氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

サジと長いマフラー

今日もサジはイレーヌのところで編み物をしていた。
飲み込みが早かったためか、基礎も応用も習得していて今は自分で好きなものを編んでいる。

「何編んでるの?」

「マフラー」

サジのフェルトぬいぐるみを作っていたイレーヌに何を作っているのかを聞かれ、サジはマフラーだと答えた。
だがこのマフラー、サジが1人で巻くには長すぎる代物である。

「随分長いけど、誰かと使うの?」

「うん、だけど誰かは秘密」

その長さから誰かと使うのかを聞かれたサジは、うんとは答えたが誰とというのは秘密と言って教えなかった。
だが、言わずともその相手がゴルダなのはイレーヌも察してはいたが。

「お茶でも?」

「これ編むので手一杯だから要らないや」

少し休憩しようとでも言わんばかりにイレーヌがお茶でもいかがと聞いてきたが、サジは編むので手一杯なので今は要らないと返す。
イレーヌはそれにそう、とだけ言って自分の分だけ淹れた。
ここで、サジの使っている毛糸について少し補足しておく。
毛糸は普通羊の毛、あるいは化学繊維などから作られたりするのだがサジの使っている毛糸は体毛を持つ竜の抜け毛を特殊な加工を施して毛糸にしたものや、羊竜という羊と竜の混血種の毛から加工されたものである。
これらの毛糸は普通の毛糸と何が違うのかというと、まず魔力を帯びていて着用者の魔力に反応することがあるということ。
もう一つは、竜族の毛ということもあり難燃性で、普通の毛糸より丈夫で防寒性も優れているということだ。
無論、加工にものすごい手間がかかるのでこれらの竜族の毛で作った毛糸はそこまで安くはない。

「やっと8割、かぁ」

昨日の続きを編み始めて約2時間。
昨日は4割までしか編めていなかったこのマフラーも、8割くらいにまで進捗が進んだ。
指が3本しかないのでイレーヌなどのように5本指の者が編むより時間はかかっているが、それでも3本指なりのコツを掴んでサジは短時間でここまで編んでいる。

「色がワンパターンすぎたや」

「編み上げられるだけでも十分な成長速度よ?」

8割5分まで編み上がったところで、色使いがワンパターンなことに気づいて納得いかない顔をするサジに、イレーヌは編み上げられるだけでも十分成長は早いし、遠回しに次は色のバリエーションをもっと増やせばいいと言った。
だがそれでも、サジは納得がいかない顔を崩すことはなかったという。

「でーきた」

それからさらに1時間後。
端と端の処理を終え、どうにかサジは長い長いマフラーを完成させた。

「完成はしたけど納得いかないや」

「はいお茶。完璧主義目指すのはいいけど、どこかで妥協しないと疲れるわよ?」

完成して一息つくサジに、イレーヌはお茶と菓子を出す。
やはり完成したマフラーには納得がいかないようで、若干牙ぎしりしている。

「巻いてみたら?作りはしても巻いてみないと分からないこともあるんじゃないかしら?」

イレーヌに巻いてみたらと言われ、サジはなぜそれに気づかなかったんだという顔をして実際に巻いてみた。
だが、サジ1人で巻くとかなり長く余った部分が背の方へだらしなく垂れている。

「なんだろ…巻き方変えたら忍者のメンポみたいになりそう」

「言われてみればそうかしらね?」

などと会話を交わしていると、突然イレーヌが

「私と、巻いてみない?そのマフラーを」

自分と試しに巻いてみないかと言ってきたのだ。
それを聞いたサジは、えっと面食らった顔をするもそれもそうだなとは一応思ったのであった。

「…ちょっとだけだよ?」

本当はゴルダとしたいので、サジはちょっとだけだよとぼそりと言ってマフラーをとりあえず解く。
ゆうに3メートルは超えそうな長さのマフラーを解いたサジは、片方をイレーヌに回し、もう片方を自分の方へと回す。
イレーヌの方は慣れた手つきで自分のの方のマフラーを巻いたが、サジは適当に巻いたのでぐじゃぐじゃだ。
そしてそれを見たイレーヌは、サジに

「ちょっといい?」

と言って、ぐじゃぐじゃのそのマフラーを解き、丁寧に巻いてやる。
それに異性にほとんど触れられたことのないサジは、イレーヌの手が当たってドキドキしていた。
だがそれはゴルダが相手でも同じで、自分を思ってくれる者にこんなことをされるのにはあまり慣れていないのだ。

「これでよし…と」

「あ、ありがとう」

イレーヌにマフラーをちゃんとした巻き方に正してもらい、サジは一瞬オレンジ色の目になりながら礼を言う。
そしてどういうわけだが、このマフラーを伝ってイレーヌの自分への想いが伝わってきたような気がしてサジは内心慌て始める。
どうして慌て始めたのかというと、このままの状態でイレーヌに密着などでもされたら目が緑になって襲いかねないからだ。

「あ、あの…イレーヌ。恥ずかしいから少し離れてくれない?」

「いいわよ」

オレンジ色の目から戻らなくなり、サジはイレーヌに恥ずかしいのであまり近寄らないでほしいと伝える。
するとイレーヌはそれが分かっていたかのようにそっと距離を取ってくれた。
これで少しは落ち着いたサジだが、一緒のマフラーをしている以上は根本的な解決には至っていない。

「外歩かない?」

「えっ、雪降ってるし寒いよ?」

「せっかくこうしてマフラーしているから、ね?」

早く外したいと思っていた矢先、突然イレーヌに外を歩かないかと言われてサジはビクッとして雪が降ってるし寒いのに出るのかと聞く。
それにイレーヌは、マフラーをしているから外を歩いてみようと言う。
万事休す、サジが覚悟を決めた瞬間。

「ほう、いいマフラーだな」

何も言わずにゴルダが小屋の中へ入ってきたのでサジはホッとした。

「ねえねえ、ゴルダ見てよ。これ僕が編んだんだー」

イレーヌにマフラーを外してもらい、サジはそのマフラーをゴルダに見せる。
するとゴルダはいい出来だなと言って

「ほら、せっかく自分で編んだなら巻いておけ」

サジの手からそのマフラーを取って首に巻く。
だが、異常な長さにゴルダがどういうことだと聞くとサジは

「えっとね、ゴルダと巻きたいから編んだんだけど…ダメ?」

ゴルダとこのマフラーをしたいと正直に言う。
すると、ゴルダは何も言わずにそのマフラーを取ると、片方を自分に、もう片方をサジの首に巻いて

「これでいいか?」

と聞く。
サジはそれに対して

「これだよこれ」

と答えたとか。

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はーたんと新年の準備

「なあ、これ捨てていいのか?」

「棚のものは一旦全部出せ」

年の瀬が明日に迫ったある日、特に依頼が入ってなかったゴルダはハーキュリーをも動員して大掃除をしていた。
なお、アルガントとウラヘムトは全く手伝う気がゼロで居間でゲームをしている。
今ゴルダとハーキュリーがやっているのは、部屋の棚の整理。
とはいえ、捨てるようなものがないので一旦棚の中身を全部出して掃除するだけなのだが。

「こんなに本があっても仕方ないだろうよ」

「下手に捨てる代物じゃない。全部竜医学関係のものだ」

「こんなにみっちり詰めてたらいざという時危ないぞー?」

こんなに本を棚に置いてても仕方ないというハーキュリーに、ゴルダは下手に捨てれるものではないと返す。
するとそれにハーキュリーはいざという時に危ないぞと言ったが、ゴルダは聞いて聞かぬふりをして流した。

「よっこらせ」

そんな一声と共に、ゴルダが持ち上げたのは武器を保管しているロッカー。
中には実弾入りの銃が入っているにもかかわらず、御構い無しに持ち上げる辺り何を考えているのかが分からない。
そして武器ロッカーを横に置き、ゴルダはもともと置いてあった場所を拭き始めた。
どうやらロッカーの後ろに溜まっていた埃を取るために持ち上げたらしい。

「そんなには溜まっていない…か」

埃を雑巾で拭くついでに取り除きながらそう呟いたゴルダに、ハーキュリーは

「日頃からゴルダは掃除してるからだろーな」

と褒めているのか皮肉っているのか分からないことを言った。
埃を取り除いて拭き終えた後、ゴルダはまた武器ロッカーを持ち上げて所定の位置に戻そうとしたのだが、どうやら鍵が開いていたらしく、中から妙な球体が転がり落ちてきた。
ちなみにこれは魔法の技術で作られた手榴弾で、床に落としたくらいの衝撃でも起爆するくらいには危ないものなのだ。

「!!、ゴルダ危ないぞー!」

それにとっさに気付いたハーキュリーは、それを目にも留まらぬ速さで掴むと、三振王のピッチャーでさえも腰を抜かして逃げ出すような速さと投げ方で開いている窓からそれを投げ捨てた。
窓からそれを投げ捨てて3秒ほどしてから、外からボンという爆発音が聞こえてきた。

「ん?なんだ?」

「なんでもないぞ?」


ハーキュリーは、その爆発音に気付いたゴルダになんでもないと嘘をついて流し、事なきを得た。
その後は何事もなく部屋の掃除を終え、今度は台所の方へ。

「流し台の方をやってくれ、俺はコンロとオーブンをやる」

「オッケー」

なおも居間でゲームをしている2人を尻目に、ハーキュリーに流しの方を任せたゴルダはオーブンを開けて中からトレイなどを出して洗剤で中を擦り出す。
一方のハーキュリーは、日頃からゴルダが洗って綺麗にしている流しを見て

「排水口…しかないよなー?」

日頃あまりゴルダが掃除してないのは排水口だろうと、排水口のゴミ受けを外して中を見る。
中は案の定の汚さで、もし食後にやっていたら最悪リバースするところだっただろう。

「ゴルダめ、ここも日頃から掃除しておけばいいのに」

少々の文句は言いつつも、ハーキュリーは排水口の掃除を始める。
汚れこそはひどかったものの、洗剤さえ使えば落ちる汚れだったのでそこまで苦にはならなかった。
そして、ハーキュリーがある程度排水口の掃除を終えて排水口そのものの中にかなり強力な錠剤タイプの洗剤を入れた瞬間。
排水口の中からとてつもなく大きなゲップの音がしたかと思えば、変な色の煙が排水口の中から上がってきたのだ。

「な、なんなんだー?」

何が起こったんだと思いつつも、水で排水口の中を流すハーキュリー。
さすがに排水口や下水に何かが居るのではないかと思ったが、とてもではないがゴルダに聞く気にはなれなかった。

「流しの方は終わったか?」

「お、終わったぞ」

「悪いな、あとは俺がやるから少し休んでろ」

オーブンの中を掃除し終えたゴルダにそう聞かれ、ハーキュリーは面食らいながらも終わったと返す。
するとハーキュリーはゴルダに休んでいろと言われ、居間の方へ。
おそらく、何かしら察してくれたのだろう。

「んー、雪かー」

ソファに座って外を眺めていると、うっすらと雪が降っているのが確認できた。
天気予報では、年末年明けは雪が続くと言われていたがあながち間違いではないらしい。

「次どうすっかなー」

次はどこを掃除するかを考えていると、唐突にゴルダが

「ちょっと買い物に行かんか?」

買い物に行かないかと言ってきたので、ハーキュリーは二つ返事で了承。
ちなみにどこへ買い物に行ったのかというと、あからさまな業務用スーパー。
一応、正月料理の食材を買いにきたようではあるが。

「なーなー、わざわざこんなところ来なくても普通のスーパーで事足りるんじゃないのか?」

普通のスーパーで事足りるのでは?と言ったハーキュリーに、ゴルダは

「どうせなら沢山作りたいだろ?そういうことだ」

どうせなら沢山作りたいだろという返事を返す。
それにハーキュリーはそれもそうだけどさと言ったっきり、何も話さなくなった。
ちなみに、ゴルダが何を買ったのかというと、魚介類はもちろん肉や冷凍物の野菜など。
だが、ハーキュリーがどうしても分からなかったのはゴルダが餅粉を買ったという点だった。

「餅粉なんて何に使うんだ?」

「帰ってから教えてやる」

「えー」

一応、餅粉を何に使うのかを聞いたのだが、ゴルダは 帰ったら教えてやると言うだけで教えてくれなかったとか。

そして帰宅後。
買ってきたものをあちこちに広げて大規模な料理を始めるゴルダ。
一応ハーキュリーも手伝ってはいたが、いつも作る料理とは勝手が違っていたので多少手間取っている。

「よし、この粉に水を入れて混ぜろ」

「混ぜるだけでいいのか?」

「混ぜた後はまた教える」

ここで、ゴルダはハーキュリーに餅粉と水を合わせて混ぜろと指示。
ハーキュリーが混ぜるだけでいいのかと聞くと、ゴルダはその後はまた教えるので早くやれと言う。
少し嫌な予感がしながらも、ハーキュリーは餅粉と水をボウルに入れて混ぜ始めた。

「わふ?なんだかベタベタしてきたぞ?」

ゴルダに言われた分量の水と餅粉を混ぜていると、餅粉に粘り気が出てきた。
しかもそれはハーキュリーの手の毛に貼り付いてくる。

「ゴルダ、これ毛に引っ付くぞ?」

「餅だからな、そりゃ毛にへばり付く」

「むー…」

毛に引っ付くとハーキュリーがゴルダに言うと、餅だからへばり付くという返事を返された。
それを聞いたハーキュリーは、少しむすっとした顔でゴルダを見て後で仕返ししてやると決めたのであった。

「できたぞ?」

「よし、次はそれを適量にちぎって蒸すぞ」

毛にへばりついた生餅を落としながらハーキュリーはゴルダにできたことを報告。
するとゴルダは今度はそれを適量にちぎって蒸すと言い出す。

「ゴルダがやれよなー」

「ああ、そのつもりだ。ハーキュリー、お前には蒸すのをやってもらう。とりあえずその毛にへばりついたの落としておけ。湯を使うと落としやすいぞ」

これにはハーキュリーもゴルダにやれと言ったが、ゴルダはそのつもりだということを言い、蒸すのはハーキュリーにやらせると言う。
そして毛にへばりついた餅を落としておけと言われたハーキュリーは、分かったと言って流しでお湯を出して手を洗う。
その間にゴルダは、慣れた手つきで生の餅をちぎっては蒸し器に並べを繰り返していた。

「おっと、どいたどいた。危ないぞアルガント」

「はらへー」

「もうそんな時間か」

コンロに蒸し器をセットしようとしたところ、足元にアルガントが居たのでゴルダが危ないぞと言うとアルガントは腹が減ったと言う。
ゴルダはそんな時間かと時計を確認すると、時間は1時前。
だが先にこれをしなければと、ゴルダは待っていろと言って蒸し器をコンロにセット。
ハーキュリーに蒸し器を見ているように頼んで自分は冷蔵庫を探る。

「湯気すごいなー」

蒸し器から出る湯気を見ながら、ハーキュリーはそんなことを言う。
なお、ゴルダは冷蔵庫から適当に何かを出してアルガントに与えていた。

「んー、いい匂いしてきたぞ」

そう言ってゴルダに見られないようにこっそり蒸し器の蓋を開けるハーキュリー。
中には白いつややかな餅が等間隔で並べられて蒸されていた。
1つ食べてみようかと思ったハーキュリーだが、どう考えても中まで蒸されていないので諦めた。

「どれくらい蒸せばいいんだ?」

「蒸し器を火から下ろすタイミングは俺が計る、その辺は心配するな」

どれくらい蒸せばいいのかを聞くと、ゴルダから帰ってきた返答は俺が分かるから問題ないというものだったので、ハーキュリーはそういうことを聞いてるんじゃないという顔をする。

「よし、もういいだろ」

「お餅お餅」

1時間ほどして、ようやく蒸し上がった餅を火から下ろすゴルダ。
ハーキュリーはその横で蒸し器の中の餅を眺めていたかと思えば、いきなり1つ掴むと

「いっただきー」

そのまま出来たてを食べてしまう。
だが、予想以上に熱かったのかしょっちゅうはふはふしていた。

「おい、一応鏡餅用にも作ってるからあまり食うなよ?というか白餅なんて食っても味もへったくれもないがな」

だがハーキュリーは御構い無しに白餅を食べている。

「餡とかないのか?」

「作ってない、それにその餅は一旦乾燥させて正月の汁物に入れたりするんだ」

「なーんだ」

この2人の仲は、相変わらずのようだ。
そして、年末に一時はこうして過ぎていくのであった。

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一次創作小説(交流系)一覧 その4

・年上2人に挟まれて
1

・はーたんと新年の準備
1

・サジと長いマフラー
1

・正月の一時
1

・メリエルと友チョコと
1

・輝星とシアとチョコ
1

・友チョコならぬ友メロン
1

・はーたんとチョコ
1

・それは誰へのチョコ?
1

・フウと牧場物語もどき?
1

・友チョコのお返しは?
1

・お返しはそれなりのものを
1

・3匹?と1人の夜桜
1

・川で遊ぶようです
1

・メリエルとエゼラルドとフィルスとイファルシア
1

・それぞれの七夕-メリエル編
1

・それぞれの七夕-はーたん編
1

・メリエルとミリシェンス
1

・メリエルと焼き芋
1

・初冬のシアとメリエル
1

・寝れぬ秋の夜長に
1

・はーたんは寝れないようです
1

・サジと悪夢
1

・ゲームとコロンの手料理と
1

・お泊まりは簡単にできるものではない
1

・天才のTrick or Treat
1

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年上2人に挟まれて

「これどうです?」

「色使いはいいけどもう一工夫欲しいところ」

火が入れられた暖かな部屋で、コロンとアルガティアが編み物を含めた手芸をしていた。
今日はアルガティアの方がそんなに仕事の量がなく、早々に終わらせて暇していたところへコロンがやって来て2人でこんなことをしている。
なお、コロンも仕事柄縫い物などをすることが多いので、アルガティア同様に手芸は得意な様子。
ちなみに、今は何を作っているのかというとフウに似せた小さな人形を作っているようだ。
だが、髪として使っている毛糸の色が本人の髪の色とは全く別物だったりしているがそれをコロンは気にしていない。

「陛下、ゴルダ様がお見えです」

「いいわ、通して」

突如お茶を持って入ってきた従者がそう言ったので、アルガティアは通すように言う。
大体ゴルダがここへ来るとしたら、里の方へ薬を取りに行くなどの用事がある時で、用事もなく来ることはあまりない。

「よう」

「あらいらっしゃい」

ゴルダはコロンとアルガティアにそっけない挨拶をし、何をしているのかとテーブルの上を見る。
その横にはフウも居て、どうやら一緒に連れてきたようである。

「唐突で悪いが、少しフウを見ててもらえんか?」

「いいわよ」

フウを見ていて欲しいというゴルダに、アルガティアは二つ返事で了承。
ゴルダがこんなことを言うということは、つまるところ里へ薬を取りに行くということである。

「へ?えっ?あの」

いきなりアルガティアの方へ自分の面倒を見るのを投げられ、状況の把握できないフウはどういうことなのという顔をする。
だが、ゴルダはそんなことも御構い無しにフウをアルガティアに任せてどこかへ行ってしまう。

「とりあえず座ったら?」

いきなり年上の、しかも一方はゴルダと同じく3桁は年が離れている女性と一緒にされたフウはまるで石像のように固まっていた。
だが、アルガティアに座ったらと言われて

「あっ、はい…」

少し恥ずかしがるような返事をしてアルガティアの隣へ座る。
改めてフウがテーブルの上を見ると、手芸道具が散らばっていてコロンが自分の人形を作っているのが分かった。

「あのー、なんで僕の人形を?」

少し落ち着いたのか、フウはコロンになぜ自分の人形を作っているのかを聞く。
それに、コロンはふふっと笑っただけで回答を渋る。

「ま、まさかとは思うけど。コロン姉さん、その…藁人形みたいな使い方はしないよね?」

フウに藁人形みたいな使い方はしないよねと聞かれ、コロンはまさかと言って

「そんな使い方はしないから大丈夫よ、呪いってのは自分にも返ってくるからね」

そんな使い方はしないと断言。
それを聞いたフウはほっとしてアルガティアに

「そのお茶もらってもいいですか?」

と聞く。
それにアルガティアは、軽く頷いてカップをフウの前に置いて注ぐと

「砂糖は要る?要るならいくつ?」

角砂糖の入った容器を手に持って、砂糖は要るかどうかを聞いてきた。
それにフウは

「あっ、結構です」

要らないと返す。
その返事を聞いて、アルガティアは本当にいいの?という顔をしながらも角砂糖の入った容器を戻した。
そしてフウは、無糖の紅茶を口にする。
するとどうだろうか、平気そうな顔をしていたフウが

「やっぱり1個ください」

と真顔で言ってきたので、アルガティアはまた容器を取ってフウのカップに1つ入れる。
それを見たコロンは、微かにフウを見て笑うと自分は角砂糖を3つカップへ入れた。

「むー…」

なお、フウはそれを見逃していなかったらしく渋い顔をする。
しかしコロンは何事もなかったかのように振る舞う。

それから1時間ほど経っただろうか。
アルガティアとフウがフェルトぬいぐるみを作っている一方で、コロンはまだフウの人形を作っていた。
その進捗がどれほどのものかというと、裸体状態のフウは完成していて今は服を作っているところ。
一方でアルガティアとフウが作っているフェルトのぬいぐるみは、まだ形が判然としないので何を作っているのかは分からない。

「うーん」

「ど、どうかしたの?」

いきなり低い声でそんなことを言ったコロンにびっくりしたフウが、どうしたのかと聞く。
するとコロンは、もう完成していたフウ人形の髪の部分をいじりながら

「うーんとね、なんだか髪がストレートじゃ味気ないなーと思って」

などとフウに言った。
それを聞いたアルガティアはコロンに

「人形の髪を縛ったら?ツインかポニーテールに」

などと言うも、コロンはそれだと物足りないと言ってフウを指差して

「本人の髪をいじりながらどうするか考えた方がいいと思うの」

などと言い出したのだ。
流石のフウもこれにはビクッとして

「あのー、それってつまりどういうことなのかな?」

とすっとぼけたことを聞く。
だが、コロンはこれには何も答えずにアルガティアに櫛や髪を束ねるものを貸してと言ってそれを受け取る。

「あはは、つまりそういうことなんだね。驚かさないでよ」

ここでフウは髪をいじるというのがどういう意なのかを理解して苦笑いした。

「以外としっとりしているのね」

「どんなシャンプー使ったらこうなるのやら」

その後、フウはアルガティアとコロンの2人に髪をいじられていた。
アルガティアが髪を梳かし、コロンがどう束ねようか考えているといった状態である。
なお、フウ本人は御構い無しにフェルトぬいぐるみを作っている。
髪をいじられているのに、細かい作業をしていて大丈夫なのかと思われがちだが、その辺はアルガティアは抜かりはないようだ。

「こうかな?」

「ポニーテール?いいんじゃないかしら?」

最終的にコロンがやった束ね方はポニーテールになった。
最初はツインテールにしていたが、どうにも気に入らなかったらしい。

「…」

なお、フウ本人の反応は無言だったという。

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サジの留守番

サジが居候を初めて数日が過ぎたある日。
ゴルダはサジを置いて依頼を片付けに行くことになった。
最初こそはサジにも手伝わせようと連れて行っていたのだが、竜医の仕事で血を見た瞬間にサジが過呼吸などの発作症状を引き起こしたために、これはいかんと別の場所で休ませた。
その後、あれこれ問診していくと血に対して極度のトラウマを持っていることが分かったので留守番させることにしたのだ。

「暇だ…」

この世界のことはまだよく分かってないので、家にあるものを下手に触るとことができず、サジはぼっとソファに座って虚の時間を過ごす。
なお、ウラヘムトやアルガントと遊ぼうにも2人とは馬が合わないらしく、向こうからハブられているのが 現状である。

「うーん…」

本当に何もすることがないので、ふさぎ込み気味になるサジ。
ゴルダからするなと言われているのは、本棚にある本には医学関係でかなりえぐいものがあるので下手に読むなということと、切り傷でも作ったら大変なので料理を自分で作ろうとするなということの2つくらいだ。
となると、やることと言ったら外で1人遊びをするか、ゴルダが帰ってくるまでこうして虚の時間を過ごすかの2択しかない。

「畑があるって言ってたな、どんな感じなんだろ?」

この家へ初めてきた時に、家の裏手に畑があるということを聞いていたサジは、何かあるんじゃないかと思って畑の方へ。
今日は天気が雪ということもあり、畑には溶けかけた薄汚い雪の上に白い積もりたての雪が積もっていた。
ブルッと寒さに震えつつも、サジはその雪をなんとなくどかしてみることに。

「なーんだ、野菜か…」

その雪の下から出てきたのは、人参や大根、そしてよく分からない根菜類。
この時期に植えられているということは、雪に非常に強い品種なのかもしれない。

「メロン、ないかなあ…」

今しかたサジがぼそりと呟いたように、メロンはサジの大好物である。
どれくらい好きなのかというと、メロンという3文字を聞いただけで反応するほど。
だがしかし、冷静に考えればこの世界は今は冬。
メロンが出回っているはずがない。

「うー、メロン食べたい…ゴルダにねだってみようかな?」

そんなことを考えながら、サジは家の中へ戻る。

それから2時間ほどが経過した。
本当にやることのないサジは、ソファの上で寝てしまっていた。
虚の時間を過ごすくらいなら、寝ていた方がいいという考えにたどり着いた結果である。

「ただいま」

寝ているサジの耳に、聞き慣れた声が入ってきた。
どうやらゴルダが’帰ってきたらしい。
するとどうだろうか、サジは寝ていなかったかのように飛び起きてゴルダの所へ行き

「お帰り〜」

20センチ以上の身長差があるにもかかわらず、ゴルダに抱きついて顔を舐める。
なお、ゴルダはこんなことをされても全く動じない。
抱きつかれるのはシアにさんざんやられていて慣れている上に、舐められた経験も少なくはないからだ。

「ほら、もういいだろ?」

あまりにもしつこく舐めてくるサジに、ゴルダはもういいだろと頭に手を置いて制す。
するとサジは少ししゅんとした上で一瞬目を青くした。

「何もやることなくて空っぽな時間過ごすしかないんだけど何かない?」

時刻が昼過ぎだったので、昼食の準備を始めたゴルダにサジは何かやることはないかと聞く。
しかしゴルダは料理に集中しているせいか、その場では返事を返してはくれなかった。
その後ゴルダが返事を返してくれたのは、作り終わってからで、帰ってきた返事は

「一応考えてはおくが、難しいぞ」

というものだった。

それから1日が経ち、2日経ち、3日の時間が流れた。
流石にこうも何もしない時間が慢性化し始めると、サジも精神的に雲が掛かってきた。
青い目をする時間が次第に長くなり、3日が経った時にはゴルダが帰ってきても背を向けてお帰りと言うだけになるくらいには精神的に雲が掛かり、雨が降り出す一歩手前に。
ウラヘムトとアルガントは、絶対にサジとは遊ぼうとせずに部屋に篭ったまま。
さすがにこれ以上何もさせずにほったらかしておくと、孤独でサジの心が潰れかねないのでゴルダは一計を案じた。
それは何かというと

「…という訳だ、俺がいない間だけ面倒を見ることはできないか?」

その日、依頼が終わった後にリフィルへ行って、イレーヌに自分が仕事で居ない間はサジの相手をしてやってくれないかと頼んだのである。
イレーヌはこの頼みを聞いて、何で手伝わせないのと切り出したものの、ゴルダに

「俺の仕事はほとんど血を見ることが避けられない仕事だ、サジはその上血に対して非常に強いトラウマがある。まさかあいつに根性で耐えろと精神論を持ち込むつもりか?」

などと言われ、ならば仕方ないという顔をして引き受けてくれたのであった。

そして翌日。
ゴルダはリフィルへサジを連れて行って、イレーヌを紹介した。

「俺が仕事に行っている間は、イレーヌがお前の面倒を見てくれることになった。それで大丈夫か?」

「う、うん…」

自分が仕事に行っている間は、イレーヌが面倒を見るが大丈夫かと聞かれて、サジは少し不安そうに頷く。
それもそのはず、いきなり初対面の相手がゴルダがいない間の面倒を見るというのだからだ。
そしてゴルダはサジをイレーヌに任せて依頼を片付けに行ってしまった。

「こっちよ」

イレーヌに手を引かれ、されるがままに連れて行かれるサジ。
一応ゴルダからは信用できる奴だとは言われていたが、自分でそれを確かめるまではサジはイレーヌに疑いの目を向けていた。
サジがそのまま連れてこられたのは、屋根だけがの休憩所のような建物の横にしっかりとした造りの小屋がある場所。

「ここが私の部屋、さあ入って」

小屋の方へと招き入れられたサジは、そのままその小屋へと入る。
中はこじんまりとしながらもある程度の生活ができる家具などが揃っていた。

「何しようかしら…うーん、そうね…」

「ひ、暇が潰せればなんでもいいよ?」

何をしようかと考えるイレーヌに、サジは何でもいいと返す。
それを聞いたイレーヌは、ふと何かを思いついたかのように手芸道具をどこからか出してきて

「編物、してみる?」

「うーん、僕にできるかな?」

「物は試しよ、ほら」

編み物をしてみるかとイレーヌに聞かれて、サジは自分にもできるだろうかと疑問を投げ返す。
質問に質問を返す形となったが、イレーヌはさほど気にせずに物は試しと言って、適当な色の毛糸と編み棒を差し出す。

「何を作るわけでもないけど、とりあえず編み方を覚えましょ?」

イレーヌは、サジの指が3本しかないことを考慮しての編み方を教え始めた。
なぜそんな5本指ではない場合の編み方を教えられるのかは、謎のままであるが。
編み方を教えてもらい始めて1時間。

「イレーヌ、こうかな?」

「うーん、少し編み込みが甘いけど初めてにしては上手な方よ」

飲み込みが早いせいかどうかは分からないが、サジの上達速度はそれなりのものだった。
とここで、イレーヌは

「マフラー編んでみない?難易度が跳ね上がっちゃうけど」

サジにマフラーを編んでみないかと切り出す。
それにサジは編めるかな?という顔をしたものの、軽く頷いて了承。
こうしてサジは、ゴルダが相手できない時はイレーヌに相手をしてもらうことになったのであった。

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サジと竜医

大陸全土が異様に冷え込んだある日、ゴルダに依頼が舞い込んだ。
その依頼とは、迷い竜の保護だったのだが、ゴルダはどうにも嫌な予感がして仕方なかった。
一応、依頼が来たからには行かねばと指定された場所へと向かう。

「どこに居る?」

「そこだよ、居座られても困るからさっさと保護してくれ」

それから1時間くらいで、指定された場所へは着いた。
そしてあまり類を見ない寒さに渋い顔をしながら、ゴルダは依頼者に聞く。
やって来たのは、ゴルダの住んでいる中部からもっと北の地区のティサザ山のふもとの農場。
今年の収穫が終わって、畑は全て更地になっていて雪が被っていた。
その畑の外れにあるリンゴの果樹園のところにその竜は居た。

「こいつ、か」

その竜は、150センチくらいの身長で白い体毛とオレンジの髪と翼を持つタイプの二足歩行の竜。
少々警戒しているのかどうかは判然としないが、リンゴの木の陰からオレンジ色の目でゴルダをじっと見ている。

「おいお前、そんなところに突っ立ってて寒くはないか?」

ひとまずその竜に声をかけてみるが、返事は返ってこない。
どうやらドランザニア語が通じないようだ。
これは困ったと、ゴルダは言語を色々と変えて話しかけてみるも竜の方はゴルダをただじっと見ているだけで反応も返事もない。
そして、ゴルダが物は試しである竜語で話しかけてみたところ

「こんにちは、さっきから何言ってるのか分かんないから返事できなかったんだ」

竜の方からようやく返事が返ってきた。
これでいけるなと思ったゴルダは、その竜に対して攻撃しないことを示して目の前まで近寄る。
なお、ゴルダは170センチあるのでこの竜を若干見下ろす感じになってしまう。

「お前をとっ捕まえて何をしようってわけではない。正直に答えろ、いいな。お前この世界のものではないな?どこの世界から来た?」

竜に目線を合わせ、どこの世界から来たのかを問うゴルダ。
なおこの時点で相互翻訳魔法を適用させているので、ドランザニア語で話しかけている。

「…なんと言ったらいいんだろ、よく分かんないや。気が付いたらここに居たじゃあダメかな?」

竜は気が付いたらここに居たことと、自分がどういう世界から来たのかは分からないと話す。
ゴルダはそれには問題ないと返してから

「そういえば名を名乗ってなかったな。俺はゴルダだ、以降見知り置きを。お前は?」

名を名乗っていなかったことに気付き、いつもの調子で竜の目の前で両手を顔の前で合わせてお辞儀してから名を名乗った。
竜の方は、この人変な名乗り方するなと思いながらも

「えーっと、サジ。サジ=セファラス」

自らの名をサジと名乗った。
すると、今の今までオレンジ色の目だったサジの目が黄色くなる。
これを見たゴルダは、ほほうと呟くと

「魔力、視神経、脳の感情を司る部分。それらが強くリンクしている特性持ち…か」

などと独り言を言う。
これにサジはどういうことなの?とゴルダに聞くが、返事は返ってこなかった。

「なあサジ、ちょっとここを離れて別の所で話をしようか」

「うん、いいんだけど…」

「安心しろ、解剖するとかそういうことは絶対にしない」

別の場所で話をしようと言うと、サジが少し訝しむような表情をしたのでゴルダは改めて変なことはしないと言って安心させる。
だが、サジは会って間もないゴルダを完全には信用できないらしく、なおも訝しみの目線を投げかけていた。
そこでゴルダは、サジにこんな提案をする。

「なあサジ。このままだとお前を保護することもままならない。つまり何が言いたいかというと、相互的な信用を築こう。それにはそうだな…お互い嘘はつかないという約束をしよう。どうだ?」

その提案とは、お互いに嘘をつかないようにするという約束。
この提案には、サジは納得はしたものの

「…隠し事は?」

とぼそりと聞いてきた。
それもあったかと、ゴルダはしまったという仕草をしつつ

「それはお互いに言いたくないことは言わない、という方向でいいか?」

言いたくないことは言わないでいいかどうかをサジに問う。
これにはサジは二つ返事で了承した。
そしてゴルダはサジを連れ、ある場所へと向かう。
そのある場所とは、紛れもなくシアの所だ。

「んー…」

シアの所へ行くと、思った以上に深刻そうな顔でシアは待っていた。
サジは自分よりもはるかに大きいシアの姿を見てまた目の色がオレンジになる。

「どうしたんだ?」

ゴルダはサジに大丈夫だと言い聞かせてリラックスさせながらシアにそう聞く。
するとシアは、数分何かを考えて黙り込んだ後、口を開いてこう答える。

「サジと言ったかしらその子?実は…元いた世界を割り出すことが不可能な状態でね、本当に珍しい事例なんだけど」

なんと、サジが元々居た世界を割り出すことができないというのだ。
これにどういうことだとゴルダが聞くと

「なんと言ったらいいのかしら…正確には情報が断片化しすぎて今のままでは割り出すことができないということよ」

シアは、情報が断片化しすぎて今のままでは割り出せないと言い直す。
ゴルダはそれにそうかと言い、シアにこう言う。

「時間はかかっても構わんからとりあえずその断片化した情報を組み合わせて割り出してくれ。サジの面倒はその間俺が見る」

シアの方には割り出しをするよう頼み、その間のサジの面倒は自分が見ると言った。

「いいの?」

「1人増えたくらいで俺の生活は揺らがんよ、心配するな」

「だ、だったらいいんだけど…」

ゴルダが突然自分の面倒を見ると言いだしたので、本当にいいのかと聞くサジ。
それにゴルダは心配するなとサジの肩を叩きながら言った。
サジはいきなり肩を叩かれてその手を払いのけながらも

「…ありがとう」

と言ったという。
こうしてサジはゴルダのところにしばらく住まわせてもらえることになった。

そしてその日の夜。
ゴルダと共に家へやって来たサジは、見慣れないものの数々に少々興味を持っていたが、変に触るとゴルダに何を言われるかが分からないので、触らずに食卓の椅子へと座る。

「何か飲むか?」

「いらない」

何か飲むかとゴルダに聞かれ、サジは黄色い目でいらないと返す。
それにゴルダはそうかと答えて冷蔵庫から聖水を出して飲む。

「それただの水?」

サジに聖水のことを聞かれ、ゴルダは普通の水ではないことを話す。
するとサジが飲んでみたいというので、ゴルダは少しだけ飲ませることに。
そしてサジは、何の迷いもなくその注いでもらった聖水を飲み干す。
最初はなんともなかったが、突然サジの体が発光したかと思えばすぐ元に戻ってそれ以上は何も起きなかった。

「元々あった属性と聖水が反応したようだな」

ゴルダの一言に、サジはただただ首をかしげる。
こうしてサジの居候生活が始まったのであった。

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コロンとフウとゴルダのクリスマス

ある聖夜の前日の夜、ゴルダは夜遅くまで台所に立って料理の下ごしらえをしていた。
一体何をしているのかというと、家で自分を含めてフウとコロンとでクリスマス会をするために、その料理を作ろうとしているのだ。
フウは寝るまでゴルダに

「ねえねえ、何作っているの?」

としつこく聞いてきていたが、ゴルダに無視を決め込まれた挙句

「明日のお楽しみだ、子供は早く寝なさい」

早く寝ろと言われ、寝てしまった。
何故ゴルダがこうも強く言ったのかは、言うまでもなく楽しみをその前にバラしても面白くないからである。

「よし、ターキーの仕込みはこれでいい。あとは…なんだ?」

作る予定の料理のリストを見ながら下ごしらえの完了状況を見て、後は明日準備すればいいものばかりだったのでゴルダもこの日は寝てしまった。

そして翌日。
フウをゲームでもしていろと言って留守番させ、買い物に出かけるゴルダ。
今日はケーキの材料と、コロンとフウにあげるプレゼントを買いにだ。

「あったあった、これだこれ」

少し遠出した先のスーパーでケーキの材料を買い、他にもあれこれ買ったゴルダは次なる場所へ。
今度は大分都心に近い百貨店で2人へのプレゼントを購入。
買った後はそのまま家へと戻った。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「早いな、もう来ていたのか」

昼過ぎくらいの時間にゴルダが帰ってくると、すでにコロンが来ていてフウやウラヘムト達とマリオパーティをやっていた。
それを横目に、2人に分からないようプレゼントを隠してまた台所に立つゴルダ。
最初に作るのは、結構な時間のかかるターキーの調理。
昨夜で下ごしらえは済ませているが、これまた焼き上げるのにそれなりの時間を要する。

「わー、まただよ」

「よし、スターはいただいた」

「あら、取られちゃった」

「テレサどこかな?」

4人共わいわいマリオパーティをやっているので、ゴルダは4人を気にかけることなく料理に集中することができた。
そしてゴルダは下味の付いていたターキーに野菜を詰め込み、トレイに乗せてオーブンに入れる。
これから5時間あまりかけて、このターキーはじっくりと焼きあがるのだ。

「揚げ物類は今はいいとして、ラザニアとかの準備でもするか」

「手伝います?」

「いい、1人でできる量だ」

次は何を作るかと考えていると、コロンが手伝うかと聞いてきたがゴルダは1人でできるからいいと言う。
それにコロンはそうですかと言って、マリオパーティを再開。
その間にもゴルダは次々と料理を作っていった。
そして料理を初めて1時間ほど経った頃

「おっと、肉汁を掛けねば」

ゴルダはオーブンを開けて焼いている途中のターキーに肉汁を掛ける。
どうやらこうしないと美味しくならないらしい。

「よしよし、いい感じだ」

そう言って、ゴルダはまたオーブンの蓋を閉めて焼きを再開した。

それから5時間ほど経っただろうか。
マリオパーティを50ターンで3周目に突入していたコロンら4人は飽きる様子もなくまだ遊んでいる。

「やった、スターゲットよ」

「むぅー、取られたー」

ウラヘムトとアルガントがほぼ冷戦状態でプレイしているのに対し、フウとコロンは2人で未だに楽しく騒ぎながらやっている。
一方、ゴルダはほぼ料理を作り終えており。ターキーが焼きあがって後はケーキを焼いてしまえば全て完成となるところまでできていた。

「よし、焼き加減上々」

タイミングを見計らったかのようにオーブンを開けて、ターキーを取り出して焼き加減を調べるゴルダ。
焼き加減は、中までしっかり焼けていて程よい食べごろ。
ゴルダはそのターキーを邪魔にならないところに置いて少し冷ましておくようにすると、今度はケーキの生地をオーブンへ。

「ラストスパートだ」

かっこ付けのように、ゴルダはそう呟く。
なお、ケーキは1時間足らずで焼き上がり、冷やして飾り付けまで2時間も掛からなかった。

「お前ら、料理が出来たぞ。さあ食おう」

ゴルダがそう声をかけたところで3周目が終わっていたので、4人はそれぞれ席へと着く。

「では…メリークリスマス、そしていただきます」

「いただきます」

ゴルダに次いで、4人はそれぞれいただきますと言って料理に手を伸ばす。
ウラヘムトとアルガントにフウがターキーに先に手を伸ばしたのに対し、コロンとゴルダは先にサラダの方へ手を伸ばす。
なお、飲み物に関しては、ゴルダが用意していたシャンパンを開けただけで、フウやコロンは手をつけていない。

「待て待て、今切り分けてやる」

自分のサラダを取った後で、ゴルダはウラヘムトら3人を制して側にあったナイフでターキーをそれぞれに切り分ける。
もちろん、野菜もセットでだ。

「ん、うまいな」

「おいしー」

黙々と食べているアルガントを除き、ウラヘムトとフウはそれぞれおいしいと口にする。
それを聞いたゴルダはそうだろう?としたり顔で2人に言う。

「こんなに料理が上手なんて、驚きました。おいしいですよ」

コロンにもそう言われ、ゴルダはまあなとだけ返して自分もターキーを皿に取る。
やがて程よく食べ終えたところで、ゴルダは今まで隠していたフウとコロンへのプレゼントとケーキを出して来て

「コロン、フウ。これは俺から2人にだ。開けてみろ」

2人にそれらを渡す。
そして、ゴルダに開けてみろと言われてフウとコロンはそれぞれ包みを開けた。
中にはそれぞれサイズ違いのお揃いの服が入っていたのだが、フウのものがあからさまに女性用だったのだ。

「ねえねえ、なんで女性用なのかな?」

フウにそう聞かれて、ゴルダは一言

「間違えた、だが着れるからいいんじゃないか?」

着れるならいいんじゃないかと言った。
そう言われたフウは

「着れるならって…言われてもなぁ」

とぼそりと呟いたのだが、そこにコロンが

「似合うと思うわよ?すごく、とりあえず着てみたら?」

着てみたらと言うので、フウはとりあえず着てみることに。
サイズは申し分なかったのだが、やはり女性用を着るということには少し抵抗があった。

「うんうん、似合ってる似合ってる」

「そ、そうかな?」

「絶対にそうよ」

「わっ…!」

似合っているとコロンに言われ、そうかなと訝しむフウ。
それにコロンは絶対にそうだと言いつつ、フウに不意打ちで抱き着いた。
無論フウはこれにびっくりしてじたばたする。

「仲がいいなお前らは」

「でしょ?ゴルダさんもそう思うでしょ?」

「離してよー」

「それより早くケーキ食ってお開きにしよう」

「はーい」

その後、フウ達5人はケーキを平らげてお開きにしたという。

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クリスマスは2人きりで

今年もクリスマスという時期が、ドランザニアにもやって来た。
セイグリッドやリフィルなどはいつものように城下町の民でも参加できるようなパーティーを開き、一般の家庭でも祝ったりするところもある。
それは、ゴルダの家でも例外ではなかった。

「今年もクリスマスが…」

暖炉で薪がパチパチと音を出しながら燃えている居間。
つけっぱなしのテレビの前のソファでは、ゴルダがだらしない姿で爆睡中。
それもそのはず、ゴルダが依頼で帰ってきたのは日付の変わった深夜。
深夜放送を見ながら酒を片手に遅い夕食を取っているうちに寝てしまったようだ。

「ゴルダ、起きろー」

とここで、今まで爆睡中のゴルダを気にも留めずに朝食の準備をしていたハーキュリーがゴルダを起こしにかかる。
だが、珍しく半覚醒状態で寝ていないせいか一発で起きる気配がない。
もちろんハーキュリーも一回起こして起きなかったくらいでほっぽり出すはずもなく

「おーきーろー」

ハーキュリーは今度はゴルダの頬をつまんで横へ引っ張る。
すると、違和感に気付いたゴルダが目を覚ましてその辺にしとけと目線で訴えてきたのでハーキュリーはつまむのをやめた。

「また遅かったのかよ?」

「依頼が依頼故に仕方ない」

また遅かったのかとハーキュリーに聞かれ、ゴルダは依頼が依頼だと言って風呂場の方へ。
そんなゴルダを、ハーキュリーはやれやれという顔で見ながら2人分の朝食を盛り付ける。
ちなみに、アルガントとウラヘムトは先にハーキュリーが済まさせているので問題はない。

「いただきます」

「いただきますなのだ」

そして、ありきたりな2人の朝食の時間が始まった。
朝から紅茶なハーキュリーに対し、ゴルダはコーヒーを飲んでいる。
なお今日の朝食は、草食竜のベーコンとスクランブルエッグにトマトがどっさり入ったサラダ。
それにトーストだ。
そんな朝食を食べながら、ハーキュリーはゴルダにこんなことを聞く。

「ゴルダ、今日の約束忘れてないよなー?」

「忘れているわけがないだろ、しかと今日のスケジュールに入っている」

このハーキュリーの言う約束とは、クリスマスなので夜はどこか2人で出かけようというもの。
それに対してゴルダは忘れているわけがないと返す。
こう言ったことに限らず、約束事きっちりと守るのがゴルダなので聞く必要はないのだが、ハーキュリーはあえて確認のために聞いたのだ。

「おっと、そろそろ出ないと間に合わん。じゃあ行ってくる。夕方、遅くても7時くらいまでには帰って来る」

「分かった、気を付けて行って来いよ」

ここで時計を見たゴルダは、颯爽と準備を済ませて出かけて行った。
クリスマスといえど、何でも屋に休みはないのだ。
そんなゴルダを、ハーキュリーは気をつけて行って来いと見送ったのであった。

「わふー、暇だなぁ」

それから大体1時間後。
一通り朝食で使った食器を洗い終え、洗濯機も動かしたハーキュリーは何をしようかと食卓の椅子へ座る。
ゴルダのカルテは一部を除いて一通り終わっていたのだが、その一部が開くのにまた別のパスワードと生体認証を要求されたので開けなかったのだ。
なお、今のところ分かっているのはゴルダが竜滅病を持病として抱えていることと、記憶に空白の期間があることくらい。
それ以上は調べようにも、生体認証が必要なので調べようがないのだ。

「ゲームでもするかー」

と言って、ハーキュリーは真三国無双を引っ張り出してプレイ開始。
しかし、難易度修羅でも簡単にクリアできるので1時間足らずで飽きた。

「なんでこんな怖いゲームしかないんだ?」

ハーキュリーは他に何かないかと、ゲームソフトの置いてある棚を調べるが、あるのはシンギュラリティやコールオブデューティーなどといったガンシューティングゲームの他に、デッドスペースなどのホラー要素のあるゲームしかない。
それもそのはず、これらのゲームをしているのはゴルダではなくウラヘムトだからである。
一応マリオパーティなどもあるが、これは2人以上でやらないと面白くない。

「むー…」

ゲームをするのを諦め、 別にやることを探し始めたハーキュリー。
しかし、特にやることもないのでただだらだらと過ごす他なかった。

そして夕方。
結局やることが見つからずにぼーっとして過ごしたハーキュリー。
後はゴルダが帰ってくるのを待つだけだが、まだ帰って来る様子はない。

「まだかなー」

「ただいま」

ハーキュリーがまだかなと言った直後、ただいまという声と共にゴルダが帰って来た。
その声を聞いてハーキュリーはお帰りと返し、早く行こうと目を輝かせてゴルダを見る。

「よし行くか」

「わふー!」

そんなこんなで、ハーキュリーとゴルダは出かけたのであった。
そして2人がやって来たのは、ハーキュリーが前々から目をつけていた店。
幸か不幸か、クリスマスだというのにこの店はほんの数日前でも予約が取れたのだ。

「このフルコースで2人分頼む、それとこのワインをボトルで」

なんの迷いもなくフルコースを頼むゴルダに、ハーキュリーは僅かにえっ?という顔をしたがすぐに普通の顔に戻る。
やがて、食前酒が運ばれてきたのでハーキュリーとゴルダは互いにグラスを取って

「メリークリスマス」

そう言って互いのグラスを鳴らして食前酒を飲む。
端から見れば、もうそういう関係にしか見えないのだが決してそういう関係ではない。

「ゴルダってこういうところは気が利くのに、無表情さが台無しにしてるんだよなー」

「そうなってしまってるもんは仕方ない」

食前酒、前菜、スープ、メインディシュと来て、メインディシュに手をつけながらそう言ったハーキュリーに、ゴルダはそうなってしまってるもん仕方ないと返して黙々と食べる。
ハーキュリーはそれにやや不満げな顔をしながらそうなのかーと言って同じくメインディシュを食べ出す。
実にこの2人、不釣り合いながらも関係は良好なのであった。

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不釣り合いな3人のお茶

「こんにちはー」

「すみません、アルガティア様は現在来客対応中ですので待っててもらえます?」

「はーい」

ある日、何の前触れもなくコロンがアルガティアの所へと遊びに来た。
だがタイミングが悪かったのか、その時アルガティアは来客対応中。

「待っている所申し訳ないのですが、話が長引いて最低でもあと1時間はかかるかと」

「外で待ってるわ」


そのまま従者に待っているように言われて待っていたコロンであったが、30分ほどして長引きそうだというのをまた従者に言われ、上から羽織ってないと寒い外の庭園へ。

「寒っ」

ザリザリと変に固まった雪をブーツで踏みながら、庭園を歩くコロン。
リフィルもすっかり真冬に入っているようである。
一応今日は上に一枚羽織ってはいたが、生地が薄かったのでそこまで温かくはない。

「おや、今日は1人?」

手袋をはめた手を口元に当てて、ふうと息を吐いているとエゼラルドに声をかけられた。
その背には、アルガティアの双子の妹のイレーヌががっちりとした防寒対策をして乗っている。

「ええ、アルガティアに会いに来たけどあいにく忙しいみたいで」

「年の瀬だから立て込んでいるのよ」

コロンがエゼラルドにええと言うと、イレーヌがその背から飛び降りてきてそう言う。
いきなり飛び降りて来たイレーヌにコロンは少々驚いて身構えたが、すぐに構えを解く。

「女王だものね」

「それよりそんな薄手で外にいたら風邪ひくわよ、私の部屋行きましょ」

イレーヌに自分の部屋へ行こうと言われて、コロンは言われるがままに頷いてついて行く。
それから数分ほど歩いていると、庭園の離れに休憩所のような屋根だけの建物と小屋が見えてきた。

「えっ?ここで生活しているの?お城の方じゃなくて」

「城の方に自室はあるんだけど、こっちの方が便利だからいつもはこっちで生活しているの」

その小屋を見て、コロンは城ではなくここに住んでいるのかと大層驚いた顔で聞く。
それに対し、イレーヌはこっちの方が便利だからここで生活していると話す。
なお、その隣はエゼラルドの寝床らしい。

「うーん、とりあえずお湯沸かそうかしら」

イレーヌに次いでその小屋へ入ったコロン。
中は殺風景かと思ったがそうではなく、一通り生活できる家具に化粧台まである所から一応それらしい環境になっていることが伺える。

「コロン、そこの棚から茶葉取ってもらえる?」

「これです?」

イレーヌに言われて棚を探って謎の缶を出すコロン。
中身が本当に茶葉なのかどうかは分からないが、イレーヌはそれで当たっていると返す。

「姉さんはこのブレンドはあまり好きじゃないようだけど」

そう言いながら沸いた湯を注いで紅茶を作り、どこに置いてあったのか分からない菓子を出すイレーヌ。
すると、イレーヌはそれらを持って小屋の外へ出たかと思えばエゼラルドの寝床へ。
こんなところで飲むの?とコロンは突っ込みたくなったが、思っていた以上に綺麗だったので突っ込むのをやめた。

「エゼラルドも紅茶飲むの?」

「僕かい?飲めるけど好き好んでは飲まないよ。どちらかと言えば緑茶がいいかな」

これまたふと気になったのか、コロンはエゼラルドに紅茶は飲むのかと聞く。
するとエゼラルドは飲めるが好き好んでは飲まないし、どちらかと言えば緑茶がいいと答えた。
それを聞いたコロンは一言、エゼラルドに意外と渋いのねと言った。

「ささ、温くならない内にどうぞ」

「じゃあ…いただきます」

コロンがエゼラルドに意外と渋いのねと言った直後、イレーヌが紅茶の入ったカップを差し出してきて温くならないうちに飲んでと言ってきたので、コロンは飲むことに。
イレーヌの淹れた紅茶は、アルガティアの淹れたものに引けを取らない感じだったが、茶葉が違うせいか風味ががらりと変わっていた。
アルガティアが淹れたものの風味が少しミステリアスながらもまずいとは感じなかったのに対し、イレーヌが淹れたものはまずいとは言わせないと言わんばかりに風味の主張が強かったのだ。

「姉妹でも風味が違ってくるのね」

コロンのその感想に、イレーヌはうんまあねと素気ない返事をする。
その返事に、コロンは自分が何か言ってはいけないことでも言ったのだろうかという顔をした。
するとエゼラルドが

「そこまで気負うことはないよ」

と言ってくれたのでコロンがそれ以上そんな顔をすることはなかった。

「ごちそうさま、いい味だったわ」

「言ってなかったけど、これ自家製の茶葉なのよ」

飲み終えてからイレーヌに茶葉が自家製だったことを聞かされて、コロンはそうなのと言ってからさり気なく少しちょうだいとねだる。
ちょうだいと言われたイレーヌは、少し考えた後にあの缶を渡して

「これでいいなら」

と言う。
なお、コロンはその缶を優々として持って帰ったとか。

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何が何でも探りたい

「いてらー」

「変なことするなよ」

今日も仕事で外出するゴルダを見送ったハーキュリー。
あの笑えよの一件以来、ハーキュリーはゴルダに気に食わないところが出てきていた。
それが何かと言うと、秘密にしていることを全く話そうとしないところ。
気になったら徹底的に調べたくなるハーキュリーにとって、ゴルダの隠し事をする姿勢が気にくわないのだ。

「よーし、今日もゴルダのパソコンを調べてやる」

そして、ゴルダが家からいなくなると決まってハーキュリーはゴルダが隠している居ることを暴こうと家の中を徹底的に調べている。
だが、未だにゴルダの携帯は本人のガードが固くて手が出せていない。
それはパソコンの一部のデータも同じで、パスワードどころか生体認証まで求められるものまである。

「むー…」

そして、今日もウラヘムトからパソコンをぶん取ってゴルダのデータで開けそうなものがないかを調べるハーキュリー。
だが、大抵開けるファイルと言ったらゴルダの描いた絵のデータなどのしょうもないものしかない。
しかし、今日は違った。
いつものようにハーキュリーがウラヘムトが絶対に使わないソフトを一つ一つ起動して調べていると

「わふ?」

どこかのデータベースサーバーへアクセスするためのクライアントと思わしきソフトを起動。
そのデータベースサーバーのアクセス先がリフィルになっていたので、ハーキュリーは首をかしげる。
とりあえず接続してみようとあれこれクリックしてみたが

「パスワードなんて分からんぞー?」

案の定、パスワードの入力を求められた。
しかしここで諦めないのがハーキュリー、ゴルダが設定してそうなワードをパスワードとして何度か打ち込んでみたところ

「繋がったな」

認証に成功し、データベースサーバーへアクセスできるようになった。
一応、パソコンなどの知識や技術もゴルダから伝授されているので、ハーキュリーはこういった少し専門的なソフトでも使いこなせるのである。

「どんなファイルか全く分からんなー」

アクセスできるフォルダをこれまた一つ一つ見て回るハーキュリーだが、どれもこれも知識がないので理解できないものばかり。
だが、その中にハーキュリーでも理解できそうなフォルダがあった。
そのフォルダ名は

「個人カルテ-ゴルダ=R=アルカトラス」

どうやらゴルダ個人のなんらかのカルテが保存されているフォルダのようだ。
ゴクリと唾を飲み込むと、ハーキュリーはマウスカーソルをそのフォルダに合わせてクリックした。
すると、そのフォルダの中にまた数字名のフォルダ一覧がずらりと並んでいた。
フォルダの数字名は、おそらく年月日であろう。
一番古い数字で、今から100年以上前のものもある。
ハーキュリーはこの世界の歴史をあまり詳しくは知らないが、どうやらリフィルにはハーキュリーが知らない何かがあるようだ。

「開いてみるか…」

ハーキュリーはそう呟き、とある一つのフォルダを開く。
その中には電子カルテのファイルがまたずらりと並んでいて、一応閲覧できるソフトがこのパソコンには入っているらしく、開けた。

「いたって普通のカルテだな、血圧とか血液検査の結果とか…」

ハーキュリーがそのカルテを開いてみると、予想どおりゴルダ個人のカルテだった。
書いてあることはいたって普通で、気になるといえば逐一血液検査の結果が書かれていることぐらいだろうか。
だがこの血液検査の結果、ただの検査結果ではないことがすぐに分かった。

「わふふ?進行度が49の100?」

それは、血液検査の結果の最後の辺りに書かれていた進行度という数字。
これは何の進行度なのか?ハーキュリーは少し考えてある答えを導き出す。

「んー、竜滅病の進行度かー?」

ゴルダから竜滅病のことは口すっぱく言われており、発病が確認された者は逐一その進行度を血液検査で調べるということも聞いていた。

「まさかなー、ゴルダが竜滅病だなんてな」

ハーキュリーは、まさかなーとは思いつつも一番古いカルテから見始める。
記録は、5歳そこらから始まっていて、途中で推定年齢に切り替わっていることも分かった。
つまり、ゴルダにはかなり長い空白の時間があるのである。
ハーキュリーは、その空白の時間に少し興味が出てきたが、年月日が飛んだ始めのカルテに

「これより以前、記憶思い出すことすらままならず。脳になんらかのプロテクトが掛けられている模様」

と書かれていて、謎が謎を呼んだ。
だがここで、ゴルダが帰ってくる気配を感じたのでハーキュリーはデータベースサーバーへの接続を切ってソフトを終了させてウラヘムトに席を譲った。

「ますまし怪しいな、ゴルダの過去」

悪巧みでもするかのような顔でによによしながら、ハーキュリーはそう呟いて帰ってきたゴルダにお帰りと言ったのであった。

その日の夜。
この家の夕食には不釣り合いなすき焼きを食べながら、ハーキュリーはゴルダに

「なあゴルダ、正直に言って欲しいんだけど。持病で竜滅病持ってるのか?」

と聞く。
それにゴルダはムサヅキ産の焼酎をぐいと飲んでから

「すまん、言ってなかったな。確かに竜滅病を持病で持っている。だが心配無用、薬でどうにか押さえ込んでいる」

確かに持病に竜滅病があると話した。
薬で押さえ込んでいるというゴルダの一言に、ハーキュリーはそうかーと言いつつ

「無茶するんじゃないぞー?」

無茶するなと言い、この話を切ったのであった。
ここで、ハーキュリーはゴルダの隠していることを探るのを諦めたわけではないと断りを入れておく。
まだまだ序の口なのだ。
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あなたの笑顔を見てみたい

それは、ハーキュリーがゴルダの居ない間にゴルダの持っていたアルバムを見ていた時のこと。
幼少期と思われる時代から、大学を卒業したと思わしき時代までのものしかなかったが、それでもハーキュリーが暇つぶしに見るには最適なものであった。

「ほへー…」

じっと幼少期からの写真を見ていたハーキュリーは、ゴルダのある変化に気づいた。
それは、幼少期はかすかに笑っていると判定できるような表情で写っていたのだが、大体12歳くらいを境目に全くもって無表情な顔でしか写っていなかったのだ。
それは、大学の卒業アルバムも同じで、幻想獣医学部の竜医学科の卒業生一覧の写真にあったゴルダの写真は、やはり無表情。

「おっかしいなぁ」

ハーキュリーは、12歳以降にゴルダが笑っている写真がないかを探すべく、部屋の本棚も全部調べて探し、ここ10年くらいに撮られたと思わしき写真を見つけたハーキュリー。
だが、それらの写真も全て無表情で目すらも笑っていない。

「一体何があったんだ?ゴルダに」

それを聞いてみようと、ハーキュリーはゴルダが帰ってくるのを待った。
そしてその夜、帰ってきたゴルダにハーキュリーは

「なーなー、なんでゴルダって笑わなくなったんだー?」

と単刀直入に聞く。
するとゴルダは、なぜそんなことを聞く?と目線で訴えてきたかと思えば

「触れられたくない過去、それはお前にもあるだろう?この件には触れないでくれんか?」

この件には触れるなと言い捨てて風呂に入ってしまった。
ゴルダのあからさまな態度の豹変っぷりに、ハーキュリーはこれは何かあるなと思って独自に調べてみることに。
手始めにハーキュリーが当たったのは、アルガティア。
ゴルダから大学に入るまでの間をアルガティアの所で過ごしたと聞いていたので、一番手っ取り早いと思ったのだ。

翌日、ゴルダが家に居ることを確認してからハーキュリーはこっそりアルガティアの所へ。
ハーキュリーが訪ねた時にはアルガティアは国務をしていたのだが、ハーキュリーに気付いてどうしたのかと聞いてきた。

「ゴルダの過去についてちょっと教えてほしんだが」

ハーキュリーがそう聞くと、アルガティアは少し困ったような顔をして

「私が言ったって言わないようにね?」

「言わないのだ」

ゴルダに自分が話したと言わないようにと釘を刺され、ハーキュリーはそれに言わないのだと断言する。
そしてアルガティアは、ゴルダの生々しい過去を話した。

「なんて過去なんだ…」

「結構きつい過去なのよ」

アルガティアからゴルダの過去を聞いたハーキュリーは、その内容に絶句。
なんて過去なんだと言ったハーキュリーに、アルガティアは結構きつい過去だと返す。

「んー…ありがとうなのだ」

ハーキュリーはその後そのまま帰宅したという。

それから数日後。
ハーキュリーは、ゴルダの過去を踏まえても本人の笑顔を見てみたいと思って仕方なかった。
だが、笑うところを見たいとストレートに言ったところで、触れるなと言っただろと言われるのがオチなのでどうしようかを考える。

「うーん」

ウラヘムトからパソコンをぶん取り、ネットサーフィンをするハーキュリー。
なお、パソコンを取られたウラヘムトは居間でシンギュラリティをやっている。

「あっ、ここの店のミルククレープ美味しそうだな」

あちこちサイトを巡ってたどり着いたあるクレープ屋のサイトを見ていたハーキュリーの目に、その店で一番の人気があると書かれているミルククレープの記事を見つける。
サイトには、雑誌やテレビで何度も取り上げられたと書いてあった。

「ここに行こうと誘ってみるかー」

ハーキュリーは、やましい考え無しでゴルダにここに行こうと誘うことを決めたのであった。

そしてゴルダが帰ってきたので、ハーキュリーはゴルダに

「遊びに行かないか?」

とストレートに聞く。
ゴルダはそれに、どういう風の吹き回しだとハーキュリーを見た。
それに対してハーキュリーは

「なんとなくだ、ゴルダと2人きりで密な時間取ったことないからな」

2人の密な時間を取りたいからだと答える。
その返答に、ゴルダは顎に手を当てたまま黙りこくってしまう。

「聞いてるのかー?」

そんなゴルダの頬を摘みながら、ハーキュリーは聞いているのかと聞く。
普通ゴルダにこんなことをすれば、その腕を捻られること間違いなしなのだがハーキュリーは一応ゴルダが信用している相手なのでそういうことはしない。
それをいいことに、返事をなおも返さないゴルダの頬を、ハーキュリーは横へ上へ下へと摘んだまま引っ張る。
するとゴルダは

「そういうことか、それなら構わんぞ」

そういうことなら構わないと、くどさがある返事を返した。
ハーキュリーはゴルダのその返事を聞いて

「わふふー、じゃあ明日行くぞ」

明日行くぞと言いつつゴルダをもふった。

翌日、どうにかゴルダを遊びに行くという名目で連れ出しに成功したハーキュリー。
そのまま例のクレープ屋まで行って、ミルククレープを購入。
近くの公園のベンチに腰掛け、無言で食べるゴルダと美味しそうに食べるハーキュリー。
その様子は、不釣り合いな異種族のあれにも見える。

「美味しいかゴルダ?」

「ああ」

ニコニコしながらハーキュリーが聞くと、ゴルダはぶっきらぼうな返事を返す。
やはり、笑顔を見せる気配は一向にない。

「心から笑えよゴルダ」

「その感情はとうの昔に捨てた、喜と哀の感情などいらぬ」

あまりにもゴルダが笑わないので笑えよと言ったハーキュリーだが、ゴルダから返ってきた返事でハーキュリーは思わず吹き出した。
それに釣られてか、かすかにゴルダも

「ふっ…」

鼻で笑ったのだ。
それを聞き逃さなかったハーキュリーは、まるで鬼の首でも取ったかのように

「あー!今ゴルダ笑ったなー!?」

と1人で騒ぐ。
しかしゴルダは無表情を堅持したまま

「所詮表面的な鼻笑いだ」

表面的なものだと切り捨てた。
だがそれを認められないハーキュリーは

「笑った、絶対笑っただろ?認めろー」

ひたすら認めさせようとゴルダを小突いたとか。

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祝え、何を?誕生日を

「んむー…こんなにもふもふ…」

「ぐっすりだな、よしよし」

未だにぐっすり寝ているフウを見て、ゴルダはそう呟く。
今日はフウにとって少し大切な日、誕生日なのだ。
しかしそれはシアがフウが生まれた世界での暦を、この世界の暦換算で割り出したものなのだが、本人はそれには気付いていない。

「どこ行く?」

「ああ…ちと留守頼まれていいか?」

「やー」

フウが寝ているのを確認し、出かけようとしたゴルダをアルガントが呼び止めた。
それに呼び止められたゴルダは、留守番しててもらえないかと言う。
アルガントは留守番を了承して、ゴルダに手を振って見送った。

「第一ミッションは成功。さてどんなケーキがいいかだな」

どうにか家を出、市街地の方へと軽トラを走らせ始めたゴルダ。
フウがどんなケーキが好きなのか分からないので、どういうのを作るかで悩んでいた。
ちなみに、今日のフウの誕生日はコロンやアルガティア達を交えて行う予定。

「レアチーズケーキか、それとも普通のチーズケーキか…あるいは生クリームかチョコ。どれも捨てがたいな」

一向に考えがまとまらないまま、ゴルダはそのまま買い出しに向かったのであった。
一方その頃、アルガティアというと

「悪いわね、手伝いからわざわざ来てもらって」

「いいんです、料理もお菓子作るの好きなので」

早めにやって来たコロンと厨房でフウの誕生日会に出す料理と歌詞を作っていた。
ケーキはどうにかフウにバレないようにゴルダが作ってくるとのことだったので、アルガティア達は作らない。

「じゃあ、クッキーの方お願いするわ」

「任せて」

コロンにクッキーを作るのを任せ、自分はフウが好きそうな料理を直感で作り出すアルガティア。
ちなみにこの直感、わりと当たるようだ。
一応何を作ろうとしているのかを明かしておくと、揚げ物少々とサンドイッチにシチューである。

その頃ゴルダは、スーパーでまだどんなケーキを作るかを悩んでいた。
早く買って帰らないとフウが起きて、作っているところを見られるというのにまだ決められないでいるのだ。

「やはり生クリームでいくか?いやいや、チョコも…ええい、こうなったら小さいのを両方だ」

チョコか生クリームかの2択まで絞ってどっちにしようか決められずにいたゴルダだが、最終的に小さいのを両方作ることにした。
そうと決まればと、ゴルダは値段も見ずに材料をカゴに入れてそそくさと会計を済ませて家へと戻る。

「ただいま」

「あん?帰ったのか、フウならまだ寝てっぞ」

「それは都合がいい」

帰ってくると、居間のテレビでバイオハザード6をしていたウラヘムトが、フウはまだ寝ていると言ったので、ゴルダは好都合だと台所へ。
ケーキの土台自体は両方同じなので、まずは土台の部分を作り始めた。
なお、ゴルダは菓子作りもごく普通のパティシエレベルの腕前はあるらしい。
それから大体1時間後。

「よし、土台は完成だ」

土台を作り終えたゴルダは、次はそれぞれのクリームの方を作り出す。
この時点で、フウはまだ起きてきていない。
クリーム自体はそこまで作るのに時間はかからないので、手際よくやって30分くらいしか掛からなかった。

「さて…次が問題だ」

ケーキ作りにおける最大の難関は、クリームを塗ったりしてちゃんとしたケーキにする工程。
集中力を切らせば失敗確実の作業であり、ここでフウが起きてきたら大変なことになる。
ゴルダは、フウが起きてこないことを確認しながら作業を進めた。
だが、作業を始めて10分くらい経過しただろうか。

「んー、よく寝た…」

どうやらフウが起きてしまったらしい。
一応、ケーキを何のために作っているのかは嘘をついて誤魔化せるが、それでも集中力が途切れるのは間違いなし。
ちゃっちゃと完成させてしまおうと、ゴルダが作業の手を速めた時だった。

「エ〝ェーイ」

どういうわけだか、突如としてアルガントが部屋のドアを押さえつけ、フウが出てこれないようにしたのだ。

「あれ開かない?なんでだろ?」

ガチャガチャと開けようとするフウだが、仮にもアルガントも竜。
フウくらいの力ではびくともしないのは目に見えていた。
ゴルダはこれをアルガントの枠な気遣いだと思い、アルガントがドアを押さえつけている間に急いで完成させ、冷蔵庫にケーキを隠す。

「ふう、やっと開いた…」

ゴルダが冷蔵庫にケーキを隠したと同時に、アルガントは何事もなかったかのようにドアの前から退く。
すると、フウが前のめりで倒れこみながら部屋から出てきた。
フウは間に合ったかという顔をしているゴルダを不思議そうに見ながら

「何かあったの?」

と聞く。
すると、ゴルダは何でもないと嘘をついてフウの遅い朝食の準備を始める。
フウはそれを見て変なのと言いながら食卓の椅子へ座った。
流しの中に洗い物が溜まっているが、フウは気にすら止めずにゴルダの用意した遅い朝食を食べ始める。

「昼後、アルガティアのところ行くからな」

「なんで?」

「行ってからのお楽しみだ」

その朝食の最中、ゴルダから昼後にアルガティアところへ行くと言われ、フウはなんでと聞く。
しかしゴルダは行ってからのお楽しみだと、はぐらかして答えてはくれなかった。

「変なのー」

フウはそう呟きつつ朝食を食べ終えたのであった。

そして昼後。
フウは先に行っていろと、座標指定テレポートでアルガティアのところへと送られた。
どうにも今日のゴルダはおかしいと薄々気付き始めていたフウ。
とりあえずアルガティアに会わねばと探していると、途中でイファルシアにこっちこっちと手招きされた。

「何かな?」

なんの警戒も抱かずにイファルシアに近寄るフウ。
だが、近寄った途端にフウはイファルシアに目隠しされてしまう。

「わっ…!何、何なの!?」

「落ち着いて、変なことはしないわ」

いきなり目隠しをされて慌てるフウに、イファルシアは変なことはしないと言って落ち着かせる。
それを聞いてフウは、一息ついてどうにか落ち着いた。
なお、その後はイファルシアに手を引かれてどこに連れて行かれるのかも分からないままに連れて行かれるしかなかった。

「目隠し取るわよ?」

「うん」

ある程度歩いたところで急にイファルシアが止まって目隠しを取ると言ったので、フウは了承する。
目隠しを取られたフウの目の前にあったのは、ケーキや料理をが用意されたテーブルと、その側にはアルガティアやゴルダにコロンとイファルシア。

「誕生日おめでとう」

「今日だったのね、おめでとうフウ」

「うふふ、おめでとう」

「驚いた?おめでとう」

そしてアルガティア達に言われたのは、誕生日おめでとうの一言。
フウはあまりの出来事に理解が追いつかず、しばらく上の空になった後に

「な、なんで僕の誕生日知ってるのさ!?」

と全員に突っ込みを入れた。
それに対してはゴルダが

「答えは単純、シアから聞いた。それだけだ」

シアから聞いたと答える。
その答えを聞いたフウは、あはははと笑って

「そうだよね、神様は何でもお見通しだよね」

と気の抜けた声で言った。

「さあさあ、主役も来たし、ろうそくの火でも吹き消してもらおうか」

「それもそうね」

何故か長いろうそくが2つのケーキに1本ずつ立てられており、ゴルダがそれにいつも使っているライターで火をつける。
火が灯ったろうそくは、それっぽい雰囲気を醸し出しながらゆらゆらと燃えている。

「さあ、フウ。一思いにふっと消すんだ」

「交互に消しちゃダメ?」

「好きなようにしていいと思うわ」

ゴルダに一気に吹き消せと言われ、フウが交互に消しちゃダメなのかと聞く。
それにはコロンが好きなようにしてもいいと、ゴルダの方を見ながら答える。
フウはコロンがいいならと言って、ろうそくの火を交互に吹き消した。

「歳をとること、それはまた一つ成長したって証なのよ」

「へえー」

ろうそくの火を消し終えた直後、アルガティアにそんなことを言われてフウはへえと返す。
そこへコロンがフウを後ろから抱きしめて

「誕生日って素敵だと思わない?」

と耳元で囁くように聞く。
それにフウは恥ずかしがりながらもうんと答える。

「さあ、食べようか」

「わーい」

その後は単なる食事の時間となった。
その途中、フウはゴルダに

「どうしてここまでしてくれるの?」

と素朴な疑問を投げかける。
元の世界へ帰れるまでの間、居候させてもらっている側なのにここまでされるとは思っていなかったからだ。

「それはお前…いや、居候でも屋根の下で共に住んでいるからこそだ」

とゴルダは、フウに納得のいかない返事を返した。
そのへんじにフウは案の定納得のいかない顔で

「はぐらかさないでよー」

と言った。
誰かを祝うというのは、とても素晴らしい事なのである。

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姿同じど雰囲気は違う

雪積もるセイグリッドの城の敷地内をのそのそと歩く雨月と輝星。
雨月はアルカトラスに用があり、輝星は単に遊びに行きたいから付いてきたと言った感じ。

「単独で来れば良いものを…我の仕事のついでに付いてきたのだ?」

「うーん、何となくかな?」

自分は仕事で来ているのに、なぜ付いてきたのかと雨月に聞かれ、輝星は何となくかなという輝星らしい返事を返す。
これには雨月も頭上に黒いもやもやしたものを浮かべながら

「ともかく、アルカトラス殿と我が仕事の話をしている時は邪魔するでないぞ?輝星殿も仮にも次期竜王であろう?分別はつけてもらわねば」

「はーい」

いつものように輝星に仕事の邪魔をしないようにと釘を刺す。
それに対して輝星は、本当に理解しているのかどうかも判断し難い口調ではいと返事を返した。

その頃、アルカトラスの自室では

「うーむ、なぜか知らんが俺が国王の仕事を肩代わりする日はいつも仕事量が多い」

「しかも今日はシアも忙しいからね」

かなり久々にアルカトラスと同じ姿に変身したゴルダがアルカトラスの代わりに仕事をしていた。
ちなみに、アルカトラス本人は異界へ会談に出ていて明日までは帰ってこない。
本来ならシアが肩代わりするのだが、そのシアすらも今日は忙しいとのことでゴルダに白羽の矢が立ったのだ。

「よし、これはいい。次」

「はい兄さん」

ようやく1つの書類の山を片付け、サマカンドラに言って次の書類の山へ移るゴルダ。
ドランザニアを除くすべての国は、未だにアナログで国の仕事に関する書類を処理していて、溜まると毎日このようなことになるのである。
ゴルダもアルカトラスの肩代わり以外でこれ位の量の書類の処理を依頼で請け負ったことがあった。
だが、その時は人の姿かつ、分身を使って並列処理ができたのでよかったのだが、今回は訳が違う。
アルカトラスと同じ姿で仕事をしていないと面倒なことになるばかりか、この姿で分身を使うことは魔力などの関係上無理。
なので、正確かつ素早く処理するしかないのだ。

「ああ、そうだったわね…あんたは知らないわね」

「なんだサフィ?」

と、ここでサフィが部屋に入って来てゴルダを見上げてそんなことを言う。
それに、なんだとゴルダが聞くとサフィは

「つい最近アルカトラスが国交締結した世界から2人。来てるのよね、国王級のが」

「通せばいいだろ、誰なのかは爺さんの記憶借りて調べとくから」

雨月と輝星が来ていることを伝えた。
それに対してゴルダは、アルカトラスの記憶から誰か調べておくから通せばいいだろと返す。

「そう、じゃあ通すけど変なことしないようにね」

「しないに決まっているだろうが」

通すけど変なことをするなと言われ、ゴルダはするかとサフィに返して2人を通させた。


「こんにちはなのだ」

「こんにちはー」

いつもの調子で、サフィにアルカトラスの部屋へ通してもらった雨月と輝星。
だが、アルカトラスは仕事に集中しているのか何も返事も返さないどころか、こちらに気付いてない。
そして、アルカトラスの方がこちらに気付くまで待っていると

「おっとこれは失礼、こんにちは。今日はまたどうしたのかな?」

この時点で、輝星はこのアルカトラスがまたシアと同じような雰囲気を出していることに気付く。
だが、雨月から仕事を邪魔するでないと釘を刺されていたことを思い出し、何も言わないことに。

「実はな…」

「ふむぅ…」

アルカトラスの姿をした雰囲気が違う別の誰かと仕事の話を進める雨月を見て、輝星はいつ気付くのかなとそわそわする。
だが何事もなく話は進んでいき、茶を持ってきたサフィも何も言わない。

「むぅー、絶対アルカトラス様じゃないんだけどなあ」

そんなことを心の中で呟いた輝星は、アルカトラスの部屋を出てサフィを探す。
サフィなら何か知っているはずだと、確信したからだ。

「あら、また城内散策?」

「あっ、丁度良かった」

アルカトラスの部屋から出て1分もしないうちにサフィを見つけた輝星は、アルカトラスに感じていた違和感のことを話す。
すると、サフィからは意外な返事が帰って来た。

「確かにシアでもないのよね。ああ見えてアルカトラスの孫よ、同じ姿取っているだけで」

「えっ?えっ?」

さすがの輝星も、あの雰囲気がシアとも違うアルカトラスが、アルカトラス本人の孫であると聞いて面食らう。
全くそれが理解出来ていない輝星を見かねたサフィは、その孫であるゴルダのことを色々と教えた。

「ああうん、よく分かったよ。でも雨月には黙っておこ」

「混乱するから、やめた方がいいわね」

と言って、2人でアルカトラスの部屋へ戻ると、そこにはいつもの姿に戻ったゴルダと雨月が何やら話をしていた。
そのゴルダの姿を改めて見た輝星は、一瞬だけだが純粋にかっこいいと思った。

「えーっと、輝星だったか?」

「そうです、輝星です」

ゴルダに名前を確認され、輝星はそうだと返す。
するとゴルダの方が顔の前で両手を合わせてお辞儀をしながら

「ゴルダ=アルカトラスだ、以降見知り置きを。輝星」

「初めまして、光竜宮時期竜王の輝星です」

名を名乗ったので、輝星も礼儀として名乗り返す。
その後は他愛のない話をしていたのだが、ふと輝星が

「そういえばゴルダさんって全く表情変わらないね」

ゴルダのあまりの無表情さを指摘。
雨月はこれに、それを聞くのは失礼ではないのかという顔をしたが、ゴルダはどうということはないという目線を投げかけて

「昔色々あってな、それ以来表情が変わったことは全くない」

昔色々あってそれ以来こうであることを話す。
それに対して輝星は

「作り笑いでもいいから、笑ったほうがいいと思うよ?人からの信用はそれなりにありそうだけど、笑えばもっと信用が得られると思うんだ」

より信用を得るためには作り笑いでもいいから笑ったほうがいいと言う。
ゴルダは輝星のこのアドバイスに対しては、鼻で笑いつつ

「そうか、だが俺には無理に近いな。あらゆるものがねじ曲がりすぎた」

自分には無理に近いと返す。
と、ここで雨月が

「自らの可能性を否定するのは本人の自由だが、可能性を否定し続けて踏みにじるのもどうかと思うぞ…?。これは花吹という別の王子の言葉であるが。『芽を出さない種はないし、育たない芽はない。そして葉や花、身を実らせない木もない』というのがある。これはすなわち全ての物事には僅かながらにも可能性はあるということだ」

花吹が昔言っていたことを持ち出して、全ての物事に可能性はあると話す。
それに対してゴルダはそれもそうだがと言って

「それは結局本人の気の持ちよう、ではなかろうか?アドバイスはアドバイスとして受け止めるにこしたことはないが」

本人の気の持ちようだと言った上で、アドバイスはアドバイスとして受け止めると言った。
雨月はそのゴルダの一言に

「なかなか、難しい考えを持っているようじゃな。しかし人の話を受け止められるという点は大きい…では今日はこの辺で失礼しよう」

難しい考えの持ち主だと言った上で、今日はもう帰ると輝星と共に一礼して部屋を出て行った。

「難しい考えの持ち主、か。面白いことを言う奴だ」

雨月と輝星が帰った後、ゴルダはそんなことを呟きながらタバコのようなものを吸い出す。

「悪い人ではなかったんだけどなあ」

「ああいう難しい考えの持ち主は珍しくはないのだ、輝星」

帰り道、雨月と輝星はゴルダのことを話していた。
両者共々、そこまで悪い印象は受けなかったようだが、雨月は難しい考えの持ち主だというイメージをもってしまったようだ。

「また今度、ゆっくり話をしたいなあ」

輝星のその一言に、雨月はそうだなと返した。

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モカとコロンとフウと折り紙

「起きろ、朝だ」

「うーん、あと10分…」

「今すぐ起きないとそのまま冬の外に連れ出すぞ」

「わーっ!分かりました起きます起きます!」

ある冬日の朝。
フウたちよりも早く起きていたゴルダがフウを起こしに来たのだが、もう少し寝かせてと言い出したので冗談半分で外に連れ出すぞとゴルダが言うと、フウは飛び起きた。

「お、おひゃようござましゅ…」

「寝ぼけて呂律回ってないぞ?」

おはようと呂律の回っていない言葉で言ったフウに、ゴルダは寝ぼけて呂律が回ってないという。
それを言われたフウは、顔を真っ赤にして言い訳をしだす。
それにゴルダは、落ち着いたら顔洗って台所来て飯を食えと言って部屋を出た。

「うう、またやっちゃったよ…」

ゴルダが台所へ戻った後、寒いので毛布に包まったままフウはそう呟く。

「おはやー、また寝坊?」

「おはようさん、お寝坊さんだな」

「寒いんだもん」

フウが台所へ行くと、先に朝食を食べているアルガントとウラヘムトにそれぞれおはようと同時に寝坊かと言われてフウは寒いんだもんと返す。
今日の朝食は、トーストの上にベーコンと目玉焼きを乗せたものと、温くなっているホットミルク。
さすがに温め直してとも言えず、フウはそのまま食すことに。

「そうだフウ、今日は少し遠出するぞ」

「えっ」

「今日は遠出するぞ」

トーストを食べ始めたフウに、ゴルダが単刀直入にそんなことを言ってきたので、フウは食べる手を止めてえっと返す。
それにゴルダは、聞こえなかったのか?という顔をしつつ、もう一度遠出すると言う。
フウがここで暮らすようになってから、ゴルダは暇さえあればフウをいろんなところへ連れ出ている。
それにどういう意図があるのかは分からないが、おそらく刺激を受けて何かを学べという意図であろう。

「遠出って、どこにです?」

「南の方のリフィルという島国だ」

どこに行くのかとフウが聞くと、ゴルダはリフィルという島国と答える。
フウはすぐに頭の中にある知識を全て引き出したが、該当するものは見当たらなかった。
どんな国んなのか聞いても、ゴルダは実際に見た方が早いと言うと思ったのでフウはなるほどと頷く。

そして朝食後。
座標指定テレポートと言う名のした後で気持ち悪くなる移動手段でリフィルへとやって来たフウ。
なお、アルガントとウラヘムトはいつものように留守番である。
辺りを見回した感じでは、セイグリッドとそんなに変わらない気もするが、やはり雰囲気が違っていた。

「おい、行くぞ」

「あっ、はい」

辺りを見渡すのに没頭していると、ゴルダに行くぞと言われてフウははいと言ってついて行く。
そのままついて行き、目の前で現れたのは下手をすれば少し大きめの屋敷と思うくらいの規模の城。
フウもこれは城なのかと思ったが、以前ゴルダに見せられたリフィルの国章が彫られている門があったのでここが城であると認識した。

「あらゴルダさん」

「っと…ああ、コロンか。また遊びに来たのか?」

城の敷地内を歩いていると、見慣れた顔に出会ったので、ゴルダが誰かと思い出すとそれがコロンであることが分かった。
しかし、今日のコロンはまた1人見知らぬ顔触れの者を連れて来ているようだ。
見た感じ、コロンと似ているところもあるのだが雰囲気が全く違っている上に若干コロンよりも背が低い気がする。
ただ、首輪だけは雰囲気が同じだったが。

「その子は?」

「ああ、フウと言ってな…」

コロンの連れているもう一方が誰なのかを考えていると、フウのことを聞かれてゴルダは コロンにフウのことで知っていることを全て話す。
するうとコロンはふふっと笑うと

「大変ですね、でもそうやって責任持って誰かの面倒を見る人。私好きですよ」

責任を持って面倒を見る者は好きだと言う。
それにゴルダはそうか?と当たり障りのない口調で返事を返し、コロンに逆にその連れている子は誰なんだと聞く。
するとコロンは

「えーっとね、この子は私のいとこのモカ」

「こんにちは、モカです。コロン姉さんから話は聞いてます」

「これはどうも、ゴルダだ」

「えっと、あの、その…フウです。白牙フウ」

モカに挨拶され、普通に名乗り返すゴルダに対し、フウはあまり初対面の相手への挨拶の仕方が分からないのか、おどおどしながらも自らの名を名乗った。

「あらあら、フウちゃんったら」

そのフウの様子を見て、コロンはそんなことを言う。
これにはフウも顔を赤くするほかなかった。

「ねえねえ、フウ君。遊ばない?」

「えっ、遊ぶって何をして?」

そんなフウに、モカが唐突に遊ぼうと言ってきたので、フウはドキッとして何をして遊ぶのかと聞く。
だが、モカはただニコニコするだけで何も答えない。
すると、ゴルダが

「折り紙でもしたらどうだ?」

折り紙をしたらどうかと提案。
するとモカとコロンがいいわねと言って、近くの石造りのテーブルと椅子の所へ行く。
それに釣られてゴルダとフウもそこへ行ってそのまま座る。

「折り紙くらいなら…ほら」

椅子に座ったゴルダは、どこからともなく数十枚の折り紙を出してテーブルの上へ置いた。
フウはそれを見て、これはなんなのかとゴルダに聞く。
それにゴルダは

「この世界の裏の大陸の方の国と、異界のとある国の昔ながらの遊びだ。どれ、試しに何か折ってみよう」

そう言って、ゴルダは折り紙を1枚取ってコロンたちが分かりやすいようにゆっくりと折り出す。
なお、モカはゴルダのを真似るようにして自分でも折っている。

そして数分後。

「ここをこうして、最後に調整したらこれで蝶の完成だ」

ゴルダが折り上げたのは蝶だった。
しかもそれだけではない、その折り上げた蝶に若干の魔力を込めると、先ほどまでただの折り紙だった蝶はひらひらと命でも吹き込まれたように舞い出したのだ。

「すごいわ、こんなこともできるのね」

「永続的ではないが、な。できるようになると面白いぞ」

コロンにすごいと言われて、ゴルダは永続的ではないができるようになれば面白いと返す。
一方、ゴルダのを真似て同じものを折っていたモカはと言うと

「うーん…」

途中で折るのが止まっていた。
それを見たゴルダは、モカに

「そこで止まっていたか、そこからはな…」

その途中からの折り方を直々に教える。
するとどうだろうか、途中で止まっていたモカの蝶が完成したのである。

「他のはないのかしら?」

とコロンに聞かれ、ゴルダはあるぞと答えてモカとコロンとフウの3人にそれぞれ折り紙を渡して

「少し簡単なものを折ってみるか」

と言って別の物の折り方を教え始めた。
ちなみに何かと言うと、オードソックスな鶴。
これを、時間をかけてゴルダは3人に折り方を教えたのだ。

「できたわ」

「できたー」

「できたよ」

それから5分ほどで、ゴルダが折り終わると同時にフウたちも折り終えた。
3人の折り終えた鶴を見て、ゴルダはいい出来だと言いたげな顔をして

「じゃあ今度は自分たちで折ってみろ。俺はなにもしないから」

3人に自分で折りたいものを折ってみろと言う。
するとコロンは、すぐに思いついたのかまた新しい折り紙を取って何かを折り始めた。
モカとフウはというと、2人で何を折るかを話し出す。

「こんなところで折り紙?」

「ここはそんなに寒くないだろ?」

3人がそれぞれ折っているのをゴルダが見ていると、そこへアルガティアがフィルスを連れてやって来た。
なお、3人とも折り紙に夢中でアルガティアには気付いていない。
そんな3人を見て、アルガティアはゴルダに折り紙を1枚出すように言う。
ゴルダは、何をするのかも聞かずに折り紙を出してアルガティアへ渡す。

「こうするの」

すると、アルガティアはその場で立ったままその折り紙で鷲を折り、魔力を込めて数分だけ自立するようにして3人の方へ飛ばす。
折り紙で折られた鷲は、本物さながらの動きをしながら3人の目の前で急降下した。
それにコロンたちはびっくりして、その折り紙の鷲が飛んできた方を見る。

「ご機嫌いかが?」

「こんにちは、どちら様ですか?」

ご機嫌いかがと声を掛けたアルガティアに、コロンがどちら様かと聞く。
それを聞いたゴルダは、どちら様以前だという顔をしながら

「一応この国の国王なんだがな、そして俺の従姉妹」

この国の国王で自分の従姉妹だと3人に教える。
それを聞いたコロンは、へっ?という顔をしてアルガティアを見てから、どちら様かと聞いたことを慌てて詫びようとした。
だが、それを言う前にアルガティアはコロンを制して

「いいのよ、礼儀さえなっているなら。アルガティアよ」

礼儀さえなっているならそれでいいと言ってから名を名乗る。
一方フィルスは、我関せずと言った感じで3人をじーっと見ていた。

「こ、コロンと言います」

少しの間を置いて、コロンは自らの名を名乗った。
それに次いで、フウとモカも名を名乗る。

「うふふ、せっかくだからもう少し複雑なの教えるわ」

3人が名乗った後、アルガティアはもう少し複雑なのを教えると言って3人の間に割り入るように座る。
それと同時に、フィルスはテーブルの真ん中辺りに座って単独で折り紙を始めた。

「さっきの鷲ってどうやって折ったんです?」

「鷲?慣れなてないと難しいけどいい?」

「大丈夫、やってみます。教えて下さい」

コロンにさっきの鷲をどう折ったのかを聞かれて、アルガティアは慣れてないと難しいがいいかとコロンに聞く。
その問いに、コロンは大丈夫です教えて下さいと返した。
その返事を聞いたアルガティアは、分かったわと頷いて新たに折り紙を4枚出す。
フウとモカにも折らせるようだ。

「ふっ…いい雰囲気だ」

完全に蚊帳の外なゴルダは、その様子を黙って見ていた。

「こうです?」

「長めに取りすぎね、もう少し短く…そう、そんな感じで」

「これでいいのかな?」

「うんうん、いいのよ」

逐一確認してくる3人に、何も言わずに その都度教えるアルガティアの姿はとても微笑ましいものがあった。
なお、この後コロンたち3人はそれぞれ微妙な出来ながらも鷲を折り上げたという。

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他人の武器、勝手に使うことなかれ

ある日のゴルダの家。
今日は早朝からゴルダが出かけているので、ハーキュリーが留守番をしている。
だが、いつもはゴルダについて行くのでハーキュリーが留守番をするのはこれが初めてだ。

「暇なんだな」

家事も一通り終わり、アルガントとウラヘムトは面倒見ずとも自分のことは自分でなんとかするのでやる事がなくなったハーキュリー。
ここへ来てから、そういう文明のものに対する知識などは身につけて来たのでテレビも見ようと思えば見れるし、パソコンだって使えるがハーキュリーは興味がないので手をつけていない。

「そういえばゴルダの部屋に気になるロッカーがあったなー、何だろ?」

ゴルダの家に居候するようになってからは、掃除はほぼ全てハーキュリーがやるようになっていた。
その際にゴルダの部屋を掃除するとき、決まって部屋の隅に鍵のかかったロッカーがあるのをハーキュリーは覚えている。
このロッカーに関しては、ゴルダからは鍵がどこにあることくらいしか話されておらず。開けるなとも中に何が入っているのかは聞かされていない。

「気になるのだー」

そう言って、ハーキュリーはロッカーの鍵を取ってから部屋へと向かう。
部屋では相変わらずウラヘムトがパソコンでゲームをしていて、アルガントは竜医学の学会誌を読んでいる。
なので、特にハーキュリーを気にしている様子はない。

「オープン」

そして、ロッカーの鍵を外してその扉を開けるハーキュリー。
するとそこには、ハーキュリーがよく分かる銃器や見たこともない銃器。
その他には投擲系の武器や、魔道具系統と思わしき武器が綺麗に整頓されて保管されていた。
何を隠そう、このロッカーは武器を保管しておくためのロッカーだったのだ。

「ゴ、ゴルダって結構物騒なんだなー…」

その武器の多さに、引き気味のハーキュリー。
いつもゴルダが持っている武器と言えば、腰に差している片手剣やどこにしまっているのかも分からない手術道具くらい。
そのゴルダがこんなにも武器を持っていたという事実を、ハーキュリーはあまり認めたくはなかった。
しかし、見慣れない銃器への好奇心が勝ってしまい、ハーキュリーはロッカーからある銃器を出す。
ハーキュリーが出したのは、見た感じでは知識の片隅にあった狩猟用散弾銃。
だが、ただの狩猟用散弾銃ではないらしく。入念な改造が施されている雰囲気を醸し出している。

「うーん」

ハーキュリーはその狩猟用散弾銃を戻し、次の銃器を取り出す。
今度はハーキュリーも使える上によく分かる自動拳銃だ。
だがこの自動拳銃、ハーキュリーでも見たことがないモデルだ。

「結構ずっしり来るのだー」

手に取った感じでは、銃本体がそこそこの重さを誇っているようでずっしりときた。
そして戻そうとした瞬間、うっかり引き金に手が当たっていたらしく、戻した瞬間にドンという発砲音と共にロッカー内で弾が跳弾して天井に命中した。

「あ、危なかったのだー…」

ハーキュリーは冷や汗をかきながら、もう銃器を触るのはやめておこうと、今度は投擲系の武器に手をつける。
投擲系で最初に目がついたのは、星型の刃物。
見た感じ、これは手裏剣とよばれる忍者の投擲武器だろう。

「ニンジャー、ニンジャー。ニンジャのハーキュリーでござるー」

などとハーキュリーはふざけてその手裏剣を投擲。
その手裏剣は、アルガントの頭のすれすれを通過して壁に刺さった。
なおいきなりハーキュリーに手裏剣を投擲されたアルガントは何事なのという顔をしている。

「ごめんなのだー」

そう言ってハーキュリーは壁に刺さった手裏剣を抜いて、ロッカーへと戻した。
その次にハーキュリーが取り出したのはスプレー缶に似たピン付きの何かと、同じくピン付きのパイナップルに似た鉄の何か。
その一方の缶の側面には

『爆発物 取り扱いに注意せよ』

と書いてあったが、ハーキュリーは気にせずにそれをまじまじと観察。
なお、これは両方とも手榴弾である。

「こっちは面白い形して…あっ」

パイナップルに似た方を上に放り投げるなどして遊んでいたハーキュリーだが、カチッという音がしたことに気付き、それを見るとなんとピンが抜けていたのだ。
ハーキュリーはそれを慌てて掴むと、窓の方へそれを思いっきり放り投げる。
すると、そのパイナップルに似た鉄の何かは窓ガラスを割って外へ。
次の瞬間、爆発音とともに煙が漂ってきた。

「わふ…これ直さないとゴルダに怒られるのだー」

煙をどうにか外へ追い出し、ハーキュリーはとりあえず魔法で窓ガラスを直してロッカーを閉めて何事もなかったかのようにする。
なお、この後ハーキュリーは帰ってきたゴルダにロッカーから手榴弾が1つ消えてるが知らないかと聞かれ、知らないと嘘を突き通してやり過ごしたという。

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シアと風呂

その日、セイグリッドは夕方からの最高気温が0度という寒さを記録していた。
当然、シアの塔は寒いなんてレベルではなく何もしてなければ凍死まっしぐら。
そんな塔の上でゴルダは、エシュフィルトに言われて何もしなければ凍死するようなこの寒さの環境でなければ使えない魔法の練習に付き合っていた。

「どうだ?」

防寒のために首にマフラーだけを巻いているという風貌で、ゴルダはエシュフィルトに話しかける。
何かがあると困るので、一応シアにもサポート側に回ってもらってその魔法を試しているのだが、一向に成功する気配がない。
寒さという環境の条件は揃っているのだが、どうにも氷属性の魔法とエシュフィルトの相性が今日は悪いらしく、十数回挑戦して全て失敗に終わっている。

「エシュフィルト、これ以上やると何もしてないから体温的にもまずい。次で失敗したら今日はやめよう」

「成功するまでやるわ、もう一度行くわよ父さん」

「全く、言っても聞かない娘だ…」

次で失敗したら今日はやめるぞとゴルダが言ったのに対し、エシュフィルトは成功するまでやると断言し、ゴルダにスタンバイさせる。
それにゴルダは、エシュフィルトに聞こえない声量で独り言を呟いて構える。
なお、ゴルダの役割はエシュフィルトが放ったその魔法の威力を計測するというものだ。

「いいぞ、来い」

「っ…」

ゴルダが準備完了だという意思を示すと、エシュフィルトは詠唱の構えへ入る。
それをシアは北風に体毛を逆立てられながら静観、なんとも暇そうな表情をしていた。

「いける…!」

エシュフィルトはそう心の中で呟きながら、発動へと段階を移す。
今度は発動までは成功したが、問題は次の解放が上手くいくかどうかだ。

「!」

ここまで来たら解放も成功させねばと、エシュフィルトは目を見開いて魔法を解放。
すると、絶対零度の冷気がゴルダめがけて吹き荒れたが、それも一瞬。
数秒ふいたかとおもえば、すぐにその冷気は止んだ。

「なるほど、面白い魔法だな」

「ふう、やっと成功した」

どうにか成功してほっとしていたエシュフィルトが突然

「うっ、寒い…」

「相性悪い時に氷属性の魔法使ったからよ、すぐ風呂で温まった方がいいわ」

寒いと言い出したので、シアは氷属性の魔法を相性悪い時に使ったからだと言って風呂に入るように促す。
なお、この時シアはゴルダにも入るでしょ?という目をしていた。

「1人で入らせろ」

シアが言いたいことを察したのか、ゴルダは1人で入らせろと言う。
それを聞いたシアは、何だか納得がいかない顔で

「そんなに嫌?」

と一言だけ聞く。
それに対してゴルダは、なんだかんだと理屈をこねて一応断ったのだが

「まあ、いいから入りなさいよ」

と結局無理矢理入れられる事になった。

場所は変わって、セイグリッドの大浴場。
アルカトラスやシアの大きさでも入れるように造られているので、それくらいの大きさなら難なく入ることは出来る。

「やれやれ」

エシュフィルトとシアが先に入ったのを確認してからゴルダは風呂場へ入る。
実際の浴場内は、かなりの明るさを放つ石で作られた照明で照らされ、シャワーなどはなく掛け流しとなっていて、体などを洗う場所には天然の温泉水が流れ出ている。
これは石をくり抜いて作られた湯船の方も同じで、岩肌に開けられた穴から温泉水が流れ出、排水魔法で流れ出た湯などは全て所定の場所へと流されているという。

「もう湯に入ってるのか、早いな」

湯船の方では、かすかにシアの影が見えており、既に湯に浸かっていることが伺える。
だが、エシュフィルトの影は見えなかった。

「天然温泉水だと違うな」


ゴルダの家の水道は汲み上げなどではない純粋な水道水なので、ここの温泉水と湯の当たり具合が微妙ながらも全然違う。
そもそも、気にするほどのものではないのだが。

「よし、上がるか」

なお、ゴルダは滅多に湯船に浸かることはなく、大抵は体を洗って終わりなことが多い。
なぜ湯船に浸からないのかと理由を聞かれるとゴルダは必ずこう返す。

「いざという時どうする」

全くもってゴルダらしい返事と言えるだろう。
だが、今日は違った。
なぜならば、上がろうとした瞬間にシアが異次元の手でゴルダを湯船に引き寄せて入らせたからだ。

「おい」

「いいじゃない、たまには」

「そういう問題じゃない」

大抵こういうやり取りが起きるのは、ゴルダとシアの間ではいつものこと。
なお、ゴルダが引き寄せられたのはエシュフィルトと対面の方。
湯気がすごくて互いに姿ははっきりとは見えないが、今の状態はまさしく混浴。

「いい湯ねえ、でしょ?」

「知らん」

「あらあら」

やはりゴルダはシアには逆らえないのであった。

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小説(一次) |

ちょっと変わった迷子

ゴルダの何でも屋としての仕事は実に多岐に渡るが、その中でも報酬を取ることが全くと言っていいほどない仕事がある。
それは、異界から時空の歪みなどで別の世界からこの世界へ放り出されてしまった者を保護するなどという仕事だ。
大抵、こう言う場合は向こうが礼をさせてくれないかと言われない限り、ゴルダが報酬を取ることは全くない。
そして、今日もそんな仕事が唐突に舞い込んできたようだ。

「うんざりするくらいに降ってるな」

冷たい本降りの雨が降るあまり舗装されていない道の中を、ワイパー全開の軽トラを運転して帰宅途中のゴルダ。
今日も都心部の方で依頼を片付けてきた帰りなのだが、ご覧の通り天気予報では言ってなかった本降りの雨に降られ、若干不機嫌になっている。
だがそれでも、無茶な運転はせずに安全運転をしているのはさすがと言ったところだろうか。

「続いて天気予報です。ドランザニア中部に先ほど大雨洪水警報が発表されました、河川などには危険ですので絶対に近づかないでください」

棒読みにも聞こえるラジオを聞きながら、ゴルダが軽トラの速度を落とした時だった。
視界の隅に、雨に打たれて呆然と震えている何者かの横を通り過ぎたのだ。
それに気付き、何だと思ったゴルダはギアをリバースに入れてその辺りまでバックする。

「この辺りだったはずだが」

大雨に打たれるのも気にせず、ゴルダは懐中電灯を持って外へ出る。
冬に入って日の入りが早くなっているため、辺りは既に真っ暗。
その上、大雨で余計に暗くなっているので視界もあまり良くない。
そんな中でも、懐中電灯の光と自分の目で先ほどいた何者かを探す。
そして探し始めて数分、8か9歳くらいの子供の獣人を発見した。

「大丈夫か?こんな所にいると風邪ひくぞ」

ゴルダはその獣人に話しかけてみるものの、獣人は震えるだけで何も返事を返さない。
言語が通じているのかどうか以前に、冷たい雨に長時間打たれていて返事を返す気力すらないほどに寒さで衰弱しているのが、長年医者をやってきた中で培った診察眼で確信できた。
無論、このまま何もしないで放置していたら命に関わるのでゴルダは本人の意思を確認せずにそのまま抱き抱えて自分の軽トラまで戻る。

「…この世界の者の匂いがしないな。また面倒な奴を保護しちまったか」

助手席に座らせ、たまたまあったタオルで頭を拭いてから暖房を最大にしてゴルダは家へと急ぐ。
なお、ここから家までの距離は安全運転でも数分という距離だった。

「よし着いた。まずは濡れてる服脱がして、暖炉の前に座らす。これで行こう」

ガレージの中へ突っ込むようにして軽トラを入れ、ゴルダはそそくさと降りて助手席側の獣人をまた抱えて家の中へ。
案の定、アルガントとウラヘムトは部屋にこもっていたので邪魔は入らないだろう。
ゴルダは真っ先に獣人の服を脱がせ、部屋干しされていたバスタオルで体を拭いてからブランケットを羽織らせ、一先ず暖炉の前へ座らせた。

「これで大丈夫だな」

そう言って、ゴルダは様子を見つつ夕食の支度を始めた。

それから1時間くらいが経過しただろうか。

「う、うーん…へくしっ!」

ゴルダにほぼ強引に保護された獣人は、しばらくうとうとしていたが唐突に目を覚まして辺りを見る。
まず最初に気付いたのは、自分がどこかの家の中で暖炉の前に座らされていたということ。
次に、服が全部脱がされて身に纏っているのはブランケットただ1枚。

「あ、あれー?ここどこ?」

なおこの獣人、名を白牙フウという。
言われたことなどを額面的に受け取ったり、親譲りの天然な性格の持ち主の獣人だ。

「なんだかいい匂いする…」

背後から漂う匂いに、フウが振り向くとそこには台所に立つ見知らぬ男が居た。
どうやら、せっせと夕食の支度をしているらしい。
夕食の準備をしているというこの見知らぬ男の状況から、フウは少し嫌な予感がした。

「あはは、まさかね…」

「おう、動ける位には温まったか?今飯の用意してるぞ」

まさかねと言っていると、その見知らぬ男がこちらに気付いて話しかけてきた。
一応、フウが理解できる言語を話しているので、その辺は問題ないだろう。
しかし、飯の用意をしているという見知らぬ男の一言にロウは

「へっ?温まった?飯の用意?…」

「どうした?」

冷や汗を垂らしながらその男を見る。
なおこの男は、フウが飯の用意をしているという一言を、自分を料理するという意で受け取っていることには気付いてないようだ。
そして次の瞬間、フウは

「うわあああ!」

と叫んで家の中を逃げ回り出す。
男は、フウが何をしたいのかが全く理解できないようで、何がしたいんだこいつはという目で見ている。

「げ、げ、玄関はどこー!?」

フウは男に変な目で見れれているのも御構い無しに、ここにいると自分は料理されてこの男の夕食にされてしまうと思い込んでいるらしく、とにかく逃げ回る。
そしてやっとの事で玄関と思わしき扉を見つけて外へ出たフウだが

「ま、まだ止んでないの?」

外は未だ大雨で、止む気配は寸分もない。
これぞまさしく背水の陣、絶体絶命だ。

「おいおい、どういうふうに理解したかは分からんが落ち着け」

「た、食べる気なんでしょ!?僕を!本に出てくる悪い魔女みたいにさ!」

男は落ち着けと言うが、フウはここで自分を食べる気だろと本音を漏らす。

「何で亜人を食べなきゃいかん?幾ら何でも人とそれに類する者を食うのはいくら飢えていようがやってはならんことだ」

だが、男の言っていることはまだ8歳ばかりのロウには難しかったようで

「しっ、知ってるんだからね。そんなことを言って安心させておいて後から食べる気なんでしょ!?」

安心するどころか、余計に疑いと敵対心をむき出しにして話を聞こうとしない。
これには男の方も呆れたのか、いきなりフウをひょいと掴み上げると台所の方へと戻る。

「や、やめてー!」

「お前を食わんという証拠を見せてやる」

掴み上げられてじたばたと抵抗するロウを物ともせず、男は台所の椅子に座らせて

「大人しくしていろ、テーブルの行儀は分かるだろ?」

と言ってフウの前に皿を出すと慣れた手つきで料理を盛り付ける。
ここでフウもようやくこの見知らぬ男が自分を食べようとはしていないということを理解した。

「お前がどこから来たのかは分からないが、大雨に打たれて凍えてたから家に連れてきた。あのままほったらかしとくと命に関わるからな」

「えっ、あっ…そうなんですか。ありがとうございます。僕白牙フウと言います」

早く食えと促しながら男に自分が保護して家までの連れてきたと言われ、フウは先ほどの誤解を詫びるような口調で礼を言ってから自らの名を名乗る。
男は、それを気にしてないという顔をしながら

「俺はゴルダだ。今日は泊まっていけ、明日どうするか決める」

ゴルダと名を名乗った。
なお、この後は何事もなく一夜を過ごしたとか。

そして翌日。
ゴルダからどこから来たのかと聞かれて、フウは全く分からないと返した。

「それは困ったな」

「うーん…」

ゴルダに困ったなと返され、フウもうーんと考え込んでしまう。
フウがこの世界の者ではないことは、お互い理解はしているのだが、肝心のどういった世界から来たのかが分からないと、フウを送り返すのが難しくなる。

「…少し出かけようか?」

「あっ、はい」

しばらく悩んでいた2人だが、ゴルダに出かけようかと切り出され、フウはそのまま出かけることに。
ちなみに、ゴルダからはどこに行くというのは聞かされていない。
そして、フウが連れて来られたのは目の前に見たこともないような城がそびえ建つ地。

「えっ?お城?」

「ついて来い」

ゴルダについて来いと言われ、フウは言われるがままについて行く。
しばらくフウがゴルダについて行くと、雲の上まで伸びている高い塔の前までやって来た。

「登るの?ここを?」

「なに、簡単だ」

登るのかとフウに聞かれ、ゴルダはあっさり簡単だと答える。
それにフウは本当なの?という顔をしつつも、ゴルダについて行く。
塔の内部は、1本の柱にむき出しの梯子が掛けられているだけの初見では危険すぎると思われるような作り。
だが、この梯子は手を掛けずとも勝手に上へ押し上げたり降ろしたりしてくれるのだ。
無論、ズレて落下という事は絶対に起こり得ない。

「うわっ…!」

「どうだ、簡単だろう?」

梯子の前に立っただけで、体が勝手に上昇し出したのに驚くフウだが、ゴルダは日常茶飯事という顔をしながらフウに簡単だろうと聞く。
塔の頂上へは、押し上げられ始めてから1分足らずで着いた。

「ん、居ないのか」

「こんなところに誰か住んでいるの?」

「一応はな」

フウがここに誰か住んでいるのかと聞き、ゴルダが一応と言った瞬間。
音もなくシアが戻って来て、ゴルダとフウをちらりと見てから

「あら、保護してたの。まあいいわ…要件はその子がどこからきたのか知りたいって事でしょ?」

フウがどこから来たのかを知りたいのだろうと聞く。
なお、フウはシアを見てかなり警戒している。

「そうだ、分かったか?」

「うーん…その前に私はシアよ、よろしく。フウ」

「はっ、はいぃ…」

ゴルダが分かったのかと聞くと、シアはうーんと言った後にフウに自分の名を名乗った。
フウは、シアのよくわからない雰囲気に押されつつもはいと返す。

「結論から言うと、少し時間がかかりそうね。この手のケースの異界の者は少なくはないしね」

「やはりか…」

シアが少し時間がかかると言ったのに対し、ゴルダはそうかと返してその場で顎に手を当てて考え込む。
なお、フウは一体何がなんだかわからないので混乱している。

「でも、完全に手がかりがないわけじゃないから1ヶ月くらいあれば元の世界に帰せるわ」

「1ヶ月、か。こっちで面倒見るのはちょいと厳しいが、なんとかする他なしと」

完璧においてけぼりなフウは、どうやら頭がオーバーヒートしたらしく、ただぼけーっとしている。

「とりあえず、頼んだぞ」

「まあ、異界から時空の歪みに巻き込まれてここの世界に迷い込んできた者ってほとんど適応してそのままになることが多いから。これくらい大丈夫よ…あっ、フウはちょっとこっちいらっしゃい?」

「えっ…はい」

ゴルダがシアとの話を終えると、シアは唐突にフウにこっちへ来なさいと言う。
ぼけーっとしていたフウは、突然我に返ってはいと言ってシアに恐る恐る近寄る。

「もふっ?」

「わわっ…!」

するとシアは、フウを前足で軽く触って微かに笑う。
フウの方はかなりびっくりしたようだが、ゴルダはまたかという顔をしていた。
こうして、フウはしばらゴルダの所に世話になったという。

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