氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

一次創作小説一覧 その6

・夜桜の下で
1

・初夏の雪原で
1

・幻獣の里の話
1.幻獣の里へ行くようです
2.幻獣の里の村で過ごすようです

・精神世界の話
1.ゴルダと精神世界
2.廃都市にて
3.大河にて、コート姿の男と
4.失われし記憶の真相の断片と湖畔の屋敷と
5.失われた記憶を取り戻した後に残るもの

・もう一人の己と
1

・契約した従者はカーバンクル
1

・過去を紐解くようです
1

・ゴルダと平行世界の本
1

・家主居ぬ間に
1

・秋の万年桜で
1

・冬の訪れを感じて
1

・晩秋の栗拾い
1

・依頼がない日でも休みはなし
1

・寿司を食むようです
1

・雪の日の往診
1

・ほぼ2人の時間-ミリシェンスとゴルダ
1

・緑々とした冬
1

・サフィの冬の休暇
1

・シャールイズの頼み事
1

・吸血竜の魔の手
1

・竜医師より、真心をこめて
1

・アルカトラスの名を継ぎし者たち
1

・溶けた花は、涙のように
1

・竜が舞い降りた世界
1

・シャールイズの頼み事-血を手に入れよ
1

・空駆ける双翼は、どこへ向かう
1

・冬の漁港で
1

・一人では解消できないストレスの解消法
1

・ルピルの自宅訪問
1

・ゴルダとサフィと名も知らぬ竜たち
1

・実家へ引っ越すかどうかの決断
1

・人となりて何を知る
1

・後を追えぬものが思うこと
1

・妹とも強制契約
1

・ある長雨の日に
1

・フィルスと水の属性の目覚め
1

一次創作小説一覧 その6…の続きを読む
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メリエルとエゼラルドとフィルスとイファルシア

よく晴れたある真夏日のセイグリッド。
数分外に立っているだけで熱中症になりそうな暑さにもかかわらず、城の庭園の噴水前でメリエルが

「なんでこんなに暑いのよ」

「主様、夏ですから」

なんでこんなに暑いのかと言ったのに対し、ウンディーネが噴水の中から夏ですからと返す。
暑いなら城の中へ入ればいいのにと思う者も居るだろうが、天才の考えることはよくわからないものである。
するとそこへ

「本当にお前はよく分からん奴だな、こんな炎天下の中で何やってんだ?」

巨大な里芋の葉を日傘代わりにして、ゴルダがマティルーネとレルヴィンを引き連れてやって来た。
それに対してメリエルはどうしようが私の勝手でしょと言おうとしたのだが、口から真っ先に出てきたのは

「ねえ、その日傘代わりにしてる葉っぱどっから持ってきたの?暑いから私も欲しいんだけど」

その里芋の葉はどこから持ってきたのかという問いである。
それにゴルダは教えたところでどうする?と言いたたげな顔をして

「俺が出したわけじゃない、草属性の魔法はペーペーだからな。エゼラルドからもらった」

エゼラルドからもらったと、メリエルが知らない誰かの名を出す。
するとメリエルは

「じゃあ私もそいつからもらうわ、どこに居るの?」

自分ももらうと、ゴルダに近寄ってきた。
その背後で、ウンディーネが私はどうするのですかと言っているがメリエルは聞く耳を貸さない。
ゴルダはこれに困ったと思いつつも、メリエルに

「ウンディーネは一旦帰しておけ、自分の使い魔をほったらかすつもりか?帰したらついて来い」

ウンディーネを帰してからついて来いと伝えて日陰の方へ入ってしまう。
メリエルは言われたとおりにウンディーネを帰してからゴルダの後を追った。

「ここだ」

「ここも暑いけど外よりはマシね」

ゴルダがメリエルを連れてきたのは、城の中にある温室を兼ね備えたちょっとした植物園のような場所。
なお、ここはちょこちょこシアがやって来ては植物をいじったりサフィが薬草などを育てていたりと結構フリーダムな場所。
入ってすぐの場所はカフェテラスのような場所になっていて、そこにメリエルが見たこともない緑毛の竜と同じ緑毛と青毛の額に石を持つ生物が居た。
メリエルはそれがすぐにカーバンクルであると理解したのだが、緑毛のカーバンクルはメリエルをあまり良くは思っていない目つきで見ていた。

「なんであんなに目つき悪いの?」

「気にするな、信用されればそうでもなくなる」

なんで目つき悪いのとゴルダに聞いても、気にするなと返されるだけでメリエルは何よと言う。

「紹介しよう、この緑毛の竜がエゼラルド、この2匹のカーバンクルはフィルスとイファルシアだ」

3匹をゴルダから紹介され、メリエルはふーんとエゼラルドたちを眺める。
エゼラルドはメリエルによろしく、といった目線を投げかけているのに対し、イファルシアは相変わらずメリエルをどこか訝しむような目で見ていた。
なお、フィルスはメリエルをじっと見て何かを観察している様子。

「触っても?」

「構わんぞ、一応はな」

3匹とも毛持ちなので、思わず触りたくなったメリエルはゴルダに触ってもいいかと聞くが、ゴルダは一応はなと意味深な返事を返してきた。
この意味深な返事の意を、メリエルは理解できなかったがとりあえず触ってみることに。

「んー…シア以上か同等に柔からかい毛ね」

「毎日手入れしてもらってるからね」

手始めにエゼラルドを触った感想は、毛の質感はシア以上か同等。
しかもどこか落ち着く香りが毛を触るたびに香ってきたので、メリエルはこれはいいわと思った。
そして今度はイファルシアを触ろうとしたのだが、メリエルが触ろうとした瞬間、イファルシアは蔦でメリエルの手を叩いてきたのだ。

「いたい!なんで叩くのよ!」

「触らないで」

「ちょっとくらい触ってもいいじゃないのよ」

「だめ、信用できないし友達じゃないから」

「むー…」

ちょっとぐらい触ってもいいじゃないのとイファルシアに遠回しに触らせてよと頼むが、あっさりだめと断られたメリエルは悔しそうな顔をする。
するとそこへ、マティルーネがメリエルとイファルシアの間に入ってきた。
マティルーネはイファルシアに何かを言っているようだが、何を言っているのかはメリエルにも分からない。

「なんて言ってるの?」

「君が信用するに値するし、変なことはしないから触らせてやりなよと言ってるよ」

そこでメリエルは、フィルスにマティルーネがなんと言っているかを聞いたところ、どうやらメリエルは信用できるし変なことはしないので触らせてやりなと頼んでいると言っているというと言われた。

「もう、仕方ないわね…でも変なことしたら承知しないわよ?」

マティルーネに説得され、イファルシアはメリエルに触ってもいいと許可を出す。
無論、変なことをしないという条件付きでだ。

「あんた毛短いのね。もっともふもふしてるかと思ってたわ」

「悪い?」

「誰も悪いとは言ってないでしょ」

イファルシアを触ったところ、エゼラルドよりも毛が短いことに気づくメリエル。
だが毛が短い割には触り心地はしっとりしていて、毛の短さという短所を補っているようにも思える。
ちなみに、イファルシアを触っていると柑橘系の匂いが時折漂ってきた。

「抱いてもいい?」

「いいよ、でも額の石は触らないでね」

最後にフィルスを触ろうとしたメリエルは、ただ触るだけでは物足りなくなったので、フィルスに抱いてもいいかどうかを聞く。
するとフィルスはあっさりいいよと了承してくれた。
フィルスは見た感じは大型の兎と同じくらいの大きさだったが

「わっ、軽いのね。ぬいぐるみみたい」

「フィルスの体重はその通りぬいぐるみ程度しかない、だがそれでも健康体なんだぞ?医者の俺が言ってるんだから間違いはない」

意外と力を入れずに抱けたので、メリエルはその軽さからぬいぐるみみたいと言う。
それにゴルダがそれでも健康体だと付け加える。

「んーっ、かわいいっ」

「あわわ」

メリエルに思いっきり抱きしめられた挙句頬ずりまでされて、フィルスは少々あたふたしている。
それでもメリエルは、額の石を触らないようにフィルスを抱きしめて頬ずりしていた。

「根っからのかわいいもの好きなのねメリエルって」

「もふもふしたのには目がないからな」

本来の目的を忘れてひたすらフィルスを抱きしめているメリエルを見て、イファルシアはそんな一言を漏らす。
それにゴルダは、もふもふしたのには目がないからなと言いつつエゼラルドがいつの間にか出した雪メロンを切り分けている。

「メリエル、その辺にしとけ。エゼラルドが雪メロン出してくれたからそれを食おうじゃないか」

やがてメロンを全て切り分け、ゴルダはメリエルにその辺にしておけと言って呼ぶ。
なお、雪メロンとはリヴァルスの寒い気候でしか育たないおかしなメロンで、収穫してからしばらくの間は自身から氷点下レベルの冷気を放出しているので、食べるときは少々暖めないといけない。

「冷たっ」

「雪メロンだから当たり前だろ」

一気にかぶりついたメリエルだが、あまりの冷たさに一瞬口を離す。
一方エゼラルドとイファルシアは既に食べ終え、口から種を連続で吐き出している。

「でも甘ったるいギリギリの甘さで美味しいわ」

「だろう?」

雪メロンを食べ終えた後、メリエルはまたフィルスを抱いてエゼラルドにもたれかかってしばらくウトウトしていたらしい。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(交流) |

失われた記憶を取り戻した後に残るもの

誰かを殺す夢、そして何かしらの検査をされる夢、その他いろいろ。
ナーヴェシルとの遭遇以降、ゴルダが完全睡眠状態で見る夢はそれらに固定されてしまっていた。
どうやら、ナーヴェシルが精神世界からゴルダの脳のチップに干渉し、完全睡眠状態の時だけランダムに記憶の断片を復活させているようだ。
その影響か、ゴルダは完全睡眠状態になるとまともな睡眠が取れずに寝不足になることがしばしばあった。

「あの野郎、早いとことっ捕まえて始末したいが奴の居るところへ行けるとは限らんからな」

寝不足の体に鞭を打ち、今日も依頼を終えて帰ってきたゴルダは居間のソファに深く腰掛けながら呟く。
マティルーネはゴルダが疲れているのを察してか、頭の上ではなく膝の上に座っている。
時計は午後7時前を指しているが、寝不足で今日も依頼で遠くまで行って疲れているゴルダは食事を作る気が無いらしい。

「ん?どうしたレルヴィン、飯か?」

疲れでうとうとしていると、レルヴィンが脚を甘噛みしてきたのでゴルダは重い腰を上げて台所に立つも、まともに作ったのはレルヴィンの飯くらいだ。
他は冷凍庫から冷凍食品をレンジで温めたものだけで済ませた。

「やる気もクソもねえ」

冷凍食品を温めただけの夕食を済ませ、風呂にも入らずソファで黄昏るゴルダ。
するとそれを見かねてか、マティルーネがさっさと精神世界へ行こうと言わんばかりに小突いてきたのでゴルダは今自分がやらなければならないことを思い出す。

「乗り気じゃないがやる他無いな」

そう言って、精神世界へと向かった。
1日も早くナーヴェシルを討ち取るために。

「到着」

今日は外見では全く何なのか分からない建物の前へと降り立ったようだ。
辺りは鬱蒼と茂った木々に囲まれ、空は昼だというのに否が応でも不気味さを醸し出している。
早速マティルーネが何かを感じ取ったらしく、耳を激しく動かし始めた。
それに気づいたゴルダは、腰の剣をいつでも抜けるように構える。

「まさかここを嗅ぎつけられるとは、な…計算外だったよ」

そして現れたのは、他でもないナーヴェシルだ。
だが、今日はいつものコート姿とは違ってスーツを着こなした姿をしている。

「なるほど、ここで俺の脳内のチップをいじっていたわけか」

建物の方を見据えながら、ゴルダはナーヴェシルに確認するかのように言う。
ナーヴェシルはそれにいかにもと返した後

「だからこそここに来てほしくはなかったが、私を押しのけたところで中には入れまい」

自分を押しのけたところで建物の中には入れまいと、余計なことを自分から話す。
それを聞いたゴルダは、なるほどなと呟くと剣を引き抜き

「どのみちお前を始末して鍵を手に入れない限りは、俺の脳のチップをどうにかできないということか」

ナーヴェシルにここで決着を付けると言わんばかりに切っ先を向ける。
それにナーヴェシルは首を横に振り

「そうかそうか…ならば私もそれを阻止しなければならんな」

おそらくイメージして出したであろう大剣を構えた。
そして次の瞬間、なぜかマティルーネがメスを出して口に銜えていたかと思えば、吐き出すような感じでナーヴェシルへ投げつける。
ナーヴェシルはそれを大剣の一振りで払い除け、服装をスーツ姿から鎧を着込んだ戦士の姿へと変えてゴルダに切りかかる。
だがその一撃はあまりにも隙が大きかったらしく、ゴルダがマティルーネを頭の上から引っ込めてしゃがんで回避するだけの余裕を与えてしまう。

「やるな」

「お前にその武器は似合わん、エルフにこん棒だ」

ゴルダの挑発にも乗らず、ナーヴェシルは武器を槍に変えて突きを繰り出す。
しかしその突きは威力が足りなかったらしく、ゴルダのいつも装備している鎧に弾かれる。
だがナーヴェシルは、そこから蹴りを食らわせてきた。

「ぐぬ…」

吹っ飛びこそはしなかったが、多少バランスを崩したゴルダはすぐに体制を立て直し、ショルダーバッグを出してそれにマティルーネを入れて再度剣を構え直し、ナーヴェシルに切りかかる。
その一撃は、兜割りとなってナーヴェシルの頭装備を直撃。
そのまま頭をかち割るまではいかなかったが、頭装備を壊すことには成功した。

「少し油断したようだ」

ガチャンと金属音を立て、真っ二つに割れて落ちたナーヴェシルの頭装備は砂のようにさらさらと風に乗って消える。
精神世界での死とは、どうやらこういうものらしい。

「注意力がお留守だぞ」

マティルーネがバッグから落ちないように動きに注意しつつ、投擲されたゴルダの手裏剣はナーヴェシルの鎧を切り裂き、軽い傷を負わせた。
ナーヴェシルは負わされた傷を見てかすかにニヤリと笑うと

「ではこれはどうだ?」

今度は武器を何も構えず、ゴルダの頭の方へ手のひらをかざすようにして向ける。
するとどうだろうか、今まで何ともなかったゴルダが剣を地面に突き刺してうなだれたのだ。
一体どうしたというのか?

「チップをいじってきやがったか、この野郎」

「いかにも、少し嫌な記憶を呼び出させてもらったよ」

すぐにうなだれ状態から復帰して立ち上がったゴルダは、ナーヴェシルが頭のチップをいじってきたことを確信する。
だがしかし、これがナーヴェシルの大きな誤算となったのだった。

「つまり、お前は私の手…」

勝利宣言とも言える小物じみたセリフを言いかけた瞬間、ナーヴェシルの体と頭に大穴が空いた。
しかしその断面にはグロテスクなものは何も見えず、先ほどの頭装備のようにさらさらと砂のようにそこから崩れていっている。

「お前は俺の怒りの感情をいじってしまった、敗因はただそれだけだ」

「私もここまでか…サヨナラ!」

そう、ナーヴェシルに穴を開けた張本人こそがゴルダである。
その手には通称ハンドキャノンと呼ばれている超大型のリボルバーが握られていた。
ナーヴェシルがサヨナラと言った瞬間、その体は砂のような細かい粒となって四散。
そしてあっという間に風に吹かれてナーヴェシルは死を迎えたのだった。

「あっけない終わり方だったな」

ナーヴェシルが立っていた場所に落ちていたカードを拾い、建物へと向かうゴルダ。
やはり建物の入り口にはカードリーダーがあり、これが無いとはいれないようである。

「今こそ終わらせる時だ」

カードリーダーにカードを通し、中へ入るゴルダ。
建物の中は、所狭しとサーバーなどの機器が置かれており、その中にはスパコンと思わしきものもある。

「少し中を調べてみるか」

もう安全なので、マティルーネをバッグから出して頭に乗せたゴルダは中を調べて回る。
だが、あるのはサーバーとその機器ばかりで特に調べられそうなものは見当たらなかった。
そして最後にゴルダがやって来たのは、中央制御室と表示があった部屋。
そこもカードがないと入れない部屋だったので、ゴルダはカードを通して中へ入ると、真っ先に目についた制御用のパソコンの席の椅子に座った。

「カードを読み込ませ、制御プログラムを呼び出し…」

慣れた手つきでキーボードからコマンドなどを打ち込んでいき、最後に

「この操作を実行すると、この施設は機密保持のため爆破されます。本当によろしいですか?よろしければリーダーにカードを読み込ませてください」

と画面に出たところでゴルダは手を止める。
これを実行すれば、失われた記憶を取り戻すことができるが、もう喜怒哀楽の怒以外の感情が戻ることはなくなる。
かといって、そのままにすればもう二度と失われた記憶は戻ってこないかもしれない。
だがしかし、ゴルダの答えはあらかじめ決まっていた。
カードをリーダーに読み込ませ、キーボードのエンターを叩く。

「…これでいい」

ゴルダは最後にそう呟き、急ぎ足で建物を後にした。
建物はゴルダが数キロ離れたところで盛大に爆発。
その瞬間、ゴルダの頭に処理しきれなほどの情報が入ってきたかと思えばゴルダはその場で一瞬頭を片手で抑えたかと思えばそのまま倒れてしまったのであった。

「…っと、ここは?」

「ようやく気づいたか、丸2日は寝たままだったぞ」

ゴルダが目を覚ますと、そこは病室のベッドの中。
隣にはようやく起きたかという目のルライエッタがカルテを片手に立っていた。

「なぜここに居るか、それはメーヴィエルの奴がお前を精神世界から拾ってきてお前の携帯から俺に連絡してくれたからだ」

メーヴィエルがどうにかしてくれたというのを聞いたゴルダは、そうかと言って椅子の上に座っていたマティルーネを呼ぶ。
だがマティルーネは椅子の上から動こうとはせず、まだ安静にしてろと目線で訴えてくる。

「ちなみに、お前の頭のチップは取れたぞ。早速解析に回している」

ルライエッタはゴルダにカルテを見せながらそう話す。

「んで、感情の件はどうなった?」

カルテにそれに関する記載がないことに気づき、ルライエッタにどうなったと聞くゴルダ。
それにルライエッタはこうとだけ答える。

「変化なし」

「それは良かった」

こうしてゴルダは、一応失われし記憶を全て取り戻すことに成功した。

失われたものを取り戻せるとした時、それに見合う以上代償を払わねばならないと分かった時、あなたはどうするだろうか?
両天秤にかけて潔く諦めるか、それともその代償を度外視してでも失われたものを取り戻すか。
何かを得るために同様の何かを犠牲にしなければならないのが等価交換の原則だが、世の中等価交換ばかりではないことをここで述べておく。
それでも見合う以上の代償を払ってでも失ったものを取り戻すかどうかは、あなた次第である。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

失われし記憶の真相の断片と湖畔の屋敷と

外で激しく雷鳴が鳴り響く中、ゴルダは廃工場の一角で自動小銃を片手に持ち、しゃがみ込んでいた。
そして一発、近くで雷が落ちたのか、ものすごい雷鳴とともにゴルダの今居る場所に稲光が差し込む。
するとそこには、死屍累々の有様が広がっていた。
一目でそれなりのものと分かる装備の死体がほぼ一発で急所を撃ち抜かれて転がっている中で、ゴルダは無線機のスイッチを入れると

「こちらNo.4、ターゲットを全て排除した」

淡々とどこかへ何かを達成した報告をする。
すると、無線機の向こうから

「よくやったNo.4、死体は掃除部門に片付けさせる。戻ってこい」

戻ってこいという命令が告げられた。
ゴルダはそれに対して

「了解、直ちに戻る」

と返して無線を切る。
ここでゴルダの視界は暗転した。

「…何だ今のは」

次の瞬間、ゴルダが目を覚ますとそこはいつもの自宅の居間だった。
テーブルの上には煙草のようなものの吸い殻が入った灰皿に、氷が溶け切って水が入っている氷入れと飲みかけで放置されてすっかり薄まってしまったウォッカがグラスに入ったまま。
それ以外にはテレビのリモコンや携帯、つまみ代わりの野菜チップスがほったらかされている。
今のは何だったんだと、ゴルダは左手で頭の左側を抑えながら辺りを見回す。
横ではマティルーネが寝息を立てて寝ていて、テレビの画面には寝落ちする前に見ていたと思わしきDVDのメインメニューが表示されていた。

「また完全睡眠状態になっていたか」

ゴルダは普通、何か合った時にすぐ動けるように半覚醒睡眠という半分寝て半分起きるという睡眠の仕方をしているのだが、どうにもそれがメーヴィエルに精神世界への行き方を教えてもらって以来、時折できなくなっているのだ。
そして、その時は決まって先ほどのような夢を見るのである。

「うぅむ」

テレビを消し、部屋の電気をつけたゴルダはテーブルの上のものを片付けるために台所へ。
ゴルダの部屋からキーボードやコントローラーのボタンをを叩く音がしないあたり、アルガントとウラヘムトはもう寝ているのだろう。
ここでふと時刻を見ると、時刻は午前2時過ぎを指していた。

「もう一眠りできそうだな」

夕食の時の食器が洗われずに積まれている流しにグラスなどを置き、水を流して洗い始めるゴルダ。
かすかに台所の窓の外から虫の鳴き声が聞こえる以外は、水を流したり食器を洗う音しか聞こえない。

「ルライエッタのところに行くべきか?」

ふとそんなことを呟いたゴルダは、持病である竜滅病の薬のストックがないことに気づく。
メーヴィエルがルライエッタに言われて精神世界への行き方を教えたと言っていたのを思い出し、それについても聞くかとゴルダはこの時決めたのだった。

そして翌日。
ルライエッタのところへ赴いたゴルダは、いつもの検査の最中にメーヴィエルに言われたことから今現在どうなっているかを全てルライエッタに話す。
するとルライエッタは自身の羽をかすかに揺らした後

「ならば、ナーヴェシルを殺せ。それでお前の頭の忌々しいチップも除去手術で取れる」

ナーヴェシルを殺せと断言。
どうやらナーヴェシルが精神世界に居る限り、チップは取れないらしい。

ここで、ゴルダの頭に埋め込まれているチップについて説明しておく。
ゴルダは大学を卒業してから10年ほど前までの記憶が一切ない。
ある日突然いなくなったと思いきや、本人も気づいたら病院のベッドの上だったという状態である。
その際にルライエッタがあれこれ検査を指示し、その際に発見されたのが竜滅病と脳の例のチップだ。
ルライエッタがこれを調べたところ、どうにもゴルダの記憶と感情を司る部分に何らかの影響を及ぼしていることが分かった。
そして、このチップそのものはこの世界の魔法を駆使した医療技術をもってすれば除去できないことはない。
だがしかし、このチップ。何らかの方法で無力化しないと、除去しようとした際に脳を焼いてしまう恐れがあることが分かったのである。
そのため、ルライエッタは今の今までこのチップを除去せずに放置してきたのだ。

「そのチップさえ除去できてしまえばいろいろ解明できる。だが無理はするな、精神世界はそいつのイメージ次第でほぼ何でもありの世界だ。ナーヴェシルもそれなりに抵抗するはずだ」

「そのくらい百も承知だ」

油断はするなというルライエッタに対し、頭の上で体を掻いているマティルーネをよそにゴルダは百も承知と返す。
それならいいんだがとルライエッタは呟き、しばしの沈黙の後何かを思い出したかのようにそうだと言う。
それに何だとゴルダが聞くと

「これはほぼ確実なんだが、チップを取ったらお前の感情は喜怒哀楽の怒を残して皆無になるだろう。それはなぜかというと、ナーヴェシルを殺すことで脳全部を焼かれるのは免れるが、感情を司る部分への多大なダメージはどうしても避けられんようだ」

ナーヴェシルを殺すことでチップを取り除こうとした時に脳全てが焼かれることは防げるのだが、感情を司る部分へのダメージは避けられないのだという。
ゴルダは復元手術でどうにかなるだろと鼻で笑いながら言うも、ルライエッタに

「残念だが俺の技術を持ってしても不可能だ、腕や脚だったらまだ望みはあったがな」

不可能だと即答されてしまった。
それにゴルダはそうだとは思っていたという顔をしていつものように薬を受け取り、ルライエッタのところを後にしたのであった。

「感情が皆無になるとな。元々俺には怒以外の感情は無いに等しかったが」

家へと帰って来たゴルダは、開口一番そんなことを言う。
事実、ゴルダは幼少期より弟や妹のバハムードやサマカンドラに比べて感情が気薄だった。
一度詳しく調べもしたらしいが、どこにも問題が見当たらなかったため、そのまま育ってきた。
実際のところ、初対面の者もゴルダのそれを自然と察して接してくるので人付き合いにも困って居ない。

そしてその日の夜。

「よし、今日も行くか」

一通り家事を済ませ、今日もゴルダは精神世界へと行くのであった。
1日でも速くナーヴェシルを討ち取り、空白の記憶を取り戻すために。

「今日はまた随分と落ち着いた場所だな」

マティルーネを引き連れ、降り立った場所はどこかの湖の畔。
しかも近くにはなぜだか屋敷がある。

「今度はまるで訳がわからん」

湖からは特に悪い予感を感じるわけでもなく、湖を囲んでいる森も穏やかな雰囲気を醸し出していた。
今の今までまともな精神世界へ来たことのなかったゴルダは、どういうことだと考えを張り巡らしながら畔を歩く。
すると、湖の中から何かが畔に上がってきた。
姿こそは見えないものの、水が滴り落ちる高さから相当な大きさであることが伺える。

「…この既視感は何だ?」

ふと感じる既視感に、ゴルダはまた別の考えを張り巡らす。
そして答えが出てくる前に、その見えない何かはゴルダの頭をべしべしと尻尾か何かで叩いてきた。

「お前まで精神世界に来れるとは思っても居なかったよ、エルフィー」

「ここくらいしか気の休まる場所がないもの」

ゴルダがエルフィーと呼んだそれは、スッとその姿を表す。
薄緑のつるっとした体つきにかなり長い尻尾。
他でもないエルフィサリドである。

「なるほど、まあお前も水竜の血が入ってることだし精神系魔法使えるだろうからここにいても別におかしくはない」

風を起こして体の水を払うエルフィサリドに、ゴルダはそう言う。
エルフィサリドは屋敷の方を眺めながら

「たまにアルガティアにこういう場所用意してもらってるのよ、お互いたまにはこういう場所が必要だからってことでね」

この場所はアルガティアに用意してもらっていることを話し、屋敷の方へ歩いていく。
それを聞いたゴルダはそうかそうかと頷き、後に次いで屋敷へ。

「お前も来てたのか」

「ここへ来るときはいつもセットだよ」

屋敷のテラスで本を読んでいたフィルスを見つけ、ゴルダは声をかける。
なお、エルフィサリドは屋敷の中へ入ってしまって姿は見えない。
フィルスいわく、ここへ来るときはいつもアルガティアにくっついて来るらしい。

「変な場所ばっか行ってると、こういった場所でも落ち着かんな」

手近なテーブルに座り、緑茶を出してすすりながら呟くゴルダ。
フィルスは相変わらず本を読んでばかりだが、一応ゴルダの話は聞いているらしく時折頷いている。
なお、マティルーネは相変わらずゴルダの頭の上でふんぞり返って人参を囓っていた。

「なあ、お前は真実を知ることに対して何か感じることはないか?」

ゴルダに唐突に真実知ることに何か感じないかと聞かれ、フィルスは本を読む手を止めて

「恐怖なんかを感じたこととかはないね、真実を知るイコール悪いとは考えたことがないし」

恐怖などを感じたことはないと返す。
フィルスの返事にゴルダはそうかとだけ言い、また緑茶をすする。
時折吹いてくる湖からの風が、ゴルダとフィルスとマティルーネのそれぞれの毛を冷たく撫でる中、いつもと違う服装のアルガティアがひょっこりやって来た。
具体的にどんな服装かというと、いつもの王族正装のローブではなく、髪を下ろしたワンピース姿だ。

「隣いい?」

「俺が断ったことがあったか?」

隣に座ってもいいかとアルガティアに聞かれ、ゴルダは断ったことがあったか?と遠回しに構わんと返す。
アルガティアはそれもそうよねと言わんばかりにゴルダの隣に座ると

「何か迷いが?迷える子羊の暗示が出ているけど」

何か迷いがあるのかと聞く。
これに対してゴルダは

「多少あるかもしらんが俺にはそれが何なのか分からん」

あるかもしれないが自分にはそれは分からないと即答。
アルガティアはそれにうふふとかすかに笑うと

「やっと見つけた獲物を、追い詰めて追い詰めてようやく後一歩で仕留められるところまで来て、自分はこの獲物をこのまま仕留めるべきか、それとも見逃すかで葛藤している。そういった迷いが
あると見えたんだけど?」

追い詰めた獲物を見逃すか仕留めるかで葛藤していると指摘。
それはまさしく、今ゴルダが考えているナーヴェシルをこのまま本当に殺して失われた記憶を完全に取り戻すべきか、それとも無視して生かしておき、失われた記憶を完全に取り戻すのを諦めるかでで道を選びかねているゴルダの心の中をそのものである。

「私から言えるのはこれだけ、後悔の念を作らない選択をしてね?」

ゴルダの右手を取り、アルガティアはそう告げるとフィルスを抱いて屋敷の中へ行ってしまった。
マティルーネと共に残されたゴルダは、自分自身に問うのだった。

「俺は本当に失われた記憶を完全に取り戻したいのか?」

失われた記憶を完全に取り戻したいのか否か、と。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

大河にて、コート姿の男と

鉛入りの雲からわずかに差す日の光の下には、一方の岸には草原、もう一方の岸には荒れ地と森。
そしてしばらく東寄りに進んだところには橋がかかっている。
そう、ここはまぎれもない精神世界の一つだ。
今日のゴルダは、ここへと飛ばされてきたのである。

「参ったな、この大河に関する情報が何一つない」

ゴルダは煙草のようなものを吸いながら辺りを見回すが、あるのは殺風景な草原と大河に荒れ地と森くらい。
しかも、こんな時に限って呼んでもメーヴィエルもフィルスも来てくれないという状態。
つまり、ゴルダ一人でどうにかしなければならないのだ。
なお、メーヴィエルに精神世界へ行く方法を教えてもらってからはそれに関する文献などを探ってはいたが、情報が何一つないという状態である。
どうやら、下手に精神世界のことを記録したりしてはいけないという暗黙の了解があるようだ。

「どのみちシアあたりがそうさせているんだろう」

その犯人はシアだろうと勝手に確信したゴルダは、とにかく動いて調べないことにはどうにもならないので辺りを調べ始めた。
少し調べて分かったのは、この大河は思った以上に深くて流れが速く、透明度も低いということ。
そして、両方の岸には小さいながらも船着場があり、どちらの岸にも小型エンジンのついたボートがある。
つまり、向こう岸へと渡るのはそこまで難しいことではないということだ。
仮にボートで向こう岸まで渡るのが嫌ならば、橋を渡ればいい話である。

「しかしこの大河、得体の知れないものが泳いでいるな」

船着場まで降り、ボートに乗ろうとしたゴルダがふと河の中を見ると、魚ではない何かが無数泳いでいるというよりは下流へ下流へ流されているのが確認できた。
それが何なのか、ゴルダはそれを調べるためにボートに乗せられていた網でそれをすくってみることに。

「…」

ザバッと河の中から引き上げられたそれは、絶えず変形する得体の知れない次々と色の変わる何かだった。
しかもその何かを見ていると、だんだん良い気分ではなくなってきたのでゴルダはそれを河の中へ返す。

「誰かの記憶だなあれは。それもどこから流れてきてどこに流れ着くのか分からないたちの悪い奴ときた」

河の中からすくった得体の知れない何かの正体が、誰かの流れてきた元も流れ着く先も分からないたちの悪い記憶だと分かった瞬間、この大河がどんな役割を持っているのかがゴルダには把握できた。
この大河は、行き先の分からない誰かの記憶を延々と何処かへ流し続けるだけの場所なのである。

「頭が変になりそうだな、さっさとここを離れよう」

これ以上ここに居たら頭がどうにかなってしまうと思ったゴルダはボートのエンジンを始動させ、向こう岸へと渡る。
ボートのエンジンは、ディーゼル特有の音を出しながらゴルダを向こう岸の荒れ地へと運んだ。

「っと」

ボートを船着場にロープで留め、ゴルダはボートを降りる。
すると次の瞬間、乾いた地面をすり足で歩くような音がしたかと思うと、コート姿の男が現れた。
ゴルダが防衛本能で銃を構えると、男は何食わぬ顔でゴルダに近寄り

「お前はこの世界に居るべきではない、とっとと元の世界へ帰るんだな。この世界はお前が思っている以上に危険だ」

嫌味ったらしい口調で元の世界へ帰れと忠告する。
それに対してゴルダはお断りするよと返し、また煙草のようなものを取り出してコート姿の男の前で火をつけて吸い始めた。
ゴルダが煙草のようなものを人前で吸うことは滅多にないのだが、人前で吸うときは大抵機嫌が悪い時である。

「よほど私が気に食わんか、機嫌が悪くなると人前でも平気で吸う。あの時から変わっていないな」

コート姿の男のあの時から変わっていないという一言に、ゴルダは反応したかと思えば男に剣の切っ先を突き付けて

「ぼんやりとだが、お前が俺を知っているように俺もお前を知っている。そしてぼんやりとした記憶の中でも相当敵意を持っていたことを覚えている」

と一通り言うと剣を戻し、男を押しのけて先を急ごうとした。
この瞬間、ゴルダにまた一つの記憶が中ぐらいの塊として戻ってきたがゴルダ自身は気づいていない。
するとコート姿の男はコートの下から銃を取り出して背を向けているゴルダに銃口を向けると

「卑怯な真似はしたくないのだがな、そっちがその気ならば手段は問わん」

遠回しにそれ以上動けば撃つと言い放つ。
だがゴルダはそれを無視して先を急ごうとする。
それを待っていたと言わんばかりに、コート姿の男がゴルダに向けて発砲。
ゴルダはそれを常人ではあり得ない反射神経で回避、そしてすかさず手裏剣を投擲して反撃。
コート姿の男はそれを避けそこねたが、コートの端が少し切り刻まれたぐらいで無傷であった。

「甘いぞ!さあ、あの時のような殺意を見せてみろ」

男のこの一言で、ゴルダにまたもや失われていた記憶が僅かに戻った。
そしてゴルダはこのコート姿の男の名を思い出す。

「ナーヴェシル…そう、お前の名前はナーヴェシルだ。姓は不詳だがその名はしかと覚えている。なぜならば俺の記憶を暗号化して封じる忌々しい技術を作った張本人なのだからな」

ナーヴェシル。
それがこのコート姿の男の名である。
だが、ゴルダに戻ったのはその名と何をされたのかということにとどまり、完全な記憶復活には至っていない。

「だからこそこの精神世界に居てほしくないのだ。お前がすべてを思い出すのが脅威なのだ。だからこうして肉体ごと精神世界へ移り住み、お前が来るのを待っていた」

ベラベラと余計なことを話しているナーヴェシルを、二度目のゴルダの手裏剣攻撃が襲う。
今度は直撃は免れたが、手裏剣はナーヴェシルの腕をかすり、やや深い切り傷を負わせた。

「ちっ…しかしこの程度の傷」

舌打ちしながらナーヴェシルは傷口をもう片方の手で抑える。
するとどうだろうか、傷どころか切り裂かれたコートまでもが元通りになったのだ。
イメージすれば大体のこととは実現する。そう、精神世界とはそういう世界なのである。
ちなみにナーヴェシルが何をしたのかというと、元通りになった腕とコートをイメージしたのだ。

「やはり致命傷でなければ無理か」

そう言って、ゴルダは武器を対物ライフルに切り替えて一撃必殺を狙う。
なぜだか分からないが、ナーヴェシルを殺せば暗号化されていた記憶が全て戻る気がしたのだ。
基本的に無駄な殺生を好まないゴルダだが、ナーヴェシルだけはその勘定に入っていない様子。

「そろそろ決めさせてもらおうか」

荒れ地の地面を強く踏みしめ、対物ライフルの銃口をナーヴェシルに向けるゴルダ。
ナーヴェシルは森をバックに仁王立ちし、撃てるものなら撃ってみろと余裕の表情だ。

「できるものならばな」

両者一歩も動かず一歩も譲らずで、ただただ時間だけが過ぎていく。
精神世界にも一応時間の概念はあるのだが、現実世界と比べて大分ゆっくりと流れる。

それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
未だにゴルダもナーヴェシルも動かない。
ゴルダは腰の位置での構えを維持したまま、ナーヴェシルはゴルダの頭に銃口を向けたまま微動だにしない。
そしてやや強めの風が吹いた瞬間、両者は一斉に動いた。
ゴルダの対物ライフルの銃声に、ナーヴェシルの銃声がかき消される形となった。
果たして勝敗は誰に上がったのか?

「…?」

「誰だ?」

答えは、どちらにも上がらなかった。
それはなぜかというと、突如として現れた謎の女が踏み込んだ姿勢のまま両者の撃った弾丸を時を止めたかのように止めたかと思えば、そのまま地面に落としたのだ。
その女は、頭にうっすら見える4本の角と赤い目というゴルダにどこか見覚えのある特徴に、白髪で白一色のゴスロリという容姿。

「気になって探りを入れてみれば、やっぱりね」

女はそう言うと、ナーヴェシルの方に向き直ってまだやる気かしら?と目線で訴える。
ナーヴェシルはその視線に何かを感じ取り、銃をコートの中へ戻して

「ゴルダ=R=アルカトラス、お前が暗号化された己の記憶を求める限り私はどこまでも立ちはだかるぞ」

特有の捨て台詞を吐いて森の方へと消えた。

「取り逃がしたか」

森の方へ消えたナーヴェシルを追うにも追えず、ゴルダは不機嫌そうに言う。
白いゴスロリの女は、ゴルダの方へ向き直ると腕組をしながら

「なぜ言わなかったの?」

と単刀直入に聞いてきた。
これにゴルダはぽかんとした様子で

「待て待て、まずお前は誰だ?そして何を俺が言わなかったんだ?」

待てと言って女に誰なのかということと何を言わなかったのかを問う。
すると、ゴスロリの女は無理もないわねと言う顔をしたかと思えば、元の姿と思わしき姿へ戻る。
それを見たゴルダは、このゴスロリの女が何者なのかを把握することとなった。
白いゴスロリ女の正体、それは他でもないシアである。
どうやらシアが人の姿に変身していたようだ。

「これでいいかしら?そして何を言わなかったか、だったかしら?それは精神世界に行けるようになったことよ」

元の姿に戻ったシアは、尻尾をパタパタさせながらついでにゴルダの二つ目の問いにも答える。
なぜ精神世界に行けるようになったことを言わなかったのか?
シアの質問を理解したゴルダは、こう返す。

「必要ないと思ったからさ」

ゴルダの返事に、シアは呆れたと言わんばかりに

「そういうところがあるから言ってほしいのよ、あなたは時々自分を客観視できなくなることがあるんだから」

時折客観視できなくなるゴルダの癖が危ういと返す。
癖を指摘され、ゴルダははいはいと生返事を返してこの後どうするかを考える。

「今日はもう引き上げなさい、あいつがまた来たらどうするつもり?」

「始末するまで」

するとシアがまたナーヴェシルが来る前に引き上げろと言ったが、ゴルダは次来たら始末するまでとまだ探索する気で居た。
だがしかし、シアに頭を尻尾でべしべしされて仕方ねえなといった感じでそそくさと引き上げていった。

「さて、厄介事が増えたわね」

そしてシアも、何かを探すようにその場を飛び去る。
後に残ったのは、風が通り抜けるだけの殺風景な荒れ地だけであった。

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小説(一次) |

廃都市にて

メーヴィエルに精神世界へ行く方法を教えてもらってからというもの、ゴルダは頻繁にではないものの精神世界へよく行くようになった。
なお、後々ルライエッタを問いただしたところ、メーヴィエルに精神世界への行き方を教えるよう進言したのはルライエッタ本人であることも分かったとか。

「さて、今日も行くか」

そう言ってゴルダは今宵も精神世界へと向かうのであった。

「到着っと」

ゴルダが降り立った場所は、いつもと変わらない濃い鉛色の雲がすごい速さで移動している空と、その下に広がる所々道路が崩落していて無数の廃車が打ち捨てられている高速道路のど真ん中。
当然ながら、ゴルダ以外に人の気配は感じられず、唯一感じられるのは時折吹いてくる強い風だけ。
しかしそれでもゴルダは油断せず、現実世界でも常に持ち歩いている銃を出してどこへ続いているかも分からない高速道路を歩くのであった。

「一体どこへ続いているんだ?」

そんな高速道路を歩いている間も、ゴルダは打ち捨てられている廃車を調べて記憶の断片が隠れていないかを調べる。
だがしかし、それらしいものは一切見つからず、それから20分近く歩いたところにあった装甲車の上に登ったゴルダはそこに座り、煙草のようなものを取り出してジッポライターで火をつけて吸い始める、

「今のところ重要そうなワードは『実験』のただひとつ、あまりにもパズルのピースが足りなすぎる」

一つ大きく紫煙を吐き出し、まだ続いている高速道路の先を眺めるゴルダ。
ある程度調べてしまわないと、次はどんな精神世界が生成されるのかが分からない。
メーヴィエルはそのことについては何も言及していないが、毎回降り立つ場所が変わっているので、精神世界は絶えず変化していることは間違いないだろう。

「そろそろ行くか」

煙草のようなものの火を消し、装甲車から飛び降りたゴルダはまだ終わりの見えない高速道路の先を目指す。
それからどれくらいの時間歩いただろうか、ゴルダの目の前で突如高速道路が切れ、廃虚のビル群が姿を表したのだ。
どうやらこの高速道路はこの廃虚と化した街へと繋がっていたようである。

そしてゴーストタウンへ着くやいなや、ゴルダは頭に妙な違和感を感じた。
この感じからして、このゴーストタウンにはある記憶の断片ではない塊があるように思えたのだ。
だがしかし、1人でここを探索するのは骨が折れそうなのでゴルダは試しにメーヴィエルを呼んでみることに。
頭の中で来いと念じろ、それがメーヴィエルに言われた呼び出し方だった。
だがメーヴィエルからの反応はなく、静寂を破るのはビルの間を通り抜ける風だけ。

「参ったな」

メーヴィエルが来ないので、ゴルダがどうやって1人でここを探索しようかを改めて考えていると、どこからともなく

「やあ」

フィルスがやって来た。
そんなフィルスを見たゴルダの第一声は

「ほう、お前も精神世界へ行けるのか」

だった。
これにフィルスは

「メーヴィエルだけじゃないよ、条件さえ満たせば誰でも精神世界へ来れるんだよ」

と返す。
ゴルダはそのフィルスの返しにそうかとだけ返し、ここはなんだと聞く。
フィルスはそれに対して頭を掻きながら

「運悪く精神世界で最も危ないところへ来ちゃったみたいだね」

ここが精神世界で最も危ない場所だと言う。
なお、ゴルダはそれがなぜなのかという理由についてはいち早く確信したらしく

「ありとあらゆる者の記憶、そして精神世界そのものが交差に交差を重ねてこんがらがった場所がここというわけか」

「そうそう、ここは精神世界と精神世界の境目がないからいともたやすく誰かの精神世界に干渉してしまうんだよ。しかも記憶…いや、なんでもない」

こんがらがった場所なんだなとフィルスに確認を取る。
それにフィルスはそうそうと返し、何かを言いかけたが何でもないと突然言うのをやめる。
ゴルダはそれを聞いていなかったようで、フィルスに行くぞと言って先を急ぐ。
街の中を探索していると、時折スレンダーマンのような何かがぼーっと突っ立っているのが見受けられたが、フィルスいわく

「あれは誰かの負の記憶が自我を持って精神世界で動けるようになったものだから関わったらダメだよ」

とのことである。
ゴルダはそれにさしたる興味を示さず、先へ進んだのだが、途中1体だけ誰かの負の記憶が襲いかかってきたので、脚と頭部を撃って撃退した。
なお、負の記憶は不死身なので倒してもまた復活し、その記憶の持ち主がその記憶と向き合わなければ消えないのだという、

「そういえばなんでお前が来たんだ?メーヴィエルを呼んだんだが」

地下鉄への入り口を見つけ、階段を下りながらゴルダはフィルスに聞く。
フィルスはゴルダの横で羽をパタパタさせながら

「お前が行けって言われたから仕方なくバトンタッチしただけ」

行けと言われたのでバトンタッチしただけだと答える。
ゴルダはあいつらしいなと返し、懐中電灯を出して薄暗い地下鉄の駅を照らす。
崩れて進めない場所もあったが、駅のホームへの道は通れるようなので2人は先を急ぐ。

「お前、地下鉄は知っている?」

「本で読んだくらいで実際には見たことないよ」

「そうか、今度お前を日本にでも連れて行って電車というものを見せてみたいな」

「アルが許さないよ」

「だろうな」

そんなこんなで、話をしながら乗り場へやって来た2人の目の前にあったのは、脱線して乗り場へ突っ込んでいる電車の車両。
そしてその車両を見るや、ゴルダは何かを感じ取ったかのようにフィルスの静止を無視して脱線した車両へ飛び乗る。
フィルスは危ないと判断し、乗らずに辺りに注意を張り巡らす。

「これだな」

車両の中でゴルダが発見したのは、一目見ただけでもう動かないと分かるノートパソコン。
だがゴルダはそれを引っ掴むと車両からそそくさと出、フィルスの前でそれを開く。

「壊れてるんじゃないのそれ?」

「いいから少し黙ってろ」

壊れてるんじゃないかと水を差すフィルスにゴルダは少し黙れと言って、そのノートパソコンに魔力を送ったりどこから出したのか分からないドライバーでいじったりし始めた。
すると、ノートパソコンは低く唸るような音を出しながら起動。
それと同時に、トンネルの方からざわざわと嫌な気配が近づいているかと思いきや、あのスレンダーマンのような何かが群れをなしてこちらに向かって来ていたのだ。

「走れ」

「言われなくても」

ノートパソコンを開いたままの状態で持ちながら走り出したゴルダを、フィルスも置いて行かれないような速さで追う。
走りながらノートパソコンをいじっていたゴルダがデスクトップに一つだけあったファイルを開いた瞬間。

「これを投与しろと?竜滅病なんだぞ?」

「いいからやれ」

「俺にこんなことをさせた以上、いつか完膚なきまでに潰してやるから覚悟しておけ」

ある記憶が頭の中に入ってきたのである。
1人が誰かは不明だが、もう一方は誰なのかはすぐに分かった。
他でもないルライエッタだ。
だがしかし、これでは何が何なのかが不明である。
しかも自我を持った負の記憶に追いかけられている状態。
取り戻した記憶の一部の整理をしている余裕はない、今は負の記憶を振り切らなければ。

「こっちだ」

「はいはい」

ある程度の距離が取れたところで、ゴルダはいきなり右に曲がる。
一瞬しか見えなかったが、案内板には『東南出口』と書いてあった。
そのまま速度を落とさず、東南出口の階段を一気に駆け上がった2人。
どうやら負の記憶たちは地上へは出られないらしく、階段下で悔しそうにしていた。

「やれやれだったな」

「あんな危ないことはもうごめんだよ、僕はもう現実世界に戻るよ」

「ああ、付き合わせて悪かったな」

「じゃあね」

一息ついたところで、フィルスが先に抜けると言ったのでゴルダはそれを見送り、1人でまたノートパソコンを調べだす。
結果的に分かったのは、先ほど頭の中に入ってきた記憶の一部分だけ。

「今日も大した収穫はなし、か」

そう言ってゴルダはそのノートパソコンをその場にほったらかして現実世界へと帰るのであった。

しばらくして、誰もいなくなったその場所に、コート姿の謎の男がやって来てゴルダがほったらかして行ったノートパソコンを拾い上げ

「管理がなっとらんな、これには様々な鍵が入っているというのに」

と謎の一言を漏らすとキーボードのエンターキーを押してノートパソコンを閉じ、どこかへとそれを持って消えていった。
この男、一体何者なのか?それは誰にもわからない。

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小説(一次) |

ゴルダと精神世界

雨が降ったわけでもないのに、嫌というほどジメジメとしたある日の夜。
ゴルダは居間でマティルーネを頭に乗せたままうつらうつらとしていた。
そんな時、居間の隅の方で何か物音がしたのでゴルダは目を覚ましてその音がした方へ。
そこには特に何もなかったが、溶けかかった雪がほんの少し積もっていた。
これで誰が来たのかが分かったゴルダは、やれやれというような口調で

「こんな夜中から何用だメーヴィエル」

その者の名を口に出して呼ぶ。
すると、ゴルダの目の前にスッと氷狐が現れる。
この氷狐こそが、ゴルダが呼んだメーヴィエルなのだ。

「よう」

メーヴィエルは後ろ足で体を掻きながらゴルダに挨拶する。
そして、ゴルダは頭の上で寝ているマティルーネを起こさぬようにメーヴィエルの目線までしゃがんだ。

「今何時だと思っている?」

「0時過ぎだな、まあちょうどいいタイミングだ」

ゴルダが何時だと思っているとメーヴィエルに聞くと、メーヴィエルは0時過ぎだと言ったあとにちょうどいいタイミングだと会話のドッジボールをした。
この会話のドッジボールに、ゴルダははて?と言いたげに顎に手を当ててメーヴィエルを見る。
するとメーヴィエルはいきなり

「実際行ったほうが早いなこりゃ。ほら、抱けよ」

ゴルダに自分を抱けと命令口調で言う。
それにゴルダは何も言わず、メーヴィエルをつまみ上げるように抱く。
氷狐なだけはあって、抱いた瞬間凍傷にでもなるんじゃないかと思うほどの冷たさを感じたがゴルダはお構いなしだった。

「んじゃ、行くぜ?」

「もったいぶってないで早くしろ」

ゴルダが早くしろというと、メーヴィエルはそれがお望みならばと言わんばかりに何か呪文を詠唱する。
すると、そうそう感じたことのない寒気を感じた次の瞬間、ゴルダはマティルーネとメーヴィエルと共に今まで居た自宅の居間とは違う場所に立っていた。
辺りを見回したところ、一見なんの変哲もない平原が広がっていた。
ただ、唯一おかしいところを挙げるとすれば空の色が七変化でもしているかのように次々と色が変わり、濃い鉛色の雲が異様な速さで流れているところだろうか。

「何だここは?」

「説明するから降ろしてくれ」

いつもと変わらず、平然とした態度でゴルダがメーヴィエルに聞くと降ろせと言われたので、ゴルダは優しくメーヴィエルを降ろす。
メーヴィエルは降ろされたあと、鼻をすんすんと鳴らしてやっぱりなという顔をして

「単刀直入に言おう、ここは精神世界だよ、お前のな」

ここはゴルダの精神世界であると言い切った。
その言葉を聞いても、ゴルダは相変わらず平然としてそうかと呟くと

「俺を俺自身の精神世界に連れてきたのはなにか理由があるんだろ?その理由はなんだ?」

自身の精神世界へ連れてきた理由をメーヴィエルに問いただす。
それにメーヴィエルは少し困ったような顔をして

「いや、お前の知り合いの賢竜から封印された記憶を取り戻すヒントになるかも知らんからとのことで頼まれたんでな」

封印された記憶を取り戻すヒントになるかもしれないから連れて行けとゴルダの知り合いの賢竜に頼まれたと話す。
これでゴルダは誰がそんなことを言ったのかを確信して

「誰かというのは分かった、続けろ」

話を続けるようメーヴィエルに促す。
メーヴィエルはこの後、精神世界の特徴などを話すと最後に

「一応精神世界へ行く魔法と現実世界へ帰る魔法は教えとくけど、ある程度落ち着いている時だけやれよ?さもないと誰かの精神世界に大きく干渉しちまうから」

精神世界に行く魔法は教えるが、精神状態が良好な時だけ行くように念を押した。

その後、ゴルダはメーヴィエルを引き連れて自身の精神世界を歩き封印された記憶の手がかりを探し出す。
しかし、広がっているのはどこまで行っても見渡す限り何もない平原ばかり。
メーヴィエルによると、初めて精神世界に来るとこのように何もない平原に放り出されることが多いという。
だが、体感時間で十数分歩いていると目の前に廃墟群が姿を表した。

「うーん、初めてでここに到達するとは」

メーヴィエルの意味深な一言を気にせず、ゴルダは頭の上で爆睡しているマティルーネを気にかけず、その廃墟を調べだす。
廃虚のすべてに焼けたような痕跡が残っており、自分たち以外に誰も居ないのに声が時折聞こえてきた。

「これはどこの記憶の断片かが分からんな」

「ここにある記憶は断片の断片だからまず分かるはずがないよ、でも唯一封印から逃れた記憶の一部のようだけど」

どの記憶の断片か分からんと言ったゴルダに、メーヴィエルは断片の断片だから分かるはずがないと言いつつ、記憶を取り戻すヒントと思わしき一言を漏らす。

「封印を逃れた記憶、か。それらをかき集めればいいのか?」

「そういうこと、楽な道のりじゃないけどね。今日はこの辺にして元の世界に戻ろうか、あまり長時間この世界にいると蝕まれるし誰かの精神世界に干渉してしまうからね」

封印を逃れた記憶をかき集めることが封印された記憶を取り戻す鍵となると判明したところで、メーヴィエルが今日はこの辺で引き上げようと言い出す。
長時間精神世界にとどまるのは良くないらしい。

「…よし分かった、引き上げよう」

「また抱いて」

「お望みなら」

また抱けと言われたので、ゴルダは行く時と同じようにメーヴィエルをつまみ上げて抱く。
するとメーヴィエルは行く時とは1フレーズ違う呪文を詠唱した。
その直後、何か冷たいものが刺さったような感触がしたかと思った次の瞬間、ゴルダは元の自宅の居間に居た。

「じゃ、帰るけどもし自分で精神世界に行った時に手助け必要なら呼ぶといいよ。時間かかっても行くから」

そう言って、メーヴィエルはゴルダにじゃあなと言うと少しの雪をその場に残して帰ってしまう。
その後ゴルダは数十秒突っ立ったままだったがすぐに我に戻り、自分が見つけた記憶の断片の断片のことをメモする。

「『実験』というワードがどうにも引っかかるな…」

ソファに座ってまたうつらうつらしながら考えごとをしている内に、ゴルダはそのまま寝てしまうのであった。

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