氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

双子のちょっとした一日

リフィルで一番大きい山、メラティス山。
メラティス山は休火山で、丁度ライラ一世ことイリアスが死去した直後に噴火を起こしたっきり一度も爆発したりしたことがない。
その山のふもとで、アルガティアとイレーヌにエゼラルド。そして時雨がこの山を登ろうとしていた。
ちなみにフィルスとイファルシアは国務の代行で留守番中である。
理由は定かではないが、イレーヌがおそらくこの山にしかない土と石が欲しいからだろう。
なお、このメラティス山で取れる土と石は、畑に入れると連作由来の病気にかかりにくくなり、土が栄養失調を起こすこともなくなるという。

「安全第一でな、怪我すると大変だ」

山を見上げながら言う時雨に、イレーヌはそこまで危険な所へは入らないわと言う。
アルガティアはエゼラルドに乗ったまま、静かに山の方を見ている。
おそらく、今日は山の天気が変わりやすいか否かを確認しているのだろう。

「急に気温下がることがあるかも」

やがて、アルガティアは口を開き、今日は急に気温が下がる可能性があると言う。
それに対してイレーヌは、そこまで高いところまでは登らないと言って山を登り始めた。
アルガティアがエゼラルドから降りずに乗ったままの一方、イレーヌは自分の足で平地でも歩くかのようにどんどん先へと進んでいく。
一応アルガティアもこの程度の山道なら普通に歩けるのだが、イレーヌが安全第一を心がけすぎてこうなっているのだ。

「歩いていい?」

一旦エゼラルドを止め、イレーヌに聞くアルガティア。
それを聞いたイレーヌは時雨と少し話をした後に

「いいけど、姉さん怪我しないでね。後で時雨にどやされるの私だから」

怪我をしないよう注意していいよと許可。
それを聞いたアルガティアは、エゼラルドの背から飛び降り、片膝を地面につけるような感じで着地。
その後すぐに立ち上がると、何事もなかったかのように歩き出す。
イレーヌはそれを見て、姉さんらしいわと言うと同じく並んでまた歩き出した。
ここで気になるのが、本当にアルガティアがインドア派なのかと言う点。
その答えは、半分は間違っている。
なぜならば、度々アルガティアは異界に行ってはそこで冒険者同然のことをすることもあるからだ。
だがその行動は、時折忍者のごとく木にジャンプで飛び乗ったり、木から木へ飛び移ったりなどアウトドア派のイレーヌみたいなことをすることもあるとエゼラルドは言う。

登り始めて大体1時間。
突然イレーヌが歩みを止めて持って来ていた袋に石を詰め出す。
実はこの辺り一帯に転がっている石はほぼ全て過去の噴火の際に出て来たもの。
この石は火属性の力がとても強いが、畑に入れてしまえば年中土の中の温度を一定に保ってくれるので畑がやりやすくなるという。
その他、石を砕いて土に混ぜると良質な肥料になるというから不思議である。

「姉さんもこれに石詰めて」

じっと石を見ていたアルガティアに、イレーヌは袋を渡して詰めるように言う。
イレーヌが持っている袋は、すでに満杯だがまだ必要らしい。
アルガティアはそれに頷いて、時雨と石を袋に入れ始める。

「火山から出て来た割にはつるつるしてるな」

「そこがこの火山石の不思議なところ」

普通ならば、ごつごつしている火山石だが、ここの火山石はまるで研磨したかのようにつるつるしている。
ちなみにどうしてこのようになるのかは、まだ解明されていないという。

「これくらいでいいわ、次は土ね」

アルガティアの袋も一杯になったところで、イレーヌはそう言うとまた別の袋を取り出して土の採取を始める。
それに続くように、アルガティアもどこからか別の袋を出して土を入れようとしたが、今まで黙って見ていたエゼラルドに

「いいよ、僕がやるから」

自分がやるからと言われ、アルガティアは袋だけを広げて待つ姿勢に。
するとエゼラルドは、これまたどこから出したのか分からない木のスコップでせっせと土を袋へ入れていく。
それを見ていたイレーヌは、やっぱり姉さんを連れて来て良かったわという顔をしていたという。
その後山を降りた一行は城へ戻り、アルガティアは国務へ、イレーヌは畑でとってきた石を砕いた他に土を撒いたりした。
小説(一次) |

ネルシェの家出

ある日、ネルシェはエルフィサリドとくだらないことで喧嘩をし、家を飛び出した。
その喧嘩の原因とは、夕食の席で出された料理。
エルフィサリドがそう言ったらしく、ネルシェとエルフィサリドの席には水蛇を中心とした料理が出された。
しかし、ネルシェは水蛇が食べれない以前に大嫌いだったのである。
その理由は定かではないが、一説では随分昔に水蛇に食われかけたとかなんとか。
いわゆるトラウマが蘇るので水蛇だけは毛嫌いしていたのだ。
そして、そのことを食事の席で言ったところ、エルフィサリド本人が失念していたことが判明。
それにネルシェはブチ切れてエルフィサリドと言い合いの喧嘩に。
最終的にはネルシェがゴルダの所へ行くなどと遠回りに家出すると言って飛び出して来たのである。

「もう、信じられない」

むすっとしたまま城を飛び出したネルシェは、オカリナでケタルアワシを呼び出してゴルダの家へ。
住所だけはニフェルムから聞いて覚えていたので、何ら問題はない。
無論、家出なのでゴルダへの事前連絡などなく、完全に押し入りだ。

一方、ネルシェが押しかけてくることなど知らないゴルダは

「ほわー」

「あんま長く入るなよ」

アルガントと風呂に入っていた。
ちなみにウラヘムトはずっとゲームをしているので、ほったらかしている。
やがてそろそろ上がろうとアルガントを湯船から出し、脱衣場で着替えていると

「ゴルダ、居るんでしょ?」

ネルシェの声がしたので顔を出してみると、ソファにネルシェが堂々と腰掛けてウラヘムトがゲームをしているのを見ながらゴルダを呼んでいた。
ゴルダはそれを見て何様のつもりだと思いつつも、そそくさと着替えてネルシェの所へ。

「夕食は?お腹空いたの」

「…何故に飯をたかりにきた?エルフィーとなんかあったのか?」

飯を要求してきたネルシェに、ゴルダはエルフィサリドとなにがあったのかを聞く。
するとネルシェは、聞いてよと口火を切るとエルフィサリドの愚痴を散々漏らす。
それ聞いたゴルダは、参ったなと言わんばかりにしばらく顎に手を当てて考えた後で

「じゃあ今夜は泊まってけ、明日俺から話をしておく」

今日は泊まっていけと言い放つ。
それを聞いたネルシェは、流石はと言わんばかりに抱きつこうとしたが、ゴルダにチョップで寸止めされた。
ネルシェの抱きつきをチョップで回避したゴルダは、そのままアルガントを置いて台所へ立つ。

「闇竜とは思えないわねえ」

「闇竜だよ?」

ゲームに夢中なっているウラヘムト無視し、アルガントと会話をするネルシェ。
未だにこんな奴が闇竜なのかと訝しんでやまないネルシェだが、見れば見るほどにそんなことはどうでも良くなってきた。
むしろ、弟にしたいくらいの何らかの魅力を感じていたのだ。

「角はやー」

「硬くない角なんて珍しいわ」

アルガントに角を触るなと言われても、ネルシェは角を触っていた。
その角は、意外にも硬いものではなく適度な柔さを持った不思議なもの。
なお、柔らかい角を持つ竜はとても珍しいという。
その間にもゴルダは料理を作っていて、その匂いは居間にも流れ込んで来た。

「なに作ってるの?」

「ガストロノフの竜肉版だ、程よくうまいぞ」

「うげぇっ」

「おいおい、竜肉嫌いならそうと言えよ」

何を作っているのかとネルシェが聞くと、ゴルダはガストロノフの竜肉版と答える。
それにネルシェは、どういうわけだがうげぇっと拒否反応を示す。
ゴルダはネルシェのうげぇっを聞いて、嫌いならそう言えと言う。

「そういうわけじゃないわ、食べれるわよ」

「ならいいが」

それに対し、ネルシェはそういうわけではないと即答。
ゴルダはならいいがと、それ以上問い詰めることもなく鍋の中身をかき回す。
やがて料理が出来上がり、4人はテーブルに座って夕食を食べ始める。

「おいしい」

ネルシェの一言に、ゴルダはそうかとぶっきらぼうな返事を返してグラスにワインを注ぐ。
それ以降ネルシェは一言も喋らず、ただ黙々と竜肉のガストロノフを食べていた。
アルガントやウラヘムトは時々会話をしているにもかかわらず、ネルシェだけは無言。

「ねえゴルダ」

「何だ?」

ガストロノフを食べ終え、ようやく口を開いたネルシェ。
ゴルダはグラスを片手にしながらも、聞く態度を取ってネルシェに何だと聞き返す。

「理解されていたことを忘れられるって、どんな気分?」

その問いにゴルダは一言だけこう返す。

「人によるだろうが、俺は忘れたならまた理解し直せばいいと思っている。お前は違うか?悲しいか?ひどいと思うか?自分の心の内に聞いてみな」

その返事を聞いて、ネルシェはしばらく下を向いたままだったと言う。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

ガジュマルに住み着く精霊

スリュムヴォルド城の近くには、樹齢が200年を超えるガジュマルの木が荘厳な雰囲気を醸し出しながら佇んでいる。
このガジュマルの木は、はるか昔にこの世界のこの国へ紛れ込んだ異界の者が植えて行った苗から育ち、現在ではここまで大きく成長。
そのためか、このガジュマルの木は神木としてエルフィサリドが害を与えることを一切禁じて大切に守っているという。
しかもこのガジュマルの木、赤肌の精霊が住んでいるというのだ。
だが、その精霊も昔は多くの者が見えていたのだが、今では見えるのはエルフィサリドくらい。
その背景には、妖が魔法と地球から入って来た科学などの文明によって捉われ方が大きく変わってしまったことがある。
無論、全ての者が見えなくなったわけではなく、今だに見える者は時折このガジュマルの木にお供え物をしているとか。

「ここにあるとは知ってたが、でかいものだな」

そう呟きながら、ゴルダは例のガジュマルの近くまでやって来た。
今日はあくまでも暇つぶしに来たので、別に呼ばれたとかそういうわけではない。
木の根元には立て看板で

「火気厳禁、枝を折ったり切ったりするな、お供え物は所定の場所に」

などと言った注意書きが赤い字で書かれている。
ゴルダはそのガジュマルの木の前で一礼してから、より近くまで寄った。
なぜ寺院などでの作法をゴルダが知っているのかというと、それは紫月三姉妹や氷悠などの存在の影響が大きいようだ。

「なんで俺は酒を?」

お供えはここにと書かれた看板の前で立ち止まり、何か無いかと探っていたゴルダは地酒の未開栓の瓶を取り出し、なんで持っているんだと呟きながらもその地酒の瓶をお供えした。
そしてお供え台の上には、骨だけがきれいに残された魚の残骸が無数に転がっていたのでゴルダはこれはいかんだろと一旦地酒の瓶を下げ、お供え台の上を掃除してから再び地酒の瓶を置く。

「見れば見るほど不思議なものだな」

その場にしゃがんで木を見上げながらそう呟くゴルダ。
一本吸いたい気分になったが、ここでは吸えないので一旦ガジュマルの木から離れて吸うことに。
十二分に離れた場所で吸い始めたゴルダは、ふとお供えした地酒の瓶を見る。
すると、中身だけが開栓されずにきれいさっぱり空になっていたのだ。

「結構強いのを供えたはずだが」

不思議に思いながらも火を消し、瓶を回収しようとまたガジュマルの木へ近寄った時だった。
どこからともなく、赤肌のゴルダの身長の半分の何かが気の上から飛び降りて来て

「お前か?酒を供えたのは?」

上から目線口調で単刀直入に聞いて来たので、ゴルダはそうだと答える。
するとその赤肌の何かは

「いやはや、酒を供える奴なんてそうそう居ないから、丁度飲みたいと思ってたところだ。一つ借りだな」

急に上機嫌になってゴルダの腰を強く叩く。
その時、この赤肌の何かの全貌が判明した。
体と髪は赤く、髪にいたってはボサボサ。目は黒いが時折赤く細く光っており、身長はゴルダの半分程度。
爪は伸縮自在なようで、ゴルダに話しかけている時は不規則に伸びたり戻ったりしている。

「ふうむ、もっと欲しいならまた今度持ってこよう」

「次供えるものも酒で頼むな、んじゃ」

赤肌の何かは、また供え物する時も酒で頼むというとその場でジャンプしてガジュマルの木の中へと消える。
ゴルダは一体なんなんだと思いつつも、空の瓶を片手に今日はその場を後にしたという。

その日の夜、家へ帰ったゴルダはあの赤肌の何かについて調べていた。
ガジュマルに住み着く精霊という時点で、大方の検討はついていたので案外あっさり見つかった。

「キジムナーというのかあいつは」

キジムナーとは、日本の南西部で言い伝えられている妖怪の一種。
赤い肌をしており、魚の目を好んで食べるという。
だが、そんな妖怪がなんでこの世界に住んでいるのだろうか?
それは本人を問い質す他無い。

「今度はもっと酒を持って行ってみるか」

あのガジュマルに住み着く赤肌の何かが本当にキジムナーなのかを確かめるべく、ゴルダは色々と準備をした。

それから1週間ほど経ったある日。
ゴルダは十二分な酒を持って再びあのガジュマルへ。
お供えする前にあの赤肌の何かは現れ、今日は特に上から目線めいた態度は取らずに

「さあさあ、飲もう飲もう」

といってきたが、ゴルダはお供えする酒を飲めるはずは無いと拒否。
赤肌の何かはそうなのかと、強制することはせずに自分は瓶を開栓せずにぐいと飲み始める。

「一つ聞きたいことがあるのだが、いいか?」

ゴルダはあれもこれもと酒を飲んでいる赤肌の何かに話を切り出す。
すると、赤肌の何かはゴルダが聞きたいことが分かってたかのようにこう答える。

「私がキジムナーか聞きたいのだろう?答えは違う。正確にはキジムナーは私の仲間に当たる存在だよ。私はただこのガジュマルに宿る精霊、それだけだ」

赤肌の何かは、自分はキジムナーではなく、このガジュマルに宿る精霊だというのだ。
ゴルダはそうかと言うと、持ってきた魚を卸して赤肌の何かことガジュマルの精霊に渡した。
ガジュマルの精霊は、それを受け取ると片手で魚をがっつき、もう片手では開栓せずに飲むのがめんどくさなったらしく、開栓して瓶から直に酒を飲んでいる。

「…名前を名乗ってなかったな。私はカジェヌ、他にも名は多々あるがいつもはこの名だ」

ガジュマルの精霊は、名をカジェヌと名乗るとゴルダにもう一本開けてくれと未開栓の酒瓶を押し付ける。
ゴルダは何も言わずに片手で栓を開け、カジェヌに渡す。
カジェヌは空になった酒瓶を静かに横へ置き、ゴルダにこんなことを言う。

「私が見える者が最近は本当に少なくてな、お前とエルフィサリドくらいだ。他の者は気配までは感じても見えはしないらしい」

「なるほど、それは何が原因と?」

最近自分の姿が見える者が少なくなったというカジェヌに、ゴルダは何が原因かを聞く。
するとカジェヌは

「ずばり、心の変化というものだ。当たり前の事に感謝しないという心が見えなくしていると思っている」

当たり前の事に感謝しないという心の変化が原因と言い切る。
ゴルダはこれに

「簡単に言うと、心が貧相化している者が多いということか?」

と聞く。
カジェヌはそれにその通りと言うと、ゴルダに

「お前も、心を貧相にするんじゃないぞ。心が貧相になると器も小さくなるし寛容性も無くなる」

心貧相にするなと釘を刺し、その後いろんな話をゴルダにしたという。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

エシュフィルトの御使い

ほとんど城と塔にしか居ないと思われがちなエシュフィルトだが、実際のところは癒術師として小遣い稼ぎに行ったり、時折買い物に行くこともある。
しかし買い物に行くとはいっても、買うのは薬の材料だったり、雑誌や本だったりの他にはごく稀に下着を買いに行く程度だ。
普段着は常時ローブのみで、それ以外を着たことはほとんどない。
一応ローブ以外も着るのだが、あくまでもそれは寝巻き。
それ以上もそれ以下もないのだ。

「今日もまた買い物?」

携帯片手に出掛ける準備をしているエシュフィルトに、シアは聞く。
エシュフィルトはそれに軽く頷くと、座標指定テレポートをしようとしたがシアに止められた。

「買い物行くついでに、御使いして来てくれない?」

シアが御使いを頼んで来るなど珍しいと思いながら、エシュフィルトは

「何をですか?」

と聞く。
すると、シアは以外にも漫画のタイトルを幾つか挙げてそれを買って来て欲しいと頼んだ。
しかもエシュフィルトが読んでいるものばかりで、そのなかにはあのゴルゴ13まで入っている。
ゴルゴ13は、たまたまエシュフィルトがよりぬきめいたものを買って来て読んで気に入り、それ以来ちまちま単行本を買っているという。

「了解ですシア様」

シアから要件を聞いたエシュフィルトは、そのまま座標指定テレポートで出かけて行った。

エシュフィルトが出かけたのは、ドランザニア南部のとあるショッピングモール。
ショッピングモールにしては、規模がかなり小さいが入っている店は全てが全て、いろんな意味で濃い店ばかりで有名である。
エシュフィルトは杖をローブの中の取り出しやすいところにしまい、他の客と何ら変わりなくモールの中へと入った。
最初にエシュフィルトが来たのは、魔法を使う者ならば知らない者がほとんど居ない総合魔法用品店。
モールの1フロアの2割近い面積を誇るこの店は、魔法に使う薬瓶や鍋、その他魔道具を含む魔法に関する物を幅広く取り扱っている。
流石に魔法書は取り扱ってないが、系列店に魔法書専門店をも持っているというから驚きである。

「あったあった、杖手入れ用のクリーム」

ずらりと杖用の滑り止めテープや補修アイテムなどが並ぶ杖関連のコーナーを見ていたエシュフィルトは、いつも使っていた杖用のクリームを手に取った。
杖も革靴などと同じように、時々クリームなどをすり込んで手入れしてやらないと寿命が縮まったり不安定になったりするのだ。
ちなみにエシュフィルトがいつも使っているこのクリーム値段は、3000ゴールド程度と割と高い。

「えーっと後は…」

今度は魔道具のコーナーへ来たエシュフィルト。
だが、何も商品を手に取ることはなくそのままレジを通って店を出てしまう。
一体魔道具のコーナーで何を探していたのか?それは本人にしか分からない。

エシュフィルトはしばらくモールの中を歩き、そのうちフードコートの椅子に座ってふと携帯を出してゴルダ電話かメールでもして、ここに呼び出そうか考えたがすぐに携帯を片付ける。
あまり自分の私用にゴルダを付き合わせるのも、どうかと思ったからだ。
そして、エシュフィルトはフードコートでしばらく休むと今度はシアに頼まれていた御使いを終わらせるために本屋へ。
その本屋は2階の半分をスペースとして確保している大型の本屋で、この辺りでは一番大きい本屋だ。

「買う漫画…っとその前に」

本屋へ入ったエシュフィルトは、漫画のある場所ではなく新刊のコーナー。
そこには地球から入って来たばかりの本がずらりと並び、その中には何とも言い難いタイトルの本も並んでいる。

「無いわね」

目的の本が無かったのか、エシュフィルトはそのまま漫画のコーナーで目的の漫画を取ってレジへ。
会計のために並んでいる間、エシュフィルトはなぜシアが漫画なんかを読むのかを考えていた。
最初は自分の暇つぶしのために読んでいたものの一つに漫画が入っていただけで、シアがそれに興味を示して読み始め、これは面白いと趣味にしてしまったのが始まりである。
エシュフィルトには、シアがそんなものに興味を示すとは思っていなかったので、今日漫画を買ってこいと言われたことにも内心驚いている。

「ありがとうございました」

大量漫画の入った紙袋を抱え、エシュフィルトはセイグリッドへと戻る。
そして塔まで戻ると、シアがお帰りともふってきたがエシュフィルトはすぐに引き離して漫画を渡し、自分は杖の手入れをする。

「やっぱり面白いわねえ」

そんなシアの独り言を聞きながら、エシュフィルトは杖の手入れを続けた。

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小説(一次) |

チェンジ・ザ・オージェ

この世界へ来て以来、オージェはひたすらシアの所へ行き、魔法が使えるよう定義を書き換えて互換性を持たせろと要求を繰り返していた。
だが、シアからはいつも返事を濁されてまともな返事をされることはなく、時にはエシュフィルトに居留守を使われて門前払いされたことも。
そして、必要以上にしつこくシアに要求したためかついには

「もし余計なことしたら、元の世界に帰るまで魔力そのものも封じるからね?定義書き換えて」

と釘を刺して了承し、定義を書き換えて互換性を持たせててくれた。
だが、これが後々とんでもない事態を引き起こすとはオージェは知る由もない。

その日の夜、オージェはやけに上機嫌で帰宅して就寝前まで魔法の基礎鍛錬をしていた。
久々ではあったものの、感覚は鈍っておらず。使い心地も上々。
そして、オージェが風呂に入ってさっさと寝てしまおうと大衆浴場に行って風呂に入って居た時のこと。

「なんだか胸の辺りに違和感があるが…気のせいか?はたまたあの聖竜になんかされたか?」

湯に浸かっていると、妙に胸の辺りに違和感を感じて胸を抑えるオージェ。
シアに何かされたのかとも思ったが、気のせいだろうと決めつけてさっさと湯から上がり、着替えを済ませて家へ戻ってそのまま就寝。
問題が起きたのはその翌日だ。

朝、ナロニィとGがとっくの昔に起きて何処かへ出かけて行った後でオージェは目を覚ます。
特に変な感じはしなかったのだが、起き上がって居間の方へ歩き出した際に胸が揺れる感覚がしたので、オージェは姿見で自分を見てみた。
そこには

「……あの聖竜…許さん!」

昨夜まではなかった、決して豊満とも逆に平坦とも言えない胸が自分についているのを見て、オージェは鬼のような形相で武器を持ち、家を飛び出す。
どうやら、シアのせいで性別が反転したようだ。
その際、寝巻きのインナー姿で飛び出したので、胸がそれなりに揺れたが怒りで頭が一杯のオージェには気にならなかった。
鬼のような形相をしたままで城まで走り着いたオージェは、そのまま城の敷地内を走り抜けシアの居る塔へと辿り着く。

「覚悟しろシア!絶対元に戻してもらうからな!」

常人ではあり得ない速さで梯子を登り、塔の頂上へ着いたオージェは梯子から飛び上が、着地。
明らかな殺気に満ち溢れた笑顔を浮かべながら、まだ寝ているシアの所へ。
エシュフィルトという邪魔者は今は居らず、絶好のチャンスだ。

「ええい聖竜!起きろ!」

オージェはそう叫びながら武器を振り上げ、シアに振り下ろそうとした。
だが、シアは寝たふりをしていただけらしく。赤い片目を開くとなんらかの魔法でオージェの動きを止めると

「今までそんな姿でここまで走って来たの?エシュフィルトでも流石にないわねえ」

などと意味深なことを言う。
それを聞いたオージェは、自分が寝巻き。すなわちインナー姿でここへ来ていることと今自分の性別が反転していることに気がついて

「ぬわあああっ!」

その場で絶叫したという。
その後、一旦戻ってきたエシュフィルトから替えのローブを貸してもらい、ひとまず問題ない服装にはなったオージェ。
だがそれでも怒りは収まらず、シアにこれはどういうことか説明しろと詰め寄った結果、シアは異界から来た者用の定義の書のオージェのページを開いて調べ始めた。

「あらあら、あなたの性別の定義が反転して女になってる。互換性持たせる定義書き換えの時に変なところもいじってたようね」

結果的には、シアが間違えて余計なところの定義まで書き換えていたがために、オージェの性別が反転して女になっていたということだ。
オージェはそれを聞いて今すぐ戻せと言うが、シアは少し困ったような顔で

「ああ、うん。定義自体はすぐ戻せるんだけど、必ずしも元に戻るとは保証できないし、上に戻ったにしても1週間ぐらいかかったりするわ」

必ずしも元に戻るとは保証できない上に、戻ったとしても1週間ぐらいかかったりするとオージェに言う。
それを聞いたオージェは、ローブの上から自分の胸をさりげなく揉みながら

「戻れない確率は?」

まだ怒りを含んだ口調で聞く。
シアは少し暗算しているかのように黙り込み、数分してから

「ひどくて2割5分ね」

ひどくて2割5分と答えた。
見解によっては、かなりの確率であることに気付いたオージェは

「…元に戻れなかったら、恨むぞ。聖竜シア」

と捨て台詞を吐いて家へ帰った。
無論、エシュフィルトからローブは借りたままで。

「元の世界に戻れる日を先延ばしにされ、あの草のカーバンクルにはひどい目に会わされた上の仕打ちがこれとはな」

家へ帰ってから、オージェは自分の部屋に鍵をかけて引きこもっていた。
もはやオージェのプライドは穴空きチーズどころか、燃え尽きて灰と化している。
これ以上プライドにダメージが入るようなことがあれば、その灰すら風に飛ばされてオージェは二度と立ち直れなくなるだろう。
ろくでもないことをしてくれたシアへの怒りと、元に戻れない確率が悪くて2割5分という現実。

「…このローブ、なんだか癒されるな。もふもふしていて」

ローブの効果かどうかは知らないが、時間が経つにつれてオージェの状態は改善へと向かって行った。
それもそのはず、エシュフィルトのような癒術師の正装ともいえるこのローブには精神状態などを落ち着かせたり、軽い怪我ならほっとくだけで完治させてしまう能力を有するものが大多数だからだ。

「やっと落ち着いたが、シアは許さん」

1時間ほどして、落ち着いようやく落ち着いたオージェだが、シアへの怒りは相変わらずで、戻らなかったら決死の一撃でも食らわせるつもりでいた。
だが、いい加減怒りだけ表に出していても仕方が無いと部屋を出て家のバルコニーで魔法の鍛錬を開始。

「調整がうまく行かんな、性別で魔法の能力が左右されることは全くないのだが」

だが、どうにもうまく魔力制御が出来ないのだ。
無属性の魔法の矢を使っても、桁違いな威力で発射されて後ろに仰け反ったり、自己強化系の魔法を使えば、強化されすぎて自分の体をコントロールできなくなったりもした。
おそらくこのローブのせいだろう。
だが、これ以外に今のオージェが着れるものはない。
いやあることにはあった。

「…物は試しか」

オージェはそう呟くと、ナロニィの部屋へと侵入。
ナロニィ部屋は、槌を手入れするためのものと思わしき道具が散らばっており、服はおそらくチェストの中。
オージェはローブの裾を上げてチェストまで近寄り、チェストを開けたが

「ダメだ、あいつは獣人なせいでズボンに尻尾穴が空いている。服もサイズが合わない」

ナロニィの服は全てオージェに合う代物では無かった。
そうと分かればと、オージェがナロニィが帰って来る前に部屋から出ようとした瞬間。

「たっだい…」

「あ…」

運悪くナロニィが帰って来て部屋に入って来た所で、オージェはナロニィと出くわす。
そして次の瞬間、オージェの頭には槌が振り下ろされて

「オジさんのバカ!」

と叫びながらナロニィに蹴りの追い打ちまでされた。
だが、エシュフィルトのローブのおかげでオージェの傷はすぐに回復。
蹴られて打撲ができては元に戻りをしばらく繰り返した後、オージェは居間までナロニィに引きずられて連れて来られると椅子に座らせられた。

「どういうことなの?」

「こういうことがあってだな…」

ナロニィに問い詰められ、オージェは昨日からの出来事を嫌々話す。
そして話終えた所で、ナロニィはオージェのローブに隠れている胸を見て

「ちょっと出して見てよ、オジさん。触らないから」

「…少しだけだ」

胸を見せろと言って来たので、オージェは少しだけだと釘を刺してローブの一部分脱ぐ。
平坦でも豊満でもないが、やや大きめの胸だ。
それを見たナロニィは

「むー、オジさんの私のより大きい?」

オージェの胸を触ろうとする。それも至近距離で。
それにはオージェも流石に

「やめろ!触るな揉むな!約束はどうした!?」

とナロニィに触られないよう必死に抵抗。
そしてそのまま端から見れば、くんずほぐれつをしているようにしか見えない状態になってしまう。

「触らせてよー」

「寄るなーっ!」

「ただいまー」

そこへこれまたタイミングが悪い時に、Gが帰って来てしまったが2人はそんなことは気にも留めない。
やけに騒がしいなと、Gが居間に行って見ればそこにはあからさまにくんずほぐれつしているようにしか見えないナロニィとオージェの姿が。

「あー…」

「じ、G。これには訳がだな…」

「そ、そうそう」

「イイネー、オタノシミデー」

必死に言い訳を考える2人だが、Gは突如ものすごく怖い雰囲気の棒読み口調でお楽しみでいいねと言うと2人に背を向けて家を出て行く。
家を出たGは、まるでゾンビのようにふらふらとシアの所まで行くと

「ああ、女同士っていいよなあ。互いに胸触っても何も言われないからな。俺がやったら斬り捨て物だわ」

などと体育座りしながらそう呪詛のごとく呟いていた。

「見てしまったのかしら?何かを」

「しばらくそっとしてあげなさい…」

その後、Gはエシュフィルトとシアに慰められたという。
なお、この後オージェがどうなったのかというと、戻れないことはないが1週間では元に戻らないと言い渡されてシアに特攻して軽くあしらわれたらしい。

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小説(交流) |

風竜風邪を治せ

ある日の家のバルコニーで、熱々の淹れたてコーヒー片手にくつろいでいたゴルダ。
そこへケタルアワシが羊皮紙を足にくくりつけてやって来た。
その雰囲気から、おそらくネルシェがとっ捕まえて一時的に使役しているものだとゴルダは確信しながらも、その足にくくりつけてあった羊皮紙を取り、ケタルアワシに羊の肉をやって帰すと羊皮紙を読む。
羊皮紙には、ニフェルムのでもなければエルフィサリドの書き方でもない字でこう走り書きされていた。

「今すぐ来て診察しなさい、エルフィサリドが風邪ひいてしまったの。 それと、ただの風邪じゃないとニフェルムの奴は言ってるわ」

ただの風邪ではないという追伸を読んだゴルダは、それが何なのかをすぐに悟る。
それは、風竜風邪と呼ばれるその属性特有の風邪。
基本的には、風竜風邪などは同じ属性を持つものかつ竜にしかうつらず。その症状も属性によってまた異なる。
例えば風竜風邪の場合、くしゃみをする度に無意識に突風を吹かせたり、さらに自身の周辺の地に強風を吹かせたりする以外は普通に人間がかかる風邪と症状は同じ。

「めんどくせえもんかかりやがって」

ゴルダはそそくさと準備をし、氷燐に乗ってスリュムヴォルドヘ向かった。

「来た来た、近寄れない。突風で飛ばされちゃう」

城の近くで待っていたニフェルムは、ゴルダをそう言いながら出迎える。
それを尻目に、ゴルダが城の方を見るとあからさまにその周辺だけが台風のようになっていた。
そして氷燐をニフェルムに任せ、ゴルダはむすっとした顔のネルシェとエルフィサリドの部屋へ向かう。
そこは、もはや普通に立っていることなど不可能なレベルの風が吹き荒れ、部屋の扉も全部吹っ飛ばされていた。

「わー、飛ばされるー」

棒読み調で呟きながら飛ばされかけたネルシェを、ゴルダはむんずと掴むと足に超重力の魔法を使ってから部屋への侵入を試みる。

「べくしっ!」

「おおっと」

ただでさえ普通に立っている事が不可能なほどの風が吹き荒れている中で、エルフィサリドのくしゃみが入った。
それによりさらに強烈な突風が吹き荒れてゴルダはバランスを崩しかけたが、なんとか体勢を立て直してエルフィサリドの所へ。

「エルフィー、これだけ言って俺は薬の材料探しに行く。これは風竜風邪だ。普通の風邪ではない」

吹き荒れる風の音にかき消されないくらいの声で、鼻をかんでいるエルフィサリドに向けてゴルダは叫ぶ。
姿はよく見えなかったが、エルフィサリドは一応聞こえていたようで、ゴルダはエルフィサリドが軽く頷いたのを確認できた。
そして、ネルシェに城の外へ出せと言うが、集中できないと言われて今度はゴルダが座標指定テレポートで城の外まで出る。

「それで?風竜風邪を治すのに必要な薬の材料って何よ?」

ネルシェに聞かれて、ゴルダはいくつかの材料を上げた。
清流の水やそこら変に生えているような野草などが挙がる中でも、特に入手が厄介なものがケタルアワシの住む山にしか生えないある苔と、その苔の上にしか生えないキノコらしい。
調合は、材料さえ集まればニフェルムがやってくれるとのことなので、その辺は問題はない。
問題なのは、どうやってそれを入手するかである。

「ケタルアワシは私から話通せば襲っては来ないと思う、でもどこに生えてるか分からないのよね」

「勘で探す、それ意外にない」

「はぁ、それだと根性で探すのと変わりないじゃないの。でも仕方ないのかしら」

どこに生えてるか分からないと言ったネルシェに、ゴルダは勘で探すと言ったがそれにネルシェは根性論と変わりないじゃないと突っ込みを入れたが、すぐに仕方ないのかしらと寛容的なことを言う。

「そうと決まれば行くぞ。氷燐、ネルシェ」

「あいよ」

「はいはい」

こうして、ゴルダ氷燐とネルシェはケタルアワシの住まう山へと向かったのであった。

「谷は流石に暑いね」

「フェーン現象が起きるからでしょ、ああもう溶けそう」

谷へと差し掛かった時、急にムッとした暑さに襲われた一行。
ゴルダは平気なようだが、氷燐は己の氷属性の力を少しだけ解放して暑さを和らげ、ネルシェにいたっては溶けそうなどと言いながら氷燐に張り付いていた。
ゴルダはそれ以上何も言わず、スッと氷燐から降りるとどこからか双眼鏡を取り出して山の方を見る。
山の方では、ケタルアワシ達がいつもにまして忙しく飛び回り、遠目からでもピリピリしているのが察せた。

「ケタルアワシは夏の終わりから秋が子育ての時期だったな、これは説得に苦労しそうだ」

「冗談でしょ?なんでエルフィサリドはこんなケタルアワシが一番ピリピリしてる時に風邪ひくのよもう」

ゴルダのケタルアワシが子育ての時期だと言ったのに反応したネルシェは、こんなことなら溶けて蒸発した方がマシだという顔をする。
だが、風竜風邪もほったらかしておけばこじらせて肺炎などにもなりかねない。
どちらにせよ薬の材料を集めて飲ませなければならないのだ。

「氷燐は涼しい所で待っててくれ」

「了解」

氷燐には涼しい所で待っててもらい、ゴルダとネルシェは山の方へ。
ここからだと、歩いて30分足らずといった距離だ。

「ねえ、走らない?」

「本当にいいのか?」

歩き始めて5分ほど経った頃、ネルシェがそんなことを言い出したのでゴルダは本当にいいのかを確認する。
するとネルシェはなんでもいいから早くと言うので、ゴルダはネルシェに自分の頭にしっかり掴まってろと言うと、本気を出して走り出す。
全くの自然の道だったが、ゴルダはそんなことを気にせずに騎竜めいた速さで山の方へと走り続け、その後10分足らずで山へとたどり着いた。

「ほら、着いたぞ」

「おろろろ…」

ゴルダの走る速さに体が追いつかなかったらしく、着いた時にはネルシェは目を回していた。
そんなネルシェを気遣い、ゴルダはネルシェが落ち着くのを待って山を登り出す。
途中、何匹かケタルアワシに警戒されたがその度にネルシェが別に雛狩りに来たわけではないと言ってくれたので、襲われずに済んだ。

「む、これが例の苔だな。だがキノコの方はない」

登り始めて10分くらいで目的の苔を見つけたゴルダだが、キノコは見当たらない。
仕方ないので、苔だけを採取してゴルダはまた山を登り始める。
なおネルシェは、後ろで浮遊しながらついて来ている。

「ほう、雲が頭上に見える」

それから、どれくらいの速さで、どれくらいの時間登ったのかは分からないが頭上に雲が見える程度の高さまで2人は登って来た。
そしてそこで、ゴルダはケタルアワシの巣穴に目を付ける。
もしかたらと思い、ゴルダはその場から巣穴の方へと飛び移り、顔を上げた。
ちなみに巣穴の中身は空っぽで、住人は居ないようだ。

「よし、これだ」

巣穴の奥を調べていると、先ほど採取した苔の上に生えたキノコを発見。
それを採取したゴルダはこのまままた山を下りるのは面倒だと、座標指定テレポートでネルシェを無視して先に下りた。

「っ…一人で下りられたようね。やるじゃない」

気がつくと、ゴルダがどこにも居ないことに気付いたネルシェはどこからオカリナを出してそれを吹く。
すると、どこからともなくケタルアワシがやって来てネルシェを乗せると飛んで山を下った。
このオカリナは、ただのオカリナではなく、音色を変えることである程度の動物を一時的に使役することができる能力を持っているオカリナ。
もちろん普通に吹くことも可能である。

「あれ?ネルシェは?」

「置いて来た、離れる奴が悪い」

そんな会話をゴルダが氷燐としていると、一羽のケタルアワシが急降下で接近してきたかと思うとネルシェが降りて来て

「このスカポンタン、私をほったらかして下りるなんてひどいじゃない!」

などと叫んだが、ゴルダは一言だけ

「俺から離れて行動する奴が悪い」

と論破してネルシェを黙らせた。
論破されたネルシェは、覚えてなさいと言わんばかりに睨みつけてそのままゴルダと氷燐と共に城の方へ戻る。
その後はどうなったのかというと、ニフェルムが薬を調合してゴルダがそれをエルフィサリドに飲ませて症状は改善したとか。

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小説(一次) |

イファルシアのスイカとメロン

処暑の少し前のリフィルの庭園のイファルシアとエゼラルドにイレーヌの私物化した一角。
ここはもはや畑と化していて、もう一つの本当にそれ用の土地として存在している畑よりは小さいものの、四季に応じて毎年何かが植えられている。
そしてこの畑には今、打ち上げ花火の特大玉ほどに育ったスイカにメロンが実っていた。
ちなみにこのスイカもメロンも、エゼラルドがたまたま気まぐれで出した種から育った品種不詳の物。
メロンにいたっては、ここまで育っていると美味しくないのではと思われがちだが、そうではないようだ。
そしてそこへ、自前で作ったと思わしき変な形の麦わら帽子の姿のイファルシアとイレーヌがそれらを収穫しようと畑へ入っていた。

「なんでこんなサイズに育っちゃうんだろ、でかけりゃいいって奴じゃないのに」

「その割には食べられないほどにまずいわけじゃないのよね、不思議」

イファルシアとイレーヌはそんな話をしながら、黙々と蔓から実を切り離して行く。
切り離してほったらかしておけば、畑に入らずにこちらをじっと見ているエゼラルドが後々回収してくれるのだ。
収穫のための切り離し作業をしていると、イファルシアはこのメロンやスイカがどれくらい重いのかが気になり、試しに自力で一つ目の前にあったメロンを持ち上げてみることに。

「うーんっ」

当然ながら、イファルシアの素の力では持ち上がらない以前にびくともしない。
だが、イレーヌはというと

「よいしょっと」

少しきつそうではあるが、一応持ち上げてエゼラルドところまでは持って行くことが出来るらしい。
それを見たイファルシアは、とくにうらやましがることもなく次々と切り離し作業をしていった。
やがて、切り離し作業を終え、エゼラルドが丁寧に一つ一つ収穫したスイカメロンは、城の厨房まで運んで洗うのだ。
そこにはアルガティアがなぜか居て、イレーヌやイファルシアにエゼラルドと一緒にスイカとメロンを洗う。

「これどうするの?」

メロンを洗い流しながらイファルシアがアルガティアに聞くと、こう返された。

「メロンもスイカも半分はリキュールみたいにする、飲む用じゃなくて料理用。残りは少し菓子なんかにしてさらにその残りは保管」


なんで酒をとは思ったが、その用途が飲むためではなく料理用だと聞いてイファルシアはほっとする。
なぜならば、この城に居る者でアルガティアが酒乱だということを知らない者はいないからだ。
それに対し、イレーヌはほどほどには酒を飲むので完全にリキュールが料理用とは限らない。
やがてメロンとスイカを洗い終わり、アルガティアが従者と最初に手をつけたのはメロンリキュールというよりはメロン酒作り。
まず、メロンを下ごしらえしてから木製の樽を用意する。
樽の大きさは、一般的なワイン樽の半分くらいだ。
それをまずは漏れ箇所がないかどうかを洗いながら確認し、問題がなければ洗い終わった後で乾燥魔法ですぐに中を乾かす。
そしてその中に、カットし、種を取ったメロンとその上に普通とは違う秘密の製法で作られた氷砂糖を交互に入れて行き、最後が氷砂糖で終わるようにする。
イファルシアはこの時、カットしたメロンをくすねようとしたがあっさりイレーヌに見つかって咎められた。

「イレーヌ、倉庫からホワイトリカー持って来て」

「はーい」

イレーヌがホワイトリカーを倉庫に取りに行っている間、アルガティアは樽に詰めたメロンと氷砂糖を調べ、バランスが取れているかを確認。
確認した結果、問題はなかったのでイレーヌが持ってきたホワイトリカーを樽へと注ぐ。
もちろん、豪快に注ぐのではなく、樽の側面に沿ってこぼさぬよう静かにだ。
この作業は、従者かイレーヌが行い、アルガティアには絶対にやらせない。
なぜならば過去に、気化したアルコールを吸ったためにアルガティアは酔ったことがあるからだ。

「これでよし、イファルシア。蓋して」

イレーヌに言われるがままに、イファルシアは樽蓋を被せると上で飛び跳ねて蓋を押し込み、最後にきっちりと蔦を出し、それで縛った。
この樽は、エゼラルドが倉庫へ運び、来年の今ごろまでほったらかしておくとほどよいメロン酒になるという。
だがー、酒にするのはメロンだけではない。スイカもだ。
しかしスイカはメロンとは違う方法で酒にするらしいのだが、一体どうするのだろうか?

まず、下ごしらえをして氷砂糖を用意するまでは同じなのだが、使う酒がホワイトリカーではないようだ。
その酒の名前は不詳だが、一応リフィルの地酒らしい。
無論、原料が何なのかも分からない。
そんな酒を使い、スイカ酒は作られる。

「こんな瓶じゃ入らない、もっと大きいの」

自家製酒を作るのに一般的な瓶容器を出した従者に、アルガティアはもっと大きいのと言うが、従者はこれ以上のはないと言う。
それを見かねたのかどうかは分からないが、今までこんなところで翻訳をしていたフィルスがゴミ箱から空き瓶をいくつか集め、従者が出した瓶容器とそれをなんと錬金魔法で大きくしたのだ。

「これで文句はないよねアル?」

「一応」

その後は、メロン酒と同じようにしてスイカと氷砂糖を交互に入れてからリフィルの地酒を注いで蓋をし、それを今度はイレーヌが倉庫へと持って行く。
ちなみに今日は酒を仕込むだけで終わったのであった。

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小説(一次) |

台風一過の中で

ある台風一過のスリュムヴォルド。
ドランザニアでは地震や台風は地球ほどの頻度ではないが、まれに発生してはそれなりの爪跡を残して行く。
多少の吹き返しの風がある中で、シスイは暴風雨で飛んで来た草木などの後片付けに追われていた。

「城の方は人手足りてるから、自分の家を掃除しろって言われてもねえ」

シスイは最初、城の方の後片付けを手伝いに行ったのだが、ネルシェに人手足りてるから大丈夫と門前払いされて帰って来て自分の家を掃除しているのだ。
シスイが住むこの家の被害はそこまでではなく、ただゴミが散乱している程度。
そのゴミをまとめて置いておけば、後は勝手にゴミの回収屋が持って行ってくれる。
ドランザニア以外のこの大陸の国では、ゴミは専門職の回収屋が持って行き、処分するのだ。
その後は回収屋がそのまま処分してくれるか、回収屋が処分屋に引き渡して処分する。
なお、これらの仕事をしている者には国から予算が下りているという。

「掃除掃除っと」

あまり気分が進まない中、掃除を始めたシスイだが、どうにも既視感のある誰かに見られているような気がした。
最初は無視して掃除をしていたのだが、次第に無視できなくなって

「今度はどんな隠れ方してんのよ、出て来なさいニフェルム」

ニフェルムを名指しで呼んだ。
すると、屋根からぶら下がっていたニフェルムが現れてそのまま両手を地面について着地。
シスイはあんたよく頭に血が上らないのねと言いたげにニフェルムを見る。
するとニフェルムは、そのまま跳ね上がるようにして立ち上がってからシスイに向き直ると

「掃除進んでる?」

と聞いてきた。
聞かれたシスイは、首を横に振って

「今やってる所よ、分からないの?」

と鋭く返す。
ニフェルムはそれを聞いて、ふうんと言うとバルコニーから飛び降りて何処かへ行ってしまう。
シスイは、何なのよと思いながらもそそくさと掃除を済ませ、下のゴミ置き場へ集めた落ち葉などを置かれている容器の中へ押し込む。
容器自体はそこまで大きくはなく、この家専用であることが伺える。
なお、シスイの住む下の階は空き店舗になっているのだが、シスイが引っ越す前も越した後も誰も入る気配がない。

「そんなに私、怖いかしら?」

妙なことを呟きつつ、シスイは台風一過の中を歩いて買い物へ向かった。

「ああ、うん。さすがに魚は無いわね」

船が全て揚陸されている漁港と直売店を歩きながら、シスイは中心部の商店へ向かう。
この城下町の商店の中で、シスイが唯一行く所で店主が何とか信頼できるという場所。
だがしかし

「あら、今日いっぱい休みなのね、困ったわ」

店は閉まっていて、台風で今日いっぱいは店を閉めるという張り紙がされていた。
シスイはその張り紙を見ると、そのまま家の方へと引き返す。
その帰り道で、またもやニフェルムが現れたかと思えば

「何してるの?」

今度は何をしているのかを聞いてきた。
それにシスイは、若干カチンと来たような感じで

「何してようが私の勝手でしょ、あっち行って」

ニフェルムを追い払う。
するとニフェルムは風のようにシスイの背後を取ると

「なんだかな」

と言ってトンとシスイの背を押してまたどこかへ消える。
それにシスイは若干イラつきながら帰宅。

「やること無いわ、ほんと」

帰宅し、ベッドで寝転がって暇を持て余すシスイ。
城の掃除は人手が足りているとのことなので、また行っても追い払われるだけだろう。

「嫌ねえ、台風って」

ベッドでゴロゴロしながらシスイはそう呟いた。

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持病の薬は飲み忘れるな

朝5時半、ドランザニア中部のゴルダの家の部屋の中に携帯のアラームが鳴り響く。
半睡眠半覚醒という寝方を会得していたゴルダは無言で起き上がると、まだ寝ているウラヘムトとアルガントをほったらかして居間へ。
居間へ移動した後は、朝の準備と朝食を用意してからウラヘムトとアルガントを起こす。
久しぶりに夜中に電話が鳴ることはなかったのでぐっすり寝れたのだが、今日は朝から定期往診の予定がぎっしり詰まっている。

「いいか、絶対に喧嘩するなよ」

「やー」

「ああ、言われんでも」

2人に留守番をさせる時は必ず喧嘩をするなと釘を刺し、ゴルダは出掛ける。
そしてゴルダが出かけた後、アルガントはあることに気が付いた。
薬の入った戸棚が今朝開けられた様子が無ければ、薬を飲んだ形跡もない。
すなわち、ゴルダが朝の竜滅病の薬を飲み忘れて出かけて行ってしまっていたことだ。
これに気付いたアルガントは慌てて表へ出るが、ゴルダは既に氷燐に乗って出かけてしまっていて居ない。

「どーしよ…」

アルガントはただ途方に暮れるしかなかったのであった。
その頃、ゴルダはアルガントが心配していることなど考えずに1件目の往診先に着いて診察をしている所で、今の所はなんともない様子。

「調子は…悪くはないようだな、良好良好」

「いつもすまんねえ」

慣れた手つきでささっと診察を済ませ、いつもの薬を渡してから診察費を貰い、ゴルダは次の患者の所へ。

「む…」

「どうかしたのかい?」

その次の患者の所への移動中、ゴルダは胸に妙な違和感を感じた。
ゴルダの痛覚は、不死能力のせいでほとんど機能していないので、痛みこそはなかったが嫌な違和感。
なおこの時、ゴルダは薬の飲み忘れなど頭の中からすっぽ抜けている。
だが、ゴルダは氷燐のどうしたのかという問いかけには

「何ともない」

の一言で流す。
そして、その後も何件か往診先を回って一旦帰ることにした時のこと。
先ほどの違和感も収まり、朝の薬を飲み忘れたことにすら気付かないゴルダはアルガントとウラヘムトは喧嘩していないかということだけを気にしていた。
ちなみにここで、ゴルダが1回でも薬を飲み忘れるとどうなるのかというと、心臓周りの神経が異常をきたして動悸を起こすのである。
いわゆる発作のようなものだ。
なお、そこまで竜滅病が進行していないのに、1度の飲み忘れでなぜそんなことになるかは、詳しくはまだ研究段階だという。

「ぐっ、この動悸…薬を飲み忘れていたか」

そんな中、後数キロで家に着くという地点でついに動悸を起こし、ゴルダは顔をしかめながら呟く。
これには氷燐もただ事ではないと

「待ってろ、もうすぐ家だ」

「大丈夫だ、まだ軽い方だこの動悸は」

「意地を張るな、少し飛ばすよ」

通常の倍の速さで走って家へ向かう。
その間も終始ゴルダは胸の辺りを掴んで顔をしかませていた。
そしていつもなら後5分はかかる距離を、氷燐は2分足らずで走り切った。

「自業自得とはいえ、動悸はきついな」

家へ着くと、ゴルダは氷燐からずり落ちるようにして降りるとふらつきながらも家の中へ。
なお、ウラヘムトとアルガントは無双をやっているので、ゴルダが動悸を起こした状態で帰って来たことなど知る由もない。
ゴルダは戸棚からいつもの薬とは別に、発作を起こした時用の薬を出してすぐに飲んだ。

「飲み忘れは絶対にいかんな、まだ今日は発作が軽かっただけ運がいい」

相変わらず無双をやっていてこちらに気付かない2人を見ながら、ゴルダは呟いた。

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小説(一次) |

一次創作小説一覧 その5

・持病の薬は飲み忘れるな
1

・台風一過の中で
1

・イファルシアのスイカとメロン
1

・風竜風邪を治せ
1

・エシュフィルトの御使い
1

・ガジュマルに住み着く精霊
1

・ネルシェの家出
1

・双子のちょっとした一日
1

・拭えぬもの
1

・家に暖炉を
1

・秋の収穫
1

・氷竜の親戚は付き合い難い娘
1

・語り−アルカトラスとシアと
1

・狼竜の世話は一苦労
1

・浮遊土玉を作ろう
1

・氷花竜を追って
1

・季節外れの大雪の日に
1

・シアと風呂
1

・紫月神社での初詣にて
1

・餅を焼くようです
1

・どこでも一緒のようです
1

・あげる者、もらう者
1

・もらったらお返しを
1
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相手するはキメラ

とあるドランザニア東部の山の麓の牧場。
ゴルダはここにある依頼で一人やって来ていた。
その依頼とは、最近飼われている竜が何かに足をもがれて死んでいるなどの気味の悪いことが起きているのでそれを調べて欲しいというもの。
依頼者の牧場の主は、なんでもいいから早くその何かを退治してくれとやや参った状態で、ゴルダが来るや早く探して退治しろと牧場の方へ追いやった。

「これはひどい」

火葬準備が終わっている竜の死体を見て、ゴルダは血生臭さに少し顔をしかめながら呟く。
牧場主が言っていたように、死体は中途半端に足をもがれていたりしていた。
ゴルダはその死体にさりげなく手を合わせてからその何かを探しに向かう。

「あの死体の様子から、力づくで引きちぎったような感じがするが…」

放牧されている竜の中をかき分け、牧場で調査を続けるゴルダ。
今のところは、そのようなものは見つかっておらず、何時どの辺りに出るのかという情報も無いので、しらみつぶしに探す他ない。
ゴルダは万が一に備えて狩猟用狙撃銃を片手に構えたまま、時折放牧されている竜を触りながら牧場内を歩き回る。

「…?、なんだ今のは」

そして何気無く土を手触りで触ろうとゴルダがしゃがんだ瞬間、数十メートル先を何かが高速で通り過ぎた。
ゴルダは真っ先に狩猟用狙撃銃を構えたが、辺りには竜以外何も居ない。
唯一記憶にあるのは、ここに居る竜の足を持っている少女の姿だけ。
ちなみにここで飼われている竜は、足が強いので走るのが早いかつ重量級の荷物を持たせてもそのスピードは衰えないので、貨物運搬目的として運送会社が百匹単位で飼っていたりする。

「キメラが相手と来たか、よりによって竜よりタチの悪い相手とは」

ゴルダが何故キメラが竜よりもタチが悪いのかと言うと、キメラは合成獣であり、個体によって持つ遺伝子や動物のパーツが違う。
そのため、個体差があり過ぎるために幻想獣医師はキメラを診るのを非常に嫌がる。
今回相手をすることになりそうなキメラは、足が早い上に相当の力を持っているのは確実。
気を抜けばこちらの首が狩られるだろう。

「どうするか、戻ればさっさと退治して来いと言われるだろうしな」

一旦態勢を立て直したかったゴルダだが、一旦帰ろうとすれば牧場主がタダでは帰らせてはくれないというのに気付いて断念。
その後そのまま日が暮れるまで例のキメラを探したが、見つからなかった。

「どこに居るんだあいつは」

夜になってその場に眠りについた竜にもたれ掛かり、大豆バーをむさぼりながら星を眺めるゴルダ。
その横には無論、狩猟用狙撃銃が置かれていて何時でも来ていいようにしてある。
当然ながら、ゴルダこの状態から2秒くらいで臨戦態勢に以降できるような能力を持っている。
大豆バーを1本食べ終わったところで、ゴルダはあのキメラの気配を近くに感じ、狩猟用狙撃銃を取ってその方向へ向かう。
そしてそこにそれは、居た。
腕だけは明かりが照らされていないのでよく見えないが、耳に翼らしきものと背に翼を持っている。
左目には謎の模様、少女らしかぬボサボサの髪にアホ毛、極めつけは首輪をつけたキメラの少女だ。
キメラの少女はこちらに気付いているようで、じっとこちらを見ているがゴルダは迷わず銃口を向けて警戒する。
無論、距離は一定間隔を保ったままでだ。

「…!」

向こう側が動いたので、ゴルダも間髪入れずに動いたがキメラの少女は次にゴルダが行動を起こすよりも早く走り去って行く。
そしてゴルダが狩猟用狙撃銃を構えながら辺りを見回すが、キメラの少女の姿は消えていた。
だが、今夜は犠牲が出ることはないだろうとゴルダは確信してその日は野宿。
翌日また例のキメラの少女を探すことにした。

そして翌日、竜たちが起き出す前にゴルダは行動を開始。
だが、例のキメラの少女は案外簡単に発見できた。
なぜならば、そのキメラの少女は牧場の外れの森の中で寝息を立てていたからだ。

「…」

だが、ゴルダは寝込みを襲撃するような真似はせずにただただ少女が起きるのを待つ。
依頼は退治とされているが、どうにもゴルダにはこのキメラの少女を殺める覚悟など毛頭ない。
むしろ、昨夜以降このキメラの少女に妙な感情を抱いていた。

「やあ、お目覚めか?最も俺が言っていることを理解してないだろうが、それは大した問題じゃない」

それから1時間後、ようやく起きたキメラの少女にゴルダはそう話かける。
キメラの少女はまばたきしながらゴルダを見ると、何かを要求するように手を出した。
どうやら、自分に朝飯をよこせと言っているらしい。
これにゴルダは参ったなという顔をしながら、首輪をちらりと見る。
薄汚れ、すり減ってきている首輪のタグのような部分には、かろうじて読める文字で

「シタキリ」

というこのキメラの少女らしき名前が刻印されていた。
無論、この世界の言語で書かれたものではないのだが、ゴルダは何故か読むことが出来たのだ。

「とりあえず移動しようか、母さん?」

この時、何故ゴルダがキメラの少女ことシタキリを母と呼んだのかは、全くもって謎のまま。
だが、昨夜シタキリがじっとゴルダを見ていた時になんらかの能力を使ったとすれば辻褄は合うだろう。
しかしその事の真相は、シタキリ本人しか知り得ない事由である。

そしてその後、牧場主の目をかいくぐってゴルダはシタキリを連れて逃げるように家へと帰った。
その際、痺れを切らした牧場主が雇ったとしか思えない、数人のハンターと思わしき者に追われたのだが、ゴルダはシタキリを肩車したまま手製の煙玉を投げてやり過ごしたという。

「ここが俺の家だ」

そのまま走りに走った上で座標指定テレポートで家まで帰って来たゴルダは家へ着くやシタキリを地面へ下ろす。
降ろされたシタキリは、一発重いパンチを食らわせた。
どうやら早く飯をよこせと言いたいようだ。

「まあ待ちなって」

そんな重いパンチを食らっても平気な顔をしながら、ゴルダはシタキリに待てと言う。
ちなみに、いつもなら氷燐にアルガントとウラヘムトが出迎えてくれるのだが今日は居ない。
なぜならば、ゴルダがどっかに数週間旅行に行ってこいと行かせたからだ。
そしてその行為は、どうやら吉と出たようである。

「母さん、まず飯の前に風呂入ろうか」

と言って、ゴルダはシタキリを風呂場へ連れて行こうとするがシタキリはその場で踏ん張って頑として動こうとしない。
その態度から、風呂は勘弁という意を読み取ったゴルダは何をしたのかと言うと

「ほら、動くな動くな」

湯が入ったボウルにタオルを入れて湿らせ、とりあえずはとシタキリの頭だけを慎重に拭く。
その際も、シタキリはやめろと言わんばかりにゴルダが頭を拭く手を払い除けたが、ゴルダはそれでも無視して拭き続け、30分ほどでシタキリの頭は少しまともになった程度には綺麗になった。

「こんなものしかないけどいいかい母さん?」

またシタキリから重いパンチを受け、ゴルダは冷凍庫からこの間ミートローフにしようと買って放置していた牛肉の塊を見せる。
シタキリはそれを無表情な顔で見ると、ゴルダから奪い取ろうとする。

「解凍してないのに食えるわけ…やるな」

それを解凍しようと、ゴルダがレンジの前に立った瞬間シタキリはそれをぶん取ってがっつき出す。
それを見たゴルダは、一言やるなとだけ言って後は知らん顔を決め込んだ。
シタキリはその後30分くらい牛肉の塊にがっついていたが、やがて食べ終わると外へ行こうとしたのでゴルダはそれを腕を掴んで止める。
するとシタキリは離せと言わんばかりに抵抗したが、予想以上にゴルダの力も強かったために、最終的にはふんぞり返って諦めた。
その後も、シタキリの行動に悩まされながらもゴルダはなんとか一緒に過ごした。

やがて、2週間と少しが経過したある日のこと。
ゴルダはシタキリとの生活にも慣れ、2日に一度は2人で狩猟に行くくらいにはなっていた。
ゴルダが何時ものようにシタキリの代わりに狩猟をし終えて帰って来たのだが、シタキリの気配を感じない。
だが、ゴルダはさほど気にも留めずに家の中へ入ると、出る時は閉まっていた窓が開いており、風で普段は全く閉めないカーテンが風になびいていた。

「窓なんて開いてたか?はて?」

成果物を一旦置き、窓を閉めようと窓に近寄った時だ。
シタキリの羽根が落ちているのを見つけたゴルダは、シタキリがもうここには居ないことを察した。
だが、不思議とゴルダにはシタキリを最初にここへ連れてこようと決めた時からそれは分かっていたのである。

「居なくなったということは、もうそこまで時間が残ってないんだろう。残念だが仕方ない」

なぜ連れて来てもすぐにシタキリが居なくなると分かっていたのか?
それは、シタキリに残されていた時間だ。
しかしなぜゴルダにその残されていた時間が分かったのか、それは謎に包まれたままだ。

「しかし居なくなるとまた、静かなものだ」

密かに描いていたシタキリの絵を見ながら、ゴルダはまたどこかで会えれば会おうという目線をその絵へ送った。

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小説(交流) |

風鈴の鳴る頃に

夏特有の蒸し暑い風が吹くドランザニア中部の夏の昼下がり。
暑さで若干参っている氷燐と、勝手にどこからか出したタライに水を張って水遊びするウラヘムト。
ゴルダはこんな暑さの中でも畑で野菜を収穫中で、アルガントはゴルダの部屋でネットをしている。

「暑くないのかい?」

「暑いが水分と塩分を摂取してれば熱中症にはならんよ」

上は肌着、下はいつものズボンというおかしな格好で野菜を収穫しているゴルダに氷燐は暑くないのかと聞く。
だがゴルダは水分と塩分さえ摂取してれば暑いが熱中症にはならんと返す。
一方ウラヘムトは、氷燐とゴルダ無視してなおも水遊びを続けている。
バルコニーには風鈴がいくつか下げられていて、時折チリンチリンという音を奏でていた。

「そういえば、冷凍庫に氷があったはずだ。かき氷を作るか」

野菜をウラヘムトが入っているタライの横に置いて、ゴルダは家の中へ。
家の中は、相変わらずと言っていいほどまだ洗っていない汚れ物が籠に積まれている以外は特に変化はない。
流しの生ゴミ入れは空っぽで、ゴルダが料理の後にその都度処分しているのがよく分かる。

「さて、氷はどこ…ないだと?」

冷凍庫を開け、氷はどこかと調べるゴルダだが、昨日入れてあった氷用の容器が消えていた。
割と大きめに作っていたので、丸ごと使ったとは考えにくい。
そして、ゴルダは心当たりがある者を思い出し、またバルコニーへ。

「おい、冷凍庫の氷はどうした?」

「ほえ?あんまりにも暑いからこのタライの中に入れちゃったよ」

ゴルダが氷はどこだと聞いたのは、まぎれもないウラヘムト。
ウラヘムトはいきなり氷はどこだと聞かれて面食らったが、正直にタライの中に入れたと話す。
その直後、ウラヘムトがゴルダからげんこつを食らったのは言うまでもない。

「仕方ない、氷かアイスを買って来るか」

と言って、ゴルダは上を着替えると軽トラの鍵を持って外へ。
そしてそのまま乗り込んで出かけて行った。

「ドランザニア中部には現在、高温注意報が出されています。不要不急な外出は控え、水分補給をしっかりして熱中症に十二分に警戒してください」

ラジオから流れるニュースを聞きながら、エアコンを強めにしてゴルダは農道を軽トラで走る。
こんな時に外を歩いている者など一人も居らず、軽トラの魔力エンジンの音だけが辺りに響いている。

やがてゴルダは、家から一番近いスーパーへやって来た。
車は少ないながらもポツポツ止まっていて、完全に買い物客が居ないわけではないようだ。
軽トラから降りた瞬間、外と車内の気温さに顔をしかめながら店内へ。
そして真っ直ぐ冷凍食品などのコーナーへと向かった。
だがここで、ゴルダの携帯が鳴る。
携帯を見ると、メールが来ていて送信者はエシュフィルトとなっていた。

「『アイス作ろう』?タイミングが良すぎないかあいつは」

アイス作ろうと一言だけ書かれたメールを見て、ゴルダはタイミング良すぎないかと思いながらも

「こんな暑い中来させるのか?分かった行く」

という返事をエシュフィルトに返してスーパーを出る。
その帰り道、ゴルダはこの暑さの中シアがどう対策しているかが気になっていた。
だが、そんなことを気にしても面白くはないとすぐに考えるのをやめる。

「ただいま」

「アイスー」

その後何事もなく家へ帰りつき、玄関を開けるとアルガントがアイスをねだるように近寄って来たので、ゴルダは買っては来てないと言う。
それを聞いたアルガントは、ちぇーという顔をして部屋へ戻った。
だが、ゴルダはその後すぐに3人を連れてセイグリッドへと向かった。

「なんだこの風鈴の数は」

「鳴る数が多いほどいいでしょ?」

塔の上に大中小様々な風鈴が下げられており、中には魔道具としての風鈴まである。
その魔道具の風鈴とは、鳴る度に周りの気温を本当に僅かながら下げるというもの。
ただし、手で鳴らすなどのズルをすると逆に気温が上がるらしい。

「さて、どう作る?」

「材料はもう混ぜて後は凍らせるだけなのよ父さん」

「おいおいおい」

どう作るのかと聞いたところ、既に素は出来ているとエシュフィルトに言われたゴルダはおいおいおいと返す。
だがエシュフィルトはそれを意に介さず、ゴルダに素が入った容器を持つように言う。
はて?とは思いつつも、ゴルダが容器を持っているとエシュフィルトがいきなり飛び上がって

「それしっかり持っててよ父さん!」

何らかの氷属性の魔法を放って来たのだ。
しかもその魔法はピンポイントに容器を狙っていたので、ゴルダが凍ることはなかった。

「でーきた」

「制御がよりまともになったか?」

程よい硬さに凍ったアイスを見ながらゴルダがそんな事を聞くが、エシュフィルトは何も答えない。
それに何なんだよと思いながら、黙々とゴルダは盛り付けてエシュフィルト達に渡すが、氷燐だけは

「普通の削り氷でいいのだが」

削り氷がいいと言ってきたので、エシュフィルトはどこからか氷を出してゴルダに削らせる。
ゴルダは常備しているナイフを使い、氷燐用の容器に氷を削って行く。
丸ごと一つ削り終えると、何も言わずに氷燐はその削り氷にがっついた。

「なんだ、お前ら先に食ってたのかよ」

「おいしいわよ?」

気付けば先に食べていたシア達を見て、ゴルダが先に食ってたのかよと言うとシアはおいしいわよと言う。
だが、さらに気付けば自分のと取り分けていた分がシアに食べられていたのでゴルダはしてやられたという顔でチリンチリンと鳴る風鈴の音を聞きながら煙草のようなものを吸っていた。

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小説(一次) |

詩の姫とアルカトラスとその仲間たちのクリスマス

12の月も下旬へ入り、ほぼ毎日のように雪の降る光竜王国セイグリッド。
大陸のほぼ北に位置するという事もあり、年中寒いが冬はそれがさらに厳しさを増す。
そんな中、セイグリッド城のとある場所。
アルカトラスから学を学び、ある程度の補佐は出来るようになった詩姫は四六時中付いて回っている。

「うーん」

仕事を一通り片付けて休憩しているアルカトラスの呟きに、詩姫は

「どうかしましたか、りゅうさま?」

ときょとんとした表情で聞いて来た。
少しぼーっとしていたのか、アルカトラスはそれに気付くと我に戻っとような表情になって

「もうすぐクリスマスだからな、今年はどうしようかと考えていた所だ」

今年のクリスマスをどうするかと考えていたと答える。
セイグリッドでは年末年始の祭りの他にクリスマスなども祭りをするのがほぼ当たり前で、例年異界からも参加者が来る。
クリスマスの祭りの後もセイグリッドに留まって、ここ年を過ごす者も多い。
地球の太陽暦とこのドランザニアの大陸歴は、1000年ほど時間がずれているだけでほとんど同じである。
なので、地球からここへ来て年を過ごし。帰る者が後を絶たない。

「ですわね」

ニコニコしながら詩姫は言った。
それをどこで聞いていたのか、突如として紫の髪に赤い目のメイドが現れる。

「あら、こちらは既に大丈夫よ。例年この時期にはやるって言いだすだろうから」

「では頼むぞ、例年の如く期待しているぞ。サフィ」

アルカトラスにサフィと言われたメイドは新たに入れた茶を差し出すと一礼して消えた。
テレポートの魔法を使ったようだ。

「たのしみですわ」

「毎年の事だからな」

2人はこうしてまた仕事へ戻る。
そしてその頃、城の北にある塔ではシアが暇そうに身の回りの掃除をしていた。
こちらもなぜか雪が積もり、雪かきをしなければならないほどだ。

「今年は何かおかしいわね、ここは何時もは雪なんか積もらないのに」

めんどくさそうに雪をかき集めて巨大な雪玉にしては投げ捨てを繰り返しながらシアは呟く。
しかも雪が今も降っているので油断すればすぐに元通りになる。
下に落ちた雪がどうなるかなど、シアは知るつもりもないようだ。
ただ1つ言えるのは、落下点にはただ地面などが広がっているだけだという事だけは分かっている。
そして何個目か分からない雪玉を投げようとした瞬間、ポンと言う音とともに詩姫がなぜかシアの前へ現れた。

「やれやれ、また変な本を読んだな?」

「こんにちわですの」

雪玉をその場へ置いたシアは詩姫をじっと見る。
流石に高所なだけあって寒いのか、詩姫はすぐにシアをもふもふし出す。

「寒いなら戻してやろう、この時間だとまだ仕事中だろう?」

シアが言い終わる前に詩姫は

「すこしこのままがいいですの」

と言ってぎゅっとシアの体毛に潜り込む。
どうせアルカトラスの事なので、気にせずに1人で黙々と片付けるだろうと思ったシアはそのままにする。
それから数時間後、アルカトラスがやって来た。

「クリスマスの時ぐらい降りて来い、どうせ暇なのだろう?」

祭をするので降りて来いとアルカトラスに言われたシアは

「ええ、そのつもりよ」

と答える。
ちなみに詩姫は、いつの間にか熟睡していた。
アルカトラスはそれを引き取って、また城へと戻った。
そして1週間後のクリスマス数日前、城の周りと中は祭の準備で慌ただしくなっていた。
この時はアルカトラスと詩姫も準備を手伝っている。

「ちょっとおもいですの」

「無理はするな」

城は重要なところ以外はほとんど一般開放しているので、飾り付けも一苦労だ。
あちこちに道具などを持って行ったりなどと慌ただしい。

「ツリー、おおきすぎせん?」

「どうせならばこのサイズが良いだろう?」

中庭のクリスマスツリーの飾り付けを手伝いながら、詩姫はツリーの大きさに唖然とする。
アルカトラスは大きい方が良いだろと言う。

「それもそうですわ」

詩姫は何だか納得がいかない口調で言った。
ツリーの飾り付けが終わった頃、雪が降って来た。

「大雪にならなければいいが」

雪が降る量を見て、アルカトラスはそんな事を漏らす。
詩姫は手伝いで疲れたのか、ずっと背の上で寝ている。
しかしそんな心配とは裏腹に、雪は大した量は降らずに夜中には降りやんだ。

「さむいですの」

翌朝、一人で上着を羽織って城の中をよろよろと歩いている詩姫が居た。
普段はアルカトラスが起きる時に一緒に起きるのだが、今日に限って早く起きてしまった。
ちなみに明日はクリスマスイヴ、今日が準備のピークだ。
詩姫が中庭へ出ると、城の近辺に住んでいる子供が雪遊びをしている。
一見普通の人の子だが、人あらざる者の血をひいている事を詩姫は知っていた。
普通の人の子ならば詩姫はかなり距離を置いただろう、人あらざる者の血をひいていても距離は置いていたが。

「たのしそうですの」

よろよろと中庭へ出て外の冷気に触れていると、近くでサフィが何かをしていた。
詩姫が何をしているのかと近寄ると、サフィは凍った何かを雪の中から出している。

「なにをしているのですの?」

詩姫が近寄って聞いてみるとサフィは詩姫に凍った何かを見せつけて

「なんだか分かる?魚よ、なぜかここで降る雪の中二一晩寝かせると美味しくなるのよ」

その何かは魚だと言った。
詩姫はふむふむとでも言いたそうな顔をしてそれを見る。

「どうせなら、一緒に朝食でもいかが?多分もうアルカトラス起き…あらおはよう」

「うむ、おはよう」

「りゅうさま、おはようですの」

朝食でもどうかとサフィが詩姫に聞いたと同時に、アルカトラスが急に現れた。
2人ともこれには慣れているので普通におはようと言う。
そして、サフィと共にメイドの執務室へ行く。
朝早くから朝食の準備と明日からの祭りの準備に追われていてサフィ以外誰も居ない。
しかもそれが終わればまた年末年始のさらに大きな祭りの準備もあるので、メイド達にこの時期はほとんど休む暇がない。
しかしそれでも辞める者が居ないのは、アルカトラスがちゃんとした福利厚生を整えているからだろう。

「ふう、2日の祭りの後にさらに大きな祭り。普通なら参ってるわね」

「普通はな、そうさせないためにも手厚い福利厚生を行っている」

「そうじゃないと、皆逃げてるわ」

そんな話をしながら、朝食が終わる。
今日から数日は緊急以外の国務は全てオフになるので、詩姫もアルカトラスものんびりしている。
しかし、のんびりしている2人に客人がやって来た。

「お前か、孫よ」

「雪が酷くて避難して来た」

「雪かきしてキリが無かったわ」

やって来たのはアルカトラスの孫と思わしき男に、桃色と白い毛に羽をと桃色の目を持つ竜がやって来た。
詩姫は竜の方とは一度は会ったことがあるが、男の方は面識がない。
ちなみに、男の方の名はゴルダ。竜の方の名はセレノアである。

「あら、詩姫。久しぶり」

「おひさしぶりですの」

ゴルダの方に少し警戒しながら詩姫はセレノアにニコニコと笑いかける。
そんな詩姫を尻目に、セレノアはゴルダに横目で名乗れと言う。

「詩姫だったか?爺さんから色々聞いてると思うが、ゴルダだ」

「よ、よろしくですの」

少し警戒しながら詩姫はゴルダと握手を交わす。
詩姫にはなんとなくゴルダが半分人間ではない事が分かっていた。
なぜならば、アルカトラスにもゴルダは半分竜の血が混じっていると聞いたからだ。
しかし詩姫には、ゴルダのあまりの無表情さが壁となっている。
かつて同じくらい無愛想な者と関わったことはあったが、ゴルダはそれ以上かもしれない。

「出てくる時も雪をかき出したりしたから疲れたし、少し休む」

「うむ」

疲れたので休むと言って、ゴルダはその場を離れた。
その場に残されたアルカトラスと詩姫とセレノアは少し雑談をした後に

「ちょっと連れてくわね」

とセレノアが詩姫を連れ出す。
特に何をするという訳でもないが、ただ単に詩姫が喜ぶからだろう。
無論、詩姫はずっとセレノアから離れようとはしなかった。

「どこか、いきますの?」

詩姫はセレノアに聞く

「あなたにあてがあるならね」

セレノアはあてがあるならばと答えた。
羽が抜けかねないほどにぎゅうと抱き付きながら詩姫は

「ないですの」

とストレートに答える。
その答えにセレノアは面食らう。あてがあるならと言って帰ってきた答えが「ない」の一言だったからだ。
そしてどうするかを考えていると、サフィが現れて

「あら、丁度良かった。シアの所まで乗せて言ってくれない?」

シアの所まで乗せて行ってもらえないかと言いだす。
セレノアは少し考えて頷いてサフィを背に乗せた。詩姫もそれに気付いて背へ乗る。

「あのりゅううさまのところ、いくのですの?」

「アルカトラスからちょっと用事頼まれてね、自分で行けばいいのに」

「そうですの」

城から塔までは、10分ほどで行けた。
サフィ達が行くと、そこではゴルダがシアと何やらチェスをしている。

「あら、休んでるんじゃなかったのね。シア、アルカトラスから伝言よ」

セレノアの背から降りたサフィがゴルダに言う。
一方のゴルダはチェスに集中していて、聞く耳を貸さなかったが。
シアは伝言と聞いて、何かを悟ったのか、いきなりチェス盤を片付けると

「下へ降りるぞ、引き分けだ」

ゴルダにそう言い放ってそのまま飛び立つ。
流石に3人もセレノアは乗せ切れないと思ったゴルダは

「先行ってろ、俺はのんびり降りて来るさ」

と言って煙草のようなものに火を付けた。
セレノアはあっそうと言う顔をして2人を乗せてその場を後にする。
セレノアに乗っている間、詩姫はずっともふもふしていた。

「さてと、私は仕事に戻るわ」

そして、城まで戻って来るとサフィは仕事があるからとメイド執務室へ戻って行った。
未だにもふもふしている詩姫をすっぽかしてセレノアが振り向くと、シアがどっしり構えていたので

「早いのね」

と声をかけた。
シアはそうか?という顔をして

「結構飛ばしたからな」

と言い返す。
シアはいまだにセレノアの背でもふもふしている詩姫に

「本当に好きだな」

といつもの台詞を投げかける。
詩姫はそれにニコニコとして同じように

「もふもふはきもちいですもの」

と答えた。
セレノアが何も言わないのは、いつものやり取りだからだろう。
その日はその後も詩姫がセレノアから離れずに終わった。
そして祭の日、今日は前夜祭で夜からだが。異界から来た者達でごった返している。
詩姫は無論、部屋から一歩も出ようとはせずに読書に没頭していた。
アルカトラスは来た者達と面会しなければならないので、部屋には居ない。

「ひまですの」

詩集を読みながら詩姫は呟く、どうにも人が多い場所へは行きたくないので部屋に籠っているがやはり暇なものは暇だ。
サフィは間違いなく多忙、セレノアはどこに居るか分からない。シアもアルカトラスと同じく来た者達と面会しているので居ない。

「ちょっとへやからでてみますわ」

と言って詩姫は部屋から出る。
城内も人はそれなりに多かったが、外よりは少なかった。
1人でとぼとぼと歩いていると、ちょっと様子のおかしいセレノアと遭遇する。

「ああら、詩姫じゃないの…」

どうやらこんな時間から酔っているらしく、喋り方がおかしい。
詩姫もそれに多少気付いたのか

「よってますの?」

と聞いてみる。
セレノアは微妙に首を横へ振って

「全然、そんなに飲んでないわぁ」

といかにも酔っ払いらしい嘘をついた。

「うそはだめですの」

詩姫はそれを見抜いて鋭く言い放つ。
そう言われたセレノアは目をパチパチさせて

「まあいいわ、どうせ暇なんでしょ?」

話を逸らそうとしたが、詩姫にむっとした顔で

「はなし、そらさないでほしいですの」

と言われ、セレノアはしょんぼりした顔になる。
詩姫はそれを見て

「はなしをそらすのはよくないと、りゅうさまいってましたの。ひとのはなしはちゃんとさいごまできくべきですの」

と容赦せずに言い放つ。
何分ぐらい経っただろうか、少しセレノアの酒が抜けたのか

「はあ、もういいわ。それより何か食べない?サフィがあれこれ持ってて来てくれたんだけど」

ため息をついて、詩姫に何か食べないかと聞く。
そう聞かれて、詩姫は

「あまりおなかへってないですの」

とぎごちない口調で答える。

「まあ、菓子程度でもつまめばいいんじゃない?」

あまり腹が減っていないという詩姫にセレノアは菓子だけでもどうかと聞く。
それに対しても詩姫は曖昧な返事を返した。

「まあ、とりあえず来れば?暇なんでしょ?」

「ひまですわ」

「じゃあ来なさいよ」

セレノアはそう言い放ち、部屋へと戻って行く。
詩姫はせれのあをもふもふしたいので後から付いていく。
部屋には明らかにサフィが持って来たとしか思えないほどの料理が並べられていて、セレノアと似たような竜が沢山いる。

「ああ、私の同族よ。アルカトラスから聞いてるでしょ、ここで保護してるって」

「きいてましたわ、あったことはないですけど」

詩姫はアルカトラスから風癒竜について教えては貰っていたが、セレノア以外の風癒竜とは会ったことは無かった。
最も、詩姫にとってはこの上ない至福の空間だったのかもしれないが。

「ここに居たか、ようやく暇が出来たから戻って来たぞ」

他の風癒竜にわしゃわしゃと触られたりしていると、ようやく時間に余裕が出来たアルカトラスがやって来る。
アルカトラスがやって来ても、詩姫はほかの風癒竜達に触られていた。
しかしアルカトラスを見るや、全員一礼して下がる。
何故風癒竜達がこうするのかは定かではないが、保護してもらっている身として敬意を払っているのだろう。

「りゅうさま、おかえりですの」

「少し外へ行こうか?」

アルカトラスに言われて、詩姫はゆっくりと頷いてアルカトラスの背へ乗る。
そして詩姫を連れてやって来たのは、国を一望できる城の一番高い所。
うっすら雪が積もって真っ白なその場所でアルカトラスも下手すれば同化しかねない。

「ぜっけいですの」

「あまりここへは来ないからな」

そんな会話をしていると、日の入りの時間になった上雪が降って来た。
アルカトラスの体毛に積もって行くが、両者とも気にしない。

「いいクリスマスイヴですの」

「うむ、ホワイトクリスマスイヴだな」

ほどよく積もった辺りでアルカトラスはまた下へと降りる。
夜になって、昼間より大分人が多くなぅていた。

「いい年過ごせそうですわ」

「我が居る限りは毎年そうなるさ」

アルカトラスの一言に、詩姫はくすりと笑った。

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小説(交流) |

詩の姫とアルカトラス

今日も光竜王国セイグリッドに朝がやって来た。
今日は特にこれと言った予定のないアルカトラスは起床後、食事を済ませて城の外へ散歩に出かける。
散歩の時は、アルカトラスは従者を絶対に付けない。理由はただ1つ、プライベートに関わられたくないからだ。

「今日は南の森の方へ行ってみるか」

アルカトラスはそう言って、国境にもなっている南の森へと向かう。
そんな頃、時を同じくして南の森では1人の少女?があまり自由の利かない足で歩き回っていた。

「ここ、どこですの…?」

少女?は時々すっ転んだりするもその度に起き上がってとぼとぼ歩き、またすっ転ぶを繰り返してあっちへこっちへさ迷っている。
その一方、アルカトラスはというと。森の入口で何かに気付いていた、その何かというのは。いつもと違う何者かの気配。

「異界の者か…?」

アルカトラスはそう呟きながら森の中を歩く。
数分ほど歩くと、1人の少女?がすっ転びながらさ迷っている。

「お嬢さん、大丈夫か?」

この少女?かと思ったアルカトラスは声をかける。
声をかけられた少女?はアルカトラスの方を向いて

「おおきいりゅうさまですね、おはようございます。わたしはだいじょうぶですの」

「ああ、おはよう。お嬢さんは名は何と?」

アルカトラスは少女?に名を聞く

「詩姫、ですの。りゅうさまは?」

少女?は詩姫と名乗った。
今度は詩姫がアルカトラスに逆に名を聞いて来る。
アルカトラスは聞かれるとすぐさま

「聖竜アルカトラス、この国の国王だ」

自らの名を名乗った。
詩姫は少し首をかしげてアルカトラスを見ながら

「こくおう?りゅうさまはおうさまですの?」

と聞いて来た。
アルカトラスは何も知らないのかと思いながらも頷いて

「ああ、そうだ。もしかして、そう言うのを知らないのか?」

詩姫に知らないのかと聞く、すると詩姫は少ししゅんとした顔で

「しってなきゃ、だめですの?」

と聞いて来る。
こう聞かれたアルカトラスは、少し混乱しだす。
社会の仕組みなどを知らない者が居ることなど、居るとは思って居なかったのでどう対応したらいいのかが分からなくなっていた。
しかし、こんなところで混乱していては主神の分身のとして恥じると思い。アルカトラスは

「いやいや、知らないのならば学べばよい。知らない事を学んで賢くなるのも人間だ」

と詩姫をフォローした。すると詩姫はにこっとして

「それはよかったですの」

と言った。
こんなところに居させるのも何だと思ったアルカトラスは詩姫に

「詩姫、ここは色々と危ない。城へ行こう、そこでお前をどうするかも考えよう」

と言って、前足で詩姫を軽く掴んで背へ乗せた。

「ふあっ」

急に掴まれて驚いたのか、詩姫は変な声を出すもアルカトラスの背の体毛が心地よいのか。すぐにちょこんと座って大人しくなる。
しかしそれもほんの数分の間、背の体毛をもふもふと触りだす。

「りゅうさまのけ、さわっててきもちいいですの」

「そうかそうか、落ちぬようにな」

触らせていれば退屈しないだろうと、アルカトラスはさせたいようにさせておく。
そして城へ戻って来ると、従者や側近がああだこうだ言ってくるがアルカトラスは

「我の責任でなんとかする、口を挟むでない」

と言って黙らせた。
詩姫はずっともふもふしていて降りる気配が無いので、アルカトラスは

「1つ聞いていいか詩姫、お前はどこから来たんだ?」

詩姫にまずはどこから来たのかを聞く。
アルカトラスに聞かれ、詩姫は少し考えた後

「よくわからないですの、きがついたらあのもりのなかをあるいていましたの」

と答えた。
アルカトラスはこれを聞いてどうするべきかを考える。
どこから来たか分からないと言っている以上、ここで面倒をみる以外に他ないだろう。
従者や側近には自分で責任を取ってなんとかすると言ったのでこれ以上は口をはさまないはずだ。

「詩姫…どこから来たのか分からないと言うのならば、我が面倒を見よう。帰れるまではな」

どこから来たか分からない以上はと、アルカトラスは詩姫にしばらく面倒をみると言う。
それを聞いた詩姫はまたにこっとして

「ありがとうございます」

と言った。
とりあえず、まだ時間が早いのでもう1度散歩をして来ようと思い。アルカトラスは詩姫を背に乗せたまま城から再び出る。
相変わらず詩姫はもふもふしていて、他に目が行ってない。

「そんなにもふもふが好きか?」

ふと疑問に思い、アルカトラスは詩姫に聞いてみる。
詩姫はもふもふしながら

「はい、もふもふはきもちいいですの」

と答えた。
今までこんなにベタベタとじゃれてくる者が居なかったので、アルカトラスは慣れてなさそうな顔をしている。
しかし、いきなりここまでベタベタしてくるのも珍しいのでアルカトラスはさせたいようにする事にした。

「詩姫、少し飛ぶぞ。しっかり掴まってろ」

「はい」

詩姫がどこから来たかを調べきれる者と言えば、賢者の竜の里のエルリスしか居ないと思ったアルカトラスは聖リフィル王国へ向かう。
特に急ぐことも無いので、いつもより遅めに飛んでいると詩姫が

「りゅうさま、もっとはやくとべないですの?」

と聞いて来たので、アルカトラスは安全のために遅めに飛んでいると答えた。
これに詩姫は

「もうすこしはやくとんでもかまわないですのよ、りゅうさま?」

と言って来たが、万が一の事を考えてアルカトラスはそのままの速度で飛び続ける。
そして飛ぶ事1時間ほど、1つの島が見えて来た。ここが聖フィリル王国だ。

「アルカトラスさま、ここはどこですの?」

「お前がどこから来たかを調べることができる知り合いが居るんだ」

「そうですの」

アルカトラスは高度を落とし、異様に高い塀で囲まれた門の前へとやって来る。
門の前で門兵と少し何かやりとりをし、アルカトラスは中へと入った。

「りゅうさまがいっぱい」

「ここはそう言う場所だからな、詩姫。降りてはくれぬか?」

アルカトラスは詩姫に降りるように伝え、自身も縮む。
小さくなったアルカトラスを見て詩姫は

「ちいさいりゅうさま、かわいいです」

とアルカトラスの頭を撫でて来た。
2人がしばらく待ってると、足先だけが黒い毛で後は青い毛に覆われた竜がやって来て

「ん、どうしたアルカトラス?」

「この子がどこから来たのかを調べてほしい、急ぐ必要はないからな」

色々と縮んだアルカトラスを触っている詩姫をそっちのけで、アルカトラスとエルリスは話を進める。
そして、ようやくエルリスに気付いた詩姫は

「また、もふもふなりゅうさまですの。わたし詩姫といいますの」

とエルリスに挨拶をする。

「どうも、エルリスだ。ちょっと失礼…」

エルリスもそれに応じ、名乗ると詩姫をまじまじと見つめる。

「…もふもふしても、いいですか?」

すると、詩姫はエルリスにも触っていいかを聞く。
エルリスは少しだけ考えると

「うん、まあ…俺の邪魔をしない程度にな」

邪魔をしない程度ならばと許可を出す

「わかりましたの」

許可を得た詩姫はエルリスのあちらこちらをもふもふし始める。
エルリスはささっと何かを調べ、メモすると詩姫に

「えっと、詩姫とか言ったかな?俺も忙しいからアルカトラスをもふってくれないか」

アルカトラスをもふるように言うと戻ってしまった。
詩姫は少しがっかりしたようにまたアルカトラスをもふり始める。

「詩姫、帰ろうか」

「はい、りゅうさま」

アルカトラスはまた詩姫を背に乗せ、セイグリッドへと飛んで戻る。
戻るときには、詩姫はアルカトラスの背の上で寝てしまっていた。

「これではさらに遅くせねば」

アルカトラスはすやすや寝る詩姫を気遣い、さらに速度を落として飛び続ける。
そのせいで、セイグリッドへ戻ったのは丁度昼ごろ。
城へ戻るや、メイドがアルカトラスと詩姫の昼食を持ってくる。

「2人分か、詩姫…起きろ。昼食だぞ」

ゆさゆさと体をゆすって詩姫を起こし、アルカトラスは詩姫と昼食にする。
出された料理に少々面食らっている様子の詩姫にアルカトラスは

「どうした?早く食べるがよい」

早く食べるように促す。
詩姫は頷くと、食事に手を付けた。

「おいしいですわ」

詩姫はにこっとしてアルカトラスに言う。
そして昼食を終え、アルカトラスは少し詩姫に教えておくべきことは教えておこうと思い

「詩姫、こっちへ」

詩姫を自室へ招き入れ、1冊の本を出して読ませようとしたが。

「あの、りゅうさま。わたし、『じ』がよめないうえにかけないんですの…」

と、自分が字が書けない上に読めない事を告白する。
あまりにもうるうるした顔で言って来たので、アルカトラスは

「仕方がない、少々ずるいやり方だが…」

と詩姫に何かの魔法を使った。
ちなみにアルカトラスが詩姫に使ったのは、ありとあらゆる言語の読み書きができるようになる魔法だ。

「これで読み書きができるようになった筈だ」

と詩姫に先ほどの本を読ませてみる。
すると、詩姫は先ほどの状況が嘘のようにすらすらと本を読んでいた。

「詩姫、元居た場所では何をしていたんだ?」

アルカトラスは詩姫にそう聞いてみる、詩姫は本を読むのを止めて

「うたをうたう、うたいて…ですの」

と答える。
詩い手という仕事はこの世界では珍しいので、アルカトラスは気になったので

「今、詩えるかな?なんでもいい」

詩姫に何か詩えるかと聞く、すると詩姫はにこっとして

「りゅうさまのためなら、あたらしくかんがえますの」

と言う。
それは楽しみだとアルカトラスは言い、詩姫に考えさせておく。
そうしている間に、いきなりエルリスから

「出身は分かったが、そこへ行く方法が分からない。調べるのにかなりの時間を要する」

との連絡が入った。
これはずっと面倒を見なければならなくなるかもしれないと思ったアルカトラスは、あえて詩姫には黙っておく事にする。
この状態では、絶対に詩姫は自分と離れたがらない上。帰ればもう会えなくなる可能性も高いからだ。
となると、かなりの期間詩姫の面倒を見なければならない。
しかし、一度面倒を見ると決めた以上。それも覚悟していたアルカトラスにはたやすいことだった。

「すこし、じかんかかりそうですの」

「気長に待つさ」

詩姫の片足が無い事には気付いていたアルカトラスだが、下手にまともな状態にしてやるとシアが色々とうるさいので何もせずにしておくしかできなかった。
何らかの障害を持つ者を簡単にまともな状態にしてしまうのは、『生』を管理しているシアにとってとんでもない事だからだ。
なので、まともな状態にしてやるにはシアの許可が必要なのだ。
しかしそれをものともせずに生きる詩姫を見て、アルカトラスはまともな状態にしてやるのは必要ない事だろうと悟る。

「アルカトラス様、おやつの時間です」

ずっと詩を考えている詩姫と、それを見ているアルカトラスの所へメイドが今度は紅茶とケーキを持ってくる。
メイドは2人の前にそれぞれケーキを置き、紅茶を淹れるためのセットを置いて部屋を出て行く。

「詩姫、お茶にしよう」

「はい」

お茶をしている間も、詩姫はずっと考えていた。
アルカトラスが少しは考えるのを忘れろと言ったが、詩姫は聞かずに考える。

「せなか、のりたいです」

お茶の時間を終え、詩姫がまた背に乗りたいと言うのでアルカトラスは乗せてやる。
詩姫は乗っている間、もふもふしながらやはり考えっぱなしであった。
少し雑用のできたアルカトラスはそのまま城の中を移動し、雑用を済ませる。
その間も、考えて居た詩姫だが。大分まとまって来たのかぽつぽつと詩が口から漏れ始める。

「そろそろか…?」

「そろそろですの」

そしてまた自室へ戻り、詩姫を降ろして自分はのんびりしていたが

「うーむ」

ガシガシと後ろ足で体を掻くアルカトラスを見て詩姫は

「りゅうさま、かゆいですの?」

どこかかゆいのかと聞いて来た。
アルカトラスはまんざらでもなさそうな顔で

「いや、大丈夫だ」

と返す、しかし詩姫はアルカトラスが掻いていた辺りを

「ここ、ですの?」

とその辺りを掻く。

「あ、ああ…そうだ」

「りゅうさま、すなおじゃないですの」

詩姫はそう言いながらも掻く。
そして時間は過ぎて、夕食時。

「夕食をお持ちしました」

そしてまた2人だけで夕食を食べていると

「アルカトラスさま、うたができましたの」

それを聞いたアルカトラスは、早速聞いてみようと言う。
詩姫は頷き、詩い出す。
その詩は、どこで知ったのかは定かではなが。アルカトラスのこれまでとこれからが中心となった詩だった。
詩は10分ほど続き、詩姫は最後に

「この聖竜に今後とも幸運あれ」

と締めくくった。
最後まで聞いたアルカトラスは

「すばらしい、実にすばらしい…

と詩姫を褒めた、詩姫はにこにことして

「ありがとう」

とアルカトラスに頭を下げた。
その夜は、詩姫とアルカトラスは添い寝という形で寝た。
翌日以降、詩姫はなぜかアルカトラスの伴侶と勘違いされ。相応の扱いを受けるようになったと言う。
そして、詩姫の詩はセイグリッドにとどまらず。この大陸中へ広まり、詩姫は有名になったらしい。

「アルカトラスさま、きょうももふもふ?」

「構わんよ」

「もふもふ…」

そして、なぜかは知らないが詩姫がこれ以降年を取ることは無くなったそうだ。

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研修参加者は異界の者

ある日、サフィがアルカトラスに何時ものように茶を持って行った時のこと。
茶を机の上に置いて、そそくさと部屋から出ようとするサフィをアルカトラスは呼び止める。

「何か?忙しいので手短に」

呼び止められたサフィは、忙しいから要件は手短に言えと言う。
アルカトラスはそう急ぐでないと言いたげな目線を送りながら、サフィに1枚の紙を渡す。
それには従者研修参加者募集という旨が書かれていた。

「5の月に言ってたのかしら?」

「いかにも、ようやく予算の許可が下りたのでな」

「多くても3人まで、私も他も忙しいの」

アルカトラスが汝が教えるのだと言う前に、サフィは自分も他のメイドも忙しいので多くても3人までと条件を提示。
それに対してアルカトラスは、抜かりはないと言わんばかりに

「今回は試験的にだ、多くても2人まで」

2人までしか受け入れないと言い切る。
それにサフィはならいいわと言うと、その紙を持って書斎を出て行った。

そして、その日の間にこの募集の張り紙は城下町の掲示板に国王広報という名目で張られた。
だが、あまり誰かの目に留まることもなく張り紙は風に揺られて寂びしさを醸し出している。
そんな中、明らかにこの世界の者ではない片眼鏡の紳士的な服装をした通りすがりの男がその張り紙を見て

「おやおや、これはまた…面白そうな募集が。彼女には良さそうですね」

やけにニコニコしながらその広報の張り紙を見つめ、城の方へと向かう。
ちなみに、今仕方例の張り紙を見ていた男の名はレヴィン・ビショップ。
何処かの世界のホテルの支配人をしており、今日はこの世界へ新たに出す料理に使う食材などを探しに来た様子である。
常にニコニコしていて、内心何を考えているのか全く分からない性格らしい。

「ここですか、お城にしては少し小さいですね」

まるでここに住んでいるかのような足取りで城にたどり着いたレヴィンは、どこに行けばいいのかとニコニコしたまま考える。
しばらく考えた後、レヴィンは張り紙に書かれていた詳しくはメイド長のサフィまでという文字を思い出し、従者の居る場所を探す。

「あの人でしょうね、他のメイドとは違う服装ですし。いかにも従者の長と言う雰囲気が感じられます」

それから5分くらいでサフィを見つけたレヴィン。
だが、忙しそうにしているので話しかけるタイミングが掴めない。

「さっきから気付いてはいたんだけど、そちらの方は何か御用で?私はここの従者を束ねてるサフィよ」

「これはこれは、私はレヴィン・ビショップです」

そのままレヴィンが待っていると、サフィと思わしきメイドがこちらの方へ向き直って挨拶をして来たのでレヴィンも挨拶を返す。

「従者研修の募集の張り紙を見たのですが、まだ大丈夫ですか?」

「今朝張り出したばかりで希望者すら来ていないけど、どうかしたのかしら?」

挨拶もそこそこに、レヴィンは単刀直入に要件を突き付けた。
それにサフィはまだ希望者すらも来てないと返す。
するとレヴィンは、1人のかなり薄い紫色の髪の少女の写真をサフィに見せて

「この子の名はミリー・パーソンと言って、私が支配人を務めるホテルの新入り従業員です。彼女は特にこれと言って能力に問題があるわけではないのですが、いい経験と思いまして」

名前を教えながら遠回しに研修に参加させたいと言う。
それに対してサフィは

「じゃあ、一度本人を連れて来てもらえるかしら?本人の意思も聞かないといけないし」

本人を連れてくるよう即答。
レヴィンはそれに頷き、ありがとうございますと礼を言ってその日は帰ってしまった。

それから数日後のこと。
レヴィンはミリーを連れてまたセイグリッドにやって来ていた。
初めての土地のせいか、ミリーはやたらとおどおどしている。

「大丈夫ですよ、そこまで物騒な国ではないですので」

「そっ、それは分かりますけどやっぱり初めての土地は怖いです…」

そんなミリーを連れ、レヴィンはそのまま城のサフィの所へ。
今日は運良く時間が空いていたのか、サフィは従者用の休憩室で休んでいたのですぐに見つかった。

「その子がそう?とりあえずは座って」

「では私は少し用事があるので、失礼しますね」

「えっ?ちょっと待って…」

2人に座るように言うサフィに、レヴィンは用事があると言ってそのままどこかへ行ってしまう。
それにミリーは、ちょっと待ってと追いかけようとしたがサフィに再度座ってと言われてしぶしぶ座る。

「念のため確認するけど、あなたがミリー・パーソンで間違いない?」

「あっ、はい。間違いないです」

目線はこちらにしっかり向けているものの、どこか落ち着かなさそうな雰囲気のミリーにサフィはこう聞く。

「その目を見てると、何かをしきりに気にしているようだけどどうかした?」

その問いに対し、ミリーは

「ここ、沢山居ますよね?」

端から聞けば、何を言っているんだというようなことを言う。
それに対してサフィは顔色一つ変えずに

「この世界の神が住んでる場所だからよ。世界と生命、両方の創造神がね。沢山居るのは生命の創造神の方に集まってるからよ。だからここではそういうのをあまりここでは気にしても仕方ないわ」

シアの所に集まってるから沢山居るなどと返し、ここでは気にしても仕方ないと言い切る。
それにミリーは、冗談ですよねと言いつつうるうるしながらサフィを見るが

「私、冗談はよっぽどのことがない限りは嫌いなの。今言ったのは全部真よ」

冗談は嫌いだと言った上で今言ったことが全部本当であると返す。
それにミリーは、こんな場所で従者の研修をするのはちょっとと言い出した。
だが、レヴィンがこんなことをさせるには理由があるのかもと思い、この際寛容になることにした。

「分かりました、私やります」

「じゃあ、明日から3日くらい泊まり込むのは覚悟してね。こっちも試験的にだから」

やるという一言を口に出した直後にサフィに告げられた3日という期間に、ミリーはうぐぐという顔をしたがレヴィンならなんとも言わないだろうと思ってそれ以上考えるのをやめた。
その後、明日からのいろんな説明を受けたり、アルカトラスとシアに挨拶をしたりしてミリーはこの日も泊まる羽目になったとか。

夜、従者用の共同寝室の空いているベッドを一つ借りてそこで寝泊まりすることになっていたミリーは眠れずに居た。
それもそのはず、いつも暮らしている環境とは別物な上に、この城に居る見えざる者の姿や話し声が目から耳から入って来るので、シーツの中に丸まって耳を塞ぎ、ブルブルと震えていて寝れるどころではない。

「うぅ、なんで聞こえてくるのよ…」

耳を塞げば直接頭の中に、かと言って塞がずにいれば耳から見えざる者の話し声が入って来る。
他の従者達は既に寝静まっているにもかかわらず、起きているのはミリーだけ。
サフィはどうしても見えざる者が気になるなら部屋に来いとは言っていたが、こんなことでわざわざ起こすのは少々気が引ける。
なので、こうやってシーツの中で丸まって震えているしかないのだ。

「…もう無理にでも寝ないと」

結局、完全に聞こえないし見えないふりをしてミリーが寝たのは日付けが変わってしばらくしてからであった。

翌朝、若干の寝不足を感じながらもモーニングベルの音でミリーは他の従者と同じように起床。
ちなみに、時刻は朝の5時半くらい。
洗顔をして身だしなみを整えてから厨房で全体朝礼を行うと聞いていたので、ミリーは貸し出されたメイド用の服に着替えて他の従者と厨房へ。
朝礼自体はレヴィンのホテルに勤めている時にも行われていたので、これは特に苦にはならなかった。
ただその中で、全体に自己紹介をしなければならない場面ではミリーは完全に上がってしまって話すどころではなくなってしまったという。

朝礼が終わると、それぞれ日替わりで分担された仕事を行う。
だが、ミリーはサフィについてその仕事を一つ一つ見て回り、実際にやってみるというのもした。

「じゃあ、この皿を大広間のテーブルまで運んで」

「分かりました」

サフィに皿を大広間まで運ぶよう指示され、ミリーは自分の無理の無い範囲で皿を持つ。
ちなみに、今ミリーが持っているのは底に大きくセイグリッドの国章が入ったアルカトラスとシア、あるいは来客用の皿。
なお、従者の皿には小さい国章が皿の淵に入っている。
他の従者は研修生にそんなものを持たせていいのかと言っていたが、サフィが万が一の時の責任は自分が持つと言い聞かせてミリーに持たせた。

「うっ、重いんですね」

「七面鳥とかを乗せるような大きさだから重いのは当たり前、足元に注意して」

若干ふらつきながらも、アルカトラスとシア用の皿を大広間へ運ぶミリー。
厨房と大広間はほど近い場所にあり、すぐに出来た料理を出せるような造りになっている。
同じような皿を持つサフィの後ろに次いで皿を運んでいたミリーだが、若干の寝不足が仇となり、ついついバランスを崩した拍子に転倒。
派手に皿を割ってしまった。
その音に気付いた他の従者達は、言わんこっちゃないという顔でミリーを見ている。

「だから注意してって言ったのに」

修復魔法で元通りにし、何事もなかったことにしたサフィに言われてミリーは

「す、すみません」

と謝った。
サフィはそれ以上は何も触れず、早く皿を運ぶわよと何時もの口調で言う。
それにミリーは若干安心し、その後は転ばずに大広間へ皿を運び終えた。
その後は盛り付けなどを体験したりし、朝食の時間になる。
一度はちゃんと挨拶した時に会ったのだが、アルカトラスとシアの大きさにはどうしても圧巻されるミリーであった。

「触ったらすごいもふもふしてそうだなあ…」

黙々と朝食を取るアルカトラスとシア見て、ミリーはそんなことを考える。
なぜか不思議と、アルカトラスとシアだけには畏れ多いという気を感じないのだ。
どうせなら後で触ってみようかなと思っている内に朝食の時間は終わった。
その後は片付けをし、城内の掃除などに移ったがミリーはあまりやらせてもらえずじまいだったとか。
その代わり、アルカトラスに茶を出すのを手伝えることになった。

「いつもこうやって出してるんです?」

「必要と言われたら出している、それだけよ」

サフィと一緒にアルカトラスの書斎へ行き、茶と菓子を出すミリー。
その際、アルカトラスにこっちへ来なさいと言わんばかりの手招きをされてミリーが近寄ると

「我に触ってみるか?」

触ってみるかと向こうから聞かれたので、ミリーは突然の出来事にその場に固まってしまう。
だが、この場面はこれとないチャンスなのも事実。
なので、ミリーは失礼しますと言ってアルカトラスにそっと触れる。
指先が触れた感じは、シルクにも似ていたがシルクよりもずっと触り心地はいい。

「あっ、とってもいい触り心地」

その触り心地に、ミリーは気づけばもふっと無意識にアルカトラスに抱きついていた。
一方アルカトラスはそれを咎めず、国務の手を止めてさせたいようにさせる。
そう、これはサフィがアルカトラスに相談して巧妙に仕組んだものだったのだ。
朝食時にアルカトラスとシアに見とれていたミリーを見ていたサフィは、アルカトラスに相談。
その結果がこれである。

「うふふ…」

「そんなに好きなのか?」

その後はそのままアルカトラスに2時間近くっつきっきりになった後は、ミリーは普通に研修に戻り、3日の研修を終わらせた。

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ナロニィとアルガティア一行とゴルダ

それは、ナロニィが何時ものように城の庭園で遊んでいた時のこと。
何時ぞかに会ったっきりのゴルダと、アルガティア一行が何かをしているのを目にしたので、ナロニィは近寄ってみることに。
すると、アルガティアがゴルダの髪を切っているのだというのが分かった。

「肩までばっさり?」

「そうだな」

膝にイファルシアを乗せながら髪を切ってもらっているゴルダをじーっと見つめるナロニィ。
別に嫉妬しているわけではないが、ただゴルダの膝に座っているイファルシアがうらやましい、それだけだ。
一方、少し離れた所に座っているフィルスとエゼラルド、そして時雨はナロニィに気づいてはいるようであるが、アルガティアには何も言う気はないらしい。

「あの大きい方の緑毛ちゃんの後ろから近付いてみようかな?」

そんな考えを思いつき、エゼラルドの背後に忍び寄るナロニィ。
だが、あっさり時雨にバレて

「後ろから来るとは感心しませぬなあ」

と少しからかうようなことを言われた。
それにナロニィはむぅと槌を構えようとしたがフィルスに

「やめときなよ、時雨を本気にさせたら確実に負けるから」

本気になった時雨を相手にすると確実に負けるからやめておくよう制され、ナロニィは槌を下ろしてエゼラルドの正面へ回る。
エゼラルドはナロニィにやあこんにちは、とだけ挨拶をすると蔦で自分の横腹辺りに入れてやった。
ナロニィの毛と、エゼラルドの毛が触れた途端。なんだこれはと最初は思うがよくよく嗅げばほどよい香りの漂う匂いが広がる。
その匂いは、髪を切っているアルガティアと、切られている方のゴルダにその膝の上に座っているイファルシアにも届き、ナロニィが来ていることを確信した。

「もういい」

「そう、でも仕上げはちゃんとしないと」

さっさとナロニィと話そうと思ったのか、ゴルダがもういいと言ったのでアルガティアはそそくさと仕上げを済ませる。
アルガティアが仕上げを終えた所で、イファルシアはゴルダの頭の上に乗ってナロニィの所へ行けと言う。
それにゴルダは指図されずともと冷静に返してナロニィの所へ。
自分以外のもふもふに、ろくすっぽ触れ合ったことのないナロニィにとって、フィルスにイファルシア、エゼラルドなどのもふもふ系の相手は本当に癒しでしかない。
オージェと馬が合わないことによるストレスもあるので、なおさらである。

「あーんもう、あと1人大きい方か小さい方の緑毛ちゃんみたいなもふもふな仲間欲しいー」

エゼラルドの横腹の毛に顔をうずめ、足をパタパタさせるナロニィにゴルダは

「その仲間の毛の手入れまでしないといけないから面倒が増えるぞ?」

「思いを口に出すのは悪いことではない」

あからさまにナロニィの夢に水を差すようなことを言う。
それにアルガティアは水を差すようなことを言うなと遠回しにゴルダに言う。
ナロニィはゴルダの一言を無視し、アルガティアにだよねと言った。

「空気読みなさいよ」

「お前が突っ込むかと思ってたが遅かったな」

イファルシアに空気を読めと言われ、ゴルダは突っ込むのが遅いと返す。
一方のアルガティアは、ハサミなどを綺麗にしてナロニィに向き直ると

「あなたもいかが?切る腕だけは保証する」

髪を切るかどうかを聞いてきた。
それにナロニィはお願いと言って、先ほどまでゴルダが座っていた椅子に座る。
するとアルガティアは、ハサミを動かしながらどれくらい切るのかとナロニィに尋ねた。

「ちょっと切るだけで」

大体の者はちょっととは何センチくらいかと具体的に聞いて来るが、アルガティアは具体的には聞かずにそのままハサミを入れる。
その間、イファルシアはナロニィの膝の上に位置を変えて座ると折れている方の耳を掻きつつ

「そんなにもふもふが好き?」

当たり障りのない問いを投げかける。
するとナロニィは

「うん、だって亜人でもふもふって私しかいないし。オなんとかさんはもふもふとは無縁だし、それ以前に私のストレスの元凶で…」

もふもふが自分しかいないことを言ったかと思えば、途端にオージェの愚痴をイファルシアにお構い無しにぶつける。
イファルシアはそれをうんうんと頷いて聞いているだけだったが、アルガティアはもっと教育でもする必要があるなどと意味深いことを言った。
一方ゴルダは、エゼラルドの抜け毛を1本の糸にする作業を行っていた。
基礎的な魔法に、少々のコツさえ掴めばこの作業はとても簡単らしいのだが、糸の種類によっては難易度も違うらしい。
ナロニィがアルガティアに髪を切ってもらっている間、ゴルダはずっとナロニィの方を向いてエゼラルドの抜け毛を糸へ加工していた。
最初こそは興味なんかないとまともに見ていなかったナロニィだが、だんだんと面白そうに見えてきたので

「それどんな毛でもできるのかな?」

どんな毛からでも糸は作れるのかと聞く。
それにゴルダは、一応は頷いたが

「オージェの毛でもむしり取って、それから糸にした上で呪でも打つ気か?洒落にならないからやめておけ。普通に相手の髪の毛使って呪を打つより危険だ。それ以前に呪を打つと言うのはけしからんことだ」

呪いを打つのが目的ならやめておけと断言した。
ナロニィはそんな物騒なことはしないと即答した上で

「冒険者してると、服のほつれとかは自分で直さないといけないけどその糸が入手しにくいから代替策を考えてたの」

服のほつれなどを直す糸を確保する方法を探していたと言う。
ゴルダはそういうことかと頷くと

「なら今度、冒険者として役に立つ知識と技術を教えてやろう」

などと豪語。
それにイファルシアはカッコつけちゃってと言いたげな顔をした。

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調髪と調毛

ある日のセイグリッド城の一室。
そこでサフィが他の従者の髪を切っていた。
これは他の従者に頼まれてサフィが時々やることである。

「もう少し短めで」

「どうせならベリーショートにしたら?」

そんな会話を、他の従者の髪にハサミを入れながらするサフィ。
少し前までは近くの美容師などを連れて来て切っていたのだが、どうせならとサフィが今まで隠し通していた調髪の方の技術もさらけ出したので現在はこうなっている。
だが、完全にその美容師を閉め出したわけではなく、実質的には選択制。
その割合は五分五分ほどとか。

「あら、お邪魔だった?」

そんなところへ顔を出したのは、アルガティア。
バハムードからここにいると聞いて来たらしい。
サフィはハサミを入れる手を止め、従者にちょっと待っててと言ってアルガティアの所へ。
どうやら今日はイファルシアしか連れてきていないらしい。

「ちょっとだらしなく伸びてないかしら?これ終わってから切る?」

「どうしようかなあ」

ちらりとイファルシアを見たサフィは、一瞬見ただけで毛が伸び放題になっていることを見抜き、今のが終わったら切るかどうかを聞く。
アルカトラスやシアの毛も切っているサフィにとって、イファルシアくらいどうということはない様子。
一方、切るかどうかを聞かれたイファルシアはどうしようかなと返す。
実のところ、イファルシアはサフィに切ってもらったことが一度もない。
今まで切ると言ったらアルガティアに頼むか、フィルスに無理矢理やらせるかの二択であった。

「私も少しハサミ入れてもらおうかしら?」

ここでアルガティアが、いかにもイファルシアを誘導するような一言を言う。
これは、AとBという2人の人間が居たとして、Aが何か行動を起こすのをためらっている時にBがそれを自分がやると言い、その結果として、Aもなら自分もやるという心理的な何かを使ったものである。
だが、イファルシアはサフィの腕がまだ信用できないらしく訝しむような目線を送っていた。

「分かった、今のさっさと終わらせるから待ってて」

ここで他の従者の髪を切っていたことを思い出したサフィは、慌てて戻ると再びハサミを構えて切り出した。
アルガティアとイファルシアは、それを部屋の中に入って遠目に見る。
ハサミさばきは、何らアルガティアがいつもやるのと大差はない。
だが、唯一違うと感じるのはサフィの切る雰囲気はアルガティアのようなものとは違う。
何と言うか、調髪は従者としての最低限の衛生や身だしなみを守るためのものであり、決しておしゃれなどで切っては居ないとイファルシアは感じた。

「身だしなみを守るために切ってるって感じが否めないわ」

「あまりに髪が長いと、メイドはダメなのよ。具体的にどれくらいからがアウトかは分からないけど」

「ふーん」

そんなこんなで、サフィは従者の髪を切り終わってアルガティアに今度はあなたよと目線で伝える。
?するとアルガティアはサフィに指定された場所に座ると

「毛先から20センチくらい切るだけでいい」

切る長さを指定しただけでイファルシアを膝に座らせる。
サフィはそうとだけ言うと、迷いもなくアルガティアの髪にハサミを入れ、30分ほどかけて20センチを切った。

「どう?」

アルガティアに鏡でどうかと聞くサフィ。
それにアルガティアはこれでいいわと返し、仕上げをしてもらい終了。
ずっと膝に座っていたイファルシアは、結局どうしようかと悩んだ挙句

「じゃあサフィが気になるとこだけ切って」

気になる所だけ切れと頼んだ。
するサフィは、イファルシアだけを台の上に座らせると頷きもせずにハサミを入れ始めた。
それにイファルシアは頷きもしないの?と思ったが、下手に動くと切ってはいけないところまで切られそうだったので、そのままじっとする。

「最後に切ってもらったのは何時よ?」

「半年くらい前」

「そこまで魔力代謝は高くないのね。高い奴は切って2、3日か切った直後に元に戻るわ」

「ふーん」

最後に毛を切ったのは何時かとサフィに聞かれ、イファルシアは半年前と答えた。
それにサフィは魔力代謝がどうとか言ったが、イファルシアはよくわからないのでふーんの一言で流した。

その間にも、サフィはハサミと櫛を巧みに使ってイファルシアの毛を切って行く。
最終的に、サフィはイファルシアの毛を10センチほど切ったようで、切る前に比べてイファルシアはだらしなさが皆無になった。

「これ以上切るとハゲになるからやめるわ、いいでしょ?」

「まあまあかしら?」

なお、切った毛はアルガティアがなぜかもらって行ったと言う。
小説(一次) |

オージェとアルガティア-滝打たれ

その日、オージェはこれまでにないほどひどく苛立っていた。
なぜならば、まだかまだかと数ヶ月余り元の世界へ帰る日を待っていたのだが、シアから進捗が思うように進まず、このままだとあと1年以上はかかると言われたことが一つ。
もう一つ、それを聞いたGのあまりにもマイペースな一言に怒りを通り越して呆れたからだ。
さらに追い打ちをかけるようにこの世界では、元居た世界とは魔法の定義などが違うので思うように魔法が使えず。シアも互換性をなかなか持たせてくれない。
そのため、唯一のストレス発散手段の鍛錬のメニューの一部を断たれているオージェのイライラは、いつ爆発してもおかしくない状態。
そこへGの前述したような行為で、もはや苛立ち自制が利かなくなり始めていた。

「ぐぬぬ…」

それを察してか、ナロニィもGもオージェをそっとしておこうと何処かへ出かけて家には居ない。
手持ちの武器の素振りをするオージェだが、やはり魔法の鍛錬ができないのではろくにストレスも発散できない。
かと言って、酒などに走れば自分に負けた気がするので絶対にしたくないのまた事実。

「いかんいかん、このまま苛立ってても仕方が無い。少し散歩して気を晴らそう」

少し冷静さを取り戻したオージェは、このまま苛立っていても仕方が無いと散歩に行くことに。
だが、行くルートは決まっていて城の庭園だ。

「むむっ、あいつとは一番会いたくないのだが」

とりあえず城の庭園までやって来たオージェだが、その庭園にアルガティア一行が居るのを見つけて見つからないように身を潜め、様子を伺う。
ナロニィの姿が見られたが、相変わらずイファルシアやフィルスと遊んでいるようだ。

「さすがのあいつでもこの距離からなら見つけられないだろ…い、居ない?」

などと油断していると、突如イファルシアの姿が見えなくなっていた。
オージェはどういうことだと面食らっていると

「後ろに気付かないとはねえ」

背後から声がしたかと思えば、クスクスと笑いながら小馬鹿にしたような表情のイファルシアがその場に浮いていた。
オージェは迷わず身構えるが、イファルシアの蔦での不意打ちを食らって仰け反る。

「どこに注意注いでるのかしら?」

「おのれ、カーバンクルごときにこの私が…ぶっ」

イファルシアに挑発され、おのれと踏み込んだオージェだが、蔦での一撃を食らって今度は吹っ飛ぶ。
冷静さを取り戻してたとはいえ、完全に苛立ちが収まったわけではないのでイファルシアの攻撃を読み切れなくなっていた。

「ダメダメね」

「ぐっ、集中集中…」

再び挑発され、また踏み込んで今度はカウンターを狙おうとしたがあっけなく草結びですっ転ばされた。
完全にイファルシアのペースに乗せられてしまっている様子である。

「そうそう、アルガティアから伝言。明日一緒に滝打たれでもしない?だって」

「なぜ私が滝に打たれなければならないのだ、断る」

折れた方の耳を掻きながら、アルガティアが明日滝打たれでもしないかとオージェに言うイファルシア。
だがオージェはなぜ私がと言った上で断ると即答。
するとイファルシアは、オージェと目と鼻の先まで詰め寄ってこう言う。

「嫌ならいいけど。でも私は面白そうだからあんたが断っても無理矢理連れて行くけど」

「無理矢理…だと?」

「ええ、明日の朝連れに来るから覚悟しておいてね」

明日の朝連れに来ると言ったイファルシアに、オージェはおい待てと捕まえようとした。
だが、オージェがつかんだのはラベンダーのドライフラワーだった。
なおドライフラワーには、ご丁寧にイファルシアのメッセージカードが挟まっていて

「ラベンダーの香りで落ち着きなさいな」

と今のオージェにはもはや馬鹿にされているとしか思えない一言が書いてあった。
オージェはそのメッセージカードを破り捨て、一心不乱にドライフラワーになったラベンダーの香りを嗅いだ。

そして翌朝。
苛立ちもすっかり収まり、何事もなく過ごしていたオージェ。
そこへどこからともなく現れたフィルスに連れられたイファルシアに蔦でぐいと掴まれた。

「ええい、行かんと言っただろ!」

「はいはい、暴れない。暴れるとテレポート過程で体バラバラになるよ」

意地でも行くのを拒んで暴れるオージェに、フィルスは一応警告してから座標指定テレポートでリフィルへ。
結局、フィルスが言ったようなことは起こらなかったが。
テレポート後もオージェはイファルシアに蔦で掴まれたまま引っ張られ、裏山と思わしき場所の滝壺まで連れて来られる。
そこは滝壺にしてはそこまで深くはなく、川自体も小さかったが滝壺は2人で立って打たれてもギリギリ問題ないスペースがあった。
そこでは既に修行衣姿で滝に打たれているアルガティアの姿が見られた。
ここでようやくイファルシアに解放されたオージェは、2人に聞こえない程度の音で舌打ちしてから身軽な姿で滝壺に入る。

「流石に冷たいし痛いな、いててて」

全く動じずに無表情に滝に打たれているアルガティアの横へ来たオージェは、打ち付ける水に潰されそうになりながらも、なんとか見よう見まねで滝打たれを開始。
だがこの滝。打たれている最中に少しでも集中を途切れさせると水がより冷たく感じたり、打ち付ける水の勢いが倍に感じられて押し潰されそうになるらしい。
それを理解してないオージェは

「あだだだ」

水の勢いが倍になって普通に押し潰されそうになったり

「ぬわーっ!」

突き刺さるような水の冷たさに飛び上がってからの、水の勢いに押し潰されるというコンボを決めたりした。
一方のアルガティアは何事もなく普通に滝に打たれており、オージェのような事には一度も陥っていない。
それを見たフィルスは

「結構レベル高そうな魔法戦士なのに集中力低いのかな?」

と言い。
イファルシアは

「持続的な集中力が低いのかもね、これで気づけばいいけど」

などと両者共にあまり芳しくない評価を勝手に下していた。

そして結局オージェはどうなったのかと言うと

「がぼがぼ…」

立ち上がれないほどの水の勢いに押し潰され、アルガティアに助け起こされるまでずっと素潜り状態だったという。

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小説(交流) |

キーリアス=ブルファーシュネト


性別:(よく女装してると間違われるが)♀
年齢:外見は15くらい、実年齢不詳
身長:150cmくらい
種族:氷竜と闇竜の間の子(血の割合は8:2)
性格:自分のテリトリーに勝手に踏み入る者を嫌う
リヴァイドの親戚だという、氷竜と闇竜の間の子の魔法戦士系魔法少女。
人化能力が原因不明の変異を遂げ、中途半端な竜の面影を残した姿を持つ。
杖と槍のハイブリッドの武器を持ち、これで魔法も近接戦闘もこなす。
自分のプライベートもといテリトリーに許可なく入られることを極端に嫌い、リヴァイドからは付き合うのが難しいと言われている。

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創作関係全般 |

ゴルダと物言わぬ患者たち

人間に失語症などの理由で、口から出す言葉でのコミュニケーションが出来ない者が居るように、竜にも同じように言葉でのコミュニケーションが出来ない者もいる。
竜医たちは、そういった患者たちと、どうやってコミュニケーションを取って診察及び治療をしているのだろか?
今回はゴルダの患者たちを例に取って見てみることにする。

スリュムヴォルドとドランザニアの国境にほど近い、スリュムヴォルド側の小さな集落。
そこで、ゴルダは今日1人目の患者を診ていた。
患者は水竜にしては非常珍しい毛を持つ青毛の竜。
生まれつき何かを喋れるほど声帯が発達しておらず、いつもは意思を飛ばすテレパシーか筆談で会話をしているという。

「これと筆談、どっちが楽かな?」

ゴルダは青毛の竜に意思を飛ばして聞く。
手段がいくつかある場合、あらかじめ患者にどれがいいかを聞いておかないと後々面倒なことになるからだ。
それに対して青毛の竜は、近くにあった紙にこう書いた。

「状況に合わせて使い分けます」

それを読んだゴルダは、軽く頷いて診察を開始。
ちなみにこの青毛の竜は、数日前から腹の調子がおかしいとゴルダを頼ったのだ。

「何か食当たりするようなもんは食ってないか?」

「腹の調子がおかしくなる前の晩に、当たりやすい魚を食べたくらいです」

テレパシーと筆談で交互に会話をし、青毛の竜が当たりやすい魚を食べたと紙に書いたので、ゴルダはもしやと腹に聴診器を当ててみた。
その結果は、物見事に食当たりで下したような腹の音がしたのでゴルダは紙にこう書いて青毛のに見せる。

「間違いない、これは食当たりによる腹下しだ。薬は出すから今後は気をつけるようにな」

青毛の竜はそれに分りましたと言わんばかりに頷く。
その後ゴルダは腹下し用の薬を出して1人目の診察を終えた。

次にゴルダが向かったのは、リヴァルスの城下町から少し離れた所にポツリとある本当に小さな村。
その村には、城下町までの唯一のまともな移動手段となっている氷竜が体調を崩し、困っていた。
だが、ただ困っているわけではない。
この氷竜は口をきくことをそれなりに信用している者でないと、そう簡単にはきいてくれないらしく。どこの具合が悪いのか聞いても答えてくれないというのだ。
そのため、竜医であるゴルダが呼ばれたのだが…。

「どこが痛いとか言ってもらわんと診察のしようがないんだが?」

中にはこのように、喋れはするものの信用している者以外、あるいは誰とも話そうとしない患者も稀ながら居る。
こういう場合は、根気良くぶつかって行くか、あるいは自分で勝手に調べて、患者の了承も得ずに勝手に治療してしまうという2つの手が存在するがゴルダは前者を選んだ。

「よし分かった、ならばなぜそこまで信用している者以外との会話を拒む?」

ゴルダは、これ以上聞き出そうとしても枯れた植物に水と判断してアプローチを変える。
ちなみに、枯れた植物に水とは日本のことわざの暖簾に腕押しや糠に釘と言ったものと同じ意を持つ。

それから1時間後。
なんとか氷竜からの信用を得たゴルダは改めてどうして信用した者以外と話をしたくないのかを聞く。
すると、意外な返事が帰ってきた。

「事あることに掌返しされてたら、信用出来ない奴とは話したくも無くなるだろうに。そういうことだ」

どうやらこの氷竜、今まで事あることにさんざん掌返しをされて裏切られてきた様子。
そのために訝しみの心が強くなりすぎて、信用出来ない者とは話をしたくなくなったようだ。

「それはそれで仕方のないことか、んで体調崩してると聞いてたが具体的には?」

信用されたという事で、ゴルダは氷竜に具体的にどんな風に体調を崩しているのかを聞く。
すると氷竜は、ただの風邪であると返す。
氷竜が風邪を引くというのはおかしいと思われるが、実際のところは氷竜だろうが火竜だろうが風邪を引く時は引く。
だが、それは普通の風邪よりも厄介なことが非常に多いのである。
なぜなら、簡単に風邪をこじらせてそのままお陀仏になる者も珍しくはないからだ。
なので、ゴルダはこの氷竜にかなり強力な風邪薬を作って飲ませて診察を終えた。

 何も、口から出る言葉だけがコミュニケーションではない。
テレパシーや筆談など、やろうと思えば手段はいくらでもある。
だが、やはり一番相手の気持ちを察したりできるのは口から出る言葉なのかもしれない。

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小説(一次) |

レナと花火

どこかでオニヒグラシが鳴いているドランザニアの夕刻。
そんな夕刻のゴルダの家で、レナとゴルダが夕涼みをしていた。
ゴルダは瓶入りの酒を、レナはマンゴージュースを飲んでいる。

「ちょっと暑いかな」

「今夜は蒸し暑いと天気予報で言ってたぞ」

酒瓶をテーブルに置き、ゴルダは煙草のようなものに火を付けるためにオイルライターを出してレナから離れる。
他者が居る場合は、ゴルダはこうやって距離を置いてから煙草のようなものを吸う。
無論、レナの方に紫煙が行かないように風向きも考えて。

「ゴルダさん、なんか鳴ってるよ?」

レナに言われ、ゴルダは自分の携帯を取り出す。
画面にはメールの受信表示が出ており、ゴルダはそのメールを開く。
送り主はエシュフィルトからで、アルガティア達と花火をしないかという旨の内容が書かれていた。

「エシュフィルトが呼んでるが、一緒行くか?花火をするらしい」

「うん」

ゴルダがレナに行くかと聞くと、レナは軽く頷いて一緒について行くことに。
なお、エシュフィルトが指定したのは城の中庭の一角。
そこでは、なぜかアルガティアやエシュフィルト以外にエゼラルドやイファルシアのフィルスに時雨。サフィにシアまで居た。

「なんだこの大御所体は」

「多い方が楽しい」

なんだ大御所体はと突っ込んだゴルダに、アルガティアは多い方が楽しいと返す。
そして、イファルシアも同意するように頷いた。
ゴルダはそれを見てまあ構わんがと呟き、エシュフィルトに花火はどこだと聞く。

「これ全部」

と言って、エシュフィルトが出したのは火気厳禁と英語で書かれた縦横が1メール半の立方体の木箱にみっちり入った花火。
ほとんどが打ち上げや噴出に連発花火だが、手持ち花火も少しはあるようだ。

「何故か知らないけど、手に入ったのよねえ」

どうやらこの花火を入手したのは、サフィらしい。
しかも、何故か知らないけど手に入ったという台詞から出処は不明なようだ。

「なんでもいい、ちゃっちゃとやろうじゃねえか」

ゴルダはいつものオイルライターを出して花火を出せと手招きする。
すると、サフィはその中から連発花火を10本くらいまとめて渡してきた。
ゴルダが何の迷いもなく、その連発花火の導火線に火を付けようとするとエゼラルドが

「10本一気には流石にゴルダとはいえ危ないよ?」

と注意したものの、ゴルダはそんなの関係あるかと言わんばかりに手に持ったまま10本全ての導火線に火を付ける。
エゼラルドは、それを見てどうなっても知らないよと言わんばかりにアルガティア達を守りに入る。
一方、サフィとシアにエシュフィルトは面白いことが起きそうだという顔をしていた。
レナはシアの横に隠れてゴルダを見ている。

「ほほう、湿気ってはいないようだな」

勢いよく飛び出す火花を見て、ゴルダはそう呟く。
エゼラルドは爆発しないよね?と心配げに見ていたが、やがて10本全てが打ち切られた。

「ちょっとやり方危なかったけど、綺麗だったなあ」

と言ったレナに、ゴルダはならもう一回と今度は20か30本まとめに挑戦しようとしたが、時雨とイファルシアに、爆発すると危険だからやめろと止められた。
ゴルダはなんだよと言って、今度は普通の打ち上げ花火を出す。
これだけはゴルダは地面に置いてから導火線に火を付けた。
導火線の火が燃え尽き、やがてそれなりにうるさい音と共に火花が夜空に打ち上がり、パンという音を立てて夜空に消えた。

「物足りないですな」

時雨がそう言ったのを聞き、ゴルダはあるだけの打ち上げ花火を全部出して、等間隔で並べる。
それを見ていたシアは、魔法で一気に付けるつもりかしら?と呟く。
一方レナは、あんな量を一気にやって危なくないのかなと思っていた。
やがてゴルダが全ての打ち上げ花火を並べ終わり、レナの近くまで戻ってから

「12の3で点火するぞ?1、2の…3」

指鳴らしで全ての導火線に一斉に点火。
すると、一斉に打ち上げ花火の導火線に火が付き、瞬く間に燃え尽きると何発もの打ち上げ花火が夜空を彩った。
残った花火は、噴出と手持ち花火に連発花火が30本程度。
そこへエシュフィルトが手持ち花火をやろうよと、手持ち花火のセットを引っ張り出す。
だがゴルダはそれよりこっちだろと、残った連発花火を全て地面に1つの塊になるように突き刺したかと思えばその場で火を付ける。
だが、その時たまたま強く吹いた風で地面に刺した連発花火が倒れたのにゴルダは気付かずにいた。
そして、連発花火から火花が発射された瞬間。

「わわっ…!」

「こらっ、危ないでしょ」

その火花がレナとシアに全て向かってきたので、シアが連発花火の火を全て消した。
その後、当然ながらゴルダはシアに怒られた。

やがて噴出花火も全て終わり、残るは手持ち花火だけに。
ここでサフィは仕事があると言って戻ってしまった。

「やっぱり手持ち花火よねえ、そこまでうるさくないし」

「そうね」

そう言ってやっているのは、エシュフィルトとイファルシア。
ごくごく普通の手持ち花火をちまちまとやっている。
一方アルガティアとフィルスにエゼラルドは3人で囲むようにして花火をしている。
もちろん、アルガティアの頭上には時雨が居る。

「綺麗」

「でも火は好じゃないな」

「花火はこうやって鑑賞するものだよ、打ち上げはうるさいから好きじゃないや」

アルガティアは燃え尽きていく花火を綺麗と言う。
だがしかし、エゼラルドは花火であっても火は好きではないらしい。
一方のフィルスはこうやって鑑賞するものと言いながら、打ち上げはうるさいから好きではないと一蹴。

「線香花火って、綺麗だけど儚いよね」

「美しきものほど儚いのよ」

咥えて線香花火をするレナと、ゴルダを完全に押さえ込んでそれを眺めているシア。
ゴルダは完全に無言で、毛の中に埋れているので表情は分からない。

「あっ、落ちた」

やがて、ボトリとレナの線香花火の火の玉が地面へ落ちた。
それを見たシアは、やはり儚いわと呟く。

「もう1本いこうかな」

「その辺にしておきなさい、何度もやったら余計儚くなるだけよ」

もう1本いこうかなと言うレナに、シアはやるほど儚くなるだけだからその辺にしておけと言う。
レナはそれにえーと言ったが、よくよく考えてみればそうだったので残りを埋れているゴルダに渡した。
残った線香花火を渡されたゴルダは、シアの毛の中から這い出てライターで全てに火を付けるとそのまま火の玉が大きくなるのを眺める。
その火の玉を見ていたレナは、それが地面に落ちるのを見て

「もう終わりかあ」

と呟くとゴルダとシアを見て

「またやりたいね、今度は3人で」

自分を含めて3人という少人数で花火をしようと言った。
今日も、月明かりが綺麗な夜である。

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小説(交流) |

依頼の帰り道の出来事

その日、ドランザニア南部で依頼を終えたゴルダは氷燐に乗って帰路についている途中だった。
竜医関係の依頼だったためか、そう言った持ち物がとても多く、半分は氷燐に持ってもらっている。

「連続して5件も診察することになるとは思わんかったな」

「それが仕事なんだし、仕方ないんじゃないかな?」

ここで気になるのが、こう言ったフリーランスな医者は上からお咎めがないのかどうかという疑問が生じる。
だが、幻想獣医や竜医に限っては何らお咎めはない。
なぜなら、大陸の包括的な法律によると、免許さえ必ず所持していれば自分の診療所などを構えていなくても、病院に勤めていなくても大丈夫なのである。
そのため、幻想獣医や竜医にフリーランスな者が多いのも事実であり。その報酬も特に法で定義がされているわけでもないので、ゴルダのように良心的な報酬を請求する者もいれば、かなりの額をぼったくる者も居る。

「しかも最初の1件以外は全部熱中症だ。やれやれだぜ」

そんなことを言いながら車道をのんびり移動していると、はるか前の方で何かと何かが衝突したものすごい音がした。
何だと思ったゴルダは、氷燐を走らせてその場へ向かう。

「なんということだ」

そこでは、宅配便の荷物を運んでいた地竜が車と衝突したのか。辺りに荷物を撒き散らしてその場に倒れている。
車の運転手は、どうやら責任から逃れようと逃げたらしい。
それに、いくら竜とはいえ生物に変わりはない。
病気をすることもあれば、ケガをすることもあるのだ。

「どいたどいた、俺は竜医だ。この竜の竜使いはどこ居る?」

氷燐と野次馬の中に割って入り、ゴルダは刑事などが自分の手帳を見せるように免許を見せ、この地竜の竜使いを探す。
すると、野次馬の1人が救急隊を呼びに言ったと答えた。
ゴルダはそうかと返し、車と衝突したと思わしき箇所を調べる。
外見からはかなりひどい打撲としか思えないが、ゴルダは

「右前足の大腿骨がポッキリいってるなこれは。しかも折れた骨が若干神経に触れてる、これは痛いぞ」

その患部を医用魔法で調べ、骨折していることと折れた骨が神経に触れていることを確認。
そこから導き出した応急処置は、折れた骨が神経に触れすぎて傷つけないようにある程度固定と保護を行うというもの。
氷燐に持たせていた荷物から包帯などを出し、野次馬が見ている中で応急処置を済ませた。
ちなみに、法でこういった緊急時の竜などへの処置は、免許をその時に所持してないなどの特別な理由がない限りは、ほぼ義務とされている。

「後はこいつを書いて、と」

次にゴルダはどこからか紙を取り出し、簡易的な診断書のようなものを書く。
これも、法で義務化されている行為で、緊急時に行った処置などに関しては搬送先の病気の竜医に引き継げるように簡単な診断書のようなものを書かなければならない。
書き終えたところで、この竜の竜使いが救急隊を引き連れて戻ってきた。

「おっと、俺はちゃんとした竜医だから心配するな」

竜使いと救急隊に自分の竜医免許を見せて、ヤブ医者ではないことを示す。
その後、この地竜は救急隊が竜用の搬送車に乗せて病院まで搬送して行ったのだが、救急隊はゴルダにも病院まで同行するように言い、ゴルダも氷燐に乗ってその後を追った。
救急隊がなぜこんなことをするのかというのには、諸説あるものの大きな理由は伝達ミスなどでトラブルになるのを防ぐためらしい。
地竜が搬送されたのは、竜医科がある病院で南部でもそこそこの規模を持つメーシェルチェ病院。
だが、ゴルダはあまりここに来たくはないのか、この病院が見えた瞬間渋い顔になる。
それもそのはず、このメーシェルチェ病院の竜医とゴルダはとても仲が悪い。
それはなぜかと言うと、法で緊急的処置を行った場合、病院側はその竜医に報酬の支払いと患者に関する報告を受けるからだ。
特に、報酬の支払いのせいでこの病院の竜医からゴルダのみならず、フリーランスの竜医は嫌われている。

「またあんたか、事あることにいつも現れやがる」

「うるさい、それよりこれが俺の見解を書いたやつだ。それと今日は報酬なんか要らん、収支報告に払ったとだけ書いてろ」

案の定、この病院の竜医と険悪ムードになってきたのでゴルダは報酬は要らんと例の簡易的な診断書のようなものを押し付けて病院から出て行く。
外で待っていた氷燐に、何かあったのかと聞かれてゴルダは大したことではないと返し、そのまま帰路についた。

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