氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

はーたんと人化したシア

「なー」

久しぶりに依頼も牧場での仕事もないある日の昼下がり。
唐突にハーキュリーに声をかけられ、ゴルダは分が悪そうに幻想と医学を閉じて、どうしたと言わんばかりにハーキュリーの方へ向き直る。

「最近シアに何か変わったことないか?」

「ないな」

突如、シアに何か変わったことはないかと聞かれてゴルダは特にはないと嘘をつく。
どういうわけだか、ハーキュリーがシアが人化能力を会得したことに感付いているようなので、揺さぶりをかける意でも嘘をついてみたのだ。

「おかしいなー、最近感じるシアのイメージが全く別のものになっている時があるんだけど」

やはりゴルダの予想通り、ハーキュリーはシアが人化能力を会得したことに感付いていた。
しかし、だからと言って何がどうなるわけでもないのだが。

「ゴルダ、なにか隠してないか?」

「いや、なにもない」

ハーキュリーに頬をつねられながら聞かれてもゴルダは何もと嘘を突き通す。
あえてハーキュリーの方からシアのところへ行こうと言わせるつもりなのだ。

「なあゴルダ、私に意地悪する気ならミリシェンスに言うぞ?」

だが、ハーキュリーに考えを見透かされたようなことを言われて、ゴルダはこれ以上面倒くさいことになるのを避けるために

「よし分かった。そんなに気になるならシアのところに行くか?」

自らハーキュリーにシアのところに行くかと持ちかける。
ハーキュリーはそれに対し、最初からそうしろよと言わんばかりに頬を小突く。

「あんまり女の子にそういうことするものじゃないわよ?」

その一部始終をじっと見ていたマティルーネに苦言を漏らされ、ゴルダは鼻で笑ってそれを流した。

場所は変わって、セイグリッド城の庭園。
初夏に入っているということもあり、日向にいるとジリジリとした暑さが襲ってくるのでハーキュリーは日傘をしている。

「それで、シアはどこだ?」

「あそこだ」

マティルーネを頭に乗せて後をついてくるハーキュリーに聞かれて、ゴルダは庭園の一角で剣を振り回している青がかった白いローブ姿の膝までつく長さの白髪で、170センチはあろう長身に角を生やした女性を指す。

「ちょうどいいところに来たわねゴルダ、剣の練習相手になってくれない?」

ゴルダの声に気付いたのか、人の姿のシアがこちらに向き直ってゴルダに話しかける。
向き直った際に髪が大きく振られたのは、その長さが原因だろう。

「シア、髪長すぎないか?」

日傘を差したままハーキュリーはシアにそう話しかける。
その口調から、若干羨ましがっていることが伺えたがシアは気付いていない。

「剣の相手か、悪いが乗り気じゃないな」

「あらそうなの…うーん、私はそうでもないと思ってるけど」

ゴルダに乗り気じゃないと返されたシアは、少しがっかりしたような目を一瞬だけしてからハーキュリーにそうでもないわと返す。

「本来の姿の名残りはそのままなんだな」

人化しても目の色や角、髪の色が変わってないところをハーキュリーに指摘されたシアは

「そういうものなのよ人化能力ってのは。本来の姿の名残りは残るのが絶対条件。その条件を覆す人化能力はあるにはあるけどこの世界にはないわ」

そういうものなのだと返す。
その間、ゴルダはハーキュリーとシアから距離を置いてハーキュリーの様子を伺っていた。

「未だにハーキュリーはよく分からん部分があるが、ここまでのものがあるとは」

何故ハーキュリーが会ってもいないのにシアが人化能力を会得したことに気づいていたのかを診察眼で調べてみたが、役に立つ情報は得られず、ただ目が疲れただけだった。

その一方、ハーキュリーはシアの髪をいじっていた。

「さらさらしっとりー」

「あまりいじらないでね」

その様子はさながら、同級生同士でふざけている女子学生のようである。
しかし、マティルーネは我関せずを突き通してハーキュリーの頭の上で昼寝をしている。

「少し散歩してくるからな」

どうにもその雰囲気の中に居られないと感じたゴルダは、2人にそう言い残してその場を離れた。

「どうしたのかしら?」

「ゴルダのことだし、変に気使っているんだろうよ」

どうしたのだろうかと呟くシアに、ハーキュリーはゴルダが気を使ったのだろうと返す。
それにシアは、どこか納得いかない顔をして

「ここは暑いから中行きましょ」

城の中へ入ろうと言ってハーキュリーを連れて行った。

その頃ゴルダは、色々と育てているガーデニングハウスの中でハーブを眺めながら

「自分に呆れちまうな」

そっとしておこうと判断した自分に呆れていた。
しかし、昔からこうだったのでいまさら直せるはずもなくただただ自分に呆れるほかない。

「いい香りだな」

地球にはない種のハーブから漂う匂いに、ゴルダはそう呟いた。

「なんでまた人間に変身するようになったんだ?」

「気まぐれによ」

「それじゃあ理由にならないだろうよ」

所変わって城の応接室。
ハーキュリーとシアは何故人に変身するようになったのかの話をしていた。
シアは気まぐれにだと答えたが、ハーキュリーはそれに納得がいかないという反応を返している。

「物事の全てに確固たる理由があるわけじゃないのよ」

「むー…」

そのハーキュリー納得のいかない返事に、物事にいつも確固たる理由があるわけではないと話したところ、ハーキュリーは余計に納得がいかない顔をしたとか。

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輝星と人の姿のシア

その日、シアは城の庭園で警備兵の鍛錬及び教育をしている教官に、人の姿で剣術を教えてもらっていた。
人の姿である以上、本来の姿のような体格や力を利用した攻撃はできないのでこうして剣術を教わっている。
なお、魔法だけでも十二分じゃないのかと思われがちだが、シアがそれを良しとはしていないようである。

「うむうむ、剣術の基礎を持っているだけのことはあるなシア様は」

「基礎と言っても、構え方や効率的な剣の振り方と言った基礎中の基礎のことよ」

「それだけでも十分だ、本当の素人は剣の構え方すら知らない」

「ふーん」

教官とシアがそんな会話をしながら剣術の鍛錬をしている頃、その少し離れた場所の噴水の前で輝星が一人涼しんでいた。
当然、こんな夏日であることなど知る由もなく来た瞬間にこの暑さだったので完全にダウンしている。

「暑いなあ」

噴水の近くに居るおかげでまだいい方ではあるものの、それでも完全に暑さを解消できたわけではない。
そして何よりも王子としての正装が厚着だったのも暑さに拍車をかけている。

「冷たいおやつ食べたいなあ」

噴水の中に顔を突っ込みたくなる衝動を抑えながら、輝星はそう呟いた。

その頃シアは、教官がこの後新米警備兵達の鍛錬を見なければならないので一人で木人相手に鍛錬続けていたが

「やっぱり生身の相手じゃないと緊張感が出ないわね」

膝まで届く長い髪をかき上げ、汗を拭きながらシアは呟く。
ゴルダでも呼べばいい相手になっただろうが、めんどくさがって来ない可能性が高いのは火を見るよりも明らかである。

「戻ろうかしら」

木人相手の鍛錬に飽きたシアは、剣をしまって輝星がダウンしている噴水の方へと向かう。

「あら?」

噴水のある場所まで来たシアの目に、噴水の中へ頭を突っ込みかけている輝星が映る。
観察眼を使って見た限りでは、まだ熱中症にはなっていないようだが、このままほったらかしにしておけば本当に熱中症になりかねない。

「大丈夫?まだ溶けてない?」

「うーん…シア様かぁ」

170センチくらいの身長に膝まで届く長い髪の、青がかった白いローブ姿の女性の姿を取るシアを見ても、誰とは言わずにすぐに誰なのかを理解した輝星は片目半開きにしてシアを見ながらそう呟く。
おそらく、本来の姿の魔力の特性を知っているのと雰囲気からシアであると理解したのだろう。

「ほら、城の中行くわよ」

「はーい…」

暑さの影響で、本来のテンションになれない輝星はシアに城の中に行くと言われて気の抜けた返事を返した。

「落ち着いた?」

「なんとかかな」

それから数十分後。
涼しい応接室で休み、どうにか持ち直した輝星は山羊竜の乳で作られたアイスを食べていた。

「うん、これおいしいよシア様」

「山羊竜はあまり乳を出さないから貴重なのよ。今日はたまたまね」

普通の濃厚さとは違った、癖のある濃厚さの山羊竜の乳は、数ヶ月か半年に一度しか絞れない貴重な食材。
今日は偶然その乳が手に入り、サフィがチーズを作った余りでアイスを作っていたので輝星はありつけたのである。

「それはそうと、シア様はなんで人の姿になっているの?」

輝星の何故?という純粋な疑問に、シアはこう答える。

「ただ人の姿なってみたいと思った。そんな漠然とした理由じゃダメ?」

ただ人の姿になってみたかっただけという漠然とした理由を聞いた輝星は、最後の一口のアイスを口に運んでから

「それがシア様の理由なら深くは聞かないよ。僕が竜王になりたい理由も、楽しい国にしたいっていう理由だし」

それがシアの言う理由なら問い詰めないと話した。

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再会も初対面も人の姿だったようです

「だ、誰ですか?」

人の姿のシアを見て、フウとユウは同時に同じことを言う。
それもそのはず、フウは聖竜の姿のシアとしか会ったことがなく、ユウはそもそもシアと会ったことすらない。
今目の前に居る白髪赤目のローブ姿の女性がシアであると知ったのは、その直後のことであった。

「そうだったのかー」

「お初お目にかかります」

この女性がシアであることを知ったフウは一人納得し、ユウはシアがどういう者なのかをゴルダから聞かされて頭を下げて挨拶する。

ちなみに、ゴルダがフウとユウをシアのところに連れてきたのは、シア本人が連れて来てと言ってきたからである。

「ユウの存在も薄々知ってたけど、まさか姉弟だったとはね」

「本当は分かっててもおかしくないはずだがな」

城の応接室でお茶を楽しむ二人を見ながらそんなことを言うシアに、ゴルダは本当は分かってたんじゃないのかと問う。

「そこまで詳しく見るのを忘れてただけよ」

その問いに対するシアの返しに、ゴルダはどうだかなという顔をして頭上のマティルーネに人参入りのパンを与える。
なお、このパンはわざわざサフィがマティルーネのために焼いたものだとか。

「それはそうと、シアさんはなんでまた人の姿を取るようになったの?」

というフウの素朴な疑問に、シアは

「なんとなくよ」

なんとなくだと、特に深い理由がないが人の姿を取りたくなったと話した。

そしてその次にユウが

「シアさんは竜の姿に戻ったらどんな感じなんですか?」

シアの元の姿に興味を持ちだしたようなので、それじゃあと言わんばかりにシアはその場で元の姿へと戻った。

「結構大きいですねシアさんは…でもすごいもふもふ」

元の姿のシアを見たユウは、若干驚いているようだがやはりもふもふには勝てない様子。
人見知りを発揮しながらも、恐る恐るシアに近寄るとその体毛に手を触れてみる。

「わぁ、すごいしっとり…」

相変わらずシアの毛は、自身の魔力やサフィなどのメイド達が手入れしてくれているおかげでとてもしっとりしており、絹にも負けない触り心地であった。
もしこれが触っているのがココならば、簡単には離れないだろう。

「もっと触る?あるいは埋もれてみる?」

シアの悪魔の誘惑のような一言に、ユウはお言葉に甘えてと言わんばかりにシアの毛の中へと埋もれる。

「虜になるのが早かったな」

「ユウだけいいなー」

あっという間にシアの毛の虜になったユウを見て早かったなというゴルダと、羨ましがるフウ。
すると、羨ましがるフウをシアは尻尾で引き寄せてユウと同じようにする。

「相変わらず過ぎて何も言えん」

いつもと変わらないシアの行動に、ゴルダは生暖かい目線を送るのだった。

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メリエルと人の姿のシア

まだ初夏の入り始めだというのに不快指数高めの暑さの中、メリエルは日傘もなしに城下町を歩いていた。
最初はゴルダの家へ行ったのだが、ミリシェンスにセイグリッドに行っていると聞かされて急遽やってきたのだが、この暑さである。

「腹が立つ暑さだわ」

などと言いながら城を目指して歩いていると、正面から日傘を差したゴルダが歩いてくるのが見えた。
だが、メリエルはすぐにとてつもない違和感に襲われる。
その理由は二つあった。
第一に、ゴルダは日傘を差すような性格でも雰囲気でもない。
第二に、日傘の中にゴルダ以外のもう一人居る。

「日傘で相合傘なんてどうかしてるんじゃないの?」

などと思いながら、その場で向こうからゴルダが来るのを待つメリエル。

「何してんだお前」

こちら側へとやって来たゴルダに何をしてるんだと聞かれ、メリエルはゴルダの隣に居た膝までつく白髪赤目の青がかった白いローブ姿の女性を指して

「誰よこいつ!?あんたそういうのに一切興味なかったんじゃないの!?」

そいつは誰よと言うついでに、やっぱりあんたはそういうのに興味があったのと突っ込む。
それを聞いたゴルダは、はて?と呟き、その頭上のマティルーネはまた始まったと言いたげな目線を投げかける。
一方、ゴルダの隣に居た女性はいきなり剣を抜いてメリエルに切りかかる体勢になった。

「ちょ…何よ?やる気?」

相手が本気なのかどうかが汲み取れないため、自衛のために身構えたメリエルだが、ゴルダに

「よせメリエル、シアもだ」

よせと言われてメリエルは構えを解くが、ゴルダの口から出た聞き覚えのある名前を聞いて

「えっ、その女がシア?そんなまさか」

ぽかんとした顔になる。
一方、シアと呼ばれた青がかった白いローブ姿の女性は剣を戻してメリエルに近寄ると

「実は私人化能力持ちなのよ」

と言って、その場で元の聖竜の姿へと戻る。
いつも見慣れたシアが目の前に現れたことで、メリエルはほっとした反面今目の前起こった出来事を処理するのに多少の時間を要した。

それから数十分後。
メリエルはゴルダマティルーネと人の姿のシアと城の応接室でティータイムをしていた。

「変身魔法や能力も、適性があるのよ」

「そりゃそうでしょうよ、魔法の属性にも個々で相性の合う合わないがあるんだし」

今話している話題は、変身魔法と能力の適性に関して。
メリエル自身はシア話では変身魔法への適性は高いとのことだが、メリエルは自分は自分であってこそという考えらしく、変身魔法には興味がないらしい。
なお、シアはマティルーネの変身に関する適性は皆無だと断言した。

「そういえばあんたも変身できるの?」

メリエルに羊羹をつまみながら聞かれ、ゴルダは一応できるが滅多にはしないと返す。
ゴルダのその返事にメリエルはなーんだと不満げな態度を示しながらシアの方を見る。
身長はあからさまにあっちの方が高いが、そんなことはどうでもいいというのが本音。
長すぎて邪魔になるんじゃないかと思うほどの膝までつく白髪は、メリエルの髪よりしっとりしていて手入れが十二分に行き届いていると断定できる。

「あんた、人間の姿でも魔力が桁違いよ。今この瞬間も、たまに突き刺さるようなものすごい強さの魔力を感じるから」

メリエルの指摘に、シアは制御が上手くいってないのかしらと呟きながら髪をしばらく指でいじり

「今はどう?」

数分経ってからメリエルにそう問う。
どうやら放出魔力の制御の調整をしたらしい。

「うーん、さっきよりはいいわね。刺さるような感じはもうしないわ」

「そう」

そんな会話をしていると、ゴルダが急に

「シアもメリエルと同じ髪型にして並んだら様になりそうだな」

同じ髪型にして二人で並べば様になりそうだと呟いた。
それを聞いたシアは、そうかしら?と疑問を浮かべながらも自分で髪をメリエルと同じようにして

「ちょっと立ってみて」

メリエルを半ば無理やり立たせて並ぶ。

「ふぅむ…」

「何よ?」

自分とシアを交互に見るゴルダに、メリエルは何よと聞く。
だがゴルダは何も答えず、ただただ交互に見るだけ。
このままゴルダは沈黙を続けるつもりかとメリエルが思っていると、マティルーネが突然

「やっぱり格差はあるのね」

と意味深なことを呟いたのに対して、メリエルが

「それどういう意味よ!?」

と突っ込んだとか。

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人となりて何を知る

ある日、シアの元にアルガティアからどういう風の吹き回しかは不明だが幻獣布製のやや青がかった白いローブが送られてきた。
当然ながら、アルガティアが何を考えてこれを送ってきたのかはシアに分かるはずもない。

「着ろってことかしら?でもこの姿じゃ無理ね」

着ろという意を込めて送ってきたことは間違いないのだが、今のシアの姿で着ることはできない。
何故なら、これは人の姿を持つ者が着るために作られているからだ。

「できないことはないけど、やったことが生まれてこのかたないわ」

アルカトラスが人の姿を取れるように、シアも人の姿を取ることが可能だ。
だが、シアは創造された当初からその能力を一度たりとも使ったことがない。
それはなぜかというと、別に人の姿を取らずとも苦労しない生の創造神としての生活を送ってきたからに他ならない。
だがそれでも確実人の姿を取れるという自信があるのは、根本的な部分が同じだからだろう。

「やってみようかしらね、物は試しだわ」

そう呟いたシアは、自身の種族と姿の定義を書き換え始めた。
人化に限らず、変身魔法や能力をするためには、このようにして自身の姿と種族の定義を分解し、再構築する必要がある。
これは、シアでも自由に改変できる数少ない定義のひとつ。
だが、いくら自由に書き換えられるとはいえ、定義の書き換えをミスれば大変なことになる。
例えば、種族の定義を中途半端に書き換えてしまい、この世界のどれにも属さない異形の者に成り果てた者もいないわけではない。

「うんうん、上手くいきそうだわ」

それだけ自由に書き換えることが可能な定義というのは、リスキーなものなのだ。

やがて、シアの住処もとい部屋である塔の頂上に腰を超えて膝にまで届きそうな長い白髪に、170センチほどの身長。血めいているも、ルビーめいているとも言える赤い目に片方二本で一対四本の角にネグリジェを着た女性が立っていた。
当然、本来の姿よりは落ちたものの、それでも桁外れの魔力を放っている。

「角までは隠せないようねえ」

人化に成功し、どこからか出した姿見で人の姿を取った自分を見たシアはそう呟く。
正直、髪の長さと角が気になって仕方がなかったが、そこは妥協することにしたようだ。

「こっちもあまり大きくなくて良かったわ」

アルガティアから送られてきた例のローブを着て、また姿見で自分の姿を見たシアはやれそれ口に出して言えないある部分の大きさがそこまで大きくないことにほっとする。
それは、もし下手に大きかったりすると、黙ってはいない者が知り合いに居たからである。

一通り人化した自身の姿を見ることに満足したシアは、突然何を思ったのか城の武器保管庫にあった剣を魔法で取り寄せ、それを引き抜いて構える。

「剣術は基礎ぐらいしか知らないけど、やってみたかったのよね」

シアはそう言うや剣に魔力を流し、素振りを始めた。
本来の姿では簡単なことではないことも、人の姿を取れば簡単にできるようになる喜びを、シアはしかと噛み締めていた。

「居るかしら?アルカトラスが…」

剣の素振りに夢中になっていたシアは、サフィが来た事も知らずに剣を振り続け、思わずサフィを切りつけそうになる。
だが、サフィもそうやすやすと素人の攻撃を受けるようなヘマはそうそうしない。
あと数ミリで切りつけられるというところでブリッジをして攻撃を回避。

「姿が変わったところで誰か分からなくなるわけじゃないけど、気をつけなさいよね」

服についたゴミを払い落とし、サフィは剣を下ろしたシアに言う。
どうやらサフィは、シアが人化していても、雰囲気や放出されている魔力でシア本人だと判断できているようだ。

「アルガティアからローブ送ってもらったから、着ようと思って初めて人化能力を使ったのよ」

と説明するシアを軽く流して、サフィは再度

「アルカトラスが呼んでる。それだけ」

アルカトラスが呼んでいることを伝え、シアの胸を一見してから座標指定テレポートで城へと戻って行った。
残されたシアは剣をしまい、人化能力使ったのがバレたかしら?と首を傾げながら同じく座標指定テレポートでアルカトラスのところへと向かう。

「まだ新年度始まって一ヶ月だというのに仕事溜めすぎだ祖父さん」

「新年度早々異界会談で不在の日が多かったからな」

と言いながら、書斎で書類の処理をしているのは他でもないゴルダとアルカトラス。
なお、ゴルダはアルカトラスに仕事を手伝って欲しいと小遣いをちらつかされて来ている。

「噂をすれば来たか」

「誰がだ?」

書斎の扉が開いて閉まる音が聞こえたので、来たかというアルカトラスにゴルダは誰がだと聞くもアルカトラスは答えてくれない。
だがしかし、誰が来たのかはすぐに分かることとなる。

「お呼び?」

ゴルダの目の前に、突然シアの面影を残す謎の女性が青がかった白い幻獣布のローブ姿で剣を携えて書斎へ入って来たのだ。

「ほほう」

「ふぅむ、そうだな…誰だ?」

アルカトラスがすぐに分かったのに対して、ゴルダはそれがシアだと分からず、誰だと聞く。

「あら、サフィは魔力と雰囲気で分かったのに」

謎の女性はやれやれねと膝まで届きそうな髪と共に首を横に振る。
それにゴルダはどういうことだと、診察眼で調べたところ、ようやくこの謎の女性が人の姿を取ったシアであることに気付く。

「分かりにくいな本当に」

「あらまあ」

ゴルダとシアが微妙な空気になってきたところで、アルカトラスは書類を片付ける手を止めると

「少しばかり外へ出ようではないか。詰まった空気は良くない」

外へ出て気分転換しようと言い出す。
それにゴルダとシアはそれもそうだなという顔をしてアルカトラスについて行った。

「こうして出かけるのも久しいな」

城下町をゴルダとシアと並んで歩きながら、アルカトラスは2人に言う。
それにシアは軽く頷き、ゴルダは無言でシアをさりげなく見ている。

「人の姿を取って何か知ったことはあるか?」

そしてゴルダは、シアにふと気になったことを聞く。
今の今まで、20メートル近い体で生活してきた者が突然170センチほどの人の姿になったのだ。
何か気づいたことなどがあるはずなので、ゴルダはこういう問いかけをしたのである。

「そうね、体が大きければいいってものではないことを再認識したかしら?」

その問いにシアは、体が大きければいいというものではないと再認識したと答える。
髪があまりにも長すぎるせいかどうかは不明だが、歩くたびにシアの髪は右へ左へと大きく揺れていた。

「人の姿の時は束ねたらどうだ?」

その髪の揺れっぷりを見て、アルカトラスは髪を束ねてみてはとシアに言う。

「束ねるならツインテールでかしら」

「汝の好きなようにすればよい」

人化してもしなくても、シアとアルカトラスの関係は相変わらずであった。

「これはアルカトラス陛下」

「3人で、構わぬかな?」

やがて、アルカトラスは城下町で唯一自分の大きさの者でも入れるカフェへとやって来た。
このカフェはセイグリッド建国当初より続く店で、どんな種族も分け隔てなく過ごせるカフェをという初代店主の申し出をアルカトラスが受け入れ、建てたと言われている。
それ以来、アルカトラスが度々来るようになり、カフェの主人がどんどん世代交代していくうちにこのカフェの知名度は上っていき。今ではセイグリッドの観光ガイドに

「国王兼創造神の来る、どんな種族でも入店を断られないカフェ」

と載るまでになった。

そんなカフェでアルカトラスとシアは紅茶を、ゴルダはとても苦いがいいのかと言われたコーヒーを頼んだ。

「おいしいわね」

「いかにも、ここの店主は本場で修業を積んできたからな」

ちびちびとコーヒーを飲むゴルダに対して、シアは紅茶をそれこそぐいぐい飲んでおり、アルカトラスは少し飲んでは同時に頼んだビターチョコのケーキをこれまたちまちま食べている。

「人の姿も一長一短ってところかしら」

片手で自分の髪を指に巻いていじりながら、シアは人の姿を取って知ったことの結論を言う。

「確かにな。相当に鍛えるか魔力を使ったり異能でないと人間の体は脆い。それに普通にやったら飛べない」

このゴルダの返しに、シアはふふっと笑っただけだった。

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小説(一次) |

コロンの悩み

「おじゃまします」

今日も今日とて、コロンはココ達を連れてゴルダの家へ遊びにやって来た。
だが、今日はどこかコロンの様子がおかしい。
いつものような元気がなく、何か悩みを抱えているようである。

「どうかした?」

「いえ、特には」

家の中を掃除して回っていたミリシェンスに聞かれ、コロンは特にはと返す。
それを見ていたゴルダは、ミリシェンスにさりげなく

「2人で少し話せ。ココ達はどこか連れて行く」

とハンドサインで伝えた。
そのハンドサインを見て、ミリシェンスは軽く頷く。

「ちょいと出かけるぞ」

と言ってココ達を連れて出て行く。
なお、いきなり出かけると言われてココやチーノは若干面食らっていたが。

「さてと」

家に残ったのは、ミリシェンスとマティルーネにコロンと居ても居なくても変わらないアルガントとウラヘムトだけ。
そしてひとしきり掃除を終えたミリシェンスは茶を淹れてコロンと向き合うように座った。
なお、マティルーネはテーブルの上で傍観者の立ち位置を貫いている。

「わざわざすみません」

物腰が低くなっているコロンにミリシェンスはそんなに低くならなくてもいいのにと思いつつ、コロンにこう切り出す。

「大方察しはつくけど、ココのことで悩んでるわね?」

それにコロンは別途驚く様子もなく、ええそうよと答えて

「ココにはもう少し大人になってほしいんですけど、私から切り出すのも難しくて…」

ココにもう少し大人なって欲しい事から始まり、自分からそれを切り出すのが難しいこと、最近のイタズラが看過できないレベルに来ていることを話した。
それをひとしきり聞いたミリシェンスは、その赤き目から光を消してこう言う。

「こういう時はガツンといかないとダメよ言うべきことは言って聞かせないと。でも女の子じゃそうもいかないのも現実よね」

それにコロンは、ミリシェンスがあまり提案はしたくないが手がないわけではないという意を含んで先ほどのことを言ったことに気付いて

「…何か方法でも?」

いい方法があるのかと聞く。
実のところ、ミリシェンスの考えるやり方はあまり良いものとは言い切れないのが現実。
そのやり方とは、ココに従者の修業をさせるというもの。
それで少しはコロンのような女性になると考えたのだが、どう考えてもココがその手の修業に数日で根を上げるのは目に見えていた。

「従者修業でもさせてみたら?少なくとも礼節は身につくと思うんだけど」

ミリシェンスの一言に、コロンはどうかしらねと首を横へ降る。

「ココに従者は向いてないと思うの。今こうして現役で従者をしている私が言うからにはね」

ココは従者に向いていないと言うコロンに、ミリシェンスはこう言う。

「以外とうまくいくかもしれないわ。ココのイタズラ好きではない方のあの性格を考慮すれば」

ココのイタズラ好き以外のもうひとつの性格と聞いて、察しのつく者も多いだろう。
それを考えれば、周りが女性だらけの従者という世界にココが入ったらどうなるか?
何日で根を上げるかはさておき、容易に解が導き出せるだろう。

「考えておくわ、ありがとうね」

「二ヶ所ぐらいあてはあるから、その気になればゴルダを仲介して話は通しておくわ」

なおこの後、コロンはゴルダに言ってココをアルガティアのところで従者修業させようとしたが、本人がその気じゃないならダメだと断られてしまったとか。

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レナとミリシェンス

春から初夏へ移り変わる匂いが香り始めたある日のこと、レナはゴルダの家へやって来た。
ほぼ2年ぶりの訪問で、今ゴルダが何をしているのかすら分からない状態だが、レナには相変わらずだということが何と無く分かっていたのだ。

「おじゃまします」

玄関のドアを開け、挨拶をして家の中へ入るレナ。
家の中は2年前に来た時と変わっておらず、掃除が行き届いた綺麗な室内がそこにある。

「誰かしら?上がって待ってて」

「えっ?誰?」

変わらないなとレナがその場で室内を見回していると、突如聞きなれない声がした。
それにレナが誰なのとあたふたしていると、台所の方から青紫の毛に前掛けエプロンをしたカーバンクルが現れる。
イファルシアやフィルスといったカーバンクルとは会ったことがあるレナだが、このカーバンクルは初めて見る。

「レナ、だったかしら?ゴルダの友達だという話は聞いているわ。私はミリシェンスよ、よろしく」

青紫の毛のカーバンクルは、レナの姿を見てゴルダの友達ねと言って自らの名をミリシェンスと名乗る。

「あはは…よろしくミリシェンスさん。私はレナ、ゴルダさんから話を聞いているなら話さなくていいかな」

それに対してレナも名乗り返し、自分のことはゴルダから話を聞いてるならばと判断し、自分から多くを語ろうとはしなかった。
やがてミリシェンスはまた台所へ戻り、レナに飲み物を出す。

「ゴルダはちょっと用事で出ているわ。あなたが来る20分くらい前に出たからあまりあと数十分くらいでは帰ると思う」

自分も居間のソファに座り、やっと一息つけたと言わんばかりにくつろぎながらゴルダは今出ていると言うミリシェンスに、レナは笑ってその場を流す。

「ミリシェンスさんって、いつぐらいからここでゴルダさんと住むようになったんですか?」

すっかりくつろぎモードのミリシェンスに、レナはふと感じた疑問を投げかける。
ミリシェンスは2年ほど前に遊びに来た時は居なかった。
つまり、ミリシェンスが来たのはレナが来なくなってから昨日までの間。
その空白の期間に住むようになったのは間違いない。
それをふまえてレナはミリシェンスに問いかけたのだ。

「そうね、私が来たのは去年の夏ぐらいかしら。もうすぐ1年になるわね」

ミリシェンスはその問いに不思議そうな顔をして去年の夏ぐらいからであることを話す。
レナはそれを聞いて

「結構経つんですね」

と少し驚いたような反応を返した。

その後、レナはミリシェンスとポツポツと会話を交わし、ミリシェンスがゴルダが居ない時の家事をしていることと、ミリシェンス以外にマティルーネという竜も住み始めていることを教えてくれた。

「ただいま」

ミリシェンスと話を始めて30分ほどが経過しただろうか。
聞き覚えのある声と共に玄関のドアが開く音が聞こえたので、レナがその方へ振り返るとそこにはゴルダの姿があった。
頭に紫の毛の小さい竜を乗せ、狼のようでそうではない雰囲気を放つレナと同じ姿の生物と共にだが。

「久しぶりだなレナ。1年以上姿見てないからどうしていものかと思ったが、元気そうだな」

「ゴルダさんこそ元気そうで」

そんな他愛もない会話を続けていると、ゴルダの頭の上に乗っていた竜が降りてきてレナの背へ乗る。

「マティルーネが初対面の奴に乗るとはな。レナ、今お前の背に乗っているのがマティルーネだ」

少々びっくりしているレナに、ゴルダは何を理解したのかは不明だがとりあえず頷きながらマティルーネを紹介する。

「よろしく」

背に乗っていたマティルーネに言われ、レナはこちらこそと返す。
この一連のやり取りを見ていたゴルダは、不思議そうな目線をレナに投げかけて

「幻獣語を理解できるとは、な」

謎の一言を発する。
ゴルダのこの一言にレナはぽかんとしていたが、ミリシェンスが

「あなたが初見でマティルーネの言ってることを理解できたことに興味を持っただけよ」

とゴルダの言っていることを解説してくれた。
それにレナは

「あはは…なるほどね」

いつもと同じようその場を濁した。

なおこの後、レナはミリシェンスに毛の手入れをしてもらったり、ゴルダとこの2年あまり何をしていたかを語ったとか。

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運転して買い物へ

「えー、嘘でしょう?」

昼食の支度をしようと冷蔵庫を開けたミリシェンスが、そんな声を漏らす。
なんと冷蔵庫に食料がなかったのである。

「どうかしました?」

「朝食分で食料が尽きちゃったのよ」

洗濯機を回し終えて脱衣場から出てきたユウにどうしたのかと聞かれ、ミリシェンスは食料がないと答える。
それにユウは

「じゃあ買い物に行きませんか?」

と提案するも、ここが近くにスーパーなんてものがない立地であることを思い出す。

「しかも今日からゴルダとフウが異界に行っていて帰ってくるのは明々後日」

さらにタイミングが悪いことに、いつも買い物をしてくれているゴルダが今日からまた依頼で日本へ行っていて家を空けているのだ。
しかも、帰ってくるのは明々後日である。

「でも買い物には行かないといけないんですよね」

「そうなのよ。ゴルダのよく行くスーパーの場所は分かるけど、座標までは分からないからテレポートでも行けないの」

ゴルダの行きつけのスーパーの場所は知っていても、座標までは知らずなのでテレポートで行くことすら叶わない。
一応、冷凍食品やらインスタント系の食料はあるのだがミリシェンスはそれらを好かない。
その根底にあるのは、食事は健康的なものであってこそというもの。

「どうします?ネットショップなんて使ったことないですし」

「一応カードとかはあるから金銭的な問題はないのよ。うーん…」

八方ふさがりな状態で長考に入った2人に、今の今まで傍観していたマティルーネはこう言う。

「ミリシェンスってゴルダと契約した時に記憶以外は共有してたわよね?だったらゴルダの軽トラ運転して買い物に行けばいいじゃない。記憶以外を共有しているなら運転の技術と経験も共有しているはずよ」

ゴルダの軽トラを運転して買い物に行けばいいという提案に、ミリシェンスはその手があったかという顔をするも

「でも実際には運転したことないのよね」

実際には運転したことがないので心配だと漏らす。
だが、マティルーネは

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、はい鍵」

そんなこと言ってる暇があるなら行くわよと、軽トラの鍵をミリシェンスに渡す。

「そうね…マティルーネ、ユウ。買い物に行くわよ」

覚悟を決めたミリシェンスは鍵を受け取り、マティルーネとユウに声をかけて車庫へと向かう。

「ギリギリハンドルとレバーに手が届く程度ね。ペダルは魔法でなんとかするとして。ユウ、シートベルトはちゃんとしてね」

マティルーネとユウと軽トラへ乗り込み、ミリシェンスは鍵を差し込んでエンジンを掛けた。
ここまでは順調、次は実際に運転してスーパーまで行って帰ってくる。

「よし、行くわよ」

そう言ってミリシェンスはギアをリバースに入れて車庫から車を出す。
さすがは契約で技術と経験を共有しているだけのことはあってか、車庫から車を出すことには難なく成功した。

「よし、じゃあ本当に行くわよ」

「安全運転でお願いしますね」

ギアを入れ直し、ミリシェンス達は買い物へと向かった。

それから十数分後。
何事もなくゴルダの行きつけのスーパーにたどり着いた一行は、そそくさと買い物を済ませてまた軽トラに乗り込み、帰路へ着く。

「やっぱり何でもできるんですね、ミリシェンスさんって」

「ゴルダが出来る範囲のことしかできないわよ」

今日もなんだかんだで、平穏な1日になったのであった。

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未知の森の中で

どこに通じているかすら分からない空間の裂け目の向こうに広がっていたのは、見渡す限りの森だった。
人とその類の知的種族が立ち入った様子が皆無なその森は、聞いたこともない鳥の鳴き声が響き、澄みすぎて逆に毒になりそうなほどの空気が漂っている。

「なんとも妙な雰囲気だ」

今しがた通って来た空間の裂け目が閉じたのすら気に留めず、ゴルダはエーテルカウンターなどの計測機器を出して軽く計測をする。
だが、エーテルカウンターもマナカウンターも一切の反応を示さず。反応しているのは魔力波形と時空波形の計測機器が見たこともない波形を表示しているくらい。

「裂け目は消えたが、帰れないことはない。よし…始めるか」

そう言って、ゴルダは未知の森の中を歩き始めた。
そもそも、なぜゴルダがこんなことをしているのか?
それはほんの数日前まで時間は遡る。

「というわけなの」

「仕事を頼みたいから来いとサフィに呼び出されて来てみればこれか」

シアから仕事を頼みたいから来いと言われてゴルダが行くと、とある空間の裂け目の向こうにある世界の調査をして欲しいという仕事を頼まれる。
ここ最近、大陸のあちこちで空間の裂け目が出現し、アルカトラスとシアはエーヴィヒと協力してその位置を把握して塞ぐという仕事に追われていた。
ほとんどの空間の裂け目は、関わりのある世界と繋がっていることが多かったが、中には全くの未知の世界へと繋がっているというイレギュラーな空間の裂け目も存在しているのも事実である。

「だからと言って、俺に頼む理由にはならないだろうが」

「いいえ、あなたじゃないと無理な仕事なのよ」

シアがそう言うのには、理由がある。
そのイレギュラーな空間の裂け目は、非常に不安定なものが多く、入ってしまえばその裂け目は消える。
つまり、帰って来れないリスクがあるのだ。
世界と世界を行き来する魔法があれば帰って来れないこともないが、使い手は非常に少ない。
そこでシアは、一応その手の魔法が使えないわけではなく、身近にいるゴルダにこの仕事を頼んだのだ。

「どのみち拒否権はない、行くとするか。それで、その行って欲しい世界と繋がっている空間の裂け目はどこにある?」

どう転んでも引き受けなければならないことを理解していたゴルダは、やれやれと言いながらも了承し、その裂け目の場所を聞く。

「場所?城の近くの森の中よ」

後は頼んだわと言わんばかりに、時の鍵という繋がりのない異世界へ行った時にこの世界へ帰って来るための魔道具を押し付けて、シアはゴルダを忙しいからと追い払う。

「見返りはそれなりにもらうからな」

そう言ってゴルダはその日は帰った。

その翌日。
城の近くの森へやって来たゴルダは数分で目的の空間の裂け目を見つけ、めんどくさそうにそれを見つめる。

「人1人が通れるくらいの大きさだな」

裂け目はそこまで大きいものではなく、人1人が無理なく通れる程度のものだった。

「うだうだしてても仕方ない。行くか」

やがてゴルダは覚悟を決め、その裂け目へ飛び込んだ。
向こう側の世界へたどり着く数秒間が、数分にも数時間にも感じられるような奇妙な時間感覚に襲われながらも、どうにかゴルダは裂け目を通り抜けることができた。

「鳥は鳥だが、なんとも丸っこい鳥ばかりだな」

そして時間は現在へ戻り、ゴルダは森の中を注意深く探索して回る。
やはり見かけるのは鳥ばかりで、しかも普通に見かける体型の鳥ではなく、全体的に丸い体型の鳥ばかりだ。

「本当に丸いなお前らは」

ふと目に入ったピンクの丸い鳥を見て、ゴルダはそう呟く。
そのピンクの丸い鳥は、ゴルダを見て

「だあれ…はっ!?」

何かを察したようなことを呟き、どこかへ行ってしまう。
それを見たゴルダは

「何なんだ?」

と首を傾げてさらに森の調査を続ける。
なお、この森はどこまで行っても日の光が程よく差し込み、とても明るい。
木の根が縦横無尽に伸びているせいで時折歩きにくい場所もあったが、ゴルダには苦にならないものだった。

「これはまた樹齢数百年レベルの木だな」

やがて開けた場所へと出たゴルダの目の前に樹齢数百年レベルの巨木が姿を表す。
周りに同じく生えている数百年レベルの木とは違い、あからさまな荘厳さを醸し出しているその巨木は、自分がこの森の主であるかのような主張をしているようにも見える。

「実に立派な木だ。他の木と違って」

そう呟きながらその巨木を触っていると、背後で何か重いものが地面に落ちた音がした。

何だと思い、ゴルダが背後を振り返ると、そこには濃い灰色の角と翼を持つ巨大な狼のような生物がこちらに強い警戒心を含めた視線を投げかけていた。

「汝、この森に何用か?」

その生物に話しかけられ、ゴルダは正直に

「これはどうも、ちょっとこの森の調査をしているだけだ。森を荒らそうなどとは微塵も思っていない」

調査をしているだけだと答える。
するとその狼に似た生物は納得したようなしてないような様子で

「どういうことなのだミスティ?この人間は森を荒らそうとは考えてないと言っている。私自身もそれが嘘ではないことを感じ取った」

自分の側を飛んでいたピンクの丸い鳥に問いかける。
ミスティ呼ばれたその鳥は、慌てふためいた様子で

「だってバウ様。人間なんてバウ様のお話の中だけの存在だと思ってたんだもん」

ミスティの言い訳に、バウと呼ばれた狼に似た生物は

「私がいつ人間は実在しないと言った?今こうして目の前に居るではないか」

前足でゴルダを指しながらミスティに説教を始めた。
そして放置されたゴルダは、その場で持ってきた荷物の中に紛れていた緑茶を出してその場で正座して飲み始める。
その間にも、バウムはミスティに説教を続け、ゴルダのことなど眼中になかった。

「…分かったな?」

「…はい、バウ様」

やがてバウの説教が終わった頃には数時間が経過。
その間にゴルダは緑茶を飲み終え、バウとミスティをスケッチしていたりと、自由きままにやって時間を潰していた。

「すまない来訪者よ、名乗るのが遅れてしまって。私はこのフォルテの森の守護者にしてこの森に住まう精霊のバウムだ」

バウ改めて、バウムはゴルダに自らの名を名乗る。
それに応じるように、ゴルダも

「ゴルダだ。こことは違う世界から来た」

自らの名を名乗り返す。
その後、ゴルダとバウムは互いの世界ついて語り合い、次第に打ち解けていく。
やがてゴルダは、バウムの体に興味を移していった。
毛はゴワゴワではなくしっとりした質感。
角はよく見ると2対4本で、目は黄色かった。
そして何よりゴルダが気になったのはその足の肉球。
何となくだが触りたくなったので、そっとバウムの前足に手を伸ばしてみたが

「私の肉球をむやみやたらに触らないで欲しいな」

と断られてしまう。

「ま、当たり前だよな」

断られたゴルダはそう言って、バウムの腹の辺りを触る。
バウムは最初こそは嫌そうな顔をしたが、ゴルダの触り方が気に入ったらしく、させたいようにさせてくれた。

「どうせなら手入れしてやろうか?」

「客人にそのような真似はさせぬ」

どうにもバウムの毛がまともに手入れされていないことに気付き、手入れするかと聞くも、バウは客人にそんなことはさせないと断る。

「まさか客人扱いされるとはな」

バウムにもたれて完全にくつろぎながら、客人扱いされたことに納得がいかないようなことを言ったゴルダに、ミスティは

「バウ様がそういう風に接してくれているんだから甘んじなさいよ」

バウムがそういう風にしているんだから甘んじろと言い放つ。

「やれやれ」

こうしてゴルダの未知の森の調査は終わり告げた。

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