氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

溶けた花は、涙のように

第六平行世界のリヴァルスにも、本格的な冬が間近に迫っていた。
日に日にブリザードが吹き荒れる日が増え、リヴァルスウルフや春先以外姿を消す氷花竜がちらほらと王都リャダヴィルチの近くで目撃されることが多くなった。
だが、リヴァルスウルフも氷花竜も、王都の近くに出没はすれど王都の中までは入って来ない。

「また氷花竜か、最近頻繁に現れるな」

そして今日も、第6平行世界のゴルダことエインセルスが氷花竜の出没を双眼鏡で確認していた。
基本的に、氷花竜が姿を見せるのは三から四の月の春先。
それ以外は姿を消し、どこに居るのかすら判然としない。
だが、本格的な冬の入りのこの時期だけリヴァルスウルフと共に姿を表す。
しかし、今年は例年に比べてリャダヴィルチ近辺での目撃例が多い。

「直接会って調べる他ないな」

エインセルスはそう呟き、国章入りのマントを翻して王都の外を監視する監視所を後にする。
その際、見張りに

「ゴルダ陛下、どこへ行かれるので?」

と聞かれたが、エインセルスはそれを聞くなという目線を投げた。
監視所を後にしたエインセルスは、下水に併設されるような形で張り巡らされた地下道へ入り、王都と雪原の境目の門の前まで移動する。

「陛下、なぜ雪原へ?とやかくは言いませんが、夕方からブリザードが来ると通達が入っているので夕方には王都へお戻りください」

門をくぐろうとした際、リャダヴィルチ気象台から今日の夕方から夜中にかけてブリザードが来るとの予報が通達されていることを、エインセルスは門を守る民に言われ、ャダヴィルチに戻る時間の期限を夕方とする。
リヴァルスは国内治安を維持するための衛兵しか持っていないが、こうして民一人一人がいざという時に自衛できるだけの能力を有すような王政をエインセルスは行っているのだ。

「行くか」

「お気をつけて、陛下」

門をくぐり、雪原へ出たエインセルスは氷花竜に会うため、歩き出す。
生まれた時から雪国で暮らし、積もった雪の中を歩くコツこそは身に付いているが、それも積もった雪の中を歩くのは骨が折れる。
それから十数分歩き、エインセルスは氷花竜がそこに居た証拠を発見する。

「氷花か、まだ咲いてからそこまで時間は経ってない」

氷花とは、雪の結晶が花となったもので、雪の結晶の数だけ花の種類がある。
触ると凍傷を起こすほど冷たく、氷属性でもない限りは手袋が必須。
しかもこの花、普通に摘もうとすると枯れるのではなく、溶けるのである。

「どれ、一つ…溶けてしまったな」

手袋を外し、素手で氷花を摘もうとしたエインセルスだが、氷花はすぐに溶けてしまう。
その際、溶けて水とは違う液体になった氷花が、まるで涙のようにツーっとエインセルスの手のひらから流れ落ちた。
それを見てエインセルスは何か嫌な予感を感じ取り、氷花竜を探す足取りを速める。
だが氷花竜は、それから数分もしないうちに十匹ほどの群れで居るのを発見することができた。

「どうしたんだ?今年はやけに頻繁に見かけるが」

その群れの長と思わしきオスの氷花竜に警戒されていたようで、エインセルスは唸られたがそれに動じずにそのオスの氷花竜に話しかける。
やがて、エインセルスが敵ではないと判断したのかオスの氷花竜は唸るのをやめて匂いを嗅ぎ始めた。
唸って警戒するのはやめたものの、やはりもう一度敵ではないことを確認する意味合いがあるようだ。

「もう一度聞く。何か俺に用か?」

エインセルスが改めて聞くと、そのオスの氷花竜はついて来いと言わんばかりにエインセルスに背を向けて歩き出す。
それに応じるように歩いていくと、今年生まれたであろう氷花竜の子供が、母親と思わしきメスの氷花竜に舐められ、ぐったりとしていたのだ。
それを診察眼で一目見たエインセルスは、半ば危篤状態であることを悟ると、その氷花竜の子供を

「この子供はすぐに治療しないと命が危ない、治療するために連れていくぞ」

エインセルスはどこからか清潔な布を出してその子供の氷花竜を包んで抱きかかえ、母親の氷花竜にそう言って背を向ける。
すると、先ほどの群れの長と思わしきオスと、母親の氷花竜がついて来るそぶりを見せた。
それを見たエインセルスは二匹に

「俺を信用しろ、言っていることは分かるな?だがついて来るなと言ったところで聞くはずもない。ついて来い」

ついて来いと言って、城への帰路を急いだ。

それから三十分ほどでエインセルスは二匹の氷花竜と共に城へと戻ってきた。
氷花竜が王都であるリャダヴィルチにまでやってきたことに驚く者は多かったが、それ以上探りを入れる者はいなかった。

「よし、始めるぞ」

城の中に作られた診療所へと駆け込んだエインセルスは、子供の氷花竜を診察用ベッドの上へ寝かせて診察を始める。
なお、病魔の正体自体は診察眼で診たときに見破っていたので、あとは投薬治療が間に合うかどうかだ。
その病魔の正体とは重症化した風邪である。
氷花竜は風邪のウイルスに対する免疫は極めて高いのだが、子供となればそうはいかない。
おそらく、軽い栄養不足からくる免疫力低下が仇となり、風邪をひいて重症化してしまったのだろう。

「まだくたばるなよ。お前は次の世代を継ぐものだ」

エインセルスはそう言いながら用意した重症化したときに用いられる風邪薬を氷花竜の子供にゆっくりと飲ませる。
無理に飲まそうとすれば、ただでさえ重症化した風邪で呼吸機能も低下しているところにとどめを刺してしまいかねないからだ。

「よしいい子だ、全部飲んでしまうんだ」

後ろで母親と長が固唾を飲んで見守る中、エインセルスはなんとか薬を全部飲ませることに成功した。
あとは、この子供が持ちこたえられるかどうかである。
その頃、城の外からはブリザードが迫っていることを知らせる鐘が無関心に鳴っていた。
薬を飲ませ、打つ手は打ったので後はこの子供に残っている免疫力次第。おそらく今夜が山場だろう。

「打つ手は打った、あとは付き添って看病してやれ」

エインセルスは二匹にそう言い、診療所を後にする。

そしてそれからどれくらいの時間が経ったのだろうか?
氷花竜の子供はどうなったのかというと、結果から言って一足遅かった。
就寝前に不快になるほどの胸騒ぎを感じて診療所のほうへ行ってみれば、診察用ベッドの上に寝かされていた氷花竜の子供の姿が消え、ベッドの上には氷花が一輪咲いており、ついて来ていた二匹の氷花竜がどこか物悲しげな遠吠えをしていた。

「遅かったか、だが仕方のないことなのかもしらん」

そう言いながら、エインセルスはその二匹を慰めるように撫でた。
その際、母親のほうの氷花竜の頭の花が溶け、その溶けたものがまるで涙のように頭を伝って床にぽたぽたと落ちていたという。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

アルカトラスの名を継ぎし者たち

十センチほど雪が積もり、地面の見えない冬のセイグリッド城。
積もる時とそうでない時との差が激しく、今日はまだ積もっていない方。本当に積もる時は数十センチのレベルで積もることさえある。

だがそのような雪の積もりようとは無縁な場所が、セイグリッド城敷地の外れに存在する。
それは、国有地に作られた墓地。
なぜかここだけには雪が積もらないのだ。
そして、その理由も一切分かっていない。
そんな墓地に、見慣れた一人と見慣れない二人がやって来た。
その見慣れた一人は、他でもないゴルダ。見慣れない方の二人はゴルダの妹弟のサマカンドラとバハームード。
その三人がやって来たのは、墓地の一番奥に作られた大きめの墓。
一般的な墓石と材質の違ったそれは、違和感すらも感じさせるほどである。
なお、その墓石に刻まれている文字は

「ロドルフォ=R=アルシェリアとエルナ=R=アルシェリア、ここに眠る」

というもの。
すなわち、これはゴルダ達の両親の墓なのだ。

「こうして三人揃って墓参りはいつぶりだろうな」

まるで死者に呼び掛けるように墓石を軽く叩き、来たぞと言うゴルダ。
その後ろではバハムードが槍を地面に置いて片膝をつきながら

「悪いな親父、異界へ飛び出して百年以上帰って来なくて。俺はとんだ大馬鹿者だ」

と懺悔する。
するとサマカンドラはバハムードの頭を軽く撫で、墓前に花を供えるとこう言う。

「でも、もう兄さん一人で墓参り何てことはないから安心してね。父さん母さん」

こうしてゴルダ、バハムード、サマカンドラのアルカトラスの名を継ぐ者が揃って両親の墓参りをするのは、もはや何年ぶりかすら分からない。
最後に三人で墓参りをしたのは、恐らく五年目の命日の辺りだろう。

今日三人で墓参りできたのは、ゴルダが夜中の依頼しか入っておらず、バハムードもサマカンドラもたまたま暇で。ゴルダにバハムードが今時間あるかと電話したところ、前記の理由で暇だったので実現したのである。
「ん?電話だな」

墓参りを一通り終え、この後どうするかを話す前にゴルダの携帯が鳴る。

「はいゴルダ…了解した。15分では現着できるからそのまま安静に」

電話はどうやら急患だったようで、ゴルダはサマカンドラとバハムードに

「この後三人で酒でも飲もうかと思ったが、無理なようだ。また今度な」

この後三人で飲むつもりだったが、無理だと断言して墓地を去って行った。

「うーん、兄さんらしいわ」

「全くだ」

残された二人のアルカトラスの名を継ぎし者は、北風に吹かれながら同じアルカトラスの名を継ぎし兄を見送ったのだった。



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小説(一次) |

竜医師より、真心をこめて

冬が訪れ、一年でもっともエーテルの濃度が下がる時期になった幻獣の里。
だがそれでもエーテルへの耐性がない者には依然として危険なことには変わりない。
そんな幻獣の里のエレティーヌ村に、月一の定期往診のためにゴルダはやって来ていた。
だが今日はフィルスが居ないため、ゴルダ一人での往診である。

「お久し振りです」

「そんなに期間は空いてないだろうが」

いつものように村長であるルヴェルニッチに出迎えられ、その挨拶に突っ込むゴルダ。
よく見ると、ルヴェルニッチの両目が透明な薄紫色ではなく、透明ではない薄紫色になっている。
これは、診療所兼村の薬の保管庫が完成してすぐに、ゴルダの紹介でルライエッタにルヴェルニッチの眼球透過症を患った目を治療してもらったためである。
それ以来、定期往診の時にゴルダが診察してはいるが再発は今のところない。

「私にとっては、一ヶ月でも久しく感じるものですよ。要するに時間の感覚の違いというやつです」

ゴルダの突っ込みにルヴェルニッチはそう返し、自分の家へ案内する。
相変わらず、エレティーヌ村のカーバンクル達はゴルダを不思議そうに見ているが、もはや見慣れた光景だ。

「どうぞ、昨日までのリストです」

「うむ」

ルヴェルニッチの家でゴルダは、昨日までの村での患者のリストを見させてもらった。
昨日までの患者は、特に自分が診察をしないといけないような者は居らず。ルヴェルニッチの目を診察して、減った薬の調合を済ませれば帰れる状態。

「この村の住人は、実に健康的だな。多少の怪我と体調不良に目を瞑ればだが」

リストを一通り見終わり、ルヴェルニッチに返しながらゴルダは言う。
それに茶を出したルヴェルニッチは

「あなたがこの村に定期的に来るようになってからですよ。本当に感謝しています」

とゴルダに深々と頭を下げる。
だが、このルヴェルニッチの態度にゴルダは昔から持っている疑問を再び蒸し返す。
それは、本来あるべき医者としての像とは何なのか?などというものである。
大抵は考えるのが馬鹿馬鹿しくなって考えるのをやめるのだが、今日はどことなく違う。

「医者とは『感謝だけ』されるものなのか?」

これまた、過去に浮かんだ疑問の一つである。

「どうかしましたかな?」

少々首をかしげたルヴェルニッチに聞かれ、ゴルダは何でもないと返して立ち上がり

「薬の在庫を確認して来る。せっかく茶を入れてもらったのに悪いな」

蒸し返された疑問を押さえ込むべく、診療所へと向かう。
ゴルダのこの行動に、ルヴェルニッチは若干の違和感を覚えたが、恐らく疲れてるのだろうということで片付けた。

エレティーヌ村の薬保管庫は、診療所の横に併設されており。普段は鍵が掛かっている。
診療所の方から鍵を持ち出したゴルダは鍵を開け、薬保管庫の中へ入る。
薬保管庫の中は、畳にして12枚分ほどの広さで、左右に天井まで据え付けられた棚に、奥には調合用の作業台が置かれている。
そして柱には薬の在庫と、その素材の在庫を記した紙が二種類、何十枚と張り付けられている。
ゴルダはその一番上の紙に目を通す。
相変わらず幻獣語で書かれていて、幻獣語が分からないものには何が書いてあるのか全く理解できないが、ゴルダは最近からミリシェンスに幻獣語を教わっているので、一応読んだり話せなくはない。
なおミリシェンスによれば、幻獣語は世界が違えど文法などに大きな違いはないので、ある程度は通じるとのこと。

「消毒薬が減っているくらいか、風邪薬なんかはまだ作らなくていいな」

そこまで在庫が減っているわけでもなかったので、ゴルダは消毒薬の在庫補充のために素材を出す。
使うのは、どんな素材を使って作っているのか不明な純アルコールにいくつかの薬草。
アルコールに薬草を漬けておくだけで完成するのだが、薬草とアルコールの比率を間違えると効果が薄れてしまうので注意が必要だ。

「…よし、これでいい」

減っている分の消毒薬の調合終えて、ゴルダは柱に張り付けられた紙にそれぞれ幻獣語で書き記し、薬保管庫を出る。

「あっ、お医者さんのゴルダさんだ。いつもありがとう」

薬保管庫を出、鍵を閉めてその鍵を戻そうと診療所へ入ろうとすると、また1歳くらいの子供のカーバンクルにそんなことを言われ、ゴルダは再びあの疑問を蒸し返してしまう。
だが、子供の前で大人気ないことはできないので

「うむ、よく学んでよく遊べ。子供はそれが一番だ。ほら、もう行け。俺はまだやることがある」

ありきたりなことを言って、やることが残っているのでどこかに行くように言う。

「はーい」

カーバンクルの子供は、素直に話を聞き入れて向こうへ行った。

「今日はさっさと引き上げるか。やることやったからな」

これ以上することなくここに居たら、疑問がどこかで表に噴出しそうになったので、ゴルダはそそくさと鍵を戻し。ルヴェルニッチに今日はもう帰ることを伝えに行く。

「悪いがやることやったから今日は帰るぞ」

「うむ、そうか。また何かあれば連絡しよう、気を付けて帰ってくれ」

ルヴェルニッチは意外にもあっさりとゴルダが帰るのを引き止めず、何かあれば連絡するので気を付けて帰るように言う。
それにゴルダは、ではといつものお辞儀をしてエレティーヌ村を後にし、帰路へ。

「ただいま」

「あらお帰りなさい」

家へ帰ると、ミリシェンスとレルヴィンが真っ先に出迎えたが、ゴルダはレルヴィンに退くように言って退かせる。

「エーテル除去薬飲んでから行った?」

ゴルダのエーテル濃度に気づいたのか、ミリシェンスはそんなことを聞く。
それにゴルダはいつもの半分しか飲んでないことを告げる。

「そこまで健康に害が出る量じゃないけど、後で飲みなさいよ」

ミリシェンスは後でちゃんと飲むように言うと、台所へ戻る。

「さて、何するか」

まだ頭の中で蒸し返された疑問が渦巻いているが、何かしていれば消えるだろうとソファへ座ったゴルダは昨日途中で見るのをやめたBONESのDVDを見ることにした。
さて、それから一時間は経っただろうか。
DVDをずっと見ているゴルダにミリシェンスがコーヒーを淹れてきた。

「どうぞ」

「悪いな」

ミリシェンスの淹れたコーヒーは、今日は後引かないすっきりした苦味のものだ。
それを飲んでいると、ふとミリシェンスが

「過去に考えても解の出なかった疑問。また今日蒸し返したでしょ?」

今日のことをずばり言い当ててきたので、ゴルダは一瞬コーヒーを飲む手を止める。
しかし、ミリシェンスが精神魔法などを得意とする水属性持ちだったことを思い出し

「竜医学科時代からの疑問だ。『医者はどうあるべきか』というな。ただ患者を診て、治療するなり薬出すなりして終わりではないはずとは思うが。答えは今だ出てない」

その疑問をミリシェンスに話す。
それに対してミリシェンスが返したのは

「要するに医者としての心の有りどころをどうすべきか?ってことでしょ?簡単よ。それは『患者のために最善を尽くす』って思い。分かった?」

患者のために最善を尽くす思いを持てというものだった。
なお、ゴルダはミリシェンスのこの返しを聞いて

「簡単には言うが、現実はそれが難しいもんだ」

と言った。
どこに真心をこめるか?それは人それぞれだろう。
だがしかし、正の方向にも負の方向のどちらにも、真心をこめてやったことはいずれ何らかの形で自分に戻ってくるということを。

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小説(一次) |

吸血竜の魔の手

ゴルダがシャールイズと死の森へ行ってから、しばらくの日が経った。
あの日以来、シャールイズにすっかり気に入られたのか何なのかは不明だが、頻繁に呼び出されるようになったゴルダ。
ただ、そんなに毎日行けるような暇はないので、ほとんど誘いを断ることが多い。
だがそれでも、シャールイズから呼び出される頻度は増えず減らずで平行線を辿っている。

「シャールイズには気をつけてた方がいいわよ。一応同じ闇の力を持っているから察しがつくけど、血を狙われてるわよ」

というミリシェンスからの忠告も受けるほどにシャールイズの誘いを受けていたゴルダ。
その忠告を受け、さすがにこれは一度は自重しろと言いに言った方がいいと思ったゴルダは、シャールイズのところへ行くことに。
なお、念のためにミリシェンスも同行することになった。

「さて、いつもの調子で来たわけだが」

雪が降り、北風も無慈悲に吹き荒れる路地裏に佇むカフェ、Yrizer(イェリゼラ)の前までやって来たゴルダ。
隣にはミリシェンスとレルヴィン、頭にはマティルーネというあの時と同じ組み合わせだ。

「シャールイズが何かしそうになったら…止めれるだけ止めてみるわ」

「そいつはありがたい」

そして覚悟を決め、一行は店の中へ。
やはり店内はあの日と変わらず、エルフ音楽が流され、明かりはランタンだけで窓は閉め切られている。
今日は2人ほど先客が居たが、ゴルダ達を無視しているところから興味がないようだ。

「今日も来てくれたのね、嬉しいわ」

微かにニコッと笑いかけたシャールイズに、ミリシェンスは訝しむような目線を投げ掛け、カウンター席に座る。
ゴルダも次いで座るが、シャールイズには話しかけずに静かに座った。
レルヴィンはミリシェンスとゴルダの間に窮屈そうにしながら座り、じっとシャールイズを見つめる。

「いつものでいいの?」

シャールイズの問いに、ゴルダとミリシェンスは頷く。
すると、何かを察したのだろうか。先客の2人が席を立ち、勘定を払って帰ってしまった。
ゴルダはこれを好都合と捉え、シャールイズがブラックコーヒーを置いた後で

「話がある、邪魔が入らないよう店を閉めてくれ」

邪魔をされたくない話があるので、店を閉めるように言う。
シャールイズはこれに何の反論もせず、店の表示を閉店に変えてカウンターへ戻ってくる。

「それで、話って何かしら?」

全く心当たりのないような素振りを見せるシャールイズに、ゴルダは

「なぜそこまでして俺にこだわるんだ?最近のお前からの誘いの頻度を見て思うんだが」

なぜ自分にこだわるのかと疑問を投げつける。
シャールイズはそれに対しての返事をすぐにはせず、一旦紅茶を淹れ、ゴルダとミリシェンス両方を見やすい位置に座ると、口元に笑みを浮かべながら紅茶を一口飲んでから

「あの日からあなたの血がおいしそうに見えたからよ、そして吸血竜は一度狙うと決めた獲物はしつこく追い詰める。それが理由よ」

ゴルダの問いにそう答えた。
これにはミリシェンスも

「以外とあっさりした理由なのね。だからと言ってここまでしつこくするのはどうかしら?そこは闇の力を持つ同族としても理解し難いわ」

そのしつこさは理解し難いと切り捨てる。
ところでシャールイズの言うあの日とは一体何なのか?それは去年の梅雨ごろまで遡る。

当時はマティルーネもミリシェンスもレルヴィンも居らず、ゴルダは一人身で雨の降りしきる中を歩いていた。
その日は特に依頼も入っておらず、カヴェルニーエをあっちへこっちへと移動して依頼の新規開拓の真っ最中。
どんなにささいな依頼でも、リピーターが増えれば思わぬ依頼が舞い込んでくることもありうる。

「参ったな、雨脚が強くなってきやがった」

賑やかな中心地を離れ、少し閑静な場所までやって来たゴルダだが、急にバケツをひっくり返したような猛烈な雨に襲われる。
傘の魔法でなんとか雨は防いでいるが、それにも限度がある。
これはどこかで雨宿りをした方がいいと判断したゴルダは、屋根のある場所がないかと走り出す。

「見当たらんな」

雨の強さに傘の魔法が負けそうになりながらも、屋根のある場所を探すゴルダだが、いつの間にか路地裏に入ってたらしく、もはや屋根らしい屋根はない。
中心地まで全力疾走で戻ることも考え始めたその時である。

「こんなところにカフェなんてあったか?だが背に腹は代えられんな」

ゴルダの目に、カフェ「Yrizer」という看板が目に入った。
こんな路地裏にカフェを構えるとは、店主は何を考えているんだとは思いながらも、ゴルダは店の扉を開ける。

「こんな雨の時に来る人は珍しいわ、いらっしゃい」

窓は閉め切られ、ランタンの照明が薄暗い店内を照らし、テーブルが2つに席は4つ。カウンターの席は8つほどだろうか。
ケルト音楽に次いで癒しと言われるエルフ音楽が店内BGMとして流れ、カウンター席の向こうには、白髪に近い銀髪に紫の目、この時期には不釣り合いな厚手のローブ姿の女性---シャールイズがゴルダを客として出迎えた。

「…しばし雨宿りさせてくれ、無論タダでとは言わん。コーヒーをブラックで貰おう」

雨宿りさせてくれと言いつつ、コーヒーのブラックを注文するゴルダ。
シャールイズはしばらくゴルダを観察するように見ていたが、注文をされたことを思い出してすぐに用意に取りかかる。
この時、シャールイズは

「この人…聖竜の血が濃いのが難点だけど、それを差し引いてもこの死すら恐れない胆の座った性格。おいしいに決まってるわ」

ゴルダの血がおいしそうであることを悟った。
それはどうやって?という疑問が浮かぶだろうが、いわゆる吸血竜の直感というものである。

「おまちどおさま、ところで名を聞いても?」

コーヒーを出され、銀髪紫目の店主の女性に名を聞かれたゴルダは自分の何でも屋と幻想獣医の名刺を渡しながら

「ゴルダだ。名刺にもあるように竜狩りと殺し以外はほとんど何でもやる何でも屋兼幻想獣医だ」

自らの名を銀髪紫目の店主の女性に名乗る。
ゴルダの名刺を受け取った銀髪紫目の店主の女性は

「シャールイズよ、名前だけで姓はないわ」

シャールイズと名乗った。
これが、ゴルダとシャールイズの出会いである。

「俺とて薄々感付いてはいたが、それが確信に変わったのがあの死の森でのお前の行動だ」

薄々感付いていたというゴルダに、シャールイズはうふふと笑ったきり何も言わなくなる。
なお、ミリシェンスは中途半端な敵意をシャールイズに向けながらカプチーノを飲んでいる。

「とにかくだ、俺が言いたいのは無闇に俺を呼び出すのは自重しろ。俺とて毎日暇じゃない」

ここでようやく本題を切り出したゴルダに、ミリシェンスも

「というわけだから、あんまり用もないのにゴルダを呼び出すのはやめてくれない?」

同じように用もないのに呼び出さないように言う。
するとシャールイズは

「あらあら、迷惑だったようね。分かったわ、次から無闇に呼び出さないようにするわ。でも…血は諦めないわよ?」

次から無闇に呼び出さないようにすると、本音がどうかを分からないことを言いながら魔眼と表現できるような目付きでゴルダとシャールイズを見た。
その目付きに、何かしら魅了されそうな気がしたのでミリシェンスは目線をそらしたが、ゴルダはその目を凝視していた。
無論、そういう類いのものは無効とも言える耐性を持っていることを知っていたので、ミリシェンスは無理やり目線をそらせなかったが。

「残念だが、俺にその手の類いの魔法は効かないとだけ言っておこうかシャールイズ。だがその魔眼、美しさは確かなものだ。手元に置いておきたいくらいにはな」

手元に置いておきたいくらいの魔眼だとゴルダに言われ、シャールイズは魔眼から元の状態に戻してから

「そんなこと言われたの初めてよ?でもさすがに魔眼を渡すわけにはいかないわねぇ」

渡すわけにはいかないと言いつつ、サービスと言わんばかりにゴルダの空になったカップを下げ、またコーヒーを注いで差し出す。

「吸血竜族って、皆こんな感じなのかしらね」

残っていたカプチーノを飲み干し、ミリシェンスは冷ややかに呟く。
シャールイズは、退屈そうにしているゴルダの頭の上のマティルーネに人参を与えてから

「さあ?どうかしらねぇ。私の同族ってほとんど見たことないのよ。全部が全部私みたいじゃないとは思うけど」

全部がそうではないはずだと否定した。
ミリシェンスは空になったカップを返し、近くにあった紙製の使い捨てハンカチで口元を拭いてから

「やっぱり私はあなたとは相性が悪いわ。そしてその理由は価値観以前の問題な気がするの」

あなたとは相性が悪いと、キッパリと言い切る。
シャールイズは、それに一切の反応を返さず、ミリシェンスのカプチーノのおかわりを出す。
どうやらこれも、ゴルダ同様にサービスのようだ。

「ありがと、サービスしてくれるなんてね」

ミリシェンスが礼を言うのを見て、ゴルダはこれは女の対抗心かなんかなので下手に触れない方がいいと悟る。
そして、シャールイズという吸血竜の魔の手は当分払いのけられないとも確信したのであった。

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小説(一次) |

シャールイズの頼み事

北風の吹くカヴェルニーエの路地を、ゴルダは1人で歩いていた。
今日はマティルーネもレルヴィンも連れてきていないが、その理由はシャールイズにゴルダ1人で店まで来てほしいと電話で呼び出されたからだ。

「俺単独で呼び出すとは、何を考えてんだあいつは」

そんなことを呟きながら、ゴルダはシャールイズのカフェ、Yrizer(イェリゼラ)の前までやって来る。
カフェの入り口には「本日、私情によりお休みします」という張り紙がされていたが、ゴルダはお構い無しに店の中へ。

「待ってたわ、早かったわね」

中ではシャールイズがいつものローブに、手袋と帽子をして待っていた。
シャールイズは吸血竜なので、一応紫外線や日光には耐性を持っているのだが、中にはその耐性が弱い者も居り、シャールイズがそれである。
そのため、シャールイズは紫外線と日光が肌に当たるのを防ぐために厚手のローブをし、店内には日光を極力入れないように閉め切っている。
ただ、ここは路地なのでそこまで日が差し込むことはないのだが。

「で、今日は何の用で呼び出した?」

閉め切られているためか、空気が淀んでいるのを鼻で感じながらゴルダはシャールイズに用件を聞く。

「死の森へ行くからついてきて欲しいの」

それに対するシャールイズの返事に、ゴルダはなるほどと返して

「お前の頼みなら仕方あるまい」

と二つ返事で了承。
シャールイズはそれにそうだと思ってたわという顔をして

「じゃあ、行きましょうか?」

不適な笑みを浮かべながら、なぜかゴルダの手を取るのだった。

死の森、それはかつて闇竜の国アルヴァスがあった頃の国土。
まだアルヴァスがあった頃はここは小さな森でしかなかった。
だが、アルヴァスという国が消えた今。森はじわじわと広がり、今では元のアルヴァス国土のほぼ全てが森となり、その森には闇竜などの闇に生きる者達がひっそり暮らしている。
そしてこの森が死の森と呼ばれる所以は、生半可な準備で森に入れば、この森に住む闇の者の糧にされるからである。

「もはや森と呼ぶには大きくなりすぎたなここは、もはや死の樹海だ」

「死の樹海、それも素敵ねえ」

2人並んで森と呼ぶには巨大化しすぎたその中を歩きながら、そんな会話を互いに交わす。
ローブ姿とは思えないくらい軽快な歩みを見せるシャールイズを、中型竜なら数撃てばギリギリ仕留められる威力の弾を装填した狩猟用散弾銃を持って、ゴルダはその後を追う。
吸血竜の歩く速さと走る速さはそこまで速いわけではないが、それでもゴルダが早歩きして追い付けるくらいだ。

「ねえねえ」

とここで、急にシャールイズが立ち止まり、ゴルダに向き直って両手を背にして少し前屈みになりながら声をかける。
それにゴルダは、危うくシャールイズに銃を向けそうになったので、銃を仕舞ってからどうした?という目線を投げ掛けた。

「こんなのは好き?」

その投げ掛けられた目線に答えるかのように、シャールイズは突然本来の吸血竜の姿に戻った。
白に近い銀毛、紫目に人間の姿の時に被っていた帽子という姿に、ゴルダはほうとだけ呟き、その姿をまじまじと見る。
するとシャールイズは、前足の鋭利な爪をゴルダの腕に当てて

「あなたのなら、飲めるかなって思ってね」

回りくどく血をちょうだいと言ってきたのだ。
そして、ここ死の森ならば絶対に人目に付かずに血を飲めるということを確信したゴルダは、自分の腕に置かれたシャールイズの前足をもう片方の手でそっと掴むと

「俺は竜滅病を持病として持っている。血液感染するからやめておけ」

今の今までシャールイズに隠していた、持病の竜滅病のことを告げ、感染するからやめろと言いながら前足を下ろす。
それにシャールイズは少し残念そうな顔で

「それでも良かったんだけどね。あなたを主治医にするのも」

ゴルダなら主治医にしてもいいとぼそりと言い放つ。
なお、それに対してゴルダは

「それはちと厳しいものがあるな」

それは厳しいと苦い返事をする。
その返事を聞いてシャールイズはゴルダの一瞬の隙を突き、首輪の上から牙を這わせて

「あなたの血、頂いたらだめ?」

と静かに、返事によっては問答無用でその首に噛みつくという意を含ませて改めて聞く。
普通の人間ならば、命の危機を感じて期待していた返事を返すのだが、ゴルダは

「ダメだ」

の一言をストレートに返す。
その返事にシャールイズはやはりねと言わんばかりにそっと首に這わせていた牙を離した。

それから暫しの間、ゴルダとシャールイズの間には沈黙と緊張の空気が漂っていた。

互いに並んで地面に座っているのだが、ゴルダはナイフをいじり、シャールイズは毛繕いをしていて互いに目を合わせない。
やがて、ゴルダがいきなりナイフを目の前数メートル先の古木に投げつけたのを見て、シャールイズはビクッとしてその古木をに視線を移す。
だが、そのナイフには何も突き刺さっていなかった。

「外したか」

ゴルダはそう言って、古木に刺さったナイフを抜き、植物用の復元魔法でその傷を治す。
シャールイズが何を外したのかを聞く前に、ゴルダは

「どうやら2人きりの時間を邪魔する奴が割り込んで来たようだ」

と言って立ち上がり、シャールイズに行くぞとハンドサインを出す。
シャールイズは何を見たのかを聞かずにそれに従い、ゴルダの後を追ってその場を離れる。

それからどれくらい歩いただろうか。
ふと森が開け、目の前に湖ともはや廃墟と化した屋敷が現れた。
かつてこの一帯は、とある闇竜の富豪が住んでいたとされるが、今ではその面影はなく。住んでいたとされる屋敷もすっかり廃墟になっている。

「ここ、懐かしいわ」

「来たことが?」

シャールイズの一言に、ゴルダは来たことがあるのか否かを問う。
その問いにシャールイズはええ、と頷いて屋敷の方へ目線をやると

「私の同族がここに居を構えていたのよ。でもアルヴァスという国が消えた時にここを捨ててどこかに行ってしまった」

同族の吸血竜がかつてここに住んでいたと話す。
それにゴルダはそこまで興味がなさそうな口調でそうかと返す。
なお、シャールイズは最初からゴルダがそんな反応しかしないと分かりきってたらしくなにも言わずに湖に近寄り、水を飲む。
そしてその後ろ姿を見ていたゴルダは、思わず

「銀毛を木漏れ日に輝かせしその後ろ姿たるや、吸血竜という名の闇の者とは思えぬ凛々しさ」

と詩の一節のようなことを紡ぎ、呟いた。
それに耳を微かに動かし、スッとゴルダに向き直ったシャールイズは

「その凛々しさ、人を惑わし血を啜りし者という闇の者本来の姿であること、忘れるなかれ。…とでも返せばいいのかしら?」

それに続くような一節を新たに紡ぎ返す。
その返しに、ゴルダは表情こそは変えないが、興味を持ったかのような口調で

「お見事。一緒に俳句でも詠んでみたいものだ」

シャールイズに一緒に俳句を詠んでみたいと言う。
俳句が何たるものなのかはシャールイズには分からなかったが、お見事と誉められたのに機嫌を良くしたのか

「じゃあ、その生き血を少し貰っても?」

またゴルダの腕に前足の爪を乗せながら聞くが、当然ながら

「答えは否だ」

あっさり拒否されてしまったとか。

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小説(一次) |

シャールイズ

性別:♀ではあるようだが、いかんせんはっきりしない
種族:吸血竜
身長:160cm(人のとき)、3m(吸血竜のとき)
年齢:不詳
性格:読めない、物静か
人に化けて生活している吸血竜。
人の姿は白髪に近い銀髪に紫目、そして滅多に外へ出ないのに紫外線を防ぐためか、ローブを身に纏い。吸血竜の姿は白に近い銀毛に紫目。
カフェ「Yrizer」(イェリゼラ)をひっそりと切り盛りしていて、ゴルダのお得意様の1つ。
売上は1人で生活するなら十二分とのこと。
吸血竜にしては血を好まず、闇の魔力を溶かした赤ワインで代用。
それでも本来の血の接種は必要不可欠なため、独自のルートでたまに手に入れているようだ。
サフィとは知り合いだが、300年余り(本人体感時間)会っていない。
義理の妹(元人間)が居るようだが、聞こうとするものなら噛みつこうとするので、聞くことはまず不可能

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創作関係全般 |

新たな居候

この日、ゴルダの家に新たな居候が増えた。
それはユウと名乗るフウを白髪にした万年薄手シャツの少女で、フウの姉だと言うが、今一つ信憑性に欠ける。
しかし、一応ゴルダはこっそりシアに調べさせ、ユウとフウが姉弟であることは確認している。
そして、なぜユウが居候することになったのかというと、遊びに来たモカ達にたまたまついてきてフウと再会。フウがここに住んでるなら自分もと言い出し、ゴルダが

「いまさら1人増えた程度で誤差の範囲だ。それに面倒見るのは嫌いじゃない。ただしある程度手伝いはしてもらおうか」

と必要に応じて手伝いをするという条件を課して了承。
そして今日、ユウが越してくることになっている。

「このままだと乗り逃がすわよ」

居間でスーツに身を固め、大型のスーツケースを横に置いてソファに座っているゴルダにミリシェンスはそう言う。
今日はタイミング悪く、ゴルダは地球へ1週間余り依頼で行かなければならず。今日が地球へ赴く日なのだ。
だが、約束の時間になってもユウが来ず、こうして待ちぼうけを食らっている。
当然ながら、飛行機の時間があるためそこまでは待てないのだが。

「行っちゃっていいよ?ユウは来るって分かってるし」

ソファの目の前にあるテレビで、ゴルダがずいぶん前に買ったゼルダの伝説をやりながらフウは言う。
なお、やっているのはトワイライトプリンセスの方である。

「本当にこれ以上待ってたら乗り逃がすな、悪いが出るぞ。ユウにはフウと相部屋になるよう伝えてくれ、あと俺は仕事で1週間は帰らないこともな」

やがて、これ以上待つと飛行機に乗れなくなると判断したゴルダはミリシェンスにユウへの伝言を2つ残し、そそくさと家を出る。

「はいはい、行ってらっしゃい」

「気を付けてねー」

フウとミリシェンスに見送られ、ゴルダは出掛けて行った。

それから30分後。

「やっと着きました、ここね」

どうやって持ってきたのか分からない大量の荷物を抱え、ユウはゴルダの家の前に到着。
なおこれでも荷物は減らした方だとか。

「…ごめんください」

多少よろけつつも、玄関の扉をノックするユウ。
数十秒の沈黙を置いて玄関の扉が開き、ミリシェンスが出てきた。

「待ってたわ、ゴルダは今日から1週間仕事で家を空けてるわよ」

「そ、そうなんですか。それより今日からよろしくお願いしますね」

ミリシェンスにゴルダが仕事で家を空けていることを告げられ、ユウはそうなんですかと返す。

「それより早く入って、風邪引くから」

寒い北風が吹き込み、身震いしたユウにミリシェンスは早く入るよう促す。
ユウはそれに従い、荷物を再び持って家の中へ。

「暖かい…」

「この時期はもう暖炉使わないと寒いのよ」

外とは違う明らかな温暖差に、ユウは思わず手に息をかける。
ソファにはマティルーネが寝ており、テレビではフウが相変わらずゼルダの伝説で遊んでおり、レルヴィンはその側に陣取っている。

「荷物置いた方がいいわね。部屋は…フウと相部屋ね。これ以上は部屋は増やせないみたいだから」

「相部屋で大丈夫ですよっ」

ミリシェンスからフウと相部屋と聞かされ、ユウは荷物を持ってフウの部屋へ。
フウの部屋は、入って左奥にパソコンの置かれた机があり、右奥はクローゼット。入って左手にベッドが置かれているが、まだまだ余裕のある広さを持つ部屋だ。

「フウも整理整頓はできてるのね」

ひとまず衣類を片付けようと、クローゼットを開くユウ。
中はミリシェンスかゴルダが片付けているのか、とてもすっきりしている。
ユウはクローゼットの下の方に衣類を置いていくが、フウのものと思わしき謎の箱を発見。

「何でしょうかこれ?」

興味本意で箱を開けたユウだが、すぐに箱を閉じて元に戻した。
一旦中身は何だったのか?それはユウにしか分からない。

その後もユウは荷物の片付けを進め、1時間で終わらした。
そしてフウの部屋を出、居間へ戻る。

「楽しい?」

「わっ…!なんだ、ユウかぁ」

尚もゼルダの伝説をしているフウに、背後から声をかけるユウ。
フウはそれに驚いて後ろを振り向くが、それがユウであることを確認するやほっとした表情を見せる。
どうやらフウとユウは、互いに呼び捨てにし合うほどの仲のようだ。

「さてユウ、洗い物をと言いたいけどあなたのエプロンがなかったわ」

ここでミリシェンスが、ユウに手伝いをしてほしいと声をかけるも、エプロンがないことに気づく。
当然ながら、ミリシェンスの前掛けエプロンではサイズが違いすぎてユウには入らない。
そこでミリシェンスは、どこからか巻き尺を出してユウのサイズを計り出す。
そして採寸もそこそこに、ミリシェンスはどこからか布生地や裁縫道具とミシンを出したかと思うと、まるで機械のように流れる動きで生地を切ってミシンを動かし、あっという間にユウ用のエプロンを作ってしまう。

「急ぎで作ってるから出来は今一つかもだけど、普通に使うなら申し分ないはず」

「あっ、ありがとうございます…」

「いいのよ。さあ、早く洗い物終わらせましょ」

「はいっ!」

こうしてゴルダの家はまた賑やかになった。

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小説(交流) |

落ち着かない食事

今日のゴルダの家は、いつにも増して騒がしい。
それもそのはず、今日はあの目を離すと何をしでかすか分からないココとチーノに、そのストッパーのコロン。そしてフウの姉と名乗ってコロン達についてきた、フウを白髪にしたような容姿の、部屋着が薄手のシャツ一枚のユウにモカが居るからだ。
さらにそれに加え、レルヴィンにマティルーネとフウ。ミリシェンスにアルガントとゴルダに、なぜ来たのかが不明なフィルスと、偶然にも休みを貰って帰って来ているセレノアと、かなりの人数が居間に集まっている。
なお、ウラヘムトはとあるネトゲの大会で地球に行っていて留守にしており。氷燐は冬の間はリヴァルスを放浪しているので春まで帰ってこない。

「ここまで集まるとは想定外だ」

「ほら、手動かす」

ミリシェンス、モカ、セレノア、コロンと台所に立ち、忙しく食事の支度をしながらゴルダは呟く。
そしてそれにセレノアが手を動かせと返す。
今日は全員で鍋をするのだが、この人数では大きな土鍋を用意しても足りなかったので、急遽二つ出すことに。
そのため、物置に分解して置いてあった食卓テーブルをもう一つ出す羽目になり、ソファをどかしてまでスペースを確保している。

「フウには負けませんからね」

「ユウのサムス強すぎ、やー」

「ここはネスのバットで…」

なお、テレビはココ、チーノ、フウ、ユウ、アルガントが陣取り。全員でマリオパーティやスマブラで遊んでいる。
なお、マティルーネにフィルスは隅にどかされたソファでうつらうつらとしていて、レルヴィンはフウの近くに座っていた。

「それは切り終わった?ならこっちへ渡して」

ゴルダ、コロン、ミリシェンスが鍋の具材を切り。セレノアとモカがそれを取り分ける。
当然ながら、台所に立てるのは二人が限界なのでゴルダはテーブルの上で野菜を切っている。
切っている野菜は白菜を始めとし、人参やシイタケなどのキノコ類。一般的な鍋に入れられる野菜ばかりだ。
ただ、その中に秋収穫のチャチャルチというカブの一種が入ってるのは内緒である。

「さすがに少し手が痛くなるわ」

「無理はしないことよ」

一方、ミリシェンスとコロンは草食竜のバラ肉などの肉類や魚介類。そしてムサヅキ産の高級大豆を使った豆腐を切っていた。
なお、魚介類は全てスリュムヴォルドでゴルダが買ってきたものだけを使っている。

「もう火つけていいかしら?」

「まだダメよ」

ある程度土鍋に具材を入れ終わったところで、モカが火を付けようとしたがセレノアがまだよと制す。
既に土鍋には具材がバランス良く入れられ、いつでも始められる状態。
なお、今日の鍋は寄せ鍋のようだ。
鍋の汁は、竜骨ダシにムサヅキの醤油の合わせものとなっている。

「野菜はこれで終わりだ、後は肉とかだな」

「全部用意が終わってから火は入れるようにするわ」

最後の野菜を切り終え、それをモカに渡し終えた後でゴルダはそう言う。
なお、先ほどセレノアがモカにまだ火を付けてはいけないと言ったのは、具材の用意が全て終わってなかったからのようだ。
やがて全ての具材が切り終わり、モカは鍋に火を付ける。

「まともに点火して良かった」

火の魔力を使う鍋用コンロの様子を見ながらそんなことを言ったゴルダに、コロンは

「あらあら、まともでないのもあるんですか?」

と少し意地悪そうに聞く。
それにゴルダは

「たまに火力の制御が利かずに、鍋を消し炭にしてしまう魔法のコンロもある」

たまに制御の利かないものもあると淡々と返す。
それを横で聞いていたモカは

「魔道具は危なっかしいのが多いのよね」

とぼそりと呟いた。

一方、居間でゲームをしているユウ達はというと、あの四人で遊べるマリオをやっていたのだが

「ちょっとココ、足を引っ張らないでくれます?」

「道連れよー」

「お先にー」

「はわわ、まともに進めないよ」

ココがユウとフウにちょっかいを出して妨害を始め、それをアルガントはチーノとどこ吹く風で一緒のコントローラーを持ってプレイしつつ先へ進んでいる。
これでは協力してステージをクリアするどころか、妨害からの友情破壊もいいところである。

そしてそんなわちゃわちゃしている様子をソファから眺めていたフィルスは

「ココは一体何がしたいんだろう?」

とただただ疑問を浮かべていた。

「炊けるのに時間がかかるね」

「竜肉は草食竜のでも固いからな。叩き処理も一苦労だ。それに魚介類も入ってるから火は念入りに通さないといけない」

炊けた後で入れる豆腐を眺めつつ、土鍋から出てくる湯気とグツグツという音を聞きながらそう言ったモカに、ゴルダは具材が具材だから仕方ないという風なことを返す。
向かい側の席ではセレノアがコロンに多少覆い被さるようにもたれ掛かって座り、ミリシェンスがセレノアの羽毛を何かしらいじっている。

「甘ったるくない程度の甘い匂いが落ち着くわ」

「風癒竜は自身の匂いでも相手を癒したりできるのよ、ほら。具材の準備した時の疲れが消えてきたでしょ?」

「ええ、そうね」

端から見れば何をしてるんだと思われがちだが、これでもセレノアはコロンを癒しているのである。

それから十分ほど経っただろうか。
ゴルダは一旦土鍋の蓋を開け、炊けたかどうかを確認。
蓋を開けた瞬間に籠っていた湯気が一気に解放されたと同時に、程よく食欲をそそる匂いが漂ってきた。
この匂いでゴルダは炊けたことを確信して

「おい、飯だぞ。鍋ができた」

と言ってココ達を呼ぶ。
するとココ達はすぐにゲームをやめ、各自テーブルの席につく。

「正直、家でこんな大人数で飯食うのは初めてだが。そんなことはもはやどうでもいい。さあ食おう、いただきます」

「いただきます」

こうして、落ち着かない食事会が始まったのであった。

「うむ、いい味だ」

清酒片手に白菜をつまみながらゴルダはそう言う。
しっかりと味が染みており、白菜本来の無味のようでそうでない味はあまりしない。
ミリシェンスやコロン、モカがあれこれ具を取って食べているのに対し、マティルーネは人参以外を入れると食べず、フィルスに至っては野菜以外を頑として食べようとしていない。
なおレルヴィンは何でもいいから早く食わせろと、ゴルダの足元で待っている。

「フウは何食べます?」

「うーん、自分で取るからいいよ」

一方こちらはユウとフウ。
久々に弟に会ったためか、ユウのフウへの溺愛っぷりが端からでも見て取れる。
何を食べるかと聴いてくるユウに、フウは自分で取ると返すが

「やけどしたら危ないですからね、私が入れますよ」

ユウは何だかんだで理屈をこねて何が何でも自分がフウに鍋の具を入れてやりたいらしい。
それを見ていたココはチーノに

「あれがブラコンって奴よ」

「だね」

あれがブラコンだなどとひそひそと話をしていた。

「これは何でしょうか、ホタテのようにも見えますが…食べます?」

具を取り分けている最中、ホタテのようでそうでない貝が鍋の中から出てきたので、コロンはそれをゴルダに食べるかどうか聞く。

「もらおうかな」

ゴルダは清酒を瓶から注ぎながらコロンにもらうと返事を返す。
コロンはそれに頷き、その貝をゴルダの皿へ。
ゴルダはすぐにそれを口へ運び、清酒を飲んだ。

「フウ、しいたけですよ」

「まだ食べてるんだから側から入れないでよ」

わんこそばめいて次々と鍋から具を取って入れるユウに、フウは若干困った素振りを見せる。
なお、こうしろと言ったのは他でもないココだ。
そして言った当の本人は、その様子をニヤニヤと眺めている。
だが、さすがに度が過ぎたのか。白菜をお玉一杯にフウの皿に入れようとしたところでセレノアが

「入れてあげるなら食べれる分だけ、いいわね?」

食べれる分だけ入れてあげなさいと止め、その分をフィルスの皿へ。
フィルスはもう満足したんだけどと言いたげな顔をしながらも入れられた白菜を食べるのであった。
そしてこの日は、大分遅くまでゴルダの家の中に話し声が響いたという。

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小説(交流) |

サフィの冬の休暇

セイグリッドにも、身に染みるような寒風が吹くようになった11の月初旬。
セイグリッド城の従者は、全員1週間くらいの休みが年に一度は必ず入るような制度があり、今日からサフィが休みに入ることになった。
その間、従者を束ねる者が居なくなるので、サフィはエルトナとサマカンドラに自分の代わりを1週間だけ頼むことに。
その際にやることを2人に教えているのだが、エルトナはサフィにちょっかいを出そうと話を聞こうとしないため

「…というわけで、サマカンドラ。エルトナにも今言ったことを伝えてちょうだい、絶対によ」

「はい、分かりました」

サフィはエルトナをつまみ出し、サマカンドラに説明して後でエルトナにも教えるように釘を刺した。
それにサマカンドラは頷いて了承したので、サフィは改めて

「頼んだわよ、私の代わりを」

「お任せを、1週間しっかり休んでくださいね?」

サマカンドラに自分が居ない間の代わりを頼み、従者用休憩室を出て自室へと向かう。

「とりあえず明日は墓参りして、明後日は…どこか遠くに出かけようかしらね。アメリカとか」

明日からの休みの初日は、いつもの両親への墓参りが入っているが、それ以降は何も予定が入っていない。
どこか遠くに出かけようかと思った時、真っ先にアメリカが頭に浮かんだ。

「あいつも上手くやってるかしらね」

サフィが呟いたあいつとは、他でもないイルフェス。
今は国際異界文明犯罪取締機関という裏の顔を持ちながら、表向きはFBIで殺人事件の捜査を主にやっているという。
メールのやり取り、そしてたまの通話から相変わらずであることはうかがえるのだが、卒業してからまともに会ったことはない。

「ま、いいか」

そう言ってサフィは明日からの準備をするのだった。

そして翌日。
いつものメイド服を脱ぎ、結んでいた髪をほどいてストレートにし、幻獣族の毛を使ったジーンズにジャケットを羽織り、サフィは久しぶりに封印されし実家へ。

「あら、シアがやってくれたのかしらね。蔦植物がなくなってるわ」

実家へと到着すると、いつもなら壁という壁が蔦植物で覆われているのだが、今日は違った。
蔦植物が全て消え、元々の壁が見えているのだ。
無論、年に一度来るのが精一杯なため蔦植物の始末などまともにできた試しはない。
可能性があるなら、自分の休みを知ったシアの仕業だろう。

「親切だかお節介だか何だかは知らないけど、こうしてやってくれるのはありがたいわね」

そんな独り言を言いながら、サフィは両親の墓石のところへ。

「今年も忘れずに来たわよ。遅くなったけどね」

ふふっと微かに笑いながら、墓石の前で手を合わせ、供え物のワインを置く。
そこまで高いものではないが、味の評価はそれなりの銘柄の赤ワインだ。

「私は仕事バカな方が幸せなんだけど、母さんはどう思う?…って聞いても答えは返ってなんかこないわよね」

そして帰ろうと、供え物のワインを片付けながら、口元だけに笑みを浮かべ、目元に影を落としながらサフィはそんなことを呟いて再び両親の墓石に手を合わせて実家を後にする。
なおこの後サフィはカヴェルニーエへ赴き、あちこちを回って夜までの時間を過ごした。

やがて夜になり、サフィはある場所へ向かう。そう、それは他でもないゴルダの家だ。
行くなどとは一切メールなどで連絡していないので、完全なる不意打ちである。
そもそも、サフィがゴルダを不意打ちで呼び出しても本人はめんどくさそうにするだけなので、不意打ちで家へ行っても同じようにめんどくさそうにするだけだろうとサフィは思っていた。

「ああ、居るわね」

家の中の明かりは点っているので、居て間違いないと思ったサフィは玄関の扉をノックする。
その際、少々強めにノックしたせいで扉が凹んだように感じたものの、サフィは気にせずゴルダが出るのを待つ。
それから1分ほどして、出てきたのはゴルダではなく見たことのないカーバンクルだった。

「こんな夜分かつまったく人気のない場所に何の用…と思ったけどゴルダの知り合いのサフィね、本人は今居ないわよ。それと私はミリシェンス」

そのカーバンクルはサフィが誰であるかを察し、ゴルダが今居ないことを告げると同時に自らの名をミリシェンスと名乗る。
それにサフィはご丁寧にどうもと返すと

「いいわ、ゴルダが帰って来るまで待つから。上がっても?」

ゴルダが帰ってくるまで待つので、サフィはミリシェンスに家に上がっていいかと聞く。
するとそれにミリシェンスは渋い顔をして

「うーん、多分今日は午前様よ?それでも構わないならどうぞ」

帰りが日をまたいでもいいならどうぞと言って家へ上げてくれた。
サフィはおじゃまするわと一言言って家の中へ。
家の中は、去年来た時とほとんど変わっておらず。多少ソファの位置が変わっているくらい。
サフィはそのままレルヴィンが床で熟睡している側からソファに座り、携帯を出してゴルダに家に来てるからとメールを投げた。

「どうぞ、口に合うかどうかは知らないけど」

そう言いながら茶を出してきたミリシェンスに、サフィは何も言わずにカップを取って口をつける。
おそらく茶葉は自分がプライベートで淹れるものとさほど変わりはないようだが、口をつけた時の風味が自分が淹れた時と全く違っていた。
説明しがたいが、あえて言うならサフィが自身で淹れた時の風味はスッと入ってくるような感じだが、ミリシェンスが淹れたものはふわっとしたような感じで入ってきたのだ。

「これはこれで、上出来ね。いい意味で淹れ方に癖が出てるわ」

この一言を、ミリシェンスは褒めているとは受け取らなかったのかやや微妙な顔をしてそう?とだけ返事をする。
ミリシェンスの反応を見て、サフィは同じ従者としてのプライドか何かが許さないのだろうと思い、それ以上余計なことを言うのをやめた。

それからしばしの間、サフィとミリシェンスは互いに一言も話さずに茶を飲むだけの時間が流れていたが

「ただいま」

ゴルダが予定より早く帰って来たことでその時間は終わりを告げる。

「おじゃましてるわ」

頭に自分が吸血竜になった時のような紫毛の竜を乗せ、ゴルダが居間に入ってくる。
なおサフィはこの竜---マティルーネのことは、ゴルダから以前メールで写真が送られて来たので把握している。
ドラビットという種族らしいが、この世界では聞いたことのない竜族名。
案の定、ゴルダからは異界の竜族であるとメールには書いてあったが。

「飲みに連れ出されそうだったが、お前と飲もうと思って引き上げてきた」

寝ているレルヴィンなどお構い無しにサフィから少し距離を置いて座り、ゴルダはそう言う。
なお、その手にはスリュムヴォルドの白のフルボディワインと、リフィルの赤のライトボディワインが握られている。どうやら帰りがけにどこかで買ってきたようだ。

「ミリシェンス、お前は飲むか?」

ワインをテーブルに置き、食器棚からワイングラスを取り出しながらゴルダはミリシェンスに聞く。
ミリシェンスは、少し悩んでから

「もらうわ」

と返事を返す。
ゴルダはそれにそうかと返し、ワイングラスを3つに冷蔵庫に入れてあった山羊竜のチーズを出す。
そして、テーブルにグラスを置いてワインを注いで

「では、飲もうか」

と言って3人は互いにグラスを鳴らして飲み始める。

「ライトじゃなくてフルねやっぱり」

「人それぞれだ」

赤の方を飲むも、ライトボディだったがためにどこか納得いかない顔のサフィに、ゴルダは人それぞれと当てずっほなことを言う。
ミリシェンスはちまちまと白の方を飲んでおり、マティルーネはワインより人参をよこせと不機嫌そうにしている。どうやらこの不機嫌さは眠気からも来ているようだ。

「マティルーネが眠そうよ」

サフィの一言に、ゴルダはマティルーネを頭から下ろしてソファに座らせる。
するとマティルーネは欠伸をしたかと思えば、そのまま寝入ってしまった。

「あら、かわいい」

山羊竜のチーズを食べながらその寝顔を見ていたサフィがそんなことを漏らす。

「起こすなよ」

サフィに起こすなと釘を刺し、ゴルダは2杯目を注ぐ。
寝ているマティルーネを触りたくなったサフィだが、下手に起こすと何をされるか分からないのでここはぐっと堪えた。
なおこの後、3人は朝まで飲み明かし、サフィは休みの1日の最後をこれで潰した。

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小説(一次) |

緑々とした冬

リフィルでは強い北風が時折吹き荒れるようにはなったものの、雪が降る様子がまだない。
葉は落ち、蕾となって次なる春を待つ木々がある一方で、未だに葉をつけている木もある。

「地中の温度が年中一定だとやりやすいわ」

秋の分までの収穫が終わり、殺風景になったと思われていた畑にまた苗などが植え付けられた状態になっているのを見てイファルシアがそう呟く。
今植えてあるのはジャガイモ、サツマイモ、ニンジン、タマネギ、チャチャルチというカブの一種という根菜類がメインだ。
「これでまだ半分なのよね」

そう言ったのは、寒いので上着を羽織って作業をしているイレーヌ。今はカボチャの苗を植えているところだ。
こんな時期から植えるものではないのだが、この畑の土は1年を通して変わらない温度なので、春から夏に植える野菜も冬に植えるような芸当ができる。
だが本当の理由はそれだけではないのだが、おそらくイファルシアとエゼラルドが居ることが関わっているのだろう。

「次は冬瓜だよ、早くやっちゃおうよ」

冬瓜の苗が植えられたポットが乗ったカゴを持ってやって来たエゼラルドに言われ、イレーヌは、今カボチャを植え終わったばかりなのにという顔をしながらも、エゼラルドからそのカゴを受けとる。
なお、冬瓜の苗は10ほどでそこまで多いわけではない。
ちなみに、いましがたイレーヌが植えていたカボチャの苗の数は20ほどだ。

「ちょっとチャチャルチの種を蒔いたところを見てくるよ」

「あらそう、お願いね」

チャチャルチの種を蒔いた場所を見てくると言って、その場を離れるエゼラルドをイレーヌは見送る。
そして、通路側の土を掘り返して何かをしているイファルシアに

「藁を取って来て」

と頼む。
何に使うのかというと、植えたカボチャと冬瓜の苗の周りに敷くためだ。
イファルシアはめんどくさそうな顔をしながらも、畑から少し離れた場所に置いてあった藁が載せられた荷車を蔦で畑の通路の方まで引っ張ってきた。

「ありがとう。じゃあ私が藁敷いてくから、残りの苗植えてもらえる?」

藁を持ってくると、イレーヌから作業を交代するように言われてイファルシアはすんなり苗を植える作業へバトンタッチ。
正確にではないにしても、ほぼ等間隔でイレーヌが植えてあるので、どうやって植えればいいかは一目瞭然。

「この辺ね」

イファルシアはそう言って、目分量の間隔のところにどこからか出したスコップで穴を掘る。
「ほら、出てきなさい」

穴を掘ってから苗の植えてあるポットを取り、根本の部分を持って逆さにし、軽く底を叩いて苗を出す。
あとはポットに入っていた土を崩さないよう注意しながら、掘った場所に苗を置く。

「後は掘った土を戻すだけ」

苗を置いたあとは、掘った土を戻して苗の植え付けは完了だが、この時苗の葉に土がかからないよう注意もしなければならない。
だが、イファルシアはそんなヘマはやらかさずに土を戻し終え、苗の周りの土を軽く叩いて植え終えた。
後はこれの繰り返しとなる。

一方その隣では、イレーヌが植えた苗の根本に藁を敷いている。
敷くとはいえ、土が見えなくなる程度にしか敷かないのでそこまで藁を消費するわけではない。

「んしょっと」

だがしかし、これが思いの注意を張り巡らせる必要がある。
なぜかというと、藁を敷いている時にせっかく植えた苗を折ったりして台無しにすることがないわけではないからだ。
なので、藁を敷く際は苗を折らないように注意する必要がある。

「さあさあ、ちゃんと冬を乗り切ってね」

鼻歌混じりに藁を敷いていくイレーヌと、冬瓜の苗を植えているイファルシアの様子を、少し離れた場所からフィルスとアルガティアが見ていた。
アルガティア達の方から畑を見ると、苗として植えられた作物は北風に吹かれて緑がゆさゆさと揺れ、種として植えられたチャチャルチなどは土がただ北風に吹かれているだけ。
普通の農地ならば、冬にこんな光景はまず見られないと思うが、リフィルならばそれが見れるのだ。

「こんなものかしら」

ようやく冬瓜の苗を植え終え、元々苗の入っていたポットを片付けるイファルシア。
同じタイミングでイレーヌも藁を敷き終え、エゼラルドもチャチャルチの種が植えてある場所のチェックを終えて戻ってきた。

「お疲れ様、片付けしてお茶にしましょ」

やっと終わったと、畑から離れて片づけを始めたイレーヌにアルガティアがお茶にしようと言う。
それにイレーヌは何も言わずに頷き、イファルシアとエゼラルドに片付けるわよと手で合図を出す。
2人はそれに応じるように道具や荷車、苗の入っていたポットを納屋のほうへと片付ける。
一方のイレーヌは、改めて畑を見回って問題がないかどうかを見回った。

「お茶用意して待ってるわね」

そんな3人に、アルガティアはそう言ってフィルスと城の中へと戻ってしまう。
今年も、リフィルの畑は緑々として年を越しそうだ。

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小説(一次) |

ほぼ2人の時間-ミリシェンスとゴルダ

冬も本格化し始め、街のあちこちの店で年末、そしてクリスマス商戦の雰囲気が見え始めたドランザニアの首都カヴェルニーエ。中にはもうクリスマスの飾り付けをしている店があり、クリスマスが嫌いな者にとっては非常に居づらい場所となりつつある。
そんなカヴェルニーエの街中を、セイグリッドの国章が入ったジャケットにジーンズ。そして封印石を下げた首輪姿の男と、その男の頭に乗っている紫毛の竜と、その横に狼竜とカーバンクルが並んで歩いていた。

「北風が寒いわ」

「マフラーくらいしてこい言ったのに聞かないからだろう」

そんな話をしているのは、他でもないゴルダとミリシェンス。
今日は夜まで依頼が入ってないため、ミリシェンスがどこか出掛けたいと持ちかけ、今こうしてカヴェルニーエまで出て来ているのだ。
北風が寒いと言ったミリシェンスに、本来そうだなと返せばいいところをマフラーをしてないからだろと返すゴルダ。
その返事にミリシェンスは、それはないでしょという顔で若干不機嫌になる。
そしてそのやり取りを頭の上で見ていたマティルーネが、ゴルダの後頭部を尻尾で叩く。
どうやら、その返し方はないと言っているようだ。

「女心はよく分からん、かと言ってアルガティアよりは全然いいんだが」

アルガティアよりは全然ましであると呟いたゴルダにミリシェンスは

「あまりにも精神が混沌としてて、探りを入れようものならその混沌に呑まれる。そんな従姉妹でしたね。しかも一国の女王」

完全にではないが、ゴルダとある程度の記憶を共有しているので、その中から情報を引っ張り出して話す。

「それより、このまま街中を徘徊してても埒が明かないが。どこか行きたい店はあるか?」

特に機嫌が悪いわけではないが、煙草のようなものを取りだし、吸いかけたところで、ここが路上な上にミリシェンス達が居ることに気づいたゴルダは煙草のようなものをしまい、行く宛てがあるかと聞く。
それに対してミリシェンスはゴルダの方に向き直り、行きたい場所を言ったが、声が小さかったため、道路を走る車や竜タクシーの足音に消されて聞こえなかった。

「なるほど、分かった。なら行くか」

だが、ゴルダは声を聞き取れずともミリシェンスの口の動きから何を言っていたのかを読み取ったらしく、また歩き出す。
ちなみに、ミリシェンスはゴルダに

「アクセサリーショップに行きたい」

と言っていた。

それから数分ほど歩き、ゴルダ達は近くのアクセサリーショップにやって来た。
ここは異界にあるような鉱石などを使ったアクセサリだけではなく、この世界独自の鉱石や魔法鉱石を使ったアクセサリ、さらにはオリジナルのものを作ることができるようだ。

「好きに見てろ」

ミリシェンスに好きに見てろと言ったゴルダは、店の店主に声をかけられてその場を離れる。おそらく依頼か何かに関することだろう。
一方ミリシェンスは、既製品が陳列された棚の前でどれがいいかと選んでいた。
今見ている棚には、ピアスではない方の耳につけるアクセサリが並んでいる。
大体が異界でもお馴染みの宝石や鉱石などを使ったものだったが、その中で1つだけミリシェンスの目に留まったアクセサリがあった。
そのアクセサリの主な材質はミスリル銀で、装飾にルビーと紫水晶とサファイアを使用している。
それを眺めていると、何かしら前の契約者との記憶が蘇ってきたのだ。

「それにするか?何を買っても構わんぞ」

「はっ…!うん、じゃあこれで」

店主と話を終えたゴルダに後ろから話しかけられ、ミリシェンスは急に我へ帰る。
これは今買い逃したらもう出会えないだろうと思ったミリシェンスはこれでと即決。
ゴルダはそれに何も言わずに、そのアクセサリの代金を一括現金で支払った。

「大丈夫なんですか?そんな景気よく現金で、しかも一括で払って」

店を出てからミリシェンスにそんなことを聞かれ、ゴルダは大した出費じゃないと返す。
ゴルダと契約し、その家に住むようになってからミリシェンスはゴルダの収入に少々疑問を抱いていた。
医者とはいえフリーランス、そして何でも屋として依頼をほぼ年中無休で受けてくる生活。
一体どれくらい報酬を取ってるのか気になったが、ミリシェンスは探りを入れたことがない。
そもそも、探りを入れること自体が愚問なようにも思えてきたのでこれ以上は考えないようにした。

「少しどこかで休むか」

「はい?」

アクセサリショップを出、1時間半近く歩いたところでゴルダはそんなことを言う。
唐突なゴルダからの提案に、ミリシェンスはえっ?という顔をするもすぐさま表情を元に戻して

「構わないけど、どこでです?」

どこで休むのかとゴルダに改めて聞く。
するとゴルダは、どこか知っているような素振りを見せて、踵を返すと路地裏の方へと入る。
ここカヴェルニーエの路地裏は、そこまで奥まで入らなければある程度の治安は約束されているが、奥のほうへ入るともはや無謀地帯だ。
そんな少し入った路地をしばらく進んでいると、一見すると陰気な外見の建物が目に入る。
その建物の看板には「Cafe Yrizer」と書いてあり、この建物が喫茶店であるというのが分かる。
カフェの名前がドランザニア語で書いてある上、改めて見ても外見が陰気でもだ。

「いらっしゃい、久しぶりね」

店の中に入ると、ケルトに次いで癒しの音楽と言われるエルフの音楽が流されており、明かりは蝋燭ランタンの光だけ。
席の数もそこまで多くはなく、テーブル席が2つにあとは全部カウンター席。
そして、ゴルダ達に声をかけた店主は、白髪に近い銀髪の紫目の女性。

「ようシャールイズ、近くに寄ったんで来たまでだ」

ゴルダがシャールイズと呼んだこの女性、実は今ではサフィ以外はもう居ないと思われていた吸血竜である。
諸事情あって普段は人間の姿で生活しているが、吸血竜であることには変わりない。
そして、時たまゴルダに依頼をしてくる一応のお得意様でもあるのだ。

「しばらく見ないうちに、お仲間が3人も増えたのね。狼竜とカーバンンクルと…その子は?」

シャールイズはミリシェンスとレルヴィンを交互に見ると、ゴルダの頭の上で何よこいつという顔をしているマティルーネを指して聞く。
それにゴルダは一旦カウンター席に座ってから

「マティルーネ、ドラビットという異界の竜族だ。人参以外はほとんど食わない」

マティルーネをシャールイズに紹介した。
シャールイズは、ゴルダの頭の上に居座り続けているマティルーネにそっと手を触れる。
するとマティルーネは、あまりよろしくなさそうな顔でシャールイズを見た。

「あらあら、ところで注文は?」

シャールイズに注文はどうするのかと聞かれ、ゴルダは

「いつものだ」

と答える。
ここでゴルダの言う、いつものとは他でもないブラックコーヒーである。
シャールイズはそれに頷いてメモを取り、今度はミリシェンスに何にするかを聞く。
ミリシェンスは、カウンターテーブルに張られているメニューから

「カプチーノ」

と注文をする。
シャールイズはふふっと笑うと、それぞれの注文のコーヒーを作り出した。

「私とどこか同じ匂いするけど、何者なのかしらね」

カプチーノが来るのを待っている間、ミリシェンスはシャールイズを見てふとそんな疑問を口にする。
するとそれを耳にしたのか、シャールイズはゴルダにブラックをホットで出しながら

「私?私は吸血竜よ、あなたと同じ闇の血が入ってるね」

自分が吸血竜であることを名乗る。
ミリシェンスはシャールイズが吸血竜であることを知ると

「やっぱりね、思った通りだわ」

と返してそれ以降何も話さなくなる。

「まあ、ここで会ったのも何かの縁だから。また機会があればいらっしゃいね?」

それから1分もしないうちに、何も話さなくなったミリシェンスの前にカプチーノを置きながらシャールイズはそう言った。
ミリシェンスは軽く頷き、カプチーノを口にする。
その味は、かつて自分で淹れていた時と同じかそれ以上のもので、とてもカプチーノとは思えなかった。

「淹れ方が上手いのね、いい意味でカプチーノを飲んでいる気がしないわ」

褒めているのかどうか分からない物言いで感想を述べるミリシェンスに、シャールイズはあらそう?という顔をするだけで何も言わずにミリシェンス達を眺めていた。

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仮装でゴー

もはやハロウィンなど、とうの昔に終わったぞと言われてもおかしくないセイグリッド城の中を、ダークスーツに革靴とサングラス姿の昏黒と、狐面を被った輝星が歩いていた。
一体何をしに来たのだろうか?
答えは言うまでもなく、ハロウィンなのだが世界間の時差などを考慮せずに来たため、おもいっきりこちらの世界でハロウィンが終わった後に来てしまっていた。

「昏黒、こっちこっち」

輝星にこれ着てよと半ば無理矢理着せられたダークスーツに革靴が思ったより歩きにくいらしく、昏黒は時折ちょっとした段差でつまずきそうなりつつも輝星について行く。

そのころ、シアは何をしていたのかというと

「ハロウィンの時のは準備の時に終わらすべきでしょもう」

「結構料理に使ってるな、はたして年末年始は大丈夫なのか?」

アルカトラスが逃げるように異界へ会談に行ったため、ハロウィンの時に使った経費の書類上の清算を、ゴルダを呼んで書斎で行っているところ。
そこまで量があるわけではないので、今は数字が当たっているかどうかを調べている最中だ。

「こっちは数字に間違いはない」

とゴルダがシアに言ったところで、サフィが部屋に入ってきて

「昏黒と輝星、来てるわ。ダークスーツに革靴とサングラスに狐面を被ってね」

昏黒と輝星が来ていることを2人に伝える。

「あらあら、もうハロウィンは終わったのにね。通しなさい」

シアはそれを聞いてあらあらとは言いつつも、サフィに通すように言う。
一方ゴルダは、いつもの無表情から、少し渋い顔になりながら

「昏黒、聞いたことがない奴だ。おそらく輝星と同じ王子だろうが」

近くのソファで、サフィが置いていった緑茶をぐいと飲んだ。

「trick or treat!」

一方輝星は、ハロウィンの決まり文句を言いながら書斎に突入。
その後ろでは昏黒が歩きにくい革靴で足音を鳴らしながら入ってきた。
シアはそれをよく来たわねと言いたげに見つめ、ゴルダはこちらを注視したまま湯呑みに緑茶を注いでいる。

「えーと、シア様と…誰だっけ?」

「白き竜王…とは違う方に…見慣れない…顔だ」

輝星と昏黒が誰だお前はという反応をすると、ゴルダは何も言わずに湯呑みをすすり、しばしの静寂のあとにテーブルに湯呑みを置き。

「きついジョークにも程があるがこの際どうでもいい」

と言いながら立ち上がり、いつもの調子で昏黒にお辞儀して

「ゴルダ=R=アルカトラス、見知り置きを」

自分の名を名乗った。
それに昏黒はややぎこちないお辞儀を無言で返す。
やはり普段着ではないこのダークスーツは動きにくいようだ。

「改めてTrick or Treat…でいいんだったかな?」

ゴルダが昏黒に名乗ったことで調子が狂ったため、輝星は改めてシアにハロウィンの決まり文句を投げかける。
するとシアは、輝星に無差別に菓子を詰めた袋をどこからか出して渡す。

「わーい、ありがとうシア様!」

そうやって輝星がはしゃいでいる横で、昏黒とゴルダは互いに目線を合わせたまま一歩も反らしていなかった。
これは互いに目を反らすなと無言の圧力をかけているわけではない。単純にゴルダが診察眼を使用しているがために昏黒が目を反らせなくなっているだけだ。

「大体は分かった」

ゴルダの一言に、昏黒は何がだ?という顔をする。
その昏黒の顔を見て、ゴルダはこう言う。

「輝星を大事にしろ、それだけだ。輝星とお前は対の属性にしては非常に釣り合いが取れている。それゆえに、どちらが欠けても今以上の成長はできないし、竜王にもなれない」

ゴルダのこの言葉を、昏黒は半分は寝耳に水で聞いていたが、輝星が欠ければ竜王にはなれないということだけはしっかりと聞いていた。

「ねーねー昏黒、これおいしいよ」

突如として輝星からビターチョコを渡され、昏黒はゴルダに軽く頭を下げて輝星に向き直り、チョコを受け取って口に運ぶ。
ビターではあるものの、あくまでも引き立て役の苦さがすぐに口の中に広がった。

「おいしいでしょ?」

輝星の問いに昏黒は、ただ一度頷くだけであった。
輝星が欠ければ自分は竜王にはなれず、逆に自分が欠ければ輝星が竜王にはなれない。
先ほどのゴルダの一言を、昏黒は仮装した自分の中で延々と繰り返すのであった

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