氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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天才のTrick or Treat

今日は世間一般ではハロウィンの日。
今では本来の意は薄れ、仮装して菓子をねだる日という印象が強いが、メリエルにそんなことは関係ない。
なぜならメリエルは全世界の期待の天才だからだ。

「ここもあっちこっちでやってるのね」

セイグリッドの城下町を素通りしていると、ちらほらと仮装した老若男女の姿が見受けられた。
随所に今にも動き出しそうなジャックオランタンが置かれており、中には近寄った者を追い回すなどのドッキリ目的で作られたものも。
ちなみに、メリエルもそれに追い回されて思わずチョップでそのジャックオランタンを叩き割ってしまったのであった。

「趣味悪いわね」

そのジャックオランタンを叩き割った後、どこからか出したハンカチで手を拭きながらメリエルは言う。
今日の目的は、シアに

「Trick or Treat?」

と言って菓子を取るか、はたまたこっちからもふりに行くかのどっちかを実行することだ。

「やる前から嫌な予感しかしないけど、やると決めたからにはやるのがメリエル様よ」

そう己に言い聞かせ、メリエルは塔へと向かう。

さて、そのころシアの塔では

「持って来てないんだから、こうするしかないわよね」

「ミリシェンスの奴、わざと渡し忘れたな」

ゴルダがマティルーネと共にシアにぱふぱふされていた。
本来なら、ミリシェンスと作った菓子を持ってくるはずだったのだが、どうやらミリシェンスがわざと渡し忘れたようで、持ってなかったのだ。
なので、シアに

「Trick or Treat?」

と聞かれても、そもそも菓子を持ってないので必然的にTreatになり、こうしてシアにぱふぱふされているのである。

「なんか今日は異様に登りにくいわ」

一方メリエルはというと、ようやく塔の頂上にたどり着いて一息ついているところ。
なぜか今日に限って塔の頂上までがいつもの倍近くに感じられ、登るのに時間がかかったのだ。

「ああ、居たわ」

少し休んで気力を取り戻したメリエルが遠くに目をやると、シアがこちらに背を向けて座っているのが確認できた。
メリエルは、シアに察知されまいと近寄ったのだが

「Thark yr Tlyalt?」

あっさり気付かれ、メリエルが聞いたことのない言語で何かを言う。
天才のメリエルには、これが

「Trick or Treat?」

と同じ意を持つ言葉であることを理解して

「答えは、イェスよ…ってあれ?」

城の方でくすねてきた菓子を出そうとしたが、どこにもない。
どこにあるのよと必死に流すメリエルを見て、シアはこれかしら?と手作り菓子の詰め合わせの袋を出す。
どうやらシアにいつの間にか取られてたようだ。

「うぐぐ…」

計られたわという顔をしているメリエルに、シアは

「菓子がないなら分かるでしょ?」

と落ち着いてる中に意地悪そうな雰囲気を込めて言う。
シアが定義を改変できる能力の持ち主であることを思いだし、生唾を飲み込んだメリエルだが

「シア、それ以上はいかん」

いつの間にかゴルダが隣に立っており、何かをしようとしたシアを咎める。

「あら残念、面白いことしようとしたのに」

「あんたの面白いことってろくなことじゃないでしょ!」

ゴルダに咎められ、面白いことをしようとしたのにと言うシアに、メリエルは即座に突っ込みを入れた。

「あんたも達も居たのね」

メリエルはいつもと変わらない服装のゴルダと、その頭上のマティルーネを見てそう言う。
ただ、いつも腰に差している剣が今日は見当たらない。

「それはそうと、Trick or Treat?」

ここでメリエルは、今日の目的を果たすべく3人に決まり文句を投げかけた。
それに対してシアは

「あら、これが欲しいの?」

と先ほどメリエルから取った袋を返す。

「ずいぶん都合がいいのね」

返してもらった袋をしまいながら、メリエルは言った。
そしてマティルーネは、かすかに耳を動かすと人参を差し出してきた。

「趣旨が違ってるんだけど?」

メリエルはそう言いつつも、人参を受けとる。
そして最後に、ゴルダが何と言ったかと思えば

「きついジョークだ」

という一言で一蹴したのだ。
さすがにこれにはメリエルも

「いくらなんでもそれはないでしょ!」

と盛大に突っ込みを入れるのであった。
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小説(交流) |

お泊まりは簡単にできるものではない

今日のゴルダの家は、いつもと違って騒がしかった。
なぜかというと、モカとココにチーノが泊まりに来てしまったからだ。
今日は夜の依頼があるため、一度は断ったゴルダだが、ココがアルガントに悪戯をして泣かそうとしたため、ミリシェンスに面倒を見るように頼んだのである。

「いいか?コロンが居ないからとハメを外すなよ?」

そろそろ出ないといけない時間だったので、ゴルダは玄関の前でココとチーノに言う。
時刻は夜の7時前、依頼主との約束は8時だが早めに出ないと間に合わない場所での待ち合わせなのだ。

「大丈夫だって」

「そうそう」

ニヤニヤしながら返事をする2人を見て、ゴルダはやや訝しみながらも

「ミリシェンスの言うことはちゃんと聞くんだぞ」

と言って家を出た。
ミリシェンスは出て行くゴルダを見送ると、居間に居るココ達に向き直る。
ココ達は、銀魂というアニメのDVDを食い入るように視ており、特に何かをやらかす様子はない。

「さて、夕食の支度をしないとね」

そう言ってミリシェンスは台所に向かう。
するとそこへモカが来て

「お手伝いします」

夕食の支度を手伝うと申し出てきた。
居間では、ココとチーノが未だにフウにレルヴィンとマティルーネと銀魂を視ていた。

「大丈夫そうね、じゃあモカ。冷蔵庫から…」

ミリシェンスは改めてココ達がやらかしそうにないことを確認してから、モカに冷蔵庫から指定した食材を取るように言うのであった。

一方、銀魂を食い入るように視ているココ達はというと

「なんでこんな危ないネタばかりやるのかしらね」

銀魂の作中の危ういネタに疑問を持っている様子。
一方のチーノは、フウとたびたびケタケタと笑っている。

「んー」

銀魂を視るのに飽きてきたのか、ココは時々鼻を鳴らしているマティルーネを触る。
おそらく、ゴルダがソファの掃除を怠っているせいで埃が舞いやすくなっているのだろう。

「ねーねー、なんで喋らないの?」

また鼻を鳴らしたマティルーネの頬を摘まみながらココはそんなことを聞く。
マティルーネはそれに、嫌そうな顔をするだけで何も喋らない。
いや、正確には喋ってはいるがココには理解できない言語なのだ。

「ま、いっか。マティーはかわいいもん」

マティルーネを変なあだ名で呼びながら、ココは膝の上にマティルーネを乗せる。
膝に乗せた瞬間、ニンジン独特の甘い匂いがしたが、これはマティルーネがニンジン以外をほとんど食べない竜だからだろう。

「さて、次は何にしようかな」

ちょうどDVDが終わったらしく、次は何を視ようかと選んでいるフウにココは

「マリオブラザーズしない?あの4人まででできるの」

マリオブラザーズをしようと持ち掛ける。
だがフウは乗り気ではないらしく

「どうしよっかな?」

とだけ返事をした。
それにココはえーという顔をしながら、何かをひらめいたように

「先にお風呂にしましょうよ、チーノも。ね?」

風呂に入ろうと切り出したのだ。
フウはそれに何の疑問も抱かず、いいよと二つ返事を返す。

「ミリシェンス、風呂に入ってくるね」

「あら早いのね、どうぞ。洗い物はまとめて置いておいてね」

ミリシェンスに風呂に入ると言うと、いいと言われたのでココは内心で計画通りと呟き、フウとチーノと風呂へ。
風呂の前にある脱衣場は、少し古い型のドラム式洗濯機に、洗面台キャビネットがあるだけのただの脱衣場。
そこで3人は服を脱いで風呂の中へ。
いつもはミリシェンスと入っているフウにとって、2人以上で入るというのは、自分のとある秘密を知られてしまう脅威以外の何物でもない。

「わぁ広い」

「ココ、体洗う前に湯に入ったらダメだよ」

やたらめったらにはしゃぐ2人をよそに、フウはそそくさとシャワーを出し、さっさと上がってしまおうとシャンブーに手を伸ばす。

「シュート!」

「いたっ」

ココがふざけてチーノに投げた手近にあった石鹸が、フウの後頭部に命中。
石鹸はその場にこてんと落ちた。

「早く入らないとミリシェンスが怒るよ」

黙々と頭を洗いながらフウは言うが、ココとチーノは聞いていない。
それどころか、洗面器に湯を入れて掛け合って遊び始めたのだ。

「うー…」

その何とか言うのを止めなさいという声がどこからか聞こえてきそうな唸りを上げながら、フウは2人の存在を無視して風呂に入るのだった。
なおこの後。ココがフウに悪戯をして、その時のフウの声でミリシェンスが肝っ玉の持ち主の母のように、風呂で遊ぶんじゃないのと飛び込んで来たのは言うまでもない。

「さあ、夕食よ」

さっき怒ったことなどどこ吹く風なミリシェンスは、フウ達をテーブルに座らせて夕食を食べさせる。
今日は、異様にマッシュルームの量が多いハヤシライスのようだ。

「マッシュルーム切りすぎちゃった」

てへへという顔をしているモカから察するに、マッシュルームが多く入っているのはモカが切りすぎたせいらしい。
ちなみに、夕食の時間はミリシェンスが変なことをしないように見張っていたので、何も起きなかった。

「ごちそうさまー」

やがて夕食も終わり、フウ達3人は部屋へ。
モカとミリシェンスは洗い物を片付けていた。

「ゴルダ様もこうやって夕食後の片付けを手伝ってくれるんですよ」

「あの人らしいわね、無表情なのに面倒見はいいというところが」

2人でゴルダの話をしていると、あっという間に洗い物が終わった。

「さて、どうしますかね」

ミリシェンスはエプロンを外し、ソファに腰掛ける。
隣にはマティルーネがお疲れさんと言いたげな顔で座っていて、その隣にはモカが居る。

「お風呂、入りませんか?お互い、まだですよね?」

モカの一言にミリシエンスはそうねと返す。

「よかったら一緒にどうです?」

モカの一緒に入らないかという発言に、ミリシェンスは特に驚く様子もなく

「構わないわ」

と返事をした。

それからモカとミリシェンスは2人で風呂に入って疲れを癒したのだが、ココとチーノにこの後も振り回されて結局元通りになったとか。

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小説(交流) |

雪の日の往診

本格的にではないにしろ、雪が降るドランザニアの首都カヴェルニーエの街中を、ゴルダとその頭に乗っているマティルーネ早歩きで歩いていた。
今日は内科的な診察の依頼が数件入っていたため、往診である。
なお、ゴルダは診療所などを持たず、病院にも勤めていないフリーランスな竜医なので、基本的に連絡を受けて患者宅へ往診に向かうというやり方を取っている。
ただし、このやり方だと手術が必要な場合にはできないため、ゴルダはその際は紹介状を渡している。
一応、知り合い程度には病院勤めの竜医や幻惑獣医が居るので、手術などの専門的処置が必要な場合はその病院へ行くように言っている。

「ここか、見た感じ中流の崖っぷちの生活をしている奴が住んでそうだな」

1件目の患者は、カヴェルニーエの中流者街の外れにある5階建てのマンション。
所々に老朽化の兆しが見られ、管理が行き届いているとは言いがたい外見だ。

「最上階の503だったな」

患者の住所を記したメモを確認し、ゴルダは中へ。
このマンションは、インターホンで呼び出した住人に開けてもらったり、鍵でエントランスの自動扉を開けるようなタイプではなかったため、ゴルダはそのままエレベーターに乗って5階へ。

「5階です」

ドランザニア語の後に、英語で現在の階層を伝えるアナウンスが流れた。
ゴルダはそのままエレベーターを降り、目的の503号室へ。

「こんにちは、連絡を受けてきた者だが」

503号室の扉をノックすると、異界の欧州寄りの顔つきの女性が出てきた。

「お待ちしてました」

女性は英語でゴルダにそう言って室内に上げる。
ゴルダはそれに失礼するとだけ返して部屋に上がった。

「なるほど」

部屋に上げられ、目に入ったのは小型犬くらいの大きさしかない有毛種の竜。
属性は不明だが、エメラルドに近い毛の色からして草属性だろう。

「昨日間違えて肉を与えてしまってから、ずっとこんな感じなんです」

欧州寄りの顔つきの女性は、そうゴルダに説明する。
草属性の竜は、基本的植物性のもの以外は食べない。
そのため、動物性のもの。たとえば肉などを食べてしまうと吐くだけではなく、消化不良も引き起こす。
重症の場合、消化不良が長期化してまともな食事ができずに衰弱することもある。

「どれ、診てみようか」

そう言って、ゴルダはマティレーネを頭から降りさせ、聴診器などの診察道具を出して診察を開始。

「これは…腹の音がおかしいな、やはり消化不良から来てるか」

ゴルダはそう言って、どこからか消化不良を改善する生薬を出し、そのまま飲ませる。

「これでひとまず大丈夫だろう、今日いっぱいは水分だけにしてくれ。もしまだ消化不良が治らなかったらまた連絡を」

診察道具を片付け、ゴルダはそう言って診察料の請求書を切って渡す

「ありがとうございました」

女性から診察料を受け取ったゴルダは、一礼してマティルーネと部屋を出る。
なお、この診察での診察料は診察と投薬で100ゴールドほど。
円にすると、15000円くらいである。
高いと思われるが、中にはこの倍に釣り上げて診察料を取る者も存在するので、大分良心的である。

「次は…リャープラードビルのホテルか」

次なる患者の住所のメモを見て、ゴルダは若干行きたくなさそうに呟く。
リャープラードビルは、地上150階建ての超高層ビルで。一部官公庁、ショッピングセンター、オフィス、ホテルが入っている。
患者が居るのは、そのホテルエリアの最上階の一室だ。

「行くしかないか」

腹を決めたゴルダは、タクシーでリャープラードビルへと向かった。
先ほど居た場所からビルまでは、タクシーで20分ほど。
雪のせいか、若干道が混んでいたものの、誤差の範囲の時間で着いた。

「いつ来てもやはりでかい」

1階のロビーでは、服装も種族も全く違う者達が行き来しており、ここがどんなビルなのかが分からなくなるくらいだ。

「ようこそ、リャープラードビルへ」

「失礼、ホテルエリアに行きたいんだが。宿泊客に呼ばれた医者だ」

ゴルダはロビーの受付に行き、自分が医者でホテルの宿泊客に呼ばれていることを話す。
官公庁や、社内情報保護に厳しい企業が入ってるため、リャープラードビルのエレベーターは、対応したエレベーターカードでしかそのエリアへ行くことができない。
しかも、受付で手続きをしないとそのカードは貰うことができないのだ。

「医者であることを証明できる免状と、その宿泊客の名を教えて下さい」

一見すると人間だが、その目付きは竜そのものな受付担当に言われ、ゴルダは竜医免状を出してその宿泊客の名を伝える。

「ホテル側へ確認しますのでしばらくお待ちください」

ゴルダから免状を預かった受付の担当は、ホテルへと電話をかける。
なお、もしこれで違うと言われると、かなり厄介なことになる。

「確認が取れました、エレベーターカードと免状をどうぞ」

「どうも」

ゴルダは免状とエレベーターカードを受け取り、エレベーターホールへ。
操作盤のカードをかざす部分にカードをかざすと、エレベーターがすぐにやって来た。
なおここのエレベーターは、日本の企業のものに魔法技術を織り混ぜたものが設置されている。
ゴルダはそのまま中へ入り、またカードをかざす。
するとエレベーターは自動的に扉を閉め、上昇し出した。
マティルーネを頭に乗せたまま、数分間沈黙が流れたかと思うと

「150階です」

現在の階層を知らせるアナウンスが英語で流れる。
ゴルダはエレベーターから降り、豪華な作りの通路を気にも留めずに目的の部屋へ。
なお、ここの患者は単に風邪を引いたいかにもエリートな獣人だったので、ゴルダは風邪薬を出して診察料を取るとそそくさと帰ったとか。

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小説(一次) |

寿司を食むようです

冷え込みも日に日に厳しくなってきたある日、ゴルダはどういうわけか何もないにエルフィサリドに呼び出された。
城にマティルーネを連れてやって来てたゴルダは、従者に案内されて大広間へ。
大広間の壁の所々に苔が生えていて、ガラス張りのような透明な天井には、水が流れている。だが、そこまで湿っぽくはなく。衛生状態は良好だ。
そしてそこには、椅子に座ったまま足を組んでいるシスイと、こっちこっちと尻尾でこまねいているエルフィサリドの姿があった。

「時間的に、昼飯に誘ったということか?」

ゴルダの一言に、エルフィサリドは尻尾を口元に当てて

「そんなところよ」

そうだと答える。
ゴルダはそれに何も言わず、シスイとエルフィサリドの間に座る。
なおマティルーネは2人に警戒しっぱなしなのか、耳を激しく動かしたまま止めないでいる。

「それで、今日の昼食はなんだ?」

従者が出した、スリュムヴォルドで栽培され、摘まれた茶葉で淹れた緑茶をすすりながらエルフィサリドに聞く。
なおシスイは、マティルーネが警戒しっぱなしなのに感づいているが、あえて気にしないふりをしている。

「んーと、寿司よ」

昼食はなにかと聞かれ、エルフィサリドは寿司だと答える。
ここで、寿司と聞いて疑問に思うだろうが、この世界にも寿司は存在している。
いつ頃からかは不明だが、なんらかの要因でこの世界に飛んできた日本の寿司職人が、この世界の米と魚を使って寿司を作ってから広まったという。
元の世界のものとは全てが違う材料を使い、試行錯誤の末に本来の寿司の味をこの世界の材料で作るのに、5年はかかったとも言われている。
それ以降は、じわりじわりと広まり、この世界でも普通に寿司は食されているのだ。

「前に異界の依頼の付き合いで食わされた、魚沼のコシヒカリで炊かれたシャリの寿司は良かったな」

ゴルダのこの独り言に、エルフィサリドは

「あらあら、今日はそれと同等の米で作らせてるのよ?」

と耳元で囁いた。

やがて、3人の前に寿司が運ばれてきた。
エルフィサリドのだけが異常に大きいが、体格の差故に仕方がないだろう。
皿の上には、マグロ、イカ、タコ、ホタテ、マス、ウニ、ブダイにその他分からないネタの寿司が並べられている。
なお、全てこの世界でとれたものだ。

「では、頂くとするか」

寿司に全く興味がないマティルーネをよそに、ゴルダは箸を持ち、手始めにブダイから手をつける。
ブダイは異界の地球にも居る魚だが、食べるという話はそこまで聞いたことがない。
白身で身は引きしまっており、醤油をつけて口に運ぶと若干コリコリしていた。

「なかなかだ、シャリも酸っぱさと甘さのバランスがいい」

「城の従者の料理人に、元板前が居るのよ」

ただ黙々と食べているシスイを横目に、エルフィサリドはゴルダにそう言う。
その後は次々と他のネタを食して行ったゴルダだが、全て食べ終えて漏らした感想は

「有名寿司屋と並ぶ味だったな」

という一言だけだったとか。

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小説(一次) |

ゲームとコロンの手料理と

例年より1ヶ月以上早く雪が降り始めた外をよそに、今日はゴルダの家にはコロンにココとモカ、そしてチーノと、どういうわけだかフィルスが来ている。
居間でトランプをしているフウ達をコロンが台所を借りてミリシェンスと料理をしていた。
なお、ゴルダはこの雪の中をミリシェンスに頼まれて買い出しに行っている。

「うーん、これ」

「本当にそれでいいの?」

自分の手札から1枚取ったモカに、フィルスは首輪の辺りを掻きながら聞く。
だがモカは何とも言わずに手札を切り、今度は隣のココに取らせる。
するとココは迷わず真ん中辺りのカードを取った。
だが、取ったカードが悪かったのか、渋い顔になる。
ちなみに、何をしているのかというと、他でもないババ抜きだ。
そして、なぜフィルスが来ているのかというと、最初はモカ達だけでトランプをしていたのだが、突然フィルスがテレポートして来たのである。
本来は、アルガティアからの伝言をゴルダに伝えに来ただけなのだが、ココが帰っちゃ嫌だとわがままを言い出したので仕方なく居るのだ。

「ほらほら、取って」

ココはフウにずいと手札を押し付け、取るように迫る。
フウはそれに押される感じで、端の方を取って揃った2枚を捨ててチーノに取らせる。
チーノは、フウとその手札を見て何かを企むかのように、にやりと笑うと

「じゃあこれもらう…と見せかけて、ビリビリッ」

「うわっ!」

フウの手に、強めにパチッとくる電気を流したのだ。
フウはその不意打ちにびっくりして、思わず自分の手札を撒き散らしてしまった。

「それは反則じゃない?」

それを見てクスクスと笑うココとチーノを見ながら、フィルスはチーノにそう指摘する。
一方、蚊帳の外状態と思われていたモカは

「チーノったらすぐこれなんだから」

と、やれやれねといった口調でそう呟く。

「さあさあ、仕切り直しってことで他のやりましょ」

少々フィルスとチーノが険悪ムードになりかけたので、モカが仲裁に入るような形で他にできそうなゲームを探し始めた。

一方、台所ではというと

「お菓子作りもいけるタイプなのね」

「お菓子作りも料理の一種ですからね」

ミリシェンスとコロンが、アップルパイを作るためにリンゴを切っていた。
従者という共通点があるためか、ミリシェンスとコロンは、ゴルダからアップルパイを作らないかと言われるまでは互いに料理のレシピを教え合うくらいには打ち解けていたのだ。

「それにしてもこのリンゴ、しっとりしているわね」

「寒冷地でしか育たない品種らしいわ、寒いほど熟すのが早いとか」

ミリシェンスが皮を剥き、コロンが煮詰めやすいように切るという風に分担して作業をしている際にそんな会話が出た。
なおこのリンゴ、リヴァルスのような極寒の地でしか育たず。栽培も難しいのでそこそこの値がつく一応の高級品。
しっとりした歯触りに、強すぎない甘みとそれを引き立てる酸っぱさが特徴だ。

「全部煮詰めていいの?」

「いいのいいの、余ったら冷凍庫にでも入れるから」

コロンに、鍋に入ってるのを全部煮詰めていいのかと聞かれ、ミリシェンスは全部やって構わないと返す。
そしてコロンはそれならと火を付け、煮詰め始めた。

「ただいま、パイシート買って来たぞ」

ここで、ゴルダがマティルーネとレルヴィンと共に帰宅。
レルヴィンは玄関で体を震わせて雪を落とし、フウのところへ。
なお、フウたちはスマブラをしているらしくとても騒がしい。

「ココのネス強すぎない?」

「チーノのカービィも大分しぶといよ」

「フウのリンク一体何なの?」

なお、スマブラにさしたる興味がないモカとフィルスは、ソファの上に座ってそれを眺めている。
そこへレルヴィンがやって来て、モカのすぐ横へと伏せる。
するとモカは、ソファをぽんぽんと叩いてレルヴィンに上がっておいでと合図する。
レルヴィンはそれに本当にいいのかな?という顔をしつつも、さっとソファの上へ。
さすがは超大型犬と同等の大きさのためか、モカと並んで座っているとものすごい違和感を感じる。

「さて、俺は部屋で少し仕事をしてくる。何かあったら呼べ」

一方、ゴルダはミリシェンスにパイシートの箱を渡して部屋の方へ。

「あの…無理はなさらないでくださいね?誰しも体と健康が一番の資本ですから」

そんなゴルダを、コロンは呼び止めて無理をしないように言う。
そのコロンの言葉にゴルダは

「そうだな、体を壊したら元も子もない」

とだけ返して部屋に入り、扉を閉めた。

それから1時間半ほどして、ようやくアップルバイが焼き上がった。
フウ達3人は今度はマリオパーティをしていて、モカはフィルスを膝に乗せたままいつの間にか寝ており、しかも横で寝ているレルヴィンを枕代わりにしている。
ゴルダは仕事をすると言って部屋から出てこず、コロンとミリシェンスはアップルパイを冷ましている間に茶や取り分け用の皿などを準備していた。

「アップルパイができましたよー」

コロンのこの一言で、フウ達3人はゲームを中断。モカとフィルスも目を覚まし、ゴルダも部屋から音もなく出てきた。

「さて、切り分けて食べましょうか」

そう言うや、コロンは謎のナイフさばきでアップルパイを均等に切り分ける。
さっくりとした外に、みっちり詰まった中身と、鼻をくすぐる匂い。

「煮詰めても引き立て役の酸っぱさが損なわれてない辺り、上出来だ」

一口食べたゴルダが漏らした感想に、コロンは

「それは良かったですわ、いつも使ってるリンゴと勝手が違ってたので」

とふふっと笑いながら返す。
なお、フウ達も似たような感想を漏らしたという。

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依頼がない日でも休みはなし

初冬の冷え込みの厳しいある日の日も出てない早朝。
携帯のアラームで、ゴルダはベッドから音を立てずに起き上がると携帯のスケジュールアプリを開き、今日の予定を確認。
今日は一切依頼や往診が入っておらず、急な依頼などがなければ年に一度あるかどうかの完全なフリーの日だ。

「何もないか、ならばもう一眠りしても問題はあるまい」

ゴルダはそう言って、またベッドに入ろうとしたが

「おはようです」

タイミング悪くミリシェンスが起床、おはようと挨拶されたのでゴルダは

「ああ、おはよう」

とぶっきらぼうに挨拶を返して部屋を出る。
なお、マティルーネとレルヴンはまだすやすやと寝息を立てて寝ている。

「今日は予定ないのかな?」

壁に下げてあった前掛けエプロンを着けながら聞いてきたミリシェンスにゴルダは軽く頷く。
するとミリシェンスはどこからかメモを取り出して

「これ、私1人では厳しいことを書いてあるの。やってくれます?」

と言いながらゴルダに渡す。
メモを受け取ったゴルダは、そのメモに早速目を通す。
書かれているのは、主に修理関係のことで、その中には屋根のアンテナ類の調整まで入っていた。

「またずれたのか?」

アンテナ類の調整の部分を指しながら、ゴルダはミリシェンスに確認を取る。

「ええ、時折衛星放送がちらつくことがあるの」

ミリシェンスから衛星放送がちらつくと聞いたゴルダは、分かったと返して朝食の用意を始める。
なお、ゴルダが朝食を用意している間、ミリシェンスは暖炉に火をつけ、氷燐に朝食を与えるために外へ出ていた。

「おかしいな、もうこんだけしかないのか」

冷蔵庫を開け、朝食の食材を出そうとしたゴルダの目には、もう少しですっからかんになりそうな冷蔵庫の中が入っていた。
5匹に1人という世帯構成で住んでいれば、食料がすぐに無くなるのも無理はない話である。

「後で買い物も行かねば」

朝食の食材を取り、冷蔵庫の扉を閉めながらゴルダはそう呟いた。
そして、今朝ゴルダが作った献立はふわっと仕上がったスクランブルエッグ、外はカリカリで中は本当にパンかと思いたくなるほどにもっちりとした食パン。
カリッと焼けているのに、噛むと程よい柔らかさのある草食竜のベーコン。イファルシアに教えてもらったやり方で作ったピクルスと自家製野菜のサラダ。
そしてコーヒーなどの飲み物だ。

「さあさあ、起きる時間起きる時間」

ミリシェンスがアルガント達を起こしてきて、全員揃ったところで朝食。
早食いというわけではないが、30分ほどでゴルダは食べ終わり、食器を片付けて軽トラのある車庫へ向かう。
そこで脚立と工具箱を取ると、身に染みる北風の吹く外へ。
ミリシェンスに言われた、アンテナ類の調整をするためである。
屋根へと脚立を立て掛け、問題ないかどうかを指さし確認するゴルダ。
たまに建築関係の依頼も受けるので、それが染み付いているのだ。
そそくさと屋根へ上がったゴルダは安全帯の魔法などで転落防止策を講じてアンテナのところへ。
衛星放送と普通のテレビ受信用アンテナだけではなく、電波送電受電用のものや、通信用アンテナなど様々なアンテナが付いている。
電波送電は、魔法と科学の相互補完により、効率的に送電できるようになったのでこの世界ではほとんど電波送電が使われている。

「位置が少しずれただけか、他は…問題ないな」

衛星放送受信用のアンテナ以外は特に異常がなかったので、ゴルダはすぐに調整を終えて屋根から降りる。
そして屋根から降りると、脚立を片付けて、今度は自室へ。
ネット通信用の機器がおかしいというのがメモに書いてあったからだ。

「ルーターは大丈夫、ハブもか。無停電電源装置は…そろそろバッテリ交換だな」

こうしてあれやこれやと調べていくと、ケーブル類が劣化していることに気づいた。

「やれやれ、もう劣化したのか。困った奴だ」

今すぐには交換できないので、ゴルダはそれを後回しにして他を修理することに。

「やっと終わったか。年から年中仕事漬けだと、家のものがガタが来ても直すに直せん」

それから3時間近く経って、ようやくミリシェンスに言われたところを全部直したゴルダはソファにどっかり座る。
なお、どういうわけだか、マティルーネとレルヴィンはゴルダから少し距離を置いていた。

「風呂に入ったら?臭うよ?」

ものすごく砕けた言い方でミリシェンスに言われ、ゴルダはそれもそうだなと言って風呂場へ。
地球へ泊まり掛けの依頼に行った時も、シャワーで済ますことが当たり前のゴルダだが、今日はミリシェンスが気を利かせて湯を張っていたので入ることに。

「やはり湯にはおちおち漬かっていられんな。本能的に早く出ねばと思ってしまう」

だかしかし、湯に漬かっていたのはほんの5分ほど。
湯から上がったゴルダは、さっさと着替えると

「買い物に行くが、ついてくるか?」

とマティルーネとミリシェンスに声をかける。
ゴルダがレルヴィンに聞かなかったのは、買い物には絶対についてこないと分かっているからだ。

「結構よ、掃除するからね」

ミリシェンスは掃除をするから行かないと断ったが、マティルーネはスッとこちらへやって来た。

「じゃ、行って来る」

「行ってらっしゃい」

ミリシェンスに行ってらっしゃいと言われ、ゴルダはマティルーネと買い物に向かう。
買い物に行くのは、家から30分弱車で行った市街地にある大型のスーパー。
大体買うものは決まっているので、ゴルダは値段も見ずにどんどんカートへ入れていく。

「ふうむ、これもいいな」

買い物をしていると、思いがけない商品に目が行くのはよくあることで、ゴルダもこの日は骨付きの草食竜のカルビに目が行っていた。

「まあいい、買うか」

結局草食竜のカルビもカートに入れ、会計を済ませたゴルダは軽い荷物をマティルーネに持たせて車に戻って帰路へとつく。
こうして、ゴルダの依頼のない日は家事で消費されていくのであった。

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小説(一次) |

晩秋の栗拾い

世が既に晩秋を向かえ、冬へと移り変わろうとするこの時期。
それは南方のリフィルも例外ではなく、エルフ達も冬への備えを終わらせようと毎日忙しく働いている。
市場には秋野菜や、幻獣布の防寒具などが並び。町外れの草食竜を飼う牧場では、草食竜たちの冬の間の食糧をストックしている。

一方リフィル城の農地では、ほぼ収穫が終わっていて、後は木に実るものを収穫するだけである。

「お願い、今日で終わらせたいから手伝って」

「やれやれ」

その木々の前に、イレーヌとゴルダとミリシェンスにマティルーネとレルヴィンが居た。
案の定、イレーヌに収穫を手伝って欲しいと呼ばれたようだ。

「計画性ないんですね」

ミリシェンスの刺さる一言にイレーヌはうぐぐとなりながらも

「栗の木の方をまずやってもらえる?私はエゼラルドと畑の残りを片付けるから」

そう言ってイレーヌは、ゴルダに保管庫に繋がる異次元のカゴを渡し、畑の方へ行ってしまった。

「何なのかしら」

不機嫌そうにイレーヌを見送っているミリシェンスに、ゴルダはこう言う。

「ここの栗の毬は普通の栗のより固い、取り出す時は注意しろよ」

今ゴルダ達の目の前にあるのは、鋼栗とも呼ばれる栗の木で、一見普通の栗だが、とにかく毬が鋼のように固いので取り出す時は毬が刺さらないよう注意しなければならない。

「伊達に記憶の共有してないんだからね?」

ミリシェンスはゴルダの注意を聞いた後、ウインクしながらそう言って、難なく落ちていた毬から栗を取り出してゴルダのカゴに入れる
カゴに入った栗は、底に溜まらずにどこかへと消えた。
消えた栗は保管庫で、イファルシアが従者と選り分けて保管しているのだ。

「さて、ちゃっちゃとやってしまおうか」

こうしてゴルダ達は、やらされている栗拾いを開始したのであった。

それからしばらく栗拾いを続けていると、レルヴィンが異常に大きな毬を見つけてゴルダのところへ転がして持って来た。
その大きさは、ゴルダの両手から少しはみ出るくらい。
もちろん詰まっている栗も相応の大きさだ。

「レルヴィン、取り出してみろ」

ゴルダは、レルヴィンに毬から栗を取り出してみるように促す。
するとレルヴィンは、毬をもろともせずに前足で踏みつけて体重をかけたかと思うと、出てきた栗をゴルダにそっと渡したのだ。

「よしよし、やればできるじゃないか」

栗を受け取ったゴルダは、レルヴィンの頭を撫でて誉めると

「よし、この調子で取ってこい」

と言って取りに行かせたのであった。
するとそれを見たミリシェンスも

「じゃ私も」

自分もと言って奥の方へ行ってしまう。
そして、マティルーネと2人残されたゴルダは

「俺らもぼちぼち拾うか」

マティルーネとちまちま栗を拾うことに。
だが、今居る周辺には毬ばかりで栗は一つもない。

「木を蹴ってみるか」

木を蹴れば落ちてくるかもと、ゴルダは手近な鋼栗の木に軽い回し蹴りを入れる。
すると、いくつか毬が木から降ってきた。
マティルーネはそれに反応し、レルヴィンと同じことをするも全く栗が取れる様子はない。

「お前には早かったか」

ゴルダはマティルーネが取り出しかねている毬を踏んづけて栗を取り出すと、マティルーネにそれを見せる。

「どうだ?煎って食ってみるか?」

だがマティルーネは人参がいいと言わんばかりにそっぽを向く。

「やはり人参以外は認めないか」

そんなことを呟いていると、ミリシェンスとレルヴィンが大量の栗を持って来たところで、栗拾いは終わった。
最終的にどれくらい集まったかというと、そんなに集まらなかったとか。

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小説(一次) |

サジと悪夢

晩秋から初冬へと季節が移り変わり、身に堪えるほどの寒い夜の日が増えてきた大陸。
ゴルダの家の周りではうっすら雪が積もる日も出てきて、冬本番と言ってもいいくらい。

「また抜け毛」

「そうだな、冬毛になる時期なら仕方ない、掃除すれば済む話だ」

素足で歩きたくないほどに床が冷えたある夜。
就寝のためにベッドへ入ろうとしていたのだが、サジが抜け毛を気にしてベッドに入ろうとしないのだ。
ゴルダはそれを仕方ないと寛容な態度を取るが、それでもサジはベッドに入るのを渋る。

「参ったな」

「寝ないの?まだ寝ないなら明かりを消して居間に行ってくれない?」

エプロンを外し、2つのとんがりがある就寝用の帽子を被ったミリシェンスが、眠そうな顔をしながらそう言う。
最近は、ゴルダに対してのみ碎けたしゃべり方をするようになってるが、ゴルダは一切気にしていない。

「分かった、サジ。居間行くぞ、そんなに気になるなら少し梳いてやろう」

ゴルダはミリシェンスの言葉に頷き、サジを連れて居間へ。

「どの辺だ?」

有毛竜用のブラシをどこからか持ち出したゴルダは、サジにどのへんを梳いたらいいと聞く。

「んー、背中」

サジが背中と即答したので、ゴルダは背中に回ってブラシを当てて梳かしだす。
サジは平熱が40度くらいなので、素足で歩きたくないほどに冷えているとかなり暖かく感じる。
なお、梳かされている間サジは微動だにもしなかった。

「これはかなり抜けたな」

ゴルダが梳かし終えたころには、両手には収まらない量の毛が床に落ちていた。
サジは有毛種で長毛なので、抜け毛がこんな量になるのは無理もない。

「寝よ?寝よ?」

梳かしてもらった直後から、サジはそう言いながら舐めてきた。
ゴルダはこれに一切動じず、サジが満足したところでタオルで拭く。
その後また部屋へ行き、2人はベッドへ。

「おやすみ」

「おやすみ」

そして、その日はこのまま就寝できるはずだった。

床に就いてどれくらいの時間が経っただろうか。
半覚醒睡眠中のゴルダの耳に、やたらとうなされているサジの声が入る。
何事かと思ってサジの方へと向き直り、その身に触れた時。明らかにおかしい点に気付く。
それは体温が下がっているということだ。
火属性を持つ量の体温が下がる要因は様々だが、精神的な要因もないわけではない。

「これ以上下がると危ない」

火属性の竜の体温の生命維持に必要な最低ラインを下回りそうだったので、ゴルダは策を講じてこれ以上下がらないようにする。

「う…うーん…」

うなされながら震えているサジを見て、ゴルダはその精神に少し探りを入れる。
それから分かったのは

「悪夢か、しかも深みに入って簡単には抜け出せないタチの悪い奴だ」

サジが何らかの悪夢にうなされているということだった。
しかも運が悪いことに、深みに入ってしまっているタイプの悪夢なので、簡単には目は覚めないだろう。

「まずいな、このままだと無意識下でスイッチが入りかねない」

これ以上何もせずに経過観察だけをしていては大変なことになると、ゴルダはベッドから飛び起きて地下室の薬品庫へ。

「タチの悪い悪夢には聖竜の毛とその角の削り粉。風癒竜の羽毛に月属性の竜の血を少々と聖水…だったな」

悪夢に効く薬の材料を呟きながら、ゴルダはてきぱきと材料を揃えるとすぐに調合を開始。
そして出来上がった薬を持って自室へと戻る。

「少々手荒だが手段を選んでいる時間などない」

いまだにうなされいるどころか、牙ぎしりまでし始めていたサジを見て、ゴルダは出来た薬を片手にサジの側へ。
そして何をするかと思えば、指を噛み切られることも恐れず、サジの口をこじ開けて無理矢理その薬を飲ませた。

「うげがぐっ…おぇっ」

無理矢理薬を飲まされ、しばし痙攣しているかのように身を震わせていたサジだが、すぐに収まって

「んー…メロンメロン」

いつものようにすやすやと寝息を立て始めた。

「トラウマを持っているのは知ってるが、そろそろ向き合わせないといかん時期か?」

ぐっすりと寝ているサジを見ながら、ゴルダはそんなことを考え始めるのであった。

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小説(交流) |

はーたんは寝れないようです

その日ゴルダは、依頼で日帰りで日本まで行っていたので帰りが深夜になった。
本当ならさっさと帰ってくるつもりだったが、依頼主に夜の町に連れ出されて数件をはしご酒し、どうにか理由をつけて依頼主から逃げるようにこの世界に帰ってきたのが1時間ほど前。
そこから座標指定テレポートで帰ってくるつもりが、酒が入ってたせいで座標がずれて思わぬところへ飛ばされ、今しがたようやく自宅にたどり着いたのだ。
ハーキュリーとミリシェンスには、帰ってくるのは日をまたぐ可能性が高いと釘を刺しておいたが、いざ日をまたいで帰ってきたとなると、何を言われるか分かったものではない。

「遅いと言われる程度だろうが、めんどくさいな」

などと杞憂なことを呟きながら家の中へ入る。
家の中は静まり返っていて、かすかにエーヴィヒ手製の時計の秒針が動いている音だけ。

「ただいま」

ゴルダはいつもの口調でただいまと言って居間へ行く。
明かりは少し薄暗い程度には点いていたが、ソフアにハーキュリーが座っているためか、その周りが光っていた。

「まだ起きてたのか」

服を着替えながらゴルダがハーキュリーに話し掛けると、ハーキュリーはこちらを向いて

「お帰り。遅かったなー、ミリシェンスとマティルーネは先に寝ちゃったぞ?」

お帰りと言ってくれた。
その顔は眠気が微塵も感じられず、どうしたらそんな真似ができるのかが謎である。

「寝ないのか?」

一通り着替え終わり、台所で水を飲みながら聞いてきたゴルダに、ハーキュリーはきっぱりと

「全然眠くないぞ?」

と返す。
だが、ゴルダはこの一言から何かを見抜き、ハーキュリーの近くへ行くと

「本当は俺がいつ帰ってくるか分からんのが気になってたせいで、目が冴えっぱなしになってたんじゃないのか?」

自分がいつ帰ってくるかが分からないので、目が冴えっぱなしになってたのでは?と水を差し出す。
それにハーキュリーはバレたかと頭を掻きながら

「ま、まあな。でもゴルダが帰ってきたしもう寝れそうだよ?」

もう寝れそうだと、水を飲みながら言う。

「そうか、なら寝るぞ」

水を飲み終えたハーキュリーにゴルダは寝るぞと言い、自室のベッドへ。
ゴルダの部屋にはベッドが2つあるが、これはアルガントとウラヘムト、ゴルダとミリシェンスとハーキュリーとマティルーネで別けてあるからである。
なおレルヴィンは、ゴルダ達のベッドの側で寝ている。

「おやすみ」

「おやすみだぞ」

こうして、2人も就寝したのだった。

それからどれくらい経っただろうか。
ハーキュリーはずっと目が冴えたまま横になっていた。
ゴルダは既に半覚醒睡眠に入っていて、一応声を掛ければ起きてはくれる状態。

「なあゴルダ」

寝ているミリシェンスとマティルーネを起こさないよう、ゴルダの背をゆするハーキュリー。
ゴルダはすぐに何だと体を起こし、ハーキュリーを見る。

「寝れないぞ」

ハーキュリーにストレートに言われ、ゴルダは困ったなとだけ言ってその場で考え込む。

「寝つきが悪いか、なら軽めの睡眠導入剤ならあるが」

いかにもな返事にハーキュリーは

「それはないだろー!」

とゴルダをたしたしと叩く。
それがダメならば何があると、ゴルダが次に考えた案は、香でも焚こうというものだが、ミリシェンス達が寝ているので即座にその叩き潰す。

「なあゴルダを…抱いたらダメか?変な意味はないぞ?ゴルダがそういうのには医学的興味しかないのは知ってるからな」

これもダメなら次はなんだと、ゴルダが頭をフルに回転させてまた次の案を考えていると、ハーキュリーが抱いたらダメかと聞いてくる。
なお、ハーキュリーのいう抱くとは、自分の毛の中にゴルダを埋めるというもの。
これにゴルダが出した結論は

「それでお前が寝れるなら構わん」

それでハーキューリーが寝れるならと、いつもなら渋るのに今宵はすんなり了承。

「じゃ、こっち来てくれないか?」

こっちに来てくれとハーキュリーに言われ、ゴルダはマティルーネとミリシェンスを起こさぬようにハーキュリーの所へ。
そしてやって来たゴルダを、ハーキュリーは背後からもふっと抱きついてそのまま寝かせる。
一方ゴルダは微動だにもせず、ハーキュリーに埋もれていた。

「いつもの態度とは裏腹に、ゴルダも体はやっぱり暖かいんだな」

ゴルダの体温を感じる程度には密着して抱いていたハーキュリーの一言にも、ゴルダは何も言わなかった。
話は聞いているようだが、また半覚醒睡眠に入ってるようである。

「ゴルダー…居なくなったらやだぞー…」

こうしていつの間にかハーキュリーは眠りについたのだった。

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寝れぬ秋の夜長に

秋が終わりを見せ、冬が顔を覗かせ始めたある日の深夜。
外では虫とフクロウが鳴いている以外は、しんと静まりかえっているゴルダの家。
その家の居間で、いつものごとくテーブルに食べかけのつまみや飲みかけの酒を放置したまま、ゴルダはソファに寝転がっていた。
現在時刻は0時を少し過ぎたころ。半覚醒睡眠により聞き耳を立てたまま寝ているゴルダの耳に、部屋の扉が開く音が入る。
その音は、玄関のものではなくフウの部屋の扉のものだったが、関係なしに何だとゴルダは目を覚ましてフウの部屋の方を見る。
すると、寝間着にナイトキャップを被ったフウが完全に目を覚ました状態でレルヴィンと部屋から出てきて

「んー、おはよう?」

顔は覚めていても、頭は寝ぼけているのか、どうしたと言わんばかりに見ているゴルダにフウはおはようと言う。
それにゴルダは

「まだ深夜1時前だぞ、おはようには早すぎる」

おはようには早いとストレートに返す。
それにフウは、えーという顔をして

「でも、完全に目が覚めちゃったから寝れないよ」

目が覚めたので寝れないときっぱりとゴルダに言う。
それにゴルダは顎に手を当てて少し考えると、テーブルの上をひとまず片付ける。
その間、フウはレルヴィンの背の上でだらけたままゴルダを待っていた。
やがて、ゴルダが片付けを終えて戻ってくるとフウはレルヴィンの背からずり落ちて

「寝れないよー」

とどうにかしてとゴルダに訴える。
これにゴルダは、すぐに何かを思い付いて

「上に何か羽織れ、出るぞ」

フウに何か上着を羽織るように言う。
ゴルダに教えられ、フウの表面理解も大分改善はされていたが、こればかりはどう捉えても意は同じなので、フウは部屋に戻って最近買ってもらった上着を羽織る。
白に近い銀の幻獣布を使っている、それなりの値のするコートだ。

「よし、行くぞ」

ゴルダはそう言うと、フウとレルヴィンを連れ、行き先こそは言わなかったが座標指定テレポートでセイグリッドのシアの塔へと向かった。

「風が堪えるな」

「くしっ」

塔へ到着した瞬間、ゴルダ達を激しい温暖差と堪えるほどに冷たい風が出迎える。
なお、シアは何をしているのかというと、半分寝た状態で望遠鏡で月を見ていた。

「ねえ、もしかして…?」

久しぶりにシアを見たフウが、嫌な予感でも察したかのような顔をして見てきたので、ゴルダは

「あのもふもふならまたすぐに寝れるだろうが、違うか?」

と一言言うとフウの背中を軽く押す。
なお、シアはこちら側に既に気づいていたようで、フウに手招きする。

「また寝れなかったの?」

シアのその母性ある一言に、フウは軽く頷いてそっと近寄る。
なおゴルダはそれを遠目に見ながら、瞑想から浮遊状態に入ってその場から動かない。
レルヴィンはゴルダから少々距離を置いて寝息を立てている。

「仕方のない子」

その一方で、そっと近寄ったフウをシアもまた尻尾でそっと引き寄せる。
その引き寄せた先は、丁度腹の辺り。寝るにはもったいないくらいのポイントだ。

「わ…あっ…」

あっという間にシアの毛の中に埋もれたフウは、変な声を出しつつもその毛の触り心地と、匂いに骨抜き状態にされてしまう。
こうなると、自分からは出たいとは思えなくなるのだ。

「さあ、大丈夫よ。夜はまだまだ長いんだからおやすみなさい?」

シアがそう言ったのを半分も聞かず、フウは微睡みへと落ちて行ったのだった。

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初冬のシアとメリエル

うっすら雪の積もったシアの塔の上。
セイグリッドの初降雪はまだ少し先なのだが、塔の高さが雲に届くかそれ以上のため、リヴァルスの方から流れてきた雪雲がこうして雪を積もらせているのだ。

「天才メリエル様の登場…って居ないのね」

そこへ意気揚々とやって来たのは、他でもないメリエル。
最近はゴルダのところに入り浸りっぱなしだったので、たまにはとやって来たのだが、肝心のシア本人の姿はない。
これにメリエルは、一気にテンションが下がって

「何なのよもう!」

やけくそ気味に積もっていた雪を丸め、塔から地上へと投げ捨てた。

なおそのころ、シア本人はというと

「なんで仕事を中途半端にして異界に行くのかしらねえ」

異界へ会談に行ったアルカトラスがいつものように中途半端にやり残していった仕事を片付けている最中だった。

「ここに居ないなら、城の方しか考えられないわね」

シアが仕事を片付けているそのまた一方。
メリエルは城の方へとやって来てシアを探していた。
途中、サフィに会ったのでシアはどこかと聞いたところ

「さあ?どこかしら?」

と流されて教えてくれなかったので、自分で探している。

「シアが居るならここしかないわよね」

そしてやって来たのは、以前シアが仕事を肩代わりしてやっていた部屋の前。
メリエルは何のノックもせずに

「ここに居るんでしょ!?」


と大きさの割りにはすんなり開いた扉を開けて中へ。
すると部屋の中では、シアが同じ大きさの机の前に座り。めんどくさそうな顔をして積み上げられた書類にサインをしたり、国章の彫られた印を押したりしていた。
シアは、メリエルが入ってきたことにすぐ気づいたらしく、尻尾をパタパタさせて

「あら、来てるの分かってるから塔で待ってたらよかったのに。もう少しで終わるわ」

塔で待っていればよかったのにと、めんどくさそうな顔を改めていつもの顔に戻る。

「あんな寒いところ居たら凍えるわ、雪も積もってたし」

それにメリエルは、あんな寒いところには居られないと返して、近くにあった人間サイズの椅子に座る。
シアはそれに、あらそうと言いたげな顔をしてメリエルの頭を尻尾で撫でた。

「きゃっ…びっくりしたじゃないの」

不意打ちでシアに撫でられたメリエルは、両腕を右斜めに上げた体勢になりながらそう言う。
それを見たシアは悪びれる様子もなく、最後の書類に国章の印を捺印して

「行きましょうか?」

魔法で片付けた書類をまとめて行きましょと声をかける。
メリエルはそれに調子狂うわと、独り言を言いながらついて行った。

何だかんだで2人がやって来たのは、城の庭園。
もう北風も吹いて寒いにも関わらず、庭園の植物は秋と変わらず緑々としたまま。

「年がら年中緑々としてるけど、そういうものなの?」

疑問に思ったメリエルに聞かれて、シアはええとしか返さなかった。
その返事にメリエルはあんたらしいわねと言って、改めて庭園を見渡す。
やはり隅から隅まで緑々としていて、本当に冬なのかと疑いたくなるくらいだった。

「へくしっ」

「あら大変、全世界の期待の天才が風邪引いてしまうわ」

一瞬強く吹いた北風でくしゃみをしたメリエルを見て、シアは皮肉めいたことを言いながらもふっとメリエルを前足の辺りへ納める。

「きゃっ、いきなりはやめてって…でも暖かいわ」

どうやらメリエルにはシアの皮肉が聞こえてなかったらしく、不意打ちで抱きついたりするのはやめてと言うに留まった。

「中入りましょ」

また強い北風が吹いてきたので、シアはメリエルに中へ入ろうと言うが

「この状態じゃ動けないんだけど」

メリエルはシアの前足部分に埋もれてそれどころではなかった。

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冬の訪れを感じて

秋もとっくに峠を越え、リヴァルスでは今年初の冬入りを示す降雪が確認されたというニュースがあった10の月も終わりかけの大陸。
ゴルダの家の周辺も秋から冬へと移り変わり、冬でもお構い無しに緑々とした葉をつける木々以外は蕾を枝につけ、春を待っている。

「寒いわ」

「今日は最高気温20はいかんと言ってたぞ。しかも風向きは北でやや強い」

そんな北風が吹き、寒々しい庭でゴルダとミリシェンスは洗濯物を干している。
ミリシェンスが来てから若干洗濯物は増えたものの、その増加量は微々たるものだ。

「よし、これで洗濯は終わりだ」

最後のバスタオルを干し終え、軽く肩を回しながらゴルダはそう言う。
一方のミリシエンスも干し終わったようで、そそくさとカゴを持って家の中へ引っ込んでいた。

「寒いなら仕方ない」

それに気づいたゴルダはそう呟き、自分も家の中へ引っ込んだ。

家の中では暖炉には最低限の火力で火がついており、ソファの上にマティルーネとミリシェンスが漫画を読んでいて、その近くの床にはレルヴィンが伏せたまま寝ている。

「汚すなよ、それは昨日買ったばかりの新刊だ」

ゴルダに汚すなよと言われ、ミリシェンスはそんなことしませんよと返してまた読むのに戻る。

「氷燐は今日も居ないんだったな」

台所へ行き、冷蔵庫の中を見たゴルダが独り言で言ったように、ここ最近の氷燐は自由奔放にあっちこっちへ行っているので、肝心な時に居ないことが多い。
なお、ここ最近とはいえ寒さが増してきたころからなので、大分前といえば前である。

「ちょっくら買い物してくるから留守は頼んだぞ」

ミリシェンスに買い物に行くとだけ伝え、ゴルダは軽トラの鍵を持って家を出る。

「行ってら…あら、もう出ちゃったのね」

ミリシエンスが行ってらっしゃいと言おうとした時には、ゴルダは既に出掛けた後だった。

なおその頃、ゴルダは農道を窓を全開にして軽トラを走らせていた。
魔力エンジン独特の音と共に、北風を切る音、そして舗装されてない農道を走る音だけが辺りに響いている。

「これくらいならまだ涼しいくらいだな」

全開にした窓から入ってくる北風を感じながら、ゴルダの軽トラは市街地へと向かっていくのであった。

一方その頃、ミリシェンスはというと

「冬はやっぱりこれよね」

一人で熱々の紅茶を淹れて優雅にティータイムを楽しんでいる最中であった。
なお、マティルーネもレルヴィンも暖炉の暖かさのせいか、ぐっすりと寝ているので、ミリシエンスは起こさないようにしている。

「そういえばゴルダ様はなんでまた買い物に行ったんだろ?」

食料はまだそれなりに残ってるにも関わらず、何故買い物に?と疑問に思うミリシェンスだが、自分が今日は朝から寒い寒いと言っていたことから察して

「なるほど、ね」

一人納得しながらクスッと笑ったのであった。

そしてまたその頃のゴルダはというと、買い物を終えて買えるところ。

「よし、今夜は鍋だ」

鍋の材料を買い込み、軽トラを走らせて家路を急ぐゴルダ。

「何やら天気が悪くなってきたな」
市街地の舗装された道路から農道へと入った途端、雲行きが怪しくなってきたので、ゴルダは速度を上げる。
なぜならば、洗濯物が干してあるので雨でも降ったら大変だからだ。

「雪の可能性もあるとは言ってたが、少々読みを間違えたな」

などと言っている間に、家に着いていたのでゴルダはすぐに軽トラを車庫に入れて家に入り、庭へ行く。

「あら、お帰りなさい…って無視なの?」

帰ってきたゴルダにお帰りと言うも、無視されたミリシエンスは何なのよという顔で庭の方へ走って行ったゴルダを見る。

一方庭に走って行ったゴルダは、洗濯物を乾燥機に入れようと魔法を使ってまで取り込んでいた。

「嫌な日だ」

そう言いながら洗濯物を取り込んでいると、本当に雪が降ってきたのだ。

「ほう、冬がここにもやって来たか」

洗濯物を全て取り込み、うっすら地面に積もった雪を見ながら、ゴルダはそう呟いたのであった。

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メリエルと焼き芋

秋も峠を越え、冬の気配が感じられ始めたある日のこと。
家の畑ともう一つの牧場にある畑からサツマイモを収穫し、出荷して残ったものから種芋を分別した後のさらなる残りでゴルダは庭で焼き芋をしようとしていた。
市街地でこんなことをやろうものなら、警察や消防が来て大変なことになるのだが、ゴルダの住んでいるところはまったくの農村地帯。
火の扱いにさえ気を付けていれば何の問題もないのだ。

「焼くとはいっても、落ち葉寄せ集めてやるわけにはいかんから竈だな」

などと言いながら、つい最近羊竜肉を使ったピザを焼いて以来ほったらかしにしていた竈の中の燃えカスを掃除しながらゴルダはそう呟く。
燃えカスといっても、木炭の燃え尽きた後の灰や燃え残った木炭があるくらいで、それ以外は何も入っていない。
たまに、燃えカスを掃除しているとゴキブリなどの虫の死骸が炭化して出てくることもあるが、今回はそんなことはなかった。

「よーし、これでいいだろう」

竈の中から顔をひっこめ、煙草のようなものに火をつけて吸いながらゴルダはまた呟く。
なお、マティルーネは竈の上に座ってゴルダを見下ろしていた。

「マティルーネ、そこどきな。火付けるからな」

竈のそばにあった万年桜の木炭の入った箱を引き寄せ、中へその木炭を入れながらゴルダはマティルーネに竈から離れるよう促す。
するとマティルーネはえーと言いたげな顔をしてゴルダの頭の上に乗る。
一方、家の中では

「メリエル様のお出ましよー…ってまた変なの投げつけてこないでよ!」

「お邪魔しますくらい言ってください、ゴルダ様がいいとはいっても私が許しませんよ」

いつもの2人がまた何かを言い合っている。
どうやら、またミリシェンスがメリエルに手裏剣を投げつけたらしい。
メリエルは日頃からお邪魔しますなどとは言わないので、それが仇になったようだ。

「タイミングがいいんだか何だか」

「何よその引っかかる物の言い方は」

メリエルが庭にまっすぐやって来たので、ゴルダは煙草のようなものを消してメリエルの方を向く。
そのゴルダの引っかかる一言に、メリエルは何よと追及する。
メリエルの追及に対し、ゴルダはふっといつものように鼻で笑うと

「焼き芋だ、つい先日収穫したばっかりの奴でな」

焼き芋をするつもりだと返す。

「ふーん、それで私にもくれるの?」

メリエルはそれにふーんと一見興味がなさそうに答えた後に私にもくれるのかと聞く。
普通なら、なんだこの図々しい奴はと思われること間違いなしのメリエルの一言に対してゴルダは

「種芋に回しきれないくらいある、食えるだけ食ってけ」

食えるだけ食って行けと返してまた竈に木炭を入れ始める。

「落ち葉の中で焼くんじゃないの?焼き芋って」

そのゴルダの動きを見て、メリエルは落ち葉の中で焼くんじゃないかと疑問を投げつけた。
ゴルダはそれに対して焼ければいいと返し、木炭に火をつける。

「サラマンダーに火起こしさせたらすぐ焼けるんだけど呼ぶと余計なこと言われそうだから呼びたくないのよね」

メリエルはそう言いながらゴルダの頭の上に乗っていたマティルーネを呼ぶ。
するとマティルーネはスッとメリエルの頭の上に乗ると、なぜかその髪を食みだした。

「ちょっと、やめなさいよ」

マティルーネに髪を食われたメリエルはやめなさいと言ってやめさせようとしたが、その際に手を噛まれそうになった。
メリエルは過去にマティルーネに指を噛まれたことがあり、マティルーネを頭に乗せる際は噛まれないように注意はしているのだが、それでもよく噛まれる。
だが、本気で噛まれたのは最初の一度きりでそれ以降は噛んできても傷ができないくらいの強さでしか噛んでこない、
それでもまた本気で噛まれるのではないかと、メリエルは心配しているのだが。

「これは…火が強いか?」

その頃、ゴルダはようやく竈に芋を入れて焼き始めていた。
どういう感じで焼こうとは決めていないので、強火で一気に焼いてしまおうとしていたのだが、逆に火力が強すぎて皮が焦げていたのだ。
なので、ゴルダはこれ以上風を送ったりして火力を上げることはせずに、燃えている木炭を抜いたりして火力の調整をしている。
それでも、竈の中からは芋の焼けるいい匂いがして食欲をそそっているが。

「まだ焼けないの?」

「中途半端に焼けたやつが食いたいならいまだしても構わんぞ?」

どこからか取り出した竹串で引き寄せた芋を刺して焼け具合を見ているゴルダに、メリエルはまだ焼けないのかと聞く。
それにゴルダは、中途半端にしか焼けてない芋を目の前に差し出し、これでいいならやるぞと言う。
メリエルは中途半端にしか焼けていない芋を見て

「そんな中途半端に焼けた芋、食べれるわけないでしょ。ちゃんと焼いたのちょうだい」

「そらそうだな」

ちゃんと焼けたのをちょうだいと言ってその芋を受け取るのを拒否する。
ゴルダはそのメリエルの反応を見て、それはそうだろうとまた竈の中へ芋を戻す。

「あんたは焼き芋食べる?」

いつの間にか自分の頭の上から降りていたマティルーネにメリエルはそう聞く。
だがマティルーネはうんともすんとも言わない表情をしてメリエルを見るだけであった。
それにメリエルは変なのと言って、ずっと家とバルコニーの出入り口の窓のそばに座っていたレルヴィンを触る。
レルヴィンとはそこまで仲がいいかどうかは不明だが、少なくとも煙たがられてはいない。

「わっ…っと、びっくりするじゃないのよ」

メリエルに触られて今の今まで座っていたレルヴィンが起き上がったため、メリエルはびっくりしてその場で尻餅をつく。
だが、レルヴィンはそれ以上何かをするわけでもなく、ただメリエルをじっと見ていた。
そんなレルヴィンを見て、メリエルは

「起こすの手伝うとか…やっぱりいいわ」

起こすのを手伝ったらどうなのと言いかけたが、レルヴィンがそれをしたらどうなるか分からないのでメリエルは言うのをやめる。

「おう、レルヴィンに変なことされてないか?それより芋が焼けたぞ」

そこへ焼きたてで相当熱いはずの芋を難なく手に持ちながら、ゴルダが芋が焼けたと言ってきた。
メリエルはそれを見て熱くないのかとも思ったが、そこはゴルダなら仕方ないと割り切って紙に包まれた焼き芋を受け取る。

「あら、やけに蜜が垂れてくるのねこの芋」

受け取る前から包んでいた紙に芋の蜜がにじんでいる状態だったので、メリエルが芋を紙に包んだまま割ってみると、湯気と共に程よい芋らしい黄色の中身にとろっと蜜が垂れてきた。
そして、口に運ぶと焼きたての暖かさが芋の甘みを増幅させ、口に運ぶ前から強烈に伝わってきた甘さがより強く伝わってくるのだ。
なお、ゴルダが焼いているこのサツマイモは、品種は不明だが比較的糖度が高いもののようだ。

「あー甘い、焼き芋はこうじゃなきゃね」

ほくほくと焼き芋を楽しんでいるメリエルであったが、芋が焼けたというゴルダの声を聞いてやって来たミリシェンスに

「食欲の秋の反動って、意外と大きいのよ?」

と言われて

「余計なお世話よ!」

メリエルはいつもの調子で余計なお世話だと返すのであった。

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秋の万年桜で

セイグリッドの観光名所でもある万年桜は、夏が終わり、秋になっても緑々とした葉をつけている。
冬になるとその葉の数は圧倒的に少なくなり、残る葉も雪に埋もれてしまうことが多く、その葉を見ることはほとんどない。
そんな万年桜の根元あたりで、ゴルダとセレノアにエシュフィルトとシアがそろってい歩いていた。
どうやら偶然にも偶然が重なったようで、エシュフィルトは今日は講義がなく、セレノアは久々に休暇を言い渡され、ゴルダは1日依頼が入っていないという珍しい日であった。

「こうも偶然にも偶然が重なるとなると、幸運の神が何かしらやらかしたんじゃないかしらね。いろんな意味で」

落ち葉を踏んだ時に出る乾いた音を出しながら、ゴルダのすぐ後ろを歩いていたセレノアがそんなことを呟く。
いくら秋になっても万年桜が葉をつけて緑々とはしていても、落ち葉となって地面へ落ちる間隔が早く、この時期の万年桜の根元付近は、子供なら太ももまで完全に埋まってしまうくらいには落ち葉が積もっている。
そのため、根元の近くへ行くときは落ち葉の積もっている量に注意するような看板が立てられているが、それでも派手に落ち葉の中へ埋もれる者は少なくはない。

「幸運の神もそこまで器用じゃないだろ」

「夢がないのね」

セレノアの一言に神もそこまで器用ではないだろと返したゴルダに、シアがそんな一言を漏らす。
それにエシュフィルトは相変わらずねと言わんばかりに、シアの背の上でふふっと笑っている。

「しかし、わずかながらエーテルの反応があるということは落ち葉の魔力が循環しきれてないということだろうな」

エシュフィルトやセレノアにシアは何ともないようだが、ゴルダはわずかにエーテルの反応を感知する。
その証拠に、落ち葉を踏むたびにエーテル特有の輝く煙が出るのをゴルダは見ていた。

「大丈夫よ、ここのエーテルはほかの場所と違って1か月もあればマナに循環すされるから」

シアはそう言って、手近な落ち葉を掴み取ってふっと息を吹きかけて吹き飛ばす。
その際にもエーテルの煙が出ていたが、やはりシアは気にしてない様子。

それからどれくらい歩いたのかは分からないが、一行はいつの間にか万年桜の上へとやって来ていた。
秋になっても緑々としたその葉の絨毯の上でゴルダは腕枕で横になり、セレノアはエシュフィルトの髪を梳かしたりし、シアはゴルダの真横に座っている。

「結ぶ?」

「うーん、ストレートがいいかな」

どういうわけだか、セレノアは櫛ではなく自分の羽でエシュフィルトの髪を梳かしているが、一応これは魔法を使ってやっているのでちゃんと梳かせるのだ。
羽を持つ者の中には、櫛より自分の羽で髪を梳かすのが好きなものも居るらしい。

「ずっとそのまま寝てるつもり?」

「昨日依頼で明け方まではしご酒させられてほとんど寝てない、寝かせろ」

そんなセレノアとエシュフィルトを横目に、シアは真横で寝ているゴルダにずっと寝ているのかと聞く。
ゴルダはそれに対し、明け方まで依頼主にはしご酒に付き合わされていたので寝てないから寝かせろとぶっきらぼうに言って、寝ながら足を組む。
こんなことをして大丈夫なのかと思われがちだが、万年桜の枝は細くても鉄棒かそれ以上の強度を持ち、めったに折れない。
しかも、葉が生い茂っているこの万年桜の上の部分の枝はもっとも太く、シアぐらいの大きさの竜が跳ねても葉が散るくらいで折れない。
そのため、昔は万年桜の上に大人数で上って一斉に跳ねるということをしていた者たちがよく出没し、ある時尋常ではない量の葉が飛び散って大変なことになったので、それ以降特例を除いて万年桜の上に上ることは禁じられている。

「こうしてせっかく揃ってるのに何もしないのはどうかしらねえ」

ここで、エシュフィルトの髪を梳かし終えたセレノアが、ゴルダの足を小突きながらそんなことを言う。
だがゴルダはこれといった反応を見せず、わずかに足を動かして葉を揺らしただけである。
これにセレノアは、やれやれねと言ったかと思えば自分の羽でゴルダの顔を撫でだす。

「ほらほら、起きないともっとやるわよ?」

少々意地悪そうに言いながら撫でているセレノアに対し、ゴルダは寝たまま無視を決め込む。
なお、エシュフィルトは今度は自分の羽を出して手入れをしている。
最近になってセレノアと同じ風癒竜の血を引いていることが分かり、こうして自在に羽の出し入れが可能になったのだ。

「いい羽ね」

「そうでしょ?出し入れ可能なところがもっといいの」

シアとエシュフィルト、両者の羽と翼が揺れるたびに下の葉も大きく揺れる。
2人ともそこまで強くは動かしてはいないのだが、なぜだが大きく揺れるのだ。

「べくしっ」

そして、セレノアに羽で顔を撫でられていたゴルダは運悪くその羽が鼻に入ったらしく、普通の人間ではありえない規模のくしゃみをする。
その結果、ゴルダの周りだけ葉が飛び散って枝が若干見えるようになった。
枝の隙間からは地上が見え隠れしてはいるものの、落下するような隙間はない。
だがそれでも、その絶景を高所恐怖症持ちの者が見れば卒倒しかねないだろう。

「ほら起きて起きて」

くしゃみをしても体を起こそうとしないゴルダを無理やり起こしつつ、セレノアはそのままゴルダにもふっと抱きつく。
シアほどではないにしろ、セレノアの羽毛の柔らかさはそれなりのものである。
なお、セレノアの体毛はシアのと比べて癒されるような匂いを放つことが多いという。

「お前たちには勝てんよ」

ゴルダはその一言を言ったきり、以降何も話さずにセレノアに抱かれていたという。

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