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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

風竜風邪を治せ

ある日の家のバルコニーで、熱々の淹れたてコーヒー片手にくつろいでいたゴルダ。
そこへケタルアワシが羊皮紙を足にくくりつけてやって来た。
その雰囲気から、おそらくネルシェがとっ捕まえて一時的に使役しているものだとゴルダは確信しながらも、その足にくくりつけてあった羊皮紙を取り、ケタルアワシに羊の肉をやって帰すと羊皮紙を読む。
羊皮紙には、ニフェルムのでもなければエルフィサリドの書き方でもない字でこう走り書きされていた。

「今すぐ来て診察しなさい、エルフィサリドが風邪ひいてしまったの。 それと、ただの風邪じゃないとニフェルムの奴は言ってるわ」

ただの風邪ではないという追伸を読んだゴルダは、それが何なのかをすぐに悟る。
それは、風竜風邪と呼ばれるその属性特有の風邪。
基本的には、風竜風邪などは同じ属性を持つものかつ竜にしかうつらず。その症状も属性によってまた異なる。
例えば風竜風邪の場合、くしゃみをする度に無意識に突風を吹かせたり、さらに自身の周辺の地に強風を吹かせたりする以外は普通に人間がかかる風邪と症状は同じ。

「めんどくせえもんかかりやがって」

ゴルダはそそくさと準備をし、氷燐に乗ってスリュムヴォルドヘ向かった。

「来た来た、近寄れない。突風で飛ばされちゃう」

城の近くで待っていたニフェルムは、ゴルダをそう言いながら出迎える。
それを尻目に、ゴルダが城の方を見るとあからさまにその周辺だけが台風のようになっていた。
そして氷燐をニフェルムに任せ、ゴルダはむすっとした顔のネルシェとエルフィサリドの部屋へ向かう。
そこは、もはや普通に立っていることなど不可能なレベルの風が吹き荒れ、部屋の扉も全部吹っ飛ばされていた。

「わー、飛ばされるー」

棒読み調で呟きながら飛ばされかけたネルシェを、ゴルダはむんずと掴むと足に超重力の魔法を使ってから部屋への侵入を試みる。

「べくしっ!」

「おおっと」

ただでさえ普通に立っている事が不可能なほどの風が吹き荒れている中で、エルフィサリドのくしゃみが入った。
それによりさらに強烈な突風が吹き荒れてゴルダはバランスを崩しかけたが、なんとか体勢を立て直してエルフィサリドの所へ。

「エルフィー、これだけ言って俺は薬の材料探しに行く。これは風竜風邪だ。普通の風邪ではない」

吹き荒れる風の音にかき消されないくらいの声で、鼻をかんでいるエルフィサリドに向けてゴルダは叫ぶ。
姿はよく見えなかったが、エルフィサリドは一応聞こえていたようで、ゴルダはエルフィサリドが軽く頷いたのを確認できた。
そして、ネルシェに城の外へ出せと言うが、集中できないと言われて今度はゴルダが座標指定テレポートで城の外まで出る。

「それで?風竜風邪を治すのに必要な薬の材料って何よ?」

ネルシェに聞かれて、ゴルダはいくつかの材料を上げた。
清流の水やそこら変に生えているような野草などが挙がる中でも、特に入手が厄介なものがケタルアワシの住む山にしか生えないある苔と、その苔の上にしか生えないキノコらしい。
調合は、材料さえ集まればニフェルムがやってくれるとのことなので、その辺は問題はない。
問題なのは、どうやってそれを入手するかである。

「ケタルアワシは私から話通せば襲っては来ないと思う、でもどこに生えてるか分からないのよね」

「勘で探す、それ意外にない」

「はぁ、それだと根性で探すのと変わりないじゃないの。でも仕方ないのかしら」

どこに生えてるか分からないと言ったネルシェに、ゴルダは勘で探すと言ったがそれにネルシェは根性論と変わりないじゃないと突っ込みを入れたが、すぐに仕方ないのかしらと寛容的なことを言う。

「そうと決まれば行くぞ。氷燐、ネルシェ」

「あいよ」

「はいはい」

こうして、ゴルダ氷燐とネルシェはケタルアワシの住まう山へと向かったのであった。

「谷は流石に暑いね」

「フェーン現象が起きるからでしょ、ああもう溶けそう」

谷へと差し掛かった時、急にムッとした暑さに襲われた一行。
ゴルダは平気なようだが、氷燐は己の氷属性の力を少しだけ解放して暑さを和らげ、ネルシェにいたっては溶けそうなどと言いながら氷燐に張り付いていた。
ゴルダはそれ以上何も言わず、スッと氷燐から降りるとどこからか双眼鏡を取り出して山の方を見る。
山の方では、ケタルアワシ達がいつもにまして忙しく飛び回り、遠目からでもピリピリしているのが察せた。

「ケタルアワシは夏の終わりから秋が子育ての時期だったな、これは説得に苦労しそうだ」

「冗談でしょ?なんでエルフィサリドはこんなケタルアワシが一番ピリピリしてる時に風邪ひくのよもう」

ゴルダのケタルアワシが子育ての時期だと言ったのに反応したネルシェは、こんなことなら溶けて蒸発した方がマシだという顔をする。
だが、風竜風邪もほったらかしておけばこじらせて肺炎などにもなりかねない。
どちらにせよ薬の材料を集めて飲ませなければならないのだ。

「氷燐は涼しい所で待っててくれ」

「了解」

氷燐には涼しい所で待っててもらい、ゴルダとネルシェは山の方へ。
ここからだと、歩いて30分足らずといった距離だ。

「ねえ、走らない?」

「本当にいいのか?」

歩き始めて5分ほど経った頃、ネルシェがそんなことを言い出したのでゴルダは本当にいいのかを確認する。
するとネルシェはなんでもいいから早くと言うので、ゴルダはネルシェに自分の頭にしっかり掴まってろと言うと、本気を出して走り出す。
全くの自然の道だったが、ゴルダはそんなことを気にせずに騎竜めいた速さで山の方へと走り続け、その後10分足らずで山へとたどり着いた。

「ほら、着いたぞ」

「おろろろ…」

ゴルダの走る速さに体が追いつかなかったらしく、着いた時にはネルシェは目を回していた。
そんなネルシェを気遣い、ゴルダはネルシェが落ち着くのを待って山を登り出す。
途中、何匹かケタルアワシに警戒されたがその度にネルシェが別に雛狩りに来たわけではないと言ってくれたので、襲われずに済んだ。

「む、これが例の苔だな。だがキノコの方はない」

登り始めて10分くらいで目的の苔を見つけたゴルダだが、キノコは見当たらない。
仕方ないので、苔だけを採取してゴルダはまた山を登り始める。
なおネルシェは、後ろで浮遊しながらついて来ている。

「ほう、雲が頭上に見える」

それから、どれくらいの速さで、どれくらいの時間登ったのかは分からないが頭上に雲が見える程度の高さまで2人は登って来た。
そしてそこで、ゴルダはケタルアワシの巣穴に目を付ける。
もしかたらと思い、ゴルダはその場から巣穴の方へと飛び移り、顔を上げた。
ちなみに巣穴の中身は空っぽで、住人は居ないようだ。

「よし、これだ」

巣穴の奥を調べていると、先ほど採取した苔の上に生えたキノコを発見。
それを採取したゴルダはこのまままた山を下りるのは面倒だと、座標指定テレポートでネルシェを無視して先に下りた。

「っ…一人で下りられたようね。やるじゃない」

気がつくと、ゴルダがどこにも居ないことに気付いたネルシェはどこからオカリナを出してそれを吹く。
すると、どこからともなくケタルアワシがやって来てネルシェを乗せると飛んで山を下った。
このオカリナは、ただのオカリナではなく、音色を変えることである程度の動物を一時的に使役することができる能力を持っているオカリナ。
もちろん普通に吹くことも可能である。

「あれ?ネルシェは?」

「置いて来た、離れる奴が悪い」

そんな会話をゴルダが氷燐としていると、一羽のケタルアワシが急降下で接近してきたかと思うとネルシェが降りて来て

「このスカポンタン、私をほったらかして下りるなんてひどいじゃない!」

などと叫んだが、ゴルダは一言だけ

「俺から離れて行動する奴が悪い」

と論破してネルシェを黙らせた。
論破されたネルシェは、覚えてなさいと言わんばかりに睨みつけてそのままゴルダと氷燐と共に城の方へ戻る。
その後はどうなったのかというと、ニフェルムが薬を調合してゴルダがそれをエルフィサリドに飲ませて症状は改善したとか。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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