氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

ルピルの自宅訪問

うっすらと庭に雪が積もっているある日の朝。
ミリシェンスから今日は緊急を要する依頼以外の仕事を休めと言われ、ゴルダはバルコニーで最近すっぽかしていた銃を含めた所持武器の手入れをしていた。
とはいえ、ひそかにミリシェンスも手入れをしていたらしくそこまで手入れを必要とする武器はなかった。

「さすがに散弾銃と狙撃銃は無理だったか」

などと言いながら、雪が積もった庭を走り回るレルヴィンをよそにゴルダは散弾銃の手入れを続ける。
今は全ての部品をバラして各部品の掃除をしているところだ。

「そんなところで手入れしないで、中でやりなさいよ。はいコーヒー」

一通り部品掃除を終えて、また元通りにしようとドライバーを取った瞬間。ミリシェンスが淹れたてのコーヒーを持ってバルコニーへ出てきた。

「結露しなければどこで手入れしようが関係ない。あとは火気の近くくらいだ」

そんなゴルダの屁理屈を聞いたミリシェンスは、やや呆れた顔で

「そう、誤射に注意してね」

誤射に注意するよう言って家の中へ戻る。
ゴルダはそれにまさかと思いながら散弾銃を元通りに組み直していく。

それからだいたい五分後のこと。
一応組み直し終えたので、ゴルダは散弾銃に弾を装填し、庭の畑にほったらかしにされている雪を被ったカカシを狙って散弾銃を構える。
そして、引き金を引こうとしらその瞬間。
突然目の前に見覚えのある白と銀のもふもふが降りてきた。
ゴルダはあと0コンマ何秒で発砲するところだったのを、それよりもはるかに早い判断で銃口を横へずらし、引き金を引いた。

「びっくりするじゃないの、いきなり私に銃を向けるなんて」

と、白と銀のもふもふはゴルダにいつものニコニコした顔ではなく、やや困った顔で言う。

「ルピル、着地地点は下を確認してから降りてこい。今回は俺が咄嗟の判断で銃口をずらしたから良かったものを」

ゴルダが名を言ったことから察せるように、この白と銀のもふもふは他でもないルピルだ。
以前ゴルダがシアに紹介されて以来、解消しきれないストレスが溜まった時に世話になっている関係だ。

「なぜ俺の家に?」

構えっぱなしだった散弾銃を下ろし、ゴルダはルピルに問う。
するとルピルは、首から下げていた鞄から何かを取り出す。
一見するとただの茶葉のようだが、その香りが袋を介してこちらにまで匂って来ている。
この手の茶葉はまず地球には存在せず、あるとすれば魔法がある世界くらいだ。

「面白い茶葉手に入れたから、おすそ分けついでに来たの」

やがてルピルの口から出た返事に、ゴルダはやれやれと言って

「変なことするなよ。とりあえず上がれ」

ルピルに家へ上がるように言う。
だが、バルコニーの出入り口の大きさがルピルの大きさに対して小さかったため、ルピルは縮小の魔法で自分を縮めないと入れなかった。

「その竜、知り合いかしら?いらっしゃい」

意外なことに、ミリシェンスはルピルことをゴルダの知り合い程度にしか考えてないらしく、普通にいらっしゃいと言ってきた。
なお、マティルーネはというと

「また大きいもふもふが来たのね」

眼中に無いような素振りを見せ、ゴルダがソファに座れるように寄る。

「座ってろ、これで茶を淹れてくるから」

ゴルダに待っているように言われたルピルは、こちらにまったくと言っていいほど興味がない素振りのマティルーネの横へ座わる。
これにマティルーネは、なんでそこなのよと言わんばかりに尻尾をソファに叩きつけ、向こうに寄りなさいよと無言の圧力をルピルにかける。
それに対してルピルは

「あら、そんなに私が隣なのが気に食わないのね」

自分が隣なのがそんなに気に食わないのかと、素直にマティルーネと距離を取る。

「ほら、淹れてきたぞ」

とそこへ、ゴルダが茶を淹れて戻って来た。
台所でミリシェンスが同じものを飲んでいるところから見るに、ゴルダが淹れたようだ。
そして、匂いは茶葉の時より匂いは弱くなっているものの、それでもその独特の匂いは消えていない。

「この茶葉、雲の上で採れたものなのよ」

そう言いながら淹れられた茶を飲むルピルに、ゴルダはマティルーネの隣に座って

「雲を集めて土地を創造し、村まで形成できる雲竜ならば雲の上での農業も出来ても不思議じゃない」

雲竜なら雲の上で農業が出来ても驚かないと返す。

それにルピルは、それもそうよねと言って茶を啜る。
その間、なんとも言えない微妙な空気が流れた。

「それはそうと、家の中は小綺麗ね」

その微妙な空気を崩そうとしたのか、ルピルがやたらと綺麗な家の中の様子を褒めてきた。
するとそれを台所で聞いていたのか、ミリシェンスが

「汚いよりは綺麗な方よ」

汚いよりかはいいとルピルに言う。
するとルピルは、スッとミリシェンスの方へ顔を向けるとこっちにいらっしゃいと尻尾で手招く。
だがミリシェンスは

「悪いけど、まだやることあるから」

と逃げるように風呂場へ行ってしまう。
それを見たルピルは、察されたかしらという顔をしながらゴルダを見る。

「ああいう奴だ、気にするな。それとあのカーバンクルはミリシェンス。俺の家の従者だ」

ルピルに見つめられ、ゴルダはああいう奴だと前置きしてからミリシェンスを紹介する。
先ほどのカーバンクルの名がミリシェンスだと知り、ルピルは

「それこそ、ミリシェンスとの信頼関係崩しちゃダメよ?」

ミリシェンスとの信頼関係を崩すなと言いつつ、ゴルダの頭を尻尾で撫でる。
それにゴルダは一瞬剣を抜きかけたが、マティルーネのいる手間そんなことはできまいと抑えた。

「それじゃあ、やっちゃおうかな」

ルピルはそう言うや、いきなりゴルダに抱きついてきた。
なお、それを見ていたマティルーネはどうしたのかというと

「ふーん」

まんざらでもない反応を返す。
ルピルはそれをいいことに、ゴルダを気の向くがままに抱きしめている。

「毛からさっきの茶の匂いがする」

一方的に抱きしめられていたゴルダは、先ほどルピルと飲んでいた茶の匂いがすることを指摘する。
有毛の竜が自身の匂いとは別の匂いを取り込むことは、何ら珍しいことではないが、それは種によって異なってくるという。

「うふふ、いい匂いでしょ?」

むぎゅむぎゅと抱きしめられ続けてもなお、ただされるがままのゴルダだったが

「そろそろやめろ」

ここに来てルピルに抱きしめるのをやめるように言う。
しかしルピルはやめるどころかますます自身の毛の中へゴルダを埋めた。

「結構こうなるか」

なお、この後ルピルは夜まで帰らなかったという。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

働き詰めた後の休息

寒い冬の夜に日の光が差し込み、今日も朝がやってきた。
だが、朝が訪れてもゴルダか起きる気配はない。
それもそのはず、ゴルダが帰ってきたのは年が明けて三日も経ってからだ。
年末から正月にかけて、ゴルダは地球に依頼に行っており。日付の変わった今日の夜中に帰ってきた。
帰ってきたゴルダは、真っ先にハーキュリーの寝ているベッドに入った。

「ん〜」

ハーキュリーが起きると、隣でゴルダが寝ていた。
ゴルダは半覚醒睡眠で寝るのが当たり前なので、起こそうと思えば起こせるがハーキリーは思い留まる。

「絶対に夜中に帰ってきたから、起こすのは気がひけるな」

そう心の中で呟き、ハーキリーは同じく寝ているミリシェンスを起こし、一緒に朝食を作ることにした。

「ゴルダは起こさないの?」

後から遅れて起きたマティルーネに聞かれ、ハーキリーは

「働き詰めだったし、少し休ませよう思って起こしてないぞ。ダメか?」

と理由を述べる。
マティルーネはそれを聞いて

「確かにそうね。あのままだといつ過労でぶっ倒れてもおかしくないもの。でもゴルダが過労で倒れるなんてありえない話だけど」

確かにそうだと言っておいて、ゴルダが過労で倒れるなんてありえないと心配してるのかしてないのか分からないことを言う、
するとそれにミリシェンスが、ハーキリーにはコーヒー、マティルーネには人参ジュースを出してから

「自分の体の限界以上のことをしたら、誰でも壊れるわ。ゴルダはその限界ギリギリのラインでやっているだけ。でもそれにも限度はあるわ」

ゴルダは自分の限界ギリギリでやっているので、あんな芸当ができると話した上でそれにも限界はあると話す。

「それもそうなんだよな、どうにか一日休ませてやりたいけど。無理だよな」

実際問題、ゴルダをフルで一日休ませようとすると無理があるのは三人とも知っていた。
それは、ゴルダが竜医である以上はいつ何時往診依頼が来るか分からないからだ。
さらに、ゴルダに一日何もしないでぐうたら過ごせと言ったところで何かしら作業をしたらすることも、火を見るよりも明らかだ。

「もう縛っておくしかないんじゃないかしら」

と、冗談でもなさそうなミリシェンスの提案にハーキリーは

「いや、ゴルダを縛ったところで、オークに魔法書な気がするぞ?」

ゴルダを縛っても糠に釘や、暖簾に腕押しと似た意の言い回しを言う。
そして、マティルーネもそれに同意するかのように頷いた。

「本当に何かいい方法はないのかしらね」

他にいい方法がないかと、冷めたコーヒーを飲みながらミリシェンスはため息混じりに言う。
だが、三人ともそれ以上の案を持ち合わせてはおらず。時間だけが過ぎていく。

「おはよう」

それから少しの間を置いて、ゴルダが起きてきた。
いつもと変わらないその無表情な顔には、取りきれていない疲れを垣間見ることができた。

「おはよう、あまり寝れてないようだけど?」

ミリシェンスに寝不足を指摘され、ゴルダは

「体内時計がそうなっているせいでぐっすりとはいかんよ。それに睡眠薬の類いは俺には効かない」

体内時計がどうなどと言い訳をして食卓テーブルに座る。

「仮にも医者なんだし、健康にはもっと気を使えよなー」

と、言い訳をしたゴルダの頬をつまみながらハーキリーはそう言う。
なお、頬をつままれたゴルダは相変わらずの無反応を決め込んでいる。

「いい加減今日だけでもいいから休んで。限界ギリギリを維持して働くのもそろそろリミットが来てるはずよ」

やや怒り気味の口調でミリシェンスに言われ、ゴルダはただ単に頷いただけで何も返さなかった。
なお、ミリシェンスが働き詰めのゴルダに怒ったのは今日が初めてではない。

「んー…と、とりあえず今日は温泉でも行かないか?」

ミリシェンスがこれ以上怒ると、ゴルダに対して罵詈雑言が飛び出しそうなので、ハーキリーは温泉に行こうと提案。
するとミリシェンスは一旦怒りを抑えてから

「行って来なさい。休みを取って」

強い口調で温泉に行くように命ずる。
もはや、どっちが従者でどっちが主人か分からない。

「ああ、そうしよう」

ゴルダもここで断ったらどうなるかの予測はついているので、素直にハーキリーの提案を受け入れた。

すると、先ほどまで怒りの表情を浮かべていたミリシェンスの表情がにこやかになって

「気をつけて行ってらっしゃい。でもその前に朝食ね」

行ってらっしゃいとは言ったものの、朝食がまだなことを思い出し。急いでハーキリーと準備した。

なお、今朝のちはとにかく腹に詰め込むだけのレベルだったという。

「じゃ、行ってらっしゃい」

「ああ」

しっかり休んでこないと承知しないという目線を投げられながら、ゴルダはハーキリーとマティルーネを連れて出かけた。

「やはり女は怒らすとおっかない存在だ」

温泉に行けと言われても、特にあてがないのでムサヅキへと移動した直後、ゴルダがそんなことを言う。

するとマティルーネが

「何よそれ」

と不機嫌そうに尻尾でゴルダの後頭部を叩く。
そしてハーキリーも

「女の子の前でそんなこと言うなよなー」

と言いながら頬をつねってきた。

今ゴルダたちのいるムサヅキの中心地のヨギリは、ほんの百年ほど前に温泉が掘り当てられて以来、この世界の温泉のメッカとなった。
だがそれは、かつて有数の温泉があったフレイルティアという火竜の国が消えてたからでもあるのだが。

「硫黄くさい」

ヨギリの町の中を歩いていると、必ずと言っていいほどに臭う温泉の町特有の硫黄臭にマティルーネは嫌な顔をする。

「私はなんともないけど、マティルーネは鼻がいいんだな」

「いい人参を嗅ぎ分けられるようによ」

鼻がいいんだなとハーキリーに言われ、マティルーネはいい人参を嗅ぎ分けられるように進化したと相変わらず硫黄の臭いに不機嫌そうな嗅ぎ分けをして言う。

それからまたしばらく歩いていると、ゴルダたちは今度は紫月神社の前へとやって来ていた。
神社の入り口には

「迎春」

と書道で書かれた紙が張られており、初詣の時期は終わってないらしい。

「ん?どうしたゴルダ。何か見えるはずのないものが見えるとか、そういう怖いことは言うなよ?」

その書道を眺めながら、三姉妹の誰が書いたのかと考えていると、ハーキリーに突然話しかけられてゴルダは我に返ってから

「そんなものは見えんさ。ただ、三姉妹の誰が書いたのかが気になってな」

三姉妹の誰がこの書道を書いたのかを考えていたと返す。
なお、マティルーネは書道を見て

「この書道の腕で、水墨画で人参でも描いてくれないかな」

また人参の話をするのであった。
なお、ハーキリーは神社境内で掃き掃除をしている灰色の毛の妖狐をじっと見つめなが


「あの尻尾、もふもふしたいな」

箒で地面を掃きなか横へ横へと移動するその妖狐の四尾を見て、ハーキリーは思わず本音が出る。

「紫月神社のに居る妖狐たちは、三姉妹を除いて一尾から八尾まで様々だ。三姉妹は下級の妖狐たちの修行も見てるからな」

そう言いながら、ゴルダはハーキリーとマティルーネを連れて神社の境内に入る。
ムサヅキの正月は三の日で明けるのだが、その後も初詣をする参拝客を受け入れているため、所々人でごった返していた。

「どこもかしこももふもふ」

あっちもこっちも妖狐、魔狐、そしてたまに野生の狐や犬とたまに人間や亜人などでいっぱいの境内を見回しながらマティルーネは言う。

「触りたくなるよなこれは」

自分以外のもふもふに見とれる二人をよそに、ゴルダは黙々と歩く。

「あけましておめでとう」

それからどれくらい境内の中を歩いていたのかは分からないが、急に後ろから声をかけられてゴルダが振り返ると、そこには紫月三姉妹の長女の藍が立っていた。
前に会ったときに比べて、また大人びた感じがしたがゴルダはそれには触れず

「こちらこそあけましておめでとう」

同じく挨拶する。

「もつふー!」

なお、ハーキリーは久々に会った藍を見ていきなり抱きつきに行った。

「あらあら」

そして藍はそれを易々と受け止め、ハーキリーの頭を撫でる。
最後はゴルダが抱きつかせてくれなかったため、抱きつき欲ことハグ欲が溜まりに溜まっていたようだ。

「ところでゴルダ、その頭に乗っている子。また増えたの?」

もふもふしているハーキリーを引き続き撫でながら、藍はゴルダの頭に乗っているマティルーネのことを聞く、
ゴルダは藍の問いに一応はなと返し

「マティルーネという名で、人参以外は好んで食べない竜族だ」

マティルーネを紹介した。
藍はマティルーネが何を言っているかは分からないようだが、それでもにっこり笑いかけて

「よろしくね」

と言ってハーキリーを撫でてない方の手でマティルーネを撫でた。
藍に撫でられたマティルーネは、あまり悪い気がしてない様子でゴルダに

「あっちの方がずっともふもふだわ」

と言うのだった。

その後、ハーキリーが藍からなかなか離れないためゴルダはどうしたものかとマティルーネに聞く。
だがマティルーネは

「ゴルダがハーキリーにハグさせてあげないからよ」

などとなかなか厳しい一言を返す。
その一言にゴルダはぐうの音も出ず、とりあえずは

「まあ、確かにそうだな」

そうだなと一応認めておくことにした。
やがて満足したのか、藍から離れたハーキリーは

「なあ、もっと境内散策しようぜ」

もっと神社の中を散策しようとゴルダの手を握って歩き出す。
その際に急に引っ張られたため、マティルーネが頭から落ちかけたもののどうにかなった。

「何で神社の境内に温泉があるんだ?」

藍と共に境内を歩いていると、前にゴルダが来たときにはなかった温泉かぽつんと佇んでいた。

「これね…ムサヅキが掘った穴から偶然湧いてきたのよ」

ハーキリーが何で温泉が?と言ったのに対し、藍はムサヅキが掘った穴から湧いてきたと話す。

「ああ、あのでっかい狼か。あいつももふもふしたいけど近寄りがたいんだよな」

もうもうと湯気が上がっている温泉を眺めつつ、ハーキリーは冗談半分てゴルダとその温泉に飛び込もうとしたが

「ここに入るのはやめた方がいいわ、この温泉は入れるような温度ではないから」

藍に諭されて入るのをやめた。

「えー、そんなに熱いのか。ならどこかいい温泉知らないか?ゴルダと入りたいんだ」

それを聞いたハーキリーはどこかがっかりしながらも、ならばいい温泉を知らないかと聞く。
藍はそれにしばらく考え込んだ後で

「なら、この神社から十分くらいのところにある銀尾泉館に行ってみるといいわ。あそこなら日帰りでも大丈夫だから」

銀尾泉館という旅館を紹介された。
藍の話し振りから、どうやら知り合いがやっている旅館らしい。

「ありがとよ、行ってみるとしよう」

ゴルダは藍に礼を言い、その銀尾泉館へと向かった。

「これはまたこじんまりとした旅館だ」

紫月神社を後にして十数分。
ゴルダたちは目的の銀尾泉のへたどり着く。
温泉町の外れにあるその旅館は、規模にしては小さめでそんなに多くの者が泊まれる余裕はなかった。

「そんなことより入ろうぜ」

ハーキリーにせかされ、ゴルダは銀尾泉館の中へ入る。
旅館の中に入ると、玄関で番をしていたと思わしき管狐かサッと奥へ引っ込んだかと思えば、ゴルダよりも数十センチも小さいだいたい140センチ弱の妖狐が出てきた。

「これまた客とは珍しい。どうせ藍の奴のおせっかいだろうがな。銀尾泉館へようこそ、私はここの主人の銀乃月と申す。泊まりか?それとも日帰りで?」

銀乃月の銀毛の二尾に、どこか物悲しそうな薄桜色の目を見た途端。ゴルダは

「一人で切り盛りとはまた大変だな」

と何かを察したかのような一言を言う。
その一言を横で聞いていたハーキリーは、突然何を言い出すんだという顔をしている。

「ふふっ、お世辞が上手いな。日帰りなら好きに部屋を使ってくれても構わんよ。どのみち客なんぞめったには来ない。ゆっくり休んで行くといい」

そう言うや、銀乃月はふわりと浮いたかと思えば、ポンと煙のように消えてしまう。
どうやら姿くらましの類いの術を使ったようだ。

「上がろう」

「お、おう」

ハーキリーの手を引き、旅館に上がったゴルダはそのまま近くの部屋の中へ

「広いな」

「あまり泊まれない分、部屋を広く取ったんだろう」

部屋は思った以上に広く、そこまで宿泊客を収容できない分を部屋の広さでカバーしているようだ。

ゴルダはそのまま畳の上に座り、マティルーネを下ろしてからそのまま横になる。

「少し寝る」

「ん、そか」

そしてそのまま少し寝ると言い、ゴルダは十数秒で寝てしまった。

「やっぱり寝たりなかったようね」

あっという間に寝てしまったゴルダを見てそう呟いたマティルーネに、ハーキリーは

「寝かせてやろうぜ」

と言って、ゴルダを起こさないようにそっと部屋を出た。

それからどれくらい寝ていたのかは分からないが、ゴルダが次に起きた時にはすでに日が傾き始めていた。

「あっ、起きたか?温泉行こうぜ?」

起きるや否や、ハーキリーな温泉に行こうと言われ、ゴルダはどうにも納得がいかない様子で

「ああ」

と返し、温泉へ。
銀尾泉の温泉も、そこまで大きなものではないがハーキリーとゴルダとマティルーネが入るには充分な広さはあった。

「混浴ときたか」

「そうみたいだなー、逃げ場はないぞゴルダ」

建物の都合上、温泉を二つも置くことができないらしく。強制的に混浴にならざるを得ない現実に、ゴルダは困ったと言いたげに首をかしげる。

「性に関して医学的興味しかないんだから、混浴くらいどうということないでしょ」

マティルーネにそう言われ、ゴルダは二人に

「先入ってろ」

脱ぐものは脱がないといけないので、先に入っている様子に言う。

「ちゃんと入ってこいよゴルダ」

ハーキリーに釘を刺され、ゴルダはバツが悪そうに

「ああ、俺は嘘はつかんし逃げん」

などと言いながら二人を先に入らせ、自分も数分遅れて入った。

なお、温泉では特にこれと言ったことは起きなかったという。

こうして、なんだかんだでミリシェンスに取れと命じられた休息は終わりを告げるのであった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(交流) |

ルピル=マェリエーシュ

種族:雲竜(風・氷・光)
性別:♀
体長:3.82m
性格:いつもニコニコしている
シアがゴルダに紹介した雲竜。
幻獣の里の上空にある雲竜の村、セフォールヴィア村に住む。
名のルピルは幻獣語で「癒し」に似た意を持つ。
精神神経科医とのことだが、医師免許を持っているかは不明。
シアに似た体型だが、角は1対2本で体毛は白と銀。氷属性を使うときに背の毛が青くなる。
なお、目の色は#33FFFF(水色)に近い。
いつもニコニコしているが、その表情が主に見られるだけで、ぶち切れたりするととんでもないらしい。
そして声やそのもふもふに、尻尾で巻きつけてくるなどの仕草までもが全て癒しとなる特異性か能力を持っているという、ある意味恐ろしい竜でもある。

テーマ:キャラクター設定/紹介 - ジャンル:小説・文学

創作関係全般 |

一人では解消できないストレスの解消法

正月も終わりを迎え、日常の戻りつつある日になった頃。
ゴルダは地球での依頼を終えて帰って来た。
時刻は深夜零時過ぎ、キャリーバッグやらなんやらを家の中に入れ、真っ暗な居間のソファにゴルダは座る。
どういうわけだかこの世界に戻って来てからというもの、なんとも言えない違和感を感じていたのだ。
それの原因の一つにストレスがあるのは、一応医者であるゴルダ自身も分かってはいたが、厄介なのはそれが簡単には解消できないものということだ。

「ええい、どうしたものか」

実はこのストレスは昔からあるもので、感じる度に抑え込んでいたが限界のようだ。
これ以上溜め込めばどこで爆発するかも分からない以上、今すぐどうにかしないとならない。

「仕方ない、今日は寝るか」

そう言って、ゴルダはそのまま部屋に行って寝ることに。
すでにぐっすり寝ているミリシェンスたちを起こさぬようベッドに入り、ゴルダはすぐに就寝することができた。

翌朝。
あの違和感が取れないまま朝を迎えたゴルダは、ミリシェンスの用意した朝食を黙々と食べていた。

「依頼はどうだったの?」

ミリシェンスに聞かれ、ゴルダは法医学者が生きている人間を観察するような目をして

「これといっては」

と返す。
ミリシェンスはそれにやや不満げな様子でコーヒーを注ぐ。
今日は依頼はないのでゆっくりできるので、誰に相談しにいくかを考える。

「ルライエッタのやつは理論的かつ極論ぶつけるから論外だ。となるとシアくらいか」

結局相談しにいく相手はシア一択だが、シアに相談して解決しそうにない。
しかし、また溜め込むという選択肢はもはや通用しない。
ゴルダは何かを察して離れて座るマティルーネを見て覚悟を決めたかのように

「シアのところに行く」

「そう」

ミリシェンスにシアのところに行くことを告げる。
ミリシェンスはそれにぶっきらぼうな返事をして、ゴルダの食器を片付け始めた。
今日はレルヴィンとマティルーネをつれていったところで何かが変わるはずもないと留守番させておくことにした。

ところ変わって、ここはシアの塔。
次年度計画書のようなものを書いているシアの目の前に、ゴルダは座標指定テレポートで現れた。

「あら、アルカトラスには挨拶しないで私のところに来るのね」

そういいながら、シアは書く手を止める。
いつもならば、ここで抱きついて来るのだが、今日は違った。
ゴルダのその目線から、今日はしてはいけない何かを察してのことだった。

「相談したいことがある」

その場にどっかりと座り、ゴルダはシアに用件を切り出す。
そしてシアは、ゴルダが相談したいことを話し出す前にこう言った。

「身近な第三者には相談できないことがあるから、どうしたらいいのかってことでしょう?ちょっと待ってなさい」

見透かされていたことに別途驚くこともなく、ゴルダはシアに言われた通り待つ。
やがてシアは、一枚の手紙らしきものと地図を持って戻ってきた。

「雲竜は知っているでしょう?一人知り合いに相談とかそういう仕事してるのがいるから当たってみて」

雲竜とは、雲の上に村を作って暮らしている風竜族である。
ゴルダも、体重が異常なまでに軽いことしか知らず、会ったことすらない。

「幻獣の里の上空か、だが紹介されたからには行ってみるとするか」

地図を見たゴルダはそう呟くと、シアに礼を言って幻獣の里へ向かった。

場所は変わり、幻獣の里。
今日は若干エーテル濃度が高いのか、妙に体に違和感を感じながらもゴルダは地図に記されたところまでやって来た。
そこは森と草原の境目で、空には山のように頑として動かない大きな雲の塊が浮かんでいる。
ここで、ゴルダはどうやってあの雲の上へ行こうかを考え出す。
実際のところ、首輪を外して変身して飛んで行けば簡単に行けるのだが、今日はそんな気分ではない。
ならばどうするか?
それを考えながら空を見上げていると

「何を迷っている?風の魔力を使うのだ。風の翼で飛んで行けばいいではないか」

ゴルダの頭の中に自分の心の声ではない別の声が響く。
それは他でもない、賢王竜の声だ。
最近はそうでもないが、ゴルダが普段身につけているあの鎧の素材の主が賢王竜なのだ。
その魂が鎧に入っていて、ゴルダが装備したことでその魂がゴルダの魂とくっついて今の状態に至る。
普段はあまり茶々を入れることはないが、たまにこうして干渉してくるのである。

「風の魔力か、そうだな」

賢王竜のおせっかいで風竜魔力を使う方法を思い出したゴルダは、風の魔力を展開して風の翼を作り出すと

「もう口出しするなよ、老ぼれ」

と言って賢王竜を黙らせ、飛翔した。

「到着」

飛翔して数分後、ゴルダは例の雲の塊の上に着地した。
どうやらこの雲は風の魔力で固めてあるらしく、風の翼を解除した瞬間に風の魔力が途切れ、足が沈んで地上に落ちそうになったため。ゴルダは足に風の魔力を送って事なきを得た。

「家らしい家を持たないのか?雲竜は」

その雲の上を歩いていると、家らしい家はなく。敷地の境界線を示す屋根が建てられているくらい。

「紹介状にはルピル=マェリエーシュと書いてあるな。そして精神神経科医と」

シアから渡された紹介状に書いてある名を頼りに、ゴルダはどこに住んでいるかの聞き込みを始める。

「失礼、ルピル=マェリエーシュという精神神経科医を捜しているんだが知らないか?」

ゴルダは、手近に居た紫と緑の毛の雲竜にルピルがどこに住んでいるかを聞く。
すると、紫と緑の毛の雲竜はゴルダを珍しそうな目で見ながら

「こんなところに人間がくるとは珍しい。それでルピルだったかな?この辺りに住んでいるよ。家の前にネームプレート出しているからすぐわかるよ」

この辺りに住んでいることと、家の中でネームプレートを出していることを教えてくれた。
ゴルダはその雲竜に礼を言って、ネームプレートを出している家を探す。

「ここか、こじんまりとしてる家だな」

探し始めて数分後。
ルピルの家は簡単に見つかった。
しかも、他の雲竜の家と違ってちゃんとした家になっている。
そして、家の前には

「精神神経科医 ルピル=マェリエーシュ 悩み事、相談に乗ります」

と幻獣語で書いてあるネームプレートが確かに出されていた。

「ルピル。幻獣語で確か心みたいな意味があったはずだが」

ここで突っ立っているわけにもいかないので、ゴルダはルピルの家の扉の鐘が鳴らす。
鳴らしてから数十秒、静寂の時間が流れたが一分ほど経過してから

「はーい、どうぞ」

と聞くと癒される方向で眠くなりそうな声が聞こえてきた。
どうぞと言われたゴルダは、無言で扉を開けて中へ。
ルピルの家の中は、病院ではなく完全な民家の作りで、台所にシアかアルカトラスを小さくしたような竜が茶の準備をしていた。

「座ってて、お茶の用意しているから」

ルピルと思わしき竜に言われるまま、ゴルダは居間のソファに座る。
どういった素材で作るとこうなるのかは不明だが、座ると勢いよく体が沈み込んだ。

「お待たせ、私はルピル=マェリエーシュよ。あなたは?」

やがて、茶を用意し終えたルピルと思わしき竜が居間へやって来た。
改めて見たその姿は、どちらかというとアルカトラスに似ているが、体毛は白と銀。目は水色で似ても似つかなかった。
そして、何を考えているのかわからないほど不気味にニコニコしている。

「どうも、俺はゴルダだ。シアの紹介で来た」

とゴルダも名乗り、シアに渡された紹介状をルピルに渡す。
ルピルはその紹介状を受け取ると、そのまま読み始めた。

「お茶は飲んでいいのよ」

紹介状を読んでいるルピルにそう言われたゴルダだが、初対面の信用もへったくれもない相手から出された飲み物に手をつけるのは、本能が許すはずもなく。ただただルピルを見るだけ。

「私が毒なんて入れるとでも?ずいぶん孤高な人なのね」

「なんとでも言え」

遠回しに私を信用してくれないと話なんかできないわとルピルに言われ、ゴルダはなんとでも言えと突き放す。
ルピルはゴルダのこの態度から何かを感じたように頷き、紹介状を読むのに戻る。

相手が同じ医者ということもあってか、ゴルダはルピルにぼんやりとした何かを抱いていた。
だがそれが何なのかは、喜怒哀楽の怒以外を持たないゴルダにはさっぱりわからない。

それから三十分ほどして、紹介状を読み終えたルピルはニコニコした表情を崩さずにゴルダに急に前足を差し出す。
「握手しましょう?」

ルピルの謎の行動に、ゴルダははて?と首をかしげる。
この時、ルピルの背の毛が青くなっていることに気づいたゴルダは、氷属性の力で相手の精神と神経の状態を読み取ろうとしていると解釈。
なお、ルピルが風と氷の複合属性持ちであることにゴルダは薄々気づいていた。

「いいだろう」

ゴルダはそう言って、青い肉球のあるルピルの右前足を握り、握手を交わす。
ゴルダが握手をすると、ルピルは両前足でゴルダの手を握ってきたのだ。
それをされて、ゴルダは最初は無理やりにでも振り払おうとしたが、手にルピルの触り心地のいい毛が触れていたのでやめた。

「うーん、あなたって複雑ね。死に対する恐怖がないどころか、怒り以外の感情がない。そして何事にも動じない。でもそれでいて世話焼き…」

この後、ルピルは五分ほどノンストップで精神分析をする傍で話し続け、最後に

「よくサイコパスにならなかったわね」

と、気になる一言を言って茶をがぶ飲みした。

「さてと、あなたの口から相談を聞こうかな。言ってみて?」

いきなり相談したいことを言えと言われ、ゴルダは本当にルピルが精神神経科医なのかどうか疑いたくなったが、個々の診察の仕方にいちゃもんをつけるのはナンセンスだという考えの下に、それを口に出すのは抑えた。

「少し時間をくれ」

「ええ、日が暮れても待つわ」

シアより読めないこの相手にどう相談するか、ゴルダは考えを張り巡らせる。
そしてその答えはすぐに見つかった。
アルガティアと付き合うかのようにすればいい、すなわち読めない相手を無理に読もうとしないということだ。

「話は変わるが、聞きたいことがある。どうして医者になった?」

少しだけルピルを信用してみようと思ったゴルダは、なぜ医者になったのかを問う。
ルピルはゴルダが自分を信じてみる気になったことを察し、こう返す。

「第三者の精神ってものに興味があったからよ」

ゴルダはそれを聞いて納得したように頷き、自分が医者になった理由も話す。

「俺は…なんでだろうな。気づいたらこうだ。知識を追い求めた結果だな」

知識を追い求めた結果竜医になったと聞いて、ルピルは思わずふふっと笑う。
その時、ゴルダはルピルから今まで感じたことのないタイプの氷属性の魔力を感じた。
それと同時に、ルピルの診察と治療のやり方も把握できた。
それは、氷属性の力を駆使して相手の精神状態を把握。さらに氷属性の魔力と光の魔力で相手の精神や神経に直接処置を施す。というものだ。
だがこれはあくまでゴルダの憶測でしかないのだが。

「あとひとつ聞きたいんだが、いいか?」

「どうぞ」

ゴルダがまだ聞きたいことがあると聞くと、ルピルは上機嫌でどうぞと答える。
どうやら、ゴルダが自分を信用する気になったと感づいたからのようだ。

「シアと出会ったきっかけは?シアからは知り合いだと聞いている」

シアとどうやって出会ったのかと聞かれた途端、ルピルの目が笑わなくなったかと思えば

「ちょっとそれは言えないわ」

それは言えないと返した。
無論、ゴルダはそれに対してはこれ以上の追求はしなかった。

「さあて、そろそろあなたの口から相談したいことを話してもらおうかしら?」

もはや診てもらいにきた姿勢ではなくなったゴルダに、ルピルは尻尾でつんつんと突いて姿勢正すよう促しながら言う。
その尻尾での突きすら心地よいものに思えたゴルダは、分かったと一間置いてからルピルに解消できずに溜め込んでいるストレスを含めた様々なことを話す。

「なるほどね、それは確かに身近な第三者には相談しずらいわね」

ルピルはゴルダの話を聞いて、相談しずらいという現状を認めてくれた。
一通りルピルに話し終えたゴルダは、ようやく出された茶に手をつける。
ハーブティーの一種のようだったが、冷めきったそれの風味は損なわれており。おいしいとは言えない代物になっていた。

「それで思ったのだけれど、あなたのその溜め込むところ。直さないと同じことの繰り返しになると思うのよ」

ルピルの突然の一言に、ゴルダは

「それができたらこうはならないさ」

と極論を返す。
今の今まで、ゴルダは仕事とそれにより満たされる知識への欲求以外をあまり気にせずに生きてきた。
誰かに相談することなど、仕事上必要不可欠なもの以外したことはない。

「自分のことは自分がよく知っている」

「自分で解決できることは自分で」

その二つの言葉がゴルダをここまで溜め込む性格にしてしまったのだろうか。
それも結局は、ゴルダ自身しか知るはずもないのだ。

「溜め込むことをやめられないなら、そのガス抜きの方法を考えないといけないわ」

そう言って、ルピルは体重の軽い雲竜らしい身のこなしで飛び上がり、ゴルダの隣にふわりと着地する。

「その方法とは?」

いつでも剣に手をかけられるようにして、ゴルダはルピルに聞く。
すると、ルピルはゴルダの腰の剣を尻尾でどこかに飛ばして反撃されないようにしてから

「こうするの」

尻尾をゴルダに巻きつけ、そのまま自分の方に引き寄せた。
こんなことを、ニコニコしながらされては恐怖そのものでしかないはずだが、ゴルダは動じる様子はない。

「やっぱり動じないのね、普通は逃げようと抵抗するのに」

そこまで強くは締め上げず。あくまで逃げられないようにしただけなので、ふさふさしたルピルの尻尾の感触は今の状態を除けばたまらないものとなっていた。

「なあ」

「なにかしら?」

尻尾に捕らわれた状態のまま、しばし無言だったゴルダが口を開いたのでルピルはどうしたのかと聞く。

「手洗いに行きたいんだが、あと鎧を外したい」

トイレに行かせてくれと言うゴルダに、ルピルは

「逃げない?」

と聞く。
それにゴルダは

「逃げるならさっき抵抗して逃げたさ。構わんだろ?」

逃げるならさっき尻尾を巻きつけられた時に抵抗して逃げたと反論。
それを聞いたルピルは、ゴルダを一時的に解放して

「トイレは台所の左よ。それと一応逃げられないようにしておくから」

トイレは台所の左であることを教えてくれた。
ゴルダは、ルピルに一応どうもと言ってからトイレへ。

「風と氷と光の三つの複合属性とはたまげたな」
ルピルの体格に合わせて作られたトイレの中に落ちないようにしながら、ゴルダは着替えの魔法で鎧を外し、ジーンズとシャツに着替える。

「しかし、尻尾で巻きつかれたあの感触はなんとも言えんかったな。氷と光の属性を持つだけのことはあるな」

あまりルピルを待たせるわけにもいかないので、ゴルダはさっさとトイレから出てルピルのところへ戻る。

「本当は逃げられるようになってたんだけど、逃げないとは驚いたわ」

ルピルにそんなことを言われ、ゴルダは

「俺を食べるなら構わんが、試すのはやめてくれ。疲れるだけた」

食うなら食って構わないが試すのはやめろときっぱり言って、ルピルの近くに座る。

「ふふっ、いい子ね」

そう言うや、ルピルはゴルダの頭を前足で撫でながらまた尻尾を巻きつける。
先程と同様に、やはり抵抗できないように腕までしっかり尻尾に拘束されたものの、やはりそこまで強くは締め上げられない。

「じゃあ、始めるわね」

そう言うやルピルはゴルダの頭に前足を乗せ、目を閉じ。
その途端、ルピルの背の毛が青くなり。ゴルダは頭の中に何かが干渉してくる強く不快な違和感を感じる。

「ダメよ拒んじゃ、受け入れるのよ」

その干渉してくる違和感を追い払おうとしていたことがルピルに察知されてたようで、拒むなというルピルの声が頭の中に響く。
やがてその声に応じるかのように、ゴルダは拒む力を徐々に緩めていき。最後はルピルの干渉を完全に受け入れた。
するとどうだろうか。
今まで解消、あるいは発散されずに溜め込まれていたものが一つづつ泡のように消えて行ったのである。

ルピルの治療。
それは患者の精神と神経の状態を把握した状態で、ピンポイントでそこに干渉し、処置するというもの。
これは、精神と神経に関する医学的な知識と技術に、氷と光の属性の力を扱えなければできない芸当だ。

その後、十分ほどかけてルピルはゴルダの頭の中に干渉し続け、背の青い毛が白く戻ったところでゴルダは干渉から解放された。

「これでいいわ」

ルピルが尻尾の拘束を解きながらそう言うと、ゴルダは自分の中で何かが弾け飛んだような感覚を覚える。

「お前の処置法は好かないが、お前のもふもふは気に入ったよ」

思わず本音が出てしまったが、ルピルはそれを気にも留めず

「あらあら、じゃあこれからは定期的に来るようにね。爆発寸前まで溜め込んじゃあダメよ。あと報酬はいいわ、シアにはいろいろ借りがあるから」

爆発する前に来るように釘を刺し、その日は帰してくれた。

「…シアより上のもふもふだったな」

帰り際、ゴルダはそんなことを呟いた。
なおこれ以降、ゴルダはしょっちゅうルピルの世話になるようになったという。

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静かに過ごせない正月

年も明け、正月も終わって日常が戻りつつあるゴルダの家。
だが、家主であるゴルダは年の瀬から依頼で異界に行っているため、不在。
予定では明日帰って来るらしいが、伸びる可能性もあるとか。

「暇だなあ」

と言いながら居間のテレビでゲームをしているのは、ほかでもないフウ。
その側ではレルヴィンとマティルーネが座り、暖炉の火でぬくぬくしている。
本来なら、セイグリッドに行ってたりするのだが、ゴルダがいないので行けず仕舞いでいるのだ。

「仕方ないわ、ゴルダがいないんだもの」

そのフウの一言にそう返したのは、台所で正月料理の残りをどうするか考えていたミリシェンス。
その後ろでは、ユウが鼻歌混じりに食器を洗っている。

こんなど田舎にぽつんとたたずむ家にやって来るものがいるはずもなく、かといってゴルダの親戚はほぼ全てが王族なため、新年の挨拶に尋ねて来ることはまずない。
だが、そんなこの家にも一応正月に来客はあった。
それは氷悠という半妖狐で、ゴルダの親戚の妖狐の紫月家の遠い親戚でゴルダとは知り合いだという。
氷悠は、その紫月家の使いで代理で新年の挨拶に来たのとお歳暮代わりに清酒を持って来た。
なお、氷悠のことをゴルダから聞いており、人を馬鹿にするようなことをよく言うという意味で口が悪いことがあることを聞いていたミリシェンスは、若干警戒していたが特に何も言われなかった。
ただ、帰り際に氷悠に

「ゴルダもかわいいものばかりを家に居座らせるものだな」

と言われたが。

「食器、洗い終わりましたよ」

思慮に更けているところへ、ユウに食器を洗い終えたと言われたミリシェンスはビクッとしてユウの方に振り返ると

「終わったの?ありがとう。休んでていいのよ」

終わったなら休んでていいと返し、自分は正月料理を冷蔵庫に入れ始めた。
ユウは、どこか変なミリシェンスにきょとんとしつつも言われた通りに部屋に戻って休むことに。

「ふう、相変わらずフウはゲームばかりね」

フウと共同で使っている部屋に置かれている自分のベッドに座り、ユウはそう呟く。
フウと居候を始めてからというもの、ミリシェンスにつきっきりで家事手伝いをしているためか、若干ながらフウとの間に溝が出来ている気がしているのだ。
だが、フウ本人はそんなことは全く気にも留めずにユウを姉として慕っている。

「どうしたものかしらね」

などと考えていると、突然天井から何か青いもふもふが落ちてきた。

「テレポートの座標間違えたかな?」

その青いもふもふの正体が、フィルスであることに気付いたユウは、無意識のうちにフィルスを強く抱きしめていた。

「額は触らないで」

フィルスにそう言われて我に返ったユウは、自分の胸の辺りに額の石が当たっているのに気付き、そっと解放する。
解放されたフィルスは、耳を掻いてからユウに向き直って

「あけましておめでとう、かな?城が騒がしいから来たんだけれど」

新年の挨拶をする。
なお、フィルスがここへ来た理由は新年の挨拶だけではなく、城が騒がしいという理由もあるらしい。

「大変ですね、こちらこそあけましておめでとうございます。それはそれとして、今ゴルダさん居ないんですよ。大晦日から異界に出張してて」

ユウも同じように挨拶をし、今ゴルダが居ないことを話す。
それを聞いたフィルスは、どうでもいいような顔をして

「僕は居ても居なくても構わないよ、静かに過ごしたいだけだから」

静かに過ごせるならそれでいいと言ってユウの膝に座る。

「居間に行きましょう、ミリシェンスたちがいるから」

膝に座られるや、ユウはフィルスにそう言って抱き上げてから部屋を出る。
なお、フィルスは頷いただけである。

そしてユウが居間に戻ると、そこにはココとチーノにモカとコロンが居た。
どうやら、いつの間にか遊びに来ていたらしい。

「ここでも静かに過ごせそうにないかな…」

フウとゲームをしていてこちらに気づいていないココとチーノにモカを見て、フィルスはそう呟く。

「あけましておめでとうございます、ユウ。そしてフィルス」

コロンに挨拶され、ユウとフィルスは反射的に二人同時に

「あ、あけましておめでとうございます」

と挨拶を返す。

なお、コロンはミリシェンスと茶と菓子の準備をしていた。
今日はコロンがレアチーズケーキのタルトを持って来たらしく、それに合わせてミリシェンスが紅茶を淹れている。

「手伝いますか?」

フィルスを抱いたまま、ユウはコロンとミリシェンスに聞く。
だが二人とも首を横に振って

「二人で手は足りてるから大丈夫よ、フウたちと遊んでて」

フウたちと遊んでていいと言ってきた。
だがユウはそれにどこか納得いかない顔をする。

「どうしようかな」

ユウがどうしようかと考えていると、居間に置いてあるタブレット端末からスカイプの通話の着信音が鳴る。
フウたちは気づいていないらしく、ユウはフィルスを離して居間へ行ってタブレット端末を取る。
画面には

「ゴルダ-持ち出し端末用」

と発信主の名が出ている。
どうやらゴルダがかけてきているようだ。
ユウは迷わず通話に応答する操作ゎして

「もしもし、ゴルダさん?」

と話す。
すると、タブレット端末から

「ああ、ユウか。ミリシェンスに伝言を頼んでもいいか?今帰りの飛行機の中からかけている」

ミリシェンスに伝言を頼むとゴルダの声がした。
ユウはいいですよと返し、ゴルダの伝言を待つ。

「依頼が諸事情で繰り上がって早めに終わったから今日帰ることにした。今飛行機の中だから、あと二、三時間くらいでは戻れるとミリシェンスに言ってくれ」

伝言とは、依頼が早く片付いたので今日帰ることになり、あと二、三時間くらいで帰るということらしい。
その伝言を言うと、ゴルダはじゃあなと通話を切った。

そしてユウがその伝言をミリシェンスに伝えたところ

「早いのね、だからどうこう言う気はないけど」

まんざらでもない返事をした。

「さて、と」

ミリシェンスに伝言を伝え終えたユウは、居間のソファに座った。
ソファには右端にモカが座ってうとうとしていて、左端にはココがレルヴィンとマティルーネの間に挟まるように座り、こちらもうとうとしながらも、両方をもふもふしている。
そして、ユウがソファに座ると、またフィルスが膝に座って来た。

「トゲゾーを食らえっ」

「残念、一位じゃないから当たらないよー」

フウとチーノは、マリオカートをしているらしくかなり白熱している。

「乱入しようかな…」

フウとチーノの様子を見て、乱入を考えたユウはコントローラーを取ろうと身を乗り出したものの、フィルスが膝に座っているので思うようににはいかない。

「仕方ないかな」

いつの間にか自分の膝の上で寝ていたフィルスを起こさないようにしながら、ユウは乗り出していた身体を戻して座り直す。

「お茶が入りましたよ」

コロンの声でうとうとしていたモカが目を覚まし、なぜかフィルスも目を覚ます。

「お茶?ああ、淹れてたんだね」

フィルスの一言に、コロンはにっこりして

「ええ、フィルスのもありますよ」

フィルスのもあると言った。

その頃、ゴルダはというと。

「全く、入界審査にどれだけかかるんだ。利用客が多いとはいえ」

飛行機を降りたはいいが、年末年始を地球で過ごした者たちの一足早い入界ラッシュが始まっているらしく。入界審査場は一時間以上の待ち時間になっていた。
ゴルダがユウにあと二、三時間で帰ると言ったのはこれを予測してのことである。
また電話しようかとも思ったが、やっても蛇足だと思ったのでやめた。

「入界審査待ちのお客様へご連絡いたします。ただいま入界審査場が大変混み合っており、最長で一時間以上の待ち時間を頂いております。お客様のご理解とご協力をお願いいたします」

というアナウンスを聞いて、ゴルダはやれやれと呟き、時間を潰そうと有料ラウンジへと入るのであった。

その一方、優雅にティータイム中のコロンたちはというと

「おいしいです」

「それは良かったですわ、手づくりなのよ」

ユウにおいしいと褒められ、コロンは少し照れたような反応を見せる。
なお、ココとチーノは今の今までそれらしいイタズラをしてない。
それもそのはず、二人の目的は今日帰ってくるゴルダからお年玉をもらうことなのだから。
たが、その目的はゴルダが帰ってくると聞いて今しがた決めたことなのだが。

「味がくどい。紅茶淹れたの誰?」

紅茶を飲んでいたフィルスが、ふとそんなことを言い出したのでミリシェンスが

「今日はコロンが淹れたわ。そんなに味がくどく出てるのかしら?」

遠回しにまさかと言って自分も飲む。
飲んでから数秒。ミリシェンスは何も言わなかったが、やがて

「確かに若干くどいわね」

と一言だけ言ってタルトを食べるのに戻る。
なおコロンも自分の淹れた紅茶を飲んで

「確かにくどいわ、茶葉入れすぎたみたいね」

と味がくどいのを認めた。
なお、タルトの味には誰一人としてケチをつけなかった。

やがてティータイムも終わり、またゲームに戻るフウとチーノ、相変わらずレルヴィンとマティルーネをもふもふするココ、片付けをするミリシェンスとコロン。
なおモカとユウはソファにくっつくように座わり。二人の膝の上にフィルスを乗せてうとうとしている。
ただし、フィルスはモカとユウの膝の上でどこからか出したウクライナ語で書かれた本を読んでいる。

そして時は経ち、三時間後。
相変わらずゲームをしているフウとチーノに、談笑中のミリシェンスとコロンと本を読んでいるフィルスを除き、ココもユウもモカもいつの間にか寝息を立てている。
なお、ココはレルヴィンの腹の辺りを枕代わりにしてマティルーネを抱いて寝ている。
ちなみに、レルヴィンもマティルーネも一応は起きていることを補足しておく。

その数分後。

「ただいま、戻ったぞ」

待ちわびた者の帰ってきた声がした。
帰ってきたゴルダは、スーツのパンツの方に、長袖のシャツの上から竜毛のコートを羽織り。キャリーバッグに土産が入ってると思わしき袋に、パソコンなどを入れていると思われる肩下げのバッグという姿だった。
なぜこんな姿で行っていたのかというと、行っていた異界が地球だったためいつもの鎧に腰に剣を差した姿では行けないからだ。

「おかえりなさい、お邪魔してます」

「ああ、悪かったな。家を空けていて。年末に手術の執刀してくれと頼まれてな」

コロンにお帰りと言われ、ゴルダは肩から下げていたバッグを下ろして家を空けていて悪かったなと言う。

「後でゆっくり話そう、今は荷物を片付けたい」

土産の袋をミリシェンスに任せ、ゴルダはキャリーバッグと肩下げバッグを持って部屋へ行ってしまう。

「さて、何買ってきたのかしら」

そう言って、ミリシェンスは土産の袋を開く。
するとコロンも気になったのか、その中身を覗きに来た。

「うーん、菓子と加工食品ばっかりね」

「そんなものだと思いますよ」

そう言いながら土産を出していると、なぜかレトルトカレーが出てきた。
パッケージには松坂牛の文字があったので、それのカレーなのだろうとミリシェンスは察して袋から土産を全部出す。

袋から全ての土産を出すと、食卓テーブルの上全てが埋まる量があり。七割が菓子で、残りの三割が加工食品だった。

「さて、改めてよく来たな。そしてあけましておめでとう」

部屋に荷物を置き終えたのか、部屋からゴルダが出てきてまたコロンに挨拶する。
コロンもそれに応じて

「あけましておめでとうございます、そしてお邪魔してます」

と挨拶を返す。

「ああ、ココとユウとモカは寝ているのか?」

ソファの上で微動だにしないモカとユウに、かすかに耳が見えるだけのココを見てゴルダは呟く。

「あっ、お帰りー。あけましておめでとう」

「お帰りー、あけましておめでとう」

ゴルダの声に気付いたフウとチーノがそれぞれ挨拶する。
二人の挨拶を聞いたゴルダは、何かを思い出したかのように財布を出す。
ゴルダの財布の中は、カードやら免許証やらがみっちりではない程度に入っており、紙幣の方もぎっしり入っている、

「俺が忘れる前にお年玉をやろう」

このお年玉と言う言葉に反応したのか、今の今まで寝ていたココが飛び起きる。
だが、モカとユウはぐっすり寝ており。フィルスにいたっては本を読むのに夢中でどこ吹く風。

「わーい、お年玉お年玉ー」

はしゃいでいるチーノとココを見て、コロンが

「本当にいいんですか?」

と心配そうに聞いてきたが、ゴルダは別に構わんと言って財布から紙幣を出す。
なお、ゴルダが出したのはなぜか五千円札。

「両替しないと意味がないから注意しろよ」

それぞれ五千円札を渡しながらゴルダに言われ、ココとチーノはにやにやしながら頷く。
なお、フウとユウにモカにもゴルダは同じようにに五千円札を渡した。

こうして、静かに過ごせない正月は終わりを告げる。

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輝星と昏黒とアルカトラスとシアの正月

年が明け、初日の出も登ったセイグリッド。
まだ新年の祝い事すら城で行なわれていないこの時間に、空気を読んでいるのか、時と場合を考えているのかすら分からない者とそれに付き合わされる者の二人が城へと向かっていた。

「昏黒ー、早く早く」

と言っているのは、他でもない輝星だ。
他の王子たちを差し置いて、真っ先にアルカトラスのところへ新年の挨拶をしに行こうと考えての行動である。
だがしかし、こんな早くから行くのはどうかという疑問が残るがそれは考えないでおこう。

一方、城の方では今まさに新年の祝い事の準備を行っているところだった。
異界から要人も来ることもあり、それなりの準備を要するため従者に限らず、手の空いている者は全て準備に回っている。

そんな中、城の主であり国王のアルカトラスは何をしているのかというと、年末に各所から上がってきた次年度の予算案などを含めた各種次年度案の整理をしていた。
本来ならば、十二の月の中旬には各所から全ての案が上がってきていて、今日の時点でまとめ終わり。年度末議会で案を可決するだけなのだが、いかんせんその各所の仕事が遅かったのだ。
もちろん、そのツケはアルカトラスが払うことになるのだが。

「あれほど早めに提出するよう口酸っぱく催促していたにもかかわらずこれとはな」

呆れた口調で、書類の処理をしているアルカトラスのところに、本来それどころではないはずのサフィがやって来た。

「今大丈夫かしら?」

右へ左へ視線を頻繁に動かしているアルカトラスに、サフィはそう話しかける。
アルカトラスはそれに、一瞬サフィを見てからまた書類に目を戻す。
どうやら、目線は合わせずとも話は聞いているから話せということらしい。

「では単刀直入に。輝星と昏黒が来ているけど誰も手が空いていないのよね。後で来るよう伝えて帰す?」

輝星と昏黒が来ていると聞いたアルカトラスは、書類を処理する手を止めてからサフィに視線を合わせ、こう言う。

「シアに少しばかり相手をするよう伝えてもらえないだろうか?書類が片付いたら会うとしよう」

その返事を聞いたサフィは、軽く頷き書斎を後にした。

そして、新年の祝い事の準備の最中にもかかわらず城に入った輝星と昏黒は、準備の邪魔をしないよう城の中を歩いていた。

「…だから行くのは早いと言ったんだ」

昏黒のその言葉を半分くらいしか聞いていなかった輝星は、アルカトラスの書斎の方へと駆け出す。
昏黒も、それを追うように早歩きで後を追う。
この時、輝星はサフィに言われて塔から降りてきてこちらへ歩いて来ているシアに気づいていなかった。

「…前、という前に遅かった」

「アルカトラス様ー…ぎゃふん!」

アルカトラスの書斎へ一刻も早く行くのに夢中で、前方不注意になっていた輝星は、シアの両前足の間に追突。
幸いにも、シアは有隣種ではなく有毛種だったために輝星はかすり傷一つ負わなかった。

「あらあら、新年早々怪我なんて縁起が悪いわよ?」

シアの一言に、輝星はてへへと恥ずかしそうにする。
昏黒はそれをまたいつものかと、特に羨ましがることもなく見ていた。

「シア様、あけましておめでとうございます」

「ええ、こちらこそ。昏黒もね」

一通りの挨拶を済ませ、もふもふしている輝星をよそにシアは昏黒にも声をかける。
だが昏黒は軽く頭を下げただけで、一言も話さない。

「とりあえず、ここで突っ立ってるのも準備の邪魔になるし、応接間行きましょう?」

このシアの提案に、輝星はもふもふするのに夢中で反応しなかったが、昏黒は軽く頷いて応じた。

応接間も一応掃除されており、新年の祝い事に来客を迎えるのにふさわしい状態にされている。

なお、輝星は相変わらずシアをもふもふしているので同じ場所に座り、昏黒はそれに向き合うような感じで座っている。

「調子はいかがかしら?」

シアの問いに、向かい合って座っている昏黒は何も答えず。まるで虚無を覗くかのような目線を投げかけている。

その視線に、シアは深く介入することもせずに

「答えたくないなら、無理に返さなくていいわ。そういう解釈として受け止めるから」

そう言って、シアは魔法でどこからともなく茶を三人分出す。

「…先にいただきます」

「どうぞ」

茶を飲ん出された際、自分の方から飲む際の断りの言葉を言って口をつける。
なお、シアが出した茶は地球のそこそこいい茶葉で入れた緑茶だ。

だがシアが緑茶を出す時は、大抵静岡産のものを出すのだが今日は切らしているらしい。

「あけましておめでとう、輝星に昏黒。仕事が残っていてすぐには来れなかったが、元気そうで何より」

昏黒が黙って茶をすすっていると、アルカトラスが入ってきた。
話し振りからして、年末に残ったまま年をまたいで持ち越した仕事を片付けていたらしい。
昏黒はアルカトラスを見てすぐに立ち上がると、無言で軽く会釈してからまた座る。
なお、輝星はシアをもふもふしているのでアルカトラスが入って来たことには気づいていない。

「おや、輝星は?」

アルカトラスの問いに、シアは自分の毛の中から輝星を出して

「ここよ」

と言う。

毛の中から出された輝星は、しばらくぽかんとしていたがアルカトラスを見て

「アルカトラス様、あけましておめでとう」

と新年の挨拶をするのだった。
するとアルカトラスは、二人にどこから取り出したのか分からない鉱石を差し出す。
一方はテリスプテライトという、薬に使う鉱石。もう一方はエマセレスという融点が低い割に加工次第ではタングステンより頑丈で軽くなる金属の鉱石だ。
どちらも、この世界にしか埋まってない鉱石である。

「お年玉の代わりに持って行くといい、汝らは鉱石を食すのだろう?」

穏やかな口調で聞かれ、輝星は首を縦に振ってもちろんと答える。

「ありがとう、アルカトラス様」

「良い、我の気持ちとして受け取るといい」

なお、昏黒はもらったエマセレス鉱石をまじまじと眺めていたという。

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