FC2ブログ

氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

賢竜の暇つぶし

ドランザニア東南沖合、聖リフィル王国。
アルガティアが治めるこの国に、自治を許された里がある。それは賢者の竜の里。
この里では、竜族の中でも知力がずば抜けていたり桁違いの竜達が様々な研究を行っている。
無論、外なる世界…地球の有名企業や国際機関、一部の国の機関などとも連携して様々な研究をしている。
何故自治が認められているかというのは、言うまでも無く機密保持などのためだ。
この里には防衛設備や私設兵などが配備されており、潜入するのは天才スパイでも難しいと言われている。

そんな里の、ある小さな部屋に居る。足だけが黒い毛に覆われ、他は青い毛に覆われた青い目の竜が居た。
名はエルリス、里では将来有望とされている賢者の竜だ。

「これじゃあダメだな」

エルリスがやっているのは、P≠NP問題と言う数学の未解決問題。
既にこの里の賢者の竜によって解かれて論文も出ているが、何故エルリスがそれをまた解いているのかは謎だ。
ちなみにエルリスは、どこのプロジェクトにも属して居ないフリーな賢者の竜。
他の同族からは、どこかのプロジェクトに属しろと言われている。
しかし、エルリスはそれをどう言う風に解釈したのか。猫の手を借りたいプロジェクトの所へ行って手助けする程度の事しかしない。
これに呆れた賢者の竜も居るが、一応やっているからこれ以上何も言うことは無いと黙認している者が多い。

「こんなものか」

マカロンを食べ、エルリスはそれを解いた紙をまとめて机の上などを片付ける。
エルリスの部屋は他の賢者の竜に比べて小奇麗だ、それはエルリスのかつての師匠が

「忙しいは言い訳にしかならない、わずかな時間でもいい。片付けはちゃんとしろ」

と口を酸っぱくして言っていたのでエルリスはそれを守っている。
エルリスの師匠は、別の世界から流れ着いた賢者の竜で。少し変わっているなどと言われていた。
エルリスはそんな師匠に魅かれて弟子入りし、持っている知識を叩きこまれた。
だが、10年ほど前にその師匠は元居た世界へと帰ってしまって今は居ない。

「出かけるか、アルガティアの所にでも」

エルリスは部屋を出て、里の入口へと向かう。
里の入口は見えない門に閉ざされており、侵入者を拒んでいる。

「夕方には戻る」

エルリスは門兵に伝えて里の外へと出る。
そして、普段は隠している青くて透明な羽を出し飛び立つ。
本当は浮遊で大丈夫なのだが、それではダメだとエルリスはこのようにしている。

「よ、アルガティアは居るか?」

「アルガティア様は居られますが、エルリス…暇つぶしで来るのは少し自重してくれ」

「悪い悪い」

王宮のほとんどの兵、従者やメイド達に顔を覚えられているエルリスだが気にすることなく王宮の中へ入る。
アルガティアは書類処理をしていたが、それほど忙しくない様子だ。

「あら、来てたの。また暇つぶし?」

ふと顔を上げたアルガティアに聞かれて、エルリスはまあなと答える。
処理し終えた書類を所定の場所へ持って行って戻ってきたアルガティアは

「ちょっとセイグリッドまでいかが?アルカトラスに用事があるの」

「ん、まあ俺は構わないが」

エルリスはそんな返事を返す。
そして2人はアルガティアの転送呪文でセイグリッドへ行く。

「ほう、エルリス。お前も来たか」

「暇を持て余した賢者の竜は暇つぶしのためならどこへでも行く」

エルリスは後ろ足で体を掻きながら答えた。
アルカトラスはアルガティアと大事な話があると言って、その場を離れる。
1匹だけ取り残されたエルリスはどうしようかと考えながら、城の中を歩き回る。

「…あの塔へ行ってみるか」

エルリスは、前々から気になっていたセイグリッド城の北にある天を貫くほど高い塔を目指す。
そには、始祖竜と呼ばれるこの世界の『生』を管理している竜が住んでいるらしいが会ったものはアルカトラスぐらいらしい。
エルリスは賢者の竜として、その始祖竜に興味を持っていた。
どんな奴なのか、一度は会ってみたい。そんな好奇心から、エルリスは塔へと向かう。

「しっかし、高いなこの塔は」

天を貫くほど高いだけあって、いくら頂上を目指しても辿りつかない。
やっとの頂上へ事でたどり着き、前足を端にかけてよじ登るとアルカトラスによく似た竜が何かをいじっていた。
違う点は、赤い目に4本の角があるの点だったが。

「ん、来客か。珍しい…賢者の竜の里のエルリスか」

その竜はよじ登って上がって来たエルリスを珍しそうに見る。
エルリスは自分の名前を知られている事に一瞬面食らうが、すぐに普通の態度に戻り

「いかにも、まあよろしく」

と始祖竜に言う。
始祖竜は少しばかりエルリスを見ると

「賢者の竜がここへ来るとはな、珍しいにも程がある」

始祖竜はいじっていた何かを持ち上げ、エルリスへ見せる。
何だと言う顔でエルリスはそれを見た。
一見普通の大きな水晶玉だが、放出される魔力は桁違い。

「ふふふ、生命の水晶玉だよこれは。そう言えば名乗って無かったな、シア=アルシェリアだ」

「始祖竜なのに姓があるのか」

名乗った後にそうエルリスに突っ込まれたにシアは

「主神が生みの親だからな、アルカトラスも姓はアルシェリアだぞ。他竜関係を保っているが」

アルカトラスも同じ姓だと答える。
エルリスは主神が生んだのなら、あながちそうなってもおかしくはないと言って生命の水晶玉を覗き込む。
水晶玉の中は、わけのわからないものがごった返して動いており。何が何だか分からない。

「で、これで何をするつもりだ?」

前足の爪で水晶玉をつっつきながらエルリスはシアに聞く。
シアはさあなと言って、また別の水晶玉を取り出す。

「死と生の力が互いに反発しているようだが、これは輪廻の水晶玉か?」

「正解、これで一応の管理をしているのよ。でも最近はそれは死神達の仕事だから、私は死神達の監督をこれでしているの」

シアはそう言って、その水晶を片付けた。
エルリスはその横で暇そうに頭を掻く。

「お茶でもどうだ?少し話をしてやろう」

どうやって淹れると突っ込むエルリスに、シアは不思議そうな顔をする。
これは聞いても無駄だと思ったエルリスは、シアが淹れてくる間に塔に使われている石の材質を調べ出す。

「少しサンプルを削って持って帰りたいが…やめとくか」

少しばかり材質を調べる魔法で調べたところ、錬成で作られたものとそうでないものが交互に使われている事が分かった。
しばらくすると、シアがどこからか菓子まで持って戻ってきた。

「それはどこから?」

エルリスが聞くが、シアはどうだっていいじゃないかと言って答えない。
そして茶を淹れ、シアはエルリスにどう言う風にして自分とアルカトラスが生まれたのかから話しだす。
シアの話を簡単に説明すると、最初に主神はアルカトラスを自分の分身と称して作ったが。分け与える力の配分を間違えて8割方を持って行かれた。
戻す訳にはいかないので、主神はアルカトラスを下界へ送ってこのドランザニアのある世界と大陸を作らせた。
しかし、アルカトラスだけでは大変だろうと。ある程度力の回復した主神は今度は生などを管理させる目的でシアを作り、今に至ると言う。

「深く考えない方が理解できるな」

エルリスは話を聞き終え、そんな感想を漏らす。
シアはそれに対して、それもそうだなと答えた。
その後も2人は他愛も無い話で時間をつぶし、日の入りになる頃

「ん、もうこんな時間か。俺は帰るぞ」

「ああ、また来い」

エルリスは転移魔法で里まで一気に戻った。
部屋へ帰ると、大量の書類が置かれており。エルリスは夜中近くまでその処理に追われる。
そして翌朝

「朝か」

目を覚ましたエルリスは朝食を取ってまたシアの所へ行く、今日は位置を特定しているので転移魔法で向かう。
塔へ行ったまではいいが、なぜかシアが居ない。
おかしいなと思ってしばらく待っていると、シアが何の前触れも無くやって来る。

「アルカトラスの所に朝飯を食いに行っていたが、どうした?」

「そうなのか、いや…暇なもんでな。相変わらず」

シアから朝飯を食いにアルカトラスの所へ行っていたと言われ、エルリスは納得する。
何をすると言う顔でエルリスを見ていたシアだが、急にポンと前足を叩いて何かを思いついたのか

「エルリス、お前に賢竜ならではの頼みがある」

とエルリスを引きずって奥へ行く。
シアにつれて来られた場所には、解読翻訳しかけの古代言語の文献が積み上げられている。

「私1人じゃめんどくさくなってしまってな、手伝ってくれないか?」

「で、俺に解読翻訳を手伝えと…まあ少なからず仕事がもらえる分マシか」

シアに手渡されたそれは、古代ドランザニア語・古代エルフ語・ルーン文字と3種類の言語と文字がごちゃごちゃに使われており。わけのわからないものと化している。
エルリスはため息をつく、それもそのはず。こんなめんどくさいやり方で書かれていては解読翻訳も困難だ、シアのモチベ―ションが維持できずにめんどくさくなって投げた理由もこれで分かる。

「さて、解読を始めようか」

エルリスは頭を切り替え、解読に入った。
最初の数時間こそは集中していたが、次第に糖分が不足して来て度々意識が飛ぶようになる。
実は賢者の竜の9割9分が他の種族や竜に比べて糖分の消費が桁違いかつ約3割が低血糖症を患っている事がかなり古い竜医学の論文で明らかにされている。
なので、賢者の竜は常に糖分補給を怠ってはならない。
そのためか、アルガティアは砂糖などの甘味料の輸入や生産には力を入れている。
実際、サトウキビなどの砂糖の原料の生産量は聖リフィル王国が一番多い。

「ほら、食べろ」

シアに砂糖菓子を出され、エルリスはそれにかぶり付く。
ちなみに、竜も糖尿病を患うが。魔力に長ける属性の竜や賢者の竜は糖尿病を患わない体質であることも判明している。
それは、糖分の消費などに関する細胞や遺伝子が異常発達しているせいだと言う見方が強いが。
砂糖菓子を1つ平らげたエルリスはすぐさま復活し、また解読に戻る。
そして日が天辺を過ぎて傾き始めた頃

「いかん、あまり遅くなると門番にグチグチ言われる」

時間に気付いたエルリスは残った分を持って里へと帰る。
シアはそれを、また明日も来いと言って見送った。
夜、里へ帰ったエルリスは夕食も取らずに解読翻訳に忙しむ。
賢者の竜は一旦物事に集中し出すと、納得行くまでまともな食事を取らずに過ごす事が多い。
それでも、体調を崩す者はそんなに居ないとか。その理由も又謎である。

「これは…呪文か?」

ふと解読翻訳していると、エルリスの目にルーン文字とエルフ語がミックスされた呪文のような一文が出て来た。
試してみたい気はあるが、下手に試すと何が起きるか分からない。
エルリスはグッと好奇心を抑えてその呪文らしき一文を別にメモとして書きとる。
後に、それが大変なことになるとは知らずに。

「さて、飯食って少ししたら寝るか」

エルリスは食堂に行き、食事をする事にする。
賢者の竜以外にも人間や獣人などが一緒に研究をしていたりするので、食堂はそれに類する者でもごった返している。

「いつものを頼む」

エルリスは配膳担当に言う。
エルリスの言ういつものとは米を主食とした食事、つまり日本食だ。
賢者の竜の里には日本人も多く、日本の企業や大学などから来ている者が多い。

「いただきます」

器用に前足で箸を掴んでエルリスは食べ始める。
エルリスの席の周りには誰も座らない、本人が座るなオーラを出しているからだろうが。
食事を終えたエルリスは自室へ戻り、ちょっとだけ解読翻訳をやって床へ就く。
翌朝、朝食を終えたエルリスはまっすぐシアの所へ行く。

「ん、何だこの呪文は?」

やって来たエルリスに、メモした呪文のようなものを渡されてシアはエルリスに聞く。
エルリスは用途は分からないと答えた。

「唱えてみるか、そうしないと分からないだろ?」

「まあ、暇つぶしになればいいかもな」

そうかとシアは言い返し、呪文を詠唱し始める。
呪文自体はすぐに詠唱し終わったが、何も起きない。

「何も起きないな」

とエルリスは耳のあたりを後ろ足で掻きながら言う、しかしシアは

「なんて事だ…とんでもない呪文を唱えてしまったようだぞ」

とエルリスに言う。
どう言う事だとエルリスが聞くとシアは

「この呪文、不死者を冥界より召喚する呪文だったようだぞ…不死者の負の気が世界に満ち始めている」

と淡々と答える。
それはいかんと、エルリスはシアに反対呪文を探そうと言う。

「そうだな、早く探さねば」

冷静に答えたシアは未解読未翻訳の文献を全部出して、急いで翻訳し始める。
しかし、そうしている間にもどんどん負の気は高まって行く。

「くそっ、どれだ?」

「…」

2人はこれまでに無いほどに集中して反対呪文を探すが、一向に見つからない。
そして、そんなこんなで30分後。

「どこだどこだ…」

「…」

ぶつぶつ言いながらも集中力を維持して探すシアと、無言で淡々と探すエルリス。
そんな2人の背後に、冥界よりやって来た亡者が迫っているが2人は気付かない。
そして、亡者がエルリスに襲いかかろうとした瞬間。強力な聖属性魔法が亡者を無へ帰す。

「一体何をやったんだお前達?あちらこちらに冥界から出て来た者たちが好き放題暴れているぞ」

「アルカトラス…それが…」

シアはやって来たアルカトラスに事情を説明する。
アルカトラスはそうかと頷き、その呪文をチラリと見るや何かを唱えた。

「少しばかり勉強不足だな、エルリス」

「…賢竜とあれど、常に知識に対する欲望は忘れてはいかんな」

エルリスはアルカトラスにそう言い返す。
アルカトラスが唱えたのはどうやら反対呪文で、これ以上冥界から不死者が出てくることは無さそうだ。

「さて、出てきてしまった以上は…やらねばならない。冥界へ戻れと言って聞くような高位の不死者ではないからな」

「後始末は己自身で、これ常識」

「出したもんは片付けないとね」

そして、3人は不死者を無へ帰させる簡単な作業へと移った。
それ以降、2人は変な呪文を唱えようとは絶対にしなかったとか。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |
| HOME |