬金術使いとしては実力者には入る部類の腕前には変わりない。
従者としては「程よく手抜き」のスタンスをはき違えて実行しているので、若干不真面目という印象を持たれている。
余談だが、名前の「ヘフィア」は幻獣語で「生成するもの」に似た意を持つらしい。

テーマ:キャラクター設定/紹介 - ジャンル:小説・文学

創作関係全般 |

双と聖の竜、それぞれの出会い

ある日、ゴルダの元に謎の青年が訪ねてきた。
特に危険な雰囲気がするわけでもなければ、その素性すら不明である。
頼みごとがあるというので、依頼だろうと思って話を聞いてみれば

「シアに会わせてほしい」

と言われた。
ゴルダはそれにそうかと答え、そんなことなら俺に依頼するまでもないのではないかと思いながら続けろという目線を青年へ送る。
なお、この青年の名はウェインというらしい。
どこの世界から来たのかなどは一切話してはくれないものの、そっちの気があることは十二分に伺えた。

「シアにか、特になにかしでかすような感じはしないから会わせることに関して問題はないが。こちとら何でも屋の仕事をしている以上、それに対価を示してもらわんと困るぞ」

そしてゴルダは、ウェインに依頼をする以上は対価を示してもらわないと困ると話す。
なお、それに対しウェインは対価の話だろうかこんなことを言う。

「あんたのこと、調べてないわけじゃないぜ?調べたうえでこうして依頼を持ち掛けているんだ。そう、あんたが竜の医者をしていることも、第三者に対してほとんど医学的な興味しか持たないこともな」

「よく調べているようだな、それでお前が示す対価とはなんだ?」

ゴルダは俺もさほど暇じゃないという意思表示なのか、何度か足を組み替えながらウェインに言った。
ウェインはそんなゴルダの意思表示を察して

「実はシアに会っている間、俺の友達の相手をしてもらおうかなと思ってな。もちろん竜だぞ?」

シアに会っている間、自分の友達の相手をしてほしいと対価を切り出す。
確かにウェインの友達、しかも竜が相手であればゴルダの興味を満たすには事足りる相手であろう。
ようやくウェインから対価を聞き出したゴルダは頷いてから

「よし、いいだろう。お前の依頼を受けるとしよう」

依頼を受けようとウェインに言ってソファから立ち上がる。
その際、頭上のマティルーネがずれ落ちそうになったがどうにか持ちこたえたのでゴルダは全く気にも留めずウェインと家を後にする。

そして場所は変わってシアの塔の真下。
ゴルダはここでウェインに

「このまま中の梯子を上っていけばシアのいる頂上までいける。そしてお前の友達とやらは塔の近くの森にいると」

「そうだな、多分すぐに見つかるはずだ」

シアはこの塔の頂上にいることを説明し、ウェインの友達が塔の近くの森ことを確認した上で後は勝手にシアと楽しめと言わんばかりにその場を去る。
一人残されたウェインは、なんだかなと思いつつも言われたとおりに塔の内部にある梯子を上ろうとした。
だが梯子に手をかけた瞬間、ウェインの体がふわりと持ち上がりそのまま頂上まで持ち上げられてしまう。

「何なんだこの仕掛けは」

あっという間に塔の頂上へと着いたウェインは、服の埃を払って辺りを見回す。
頂上はそこまで広いというわけでもなく、隅のほうに中が丸見えの倉庫かなにかと思わしき建物があるくらいだ。
そして、ウェインが今いる場所から十数メートルほど離れた場所に白毛の角が4本ある竜が昼寝をしていた。
寝ているためにこちらには気づいていないらしく、近づいても問題はなさそうである。

「本当に大丈夫か?」

ウェインは訝しみながらも、シアと思わしき寝ている竜へと近づく。
遠目からはよく分からなかったが、近くで見るとかなりしっとりしている毛であることが分かった。

「触ってみるか」

ウェインはそう言って、シアと思わしき白毛の竜にそっと手を触れる。
手触りはやはりしっとりしており、いつまで触っていても飽きない感触だ。
最初こそはただ手でその毛を梳いていただけだが、次第にその毛の中に体を埋めたい願望が湧いてきたかと思えば

「もっふり…」

四の五を言わずに白毛の竜の毛の中へ全身を埋もれさせていた。
その影響でその白毛の竜が目を覚ましたとも知らずに。

一方ゴルダは、塔の近くの森の中でウェインの友達を探して歩き回っていた。
だが、かれこれ一時間半近く探し回っているがどこにもそれらしき姿どころか、竜の気配すら感じない。
一応この森には野生の竜が生息しているのだが、ゴルダは竜族の感知対象を異界の竜族のみに絞っているのでそれらの竜族は感知しないのだ。

「はて、どこにいるんだ?まさかとは思うが」

「嘘言うような感じはしなかったんだけどね」

嘘の情報をつかまされたか?と疑い始めたところでマティルーネがウェインからはそんな気はしなかったと返す。
それにゴルダは確かにそうだなと返し、気を改めてウェインの友達探しを再開。
するとその後五分足らずでゴルダの感知に何かが引っかかった。

「この気配、何なんだ?二つなのか一つなのかはっきりしない反応だが」

顎に手を当てて思慮にふけていると、突如ゴルダの目の前に反応の主と思われる竜が現れる。
初見でもその容姿の異様さにすぐ気付く者もいるだろうが、この竜、体は一つしかないのに気配が二匹なのだ。
どういうことなのかと思いがちだが、よく見れば左右で姿が違うのが分かる。
おそらく、双竜と呼ばれる類の種族だろう。

「おや?」

「あら?」

白と黒の双竜はゴルダを見るや、興味深そうな視線を投げかけてくる。
それに対してゴルダは一瞬剣に手をかけてマティルーネを守るかのような素振りを見せたが、双竜は襲う気はないと言わんばかりに目線をゴルダの顔の辺りまで下げて

「お前がウェインの言っていた人間か?」

「あなたがウェインの言っていた人間ね?」

二人同時に話すのでどっちが話しているのかが分かりにくかったゴルダだが、この双竜はどちらも性別が違うようなので声の高さが違っていたので容易に判別できた。
こういったタイプの竜族を今までに見たことがなかったゴルダは、ウェインがどうやってこの双竜と知り合ったのかが気になってきた。

「ところでお前、名をゴルダと言ったか?」

「あなた名前、ゴルダだったかしら?ウェインから聞いているわ」

相変わらず双竜が同時に話すので、ゴルダは双竜に

「確かに俺はゴルダだ。そして頼みがあるんだが、話す時はどちらか一方だけが話してはもらえないか?同時に話されると分かりにくくてな」

名はゴルダで当たっていることを告げた上で、双竜に話をするときはどちらか一方だけにしてくれるように言う。
すると双竜はこれは失礼と言わんばかりに、スッと白い方が消えて黒い方だけが残る。
かつては人を食っていたような雰囲気を出しているが、今は落ち着いているようだ。

「これでいいか?っと、俺はバーンだ。よろしくな」

「ゴルダだ」

名をバーンと名乗る。
ゴルダは黒い方ことバーンにいつもの調子で名乗り返し、その場に座った。
バーンは座ったゴルダを見てふっと笑うと、スッと消えて白い方と入れ換わる。
白い方はバーンとは違って人を食らっていたというような雰囲気は感じられず、慈悲と母性にあふれた雰囲気をしているがその目からは昔は人間のことをあまりよろしく思っていなかったことが伺える。

「ふふっ、ウェインから話はいっぱい聞いているわ。竜のお医者さんなんですってね?私はハーレインよ」

白い方はハーレインと名乗り、バーンよりもゴルダとマティルーネに興味を持っているようでその頭をかなり近くまで近づけてきた。
ゴルダもマティルーネもそれにはさほど驚かずに、ハーレインの頭を撫でてやる。
ハーレインはゴルダに頭を撫でられて

「んふふっ」

と笑い、軽く頭突きをしてくる。
その頭突きが存外強かったのかどうかは不明だが、頭突きでゴルダはその場で転倒しかけたもののどうにか持ちこたえた。
ゴルダが倒れかけたのを見て、ハーレインは思わず

「あらあら、ごめんなさいね」

ゴルダに誤り、その顔を舐める。
顔をなめられたゴルダは、少々渋い顔をしながらもハーレインの頭をまた撫でて

「ハーレインはかわいい奴だな」

と言ってまた顔を舐められたのであった。

その頃、ウェインはというと白毛の竜ことシアが起きたことも知らずに夢中でもふもふしている最中だった。
シアの方は、片目を開けてウェインをじっと見ているものの相変わらず気づかれていない。
そこで、シアはそっとウェインの背を尻尾でトントンと叩いてみることに。

「うー…ん?やっぱりもふもふだな」

だがウェインはそれに気づかず、シアの腹のあたりの毛に完全に全身を埋めてしまっている。
ここまで来ると、シアも少し手荒な手段を講じざるをえないと判断したのか、ウェインの体に尻尾を巻きつけて毛の中から引きずり出し、自分の眼前まで連れてくる。

「もふもふするのはいいけれど、挨拶くらいはして欲しいものね。ウェイン?」

「えーっと、その…」

シアに眼前へ連れてこられ、ウェインは顔を赤らめながらうつむく。
どうやらかなり恥ずかしいようだ。

「私は触られるのは構わないスタンスだからどうでもいいのだけれど」

解放されはしたものの、シアの目に射止められているウェインはただただ顔を赤らめたままシアを見つめることしかできない。
シアはそれに対しては特に問い詰めることはせず、慈悲深い目で見つめながらウェインの方から話すのを待っていた。

だが、ウェインはシアの慈悲深い目線の虜になったのだろう。
その目をじっと見据えたまま何も話さず、そっと寄り添うだけであった。

そしてその一方でゴルダは何をしているのかと言うと、ハーレインの頭にマティルーネを乗せて自分はハーレインをまじまじと観察中。
バーンと比べてとっつきやすいのか、マティルーネがハーレインに懐くのにそこまで時間はかからなかった。

「対応魔力不明、エーテルへの耐性はそれなり。そしてシアに匹敵する母性と慈悲深さ、属性は不明」

ぶつくさ言いながらメモをしていくゴルダを、ハーレインは目線だけでそれを追う。
変なことをするような人間ではないことは理解しているのだが、どうしても何をしているのかが気になるのだ。

「ふふっ、そんなに私が珍しい?」

頭に乗っているマティルーネを落とさないように頭を下げ、ハーレインはゴルダに問う。
だがゴルダはそれに答える時間すら惜しいのか、問いには答えずにハーレインの前足の爪をコツコツと叩いて何かを調べ始める。

「ちょっとくらいは話をしてほしいんだけど、ダメかしら?」

ハーレインのうるうるしたその口調にゴルダは一つ大きく深呼吸をしてから

「珍しいと言えば珍しいな、この手のタイプの竜は幻想生物学の本でしか見たことがない」

珍しいと言えば珍しいともっともらしい返事を返して、どこからか出したブルーベリーのソイジョイを食べ始める。
微妙に原材料が違うが、ソイジョイはこの世界でも販売および生産されているという。

「あなたが医者になった理由を聞いても?」

ソイジョイを黙々と食べるゴルダに、ハーレインは気になっていたのよと言わんばかりに聞く。
なお、バーンは完全にハーレインに体を預けたままで出てくる気配がない。
おそらく、自分が出てくればマティルーネが警戒してしまうからだと判断したからだろう。

「俺が医者になった理由か、少しばかり長くなるがいいか?」

「ええ、ぜひ聞かせて?」

医者になった理由を長くてもいいので聞かせてと言いつつ舐めてきたハーレインにまた渋い顔をしながら、ゴルダはルライエッタに家庭教師をしてもらっていた時の話を始めた。
それが一番ゴルダが竜医を目指すきっかけとなったからである。

「そう、複雑な過去があったのね」

「だが俺は今を楽しんで生きているぜ。過去を悔やむよりも、未来を憂うよりも今をどう生きるかだ」

その頃ウェインは、まだ顔を赤らめながらも自分についてシアに語り終えたところだった。
シアはそれを子供の空想話を聞くかのような感じで黙って聞いていた。

「やっぱりシアさんは美しいな」

「あらあら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの」

ウェインはお世辞ではなく本気で言ったのだが、シアがそれをどちらの意で汲み取ったかは不明である。
ウェインはシアが嬉しそうにしているのを見て大きく欠伸をしながら伸びをする。

「眠い?」

「少しね」

眠いのかと聞かれたウェインは、少しばかりと答えてシアの前足の辺りを撫でる。
するとシアはウェインを尻尾で腹の辺りに引き寄せて

「寝ていいのよ、私ももう少し昼寝するわ」

どこからか落ち着く匂いを出しながらウェインに言う。
その匂いにウェインは、あっという間に眠りに落ちてしまった。
シアの聖母のごとき表情を見ながら。

「そう、そうなのね」

「稼げるからとかそういう理由じゃない。俺は純粋に知的探究心から竜医になった」

ウェインが眠ってしまった頃、ゴルダもハーレインに自分が竜医になった話を聞かせ終えていた。
純粋な知的探究心から竜医になったことを聞かされて、ハーレインはどこか安心していた。
そして確信した、この人間ならウェイン同様信じてもいいと。

「あなたなら信用するに値するかもね。ウェインが興味を持つ理由も頷けるわ」

ずっと頭の上に居座るマティルーネを気づかいかながら、ハーレインはゴルダの頬にそっとキスをする。
唐突にハーレインにキスをされたゴルダは、疑問を持った目で

「これは心から信頼している相手だけにする行為じゃないのか?」

などと聞く。
ハーレインはそれにはこうとだけ答える。

「あなたがウェインと同じくらい信用できると分かっての行為よ」

ゴルダはそれに

「そうか」

とそっけない返事を返し、またハーレインに舐められた。

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師匠と弟子と

最近リフィルでは異界からの留学生などが増えたことにより、微妙にアルガティアの仕事が増えている。
普通は書類と念写されてきた写真だけで最終的な入国などの許可を下すか否かを決めるのだが、まれにアルガティア自ら会って話をしてから判断する場合もあるという。
その際は必ずフィルスが補佐について判断するのだが、それでもリフィルへの入国や王立大への留学を却下した事例は今のところない。
そして今日も、アルガティアが直々に会って判断を下す必要のある入国者がやって来たようだ。

「この獣人がそう?」

『シュトラーレン=ナハトグランツ』と名前の書かれた書類と、細目で笑みを浮かべて杖を持つ三毛猫の獣人の念写写真を見てアルガティアは入国管理官に尋ねる。
自己申告書類では何ら問題はなかったのだが、リフィルに来た理由を

「王立大に留学中の弟子に会いに来たのよ」

の一点張りで具体的な理由を話してくれないので、アルガティアにどうにかしてくれないかと頼んできたのだ。
無論、アルガティアはこれに二つ返事で了承して本人をここへ連れてくるように命じる。

「ルーエに雰囲気が似ているのよね、あの子もここへ連れてきて」

さらにアルガティアは、シュトラーレンがルーエと同じ雰囲気を放っているとして、ルーエも連れてくるようにイファルシアに命じた。

「なんだか嫌な予感がするんだよなぁ」

イファルシアがルーエを呼びに行ったのを見て、フィルスはそう呟く。

それからおよそ一時間後。
入国管理官の代理が、例の三毛猫獣人を連れてアルガティアのところへやって来た。

「どうぞおかけになられて」

「何か悪いことでもしたのかと思いましたが、私の誤解だったようですねぇ。失礼します」

三毛猫獣人こと、シュトラーレン=ナハトグランツは杖をテーブルにもたれさせるように起いてから椅子に座る。
色までは判断できなかったが、オッドアイのようで、三尾であることも確認できた。

「リフィル国王、アルガティア=リフィル=ライラです。手数かけさせてごめんなさいね」

「書類でお名前はお知りかと存じますが、シュトラーレン=ナハトグランツです。手数かけさせられいることは気にしてないので大丈夫ですよ。ところでそちらの青い毛のカーバンクルは?」

一通り互いに名乗り合い、さて話を始めようかという時になってシュトラーレンは自分の書類に目を通しているフィルスのことをアルガティアに聞く。

アルガティアはその問いに対しては一言だけ

「フィルスよ」

と答えてそれ以上は何も話そうとせず、従者の運んできた紅茶をシュトラーレンに出す。

「あまり熱いのは好きではないのですがね、元々の種族的には」

シュトラーレンはそんなことを言いつつも、出された紅茶を飲む。
そしてシュトラーレンが紅茶を口にした瞬間、イファルシアがルーエを連れて戻ってきた。
治癒魔法演習がどうだなどと言っている辺り、講義の最中に呼び出されたようだ。

「おやおや、その声はルーエではないですか」

「あっ、師匠!」

ルーエがぶつくさ文句を言っているのを聞いたのか、シュトラーレンは振り向かずにルーエに話しかける。
するとルーエは、その後ろ姿と声からすぐにシュトラーレンと分かったようで、その隣に座って師匠と声をかけた。

「思った通り、あなたとルーエは師匠と弟子の関係だったのね」

紅茶片手に言うアルガティアにルーエはてへへと笑いながら

「師匠はボクに星の魔術を継がせてくれた、ただ一人の存在だよ」

シュトラーレンが自分に星の魔術を継承してくれたと話し、それに同意を求めるかのようにルーエはシュトラーレンに期待するような視線を投げかける。
シュトラーレンは程よく冷めてきた紅茶を一気に飲み干してから軽く縦に首を振っただけで済ます。

「師匠ー、何か言ってくださいよー、師匠ってばー」

それを今の今まで黙って見ていたイファルシアは、唐突に真顔で

「師匠にべったりなのね、そこまでの関係を持てるなんていい意味で呆れるわ」

そこまでの関係になれるのはいい意味で呆れるとまだ熟しきっていないシークワサーを食べながら言い放つ。
そのイファルシアの言葉にアルガティアはふふっと笑い、シュトラーレンはそうでもないとやや口角を下げ、ルーエにいたっては

「そんな言い方ないじゃないですかっ!師匠もそう思いますよね?」

またシュトラーレンに同意を求める目線を投げかけながらイファルシアに反論したが、シュトラーレンは

「紅茶のおかわり、いただけませんか?それと大きく話が逸れている気もしますが」

紅茶のおかわりを求め、話が逸れていないかとアルガティアに聞く。
だがそれにアルガティアは、入国および滞在許可書をどこからか取り出して署名してから国章印を捺印して

「あなたがルーエの師匠と判明した以上、何も言うことはない。これは入国とルーエの寮の部屋への滞在か宿への宿泊と滞在を許可する書類。ようこそリフィルへ」

それをフィルスにチェックさせてからシュトラーレンへと渡す。

「ありがとうございます」

それを受け取ったシュトラーレンは、今までに見せたことのない笑みを浮かべた。

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小説(交流) |

後を追えぬものが思うこと

その日、ゴルダが帰って来たのは日付が変わってだいぶ経った2時過ぎだった。
冠婚葬祭にも用いられる、アルガティアのものと同じフィルスの毛と同じ色のローブ姿のままゴルダはソファに座り、宙を仰ぐ。

「なぜあいつが先立つ必要があったんだ?」

このゴルダの独り言から察しがつくかも知れないが、今日は地球からこちらへ移り住み、数年ではあったもののそれなりの付き合いのあったとある友人の葬儀に出ていた。
聞いた話では、竜に追突されて即死したなどと言われているが、結局のところ定かでない。

「…っ」

誰に向けるわけでもない、心の奥底で渦巻く憤怒を自覚しながらゴルダは煙草のようなものを取り出し、火をつけて吸いだす。
ふと時計を見ると、時刻は午前3時過ぎ。
かすかに聞こえる自室のサーバーの動作音と、冷蔵庫の稼働音を耳にゴルダは煙草のようなものを吸い続ける。

「矛先不明の憤怒もとい怒りは、己の精神状態に非常に悪影響であるから気をつけなさい。自分を蝕むわよ」

ルピルから聞かされていた忠告を思い出し、ゴルダはどうにかそれを抜こうと模索するも、それが逆に憤怒を増大させる。

「ろくなもんじゃないな」

そう言って煙草のようなものの火を消し、ローブを脱いだゴルダは左手で頭を押さえながら自室へ行くと、そのままベットへ。

「なぜあいつだったんだ、シア?」

横になり、そう呟いたゴルダはそのまま眠りに落ちた。

そして翌朝。
寝起きが最悪の状態でゴルダは覚醒し、おはようも言わずに食卓の椅子にどっかりと座る。

「きついのなら誰か頼りなさいよ、ルピルでもシアでも私でも。そんなに溜め込んでても精神状態に毒よ」

ミリシェンスには察されているようで、誰かを頼れと命令に近い口調で提案されたゴルダはそうだなとだけ返して、あらかじめ淹れられていたコーヒーのポットを掴んで手近なカップへ注ぐ。
いつもならその苦味が心地よいのだが、今日は苦味が憤怒を増大させる燃料に他ならない状態だった。

「クソめが」

舌打ちと同時に放ったその言葉にマティルーネはびっくりして、ゴルダとかなりの距離を置く。
誰に向けているわけでもないゴルダの内なる憤怒が、誰かに無差別に向き始めた瞬間だった。
標的なしに投げられた手裏剣も、いずれは失速して落ちるかどこかへ刺さる。
闇雲に振り回した棍棒は宙を切るだけか何かに当たる。
この場合は、何かに刺さったり当たったりした状態だ。

「っ…ぐぅ」

マティルーネに八つ当たりしてしまったことを自覚した瞬間、ゴルダは己を責めるかのような目をしたかと思えば急に立ち上がり、部屋へ戻る。
そして数分したのちに普段着姿で出て来たと思えば、乱暴に玄関のドアを開けてどこかへ行ってしまう。

「そっとしといてあげて、友人が亡くなったことで動転しているのよ」

どうしちゃったのよという顔をするマティルーネに、ミリシェンスはそう言ってなだめる。

その頃、家を飛び出したゴルダは携帯の電源を切ってスリュムヴォルドのとある岬へとやって来ていた。
海面まで10メートルはあろうかという岬の端にゴルダは立ち、煙草のようなものを1人寂しく吸いながら黄昏る。

「なぜだ?なぜなんだシア」

手ごろにあった石ころを海へ投げ捨てながらゴルダがそう呟いた瞬間、頭の中にシアのイメージが入り込んできて

「来なさい、待ってるから」

とだけ告げてふっと煙のようにシアのイメージは消え去った。
どうやら、ゴルダの精神状態が看過できないレベルに達したのを察知したようだ。

「クソめが」

1人悪態をついたゴルダは、素直になりきれないままシアのところへ向かう。

場所はまた変わり、シアの塔。
この上ないほどに不機嫌な雰囲気を醸し出しながらまた煙草のようなものを吸っていると、シアが深刻そうな様子で現れる。

「呼んだ理由は言わずとも分かるわね?」

シアはゴルダに対し、淡々と問いかける。
その問いにゴルダは、突然手裏剣を取り出すや

「なぜだ?なぜあいつだったんだ?」

お前の問いに答える必要はないと言わんばかりに逆にシアに問いかける。
答えなければ手裏剣を投擲するという意思表示をしながら。

「答えろ」

いつもの接し方と全く違う接し方をしてくるゴルダに、シアは突如として真剣な目付きになり

「落ち着きなさい。そして私の話を聞いて」

話を聞けと言い放つ。
だがゴルダはそれに応じず、シアめがけて手裏剣を投擲した。
謎の材質の手裏剣は空気を切り裂きながらシアに命中したものの、体毛から放出される魔力が刃をなまくらにして攻撃を防ぐ。
有毛竜ならば、ほとんどの者が備えている防御能力の一つだ。

「お前の話を聞く耳を俺は今日は持っていない。俺の問いだけに答えろ」

そう言ってゴルダは今度は剣を抜くと、有無を言わさずシアと切りかかる。
だが、体毛の魔力に防がれて思うように攻撃が通らない。

「っち…」

ここでようやくシアの体毛のことを思い出したゴルダは、剣を下ろして

「本当に話せば聞いてくれるのか?」

本当に話せば聞いてくれるのかと確認するように聞く。
シアはそれにただ頷いて側へ来るよう促すだけで、何も話さない。
それはシアが全ての生命の母として慈悲深く受け入れようという意思表示でもあった。
剣を戻し、ゆっくりとシアに近づいたゴルダは前足の辺りに胡座をかいて座る。

「そう、それでいいの。自分を出し切って」

シアに頭を尻尾でわしゃわしゃされて、ゴルダは昔父親であるロドルフォに同じようなことをされたことを思い出した。
それはなぜだったかは定かではないが、初めて自分で狩りに成功したことを褒められたという記憶がかすかに蘇る。

「なぜあいつだった?」

頭をわしゃわしゃされながらゴルダはシアに問う。
それにシアは幻獣語の子守唄を口ずさみながら

「死の訪れまでは私には止められないわ。不死者でもない限り死は絶対だもの。ただ、一つ言えるのはその予兆は感じていたとだけ」

死の訪れは絶対に止められないが、そぼ予兆だけは感じていたと話す。
渦巻いていた憤怒も一応収まり、いつもの冷静さを取り戻してきたゴルダはそれはどういうことかと聞き返す。

「あなたもたまにいつも感じる違和感とは違う違和感を感じることがあると思うけど、それが死の予兆よ。魔力や魂がくすんでいるように感じていたらそれがそうよ。予兆の感じ方は個々で違うけど」

シアの説明を聞きながら、ゴルダは後頭部で両手を組んで両前足の間の毛の中へ埋もれる。
いつもならばやめろと言って絶対にやらないのだが、今日は心の奥底にあった癒されたいという気持ちが打ち勝ったようだ。

「ところでシア、俺はどうすればいいんだ?また誰かが逝く度に憤怒を燃やし続けないといけないのか?」

少々寝そうな声で聞いたゴルダにシアはなおも幻獣語の子守唄を口ずさみ続けながら

「受け入れるしか憤怒を抑える方法がないわ。あなたはこれから何百、いえ数千年の単位で生き続けることになるんだから」

受け入れる以外に方法はないと断言した。
無論ゴルダもそれは分かっていたが、たやすいことではないのも事実。

「ゆっくり受け入れていけばいいのよ、時間をかけてね。そのために私が居るから」

その言葉にゴルダが答えることはなかった。
なぜなら、毛に埋もれて寝ていたからだ。
ゴルダが親しき者の死を受け入れられるのはいつになるのだろうか?それは誰にも分からない。

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小説(一次) |

ルーエとイファルシア

今日もルーエは王宮図書館でレポートに励んでいた。
だが存外簡単な課題だったため、来て1時間ほどで終わってしまったのでどうしようか考えているところである。

「中を見て回ってみようかな」

図書館以外を見て回ったことがなかったルーエは、この機会に王宮の中を散策してみようと荷物をまとめて図書館を後にする。

「植物いっぱい」

試しに庭園の方へ出てみれば、普通の城と違って花壇が整備されており、庭園の外れには畑すら見える。
どうやらこの王宮では自給自足をしているようだ。
ルーエはそれを横目に、畑の方へと歩いていく。
畑には立て札が立てられ、何が植えてあるのかが一目で分かるようになっていた。

「ふみゅう?」

一通り畑を見て回り、両側に木が植えられれ街路樹のようになっている場所へ来ると、緑毛のカーバンクルが身の丈には少々合わない大きさの枝切りハサミを手に剪定をしていて、それをまた緑毛の竜が切られた葉や枝をどこからか伸ばした蔦で一箇所に集めているのをルーエは見かけた。

「魔法使えばいいのに、なんでわざわざ剪定ハサミ使うんだろう?」

そんな疑問を感じながら、ルーエは2匹の側まで行く。
カーバンクルの方は全くこちらに気づいていないが、竜の方はすぐにルーエに気づいて

「何か興味深いものでもあるのかい?危ないからあまり近寄らないでね」

危ないのであまり近寄らないように忠告し、また切られた葉や枝を集めるのに戻る。
その葉や枝が気になったルーエは、緑毛の竜の邪魔をしないようにそっと集められていた葉と枝を拾う。

「広葉樹林と針葉樹林の両方の特性を持ってるみたい。薬の素材になるかどうかは分からないね」

ざっと見た結果、この木は広葉樹林と針葉樹林の両方の特性を有していることが分かったが、薬の素材になるかどうかまでは分からないと言う結論をルーエは出す。

「うん、この木を薬の素材にするのは難しいよ。調合方法を間違えると猛毒になるからね」

ルーエの独り言を聞いていたのか、緑毛の竜がそう話しかけてきたので、ルーエは思わず

「ふみゅう?」

きょとんとした表情で緑毛の竜を見てしまう。
すると緑毛の竜は

「ごめんごめん、独り言だったみたいだね。てっきり僕に話しかけているのかと勘違いしちゃったよ。君は確かルーエだったかな?アルガティアから話は聞いているよ、異界からカーバンクルの留学生が来たってね。僕はエゼラルド」

ルーエが自分に話しかけていると勘違いしていたことを謝り、エゼラルドと名を名乗った。
どうやら、自分の名はフィルス同様アルガティアから聞かされているようだ。
なお、ルーエはアルガティアがリフィルの女王であること以外は全く知らない。
なぜなら、王立大への留学許可書に名前と肩書きが記されていたくらいだからだ。

「あんた、この王宮に植えられている植物が気になるのかしら?」

剪定を終えたのか、緑毛のカーバンクルがハサミを下ろしてルーエの方を見ながら言う。

「ボクのいた世界にない植物ばっかりだからね。ところでキミの名前は?」

ルーエは自分の世界にない植物ばかりだからと気になる理由を話し、緑毛のカーバンクルに名を聞く。
あえて自分から名乗らなかったのは、この緑毛のカーバンクルも自分の名を知っていると思ったからだ。

「私はイファルシアよ、あんたはルーエだったわね?」

「うん」

緑毛のカーバンクル改めイファルシアは剪定ハサミをエゼラルドに渡しながら自らの名を名乗った。
ルーエは第三者をあんた呼ばわりするイファルシアに少し違和感を感じながらも、そうだよと頷く。
イファルシアはルーエが頷いた後、スンスンと鼻を鳴らして

「薬の匂いがするわ、そういうのもやってる?」

ルーエから薬の匂いを感じ取り、調薬もやっているのかと聞く。
確かにルーエは元居た世界で調薬をしてはいたが、匂いが染みつくまではやっていなかったはずだった。
それでも匂いがするということは、イファルシアの嗅覚がそれほどまでに鋭いものなのだろう。

「ちなみにどんな匂いがするの?」

ここでルーエはふと気になった疑問をイファルシアに投げかける。
イファルシアはエゼラルドが切った葉と枝を片付けるために居なくなっているのを確認してから

「薬草系の植物の匂いがしたのよ。私は植物の匂いだけには敏感なの、草の属性なだけにね」

草の属性なので植物の匂いには敏感なのだと話す。
それにルーエは

「ふみゅう」

と、どこか納得のいかないような雰囲気で言った。
イファルシアはルーエの反応を見てクスクスと笑うと、どこからかルーエと同じような色のテッポウユリを出す。

「私はこんなこともできるわ、全く新しい植物を生成したりとかね。これはテッポウユリの色をあんたの毛の色と同じ色に書き換えただけ」

イファルシアの説明に、ルーエはそんなことができるの?と首をかしげる。
なにせ、この手の能力持ちと会うのは初めてのことだからだ。

「あんた、生成系の能力を見るのは初めてかしら?なら無理もないわ。初めて見る奴は『どうやって出してるの?』とか言ったりするから」

またクスクス笑いながらイファルシアに言われたルーエは、自分がバカにされているようないじられているようなよく分からない感覚に襲われた。

「ちょっとからかいすぎたかな?お詫びにこれあげるわ。愛媛みかんよ」

渋い顔になっているルーエを見たイファルシアは、どこからか愛媛みかんを出してルーエに差し出す。
差し出された愛媛みかんを見たルーエは、これは皮をむかないと食べれないと理解し、みかんの尻の方に指を突き刺して皮をむく。
なぜ初めて見るみかんの食べ方が分かったのかというと、先にイファルシアが同じようにみかんの尻に爪を突き刺して皮をむいて食べていたからだ。

「甘酸っぱい」

「みかんってそういうものよ、でもおいしいでしょ?」

時折口をすぼめながらみかんを食べるルーエに、イファルシアはそういうものだと言って今度はレモングラスのような葉を出した。
見た目は完全にレモングラスなのだが、匂いはルーエが今まで嗅いだことのない独特な匂いだった。
例えるならば、ミントとラベンダーにユリの匂いのいいとこ取りをしたような匂いだ。

「これはレモングラスに少し手を加えたものよ。効能は匂いに鼻づまり解消と気分の安定化。お茶にすると気分の安定化と同時に魔力の潜在回復力を引き上げることができるわ」

イファルシアから一通り説明を受け、それを渡されたルーエはその匂いを思いっきり嗅ごうとする。
するとどうだろうか、匂いが強烈すぎてルーエは思わずくしゃみをしてしまった。

「そんなに勢いよく嗅ごうとしたらダメよ、本当は乾燥させて香として使うものなんだから」

「ふみゅう、先に言ってよ」

この後もルーエはイファルシアからあれこれオリジナルで生成したハーブをもらったとか。

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小説(交流) |

ルーエとフィルス

ある講義のない昼下がり、ルーエはなぜか王宮の図書館に居た。
なぜかと言うと、リフィル王立大の図書館には、あまり魔法書が置いてないのだ。
なんでも、過去に王立大の図書館から禁忌の魔法書が盗まれたことがあるため、魔法書は全て王宮の監視魔法が完備された図書館へと移されたのだという。

「盗む輩っているんだなぁ、そういう輩のせいで普通に使ってた者にしわ寄せが行く。おかしな話だね」

ルーエはそんな独り言を呟きながら、講義の課題レポート用の魔法書を探す。
今日やろうとしている課題は、聖属性の魔法で相手のトラウマを和らげる魔法に関してまとめてこいというもの。
当然、講義で習った範囲の応用なのでいつも使っている魔法書では役に立たないのでこうして探しているのだ。

「聖属性の魔法の本棚はここかな」

ルーエは隣に誰かが居るとも知らずに、右へ右へと移動して本を探していく。
そしてようやく目的と思わしき本を見つけ、それを取ろうとした瞬間、隣で積み上げた本が崩れ落ちるような音がした。
どうやら誰かとぶつかったようだ。

「ふみゅう?」

「第三者の心に寄り添う魔法」という本を取ったルーエが横を向くと、青毛のカーバンクルが魔法書の山から耳だけを出して埋まっていた。
それを見たルーエは慌てて本をどかして

「大丈夫?」

と声をかける。
すると青毛のカーバンクルは本の山の中からはい出て、魔法で本を全て本棚へ戻してからルーエに

「左右上方後方、前方だけ注意してても仕方ないよ」

と首輪をいじりながら言う。
だが、その声は青毛のカーバンクルの口からではなくルーエの頭の中に直接入って来た。
どうやら意思を飛ばして会話をするタイプのようだ。

「うんそうだね」

ルーエは青毛のカーバンクルにそう返して、自分はさっさとレポートを書き上げてしまおうと背を向ける。
すると青毛のカーバンクルが

「その本あまり良くないよ、呪文のスペルが相手の心をナイフで刺してえぐり出すような感じだから」

「どういうこと?」

その意味深な物言いに、ルーエは青毛のカーバンクルにどういうことかと問う。
明らかに本の内容を理解していなければ言えないことだからだ。
すると青毛のカーバンクルはルーエの「第三者の心に寄り添う魔法」をこれまた魔法で本棚へ戻して

「僕はこの図書館の本当の意味での禁書以外の魔法書はほとんど読んで理解しているよ。君は確かリフィル王立大に留学してきたカーバンクルだよね?珍しいからってアルガティアがあっさり許可出しちゃって学長から苦言漏らされたらしいけど」

自分はこの図書館の本の内容を禁書以外はほとんど理解していると話し、ルーエが留学生であることも把握済みであるようなことをほのめかす。
なお、ルーエはそれに

「ふみゅう?」

ぽかんとした表情で青毛のカーバンクルを見つめていた。
青毛のカーバンクルは余計な話をしてしまったかと言わんばかりに

「トロールに魔法書な話しちゃったね。そうだ、君の名前はルーエで当たってるよね?僕はフィルス」

ぬかに釘や、馬の耳に念仏と同様の言い回し言ってからルーエの名を把握していることを話し、自らの名をフィルスと名乗る。

「なんでボクの名前知っていたのかは聞かないけど、さっきの魔法書がダメなら他にいいのあるの?」

青毛のカーバンクルもといフィルスが自分の名を知っていることには特には触れず、ルーエはフィルスに代替案の提示を求める。
するとフィルスは、ルーエもはしごを使わないと届かない高さの棚から「カウンセリングのための基礎魔法集」という本を取って

「これに載っている呪文なら大丈夫、でもレポートにするなら比較としてさっきの本の呪文も書いた方がいいいよ」

ルーエに渡すと、また「第三者の心に寄り添う魔法」を本棚から出して同じように渡す。

「比較って大事だよね、ありがとう」

ルーエはフィルスに礼を言うと、そのまま自分が使っている机へと戻る。
なお、フィルスは今しがた気付いた戻し忘れの本を戻して他にも戻し忘れの本がないかを確かめながら掃除を始めた。

「本当だ。同じ魔法でも呪文のスペルが全く違う」

その頃フィルスは、閲覧スペースに置きっ放しにされている本たちをレポートに集中するルーエを尻目に片付けていた。

「困るな本当に、片付けしてくれないってのは」

片付けをしているフィルスのぼやきを聞いていたのか、ルーエはレポートを書く手を止めて

「手伝う?」

フィルスに手伝いを申し出る。
するとフィルスは軽く頷きながら

「頼んでもいいかな?」

口元にかすかな笑みを浮かべながら、ルーエに手伝ってくれるように頼んだ。
そしてルーエもそれに応じるようにして片付けを手伝いだす。

「結構な量があったね」

「片付けも知らない利用者には困ったものだよ」

フィルスの愚痴にルーエはそうだねと同意だけして最後の本を本棚へ戻し終えた。
その量は3桁手間にまでのぼり、終わった頃には2時間近くが経過。
ルーエはすっかりレポートのことを忘れてフィルスの手伝いに夢中になっていたが、片付けが終わると同時にレポートのことを思い出して

「ふみゅう、レポート…」

思わずレポートのことを口に出した。
するとフィルスは耳を掻いてからルーエに

「手伝おうか?片付けを手伝ってもらったお礼と言っては何だけど」

片付けを手伝った礼として、レポートを手伝うことを逆に提案した。
もちろんルーエはフィルスの好意に甘んじて

「頼んでいい?」

と頭を下げて頼んだ。

なお、この後ルーエはフィルスの助言で軽々レポートを完成させた。

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異界留学生はカーバンクル?

ある日、ゴルダにアルガティアからこんな手紙が時雨を通して送られてきた。

「王立大学に今年度から留学に来ているカーバンクルの留学生が、体調不良を訴えてきていると大学の医務室から連絡があった。フィルス達の専属幻想獣医は休暇中だから派遣できないの。あなたで診てもらえないかしら?」

それは、たまにあるリフィル王立大学の異界留学生を診てくれという依頼だった。
この世界の大学は国立しか存在せず、私立大学という概念がない。
そのため、大学の規模は地球のそれよりもはるかに大きく、各学部学科の定員も桁違いだ。
それゆえに、地球どころかそれ以外の世界からの留学生も種族を問わず多い。
そして問題になってくるのが、人あらざる種族の健康を守れる医者の確保である。
そのため、人あらざる種族を診るために、セイグリッドやリヴァルス、ドランザニアはそれぞれ大学専属の幻想獣医師を抱えているが、なぜかリフィルだけは王宮のフィルスやエゼラルドの専属医をことあることに派遣している。
そのため、専属医が休暇中だったりするとこうしてゴルダに白羽の矢が立つのだ。

「やれやれ、前から大学専属の幻想獣医師を置けとアドバイスしているんだが」

時雨が帰った後、ゴルダはそうめんどくさそうに呟きながらリフィルへ行く準備をする。
するとそこへミリシェンスが

「私も行くわ、同族ってのが気になるし」

自分も行くと言い出す。
それにゴルダはさほど問題はないだろうと判断して

「分かった、ならついて来い」

とだけミリシェンスに言って自分はまた手紙を読んで症状を把握しにかかる。
手紙には、魔力制御および倦怠感と時々めまいと医務室の担当者の手紙が別途添えられていた。

「この症状から想定するに、魔力酔いのが最有力候補だな」

魔力酔いとは、体内に魔力を宿す者が自分の住んでいる世界とは別の世界へ行った時に稀に発症するものである。
同じマナやエーテルでも、その細い特性などは世界によって違ってくる。
通常はその世界の魔力に体内の魔力が適合するようになるのだが、何らかの原因でそれが上手くいかず、競合状態になってしまうことがある。
そうなってしまうと、魔力制御ができなくなったり、体調不良を引き起こし、最悪死に至ることすらある恐ろしいもの。
治療法としては、薬で徐々に競合を弱めてこと適合させるか、適合魔法で競合状態を解消させて適合状態にさせるというものがある。

「どっちがいいかはこれだけでは判断できんな」

そう呟きながらゴルダは頭の上のマティルーネを撫でながらミリシェンスの用意が終わるのを待つのだった。

それから数時間後。
ゴルダはマティルーネとミリシェンスを連れてリフィル王立大学へとやって来ていた。
リフィル王立大学は、王宮からそこまで離れてない場所に位置し、規模は地球の大学の平均的な規模と同程度。
魔法系の学部学科が過半数以上を占め、魔法系ならリフィル王立大と言われるほど。

「さて、医務室はどこだ?」

ゴルダが大学の見取り図から医務室を探していると、ミリシェンスが

「目の前の棟みたいね、本部棟」

本部棟だと教えてくれたので、そのまま本部棟へと向かう。

「この時間は1日の講義の半分が終わった感じだな」

「みたいね」

学生でごった返す廊下を歩いていると、右手に「医務室」というプレートが打ち付けられた部屋を見つけた。

「ここか」

「のようね」

ゴルダ達は有無を言わさず、医務室へと入った。

「あー…えーっと、アルガティア様から言われて来られた方ですか?」

この医務室の担当者と思わしきエルフの女性に聞かれて、ゴルダはそうだと即答。

「ベッドで休んでますので、あとはお任せします」

「どうも」

ゴルダは担当者にそう返してベッドの方へ。
やたらベッドの数が多く、大きさも様々なのはやはり様々な種族がこの大学に居るからだろうか。
人が寝るには一回り小さいベッドの前まで来たゴルダは、ミリシェンスにカーテンを開けさせる。

「寝ているようだが、起こすか?」

寝ているのは確かにカーバンクルではあったが、どちらかというと亜人に種族が分類されるカーバンクルであった。
なぜかというと、パッと見た限りでは体型が本来の幻獣族のものではなく、獣人などの亜人族ものだったからである。

「起きるまで待ちなさいよ」

「それもそうだな」

まだ名も分からぬぐっすりと寝ているカーバンクルの側で、ゴルダ達は本人が起きるのを待った。
その間にゴルダは診察眼で状態を調べてみたが、まだそこまで魔力酔いは重症化はしていないようであった。
なので弱めに調合した薬を飲んでいれば1週間くらいでは治るだろうと判断する。

「ふみゅ…」

それからどれくらい時間が経っただろうか。
ミリシェンスは眠りこけ、ゴルダは前にフィルスから借りたウクライナの魔女伝説に関する本を読んでいた。
どうやら当人がようやくお目覚めのようである。

「頭くらくらするー…」

上半身を起こし、ふらつく頭を抱えながらそのカーバンクルはゆっくりとゴルダの方を見やる。
なお、ゴルダは本に視線を落としており、こちらに気づいているかどうかは分からない。

「あのー…?」

数分の沈黙のあと、どうにかふらつきが治ったカーバンクルは本を読んでいるゴルダに声をかける。

「おっと、目が覚めたか?お前が起きるのを待っていたんだ。あと俺は医者だ」

ゴルダは本を閉じ、俺は医者だと言った。

「お医者さんかぁ、呼んでくれたのかな?あっ、ボクはルーエです」

ゴルダが医者であると分かると、カーバンクルは自らの名をルーエと名乗る。
そしてそれに呼応するようにゴルダも

「ゴルダだ」

と名乗り返す。
そしてその後は、互いに察した上で診察が始まる。
その間、ミリシェンスもマティルーネもぐっすりだったが。

「魔力酔いという、この世界の魔力とお前の体内の魔力の噛み合いが上手くいかずに競合している状態だ」

「それってまずいの?」

自身が魔力酔いを患っていると聞かされて、ルーエはゴルダにそれはまずいのかと問う。
それにゴルダは、ルーエの核石をちらっと見てから

「まだそこまで危なくはない。薬でどうにかできるレベルだ」

薬でどうにかなる状態であることを説明し、どこからか魔力酔いの薬を出す。
やけに色とりどりな色をしているが、それは使っている素材が素材なためである。

「ふみゅ、変な味ぃ…」

ゴルダから薬を受け取り、そのまま飲んだルーエだが、今まで味わったことのない味に渋い表情になる。

「効く薬は基本的にまずいものだ」

そう言ってゴルダはルーエに水を渡す。
ルーエは渡された水を一気に飲み干しし、ゴルダの隣で寝ている青紫の毛の同族のミリシェンスに目線を移す。

見た限りでは属性の判別はできないが、少なくとも自分より格上の同族であることは確かだ。

「あの、その子は?」

ルーエは、ゴルダにミリシェンスのことを問う。
するとゴルダは

「俺のところに住んでるカーバンクルで、ミリシェンスという名だ。水と草と月の三属性のな」

ルーエにミリシェンスを紹介する。
すると、その声でミリシェンスが目を覚まし、5分ほどルーエをじっと見つめながら

「属性不詳といったところかしら?魔力は…それなりね、修行でもしてる?潜在魔力が大幅に引き出されてるようだけど。それはそうと私はミリシェンスよ、同族の話を聞いてついて来たわ」

ルーエを一通り観察した結果を話した後で、名乗った。
観察されていたことに対してルーエはどこか不服気な顔をして

「よろしく」

とそっけない返事を返した。
そのそっけない返事に、ミリシェンスはやめた方がよかったかしらと言わんばかりの顔をする。

「あの、そろそろ医務室を閉める時間なのでお引き取り願えますか?」

ミリシェンスとルーエが何とも言えないムードになっていると、医務室を担当しているエルフの女性が医務室を閉めるので帰ってもらえないかと言ってきた。
それを聞いたルーエは、ゴルダ達に

「体調良くなったし、もう医務室も閉まるそうなのでボクの部屋行きませんか?」

自分の部屋へ行かないかと申し出てきた。
おそらく、自分が住んでいる部屋へ行かないかということだろう。
それにゴルダは二つ返事で了承し、医務室を出てルーエの部屋へ向かう。

ルーエの部屋は大学敷地から少し離れた学生寮棟の1つにあり、5階建ての寮の2階にあった。
それなりに広い部屋ではあったが、部屋の大部分が魔法書や呪文用紙などで埋め尽くされているあたり、さすがは魔法科の学生といったところだろうか。

「狭いけどどうぞ座って」

ルーエは机のそばに杖を置き、ベッドの上に腰掛けながら言う。
それにゴルダは軽く頷くとマティルーネを膝に置いて床へと座り、ミリシェンスはその場でふわふわと浮遊したままになる。

「専攻属性は?」

どこから出したのかはいざ知らず、淹れたれの緑茶を湯呑からすすりながらゴルダはルーエに聞く。
その問いにルーエは、物体移動の魔法で本の山から一冊の本を取ってゴルダへ渡す。
渡された本はこの世界の言語で書かれているものではなかったが、翻訳魔法さえ使えば読めるものだったので読んでみると

「正の魔法-基礎編」

と読めた。
正の魔法がどういう属性なのかは不明だが、つまりそういうものなのだろうとゴルダは

「そうか、なるほどな」

1人納得したように呟く。
だが、ゴルダが完全には納得していないと感じ取ったのか、ルーエは

「正の魔法はこの世界でいう聖属性が一番近いかな、それ以外に水と草。生命の始まりにかかわってくる属性のことだよ。負の魔法はその逆で生命の終わりにかかわってくる属性」

正の属性について説明すると同時に、その逆の負の属性についても説明する。
なお、それを横で聞いていたミリシェンスはルーエに

「判然としなかったから属性不詳としていたけど、そういうことだったのね。よく分かったわ」

と言って、ルーエにかなり強い魔力が宿っているであろう柘榴石を渡す。
ちなみに、どこで手に入れたのかは不明である。

「これは?」

柘榴石を受け取り、ルーエはミリシェンスに聞く。
するとミリシェンスはこう答えた。

「お近づきの印、それからあなたの属性に合っている合っているからよ」

「うん、ありがとう。何かに使えるかもしれないから大切にするよ」

何とも微妙な関係になっていたルーエとミリシェンスの関係がごく普通になった瞬間であった。

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フォルテの森とシア

こちら側の世界も初夏が見え隠れしてきたこの頃、今日もフォルテの森へとゴルダはやって来た。
だが今日はミリシェンスではなく、人化した状態のシアを引き連れている。
その理由はバウムの話をシアにしたところ、目の色を変えて会ってみたいから連れて行けと言い出したからだ。
最初こそはゴルダもシアが何をしたいのかを見透かしていたので断ったが、断ったところでどうにかなるはずもないので連れてきた。

「エーテルともマナとも取れない魔力なのね、この世界は。エーテルにもマナにも互換性があるようだけど」

森の中に生い茂る木を叩きながらシアは呟く。
その様子は、生まれてこのかた森に行ったことがないような思わせぶりだが、シアは森は監視していても入ったことは皆無というおかしな状態だった。

「それにしても、本当に丸い鳥が居るのね」

「少し特殊な生態系を形作っているようだ」

そんな会話をしていると、ミスティがゴルダのところへ飛んで来て、人の姿のシアを見るや

「また変なの連れてきた!きた!」

変なのを連れてきたと騒ぎだす。
しかしゴルダもシアもそれには全く動じず、シアにいたっては

「丸くてピンク、この森本当どうかしてるわ」

と言いながらミスティを指で小突いた。
その小突きは十二分に手加減されたものだったが、ミスティを吹っ飛ばすには有り余る強さだった。

「変なのじゃなくて危ないやつだった!」

数メートル吹っ飛ばされてどうにか体勢を立て直したミスティは、シアにそう捨て台詞を吐いて森の奥へと消える。

「気にするな、あいつはいつもあんな感じだ」

「わけがわからないわ」

一方的にミスティに危ない奴扱いされたシアは、ゴルダに気にするなと言われたものの両手を肩の辺りで水平にして首を横へ振った。

なお、その頃バウムはシアのあまりにも強すぎる魔力と気配を感じ取り

「ゴルダ…またとんでもないものを連れてきたようだな」

渋い顔をしながら2人が来るのを待っていた。
ゴルダが初めてこの世界へ来た時もバウムは今までに感じだことがないタイプの魔力に警戒はしていたが、さほどでもなかったのでそこまで強くはなかったが今回は違う。
シアの魔力はゴルダのそれとは比べ物にならないほど強く、この世界の魔力になんらかの干渉を及ぼしかねないものであった。

「神か、あるいはそれと同等の存在か…」

前にゴルダが置いて行った万年桜のジャムを舐めながら、バウムはシアを待つ。
やがて、バウムの前にゴルダと白髪赤目で長身に角のある女性が現れる。

「その者、そちらの世界の神か何かか?」

挨拶もなしに単刀直入に聞いてきたバウムに、ゴルダはそんなところだと肯定の頷きをする。
バウムに目と鼻の距離まで顔を近づけられても、シアは剣を抜くこともせずにバウムの目をじっと見つめる。
それからしばらく見つめ合っていた2人だが、突然シアがバウムの口の辺りを撫でて

「あなたってじっと見てるとかわいいわね」

などと言い出す。
かわいいと言われたバウムは、何を言い出すんだという顔をしながら

「そなたの感性、理解しがたい部分もあるな。それとあまり気安く触らないでもらえるだろうか?私は触られるのがあまり好きではない」

感性が理解しがたいと言った上で気安く触るなと諭す。
なお、それを聞いたシアは何を思ったのか元の姿に戻ってバウムの頭を前足で撫で始めた。
本来のシアの姿に多少驚きはしたバウムだが、頭を撫でられてそれどころではなくなった。

「もう良い、好きにせよ」

気安く触るなと言ってなお撫でてくるシアに、ついにバウムは折れてさせたようにさせたという。
肉球だけは死守しながら。

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