氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

潜入するバレンタイン

今日は年に一度の菓子やそれ以外のものをあげたりもらったりする日である。
本来ならば補佐官なり何なりに菓子を貰っているであろう輝星と昏黒は、セイグリッドにやって来ていた。

「今日は静かにしていたかったのだが…」

「そんなこと言わないでよ〜」

乗り気ではない昏黒などおかまいなしに、輝星は城の方へと歩みを進める。
輝星と昏黒ではあからさまな体格差があるはずなのに、輝星は昏黒を若干引きずるような感じで引っ張っているがこれがどういう理屈でなのかは不明。

「乗り気になれぬな」

一方その頃城では、アルカトラスがシアやサフィらが朝から厨房にこもりっきりなのでそれが気になり、仕事に集中できないでいた。

「今日がそういう日であることは把握してはいるものの、気になるものは気になる」

などとアルカトラスが言っていると、今日はサフィの代理を務めているメイドが入ってきて

「アルカトラス様。輝星様と昏黒様がお見えです」

輝星と昏黒が来たことを知らせる。
アルカトラスはそれを聞いて我に帰り、メイドにここへ連れてくるよう伝える。

「承知しました」

メイドはそう言って部屋を出る。
アルカトラスは輝星のことなのでチョコをもらいに来たのだろうと勘ぐった。

「アルカトラス様こんにちは」

「上がらせてもらっている」

いつもと変わらぬ様子でやって来た輝星と昏黒を、アルカトラスはこれまた普通に出迎える。
やがて、先ほどのメイドが茶を運んできたのだが、その際に輝星が

「あれ?サフィは?」

本人からブランクでいいと言われているので、輝星は呼び捨てでサフィ居ないのかと聞く。
するとアルカトラスは

「朝食後から厨房にこもりっぱなしでな。我は門前払いされて入れぬ。だが輝星、汝ならば許可されるかもやしれぬ」

厨房に居ると答える。
すると、輝星はちょっと行ってくると言わんばかりにアルカトラスの部屋を走って出て行ってしまった。

「相変わらずだ…」

「それより、汝は茶は飲むか?」

輝星の行動の臨機応変さに圧巻される昏黒に、アルカトラスは茶を飲むかどうかを聞く。
それに昏黒は軽く頷き、カップを差し出した。

その頃、厨房へと行った輝星はというと

「そーっ…」

入り口の「許可者以外本日立ち入り禁止」の張り紙にも目もくれず、厨房の中を扉を少しだけ開けて覗く。
中では案の定、サフィやシアに他のメイドがせわしなく動いていた。

「何作ってんだろう?」

どうにか気付かれないように厨房の中へ入れたので、輝星は死角を探してはそこへ移って様子を伺うを繰り返す。

しばらく様子を伺っていると、サフィとシア以外にイファルシアとアルガティアの姿も確認できた。
もちろん、イファルシアもアルガティアもこちらには一切気付いては居ない様子だが、アルガティアだけは気付いているが気付いてないふりをしている可能性もある。

「チョコじゃないお菓子作ってるなあ。何だろ?」

と言って、輝星がギリギリ見つからないレベルで調理台から身を乗りだそうとした瞬間。
近くにあったボウルに手が当たり、そのまま床へ落下。
その際、大きな音が出て近くにいたメイドがこちらを見たが、輝星は間一髪で身を隠す。
だが、

「何やってんのよ?」

メイドの近くにいたイファルシアに覗き込まれ、見つかってしまった。

「しーっ」

輝星はイファルシアに黙っているように言ったが、イファルシアはそれを聞き入れてはくれず、サフィに輝星が厨房に入り込んでいることを伝える。

「見つかっちゃった…」

「あなたなら入り口ノックすれば普通に入れたのに、どうしてこう潜入任務みたいなことするのかしらね」

遠まわしに入り方が回りくどいとサフィに言われ、輝星はただ笑うしかなかった。

「まあいいわ。入って来たのは仕方ないし、シアでもアルガティアでもいいから付いて一緒に作りなさい」

「はーい」

誰にでもいいからついて一緒に菓子を作れと言われて、輝星は黙々と生チョコケーキを作っているシアのそばへ行き、一緒に作ろうと持ちかける。

「ええ、どうぞ」

「シア様ありがとう」

輝星はこうしてシアと生チョコケーキを作ることにした。

「闇と光は対のはずなのに…」

「夜があるから朝がある、朝があるから夜がある。そういうことだ」

輝星が居なくなったため、アルカトラスと沈黙の時間を過ごすのも何だかなと思った昏黒は、ちらほらとアルカトラスと会話を交わす。
対となる属性であるはずのアルカトラスがここまで自分に親身になって話をしてくれので、昏黒はどこか安心していた。

この後、輝星が王子らと補佐官分のチョコケーキを持って来たので、昏黒は輝星とそれを持ち帰って雨月たちにも渡したという。
無論、シアからという名目で。

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忘れられて思い出されたバレンタイン

今年もまたあのチョコをあげたりもらったりする日がやって来た。
だが、今年のゴルダの家にはゴルダ本人とフウの姿が見えない。

「確か今日の夕方ぐらいに帰ってくるんでしたっけ?フウとゴルダさん」

「何事もなければ、ね」

この日の数日前から、ゴルダはフウを連れて日本へ依頼の関係で出張へ行っている。
なぜフウを連れて行ったのかは不明だが、ミリシェンスはゴルダがフウにもっと広い世界を見せようとしたからだろうと判断した。

「私も行ってみたいな」

「直接頼めばいいと思うわ。旅行という名目で連れて行ってくれるかもしれないわよ?」

「ちょっと図々しい気がします」

自分も行ってみたいというユウに、ミリシェンスは菓子作りと夕食の支度を並列処理しながら言う。
ユウはそれに、図々しくないですか?と返すが、ミリシェンスは何も言わずに菓子作りと夕食の支度を続ける。

「お邪魔します」

「お邪魔しますね」

「ココ見参!…ってなんか違う」

「普通にお邪魔します」

ミリシェンスにスルーされて、ユウがうーんとなっているといつもの4人がやって来た。
チーノは何も持って居ないかったが、コロンは何かを持ってきていいる様子。

「あれ?ゴルダさんとフウは?」

「ゴルダとフウどこ?」

ほぼ同時に、コロン、モカ、ココの3人がゴルダとフウはどこかと聞いてきたので、ユウは

「えーっとですね、ゴルダさんとフウは日本へ行っていて今日の夕方ぐらいには帰ってきますよ。それよりお茶淹れますね」

真っ先にレルヴィンとマティルーネのところへ行ったココをよそに、ユウはミリシェンスが手が離せないことを察してモカとチーノとコロンに言う。

「あら、悪いですわ」

「いただきます」

「今はいいからゲーム借りるね」

コロンとモカはいただくと言ったが、チーノは今はいらないと言って、居間の方へ行ってゲームを引っ張り出す。
それを見たモカとコロンユウは思わず苦笑いを浮かべる。

「いらっしゃい。悪いわね、今手が離せないのよ。ユウ、お茶の用意は任せていい?」

「もちろんです」

そう言ってユウは忙し動くミリシェンスに気を使いながら茶の用意をするのだった。

一方、日本に居るゴルダとフウはというと

「最後の最後で忘れ物するとはな。間に合ったから良かったが」

「へへっ…」

フウがチェックアウト直前に部屋スマホを置き忘れて一旦戻り、その後急いでチェックアウトしてタクシーを捕まえて空港へと向かう車中だ。

「乗り遅れるととんでもないことになるから今度ついてくる時は注意するんだぞ」

「分かってるよー。それより今日バレンタインだね、あのチョコをあげたりもらったりすり日」

そんなことなど微塵にも気に留めていなかったゴルダは、フウからの一言で今日がバレンタインだということを思い出す。

「そうだったな、だがチョコを大量にもらっても食べきれん。俺は貰うなら別のがいいな」

などと言いながら、ゴルダは帰りの飛行機の航空券と一緒に自分とフウのパスポートを眺める。
幻想獣医師免許の写真と変わらず無表情なゴルダのパスポートの写真に対し、フウのパスポートの写真はやたらとニコニコしたもの。
2人のパスポートはどちらもセイグリッドのもので、ちゃんとセイグリッドの国章が表にも中にも描かれている。
他に変わったところと言えば、フウの名前が

「フウ=B(白牙)=アルカトラス」

になっていることだろうか。
これはパスポートを作る際のゴルダとアルカトラスの苦肉の策だったらしいが、詳しくは割愛する。

「またコロン達が来ているだろう。去年ココからは電撃をもらったが今年は何をくれるか楽しみだ」

そうこうしている間に、タクシーは空港へと到着していた。

「げぇっ、トゲゾー」

「チーノに1位は渡さないわよ」

その頃ゴルダの家では、チーノとココがマリオカートで激しく火花を散らし、モカはマティルーネを膝に座らせてのんびりしていて、コロンとユウはミリシェンスを手伝っている。

「相変わらず、ね。ココもチーノも」

「まだまだ子供」

マリオカートで接戦を繰り広げている2人を見て相変わらずだと言うモカに、マティルーネはまだまだ子供だと一蹴。

「マティルーネって辛口なのね」

「きついことは言うけど、ニンジンは甘い方が好き」

その会話を最後に、急に眠気が来たモカとマティルーネはソファの上で眠り込んでしまった。

さて、それからどれくらいの時間が過ぎたのかは、さっきより耳に入る声の主の数が増えたところから、結構な時間が過ぎたようだ。
最初モカが目を覚まし、次いでマティルーネが目を覚ます。

「起きたかモカ?」

半分寝ぼけたモカの耳に、ゴルダの声が聞こえる。
それにハッとして、モカは膝にマティルーネが居ることにも気付かず立ち上がった。
なおマティルーネはモカの膝からずれ落ちて床にこてんと着地。
いきなり立ち上がらないでという目でモカを見たが、通用しなかったようだ。

「お邪魔してました」

ようやく頭が冴えたモカは、ゴルダに挨拶する。
まだ着替えてなかったのか、服装はスーツ姿だったがモカは一切気にしない。

「悪いな、依頼人は時と場合を選ばないからどうしようもない」

「そんな、別に気にしていませんよ」

モカに気にしていないと言われ、ゴルダはそうかと言って着替えるために部屋へ引っ込む。

「何作ってるの?」

「秘密」

その頃台所では、せわしく動くミリシェンスら3人にフウが何を作っているのかを聞くも、秘密の一言で門前払いされている。

「ちぇー」

門前払いされたフウは、がっかした様子で居間へ行き、ココとチーノのマリオカートに混ざった。

さて、それからまた1時間ほどが経過した。
ゴルダはあれから部屋から出てこず、ミリシェンスら3人は既に夕食の支度を終えてくつろぎ、ココとチーノとユウはいまだゲームに没頭。
モカはマティルーネと相変わらずのんびりしている。

「そういえば何か持ってきたみたいだけど、ゴルダとフウに?」

ミリシェンスはここで、コロン達が持ってきた何かについて聞く。

するとコロンは軽く頷いてそうですよと答えて

「ええ、4人で選んだんですよ」

とニコニコしながら話す。
ユウはコロン達が何を持ってきたのかの予想はつかなかったが、ミリシェンスだけはコロンの表情からゴルダに何を選んだのかの予想がだいたいついた。
とそこへ、タイミングがいいのか悪いのかは分からないがゴルダが部屋から出てくる。
それもいつもの鎧姿ではなく、ジャージのようなズボンにTシャツという珍しい服装でだ。

「ゴルダさん、いつもいつもお世話になってますこれをどうぞ。私たち3人からです」

と言って、部屋から出てきたゴルダにコロンは持ってきた何かの一つをゴルダに渡す。
包み自体はそこまで大きいものではないが、中身はかなり硬い箱のようだ。
ゴルダが包みを開けると、中から木箱が出てきた。
さらにその木箱を開けると、中には手投げも可能な形に作られたナイフだった。

「なるほど、今まで武器を贈られたことは自立する時に贈られた剣くらいなものだったが」

そのナイフを手に取り、一通り調べているゴルダにコロンは

「それを誰かを守るための刃として欲しい。そういう意を込めて選んだんです」

そのナイフを、誰かを守るための刃して欲しいという意を込めて選んだと話す。

「そうか。ありがとうな」

ゴルダはナイフを箱に戻して、コロンに礼を言った。

なお、フウは夕食の時にココから電撃と共にチョーカーをもらったという。

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それはニンジンではなくマンドラニンジン

今年もまた、製菓会社の陰謀だなどと言われているあの日がやって来た。
この日は異界へ出張だったはずのゴルダだが、ドタキャンを食らって暇になり、家で暇を持て余す。

「ねえねえ、買い物行ってきてくれない?今夜は結構豪勢に作りたいから」

月刊幻想と医学という幻想獣医学の専門誌を読んでいるゴルダに、ミリシェンスは買い物に行ってきてはくれないかと話しかける。
ゴルダはそれに構わんがと返事をしながら立ち上がると

「何を買ってくればいい?」

と自分の座っていた横でまどろむマティルーネをよそに聞く。

「このメモに書いてあるの全部よ」

そう言われてミリシェンスから渡されたメモ書きを見て、ゴルダは少しめんどくさそうに

「セイグリッドにいかんといかんな」

と呟く。
それミリシェンスは、文句言う暇あるなら行くとゴルダの腰をポンと叩いた。

「分かった、行ってくる」

「ええ、行ってらっしゃい」

こうして追い出されるような感じでゴルダは出かけるのであった。

「さーて、今年はあげるんじゃなくて貰うわよ。友チョコを」

ゴルダが買い物へ行かされた頃、セイグリッドではメリエルがシアの所へ向かっていた。
なお、今年はあげるのではなく貰おうと目論んでいるのでチョコも何も持って来ていない。

「さーて…どーん!」

などと言いながら城の一室にシアの気配を感じ、扉を勢いよく開けて入るメリエル。

「今年は来ないと思ってたのに、来たのね」

「何よその来てほしくなかったような物言いは」

テンション高く部屋へ入ったのに、シアの一言に水を差されて一気にテンションが落ちたメリエル。
だがそうも言ってはいられない。
メリエルはすぐ調子を戻してシアに

「今年は逆にくれるんでしょうね?」

とドヤ顔でチョコでも何でもいいので要求する。
するとシアは、メリエルをもふっと触ってから

「今年はサフィとの力作よ」

やたらと大きいトリュフチョコを差し出す。
だがこのトリュフチョコ、どうやらビターチョコらしく、そんなに甘そうには見えない。

「何でビターチョコで作ったのよ?これそういうチョコで作るものじゃないでしょ」

というメリエルの指摘に、シアはこう返す。

「白と黒ってやつよ」

さすがに全世界期待の天才のメリエルでも、こればっかりはシアが何を言いたいのかを理解できなかった。

「もういいわ、でもありがとう。私ゴルダのところ行くからこれでおいとまするわ」

「あら残念、またね」

今日はこれ以上シアに付き合うと頭がこんがらがりそうなので、メリエルはセイグリッドを後にする。

「マティルーネにはあげないとね、とっておきの人参を…」

メリエルはそんなことを呟きながらゴルダの家へと向かうのであった。

一方、ゴルダに置いて行かれて留守番をしているマティルーネはというと

「うーん、眠い」

と言いつつ欠伸をしてソファから飛び立ち、台所へ。
台所ではミリシェンスが忙しく動き回り、食事の仕度を進めている。
時刻は午後三時過ぎだが、この時間から仕度をするということはよっぽど下準備に時間のかかる料理を作っているのだろう。

「マティルーネ、テーブルには座らないで。今からすごく散らかるから」

「あらあら、そうなんだ」

ミリシェンスにテーブルに座るなと言われ、マティルーネはまたソファ戻る。
ざっと見た感じ、いつもの人数より余分に用意している気がしたがマティルーネは今日は来客があることを知らない。

「トスカが来るのかな?それかメリエル」

などと考えていると、玄関の方から

「メリエル様がお邪魔…って手裏剣投げるのいい加減やめてくれる!?」

「お邪魔しますと言わないあなたが悪いのよ」

いつものやり取りが聞こえてきた。
ミリシェンスもメリエルを本気で傷付けるつもりはないのか、わざとメリエルが避けやすいように投げているらしい。
だが、手裏剣を投げられる側のメリエルはそれに気付く様子は微塵もない。

「ゴルダが居ればものすごい反射神経でキャッチしてくれるのに、居ないのね。そしてマティルーネ、あんたはなぜか居ると」

また料理に戻ったミリシェンスをよそに、メリエルは居間へとやって来てマティルーネに話しかける。
そんなマティルーネは、メリエルを見て懲りない人と言いたげな顔をした。

「もっふもっふ」

メリエルはそう言いながらマティルーネを触る。
以前は触ろうとするだけで噛もうとしていたマティルーネは、たまに毛の手入れをしていたおかげで噛もうとはしなくなった。

「後でいいものあげるわ」

「ふーん」

「何よその反応は」

いいものをあげると言った後のマティルーネのそっけない反応に、メリエルは雷に打たれたような感覚に襲われた。
だがその感覚もすぐ消え去り、またマティルーネを触りだす。
すると、マティルーネは今までゴルダ以外の頭に乗ろうとしなかったのにそっとメリエルの頭の上に乗る。

「どういうつもり?」

「さあね」

どういう風の吹き回しだと聞くメリエルに、マティルーネはさあねと返す。

そしてそのまま一時間ほどマティルーネを頭に乗せていると、ゴルダが荷物を抱えて帰ってきた。

「お邪魔しているわ」

「そうか、そして今日もミリシェンスに手裏剣投げられたんだな」

お邪魔していると言うメリエルに、ゴルダは皮肉たっぷりにまた手裏剣を投げられたのかと返す。
それにメリエルは何よという顔をしながらマティルーネに降りてよと言うが、聞く耳を持たれなかった。

「俺も手伝おう」

「そうしてくれるとありがたいわ」

一言二言話をしただけでミリシェンスの手伝いに入ったゴルダを見て、メリエルはなんとも言えない気分になる。

「読めないのよねえ」

「本当にね」

なぜかゴルダが読めないという点で意見が合致した二人だった。


やがて何もすることがなくなったメリエルは、どこからか謎の包みを出す。
何やらもぞもぞ動いているのが気になるが、形からしてニンジンにも見える。

「ニンジン?」

マティルーネが身を乗り出して取ろうとするので、メリエルはその謎の包みを開いた。
だが、包まれていたのはただのニンジンではなかった。
マンドラゴラとニンジンのハイブリッド、マンドラニンジンだったのだ。
しかも、マティルーネがマンドラニンジンを食べようとした瞬間。顔のような部分が突然くわっと開いて叫び声を上げ出す。
叫び声死の呪いは含まれてはいないのが不幸中の幸いだが、マンドラニンジンはメリエルの手を離れ、近くで火薬が爆発したようなうるささで叫びながら走り回る。

「…うるさい」

「ちょっと、生きてるって聞いてないわよ!」

こうなってしまってはとっ捕まえて食べて黙らせるしかない。
メリエルは頭上で耳をたたんでいるマティルーネをよそにマンドラニンジンを追いかける。

「待ちなさーい!」

叫びながら逃げ回るマンドラニンジンをメリエルは追いかけるが、なかなか捕まえられない。

「全く、お前は変なものを持ってくるんだな」

とそこへ、包丁片手に居間へ来たゴルダがマンドラニンジンをむんずと捕まえ、包丁の背で殴った挙句聖水をかけて完成に黙らせた。
あれだけのうるささで叫んでいたのに、窓ガラスは一枚も割れておらず。メリエルがマンドラニンジンを追い回した後が荒れているだけである。

「マンドラニンジンとはこれまた変なもの持って来やがって、だがこいつはいい材料だ。後でお前にもやるから待ってろマティルーネ」

そう言ってゴルダはまた台所へと戻って行った。

「…シアからチョコもらったけど食べる?」

「マンドラニンジンがいい」

なお、マンドラニンジンはスープとサラダにされてディナーの席に出されたという。

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ゴルダとサフィと名も知らぬ竜たち

それはサフィからの一通のメールから始まった。

「明日暇?」

シンプルな伺いのメールに、ゴルダは

「暇ではないが、依頼がなければ空いている」

とサフィにメールを返す。
そしてその返信に対して返って来たのは

「分かったわ。明日そっち行くから」

家へ来るというものだった。
それにゴルダ一体どういうことだと思いながらも、了解した旨の返信を返してメールを終える。
はたして、サフィは何のために来るのだろうか?

翌日、ゴルダは朝から家の中を掃除してサフィを待っていた。
何の目的があって来るのかも分からないので、かなり引っかかる点があるが気にしても仕方ないとゴルダは割り切る。

「こんにちは」

「あらいらっしゃい」

普通に挨拶をして、普通に入ってきたサフィをミリシェンスも普通出迎える。
なお、サフィの服装はジーンズに長袖と上から一枚上着を羽織ったありきたりといえばありきたりな服装。
そして、いつも二つに分けて束ねている髪は解いてストレートにしている。

「出かけましょ」

ゴルダを見るや、サフィは開口一番に出かけようと言う。
それにゴルダは、マティルーネの頭の毛を梳かしながらそうかとそっけない返事を返す。
サフィはそのゴルダの返事にやれやれねと呟くと、何も言わずにマティルーネを抱く。
ゴルダが抱こうとすると、その日の機嫌次第では嫌がるマティルーネだが、サフィに抱かれても嫌そうな顔はしなかった。

「ふふっ、かわいい」

普段の仕事馬鹿っぷりからは想像つかないほどに幸せそうな顔で、サフィはマティルーネを抱きながら頭を撫でる。
それを見てゴルダは、やはり同性に触られた方がいいかと思うのであった。

「出かけるんじゃないの?」

突っ立ったままの二人にミリシェンスはそう聞く。
すると、ゴルダの方がそうだったなと言わんばかりに

「それで、どこへ行く?」

どこへ行くのかとサフィに改めて問う。
するとサフィは、マティルーネの頭をわしゃわしゃしながら

「そうね、秘密」

秘密だと返し、目線でゴルダに早く準備するように促す。
ゴルダはそれに納得がいかない顔をしながらも、聖竜布の上着を着てミリシェンスに行ってくると言ってレルヴィンを留守番させ、マティルーネを抱いたままのサフィと出かけた。

やがて、ゴルダがサフィついて行くがままについて行った先は死の森の真ん中辺り。
あるのは死の森の中の安全地帯を通る道路と、今しがた竜タクシーを降りたそこまで人気のないサービスエリアのような場所。

「薄気味悪い」

あまりに人気がないせいか、思わずそんな一言を漏らしたマティルーネにサフィは大丈夫よと言わんばかりに強く抱きしめる。
一方ゴルダは、ざっと辺りを見回してからサフィを見て何故こんな場所へ?
と目線で問う。
だがサフィは何も答えずに、今いるサービスエリアのような場所の裏手にある舗装されていない道をへ向かう。

「おい、どこ行くんだ」

マティルーネを抱いたまま先へ行くサフィを追って、ゴルダもその道へと入った。
サービスエリアのような場所を抜け、ゴルダとサフィとマティルーネはやがて禍々しくも幻想的でもある森の中の大木の前へとやって来た。

「樹齢数千年レベルの木だな。大陸歴前からの木とも受け取れる」

木の根をじっと見ていたゴルダは突然樹齢の話をしだす。
確かにこの大木は、樹齢数百年レベルでないことが伺えるほどには巨大で、根も万年桜のものと同じくらいには太い。

「せっかくの自分の休み削ってまで、なんでこんな場所へ連れてきたのかってのを聞きたそうね。木の上の方見てみなさいよ」

向き直ってこちらをしばらく見ていたゴルダに、サフィはマティルーネを離してそう言う。
ゴルダはそれにふむと頷き、どこからか暗視機能付きの高倍率双眼鏡を出して木の上の方を見る。

「こっちの様子を伺ってる奴らがわんさか居るな」

双眼鏡で覗いた先には、無数の目がこちらの様子を伺っているのが見えたが、薄暗くてそのその姿までは見えない。
なので、ゴルダは双眼鏡の暗視機能をアクティブにしてまた覗く。
すると、マティルーネくらいの大きさの竜が十数匹、身を寄せ合っているのが見えた。
暗視機能を通して見ているので、判然としないが、その竜たちは全て有毛種であるというのは分かった。

「何か見えた?」

双眼鏡で覗き続けていると、背後からサフィに聞かれ、ゴルダはああと答えて

「あそこまでまとまった数の闇竜は見たことがないが、もしや吸血竜の幼竜か?」

あの木の上の竜は吸血竜の幼竜かとサフィに問う。
するとサフィは、そうよと即答して

「3歳くらいかしらね、人間換算で。シアに言われて来てみたら居たのよ」

発端はシアから吸血竜の幼竜を見つけたから見てこいと言われて見に来たら居たと話す。
シアからサフィへ、そしてゴルダへと伝えられたこの吸血竜の幼竜の存在。
シアが何をして欲しいのかは、考えるまでもない。

「なるほど、つまりは俺にこの吸血竜たちを見守れと」

「そういうことよ。最低でも人化能力を取得できるようになるまではね」

シアの頼みが分かった以上、これ以上ここに居る必要もないとゴルダはマティルーネを連れて大木に背を向ける。

「帰るぞ、これ以上ここにいても何の意味もない」

「そうね」

こうして三人は吸血竜の住まう大木を後にした。

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小説(一次) |

ゴルダと冷たき視線の主

それは今冬最大級の寒波が到来したある日のこと。
ゴルダの家の周りも、最大で1メートル近くまで雪が積もり。その雪かきに追われていた。

「やれやれ、50センチ以上積もると雪かきに余計時間がかかるな」

ゴルダはそう呟きながら最低限車が通れるくらいに雪かきを続ける。
いつもなら雪かきをしているとくっついて来るサジも、今日は寒さに体がついていかないようで、家の中に閉じこもっている。
なので、さっさと終わらせようとゴルダは雪かきの手を止めない。
だが、やはり1人でやるのには労力の限界がある。
あともう1人でも居れば話は変わるのだが、そう上手くはいかないのが現実。

「小型除雪機でも買うか?」

そんなくだらないことを考えていると、ゴルダはサジが来た時から感じる、氷のように冷たく突き刺さる若干の殺意のこもった視線を察知した。
だがしかし、今この時感じるその視線は、遠くからではない。比較的近い距離から投げられているようにも感じる。

「またか。しかし今日は投げられている視線の強度が今までの比じゃない」

ここまでされると、ゴルダも雪かきの手を一旦止めてその場で瞑想をし、その視線がどこから来ているのかを調べる。

「…こっちの方か」

ゴルダが特定した視線の方向は、自分の左斜め後ろ。
その方向には森があり、身を隠してこちらの様子を伺うのには最適な場所だ。
その場から動かずにゴルダは森の方を見るも、視線を投げる主の姿は確認できなかった。

「行くしかないか」

そう言ってゴルダはいつでも武器を抜けるようにしてから森へと向かう。

森の中も深々と雪が積もっており、それに歩く速さを落とされながらも森の中を進むゴルダ。
やがて、もう間近に視線を感じる範囲にまで入ったゴルダを待っていたのは、なんの変哲もない雪が深々と積もった森。

「向こうは隠密しているということか?」

絶対に警戒は怠らず、周囲を眺めていたゴルダの耳にこんな声が入った。

「隠密なんてしてない。私はお前の後ろ」

その声を聞いて、振り返りざまに剣を抜いて構えたゴルダの目に入ったのは、サジに似た姿だが7メートルはあろうかという体格に、見たものを凍りつかせるような紅い目、そして青毛。
診察眼でざっと見た限りでは、普通に油断ならない強さであることはゴルダは把握していた。

「どれくらい前からこっちを監視していた?」

そっちが仕掛けてくるならば、こちらも自衛目的で仕掛けるぞと言わんばかりに剣に手をかけ、ゴルダは目の前の竜に問う。

「あの子が居候し出した時からずっとよ」

竜は冷静だが、氷柱のように冷たく鋭い口調でそう返す。
どうやら口調が鋭いだけで、こちらに今のところ明確な敵対心と殺意は持ってないようである。
だがしかし、それもこちらの行動次第では豹変するといった意も取れた。

「なるほど、ところでお嬢さんの名は?できればそっちから名乗ってもらいたかったが」

剣かけていた手を離し、ゴルダは竜に名を問う。
竜はそれに不満げに牙を一瞬見せてから

「名はシアリス、これでいいかしら?」

名をシアリスと名乗った。
そしてゴルダの方も

「ゴルダだ」

名乗り返してシアリスを上から下までまじまじと眺める。
シアリスはそのゴルダの行為に何をしていると睨みつけたが大した効果はなかった。

「美しき冷酷という二つ名が似合いそうだな。その眼力に畏怖する者は多いだろうが、俺はそういう眼力のある目が好きだ」

そんなことを言ったゴルダに、シアリスはまたもやお前は何を言っているんだと言わんばかりに、冷たく鋭い目線を投げるもこれまた大した効果は得られずじまいに終わる。

「…そろそろ去ってはくれないかしら?私は1人がいいの」

シアリスが去れと本音を漏らしたことで、ゴルダは

「お前がサジの姉であることは目が合った瞬間に気づいた。なぜ弟に顔を見せない?理由を問うつもりはないが、あいつのことは任せておけ」

サジのことは任せておけと言ってシアリスに背を向けた。
そして、去ろうとしたゴルダにシアリスはこう釘を刺す。

「あの子に何かあったら、お前を生かしてはおかないからな」

ゴルダはそれに百も承知というように後ろ手でシアリスに手をフその場を去った。

なお、ゴルダはシアリスと会ったことをサジには伏せたままにしたという。

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