氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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天才と聖夜

今年も関係ないものには関係がなく、関係があるものにはある日がやってきた。
去年は盛大にクリスマスをやっていたセイグリッド城も、今年は静かだ。
それはなせがというと、アルカトラスが異界に行って居ないからである。
そんなしんみりとした雪を被るセイグリッド城に、一人の天才ことメリエルはやって来た。

「なんでこんなに静かなのよ、クリスマスなんだからパーティーでもしてると思ってたのに残念だわ」

などと文句を言いながら城の敷地へ入るメリエル。
今日はいつもの服装に手袋、耳当て、マフラーという防寒装備をしている。

「本当に誰も居ないの?」

人っ子一人すら見かけない、雪で白く染まった庭園を歩きながらそんなことを言っていると、どこからか

「居たらどうする?」

と聞き覚えのある声が聞こえた。
メリエルがその声が聞こえた方へ振り返ると、煙草のようなものを吸いながら雪でマティルーネを作っているゴルダを発見。

「あんた寒くないの?」

ナイフで細かい調整をしているゴルダにメリエルはそう聞く。
ゴルダはそれに煙草のようなものの火を消し、ナイフをしまっていい感じだと呟いてから

「リヴァルスよりは寒くないな」

と会話のドッジボールを返す。
メリエルはそれにあんたらしいわと目線で訴えると

「マティルーネとミリシェンスはどこよ」

いつもそばに居るマティルーネとミリシェンスが居ないことに気付き、どこに居るのかと聞く。

「部屋の中だ」

ゴルダはそれに部屋の中だと答え、どこから出したのか分からないカメラで雪像のマティルーネを撮る。
それを横で見ていたメリエルは、何がしたいの?という感が否めなかったものの、それは口に出さずに

「中入りましょうよ、さすがに寒いわ」

寒いので中へ入ろうとゴルダに促す。
一方ゴルダは、何度がシャッターを切ってからメリエルの提案を受け入れて室内へ。

「やっぱり中は温かいわ」

中に入るや、防寒装備を脱いでそんなことを言うメリエルにゴルダは何の反応も示さずにつかつかと回廊を歩いていく。

「ちょっと、待ちなさいよ」

メリエルはそう言ってゴルダの後を追う。

そしてそのうち、ゴルダが入ったのは普段は全く使われない応接室。
メリエルもゴルダに次いで入ると、テーブルの上にこじんまりした料理が置かれ、シアとミリシェンスにマティルーネ、レルヴィンと少し離れてアルガントとフィルスがそれぞれ座っていた。

「なんでフィルスが居るのかはさておき、何よ」

こちらをじっと見ているミリシェンスに、何よと話しかけるメリエル。

「特にこれといったことなんてないわ」

いつもの調子で返事をしてきたミリシェンスに、メリエルはうぐぐとなる。

「それはそうと、せっかく来たのだからゆっくりしていきなさい」

シアにそう言われ、メリエルはそりゃそうよねと急にドヤ顔をしてシアの前足の辺りに座る。

「やっぱりこうじゃないとね」

自分の前足の辺りに座ったメリエルを、シアはそのまま毛の中へ埋もれさせる。
なお、された本人はすっかりご満悦な様子。

「なんだかなね」

「そうね」

それを見ていたミリシェンスとマティルーネは、同じことを口にした。

なおその後は、なんだかんだで飲み食いしたり話をしたりで時間を過ごしたという。
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小説(交流) |

遅すぎるが一足早いプレゼント

クリスマスを明日に控えたある日。
ゴルダの家では、それもどこ吹く風といった感じのいつもの風景があった。
だが、一つだけ違うのはゴルダが依頼も診察もなく牧場に用もないのに用事があると見え見えな嘘を言って出掛けて居ないが。

「むー」

「あと五分ね」

食卓テーブルでは、フウがミリシェンスに算数を教えられていた。
一方ユウは、なぜか幻獣語の入門書を読んでいる。
ただ居候させるだけではなく、一人で生きていけるような知識をつけさせるという方針をゴルダが最近取り出したので、ミリシェンスと二人でフウとユウの習熟度に応じたことを教えている。
今のところフウは小学三年くらいのレベル、ユウは小学五年くらいのレベルのことを教えられている。
本人が理解するまで、怒らず何度も教えるという物の教え方はゴルダもミリシェンスも変わらない。

「できたよ」

「そう、じゃあ国語やってね」

算数の問題を解き終えたと言ったフウに、ミリシェンスは今度は国語をやるように言う。
フウはそれに納得のいかなさそうな顔をして、しぶしぶ国語に取りかかる。

「うーん、飲み込み早いわね。結構ひねった問題だったんだけど」

「昔から自分からやってましたので」

フウも理解力も申し分ないのだが、ユウの理解力はゴルダもミリシェンスも感心するしかないレベルだった。
今やっていたのは、小数の計算問題だったが、ユウはミリシェンスが指定した時間の半分で解き終えのだ。

「うん、ユウは今日はここまで。洗い物してくれる?」

「分かりました」

ミリシェンスはユウに今日はもういいので洗い物をするように言い、フウの前に座り直す。
ユウはミリシェンスに言われた通り、台所の洗い物を片付けにかかるのであった。

一方そのころ、嘘をついてまで出掛けたゴルダは何をしていたのかというと、カヴェルニーエに赴いて何やら買い物をしていた。
今来ている店は、普通とは違う魔法が絡む履き物全般を扱う店。
履くとどんなに運動音痴でもマラソン選手並に走れるようになるスニーカー、臭くなることがほとんどないビジネスシューズ、水中での移動が楽になる長靴など色々な履き物が売っている。
その中でゴルダが目をつけたのは、どんな足にも対応し、しかも足の大きさが変わると同期してサイズの変わる竜革と幻獣布を使ったブーツ。
竜革自体がこの世界ではあまり出回らない代物なので、それを使ったブーツが二つもあるのは非常に珍しい。

「ろくな履き物がないせいで牧場の手伝いさせるの渋ってたが、これで解決だな。しかも二つの意味でのプレゼントになる。一つは遅すぎて、一つは早いが」

「もったいぶってる暇はないんじゃないかしら?」

なんだかんだで呟いていると、マティルーネにそんな暇はないのでは?と言われ、ゴルダはすぐさまそのブーツを買って店を出、ケーキ屋へ向かった。

「どこ行ったのかしら本当に」

一方家では、ミリシェンスが半ば呆れ気味にゴルダの帰りを待っていた。
一応、フウとユウの誕生日を忘れていたので今日祝うとは聞かされていたものの、本人たちが居間に居るので準備のしようがない。

「何作ろうかな」

ユウが洗濯物を干しに外へ出、フウは自室に戻ってゲームをしているのでこの隙にとミリシェンスは夜の献立を考える。
そして、考え始めて数十秒で

「うん、決めた」

献立を思い付き、台所へ立った。

そのころ、洗濯物を干していたユウは自分でも忘れていた誕生日のことを思い出す。

「うーん、言い出すのも図々しいかなぁ」

などと言いながら洗濯物を干していると、ゴルダとは出掛けなかったレルヴィンが外に出てきた。

「どうしたの?」

ユウが声をかけると、レルヴィンは洗濯物のカゴを頭で押して寄せてきた。
どうやら、早く干そうと言いたいようだ。

「そうね、寒いからね」

そしてユウはレルヴィンにそそのかされるがままに洗濯物を干し、家の中へと戻る。
家の中に戻ると、ミリシェンスが台所に立っているのが見えたので手伝おうとしたユウだが

「今日はいいわ、私だけでやるから」

ミリシェンスに今日はいいと言われ、させてもらえなかった。

「機嫌悪そうには見えないんだけど、どうしたのかしら?」

ミリシェンスの態度に首をかしげながら、ユウはフウと共同で使っている部屋へ。
部屋の中はある程度片付いてはいるものの、フウの机だけはパソコンがあることを除いても、菓子のクズなどで若干汚れている。

「フウ、机の上が散らかってるから片付けして」

「えー、後でやるよ」

ユウに片付けをするように言われるも、フウは後でやると先伸ばしにする者がよく言う一言を言う。
もちろん、ユウもはいはいと弟であるフウの言ったことを鵜呑みにはしない。

「後でやるはやらないと同じ、今すぐやるの」

弟のだらしなさを改善するためなら、姉として厳しく言うまでである。

「分かったよ、やるよ」

ユウに厳しく言われ、またもやフウはしぶしぶ机の上を片付けるのだった。

そして夜。
なんだかんだで、三時過ぎ辺りから出掛けて帰って来なかったゴルダがようやく帰ってきた。
その手にはいくつかの荷物が握られてたが、それが何かは不明。

「ずいぶん遅かったのね」

「出先で急に診てくれと電話が来て行っていた」

遅かったのねと、遠回しに遅くなった理由を聞いてきたミリシェンスにゴルダは急に往診が入ったからだと言って、荷物の一つを冷蔵庫へ入れる。
なお、食卓の上にはすでに盛り付けの済んだ料理が並べられていた。
そして今日のメニューは、やたらとマッシュルームの多いハヤシライスだった。

「丁度腹が空いていた、飯にしよう」

ゴルダの一言にミリシェンスは頷き、ユウ達を呼びに行く。
やがて全員が揃ったところで、これまたいつもと代わり映えのない夕食が始まった。

「言ってなかったが、クリスマスは異界へ出張で居ないからな」

ゴルダの突然の一言に、アルガントがむせて涙目になったので、慌ててユウがなだめる。

「そう、ゴルダはクリスマスなんて関係なかったわね」

ミリシェンスは口をつけていたワイングラスを置いてからゴルダに静かに返す。
ミリシェンスとユウは今年がゴルダと初めてクリスマスを過ごすことになっていたが、どうやらそれはかなわないようだ。

「そんなにお仕事大変なんですか?」

どうにかアルガントをなだめたユウに聞かれ、ゴルダはそうだと頷く。

「それはそうと、少し早いようで遅すぎたが。ユウ、フウ。お前達にプレゼントだ」

頷いてからしばらくして、やや意味不明な前置きをしてからゴルダはユウとフウに謎の包みを差し出す。

「何ですかこれ?」

「なぁに?これぇ?」

何これと言う二人に、ゴルダは後で開けてみるように促す。
するとユウとフウは、夕食もそこそこに渡された包みを開けてみた。

「わあ、新しい靴だ」

「本当だわ」

包みの中身は、一見普通のブーツだった。

「履いてみるといい、大きいが問題はない」

ゴルダに履いてみるように言われ、フウは試しにそのブーツを履いてみることに。
確かにサイズの差がありすぎてぶかぶかでは済まなかったが、突然ブーツその物が縮んでフウに適したサイズになったのだ。

「牧場の手伝いさせよう思ったら、まともな履き物がなかったからな。そしてお前達の誕生日を忘れていたからちょうどいいと思って選んだ。誕生日おめでとう」

こうしてユウとフウは誕生日にしては遅すぎて、クリスマスには早すぎるプレゼントを貰ったのだった。

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小説(交流) |

冬の漁港で

比較的温かい気候の部類に入るスリュムヴォルドにも、冬が訪れた。
海沿いは北寄りの風が連日吹き、上に何か羽織ってないと寒く感じるほど。

だが、そんな海沿いで寒さなど全く関係ないと言わんばかりの二人が居た。

「あんた寒くないの?」

そう言ったのは、普段着でもある薄着に裸足という姿のシスイ。
その視線の先には、マティルーネを頭に乗せたゴルダが居る。
なお、今日は特に用があって来たわけではなく気まぐれにスリュムヴォルドへやって来て漁港周辺を歩いていた際にシスイと出くわしただけだ。

「リヴァルスよりは寒くないな」

市場に並ぶ魚に釘付けになっているレルヴィンに一瞬目をやってから、ゴルダはぶっきらぼうな返事を返す。
市場には冬の魚が並んでいて、寒ブリや秋刀魚などを見たゴルダは、今夜は魚にするかと考えながら歩き続ける。

「でしょうね」

ゴルダの返事に、シスイは右手の上に水の魔力を具現化させながら言う。
かれこれ、ゴルダとシスイの関係は二年近く続いているが未だにシスイはゴルダに気を許したわけではない。
シスイが手の上で魔力を具現化させた行為から分かるように、相手に対して変なことをすればそれなりの対応をするという意がある。
つまり、ゴルダが少しでも自分に敵意などを見せれば相手にするということなのだ。

「相変わらず疑心暗鬼は取れずじまいか、そこはお前は昔から変わらんな」

表情こそは見えないが、直感でマティルーネが何よこいつと言いたげな顔をしていると察しながら、ゴルダはシスイの先ほどの行為に昔から変わらんと指摘するように言う。

「誰もが持つ不変の面って奴よあんたにもあるでしょ」

シスイはそれに不変の面だと返しながら大きく伸びをする。

それを聞いたマティルーネはゴルダに

「不変の面って、必ずしもいい意味とは限らないんだけどね」

とささやく。
なお、シスイはマティルーネの話す幻獣語に近い言語関しての知識を持っておらず。何を言っているかは理解できないので、ただ首をかしげるだけだった。
「ねえ、何て言ってるのその頭の上に乗ってるのは?」

試しにシスイはゴルダに聞いてみるも、ゴルダは煙草のようなものを取り出すような素振りをして教える気がないことを示す。

「何よもう」

何も答えないゴルダに、シスイは呆れたような顔をしてどこかへ行ってしまう。

「ふうむ」

気がつくと居なくなっていたシスイに気づいたゴルダは、どこかバツが悪そうにして呟く。

「変なところで異性への接し方が下手なのね」

マティルーネの一言に、ゴルダはそれを言うなと言って近くの建物の壁に寄りかかる。
レルヴィンは相変わらす魚に釘付けになっていて、言っても聞く様子がない。

「さて、今日は秋刀魚でも煮付けるか」

そう言うや、ゴルダはレルゥィンが釘付けになっていた秋刀魚を買って帰るのだった。

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小説(一次) |

空駆ける双翼は、どこへ向かう

寒さが和らいだり厳しくなったりと安定しない今年の大陸の冬。
そんな冬の中でも、お構いなしに散歩と称して飛び回る双翼が居た。
一方は紫毛の人間の肩、あるいは頭に乗るようなサイズの竜、もう一方は青毛のカーバンクルだ。
それぞれ名を、紫毛の竜のほうはマティルーネ。青毛のカーバンクルの方はフィルスという。

「よくそんな速く飛べるのね、軽いんだから強風に流されても知らないわよ?」

「強風を感じたら速度を落とすだけだよ」

マティルーネとフィルスには、それぞれゴルダとアルガティアという主ともいえる存在が居るのだが、今日はそんなことは忘れて自由気ままに冷たい北風の吹く空を飛んでいた。
双翼はどこへ向かうかも、どこへ降り立つかの検討もつけずにただただ飛び続ける。
そして、飛んでいる双翼の眼下に見えるのは、リフィルという島国の緑と、時折見える家などの建築物。
たまに鳥や、荷物を運ぶ竜とも出くわしたが基本的に空の上ではそういう者たちとは挨拶を交わすだけにとどめてそれ以上は無関心なのが普通だ。

「鳥ならまだしも、竜なら普通は襲ってきそうなものなのだけど」

マティルーネの一言に、フィルスは

「このリフィルに住んでいる竜は、雑食は居てもやれそれ襲ってくるようなのは居ないよ」

やれそれ襲ってくるような竜はこの国にはいないよと言う。
基本的にゴルダと行動し、ゴルダと居ることでしかこの世界の知識を得てこなかったマティルーネは己の無知っぷりを恥じて黙ってしまった。
だが、フィルスはマティルーネの無知を貶したりすることは一切せずにこう言う。

「わからないなら、その知識をつければいいだけの話だよ。最近ゴルダも君の言っていることが分かるようになってきたんでしょ?だったら頼んでみるといいよ」

「それもそうね、ぶつ切りだけど理解できるようにはなってきてるようだし。今度頼んでみようかな」

そこで一旦会話を切り、双翼はまた行く先の定まらない空の散歩を続ける。

それからどれくらい飛んだのだろうか?
やがて双翼は幻獣の里の一角にある森へと降り立つ。
なお、幻獣の里はエーテルで満ち溢れており、耐性がない場合は対策なしで行くには危険な場所だ。
フィルスはエーテルに対しての耐性を持っているので問題はないのだが、マティルーネはそもそも耐性があるのかどうかが不明。
だがしかし、フィルスが連れてきているということはマティルーネにもエーテルへの耐性があるということなのだろう。

「食べる?」

森へと降り立ち、手ごろな木の上へと腰かけた双翼はフィルスはその気に実っていた木の実を背伸びして取り1。つを、マティルーネに渡す。
その木の実は、色的にはブルーベリーに近いのだが大きさがリンゴほどもある。
フィルスはそれを何とも思わずに両手で持って食べ始めたが、マティルーネは爪でその木の実をつつくだけで食べようとはしない。
どうやら、いつものニンジンのほうがいいというわがままを発揮しているようだ。

「やっぱり君はニンジンのほうが好きだったかな?何にも言わないから取ったんだけど」

「ううん、ニンジンがいいってわけじゃないの。ただ持って帰りたいかなって」

ニンジンのほうがよかったかと聞くフィルスに、マティルーネはそうではなく、ただ持って帰りたいからと理由を告げる。
だがフィルスは知っていた。この木の実はエーテル濃度が高い場所にしか実らず、エーテル濃度が低い場所へ持ち出すと破裂して食べられなくなってしまうことを。
だが、フィルスはそれをマティルーネに伝えずに

「うん、持ち帰りたいならそれもいいと思うよ」

マティルーネの木の実を持って帰りたいという気持ちを尊重してそれもいいと思うと言い切って、それ以上余計なことは言わないようにした。
やがて、フィルスが木の実を食べ終わったところで双翼はアルガティアとゴルダのところへ戻るためにまた空へと舞い戻る。
なお、マティルーネが持って帰った木の実は途中で破裂してマティルーネの体を汚したという。

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小説(一次) |

シャールイズの頼み-血を手に入れよ

ミリシェンスと共にシャールイズのところへ行き、無暗に呼び出すなと言った日からどれくらい経ったか分からないある日。
全くと言っていいほど呼び出されなくなって、少し胸をなで下ろしていたところへまたシャールイズから来てという電話が入った。
だが、今日のシャールイズはどこかげっそりした声をしていたので、ゴルダはアレだろうなと察しを付けながらもシャールイズのところへ向かう。

「しかしまた急に夏日に戻ったな」

もはや真冬だというのに、夏日のような暑さが戻ったような空の下を歩きながらシャールイズの店へと到着したゴルダ。
だがそれでも、シャールイズの店がある路地裏に少し入ったこの場所はそんな戻ってきた夏日を遮り、不快な蒸し暑さだけを漂わせている。
そのせいか、頭の上のマティルーネも横にいるレルヴィンもその不快な蒸し暑さでかなり不機嫌だ。

「おいおい、そんな牙ぎしりするな」

あまりの暑さのせいで牙ぎしりして不機嫌さを露わにしているレルヴィンにそう言いながら、ゴルダはイェリゼラの扉を開く。
店内には、表に私用で今日は休むという張り紙がされているためか客はおらず。店主であるシャールイズは、ゴルダを呼ぶために使ったであろう携帯を持ったままカウンターに突っ伏していた。
どうやらシャールイズが突っ伏しているのは眠いからではなく、動く気力がほとんどないから突っ伏しているようだ。

「おい、大丈夫か?死んでないだろうな?」

頭の上で爪を立て、降ろすなと言わんばかりに尻尾で後頭部を叩いているマティルーネをよそに、シャールイズに声をかけるゴルダ。
だがシャールイズは何も答えない、というよりは答える気力もないようである。
この状態から、ゴルダはシャールイズが血を飲むのを怠っていたツケが回ってきていたことを確信し、何をするかと思えば

「ほら起きろ、こいつを飲め」

まず、カウンターに突っ伏して動かなくなっていたシャールイズの上半身を抱えてそっと起こし上げ、腰に装備していた薬品ポーチと思わしきものから赤紫色の液体の入った小瓶を取り出し、シャールイズにゆっくりと飲ませる。
なお、今ゴルダがシャールイズに飲ませている液体は、サフィから伝授してもらった吸血鬼とその類の種族が慢性的な吸血不足を一時的に補うための特殊な薬。
本当にその場しのぎの薬なので、これを飲んだからと言って吸血しなくてもいいわけではない。
だが、サフィから伝授されたこの薬の効果はかなり強力なものなので、どうなのかは不明だが。

「ああ、いらっしゃい。来てくれたのね」

「単刀直入に聞く、どれくらいの間血を飲んでいなかった?」

薬を飲まされ、なんとか持ち直したシャールイズは何事もなかったかのように立ち上がり、ゴルダにいらっしゃいと言う。
それに対してゴルダは、突っ立ったままでどのくらいの期間血を飲んでいなかったのかと聞く。
ゴルダの問いに対し、シャールイズはうふふとごまかすように笑うと

「そうねえ、少なくとも半年。それ以上は覚えてないわ」

半年というシャールイズの答えに対し、ゴルダはよくそれで持ちこたえてこれたなと言うのを抑え、先ほどの薬を片付けてから近くの椅子に腰かける。
なお、レルヴィンはふてくされたような様子で少し離れた場所に座り、こちらを見ている。

「血を手に入れて来よう、その代わりこいつらを手に入れてくる間見ていてくれ」

もともとシャールイズが呼び出した理由が、血を持ってきてほしいというものであること察していたため、ゴルダはシャールイズにその間マティルーネとレルヴィンを見ているように言う。
だが、マティルーネはシャールイズのことを良く思っていないため、ゴルダの頭の上から降りるのを渋った。
しかし、それでもゴルダに力づくで頭から降ろされ、最終的にはカウンター上でゴルダを何で降したのよと言いたげな目つきをしながら座った。

「じゃあ行ってくる。変なことするなよ」

「しないわ、いってらっしゃい」

こうしてゴルダは、マティルーネとレルヴィンをシャールイズに預け、血を探しに行くのだった。

ゴルダが血を手に入れに行った後、シャールイズはマティルーネを触ろうとしては噛まれそうになって手をひっこめるを繰り返していた。
シャールイズは相変わらずマティルーネにかなりの敵対心を持たれているようで、触ろうとするとこのありさまである。
だが、最初に会ったころよりは警戒も敵対心も薄れているが、それでも触ろうとすると噛まれそうになるのでまだまだのようだ。

「マティちゃん、マティちゃん。どうして噛もうとするのかしら?」

向こうがこっちの言っていることを理解しているかどうかなど知らず、シャールイズはマティルーネにそう問いかける。
問いかけられたマティルーネは、少し首を傾げながら

「血吸われそうだからよ」

と答えた。
それを聞いたシャールイズは、えっ?という顔をしながらマティルーネを見る。
ここで、マティルーネの話している言語はこの世界での幻獣語に似たものらしく、フィルスくらいしか通訳ができないと補足しておく。

「ふーん、私が話していることを理解できるのってフィルス以外にも居たんだ。ちょっとびっくり」

マティルーネは耳を動かし、シャールイズにそう言ったっきり何も話さなくなった。
なお、この後シャールイズが抱っこしてもマティルーネはその心配はなく、信用してもいいと思ったらしく。抵抗することはなくなったとか。

「よう」

「どうした、昔の竜滅病の薬でも仕入れに来たのか?」

「そういうもんじゃない、血が欲しい」

一方、血を手に入れに行ったゴルダは何をしているのかというと、同じく路地裏に居る裏社会に生きるものしか診ない知り合いの医者の所へ来ていた。
ちなみにこの知り合いの医者、今は諸事情があって製造などが禁止あるいは無期限休止された薬などを取引してくれることもある。
血が欲しいと言われ、知り合いの医者は変わったもんが好きだなと言いたげな顔をして

「ああ、あるぞ。人間でも亜人でも、竜でもな。最近幻獣族の血が手に入ったんだがどうだ?値はそれなりだが」

血ならいくらでもあると、知り合いの医者はゴルダに在庫のリストを差し出す。
リストは種族ごとに分けられていて、目的の血を探すのにはそう苦労はしなかった。
その中から、ゴルダは適当に1つを選択してそれをよこせと金を渡す。

「よし、ちょいと待ってな」

そう言って知り合いの医者はどこかへ消えたかと思えば、輸血用のパックに入った血を持ってきた。
表の社会であれば、血の売買は法で禁じられているのだが、それは地球での話であってここの世界では表社会でもひっそり売られていることがあるようだ。

「悪いな、助かったぞ」

「いいってことよ、また何かあったら来てくれ」

こうして血を手に入れたゴルダは急いでシャールイズの所へ戻るのだった。

「うーん、やっぱり毛のある子って皆触り心地がいいわ」

その頃、カフェでゴルダが戻るのを待っているシャールイズはすっかり警戒しなくなったマティルーネを抱っこしたまま紅茶を片手にだらだらと時間を潰していた。
マティルーネの毛はしっとりかつさらさらで、シャールイズが吸血竜に戻った時とそうそう変わらない。
そのためか、シャールイズはマティルーネを離さんと強く抱いている。

「強く抱きすぎ」

「いいじゃないのよ」

強く抱きすぎとマティルーネに言われるも、頑として抱く強さを緩めないシャールイズ。
今のところ、まだゴルダが帰ってくる気配はない。
なお、レルヴィンは離れた場所で昼寝中だ。

「早く戻ってこないかしらね」

「だから抱く強さを緩めて」

早くゴルダが戻ってこないかと呟くシャールイズに、抱く強さを緩めてと言うマティルーネ。
だがそれでもシャールイズが抱く強さを緩めることはなく、結局ゴルダが血を持ってくるまでそのままだったと言う。

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小説(一次) |

竜が舞い降りた世界

ある日、アルカトラスが書斎の本棚を整理しているとかなり古い日記が出てきた。
どれくらい前のものかは不明だが、少なく見積もったにせよ数百年前のものだろう。

「我は日記など書き記していただろうか?」

ふと疑問に思い、日記の適当なページを開くアルカトラス。
なお日記に書き記された年は、大陸歴2000年前半と大昔。
また、そのページはざっと読んだ限りでは、アルカトラスが初めて地球という名の異界へと行ったことに関する内容になっている。

「まだ産業革命など知己じみた夢の時代か。ちなみに行った場所はヨーロッパになっているようだな」

アルカトラスは角の辺りを掻きながら、その日記を読み始めるのであった。

時は今から1000年は遡った、大陸歴2000年代前半セイグリッド。

この世界で最初に建国され、今の今まで分裂などは一切起きずに当初のままを保っている。
そんなセイグリッド城の一室で、この世界の創造主にしてセイグリッド国王のアルカトラスと、従者が話をしていた。

「はて、地球とは?」

「この世界と似てはいますが、竜は居ませんし、魔法もない世界だそうで」

従者から地球という異界の話を聞いて、わずかながら興味を持ったアルカトラス。
すでにドランザニア辺りがこの時代に関わりを持っていたものの、その関わりはごくごく限定的なものでしかなかった。
それはなぜかというと、アルカトラスがその世界へ赴き、本当にその世界と関わりを持ってもいいのかを確認して許可を出していないからだ。
この時代のドランザニアは、まだアルカトラスを意識していたため、そこまで好き放題やってはいなかった。
それも時代が移り変わるにつれ、アルカトラスのことなどお構いなしに好き放題やるようになっていったのが現代のドランザニアである。

「一度赴いて、このまま関わりを拡大してもいいのか否かを判断してはいかがでしょうか?そのために地球の話を持ちかけたのですが」

赴いてみては?と従者に言われ、アルカトラスは書きかけだった書類のサインを終わらせてから顎に前足を当てて、しばらく思慮に更けると

「現状情報が乏しい、シアに何か情報がないか聞いてからにしよう」

シアに何か詳しい情報がないかを聞いてから決めると答え、従者に下がるように言って残っている書類を片付け始めた。

それから数時間後、アルカトラスはシアの居る塔の上へと来ていた。
この塔はセイグリッド建国当初に建てられ、以来数百年に一度の期間で改修などが行われたりしている。

「あら、国務は?」

と、アルカトラスが来たことに気づいて読んでいた定義の書から目を離すシア。
アルカトラスはそれに

「今日で処理しないとならない分は終わらせた」

今日が期日の仕事は終わらせたと返し、ちらりと定義の書に目をやる。
アルカトラスが一瞬定義の書を見たことに気づいたシアは、今日は定義はいじってないわよと言いたげにそれを閉じ、尻尾でアルカトラスの前足を軽くつつく。
前足をつつかれたアルカトラスは、一度大きく咳払いをしてから

「地球へ赴こうと思うのだが、何か情報は持っていないかね?持っていれば教えてほしいのだが」

地球の情報を持っていないかと、シアに対しては珍しい口調で聞く。
それを聞いたシアは、ちょっと待っててと言わんばかりに、塔のてっぺんの一角に作らせた自室の方へ行く。
自室とは言っても、魔法書や生の創造神にして管理者にとっては必要不可欠な門外不出の本などを保管しているだけの場所に過ぎないのだが。

「これでいいかしら?なんともまあ、人間が人間らしく生きている世界ね」

やがて、シアが地球に関して自分がまとめたと思わしき本と紙束を持って戻ってきた。
その量、本は十冊程度、紙束は数十束に及ぶ量だ。

「うむ、すまないが借りるぞ」

借りるぞと言ったアルカトラスに、シアはどうぞどうぞと言ってまた定義の書を読み始めるのだった。

この後、城の自室へ戻ったアルカトラスはそれらを夜通し読み更け、一通りの地球の情報を頭に入れたのであった。

それから数日後、アルカトラスはこの日の仕事をシアに任せて地球へと向かった。
一応、竜も居らず魔法も存在しない世界であることは知っているため、向こうの世界に住む人間に見つからないための対策は講じることに。
とはいえ、不可視化魔法で姿を消しただけなのだが。

「やけに何もない場所へ降り立ってしまったな」

そうしてアルカトラスが地球へと降り立った最初の場所は、周りに家など見当たらない殺風景な場所。
どうやら田舎へと降り立ってしまったようだ。
誰もいないならば不可視化魔法を使うまでもないだろうと思ったアルカトラスは、大きさを今の三分の一程度にまで縮小し、のそのそと歩き出す。
今のところはこの世界の危険因子は確認できないが、何が起きるかが分からないのが異界探索なので、気を抜くことはできない。

「はて、本当にこの世界は人間が人間らしく生きているのか?」

改めて周りを見ても、人間どころか動物一匹すら見かけいないのでアルカトラスは少し心配になりつつも探索を続ける。
歩くたびに感じる魔力らしい魔力を一切感じない大地に、改めてここが地球であることを認識させられながら歩いていると、アルカトラスは畑らしき場所を発見した。
何を植えているかは全く分からないが、とりあえずは近寄ってみることに。

「これは、小麦か?」

植えられているものがおおよそ小麦であると予測できたアルカトラスは、ぐるっと畑の周りを歩き回ってみた。
だが、どこからどう見てもただの小麦畑に過ぎなかったので、誰か来ないものかと待ち伏せてみる。
そして、それからどれくらい経過したのかは分からないがアルカトラスはいつの間にか寝ていたようで、何やら騒がしい声で目が覚める。

「はて、何事だ?」

あまりにも騒がしいので、アルカトラスが片目を開けてみるとそこには農民と思わしき人間二人が腰を抜かして畏怖の表情でこちらを見ていたのだ。
さすがのアルカトラスも、これには完全に目を覚ましてその農民二人に対して

「こんにちは」

と話しかけるも、ここがセイグリッドではないことを思い出し、慌てて翻訳魔法を通して

「こんにちは、取って食べるような真似はしないのでご安心を。それよりここはどこですかな?」

相変わらず腰を抜かしたまま動けない農民二人に、アルカトラスはそう問う。
すると農民の一人が

「あ、ああ…見たこともない生き物がまさか喋るとはな。それでここがどこかと?ここはしかないフランスの田舎さ」

ここがフランスの田舎だと聞いたアルカトラスは、ふうむと返して農民二人に

「我という存在と会ったことは忘れるのだ、よいな?」

自分と会ったことを忘れろと言い残し、不可視化魔法を使ってどこかへ行ってしまうのであった。
こうして、地球も竜が舞い降りた世界の一つになったのだった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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