氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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ゴルダとシェリス

四季など関係ないリヴァルスの山中を、最低限の防寒装備をしたゴルダが風に逆らいながら歩いていた。
今日またリヴァルスの雪山へ来たのは、夢の中でシェリスが来いと呼んでいたからである。
理由までは言われなかったが、こうまでして呼ぶからには何らかの理由があるのだ。

「しっかしまあ、相変わらずひどい風に積雪だこと」

足首辺りまで積もっているにも関わらず、難なく歩きながらゴルダは呟く。
シェリスは夢に出てきたとき、この辺りで待つと言っていたのだが肝心の本人の姿が見当たらない。
こんなに積もってたら移動も難しいのかと思いながら、辺りを見渡していると

「おうおうおう、本人じゃなくて下っ端の方か」

数匹のリヴァルスウルフがどこからか現れ、こっちだと言わんばかりに背を向けて歩き出す。
その移動の仕方は、積雪した雪の深さを度外視したかのような移動法で、端から見るとどういう移動をしているのかが謎である。
ゴルダの方から見れば、どう見ても雪の上を「跳んでいる」ようにしか見えない。

「急いでる雰囲気でないのに歩みが早いとはこれいかに」

何をそこまで急ぐとゴルダもまた難なく移動していた足を速め、ついて行く。
ついて行った先では、シェリスが待っていたわと言わんばかりの態度で堂々と座っていた。
ゴルダはひとまず荷物を下し、シェリスにどうして呼んだのかと聞く。
するとシェリスは立ち上がってゴルダの匂いを嗅ぐと

「ちょっとね、まあ付き合いなさいよ」

どう考えても暇つぶしに付き合えというようなことを言う。
それにゴルダは頭を掻きむしりながらしばらく突っ立っていたが、突然飛びかかって来たシェリスに押し倒された。
ゴルダはその直後シェリスを引き離し、やめんかと言いながら抜けかけたナイフを元に戻す。
だがそれでもシェリスがじゃれ付く意味で飛びかかって来たので、ゴルダは手で制してとりあえずその頭を撫でる。
こんなことをして、他のリヴァルスウルフたちが嫉妬したりしないのかというと、内心ぐぬぬとはするがシェリスには逆らえないので静観しているに過ぎない。

「おいおい、何だこりゃ。目ヤニがついてるぞ」

ふと目の辺りを見ると、シェリスの目に目ヤニが固まっていたのでゴルダはそっと取ってやる。
目ヤニを取ってもらった礼かどうかは分からないが、シェリスはゴルダの顔を舐めた。

「さて、どうしたものか」

ふとたまたま持ってきていた狩猟用ライフルを取出し、リヴァルスウルフの縄張りもとい寝床を余計な荷物を置いたまま一時的に離れるゴルダ。
シェリスも他のリヴァルスウルフたちもそれに気づかないというよりは、行ってらっしゃいと言わんばかりに見送ってくれた。
何を狙うかは釈然としていなかったが、鹿が居ればそれを狙おうとは考えていた。

「兎は居れど鹿は見当たらず」

ライフルを背中に背負い、獲物を探すも見つかるのは兎くらいという状況の中、それでもゴルダは鹿を探す。
やがて、500メートルほど先に鹿が居るのを発見したゴルダは匍匐状態になってライフルを構えてとりあえずは様子を見る。
こちらを見ている様子がないと確認したゴルダは、一旦ライフルを下して弾を装填して再度構え直し、引き金を引く。
弾丸は鹿の後ろ左足の足首に命中、こちらに気付いたのかどうかは分からないが鹿が逃げ出したのでゴルダは

「楽しくなってきたなこれは」

と鼻で笑いながら呟き、後を追った。
それから1時間ほど鹿の後を追い、ゴルダはようやく鹿を追い詰めてナイフで首を切ってとどめを刺す。
倒れた鹿の首からにじみ出る血が雪を染め、左後ろ脚に命中した弾丸を取り出して持って帰ろうとした途端。

「何だお前ら、ずっと俺の後を付けていたのか?」

数匹のリヴァルスウルフが目を輝かせてよこせよこせと言わんばかりにじっと見つめていた。
ゴルダは鹿を担ぐと、その数匹に縄張りに戻るぞとアイコンタクトで伝えてそのままシェリスの所へ戻る。
そして戻って来たゴルダを見て、シェリスはあらあらというような顔をして出迎えてくれた。

「ほらお前らで食え、俺は要らん」

それを聞いて、シェリスは他で分けて食えと指示を出すとゴルダをぐいぐい引っ張ってこっちへ来いと言う。
何だよと言いながらついて行くと、その先はシェリスの私的なスペース。
群れの中でもかなり上の位しか出入りすることを許されていない場所だ。

「とりあえずそこ座りなさい」

まるで今から息子に説教をする父親のような態度でシェリスは言う。
ゴルダはそんな威圧的に言わなてもいいだろと思いながら、その場に胡坐をかいて座る。
すると、その隙間にシェリスが頭を乗せて寝転がって来た。

「お前なあ、仮にも群れの長で狼だろ。犬とは違うんだぞ?狼のプライドもへったくれもない行為だぞこれは」

「なんか文句でも?」

プライドもへったくれもない行為だと言ったゴルダに、シェリスは文句あるのと即座に返す。
ゴルダはそれに対してもうええわというような感じで何も返さず、ノミやダニが居ないかを確かめ始めた。
だが、ここが極寒とも言える地なせいなのかは知らないが、1匹たりとも見当たらなかった。

「硬い毛だこと」

「無いよりいいでしょうが」

その後、誰にも邪魔されない場所でゴルダはさんざんシェリスの相手をさせられた。
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小説(一次) |

エーヴィヒの1日の一部

クロノスには天気という概念はなく、空模様はいつも同じ。
それにもかかわらず、クロノスの住人達が普通に暮らせているのはエーヴィヒのおかげなのかもしれない。
今日はそんなエーヴィヒの日常を覗いてみよう。

ドランザニア側でいう午前6時ごろ、エーヴィヒは大抵この時間に起きる。
四方八方をそれぞれ刻む時が違う時計に囲まれた寝室、そしてベッドの横にある目覚まし時計が鳴ったと同時にエーヴィヒは起きた。
朝からカチカチと気味が悪いくらいに鳴り響く時計を背に、エーヴィヒはベッドから起き上がって居間へ。
寝室だけではなく、居間も時計がたくさんあるものの、本棚があるおかげで寝室よりは若干ましな方。

「んーっ」

軽く伸びをしたエーヴィヒは、台所に立って朝食の準備をする。
この世界にも一応魔力稼働式の冷蔵庫が存在し、エーヴィヒはそれを持っていた。
冷蔵庫から卵と牛乳、戸棚からホットケーキミックスを取り出し、手際よくホットケーキの生地を作ったエーヴィヒは、上機嫌で記事を焼いて朝食の支度を済ませて席に着く。
テーブルにはメープルシロップにコーヒーが置いてあり、準備は万全。

「いただきます」

食べる前の挨拶をし、エーヴィヒは1人で朝食を食べ始める。
一応この世界を治めいている存在にも関わらず、朝っぱらからエーヴィヒは孤高に過ごす。
それはなぜか?
この世界の住人達は、必要最低限の関係を超えた他者に関しては無関心になることが非常に多い。
なので、余計なことには関せずとても冷たい者たちばかりなのだ。
ちなみにエーヴィヒはその限りではなく、おせっかいを焼くことが多々あり、この世界の住人たちからは本音では煙たがられている。
だが、この世界を治めている唯一の存在がエーヴィヒなので、表面上では絶対にそれを出さない。

「ごちそうさま」

30分ほどでエーヴィヒは朝食を終え、食器を洗って片付ける。
その後はただただぼんやりと時間を過ごし、昼食を食べ、夕方には風呂に入り、夕食を食べ、ドランザニアの時間で言う午後10時くらいには就寝。
そんな見栄えしない生活を、エーヴィヒはアルカトラスの手で誕生し、この世界の創造と同時に世界樹を守る役目に就かされたその日からずっと続けている。

「あれ?」

時計の音を聞きながらのんびりしていると、エーヴィヒは本棚から1冊の本が落ちているのに気付く。
エーヴィヒの家の本棚にあるのは、ドランザニアやそのほかの世界の歴史や未来が書かれた本ばかりでそれ以外の本はない。
落ちた本を拾い上げると、それはとある世界の未来が書かれた本で、すべてのページが白紙になっていた。
これはつまり、その世界が滅んだことを意味するのだ。

「また1つ世界が滅んだのね」

エーヴィヒはその未来の本と組になる歴史の本を取出して「滅亡」と札の掛けられた籠の中へ入れる。
その籠の中には、うず高く積み上げられた本がたたずんでいて、崩れてきそうでそうではないバランスを保っていた。

「記録してた世界のうち、もうこれだけの世界が滅んじゃったのよね…」

どこか感傷に浸るような言動で、エーヴィヒはその本たちを見て呟く。
この本たちは、この後どうなるのかというと再利用されることもなくエーヴィヒの手で処分されるのだ。
だが、エーヴィヒがまともに処分をしようとしないのでどんどんたまっていく一方。

「処分、しないとね」

以前アルカトラスが来た際に、いつまでも感傷に浸っていては仕方なかろうと言われたのを思い出してエーヴィヒは処分を決心。
魔法1つでその籠の中にあった本を全て処分した。

「これでいいわ」

いままで積んでいた本を全て処分し終え、妙な達成感を感じるエーヴィヒ。
そしてその後は他愛もない1日を過ごし終えたとか。

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小説(一次) |

アルガティアとラトレナス-共有だけではどうにもならない

リフィル城の別の庭園の一角。
そこでアルガティアは週に3回程度行う武器の鍛錬を行っていた。
使っているのは、弓とボルトアクションの狙撃銃の他に手裏剣やクナイなど。
それ以外にも、起きている間はアルガティアはローブの下に多種多様の武器を隠し持っているが、大抵鍛錬で使うのは遠距離系の武器だ。

「近距武器の鍛錬しないの?」

たまたま傍でアルガティアの鍛錬をイファルシアと見ていたラトレナスに聞かれ、アルガティアはそこまで必要ないと答える。
その答えにラトレナスはほへーとだけ答え、また鍛錬の見物へ戻る。
アルガティアは今さっきまで使っていたクナイを片付け、今度は弓を出す。
その弓は矢を必要とせず、魔力の矢を放つ弓。
しかも、弓そのものはアルガティアが使いやすいようカスタマイズ以前に作られており、同等の肩の力を持つ者でなければ使うことはまず無理。

「それもう何年くらい使ってるの?使い古されている割には綺麗だけど」

イファルシアに何年くらいその弓を使っているのかと聞かれ、アルガティアは100年近いとだけ答えた。
そのやり取りを見ていたラトレナスが、その弓を興味深そうに見ていたので

「どうしたの?」

アルガティアはラトレナスにどうしたのかと聞いてみる。
ラトレナスはその弓を指して

「にゅ、貸して」

と言った。
アルガティアは少し考えた後に無理はしないよう釘を刺してラトレナスに弓を貸す。
弓を借りたラトレナスは的の方へ向き直り、弓を構えるが動きがぎこちない。
一応、契約によりアルガティアとイファルシアの知識などは常に共有状態にあるので、ラトレナスも弓の使い方は染み込んではいるはずである。
だが、実際は知識などを共有しているだけに過ぎず、実際に己の体でやるのとでは全くもって訳が違う。

「ふええ…」

構えだけは様になっているが、魔力弓の掛け方や、弦を引き絞る強さ、さらに離すタイミングが分からないラトレナスはそのままの状態で立ち尽くす。
イファルシアは自分は蚊帳の外と割り切った顔でその様子を見ている。
数分は何もせずに見守っていたアルガティア、しかしこのまま放っておいてはどうしようもないと思ったらしくラトレナスに重なるようにして手を合わせた。

「少し肩が力み過ぎ、そう…そのくらいで。腕はそのまま」

そのまま手を合わせた状態で、アルガティアはラトレナスに力の加減具合などを調整させる。
そして、そのままアルガティアは手を離してラトレナスに矢を射らせた。
ラトレナスの放った矢は的の中心から大きく外れはしたものの、的そのものからは外れずに命中。

「にゅ」

「やっぱり共有しているだけでは駄目ね、実践によって身につけないと」

「うにゅ」

ラトレナスが退いたのを見計らい、今度はイファルシアが同じ場所に立つと自家製の木手裏剣を取り出して涼しい顔で投擲し出す。
その様子を、アルガティアに抱っこされたままでラトレナスはじっと見ていた。
そして10発ほど手裏剣を投擲してそれらを回収した後、再びアルガティアは的の前に立つ。
だが今度は、弓ではなくボルトアクションの狙撃銃を取り出した。
ちなみに、アルガティアが鍛錬で使っているのは実弾ではなく殺傷力がほとんどないペイント弾。

「うにゅ?」

「さすがにこれをあなたが使うのは難しいからダメ」

「にゅぅ…」

それも貸してと言わんばかりの目でラトレナスに見られたアルガティアだが、弓と違って一歩間違えれば大変なことになるのでダメときっぱり言い放つ。
ラトレナスは少ししゅんと様子でアルガティアから離れ、イファルシアの所まで下がった。
アルガティアはラトレナスが下がったのを確認し、狙撃銃を一応確認してボルトを引いて構える。
その狙撃銃にはスコープが付いておらず、どうやって狙うのかと思われがちだがアルガティアの視力なら十分に狙撃可能である。
今度の的は弓の時よりも遠くに設置されており、その的も人型に作られていた。

「うー、やっぱりこの発砲音は慣れないわ」

「にゃ」

間髪入れずにアルガティアが発砲したため、耳を塞ぐことを忘れていたイファルシアはそんなことを言う。
一方ラトレナスは全くもって平気な様子。
その後もアルガティアは装填した分をすべて撃ち切るまで発砲し、狙撃銃を下す。

「エルフに銃ってどうかと思ったけど、様になるものね案外」

「見かけによらずというもの」

その様子を見ていたイファルシアに様になるわねと言われ、アルガティアは見かけによらずと返す。
ラトレナスはそれをきょとんとした顔で見ていた。

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小説(交流) |

たまには寝過ごしたい

何事もない朝、そんな中フィルスは珍しく1時間以上寝坊しして目覚めた。
既にアルガティアとイファルシアは起きていて部屋にはおらず、フィルスだけがぼつりと残されていた。

「参ったな、これ」

無論、朝食はいつもの時間でなければ食べることはできないので昼食まで待たなければならない。
それを思い出して参ったなと言いながらフィルスは、とりあえず起き上がって首輪をつけて部屋を出た。

「うーん」

城の庭園へ出たフィルスは、特に何をするわけでもなくたまたま視界に入ったエゼラルドの方へ近寄る。
エゼラルドは近寄って来たフィルスを見て、ずいぶんと遅い起床だねと言う。

「いつも起こすはずのイファルシアが起こさなかったからな」

起きれなかったのをイファルシアのせいにして、フィルスはエゼラルドが改めて何をしているのかを見る。
ちなみにエゼラルドが何をしていたのかというと、イチゴの収穫をしていた。

「ああ、イチゴの収穫なのか」

「うん、そろそろ収穫しないといけないからね」

フィルスはそれに対してそうかと言って、アルガティアが居ると思われる書斎の方へ行く。
書斎では、アルガティアがいつものように国務をしていて、その頭の上でイファルシアがくつろいでいる。
そんなところに乗っかってて大丈夫なのかと思われがちだが、アルガティアがそんなに動かないので何ら問題はない。

「あえて起こさなかったけど、起きれたのね」

「わざとかよ」

イファルシアがからかうようにわざと起こさなかったのよと言ったので、フィルスはわざとかよと返す。
昔ならここでイファルシアから蔦でしばかれるのだが、今はそんなことはない。
なぜしばかれなくなったのかというと、アルガティアがイファルシアに苦言を言ったからである。
ちなみに何と言ったのかというと

「仮にも兄妹でしょうに、いじめるのはやめなさい」

の一言だったとか。
それ以来、イファルシアがフィルスをいじめることは一切なくなった。

「あらおはよう」

「うんおはよう」

ここでようやく気付いたアルガティアにおはようと言われ、フィルスは同じようにおはようと返す。
アルガティアはその後、フィルスにこっちへおいでと手招する。
何?とフィルスがアルガティアの方へ近づくと、アルガティアは従者が持ってきたクッキーを渡してきた。
起きてから何も口にしていなかったフィルスは、アルガティアにありがとうと言って受け取り、その場で頬張る。

「ふう、これで昼まで大丈夫」

フィルスはそのまま書斎を出、また部屋へと戻って来た。
何をするのかというと、ここ最近ずっとやっている翻訳作業の続行。

「たまになら寝過ごしてもいいかな」

翻訳作業を再開しながら、フィルスはそんな事を呟いた。

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小説(一次) |

水分身のカトレアとゴルダ

湿っているのか乾燥しているのかなんなのかが分からない曇り空の天気の中、ゴルダは夏野菜のために自宅の畑の一角を耕していた。
無論、1人で全て耕すので時間もかかる上に耕して終わりではなく植え付け、その後の手入れも必要なのでかなりの労力を使う。
それでもゴルダは誰の手も借りず、1人で黙々と耕しから植え付けに手入れから最後の収穫までをやっている。

「何とも嫌な天気だ」

畑の半分をようやく耕し終え、ゴルダは鍬を地面に置いてタオルで汗を拭く。
天気は相変わらずで、湿度はさっきよりも上がってる気がしてならなかった。
そんな天気でも、今日中に耕し終えないと今度はいつ耕すのかが分からないのでさっさと終わらせようとしている。

「…?」

小休止もほどほどに、ゴルダは耕し作業を続けていた。
そしてあと1割ほどで終わるというところで、先ほどまで気にしていなかったがどうにも誰かに見られているような気がしてならなかったがとりあえず終わらせる。

「ここはもうこれでいいな」

ようやく耕し終えて、鍬を片付けようと家の方へ戻った時。
視界の端に何者かが入ったので即座に振り向くと、そこにはなぜかほんのりと発光する鉢植えの植物を持ったカトレアが立っていた。
その何者かがカトレアだと分かるや、ゴルダはため息をついて家の中に入れと手招きする。
カトレアはその鉢植えの植物を持ったまま、黙って家の中に入って来た。

「それを俺に渡しに来ただけではなさそうだが、どうしたんだ?」

何を飲みたいという訳でもなく、終始無言のカトレアにゴルダはほんのり発光している謎の植物を渡すだけではないだろと聞く。
だがそれでもカトレアは何も話さない。
いつもはそれなりに喋るはずのカトレアが全く喋らないことに、ゴルダは本当にカトレアなのかと訝しみながら手を洗いに台所へ。
カトレアは椅子に座り、テーブルの上にその植物を置いて無表情な顔でゴルダの方を見ていた。

「話してくれなければ分からんぞ?こういう場面での沈黙は時間を浪費するだけだ」

黙っていると時間の無駄だぞとゴルダが言っても、カトレアは頑として口を開こうとしない。
これはさすがにおかしいぞと思ったゴルダは、今目の前にいるカトレアが本物か、あるいは分身や誰かが化けているだけなのかを調べるための魔法を使う。

「これは…水分身、あいつは何がしたいんだ?」

結果は偽物。
つまり、このカトレアは分身であることが判明。
それが分かるや、ゴルダはカトレアに対してただ呆れるしかなかった。
この鉢植えを渡すだけならこんな回りくどいしなくてもと思いながら、分身に対して適当に対応し始める。

「何だ、もう帰るのか?ついでだから本体に言っておけ『回りくどいことするな』ってな」

そしてカトレアの分身が変える素振りを見せ始めたので、ゴルダは回りくどいことするなと本体に言っておけと言って帰す。
分身は軽く頷くと、鉢植えの植物は貰っていいとでも言うように指した後家を出て行った。
ゴルダはやれやれとその植物を手ごろな場所に置いてしばらく眺めていたが、これがこの世界のものなのかと思い始める。
やがて、ゴルダはその鉢植えのことを今度イファルシアに聞いてみようとすっぽかした。

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小説(一次) |

潜って水草探し

ほんのり春の温かさが残る聖リフィル城近辺の沼地、そこでゴルダはイファルシアとエゼラルド、そして珍しいレベルではないカトレアが沼のほとりに座っていた。
一体何をするのか、この状況では釈然としないがカトレアとゴルダが向かい合って話をしている点からあらかた想像はできる。

「俺はそこまでは潜れんぞ、だがお前ならいくらでも潜ってられるだろ」

「嫌、ここ透明度低そうだもの」

そう、なぜゴルダとカトレアが言い合っているのかと言うと、2人はそれぞれイファルシアにこの沼にしかない水草を採取してほしいと頼まれていたのだ。
だが実際に来てみれば、採取してほしいのは水中に生えている水草とそれとはまた苔玉のような何かと水辺に生える草をそれぞれ採取してほしいと言われたのである。
そのため、誰が水の中に潜るのかで言い合っていた。

「ぐぅ、これ以上言い合っていても仕方ねえ。俺が潜る。だがサポートはしろよカトレア」

「溺れはしないでしょ、仮にもあなた姉さんの側近で力貰ってるんだからカナズチじゃないでしょうし」

サポートしろよとゴルダが言うも、カトレアはその必要はないでしょと冷やかすように言う。
それに対しては何も返さず、ゴルダは泳ぎやすい状態になって沼の中へ入り、そのまま潜って行った。

「こっちもこっちで採取しましょうか?」

「そうね」

「そうだね」

ゴルダが潜ったのを確認して、カトレアは自分たちも採取しようとエゼラルドとイファルシアに言って採取を開始した。

「言うほど透明度低くねえじゃねえか」

一方、潜って目的の水草を探しているゴルダはというと、一度も息継ぎのために浮上せずに沼地の底の辺りを泳ぎ回っていた。
水中の透明度は、カトレアが言うほど透明度は低くなく、十分許容範囲内であった。
だがそれでも、沼底を探れば堆積物が舞い上がりその付近の透明度は当然悪化する。

「これか?」

それから数分沼底辺りを泳いでいると、イファルシアとエゼラルドが探していると思わしき水草を発見。
周りにはほかにもたくさんの水草が生えていたが、目的の水草は小さく一塊にになってしか生えていなかった。
全部取っていいものかと思ったゴルダだが、考えていても仕方ないとその一塊になっていた水草を全部採取しようとする。
だがこの水草、大分根が張っているせいかなかなか採取できない。
ちょっとやそっと引っ張っただけでは抜けそうにないので、ゴルダはナイフを使ってある程度根を残し、その水草を採取した。

「何に使うんだか」

次にゴルダは苔玉のような何かを探し、また沼底を探し回り始めた。

「これだけでいいの?」

「いいよ、十分」

一方、カトレアとエゼラルドとイファルシアはと言うと、既に目的のものを採取し終えてエゼラルドにもたれかかっていた。
エゼラルドは2人にミカンを出してやり、それ以上は動かずただじっとしている。
イファルシアはなぜかカトレアの頭の上に乗り、採取した草をまじまじと見つめていた。

「さて、ゴルダは大丈夫かしら」

「問題ないでしょ」

ゴルダは大丈夫だろうかと言ったイファルシアに、カトレア問題ないと即答してそれ以上は何も言わせないようにした。
それから5分くらいしただろうか、沼の方から何かが浮上してくるような音がしたので、カトレアがちらっと見ると

「あら、お帰り」

「これでいいだろ?」

ゴルダが沼から上がって来て、イファルシアに水草と苔玉のようなものを渡して自分は何事も無かったかのように元の服装に戻る。
それを見たエゼラルドから、体濡れてたんじゃないのと言う顔をされたがゴルダは問題ないと返す。

「ところで、これは何に使うんだ?」

水球に閉じ込められた水草と苔玉のようなものを眺めているイファルシアに、ゴルダは思い出したように聞く。
それに対してイファルシアはクスクス笑って

「内緒」

としか答えてくれなかった。

「ったく、人にここまでさせておいて教えないとはな」

イファルシアに内緒と言われ、ゴルダはそんなことを返した。

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命令入れりゃあとは自由

負の魔力の方が強そうな満月の春の夜。
昼間はゴタゴタして片付けられなかった仕事を片付けているアルガティアの横で、時雨は聖リフィルの歴史書を読みふけていた。
イファルシアは夜しか収穫できない作物の収穫のために部屋にはおらず、フィルスはすでに寝ている。

「これでいいわ」

ようやく片付けられなかった仕事を終えたアルガティアは、横に書類を置いて筆に墨汁、そしてムサヅキの方から送ってもらった書道用の紙を出す。
アルガティアが何をしようとしているのかと言うと、時雨に自立行動の命令を出すための印を書こうとしていたのだ。
普通、管狐は使役主の言葉による命令で動く。
だがこのようにある印を書道によって書くことで、まるでキョンシーに貼り付ける札のような効果を持つ。
ただし、管狐の場合は貼るのではなくその印を書いた書道紙を燃やした灰を管狐に撒くか、直接食べさせて命令としての印を入れる2つの方法がある。
他にもこの印を入れる方法はあるらしいが、アルガティアが知っているのはこの2つだけなのでどちらかを使わざるを得ない。
ちなみに言葉による命令と、印による命令の違いは、それが容易に変更できるか否かの違いである。
言葉による命令は容易に変更することが出来るが、印による命令は一度それでしてしまうと変更するのが難しい。
つまり、時と場合によって使い分けなければならないのだ。

「うん?何を書いておられるので?」

するりと筒から抜け出し、アルガティアの首に乗っかかった時雨は書道用の紙を興味深そうに見ながら聞く。
それに対してアルガティアは、見ればわかると答えるや筆を手に取り、その手の知識がないと何を意味しているのか分からない印を描いた。
アルガティアが書いた印は、筒から一定上離れても大丈夫な完全自立行動をしろと言う命令の意を持つ印であるが、そこにはまた3つの条件などが定義されていた。
それは、次のようなものである。
1つ目は主、すなわちアルガティアの危機を感じたらすぐに駆けつける。
2つ目は腹が減ったら自分の意思で考えて飯を食え。
最後の3つ目は、主の意思でこの命令は簡単に解除できるものとする。

「最後は蛇足じゃないかい?」

「あなたが必要以上に自分勝手されると困るから必要」

定義されていた条件の3つ目を見た時雨に蛇足ではないかと言われ、アルガティアはそれに必要以上に自分勝手されると困るとぴしゃりと言う。
そう言われた時雨はこりゃ一本取られたという顔をした。

「ところで腹が減ったのだが」

腹が減ったという時雨に、アルガティアはそれを無視して書道紙を丸め、手の中で一瞬で灰にする。
聞いておるのかと言われてもなおも無視したまま、アルガティアは何処からか味噌球を取り出してそれに先ほどの灰をまぶす。

「味噌か、漬物がよかったが漬物に灰を掛けられると余計に…か」

灰をまぶされた味噌球を渡された時雨は、漬物がよかったと言うが漬物だと余計にどうしようもない物になると考えてしぶしぶ受け取って食べる。
慌てて食べたせいか、まぶされていた灰が変なところに入り込んで時雨は激しくむせかえった。
そのむせ返りの声がとても大きかったのか、気付くとフィルスが人が寝てたのにうるさいなと言う顔で見ていたので時雨は苦笑いでごまかす。

「全くもう」

時雨が悪びれる様子を見せなかったので、フィルスはムスッとした顔で睨みつけてまた横になった。
そしてアルガティアは命令がしっかり入ったかの確認もせず、時雨にお休みと言って先に寝てしまう。
残された時雨は、管に戻る様子もなく、ふわふわと部屋から出て夜の庭園を散歩し始めた。

「夜にしか収穫できない物なんて植えるんじゃなったわ」

「収穫ゴーレムでも設置しておけばよかったね」

一方こちらは、ようやく収穫を終えたイファルシアとエゼラルド。
2人とも夜中に重労働をやったせいか、ずいぶんと眠そうなうえにイファルシアに至ってはとても機嫌が悪そうだ。

「じゃあ、僕がこれは仕舞っておくから今日はもういいよ。眠いだろうしね。お休み」

「ええ、お休み」

ふらふらしながら部屋の方へ戻るイファルシアを見送り、エゼラルドは収穫物を倉庫に入れに行く。
その途中、エゼラルドは何か光るものが飛んでいるのを見つけた。

「?、おかしいな。時雨は自由に移動できないはずだけど」

それがすぐに時雨だと分かったエゼラルドは、おかしいなと思いながらも収穫物を倉庫へ持っていく。
ある程度持って行ったところで、時雨がこちら側へ来たのでエゼラルドは

「アルガティアの命令以前に、筒から一定距離は離れられないんじゃなかった?」

と時雨に聞いてみた。
時雨はその問いにケタケタ笑いながら

「実はアルガティアが一定距離以上離れても大丈夫なような命令の印を入れてくれたんで、今まで以上に自由に動き回れるよ」

アルガティアがその制限を解除したというのを話す。
エゼラルドはそうかいとだけ言うと、自分はもう寝るからと言って寝床の方へ向かう。
それに時雨はついて来る様子はなく、じゃあなと言われたのでお休みとだけ返した。

「さーて、次はどうしようかな」

その後明け方まで時雨は庭園どころか城の外へも出て散歩していたという。

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小説(一次) |

定義書き換えは慎重に

定義とは要素数nの木構造グラフであり、切り捨てていくと0になり、定義し続けていくと∞に到達する、
なので定義数は0と∞の間を取らなければならない。
ドランザニアにおける定義そのものはアルカトラスとシアによって宣言され、その定義の詳細は賢竜たちによって詳細に研究され現在に至る。
なお、このドランザニア大陸と言う世界の全ての定義が記録された本は、セイグリッドのアルカトラスの書斎に1冊、シアの部屋に1冊、セイグリッド城の図書室の禁書棚に予備として1冊置かれている。
そして何より、この世界での定義は現実。いわば地球上の定義とは違うものが多々存在するので時折つじつまが合わないことが起きるという。
それが吉と出るか凶と出るか、はっきりとしたことは誰にも分からない。
創造神である、アルカトラスやシアですらも。

「あと2時間以内では終わらせて」

その日、サフィは延ばし延ばしにしていたセイグリッド城の図書室の掃除を大体的に行っていた。
いつもは年が明ける前には終わらせてしまうのだが、予定が立て込んだりしてこの日まで伸びている。

「うーん、なんで1年掃除しないだけでこんなに埃が溜まるのかしらねえ」

自分もはたきで埃を払い落しながら、サフィは呟く。
この図書館は、サフィが先ほど言ったように1年掃除しないだけで5年も掃除していないような埃が溜まるなんとも不思議な場所なのだ。
ちなみに、ここまで埃が溜まるのは建築時のミスだと言われているが、アルカトラスですら原因は分からないとのことである。

「そういえばこことここをこうすれば…」

ある棚の前へ来たとき、サフィはそこが禁書の棚の部屋への隠し入口であることを思い出し、そこも掃除しようと入口を開けた。
日ごろあまり開かれない禁書の棚の部屋への入り口は、何か重いものを引きずるような音を立てつつ、埃を巻き上げながら開く。
その埃の量に、サフィも他のメイドたちも咳き込むが、換気のためにすべての窓を全開に開けていたので図書室内に充満した埃はすぐに消えた。

「ここから先は私1人でやるからいいわ」

他のメイドたちにこの中は自分でやると言って、サフィは禁書の棚の部屋の中へ。
部屋の中は禁書の棚と言われているだけのこともあって、タイトルからして読んではいけないような本や逆に興味をそそられる本など様々。
その一方では、埃は全く溜まっておらず、とてもきれいな状態が保たれている。

「掃除する必要も整理する必要もないようね、骨折り損だわ」

ちぇっと言いながらも、一応禁書の棚の部屋の中を歩き回って確認しているサフィ。
すると、1冊だけ無造作にブックスタンドに置かれた本があったのでサフィはそれを調べる。
一見すると何の変哲もない本だが、試しにサフィがその本を持ち上げてみると

「何これ、10トン以上あるんじゃないの?」

吸血鬼と吸血竜の力を持ってしてでもその本は持ち上げるのが一苦労な重さをしていた。
これは下手に持ち上げると腰をやると思ったサフィは、そのままにして本を開く。
本には普通の書物ではありえないほどにびっしりと文字の羅列が押し込められていて、何が書いてあるのか読むのも一苦労であった。

「見るからに定義を記した本のようね、種族の定義まで事細やかに書かれているし」

それがこの世界の定義の全てを記した本だと知ったサフィは、ある定義を調べるために本をめくる。
その調べようとしていた定義とは、一般的に吸血鬼がアウトとしているものの数々。
全て調べ終えた結果、ほとんどが人並より弱いながら耐性はあるというのが判明したのでサフィはその本を閉じた。

「こっちの方は終わりましたよ」

禁書の棚の部屋ではない方を掃除していたメイドの1人が、終わったと声を掛けてきたのでサフィはご苦労様と言って片づけをして戻るように指示。
最後に掃除がしっかりされているかの確認をした後、サフィはなぜかシアの所へ。

「ねえ」

「あら、お茶なんか頼んでないけど?」

サフィがシアの所へ行くと、当の本人は寝転がって異界の漫画を読んでいた。
その神らしかぬ振る舞いにサフィは何も言わずに

「定義の書き換えってできるもんなの?」

単刀直入に定義の書き換えが可能か否かを聞く。
それを聞いたシアは、読んでいた漫画を置いて起き上がると

「何企んでいるかは知らないけど、簡単よ。簡単だけど変に書き換えると面倒事招くのよ」

簡単にできるとは言ったが、面倒事が起きるのであまりやりたくなさそうな態度で返事を返す。
サフィはできるならいいじゃないという目で見ながら

「吸血鬼の耐性の定義書き換えてほしいんだけど?日光への耐性をせいぜい人並に」

日光耐性を人並にしてくれないかと言う。
シアはふうんと言う顔をした後、頷いて

「いいけどちょっと待ってて、1週間くらい」

1週間ほど待ってほしいと返事を返す。
それに対してサフィは仕方ないわねと言って、仕事へ戻った。

「あの本、見られちゃったようねえ」

サフィが仕事へ戻った後、シアは自分の所有している定義が記録された本を開き、日光の定義の所にある

「日光への吸血鬼の耐性:人並より弱い」



「日光への吸血鬼の耐性:人並」

に書き換えてそっと本を閉じ、また寝転がって漫画を読み始めた。
ちなみにシアが1週間待ってと言ったのは、定義を書き換えてからそれが反映されるのに最低1週間はかかるためである。
そして、書き換えた定義が反映された後も様子を見て微調整を入れなければならないのだ。
そう、まさにシアが面倒事が起きると言ったのはこの部分なのである。
それでもたまに、シアの所には定義を書き換えてほしいという頼みが時々舞い込んでくる。
無論、シアがその全て了承するわけではない。
なぜならば、パワーバランスを崩しかねない定義もあるからなのだ。

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小説(一次) |

晴れもほどほどに

「今日も雨だね」

「降り過ぎよ、ここ数日ずっと」

温室の中で雨宿りをしながら、イファルシアはエゼラルドとそんな話をしていた。
イファルシアの言う通り、この数日雨が上がった日は1日たりともない。
そのため、本来ならば収穫日を迎えている自主品種改良を施したイチゴも日光が当たらずに緑のままどころか腐るのも出てきている。
さらに、もう植え付けないと夏の適切な時期に収穫できなくなる野菜も植えられずじまいで、このままだと時期外れでの収穫を迎えてしまう。

「ここまで雨続くと、魔法でも使って晴れさせないといけないわ」

「でもここ1カ月まともに雨が降ってなかったんだよね」

「そんなことはいいの、収穫と植え付けが重なるこの時期さえ外してくれれば」

意地でも雨を晴れさせようとするイファルシアに、エゼラルドは遠回しにこれ以上降らないと水不足になるよ?と言った。
だがイファルシアは、そんなことはどうでもいいと言った後にこの時期さえ外してくれればと付け加えた。
エゼラルドはそれにやれやれと呟いて、ゴソゴソとどこからか妙な珠を取り出す。

「何それ?」

イファルシアはその謎の珠を指し、エゼラルドに何かと聞く。
するとエゼラルドは

「天候球『晴』って魔道具だよ、使うとどんな場所でも天気を晴れに出来るってもの」

この珠が天候を変える珠のうち、晴れにするものだと説明。
するとイファルシアはエゼラルドからそれをぶんどると

「投げて使うんでしょこれ」

と言って温室の外へ投げたのだ。
その際、エゼラルドが何かを言っていたがイファルシアは全くもって聞く耳を持っていなかった。

「あーあ…」

天候珠が起動したのを見たエゼラルドは、しまったという顔をしていたがイファルシアは気にせずこれで植え付けはできるわと言ってエゼラルドを畑に連れて行く。
2人が温室を出た時にはすでに雨は上がっていて、快晴どころではないほどに日の光が地面へ射し込んでいた。
ちなみに、畑は3日も雨が降っていたせいでベチャベチャにぬかるんでいて、そのままでは植え付けはできそうにない。

「ああそうだ、草属性のあの魔法なら」

その畑の状態を見て、イファルシアはピンと来たらしく、何かを詠唱したかと思えば額の宝石に日光を集めて

「ソーラービームっ!」

畑に向かってその日光を照射した。
するとどうだろうか、ぬかるんでいた畑の土は干ばつにでもあったかのように干からび、ひび割れたのだ。
それを見てイファルシアはやり過ぎたわと言い、エゼラルドが仕方ないなと土の水分含有量を耕しやすい程度にまで戻す。

「さて、さっさと済ませちゃおうか」

「ええ」

それから1時間ほどかけて、2人は魔法を使いつつも畑を耕して野菜を植え付け終えた。

「しかし暑いわねえ」

今度はイチゴの様子を見に行こうと移動していると、あまりにも強い日光のせいかイファルシアが暑いと言い出す。
それを見たエゼラルドは、何かを言いかけたがすぐに呑み込んで黙る。
イファルシアはそれに言いなさいよと追及もせずに暑い暑いと言いながらイチゴが植えてある場所へ。

「あら?」

「どうなってんだろう?」

そしてイチゴが植えてある場所まで来た2人だが、ある異変に気付く。
その異変とは、強すぎる日光のせいでイチゴ畑は土と元株が干からびて全滅していたのであった。

「あーもう、せっかく育てたのに台無しだわ」

ぶつくさ文句を言いながら干からびた元株を見て回っているイファルシアに、エゼラルドは重い口を開く。

「あのねイファルシア、さっき使った天候珠はパワーを調整して使わないでデフォルトで使うとフルパワーを発揮しちゃうんだよ」

エゼラルドが重い口を開いて言ったこととは、天気を無理やり変えるために使った天候珠に関してだった。
何でも、この天候珠はデフォルトではフルパワーにセットされており、使う際はそれを落としたりする必要があるのだという。

「最初に言ってよ」

それを聞いて、最初に言ってよと言ったイファルシアにエゼラルドは軽くペチッと蔦でその頭を叩いくと

「僕は言おうとしたけど聞かなかったのはそっちだよね?人の話は最後まで聞かないと」

人の話は最後まで聞こうかと言う。
イファルシアははいはいと言うと、エゼラルドに逆に雨を降らすのはないのかと聞く

「あるよ、だけど今度は使わせるわけにはいかないよ」

エゼラルドはまた別の天候珠を取り出したが、今度はイファルシアに使わせずに自分が使った。
雨を降らす方の天候珠を投げてから1分もしないうちに、夕立のような激しい雨がいきなり降って来た。

「いやん」

「びしょ濡れ確定だねこれ」

2人はそのままエゼラルドの寝床まで走ったが、結果的にずぶ濡れになった上にまた雨降りに悩まされることになる。
また振り始めた雨を見て、イファルシアは深いため息をつく。

「天候なんて簡単にいじるものじゃなかったのね」

「エルフィサリドも自在に天気は操れるけど、いじるときは慎重だって言ってたよ」

天気をいじるのは簡単なことではないと話をしている内に雨は上がり、もう夕方だったのか遠くの空に夕日が見えた。

「はあ、明日は普通に晴れてくれそうね」

夕日の赤き光を受けながら、イファルシアは伸びをしてまた夕日の光でソーラービームもどきをやろうとしたが、エゼラルドに止められた。

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再開-セレノアと

その日、ゴルダはセイグリッドの城下町を1人で散歩していた。
そしてアルカトラスが直に国の予算から運営費を捻出している孤児院の前に来たとき、それまで無表情だったゴルダの目が少し変化した。
さっきまでは何を考えているか読み取りにくい目付きだったのにも関わらず、今の目つきはどこかしら興味を持ったような感じである。
5分くらいだろうか、黙って孤児院の方を見ていると

「あら、あんたそんなところで何してんのよ?」

あからさまに見覚えのある竜がエプロン姿でこちらを見ていた。
その竜の姿を見たゴルダは、ああという顔をして

「そこで働いてたのか、どこ行っていたと思ったぞ。セレノア」

その竜の名を言い放った。
このゴルダの目の前にいる白い羽毛の竜こそが、つい最近までゴルダと暮らしていたセレノアである。
だが、数か月前に消えるようにして出て行ったきり、何の連絡もないまま今日を迎えた。

「ふう、今は仕事中だから後でまたここに来なさい。今まで何やってたのか話すわ」

遊ぼうとエプロンをぐいと引っ張る子供を見た直後のセレノアにそう言われ、ゴルダは頷いてその場を去る。
ほんの少し前に、アルカトラスからセレノアがここで働いているようなことをほのめかされたばかりだが、ゴルダはまさか本当だとは思っていなかった。
だが、こうして居場所が偶然にも分かっただけでも収穫は相当なものである。

「子供の世話か、依頼としてでもあまり好きじゃないな」

孤児院からある程度離れたところで、煙草のようなものに火を付けて吸いながらゴルダは呟く。
子供の世話は好きではないだけで、嫌いでも苦手でもない。
ではなぜゴルダが好きではないのかと言うと、やはりはるか昔の記憶が蘇るからだろうか。
立場的にも、今ではロドルフォ側でありつらいものがあるのだろう。

「そういえばサフィもセレノアとの仲は改善した言ってたな」

ここで、考え事を一新させようとゴルダはサフィからこれまた聞いていたセレノアとの最近の仲の話を思い出した。
初対面時から犬猿の仲一直線だったサフィとセレノアだが、去年の暮れ辺りに料理教室の講師として出向いた時にある話題で馬が合ってそれ以来だという。
今ではセレノアの方がたまに料理のレシピを聞きに来たり、気さくに話しているとか。

「生涯独身貴族」

妙な独り言を呟き、城の方で時間をつぶすことに。
それから2時間ほどして、ひょっこりとやって来たセレノアに孤児院まで連れて行かれ、ゴルダはそこの休憩室へ通された。
冷えすぎて逆に飲みにくいコーヒーを出され、それをちまちまと飲みながら一方的にセレノアから今まで何をしていたのかを聞かされた。

話によれば、事の発端はアルカトラスからの手紙が始まりだったという。
手紙には孤児院の人出がどうにもこうにも足りないので、手伝ってくれと書いてあり、セレノアはすぐに了承。
それ以来ここで孤児たちの世話をしているのだという。
ここに居る孤児は、両親の死去で引き取り手が居ない、あるいは虐待などで保護されて来たりしたのがほとんどだが最近はそうでもないという。
なぜならば、異界から意図的に捨てられたりする孤児まで現れ始めたので、アルカトラスも手を焼いているうえにセレノアもどういう神経しているのかと思っているとのこと。

「なんでそんなことが出来るのか、お前の言う通りどういう神経をしているのかも、その思考すらも分からんな」

「おかげで今の規模では手狭、頭痛いわ」

互いにため息交じりの会話をしながらの会話を続けていると、セレノアが突如こんな話を持ち出してきた。

「あんた、里親する気はない?」

「なんでまた。お前も分かってるだろうが俺はいつ仕事で家を飛び出すか分からん男だぞ、そんな奴に里親が務まるわけなかろう。それに…」

急に里親をする気はないかとセレノアに聞かれ、ゴルダは俺に務まるわけがなかろうと即答。
だが、無意識のうちにそれに…と何かを言いかけたのを聞き逃さなかったセレノアは

「それに何なのよ」

射られた矢のような速さでゴルダが言いかけたことを追求する。
それにゴルダは程よく飲みやすい温度になったコーヒーを一気飲みして

「…立場が逆になったにせよ、蘇る記憶がある。まだ小さいこいつよりも先立つんじゃないかとな」

淡々と追及されたことに対して答えた。
セレノアはそれに対してはふうんと半分興味がなさそうな表情をして

「そういえば竜滅病なのよね、あんた。そして何より蘇る記憶ってのはこれ以上聞かないけどあったわね」

慰めているのか何なのかが全く分からないことをゴルダに言う。
その後10分ほど沈黙が続き

「お前がここに居ると分かったならもういい、安心した。無理に帰って来るなとも言わん。今日はこれで失礼する」

今日はもう帰ると単刀直入に言ったゴルダは、セレノアにコーヒーの入っていたグラスを押し付け、背を向けて孤児院から出た。
休憩室を抜けて個人を出るまでの間、やたらと孤児たちからの視線が向けられていたが、それを気にすることはなかった。
そして孤児院の敷地から出た時、後ろからセレノアに

「あんた、ここにまた来なさい。何かが変わるはずよ」

「気が向いたらな」

また来いとやや命令口調で言われたが、気が向いたらと遠まわしにもう来ないと返したゴルダにセレノアは

「気が向いたらじゃダメ」

遠まわしに言っていたことを見透かしたように気が向いたらではダメと返して見送った。
そう言われたゴルダは、帰り際ずっとめんどくせえなと思っていたという。

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小説(一次) |

アルカトラスとリヴァイドとアワパラゴンと

いつもと変わらない、セイグリッドでのアルカトラスの日常。
そんなアルカトラスに、珍しいと言えば珍しい客が来た。
それは地竜王国アストライズの国王アワパラゴンと氷竜国リヴァルス国王のリヴァイド。
この2人は今日は特に国交関係、つまり仕事ではなく完全なプライベートでアルカトラスに会いに来ている。

「やっぱりここは暑い」

「まだ涼しいわ、年中寒い国には言われたくないのね」

南の方とずっと北の方の出身でよくあることだが、体感温度や温度耐性が極端に偏りがちなのでよくこんな言い合いが起きる。
それを、2人に茶を出したサフィは

「そんな言い合い、みっともないわ」

と一喝して応接間を出る。
サフィが出て行ったあと、リヴァイドは浮遊する雪結晶の形の角をかすかに震わせながら

「分かってないんだからあいつは」

と独り言を言ってアワパラゴンを無視し、出された茶をすするが

「あちい」

茶は淹れたてだったらしく、とても熱かったのでリヴァイドは一口飲んだだけで舌をやけどしかける。
それを見たアワパラゴンはリヴァイドを小馬鹿にするようにクスクス笑いながら、自分はその淹れたての熱い茶を難なく飲む。
これだけを見ると、アワパラゴンとリヴァイドは仲が悪いように見えるが実はそうでもない。
互いに理解した上でこんなことをしているのだ。

「すまぬな、すぐに片付けなければならぬ書類を片付けていた」

ここでアルカトラスが応接間に入って来て、アワパラゴンとリヴァイドに挨拶する。
2人もそれに応じるように挨拶を返し、さっきまでの仲が悪いと思われがちな雰囲気を一転させて最近どうかなどと言う他愛もない話を始めた。

「我か、つい最近までは地球へ飛びっぱなしだったが最近はようやく落ち着いてここで仕事をこなせるようにはなって来たな」

「私は鉱物資源の価格調整関係でゴタゴタしてるのね。向こうが譲歩すれば解決するけど」

「俺か?俺は…まあ、ぼちぼちだな。可もなく不可もなくな毎日だ」

アワパラゴンが少し悩みの種があるのに対して、アルカトラスとリヴァイドは全くもってその様子がない。
その後も、何かと日常に関する話を続けていると、どういう訳だがシアがやって来て

「珍しい、けど今日は国王としてじゃないようね」

リヴァイドとアワパラゴンを珍しそうな顔を見ると、リヴァイドに近寄って後ろから抱きつく。
シアに抱きつかれて、リヴァイドは小声でやめろと言ったがシアは5分ほどリヴァイドをもふもふして耳にふっと息を吹きかけて応接間を出て行く。
耳に息を吹きかけられたリヴァイドは、どういう訳だがしばらく顔を少し赤めて身震いしていた。
だが、アワパラゴンもアルカトラスもそれに対してはどうしたとは聞かずにそっとしていた。

「ああもう全く、シアの奴はこれだから…」

リヴァイドも、なぜだがシアの抱きつきリストのようなものに入れられているらしく、ここへきて会うたびにこの有様。
そしてゴルダほどではないにしても、リヴァイドは抱きつかれるのを極力避ける傾向がある。
なぜかと言うと、理由は簡単でリヴァイドは氷竜なので体温はほとんど氷点下2桁。
そのため、下手すればシアが抱きついた時に体に毛が張り付いてしまうかもしれないからだ。
事実、随分前だが冬にシアに抱きつかれた時はシアの毛がリヴァイドの体に張り付き、無理に剥がせない状態になって数日そのままになったという事例もある。

「いつだった?シアをの体の一部分を禿げさせたの?」

ここで、アワパラゴンがリヴァイドをど突くかのように昔の事を蒸し返してきた。
それに対してリヴァイドはそれはもう忘れろとだけ言って、軽く羽を動かしながら冷めた茶を飲む。
アワパラゴンはらしいのねとだけ言って、常に持ち歩いていると思わしき木刀を取り出してそれを錬金術でアダマンタイトの剣に変換する。
金竜と呼ばれる地竜からの派生竜のアワパラゴンは、こう言った錬金術に長けているのでこのようなことは朝飯前。
ただ、いくら錬金術に長けていると言えど人体錬成などはできない。
そもそもそう言ったのは錬金術の中ではタブーとされており、やろうものならシアが遠隔操作で止めに来る。

「いつ見てもお前の錬金術は素晴らしいなアワパラゴン」

「褒めても何も出ないのね」

お世辞を言ったリヴァイドに、アワパラゴンは褒めても何も出ないと言いながら座った状態でその剣をしばらく振っていたが、そのうち剣を木刀へ戻す。
そして何を思ったのか、アワパラゴンは怖いほどにニコニコしながらリヴァイドに抱きついた。
その途端

「いでででで、やめろやめろやめろ。お前の毛が刺さってる」

リヴァイドが妙に痛がりだしたのだ。
それはなぜかと言うと、アワパラゴンは自身の体毛の硬さを自由に変えることができる。
今のアワパラゴンの毛の硬さは剣山に匹敵する硬さなので、当然抱きつかれれば毛が刺さる。
本来はこの能力は防御用なのだが、使い方によってはこのように嫌がらせをしたり攻撃も可能。

「あー、いてえ」

ようやくアワパラゴンが離れたので、リヴァイドはアワパラゴンの毛が刺さったところを確認する。
血が出るほどではないが、刺さったところ全てが赤みを帯びていた。

「汝らは我が居ないところでもこのような感じなのか?」

ふとアルカトラスから投げられた問いに、アワパラゴンは首を横に振って否定。
一方リヴァイドはどうだかと答え、また角を揺らす。

「ふうむ」

2人の答えに、アルカトラスはどこか納得いかないような顔をした。

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小説(一次) |

姿消して近づくはエルフィサリド

春にもかかわらず針で刺すような寒さの中、エゼラルドとアルガティアにフィルスとイファルシアはリフィルを離れてスリュムヴォルドへ来ていた。
目的はエルフィサリドに会うという訳でもなく、ただなんとなく来たようにしか見えない。
アルガティア達が居るのは、スリュムヴォルドのずっと西方の方、ドランザニアとの国境付近の田舎の山の中。
エゼラルドが足元がごつごつしていて危ないから背に乗ってと言っているにもかかわらず、アルガティアは自分の足で黙々と山の中を歩いている。

「本当にこんな場所に珍しい苔なんてあるの?」

エゼラルドの背で、魔法書ではなく魔法薬の本を読みながらフィルスがふと呟く。
そう、アルガティア達がここに来た理由とは、フィルスが言う普通にある苔とは違うある苔を探すためである。
そのためだけにこんな山奥にまで入って来ているのはどうかと思われがちだが、それだけの価値はその苔にはあるようだ。

「これじゃない?」

朽ちて地面に横たわる木にびっしりと付いた苔を指して、イファルシアがアルガティアに聞く。
アルガティアはその苔を見ると、どこからか取り出したナイフで少し削り取ってそれを調べた。
その苔は、よくよく見ると普通の苔よりも緑っ気が強くほのかに発光している。
この苔こそが、アルガティアとイファルシアが探していた苔であった。
アルガティアはその苔を両手に乗るくらいの量採取してどこかへそれをしまう。

「もういいのか?」

やっと帰れるのかと、寒さで身震いしながらフィルスはアルガティアに聞く。
アルガティアはそれに軽く頷き、一行は来た道を引き返し、1時間ほど時間をかけて城下町まで下りてきた。
城下町は、海から吹いてくる風のせいか余計に寒く、しかも小雨まで降っている始末。

「おお寒い寒い」

丸まって震えながら、フィルスは遠まわしに早く帰ろうと言うがアルガティアはまだ帰る気配はない。
エゼラルドもフィルス同様に少し寒そうにしてはいたが、なんとか耐えてはいるようである。

「今年はとてつもない冷夏になりそうね」

海から吹いてくる風、降る小雨、そして春とは思えないような刺すような寒さ。
それらから何を感じ取ったのかは分からないが、ぼそりと今年は冷夏になると呟くアルガティア。
それに反応したエゼラルドは、アルガティアを頭で小突いて

「どうしてそう思うのかな?」

と一応聞いてみる。
それに対して、アルガティアは傍から聞いていると何の事だかさっぱりわからない何かをエゼラルドに説明し始めた。
イファルシアは少しは理解出来ているようだが、フィルスはそもそも理解する以前にアルガティアの話を聞かずに魔法で暖を取っている。

「誰?」

エゼラルドが小雨除けにサトイモの葉を差した時だった、フィルスは自分たち以外の何者かの気配を感じて索敵状態に入る。
その気配は、フィルスの背後数十メートルからでそれが誰かを悟った途端にフィルスは索敵気状態を解除。

「山に居た時からついて来てたよね?エルフィサリド」

気配の主に、山に居た時からついて来ていたことを分かっていると言ったフィルス。
すると、気配がスッと自分にすぐ後ろに来たかと思えば

「暇だもの、少しくらい行動観察してても構わないでしょうに」

気配の主であるエルフィサリドがフィルスの耳元でそんなことを言う。
それにフィルスは少しも驚く様子を見せずに向き直ると

「その能力使ってニンジャでも目指したら?」

ニンジャにでもなったらと冗談を飛ばす。
それを聞いたエルフィサリドは、表情一つ変えずに水球を一つ作りだしたかと思えば

「そんな気はまんざらないわ」

と言って水球をフィルス飛ばす。
その水球は、そっと接近して来てフィルスを取り込んだかと思えばすぐに破裂した。

「何するんだよ」

一瞬ではあったが、水球に閉じ込められたがために咳き込むフィルス。
それを見たエルフィサリドは、クスクスと笑ってずっとエゼラルドと話をしているアルガティアを見てそっと尻尾を近づけてその肩を叩く。
だが、アルガティアは全くこちら側に気付かない。
エルフィサリドはやれやれねという顔をしつつ、今度は突然の突風を吹かした。
この突風で、アルガティアはすっ転び、イファルシアは数メートル飛ばされてやっとアルガティアはエルフィサリドに気付く。

「やり過ぎ」

転んだ際に汚れたローブを気にしながら、アルガティアはエルフィサリドの鼻の辺りを指でぐいと押す。
それに対してエルフィサリドは肩叩いても気付かなかったでしょうにと返した。
一方蚊帳の外にされていたイファルシアは、泥で体が汚れて嫌な顔をしている。
それを見かねたフィルスは、イファルシアの体の汚れを魔法で落してやった。

「ま、いいわ。じゃあ私はこの辺で」

ここでやることを思い出したのか、エルフィサリドはこの辺でと言うや煙のようにその場で姿を消して去った。
アルガティア達もそれに続いて帰ったものの、イファルシアはしばらくエルフィサリドに対して何かしら言っていたという。

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ムサヅキの寝床掃除

春一番の吹き荒れる初春の朝、強風に揺れる窓の外を見ながらゴルダは朝食を取っていた。
付けているテレビからは、今日が春一番だというニュースが流れ、例年より少し早い程度だと言っている。
ベーコンをトーストしたパンの上に乗せ、竜乳入りのコーヒーと共に咀嚼していると窓に何かがぶつかった。
それを見てなんだと思ったゴルダは、吹き込んでくる強風に注意しながらその何かを調べる。

「管狐?しかもなぜか尾の数が多い…」

それは管狐だった。
しかし、管狐を使役しているのはゴルダの知っている範囲ではアルガティアの時雨しかいない。
では誰だろうかと考えていると、管狐はゴルダの手に噛みつく。

「いてて、何だ?」

管狐は、ようやく話しかけたかと言わんばかりに何処からか巻物を取り出すと

「シャッ」

と謎の鳴き声を出してどこかへ行ってしまう。
ゴルダは管狐が居なくなったことを確認し、窓を閉めて巻物を広げる。
巻物に書いてあった文面は、筆で書かれた達筆な文字の羅列。
そして、最後にはあからさまなムサヅキの前足の印が押されていた。

「これから察するに、ムサヅキと繋がりがあるとすれば紫月家、そしてその神社は…紫月神社」

とりあえず何が書いてあるんだと、その達筆な字をゴルダは読み解いていく。
ある程度読み解いたところで、書いてある内容はこのようなものであった。

「ムサヅキが自分で寝床の掃除をしようとしないので、私達でやりに行こうとしたがとてもじゃないが行けそうにないのでお願いしたい」

全く話の脈絡が掴めないが、とりあえずムサヅキの寝床とやらの掃除をしてほしいとのことだったのでとりあえずは行くことにした。
しかし、ゴルダ自身ムサヅキの方へ行くのは初めてであり、紫月神社の場所すら分からないという状態。

「参った、しかしこういう時のこいつだ」

だがゴルダもここで当てずっぽうに行くようなことはせず、ネットという文明の利器で紫月神社の場所と座標を調べるという準備を済ませて

「あの三姉妹とは会うのはいつぶりだろうか?」

ふと紫月三姉妹と最後に会ったことを思い出しながら家を出た。
ちなみに、ゴルダが紫月三姉妹と最後に会ったのは両親の葬儀の時一度きりで、どちら側の親戚なのかも不明である。
だが、そんなことを考えていても仕方がないのでゴルダはさっさとムサヅキの紫月神社へ向かう。

「ほーう、割と普通な神社なんだな」

座標指定テレポートで飛んだ先には、昔写真で見たような日本の神社と似た作りの神社がたたずんでおり、そう遠くはない位置に山が見えた。
ゴルダが数歩歩いたところにあった鳥居のすぐ横に埋められていた石には

「大狼神山 紫月神社」

という文字が掘られていた。
それ以上は何も考えずに淡々と神社の敷地の中へ入ると、1人の灰色がかった毛の妖狐が履き掃除をしていたので

「ちょっとよろしいか?ここが紫月神社で当たっているか?」

と聞くと、その妖狐はこんにちはと言った後に

「ええそうよ、ここは紫月神社ですよ」

と掃き掃除の手を止めて答えた。
ゴルダはそうかと頷き、その妖狐に軽く会釈して奥の方へと進む。
敷地にはまばらながら参拝者が居て、その中に若干ながら犬や狐が紛れていたが特に気にすることもなく

「神主に御用の方はこちらへ」

と書かれた看板を見つけてその方へと歩く。
そしてその看板から3分ほど歩くと、紫月家の本家であろう建物が目の前に現れた。
ムサヅキの話では、三姉妹と巫女見習いが数人住んでいるだけらしいが、とにかく無駄に大きい。

「玄関はここか」

横の方へ回り、玄関を見つけたゴルダはそこから中に声を掛ける。
すると、管狐がスッと3匹ほどやって来て上がれと仕草で言ってきたのでゴルダはではお邪魔すると言って家へ上がった。
やはり内部も写真で見たような古い日本家屋めいた作りになっており、床は歩くたびに独特の音を立てる。

「ここで待て?」

管狐はゴルダを客間と思わしき部屋に案内し、ここに座れと言わんばかりに座布団を出す。
この部屋は障子戸で区切られており、壁には狐の9本の尻尾と三日月が描かれた掛け軸が下がっている。
どうやら、この紫月神社の神紋らしい。
ゴルダはそこに座り、どこからか団子程度の大きさに丸められた味噌を3匹の管狐へあげた。
管狐は上機嫌になって味噌をもらうと、どこかへ引っ込む。

「お待たせしました、久しいですね。あの日以来ですから200年くらいは経っているでしょうか?」

茶は出してくれないのかと、ゴルダが煙草のようなものを吸おうとした瞬間、銀毛の妖狐がどこからか音もなくスッと正座状態で現れた。
そして、両手を膝の前で合わせて頭を下げてきたので、ゴルダも慌てて同じように正座して両手を肘において頭を下げる。

「っと、藍だったっか?」

「ええそうです、覚えておられて何よりです」

ゴルダが名前を藍だったかと確認すると、銀毛の妖狐もとい藍はほんのりとした笑みを浮かべながらそうだと答えた。
そして、藍が何かを言ったかと思うと、突然管狐がお茶と羊羹を持って出てきた。
俺も1匹欲しいなと思いながら、ゴルダは管狐にどうもと言って藍に巻物を見せて

「確認はした、ムサヅキの寝床をか…ちなみにどこにあるんだ?」

単刀直入にやると言った上でどこにあるんだと聞く。
藍は少し考えるように黙った後、急に

「未帆、未帆」

と誰かの名前を呼ぶ。
すると、トットットッという駆け足がしたかと思えば、今度は白い毛の妖狐がゴルダにお辞儀をして

「お久しぶりでございます」

と言った。
ゴルダは記憶が釈然としないが、お久しぶりですと言われたからにはと

「こ、こちらこそ。未帆で当たっているか?」

こちらこそと返した上で名前を確認するゴルダ。
すると、白い毛の妖狐はそうですと頷いて

「ムサヅキ様の寝床の近くまでは案内できます、こちらへ」

ムサヅキの寝床の近くまでは案内できると言ってゴルダについて来るよう促す。
ゴルダは分かったと言って、未帆について行くことに。

「ムサヅキ様とはどんな関係で?」

山へ入り、妖術を使って淡々と移動する未帆にそう聞かれてゴルダは

「これと言っては別にだ、ただの知り合いだ」

ただの知り合いと答えて未帆の後に続く。
裏手の山は、岩と木と土が絶妙なバランスで地形を形作っており、少し油断すると岩で怪我をしかねない。
それでも、時折見かける野生の鹿などがまだここには手が一切付けられていない自然が残っていることを物語っている。

「この山は3つの山から連なる山で、すべてムサヅキ様の物であると同時に私達紫月家の私有地です」

ふと突然、未帆がこの山についての説明を始めたのでゴルダはただ耳を傾ける。
確かにムサヅキも言っていたが、この山は紫月の私有地であると同時に、ムサヅキの支配下にあるという。
だが、支配しているというのは客観的に見てであり、ムサヅキが主観的に見た場合はそうでもないらしい。

「では私はこの辺で失礼します、あとはそのまま登って行けば洞窟が見えるのでそこがムサヅキ様の寝床です」

1時間半ほど山を登った辺りで、未帆は自分はここまでだと言ってそのまま山を下りて行った。
山を下りていく際に、未帆は鷹に変身していたがゴルダはそれを気にすることもなくムサヅキの寝床を目指す。

「ここか、ずいぶん獣臭いな」

それから5分もしないうちに、ゴルダはムサヅキの寝床へとたどり着く。
入口からしてものすごい獣の臭いがしたが、何の迷いもなく突入するゴルダ。
どうやらムサヅキは留守なようで、もぬけの殻であった。
獣臭いのはこの際どうしようもないので、地面に散らばった骨や抜けた毛などを掃除することに。

「一体どれくらいため込んでたんだあいつ?」

骨を一か所に集めながら、その多さに唖然とするゴルダ。
だが一度引き受けた仕事はやり通さなければと、集めた骨を風化させて風に飛ばして今度は抜け落ちた毛を集める。
その量も半端ではなく、すべて集めきった時にはこんもりと山が出来上がったくらいだ。

「後はこれをどうするかだが」

こんもりと山になった抜け毛を見ながら、どうしようかを考えていると背後に気配を感じたのでゴルダは振り向く。
そこには、ムサヅキが掃除してくれたのかという表情で立っていたので

「仮にも神なんだから掃除しやがれ」

と一言言って横を通り過ぎる。
ムサヅキは何も言わずに寝床へ戻り、またなと言っていたがゴルダは何も返さずに下山。
藍に一応掃除が終わったことを報告し、報酬と称して米を10キロほどもらい、ゴルダはそのまま帰宅した。

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やり返しは愚の極みか?

今日のリフィル城は、何かと騒がしかった。
なぜならば、新たに温室と書斎がそれぞれ増築及び新築されていたからである。
ではこの書斎と温室が一体誰のためなのかというと、無論フィルスとイファルシアのため。
だが、温室に関してはエゼラルドも使ったりするのでそうでもないが。

「なんでまた増築を?」

エゼラルドの背で、フィルスを見ながらイレーヌはアルガティアに聞く。
だが、アルガティアは何も言わずに新築される様子を見ているだけ。
それが10分ほど続いた後、イレーヌはアルガティアからこんな返答をもらう。

「気まぐれ」

それを聞いたイレーヌは、やっぱりねと言う顔をしてイファルシアを連れて庭園の外れにある畑へ行ってしまった。
その場に残されたフィルスとアルガティアは、温室の新築の模様を見飽きたのか国務の方へと戻る。
魔法を使って新築が行われていたので、両方の作業はその日のうちに終わった。

「ちょっと余裕がありすぎるかな」

「これだけあれば問題はないでしょ?」

「まあね」

増築された自分用の書斎を見て、広すぎやしないかと言うフィルスにアルガティアは問題はないでしょと聞く。
フィルスはそれに対してまあねと答え、アルガティアの部屋に置いていた自分の本を新たに増築された書斎へ移動し始める。
移動自体は2時間ほどで終わり、フィルスは新たに出来上がった書斎で昼間にすっぽかしていた計算の続きを続行。

「いや待てよ、ここは複素数使うべきか?」

などと言いながら計算をしていると背後に何者かの気配を感じて振り向くと、そこにはイファルシアが腕組みをしてふわふわと浮遊していた。
フィルスがなんだよと言う顔で見ていると、イファルシアは急にフィルスに近づいたかと思えば拳骨を食らわせて

「夕食だってさっきから言ってるのに、あんた無視してたじゃない。人の話は聞きなさいよ」

とむすっとした顔で言いながら書斎を出て行った。
フィルスもまた機嫌を悪くしながら書斎を出るが、しばらく大広間へ行くのを躊躇してから向かう。
その後何事もなく夕食を済ませたフィルスだったが、いまだにイファルシアにカチンと来たのが収まっておらず、やり返してやろうかと思い始めていた。
だが、そんなフィルスの脳裏にシアのある一言が呼び起される。

「『やられたらやり返せ』なんて愚の極みよ、それによってまた怒りなどの負の念が溜まって同じことを繰り返して堂々巡りになるのよ」

確かにその通りではあった。
争いは同レベル同士でしか発生しないとも言われているだけあって、やられたらやり返すと言うのは結局は無限ループなのだ。
それを思い出したフィルスは、途端にやり返すのが馬鹿馬鹿しくなってやめたものの、どこかしら引っかかるものがあった。

「しかしやられっぱなしというのもなあ」

やられたらやり返すのが愚の極みならば、やり返さずに堪えていればいいのかと思うフィルス。
しかし、それは結局相手が飽きるか馬鹿馬鹿しくなってやめるかを待つと言う完全なる相手任せ。
結果的にやり返した方がさっさと決着も付くのではと、フィルスは改めて思ったがそれも何かが引っかかった。

「難しいな」

そして何を思ったのか、フィルスはそのままエゼラルドの寝床の方へと向かう。
ちなみにエゼラルドはまだ起きていて、寝床の掃除をしていたがフィルスを見てどうしたんだいと言う顔をする。

「いや、なんとなく話したいな思ってさ」

「掃除終わるまで待ってくれないかい?」

「構わないよ」

掃除が終わるまで待っててくれと言われ、フィルスは頷いてそれから10分ほどエゼラルドが掃除を終えるまで待っていた。

「さて、その顔だと何か意見を聞きたいみたいな顔をしているけどどうしたんだい?」

エゼラルドに何がしたいのかを見抜かれ、フィルスはこう聞く。

「お前的には作物の害虫なんかの駆除をどう思ってるのかと思ってな、前にやられたらやり返すのは愚の極みだと言われてさ」

それに対して、エゼラルドは少々笑いながらも

「フィルスの言うやられたらやり返すってのと、作物の害虫の駆除や病気への対応という意でのやられたらやり返すは全く違うものだと思うけど違うかい?」

と至極まともな返事を返す。
確かに言われてみれば、フィルスの言うやられたらやり返すと、作物の害虫の駆除や部応期への対応は紐解いて行けば意は同じかも知れない。
だが、次元や定義はよくよく調べれば似て非なるものである。
フィルスの言うやられたらやり返すはどちらかと言えば復讐に近く、エゼラルドの作物の害虫駆除や病気への対応という意でのやられたらやり返すは防衛に近い。

「確かにそうかもしれないけど、害虫駆除の観点だけで見ればどうかな?」

フィルスはここで、話を害虫駆除だけに絞って話すことにした。
エゼラルドは少し考えた後に

「結局は害虫側と僕側とでの価値観を含めたいろんなものの違いなんじゃないかな?難しくなるからこれ以上は言わないけど」

両者でのいろんなものの違いがあるし、難しくなるからこれ以上は話さないと言った。
フィルスはそれに対し、少々納得がいかないような顔をしつつもまあそうだわなと割り切る。

「おっと、風呂入りにいかないと。じゃあなお休み」

「うん、お休み」

ここでフィルスは風呂に入ると言って、エゼラルドにお休みと言って城の方へと戻って行った。

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白色に魅かれる理由、神聖視する理由

それはまだ雪が降っていた1の月の中旬辺りの頃。
いつものようにシアに呼ばれ、煙草のようなものを吸いながら雪が積もっているセイグリッドの城下町をコート姿で歩くゴルダ。
城まで来ると、いつものようにサフィが出迎えてくれた。

「あんたも嫌なら嫌で断ればいいのに」

「暇なのは見抜かれてるから意味がない」

コートを脱ぎ、積もっていた雪を落として腕に持つとゴルダはそれ以上サフィとは会話せずに城の中を黙々と歩く。
城の庭園にも雪が積もっており、深さはくるぶし辺りほど。
そんな庭園を見て、ゴルダそっちの方へと向かって雪を一掴み掴んだ。
ドランザニアと違い、セイグリッドはほとんど大気汚染が無いので積もる雪は溶かして飲用水にしたり、そのまま食べることもできる。

「なぜ雪は白いのか、そしてなぜ人は白という色に魅かれ、時に神聖な色と見るのか」

哲学めいた独り言をつぶやきながら、ゴルダは掴んだ雪を丸めて雪玉にしてどこかへ投げ飛ばす。
そしてこんなことをしている場合ではないと、シアの所へと再度向かう。

「何やってんだよ」

「うふふ、かまくら」

ゴルダが塔の上へ上ると、そこにも雪が積もっていた。
深さはゴルダの足首ほどで、梯子の頂上への出入り口が雪で塞がっていたのでそれをどかしながら登りきると、そこではシアがかまくらを作って遊んでいたのだ。

「そうかいそうかい」

呼び出しておいてこれかと思いつつ、ゴルダはため息交じりに流すように言う。
そんなゴルダに、シアは雪玉を投げつけて

「雪だるま作らない?」

と聞いてきた。
この時ゴルダは返事をしようにもシアが投げた雪玉が予想以上に大きかったので、纏わりついた雪を払うまで返事を返さなかった。
そして、ようやく雪を払い終えたゴルダはもふられまくるよりはまだいいかと思い、軽く頷いて返事を返す。
するとシアは、いきなりゴルダの3倍はある大きさの雪玉を1つ作って

「さあさあ、頭の部分作って作って」

ゴルダに頭の部分を作るように言ってきたのだ。
いくら何でもでかすぎるだろとは思いながらも、魔法を使わずにゴルダは15分ほどかけてシアが作ったものよりも2周り小さい雪玉を作ってそれを持ち上げる。

「ぬんっ!」

持ち上げると同時に、ゴルダはその雪玉をシアが作った雪玉の上に乗せるようにして投げつけた。
だが、そんなことをして乗せようとしても失敗するのは目に見えており、ゴルダが作った雪玉は一直線にシアの顔に命中。

「…」

シアは顔に命中した雪をぬぐい、ゴルダを渋い顔で見下ろす。
ゴルダはそれを煙草のようなものを吸いながら無表情な顔で見返す。

「かまくら、入らない?」

「それもそうだな、作っといてもったいない」

しばらくお互いに見合った後、シアはかまくらに入らないかと聞いてきた。
それに対してゴルダは作ったのにもったいないからなと言って、頷く。

「もふっ」

「やっぱこうなるか」

かまくらに入った途端、いつものようにシアに抱きつかれるゴルダ。
だが、今日は地面が雪なので直座りすると尻が濡れそうなので、ゴルダはさりげなくシアの毛を座布団のようにして抱かれていた。

「また降って来たわ」

「ふっ…」

サフィも呼ばず、何をするわけでもなくかまくらの中でじっと座って過ごす2人。
雪はやがて大雪になり、若干吹雪いてきた。

「ふと思ったが」

「何?」

雪の吹き込みを抑えるため、かまくらの出入り口を狭めているシアにこれ以上沈黙が続くと気がおかしくなりそうだと思ったゴルダは、シアに話を持ちかける。
シアは今まで黙って抱かれていたゴルダが口を開いたので、どうしたのと言いたげな顔で耳を傾けた。

「なぜ人は白という色に魅かれるのか、そしてなぜ時に白という色を神聖視するのか。考えたことはあるか?」

以外にも哲学的な投げかけだったので、シアは少々面食らいながらこう答える。

「さあ?なぜ魅かれるかなんて言うのは私にはさっぱりだわ。個々の価値観にメスを入れて覗いたことはないもの」

魅かれる理由に関しては、さっぱりだと答えたシアにゴルダはやはりかと頷くと

「神聖視する理由、これは一応生の創造神のシアなら少しは分かりそうな気もするが」

今度は白を神聖視する理由を聞く。
これに対してシアは

「そうね、白はいろんな色を混ぜ合わせた結果できた色だから穢れているとかいう者も居るけど、それ間違いで私から言わせればそれは浄化」

最初に白が穢れた色というのは間違いで、それは浄化を意味していると話す。
ゴルダはその答えに、ほうと興味深そうな顔をして次は?という顔をする。
そしてシアは

「さらに白というのは黒と同様に『無』を表す色でもあるわ、『無』から始まるのは『創造』で『創造』は『神』から始まる。だから人は白という色を神聖視するのよ」

白は創造の色であり、創造は神から始まるので人は白という色を神聖視すると締めくくる。
それらを全て聞き終えたゴルダは、ある程度納得したような顔で

「そうかそうか。…なあそれより、都合よく七輪と餅があるんだが食べるか?」

そうかそうかと頷いてどこからか七輪と餅を取り出し、シアに食べるかと聞く。
シアはそれに対して、食べると返事を返して七輪に入った炭に火を付けた。
なぜゴルダが餅を出したのか、それは白という色と餅の白い色を掛け合わせたその答えは、どちらもよく膨らむでしょうという意味合いでなのかもしれない。

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日課はそう簡単に抜けない

早朝のセイグリッドの庭園。
そこで槍の鍛錬をしている者が居た。
それは紛れもなくバハムードで、ドランザニアへ戻って来てからも今まで行っていた世界での日課を欠かさずに行っている。

「槍も新しくた方がいいかな」

一通り鍛錬を終え、槍を下すバハムード。
この槍は、前に居た世界で傭兵をしていた時に手に入れた槍であり、何よりも竜使いをしていた証でもあるのだ。
だがその竜とは、この世界へ戻ってくる際に別れたためにこの世界には居ない。

「日課とはいえ、こうしてやっているとあいつを思い出すな。思い出しても仕方ないのは分かってるが」

突如として一応の相棒と別れを告げて帰ってきたために、バハムードにはまだ割り切れない部分もある。
だが、それもいずれ割り切らなければならないのでそれ以上は考えないようした。

そして、一方サマカンドラはサフィについて一応のメイドの手伝いをしていた。
もう仕事ではないのだが、イコール日課と同じようなものなのでそう簡単には抜けないものである。

「わりかし助かるわ、あと1人アルカトラスに言って雇い入れてもらおうかなって考えていた所だし」

「そう、手間が省けたわね」

サマカンドラが今手伝っているのは、朝食の配膳の手伝い。
この城に住む者全員分の食事を毎食ごとに用意しなければならないので、1人でも欠員が出ると面倒なことになる。
事実、サフィも言っていたように現在セイグリッド城のメイドは、1人が最近やめてしまったのでその1人分の仕事を全員が分散してやっている状態。
そのため、その分散された分が仕事として増えたために、以前より忙しくなっていた。

「アルカトラスに聞いておいてもらえる?」

「ええ、構わないけど。多分すんなり許可すると思うけど」

そんなこんなで、サマカンドラの方の時間は過ぎていった。

そして、場面は再びバハムードの方へ戻る。
朝食のために塔から降りて来たシアと鉢合わせし、庭園でそのまま何だかんだと話をしていた。
無論、ゴルダ同様にもふっと抱きつかれていたがバハムードの場合は特にやめろとも嫌な顔もしていない。

「ゴルダとは全く反応が違うわね、どうしてかしら?」

単刀直入にゴルダとは反応が違うのでどうしたのかと聞かれて、バハムードは

「こういうのも日課になってた」

と一言だけ答えてシアの毛を触る。
毛の手入れ自体は、シア本人も毎日欠かさずやっているのだがときたまメイド達が6人ほどで調毛をしたり普段は行き届かないところの毛を手入れしてくれている。
なので、シアの毛はとても触り心地がよいものとなっているのだ。

「ああそうだ」

ここでふと何を思ったのか、バハムードはシアの頭に上って4本ある角全部を拭きだす。
一応、前に居た世界でも相棒を含めた竜たちの手入れを毎朝欠かさずにやっていたので、そのせいである。
一通り角を拭き終わったバハムードは、今度はシアの前足の方へと移動して爪に異常がないかなどを調べた後、後ろ足にも同様のことをする。

「尻尾、いいかな?」

「あまり変なことしないようにね」

尻尾の方も手入れしようかと、一応シアに聞くバハムード。
シアは変なことをするなと釘を刺して許可を出す。
尻尾の方へ回ったバハムードは、どこからか大き目の櫛を出して逆立ったりしている毛を直したりしていった。

そしてまた場面は変わり、こちらはサマカンドラ。
朝食の調理が終わり、あとは配膳するだけなのでサマカンドラはサフィを含めた他のメイドたちと広間のテーブルに皿を置き、料理を盛り付けていく。
サマカンドラのその配膳の仕方は、前に居た世界でメイドをやっていただけのことあってか、とても手際がいい。
その手際の良さは、サフィもそれを見てやるじゃないと言うほど。

「あんたを副メイド長に抜擢したいくらいだわ、もう居るからできないけど」

どこか皮肉をこめてサフィに言われ、サマカンドラはそれに苦笑いで反応した。

それから5分後。
ようやく配膳が終わって、あとは全員が揃うのを待つばかりである。
だがここで、サマカンドラはまだアルカトラスが起きて来ていないことに気付いて起こしに向かう。

「やっぱり欠員分はサマカンドラでいいわね」

一応サマカンドラに手伝いをさせ、どの程度の実力があるのかを見ていたサフィは、確信を抱いていた。

サマカンドラがアルカトラスを起こしに行っている一方で、シアの尻尾の手入れをしていたバハムードはというと

「あー、こっちも結構綺麗なのな」

今度はシアの口の中を覗いてその牙の綺麗さに感心していた。
ちなみに魔法は使えど、シアは毎日最低2回は磨いている。

「こんなもんでいいだろ、だがこういう日課ってのは何かと面白みを見出しているんだよな」

一通り手入れを終えたバハムードのその一言に、シアは

「何かに面白みを見出すのは重要なことよ、仕事にせよなんにせよ。それを見出せるか否かで物事を続けられるかに差が出るんだから」

とバハムードをありがとうねと言わんばかりにわしゃわしゃしながら言った。

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賢竜の暇つぶし

ドランザニア東南沖合、聖リフィル王国。
アルガティアが治めるこの国に、自治を許された里がある。それは賢者の竜の里。
この里では、竜族の中でも知力がずば抜けていたり桁違いの竜達が様々な研究を行っている。
無論、外なる世界…地球の有名企業や国際機関、一部の国の機関などとも連携して様々な研究をしている。
何故自治が認められているかというのは、言うまでも無く機密保持などのためだ。
この里には防衛設備や私設兵などが配備されており、潜入するのは天才スパイでも難しいと言われている。

そんな里の、ある小さな部屋に居る。足だけが黒い毛に覆われ、他は青い毛に覆われた青い目の竜が居た。
名はエルリス、里では将来有望とされている賢者の竜だ。

「これじゃあダメだな」

エルリスがやっているのは、P≠NP問題と言う数学の未解決問題。
既にこの里の賢者の竜によって解かれて論文も出ているが、何故エルリスがそれをまた解いているのかは謎だ。
ちなみにエルリスは、どこのプロジェクトにも属して居ないフリーな賢者の竜。
他の同族からは、どこかのプロジェクトに属しろと言われている。
しかし、エルリスはそれをどう言う風に解釈したのか。猫の手を借りたいプロジェクトの所へ行って手助けする程度の事しかしない。
これに呆れた賢者の竜も居るが、一応やっているからこれ以上何も言うことは無いと黙認している者が多い。

「こんなものか」

マカロンを食べ、エルリスはそれを解いた紙をまとめて机の上などを片付ける。
エルリスの部屋は他の賢者の竜に比べて小奇麗だ、それはエルリスのかつての師匠が

「忙しいは言い訳にしかならない、わずかな時間でもいい。片付けはちゃんとしろ」

と口を酸っぱくして言っていたのでエルリスはそれを守っている。
エルリスの師匠は、別の世界から流れ着いた賢者の竜で。少し変わっているなどと言われていた。
エルリスはそんな師匠に魅かれて弟子入りし、持っている知識を叩きこまれた。
だが、10年ほど前にその師匠は元居た世界へと帰ってしまって今は居ない。

「出かけるか、アルガティアの所にでも」

エルリスは部屋を出て、里の入口へと向かう。
里の入口は見えない門に閉ざされており、侵入者を拒んでいる。

「夕方には戻る」

エルリスは門兵に伝えて里の外へと出る。
そして、普段は隠している青くて透明な羽を出し飛び立つ。
本当は浮遊で大丈夫なのだが、それではダメだとエルリスはこのようにしている。

「よ、アルガティアは居るか?」

「アルガティア様は居られますが、エルリス…暇つぶしで来るのは少し自重してくれ」

「悪い悪い」

王宮のほとんどの兵、従者やメイド達に顔を覚えられているエルリスだが気にすることなく王宮の中へ入る。
アルガティアは書類処理をしていたが、それほど忙しくない様子だ。

「あら、来てたの。また暇つぶし?」

ふと顔を上げたアルガティアに聞かれて、エルリスはまあなと答える。
処理し終えた書類を所定の場所へ持って行って戻ってきたアルガティアは

「ちょっとセイグリッドまでいかが?アルカトラスに用事があるの」

「ん、まあ俺は構わないが」

エルリスはそんな返事を返す。
そして2人はアルガティアの転送呪文でセイグリッドへ行く。

「ほう、エルリス。お前も来たか」

「暇を持て余した賢者の竜は暇つぶしのためならどこへでも行く」

エルリスは後ろ足で体を掻きながら答えた。
アルカトラスはアルガティアと大事な話があると言って、その場を離れる。
1匹だけ取り残されたエルリスはどうしようかと考えながら、城の中を歩き回る。

「…あの塔へ行ってみるか」

エルリスは、前々から気になっていたセイグリッド城の北にある天を貫くほど高い塔を目指す。
そには、始祖竜と呼ばれるこの世界の『生』を管理している竜が住んでいるらしいが会ったものはアルカトラスぐらいらしい。
エルリスは賢者の竜として、その始祖竜に興味を持っていた。
どんな奴なのか、一度は会ってみたい。そんな好奇心から、エルリスは塔へと向かう。

「しっかし、高いなこの塔は」

天を貫くほど高いだけあって、いくら頂上を目指しても辿りつかない。
やっとの頂上へ事でたどり着き、前足を端にかけてよじ登るとアルカトラスによく似た竜が何かをいじっていた。
違う点は、赤い目に4本の角があるの点だったが。

「ん、来客か。珍しい…賢者の竜の里のエルリスか」

その竜はよじ登って上がって来たエルリスを珍しそうに見る。
エルリスは自分の名前を知られている事に一瞬面食らうが、すぐに普通の態度に戻り

「いかにも、まあよろしく」

と始祖竜に言う。
始祖竜は少しばかりエルリスを見ると

「賢者の竜がここへ来るとはな、珍しいにも程がある」

始祖竜はいじっていた何かを持ち上げ、エルリスへ見せる。
何だと言う顔でエルリスはそれを見た。
一見普通の大きな水晶玉だが、放出される魔力は桁違い。

「ふふふ、生命の水晶玉だよこれは。そう言えば名乗って無かったな、シア=アルシェリアだ」

「始祖竜なのに姓があるのか」

名乗った後にそうエルリスに突っ込まれたにシアは

「主神が生みの親だからな、アルカトラスも姓はアルシェリアだぞ。他竜関係を保っているが」

アルカトラスも同じ姓だと答える。
エルリスは主神が生んだのなら、あながちそうなってもおかしくはないと言って生命の水晶玉を覗き込む。
水晶玉の中は、わけのわからないものがごった返して動いており。何が何だか分からない。

「で、これで何をするつもりだ?」

前足の爪で水晶玉をつっつきながらエルリスはシアに聞く。
シアはさあなと言って、また別の水晶玉を取り出す。

「死と生の力が互いに反発しているようだが、これは輪廻の水晶玉か?」

「正解、これで一応の管理をしているのよ。でも最近はそれは死神達の仕事だから、私は死神達の監督をこれでしているの」

シアはそう言って、その水晶を片付けた。
エルリスはその横で暇そうに頭を掻く。

「お茶でもどうだ?少し話をしてやろう」

どうやって淹れると突っ込むエルリスに、シアは不思議そうな顔をする。
これは聞いても無駄だと思ったエルリスは、シアが淹れてくる間に塔に使われている石の材質を調べ出す。

「少しサンプルを削って持って帰りたいが…やめとくか」

少しばかり材質を調べる魔法で調べたところ、錬成で作られたものとそうでないものが交互に使われている事が分かった。
しばらくすると、シアがどこからか菓子まで持って戻ってきた。

「それはどこから?」

エルリスが聞くが、シアはどうだっていいじゃないかと言って答えない。
そして茶を淹れ、シアはエルリスにどう言う風にして自分とアルカトラスが生まれたのかから話しだす。
シアの話を簡単に説明すると、最初に主神はアルカトラスを自分の分身と称して作ったが。分け与える力の配分を間違えて8割方を持って行かれた。
戻す訳にはいかないので、主神はアルカトラスを下界へ送ってこのドランザニアのある世界と大陸を作らせた。
しかし、アルカトラスだけでは大変だろうと。ある程度力の回復した主神は今度は生などを管理させる目的でシアを作り、今に至ると言う。

「深く考えない方が理解できるな」

エルリスは話を聞き終え、そんな感想を漏らす。
シアはそれに対して、それもそうだなと答えた。
その後も2人は他愛も無い話で時間をつぶし、日の入りになる頃

「ん、もうこんな時間か。俺は帰るぞ」

「ああ、また来い」

エルリスは転移魔法で里まで一気に戻った。
部屋へ帰ると、大量の書類が置かれており。エルリスは夜中近くまでその処理に追われる。
そして翌朝

「朝か」

目を覚ましたエルリスは朝食を取ってまたシアの所へ行く、今日は位置を特定しているので転移魔法で向かう。
塔へ行ったまではいいが、なぜかシアが居ない。
おかしいなと思ってしばらく待っていると、シアが何の前触れも無くやって来る。

「アルカトラスの所に朝飯を食いに行っていたが、どうした?」

「そうなのか、いや…暇なもんでな。相変わらず」

シアから朝飯を食いにアルカトラスの所へ行っていたと言われ、エルリスは納得する。
何をすると言う顔でエルリスを見ていたシアだが、急にポンと前足を叩いて何かを思いついたのか

「エルリス、お前に賢竜ならではの頼みがある」

とエルリスを引きずって奥へ行く。
シアにつれて来られた場所には、解読翻訳しかけの古代言語の文献が積み上げられている。

「私1人じゃめんどくさくなってしまってな、手伝ってくれないか?」

「で、俺に解読翻訳を手伝えと…まあ少なからず仕事がもらえる分マシか」

シアに手渡されたそれは、古代ドランザニア語・古代エルフ語・ルーン文字と3種類の言語と文字がごちゃごちゃに使われており。わけのわからないものと化している。
エルリスはため息をつく、それもそのはず。こんなめんどくさいやり方で書かれていては解読翻訳も困難だ、シアのモチベ―ションが維持できずにめんどくさくなって投げた理由もこれで分かる。

「さて、解読を始めようか」

エルリスは頭を切り替え、解読に入った。
最初の数時間こそは集中していたが、次第に糖分が不足して来て度々意識が飛ぶようになる。
実は賢者の竜の9割9分が他の種族や竜に比べて糖分の消費が桁違いかつ約3割が低血糖症を患っている事がかなり古い竜医学の論文で明らかにされている。
なので、賢者の竜は常に糖分補給を怠ってはならない。
そのためか、アルガティアは砂糖などの甘味料の輸入や生産には力を入れている。
実際、サトウキビなどの砂糖の原料の生産量は聖リフィル王国が一番多い。

「ほら、食べろ」

シアに砂糖菓子を出され、エルリスはそれにかぶり付く。
ちなみに、竜も糖尿病を患うが。魔力に長ける属性の竜や賢者の竜は糖尿病を患わない体質であることも判明している。
それは、糖分の消費などに関する細胞や遺伝子が異常発達しているせいだと言う見方が強いが。
砂糖菓子を1つ平らげたエルリスはすぐさま復活し、また解読に戻る。
そして日が天辺を過ぎて傾き始めた頃

「いかん、あまり遅くなると門番にグチグチ言われる」

時間に気付いたエルリスは残った分を持って里へと帰る。
シアはそれを、また明日も来いと言って見送った。
夜、里へ帰ったエルリスは夕食も取らずに解読翻訳に忙しむ。
賢者の竜は一旦物事に集中し出すと、納得行くまでまともな食事を取らずに過ごす事が多い。
それでも、体調を崩す者はそんなに居ないとか。その理由も又謎である。

「これは…呪文か?」

ふと解読翻訳していると、エルリスの目にルーン文字とエルフ語がミックスされた呪文のような一文が出て来た。
試してみたい気はあるが、下手に試すと何が起きるか分からない。
エルリスはグッと好奇心を抑えてその呪文らしき一文を別にメモとして書きとる。
後に、それが大変なことになるとは知らずに。

「さて、飯食って少ししたら寝るか」

エルリスは食堂に行き、食事をする事にする。
賢者の竜以外にも人間や獣人などが一緒に研究をしていたりするので、食堂はそれに類する者でもごった返している。

「いつものを頼む」

エルリスは配膳担当に言う。
エルリスの言ういつものとは米を主食とした食事、つまり日本食だ。
賢者の竜の里には日本人も多く、日本の企業や大学などから来ている者が多い。

「いただきます」

器用に前足で箸を掴んでエルリスは食べ始める。
エルリスの席の周りには誰も座らない、本人が座るなオーラを出しているからだろうが。
食事を終えたエルリスは自室へ戻り、ちょっとだけ解読翻訳をやって床へ就く。
翌朝、朝食を終えたエルリスはまっすぐシアの所へ行く。

「ん、何だこの呪文は?」

やって来たエルリスに、メモした呪文のようなものを渡されてシアはエルリスに聞く。
エルリスは用途は分からないと答えた。

「唱えてみるか、そうしないと分からないだろ?」

「まあ、暇つぶしになればいいかもな」

そうかとシアは言い返し、呪文を詠唱し始める。
呪文自体はすぐに詠唱し終わったが、何も起きない。

「何も起きないな」

とエルリスは耳のあたりを後ろ足で掻きながら言う、しかしシアは

「なんて事だ…とんでもない呪文を唱えてしまったようだぞ」

とエルリスに言う。
どう言う事だとエルリスが聞くとシアは

「この呪文、不死者を冥界より召喚する呪文だったようだぞ…不死者の負の気が世界に満ち始めている」

と淡々と答える。
それはいかんと、エルリスはシアに反対呪文を探そうと言う。

「そうだな、早く探さねば」

冷静に答えたシアは未解読未翻訳の文献を全部出して、急いで翻訳し始める。
しかし、そうしている間にもどんどん負の気は高まって行く。

「くそっ、どれだ?」

「…」

2人はこれまでに無いほどに集中して反対呪文を探すが、一向に見つからない。
そして、そんなこんなで30分後。

「どこだどこだ…」

「…」

ぶつぶつ言いながらも集中力を維持して探すシアと、無言で淡々と探すエルリス。
そんな2人の背後に、冥界よりやって来た亡者が迫っているが2人は気付かない。
そして、亡者がエルリスに襲いかかろうとした瞬間。強力な聖属性魔法が亡者を無へ帰す。

「一体何をやったんだお前達?あちらこちらに冥界から出て来た者たちが好き放題暴れているぞ」

「アルカトラス…それが…」

シアはやって来たアルカトラスに事情を説明する。
アルカトラスはそうかと頷き、その呪文をチラリと見るや何かを唱えた。

「少しばかり勉強不足だな、エルリス」

「…賢竜とあれど、常に知識に対する欲望は忘れてはいかんな」

エルリスはアルカトラスにそう言い返す。
アルカトラスが唱えたのはどうやら反対呪文で、これ以上冥界から不死者が出てくることは無さそうだ。

「さて、出てきてしまった以上は…やらねばならない。冥界へ戻れと言って聞くような高位の不死者ではないからな」

「後始末は己自身で、これ常識」

「出したもんは片付けないとね」

そして、3人は不死者を無へ帰させる簡単な作業へと移った。
それ以降、2人は変な呪文を唱えようとは絶対にしなかったとか。

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ゴルダとニフェルム

その日は雨が降っており、湿度も高く気温も低い日だった。
ゴルダは依頼が来ないために、自室のパソコンでだらだらと菓子を片手に動画を見ていた。
そしてとある怪談ネットラジオのアーカイブを聞いていた時である、玄関を誰かがノックする音が聞こえてきたのだ。
こんな雨の日に誰だよとゴルダが出ると、そこには

「こんな雨の日は空を泳いで移動できそうね?」

傘も差さずにずぶ濡れのニフェルムがニコッとしてたたずんでいた。
そのニフェルムを見た瞬間、ゴルダはどこからかバスタオルを持ってきてニフェルムに渡して

「とりあえず拭け」

とだけ言って、居間の方へ行く。
ニフェルムは渡されたバスタオルで全身を拭き、そのまま家の中へ入る。
ちなみに、ゴルダは何をしに来たのかをまだ聞いていないが、ニフェルムはエルフィサリドからの書簡を持ってきただけである。
スリュムヴォルドには飛竜便という郵便配達の方法は存在せず、配達員の足で運ばれるか魔法で運ばれるかのどちらか。
なぜニフェルムがこうしてまで持ってきたのかというのは、まったくもって謎だが、おそらくゴルダの家が気になったのであろう。

「陛下から書簡」

なんやかんやで熱々のコーヒーを淹れて台所から戻って来たゴルダに、ニフェルムはエルフィサリドから書簡だと言って羊皮紙を渡す。
ゴルダはそれを見て、少々嫌な予感を感じながらもその羊皮紙を広げて内容を読む。

「ふぅむ、今年度の健康診断をしろってことか」

内容は、一応の専属医であるゴルダに今年の健康診断をしろというものだった。
特に厄介な内容でもなかったので、ゴルダは一番下の空白にこう書く。

「承知した、日付を決めてまた書簡を回して欲しい」

返事を書いたゴルダはその羊皮紙をまた丸め、ニフェルムに返す。
ニフェルムは受け取った羊皮紙を、どこかへしまってコーヒーの入ったカップを取って一口飲む。

「苦めの豆?」

「時間がたつと苦味が増す豆だな、あと酸味も強めだ」

苦めの豆で淹れたのかと聞かれて、ゴルダは時間がたつと苦味が増す豆だと答える。
ニフェルムはそれにそうと言ってミルクを要求してきた。

「ミルク?まあ、普通の竜乳だったらあるがそれでいいか?」

「大丈夫」

竜乳なら大丈夫かと聞くと、ニフェルムが大丈夫と答えたのでゴルダは冷蔵庫からパックを出してニフェルムに渡す。
ニフェルムは、もうそんなにコーヒーが残っていないカップに竜乳を残っている分を全部入れた。

「やっぱりこうでないと」

竜乳たっぷりになったコーヒーに口をつけながら、ニフェルムはそう呟く。
ゴルダはそれにそうかと言いながら携帯をいじり始めた。

それから1時間後。
新たに淹れたコーヒーを飲みながら、2人は無言のままの時間を過ごす。
ゴルダは特にニフェルムが話しかけてこないので学会誌を読み始め、ニフェルムはなぜか洗濯物や食器を洗ったりしていた。
特にゴルダがやれと言ったわけでもなく、ニフェルム本人が目に留まったからやっているだけである。
ゴルダはこれを一見するが、ありがとなの一言だけを言ってニフェルムのやりたいようにやらせていた。

「よくこんなに汚れ物溜められるのね」

「溜めてまとめて片付けるのが俺のやり方だ」

こんなによく汚れ物を溜めれるわねとニフェルムに言われ、ゴルダは学会誌から目を離してまとめてやるのが俺のやり方だと答えた。
それに対してニフェルムは、飽きれたとでも言いたげな顔をしながらせっせと汚れ物を片付けていく。
そして30分後。

「終わったわ」

手をタオルで拭きながらニフェルムが戻って来た。
ゴルダはご苦労さんと言って、今度はコーヒーではなく緑茶を淹れる。
緑茶を一口飲んだ途端にニフェルムが言った一言は

「渋い」

というものだった。
ゴルダはそれに対してそんなに渋いかと思いながら飲むが

「こりゃ淹れ方失敗したな、確かに渋い」

ニフェルムの言う通り、確かに渋かった。
だが一度淹れたからには飲まねばと、二人は渋い渋い言いながらも後から口直しにとゴルダが出した饅頭を食みながらとりあえずは淹れた分を飲み切る。

「もうこんな時間、城へ戻らないと」

「帰るのか、ちゃんと書簡の返事渡せよ」

飲み切ったところで、ニフェルムが時間に気付いてもう帰ると言い出したのでゴルダは玄関まで見送る。
玄関を出ると、ニフェルムはゴルダに一礼したかと思えば何らかの魔法を使って霧のように消えて帰って行った。

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アルカトラスとエーヴィヒ

万年桜がだんだんと咲き終わり、葉に変わりかけてきたある日。
アルカトラスに異界から手紙が舞い込んできた。
差出人は時竜国クロノスのエーヴィヒからで、たまには世界樹の様子を見に来ないとダメだという文面が綴られていた。

「確かにこの数年は様子を見に行っていなかったな」

アルカトラスは手紙を横へ置き、そんな事を呟く。
ずっと会談や国務などに追われていたために、世界樹のことをすっかり忘れていたのだ。

「今から行っても問題はなかろう」

今日は大した国務はなく、来年度予算案も可決しているのでアルカトラスは書斎の椅子からスッと立ち上がり、どこかへ向かう。
向かった場所は、アルカトラス本人以外は絶対に入れない転送陣のある部屋。
時竜国クロノスへ行くには、この転送陣からのみ開けるゲートから行くしかないのである。

「なあに、1時間ほど見てくれば文句は言わなくなるだろう」

アルカトラスはそんな独り言を言いながらゲートを開け、時竜国クロノスへ向かった。

「っと、着いたようだな」

アルカトラスが転送されてきた場所は、異界への門と呼ばれる神殿で、セイグリッド城にある転送陣と同じものが床には掘られていた。
このクロノスという世界も、この転送陣を使わなければ他の世界へ行くことは不可能。
ちなみにクロノスが存在する場所は、ドランザニアという世界から0.5次元ほど離れたところに位置する異次元世界である。

「変わらぬ空、匂い」

異次元世界ということもあり、クロノスの空は何とも言い難い青に似た色をしている。
この色は、正当な手段でこの世界に来なかった者を発狂させるいわば防衛手段であると言う。
それ以外は、ドランザニアや地球と言った世界と何ら変わらない台地で構成されている。
ただ、クロノスには時間という概念がない。
なので、クロノスに居る間は絶対に年を取らないとされているが、対策を取らないと次第に時間ボケを起こしてしまうので注意が必要である。

「この町並みも、変わらん」

10分ほど歩いていると、アルカトラスは町へと足を踏み入れた。
ドランザニアとはうって違い、クロノスには地球の現代文明などからは遮断されている。
そのため、昔ながらの文明に魔法を付けたしてこの世界の者達は暮らしているのである。

「さて、あの者の家は…」

この世界に住む者達は、アルカトラスを見ても特に大した反応を見せることはない。
なぜならば、アルカトラスをこの世界に住んでいた同族と認識しているからだ。

「さて、と」

やがて、設定が違うさまざまな時計が据え付けられているわけのわからない時計塔の一番下に作られた家の扉をアルカトラスはノックする。
扉をノックすると、横にあった鐘が鳴って家主に客が来たことを知らせた。

「開いてるよ」

中から家主と思わしき声がしたので、中へ入るアルカトラス。
家の中も、これまた見ているだけで狂いそうになるほどの数の時計がひしめき合っていて、本棚にはドランザニア語で『歴史書』や『未来書』などと言った本が並んでいる。

「やっと来てくれたんだ」

家の真ん中の机で、分解された時計を組み立て直していた竜が顔を上げた。
だが、その竜は何かがおかしかった。
何がおかしいのかというと、まず左目が包帯で隠されていて、体には毛も鱗もない上に白い。
そして、その体には謎の紋章がある。
隠されていない方の右目は、見るたびに色が変わって安定していない。

「すまぬな、こちらの世界も忙しいのだ」

「来てくれればそれでいいの」

このどこかおかしな竜が、このクロノスと呼ばれる世界を統治しているエーヴィヒという名の時竜なのだ。
エーヴィヒはアルカトラスに座って座ってとアイコンタクトで伝え、どこからか紅茶を出す。

「世界樹を見てすぐ帰るつもりだったのだが」

「少しは話をしてくれなきゃ嫌、ここ最近はどう?」

世界樹を見たらすぐ帰るつもりだったと言ったアルカトラスに、エーヴィヒは少しは話をしてよと返す。
アルカトラスはそれに対してやれやれと思いながらも、ここ数年何があったのかをエーヴィヒに聞かせた。

「いろいろ大変なんだ」

「それなりにはな」

この後、体感時間1時間ほど話をしてアルカトラスはエーヴィヒと共に世界樹の様子を見に行く。
世界樹は町からそう離れてない場所にあり、その根は日本の青木ヶ原樹海の総面積にも匹敵する範囲に広がっている。
さらに、世界樹自体は地球で最も高い山であるエベレストに相当する高さだ。

「いつ見ても、壮大な光景だ」

「そうだね、万年桜も満開の時は綺麗なんでしょ?見てみたいなあ」

万年桜を見てみたいと言ったエーヴィヒに、アルカトラスは来ればよかろうと言うが

「えー?ここを空けるわけにはいかないよ」

とエーヴィヒに返された。
それに対してはアルカトラスは何も返さず、世界樹が何ともないことを確認した上で背を向けて異界の門へと歩き出す。

「もう帰っちゃうの?せっかくだからご飯くらい食べて行ってよ」

「また今度にする」

異界の門の方へと歩き出したアルカトラスに、エーヴィヒは食事して行ってよと言うが、アルカトラスはまた今度と軽く流した。
するとエーヴィヒは何でよーという顔をする。
だが、アルカトラスはそんなことは知らないと言わんばかりに異界の門まで歩き切り

「今度は約束は守ろう」

と言ってそそくさと帰った。
ちなみに、それから数日してまたエーヴィヒから手紙が来たかと思えばこう書いてあった。

「紳士なら今度こそは約束守ってよね?」

その一文で、アルカトラスは苦笑いしたとか。

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戻りし妹弟

ゴルダにはすでに他界した両親の他に、弟と妹が居た。
しかし、現在その弟と妹はゴルダがドランザニア共和大学へ入学した時と同時期に異界へ行ったまま消息を絶っている。
月日は流れ、大陸歴3014年の今になっても2人は帰って来ていない。

「これは、サマカンドラとバハムードとで最後に写した写真か」

ある日、自分の部屋の掃除をしていたゴルダはまだ自分がそこまで年を食っていない頃。
つまり今から大体100年くらい前に共和大学への入学が決まり、3人がそれぞれの道を歩む前に記念として写した写真を見つけた。
そこには、弟のバハムードと妹のサマカンドラ、そしてアルガティアにエゼラルドとイレーヌも混じって写っている。

「懐かしい、あいつらは今何をしてるやら」

写真を傍らに置き、煙草のようなものに火を付けてゴルダは掃除を続ける。
改めて写真を見ると、ゴルダは無表情で棒立ちしており、サマカンドラは少し微笑み加減に、バハムードはエゼラルドの背に立って槍を構えている。
そしてエゼラルドは少し困った顔をしながらバハムードを見ていて、アルガティアもまた無表情、イレーヌはかなり穏やかな表情で写っていた。

「よし、こんなもんでいいだろう」

それから10分ほどで掃除を終え、ゴルダは改めて写真を持って居間の方へ行く。
居間ではお昼過ぎのラジオ番組が流れており、そのすぐ横には洗濯物が積まれていて早く洗濯しろと無言の圧力を放っている。
セレノアが家を空けて以来、ゴルダはこのように家事が投げやりな部分が露見している感が否めない。
それでも本人は、最低限綺麗にしていればいいと割り切っているようではあるが。

「やれやれだな」

洗濯物を魔法で洗濯機に投げ込みながら、ゴルダはふと携帯を見る。
すると、2時間前と1時間前にサフィから着信があり、さらに30分前にはメールが来ていた。
何だろうかと、ゴルダがメールを開くと

「『メール見たらすぐ来い』?はてさて」

大体シアが呼んでいる時と同じ文面のものだった。
だが、今日のこのメールからはシアが呼んでいるなどと言った雰囲気は全く感じられない。

「訳が分からんが、これを無視していると厄介なことになりそうだな」

ゴルダは今まで一度たりともサフィからの呼び出しメールを無視したことはなかった。
だが、今回ばかりは訳が分からないので無視しようともしたが、サフィに何を言われるかが分からないので行くことにした。

「やっと来たのね」

セイグリッドへ行くと、いつものようにサフィが出迎えてくれたが今日は何かがおかしい。
何がおかしいのかというと、なんでもっと早く来なかったのよと言いたげな表情をされたからだ。
さっぱり訳が分からないゴルダは、サフィに応接間へ行ってと言われるがままに行く。
応接間に行ったゴルダを待っていたのは

「よう、兄貴。帰って来たぞ」

「ただいま」

あの日と殆ど変わらないサマカンドラとバハムードの姿があったのであった。
それを見たゴルダは表情を全く変えずに

「よく戻って来たなお前ら、待ってたぞ。お帰り」

淡々と二人にお帰りと言う。
約100年ぶりに、こうして3人は再び揃ったのであった。

「あれから100年余り、どんな世界に行っていたんだ?」

サフィが運んできた緑茶をすすりながら、ゴルダはサマカンドラとバハムードに聞く。
2人はしばらく考え込んだ後、それぞれ一言だけこう言い放つ。

「亜人を含めた人と竜の立場が逆の世界で竜側になって生活してた。一介の傭兵として」

「同じく、でも私は世話係もとい従者みたいな感じで王族に仕えてた」

それを聞いたゴルダは、そうかと一応の理解をした態度を示してそれ以上はこの事に関しては聞かなかった。
30分ほどゆったりと時間を置き、ゴルダは2人に次なる問いを投げかける。

「戻って来たはいい、この先どこに住む?俺の家は完全に1人暮らし用だ」

それは、これからどこに住むかというものであった。
ゴルダが今現在住んでいる家は、1人暮らし用に改築したのでとてもではないが2人を住まわせることは現状無理である。

「じっちゃに聞いてここで住むわ」

「私も」

アルカトラスに聞いてここで住むと言う2人に、ゴルダはそうかとしか答えようが無かった。
特に当てがない以上、祖父であるアルカトラスが居るこの城で暮らすのが現状ベターなのである。

「なんだか今日は疲れたな、とりあえず今日はゆっくり休め。俺はもう帰るが」

ソファから立ち上がり、ゴルダはサマカンドラとバハムードにじゃあなと一言言って帰ることにした。

「これからが大事だな、とりあえず明日にでもまた来て墓に手を合わせるか…3人で」

その一言からは、どうにも踏ん切りが付けられないゴルダの葛藤が見え隠れしていたのである。

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小説(一次) |

日常から非日常、非日常から日常へ

幻想獣医と竜医は何も、幻想生物を診ることだけを仕事としているわけではない。
時に上から一部の者へ声が掛かることもある。
それは学会への論文提出要請だったり、参加要請だったりと様々だが、ただ一つだけ本当に一握りの者にしか来ない要請がある。
それは何かというと、幻想生物保護条約という幻想生物への不当な扱いをしてはならないと言う条約に違反した者たちを取り締まるための要請だ。
これは異界文明犯罪対策機構とも結託して行われることも多く、普通に幻想生物を診るよりも危険な仕事である。
今日は、そんな仕事の要請をされたゴルダの行動を追ってみることにする。

「はいこちらゴルダ…あ?またかよ、仕方ねえな。どこ行けばいい?…分かった」

依頼もなければ、やることもない。
そんな状態で居間のテレビでソファに深く座って映画を見ていたゴルダに1本の電話が入る。
それは上、つまり幻想獣医学会からの電話で、異界に幼竜をよからぬ目的で売り飛ばそうとしている輩が居るという情報が入ったという。
その調査かつ検挙の要請のために、ゴルダに電話がかかって来たのだ。

「呼ばれちゃ仕方ないか」

ゴルダはめんどくさそうにしながらもソファから飛び起き、すぐに準備をする。
無論、そう言った相手が居る場所へ乗り込むのだから生半可な装備は許されない。
とはいえ、半分は竜の血が入っていて普通の人よりは頑丈なためそこまでガチガチにする必要はないのだ。

「さっさと終わればいいが」

そう言って、ゴルダは電話で指定された場所へ向かう。

「よりによってこことはな、あいつからとばっちりを食らわなけりゃいいが」

そのゴルダが向かった場所とは、風水竜王国スリュムヴォルドの港。
ここはドランザニアの港同様に異界からの船が来る場所で、時たまよからぬものを輸入出しようとする輩が湧いてくる場所でもある。
その度に、スリュムヴォルドの女王であるエルフィサリドがぶち切れる寸前まで行くので、その度に一応の専属医かつ側近にされたゴルダがなだめに来るのだ。
今回もそうだろうなと思いながら、ゴルダは現地に居た他のメンバーと合流した。

「あら」

「うん?ああ、お前かイルフェス。またアメリカから呼び出されたのか」

「そうよ、積み荷の行き先がアメリカだったらしいからなぜか知らないけど呼び出されたのよ」

ゴルダはその場にいた1人の犬獣人を知っていた。
名はイルフェス、竜医学科の同期生かつ同期卒で卒業後はしばらく音信不通になっていたが、ある日地球のアメリカでFBIに身を置いていることが分かった。
さらに、異界文明犯罪対策機構なるところのメンバーであるとも最近分かり、時たまこうして仕事で一緒になることがある。

「さて、さっさと終わらせちゃいましょうよ」

「それもそうだな、またエルフィサリドのご機嫌取りは勘弁だ」

2人はそう言って他のメンバーを動員し、売り飛ばされようとしていた幼竜を保護し、商人も逮捕した。
逮捕した後は異界文明犯罪対策機構の管轄なので、ゴルダはここで解放される。
つまり、またいつものような日常に戻されたのだ。

「相変わらずめんどくせえもんだ」

そんないつもの日常へされたゴルダは、煙草のようなものを吸いながらスリュムヴォルドの町の中を歩く。
沿岸部に建つ家々は塩害を防ぐために特殊な素材の壁で作られており、壁の色は全て同じだ。
家の高さも最高で2階建てと、3階建ての建物は見当たらない。

「港町ってのはやっぱりいいもんだな」

行く人々を気にも留めず、のんびりと歩いているといつの間にか城の前へとやって来た。
スリュムヴォルドの城も他の国の城に引けを取らず、外見は小さいが地下はそれなりに国中へ縦横無尽に穴が掘られていたりする。
しかも、城内部へ入るためには水没している地下出入り口を通るか、飛んで入るしかない。
ゴルダは一応専属医で無理やり任命された側近なので、そのようなルートでなくとも入れはする。
だが、特に呼び出されてもいないのでその場を立ち去る。

「帰るか」

そう呟いた途端、背後からつんつんと誰かに突かれる感触がしたので振り返るが誰も居ない。
だが、ゴルダにはそれが誰なのかは分かっていた。
空気中の水分や気体と完全に一体化し、姿を消せる能力。
それを持つのは、この国ではただ2人。

「何で普通にやってこないんだ?なあエルフィサリド?」

「あらあら」

ゴルダとは別の声と共に現れたのは、つるっとした緑の体に青い目、そして特徴的な長い尻尾の竜。
この竜こそがスリュムヴォルド女王のエルフィサリド当人である。

「珍しいじゃないの?私が呼ばずとも来るなんて、何かあったの?」

「いや?単なる気まぐれだ」

エルフィサリドにどうして来たのかと聞かれ、ゴルダは気まぐれで来たと嘘をつく。
もしあの件で来たと言ってしまえば、また長ったらしい話を聞かされることは確定しているからだ。

「そう、最近来ないからどうしたのかと思ってたわ」

「健康チェックはニフェルムがやっているんだろうに、俺が出る幕はほとんどない」

ゴルダの言う通り、スリュムヴォルドの城に居る従者とエルフィサリドの健康チェック及び管理は、混血クラゲの突然変異種のニフェルムが行っている。
そしてときたまニフェルムからすぐ来てくれと手紙が来ることもあるが、電波な文面で綴られているので解読するのはとても難しい。
大抵ニフェルムから手紙が来た場合、ゴルダはすぐにスリュムヴォルドへ向かうことにしてはいるのだが。

「それでもあなたは私の側近でしょうよ、寂しいわ」

「中々来るタイミングが掴めないんだよ」

エルフィサリドの尻尾が奇妙に揺れているのを見て、今日は簡単には帰してくれなさそうだと思ったゴルダはエルフィサリドに

「あーもう分かった、何なら茶でも付き合おうじゃねえか」

自分から茶でもどうかと提案したところ、エルフィサリドは機嫌を良くしたのか

「えええ、もちろん」

あっさり了承してゴルダを城の中へ連れ込む。

「ほう、そうなのか」

「そんな感じなのよ」

何だかんだで茶を飲みながら話をするエルフィサリドとゴルダ。
この間に、ポットが3回は交換されている。

「さて、もうそろそろ俺は帰るぞ」

3回目に交換されたポットが空になったのを見計らい、帰ると言い出したゴルダにエルフィサリドは尻尾を絡ませて引き留めた。
何だよとゴルダに渋い顔をされ、エルフィサリドはこう言う。

「せっかくだから夕食時まで付き合いなさい?ね?」

飯まで付き合えと言われ、ゴルダはエルフィサリドに聞こえない程度に舌打ちして

「分かった分かった」

めんどくさそうにしながらも仕方ないと割り切って了承した。
そして、夜は夜で酒を薦められてエルフィサリドと飲むだけ飲み、結局帰るに帰れなくなって泊まったという。

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代わりを務めるための泊まり

突如ゴルダにかかって来た電話、それは依頼ではなくサフィからの頼みの電話であった。
話を聞くと、明日1日已むおえない用事で仕事を休まざるを得ず、シアとアルカトラスの健康チェックができないと言うのだ。
ちなみに、従者関係の仕事は副メイド長に押し付けているので問題ないとのことである。

「…あ?、ああ分かった。明日1日だけだな?」

「ええ、悪いわね。じゃあよろしく」

「じゃあな」

電話を切る前に、明日1日だけやればいいと言うのを確認してゴルダは電話を切った。
1日だけ引き受けたはいいが、明日の夜明け前に行くとなんだか間に合わなさそうな気がして仕方なかったので城に泊まることに。
泊まるついでに、サフィが全くやっていないであろうカルテ整理とも考えてはいたが、それは行ってみなければ分からない。

「あいつのことだ、整理はしていないわけではないだろうが」

などとゴルダは呟きつつも、颯爽と準備してセイグリッドへ向かう。
前日から来たゴルダを見てサフィは、こう言った。

「おあいにく様、カルテ整理はほどほどにやってるわ」

それに対してゴルダはこう返す。

「そのほどほどの定義が分からん以上は、見てみないと分からんだろうが」

それを聞いたサフィは、それもそうでしょうけどと言うとそれ以上は何も言わなくなった。
その後、アルカトラスにまともに挨拶もせずにカルテが保管してある部屋へ。
カルテ自体が保管されている部屋は、サフィの自室とは別の場所にあり、厳重に鍵が掛けられている。
それはなぜかと言うと、アルカトラスやシアの健康状態というのは機密情報に部類されるからだ。
もしよからぬ者の手に渡れば、大変なことになりかねない。

「従者のカルテまで事細かに記録して保管してんのかあいつ」

サフィが人間の医者の資格をも有していることはゴルダ自身も把握していたが、ここまで事細やかに記録されたカルテは名医でもそうそうない。
従者たちのカルテの棚を無視し、ゴルダはアルカトラスとシアのカルテが保管されている棚の前へ来た。

「見てないのは確か…1か月前からか」

年度別の中の月別部類の中から、ゴルダは今年度の先月分のカルテと今月分のカルテをひとまず引っ張り出す。
やはり、カルテに記されているのはその手の道の者でなければ何と書いてあるかが全く理解できない内容だ。
ゴルダはそれを1日ずつ慎重に確認し、変わったところがないかを確かめる。

「先月は爺さんはややストレス蓄積値が高め、シアは…何だこりゃ、魔力の値が異様に低い日が1週間余り続いている時期があったのか」

こうやってアルカトラスとシアの健康状態をゴルダが把握するのは、一応の親類に当たるからだろう。
それ以前に、両者の体調は世界の安定と直結しているので把握せざるを得ないと言うのもあるだろうが。

「来ていたのか、来ているなら来たと挨拶ぐらいせぬか」

「悪い悪い」

カルテを確認していると、アルカトラスがぬっと顔を覗かせてきて挨拶くらいしないかと言ってきたので、ゴルダはここでアルカトラスに挨拶する。
アルカトラスはその後うむうむと頷きながらどこかへ行ってしまった。

そして1時間後。

「思いの外カルテは整理してるじゃないか」

昨日までのカルテのチェックが終わったので、カルテの整理を始めたゴルダ。
だが、思いの外サフィが整理していたのでそこまでする必要がなかった。

「食事の時間」

「おうよ」

だが、それでも整理していないのはあったので、それを整理しているとサフィが入って来て夕食であることを告げる。
ゴルダはそこで整理の手を止めて大広間の方へ。

「あら、来てたの?ふふふ」

「その笑みはやめろ」

大広間では、従者を含めシアとアルカトラスも座って待っていた。
ゴルダは適当に従者の間に割り込むようにして座り、食事を取る。
食事中はほとんど会話がないわけではないが、従者は従者たちで会話をしているので、ゴルダは黙々と食べる他ない。

「ごちそうさん」

早めに食べ終わったゴルダは先に席を外し、煙草のようなものを吸いに行く。
城の中はほとんど禁煙で、吸える場所と言えば狭っ苦しくこしらえられた喫煙室だけだ。

「ふう」

喫煙室で煙草のようなものに火を付け、それを吸いながらゴルダはあれこれ考える。
神もとい聖竜の血が完全な覚醒を迎えた今、若干ながら昔のような生活を送ることは不可。

「さてと」

煙草のようなものを消し、ゴルダは風呂に入りに向かった。
風呂にはすでに誰かが入っていたようだが、ゴルダは気にせずに入る。

「風呂はいい、余計なことを忘れさせてくれる」

「ええそうね」

独り言を呟いたつもりが、既に入っていた誰かもといシアの耳に入ったようで返答された。
ゴルダはそれに反応せずに体を洗い、湯に浸かる。
だが、そのすぐ後ろにシアが居たようで

「う、し、ろ」

頭にポンと湯で濡れそぼった前足を置かれ、その前足をどかすゴルダ。
だがまたすぐにポンと置かれたのでまたどかす。
それを数回繰り返したのち、濡れた状態の体でシアに抱きつかれそうになったのでゴルダはさっさと湯から上がる。
抱きつきが失敗したシアは何よと言う顔でゴルダを見ていたが、本人はそれに気づかずに上がってアルカトラスの所へ。

「どうした?まだ我は寝ないが」

「いい、話してるうちに寝る時間になるさ」

この後、何だかんだと話をして寝る時間になったのでさあ寝ようとしていると、ゴルダは突然転送魔法により姿を消す。
転送された先は、言うまでもなくシアの所であった。

「うふふ」

「一緒に寝たいなら普通に呼べ」

「嫌」

「ぐぬぬ」

一緒に寝たいなら普通に呼べと言うゴルダに対して、シアはやんわり嫌と返す。
シアの子供っぽいやり方に、ゴルダは若干唸りながらも、シアとアルカトラスの体毛で織られたカーペットの上に座る。

「相変わらず子供だな」

「何よ」

ゴルダに子供だなと言われ、むすっとした顔になるシア。
それでもゴルダは顔色一つ変えずにこう言った。

「別に子供でも悪くはないが、少しは考えた方がいいかも知らんぞ」

「むう、もふっ」

ゴルダの一言にまた機嫌を悪くしたシアだが、それも一瞬でスイッチを切り替えて抱きつく。
抱きつかれたゴルダはしばらくもふもふされていたが、いつの間にかうとうとして気づけば寝ていた。

「あら、寝ちゃったのねえ」

そう言って、シアはそのまま横になってゴルダをうまい具合に尻尾で毛の中にある程度押し込んで

「おやすみ?」

と言って就寝した。
翌朝、シアにがっしりと抱かれていたので、ゴルダは起きてもシアが起きるまでは完全に起きれなかったとか。

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小説(一次) |

辻とシア

普段は見つけてもすぐ塞いでしまう、まったくもってブラックボックスな世界への扉。
今日はそんなブラックボックスな世界への扉をくぐってみたシア。
その先には、当たり前かもしれないが見慣れない者達と見慣れない部屋。

「…こんばんは?」

一応何を言っているのかは分かるので、とりあえず挨拶をするシア。
その者達からは挨拶は普通に帰って来た。

「んー」

その後は、何をするわけでもなくただ最初からこの部屋に居た者達を眺めるシア。
こちらも相手も、特に危害を加えるつもりはないのでリラックスしてはいるものの、心の奥底では何かが落ち着かない。
そもそも、竜というのが珍しいのかは分からないがやたらとここの者達はシアに興味を持っていた。
そのためか、やたらと触って来る者が多かったがシアはさせたいようにさせる。
それからしばらくして

「最初は少し気まずかったけど、今はそうでもないわ」

などと思いながら、体を触らせていると1人の少女が

「アタシもさわっていい?」

となぜか震えながら聞いてきた。
シアはどうしたのかしらと思いながら、その少女を引き寄せて

「どうぞ」

と一言だけ答える。
ちなみに、シアはこの少女の名はすでに聞いていたので辻だとすぐに分かった。

「すっげぇいい触り心地…!」

「手入れは欠かしていないからね」

シアに引き寄せられ、触ってもいいと許可を得た辻がシアに触れた時の第一声はそれだった。
それに対し、シアは手入れは欠かしていないからだと返す。
なぜ辻がこのような反応を示したかというと、今までシアのような毛の質感を持つ動物と触れ合ってこなかったのは確かだろう。
そしてあまりの興奮っぷりに、怪我しないようにねとシアは目で言うが辻が聞き入れる様子は全くなさそうだ。

「流石だ!これからも手入れは欠かさないでくれ!」

手入れを欠かしていないからだと言う返事に対する返事だろうか、辻はそんなことを言いながらなおもシアをもふもふしている。
ここまで一方的にもふられることはシア自身あまりないので、少し辻に意地悪をしたい気が湧いてきた。
そこでシアは、そっと前足を辻の背に回してもふもふに夢中になっていて背に回された前足に気付いていないことを確認し

「そんなにもふもふ好き?じゃあこうしてあげる」

不意打ちでもないが不意打ちに見せかけてむぎゅっと抱きしめ、辻を毛の中へ押し込んだ。

「むぶぶっ」

毛の中へ押し込まれても、特に抵抗する素振りを見せない辻。
無論、こんなことをすれば下手すれば窒息間違いなしなのだが、シアの枠な計らいでそれはしないようになっている。

「すげえ、今ならアタシ天に召せられるぜ…!」

「それはちょっとまずいわね」

などと言いながらも、シアは辻をそのまま毛の中に埋めたままで気付けば自世界へ帰って来ていたと言う。

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小説(交流) |

5人でババ抜き

「こうかしら?」

「では儂はこうだ」

万年桜の下、花びらの絨毯に座ってシアとムサヅキはなぜかオセロをしていた。
無論、2人の体に合わせてあるのでセット自体がとても大きい。

「ここはこうして…と、私の勝ち」

「ぬぅ」

シアの最後の一手が決まり、結果的にシアの勝ちとなった。
ちなみに、現在シアが5連勝中である。

「もう一度やろう」

「えー?もう飽きたわ」

5連敗しているにもかかわらず、まだやろうと言ってきたムサヅキにシアは飽きたと言って拒否。
するとムサヅキは今度はトランプを出して

「ではババ抜きを」

ババ抜きをやろうと言い出した。
だがシアは渋い顔をしながら

「2人でやってもつまんないでしょうよ、長ったらしいだけで」

2人だと長ったらしいと言ってやろうとしない。
それに対してムサヅキはこう言った。

「じゃああと2人か3人ほど呼べばよかろう」

あと2、3人呼べばいいと言われてシアは少し困った顔をしたが、心当たりがあったので召喚魔法を使う。
すると、そこへアルガティアとレナに、ナイフを持って何かを削っているゴルダが現れた。

「お前は指を詰めさせる気か?」

ナイフをどこかへ片付けながら、ゴルダは渋い顔でシアを見る。
だがシアはそんなことはお構いなしの様子。

「わわっ…!」

一方のレナはムサヅキを見てびっくりしたのか、耳と尻尾を光らせながら飛び上がった。
アルガティアは相変わらずの動じなさと言うよりはマイペースっぷりを発揮し、飲んでいた紅茶を飲み終えるとカップをどこかへ消して何か用?という顔をする。

「その小さき者は?」

「紹介してなかったわね、一応アルガティアの知り合いのレナよ」

レナの方を向いて、誰かと聞いたムサヅキにシアはレナがアルガティアの知り合いであることを伝えた。
それを横で聞いていたゴルダは、レナの方に向き直って両手を目の前で合わせてお辞儀をする。

「始めまして、か?アルガティアの知り合いだそうだな?俺はゴルダ。よろしく」

「あはは、礼節あるんだね…よろしく」

ゴルダの挨拶の仕方に少々戸惑いながらも、レナは挨拶を返す。
ムサヅキは自分にはしないのかと少しがっかりしたような様子だったが、それ以上は何も言わずにシアに

「5人か、丁度いい。始めようではないか」

早くトランプをよこせと、前足で手招きするムサヅキを見てシアは

「じゃ、ババ抜き始めましょか」

と他の3人へトランプを渡す。
全員にトランプが行き渡ったところで、全員お互いの顔を見合わせる。
レナ以外は大して表情は変えていないというよりは、まったくもって無表情を保っていた。

「誰を基準に?」

アルガティアが誰を基準に回るかと聞いてきたので、シアは

「ゴルダからでいいんじゃない?」

とぶっきらぼうに言う。
ゴルダは俺かよという顔をしたが

「俺から右回りだ、異論はないな?」

自分から右回りで問題ないかどうかを聞いたが、全員異論はない様子だったので始めることにした。
ちなみに順番は、ゴルダから右回りにレナ・アルガティア・ムサヅキ・シアである。
初めにゴルダはレナのカードを一枚取った。
取ったのはジョーカーでもなければ、ペアになるものでもなかった。
次にレナが、アルガティアの手札から1枚取る。

「あっ、これ捨てられるなあ」

レナが取ったカードは、ペアで捨てられるのがあったのでそれを捨てる。
次にアルガティアがムサヅキの手札から1枚取った。
相変わらず無言かつ無表情で何を考えているのか分からない雰囲気を出しているが、これがアルガティアなのだ。

「儂の番か」

あまりにも無言の空気が張りつめているので、それを崩そうとムサヅキは一言呟いてシアの手札から一枚取る。
と、ここでムサヅキの手にジョーカーが渡ってしまったがムサヅキは若干ニヤリとしただけですぐに何事もなかったかのようになった。

「うふふ」

「何考えてるか分からんが、抱きつくなよ?」

そして、シアがゴルダから1枚取ってようやく1週目が終わるのだが、シアが不敵に笑ったのでゴルダは抱きつくなよと釘を刺す。
アルガティアとムサヅキは知っているのだが、レナはシアとゴルダがどういう関係なのか分からないので思わず

「あの…抱きつくなよってどういう意味なのかな?」

ゴルダに抱きつくなとはどういう意味なのかと聞いてみた。
するとゴルダは何処からかライターと煙草に似た何かを取り出してそれに火を付けて吸いながら

「シアはな、信用しているあるいはされている相手にもふっと抱きつく癖が最近出て来たんだよ。それもあるし抱きつかれた時に手札見られるからそう言った」

なぜそのようなことを言ったかの理由として、シアが信用しているかされている相手に抱きつく癖があること。
そして、その際に手札を見られるかもしれないからだと答えた。

「あはは…なるほどね」

理由を聞いたレナは、苦笑いしながら納得する。
一応この間花見をした時も、レナは抱きつかれこそはしなかったがシアに触られたことがある。

そしてこの後、2周ほどしてアルガティアが1番目に、レナが2番目に抜けて、残るはシアとゴルダとムサヅキだけだ。
だが、3週目に入った途端にムサヅキが3番目に抜けてゴルダとシアの1体1の勝負となってしまった。
お互いに残る手札は2枚ずつ、次の一手で勝敗が確定してしまう。
そして、ゴルダが先手を打ってシアの手札から1枚取る。

「上がり、4抜け」

勝負はゴルダがジョーカーではない方を取ったことで決まった。

「あら、負けちゃったわ」

いつの間にかアルガティアが淹れていた紅茶を一緒に飲んでいたレナは、終わったんだと言う顔で2人を見る。
そんな見ているレナの横へ、ゴルダはやって来てアルガティアから紅茶をもらう。

「もう少し濃い目がよかったな」

「緑茶でも飲めばいいのに」

「冗談に決まってるだろ」

さりげなく淹れ加減にケチをつけたゴルダに、アルガティアは緑茶でも飲めばいいのにと刺さるようなことを言う。
だがゴルダはそれを受け流して冗談だと返す。
レナはそれを見て、この2人ってどんな関係なのかなと思い始めた。

「俺とアルガティアはいとこの関係だ、シアは曾祖母、曾婆さんだ」

それを察したのかは分からないが、急にゴルダはレナに自分とアルガティアの関係とシアとの関係を話す。
アルガティアとゴルダがいとこの関係であることと、ゴルダとシアが曾祖母の関係であることに少し驚いたレナは

「すごいね、それでシアさんとは曾祖母の関係かあ…」

どこかすこし寂しげな表情になる。
それを見たシアは、レナにこう聞く

「もしかして両親はもう居ないの?」

「ああは…もう居ないけど今が楽しいならそれでいいや」

もう両親はいないのかと聞かれて、レナはそうだと答えて今が楽しいならいいやと無理やり割り切ったようなことを言う。
気付けば、ムサヅキはすでに帰ったのか居なくなっており、アルガティアは何事もなかったかのように紅茶を飲み、ゴルダはまた煙草のようなものを吸っている。

「もふっ」

「ぶふっ」

「わわ…っ!」

いきなりレナに抱きついたかと思えば、ついでにゴルダも巻き添えを食らって抱きつかれた。
またレナはびっくりして耳を光らせ、ゴルダは何してくれんじゃという表情をする。

「すごいもふもふ…」

「ウゥーム」

その後、1時間近くレナとゴルダはもふられていたとか。

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使役しよう管狐

初春の風が駆け抜ける聖リフィル城の庭園。
そんな庭園を、アルガティアは妹のイレーヌとエゼラルドに乗って散歩していた。
アルガティアの頭の上では、フィルスが乗っており、魔法書を読みふけている。

「それで、4の月になったらもっと花壇を増やしてほしいんだけど」

「うーん、これ以上増やすと庭園の面積が減るけどいいの?」

もっと花壇を増やしてほしいと言ってきたアルガティアに、これ以上増やすと面積が減るけどいいのかと聞く。
エゼラルドが一歩歩くたびにその体がわずかながら揺れ、匂いをまき散らす。
そして、エゼラルドの歩いた跡は異常に草が伸びている。
おそらく、成長系統の能力を持った魔力か何かだろうが、エゼラルドはそれを流している事には全く気付いていないようだ。

「あれ?これなんだろう?」

突如、エゼラルドが歩みを止めたので体が大きく揺れ、フィルスはアルガティアの頭から転げ落ち、ポフッとエゼラルドの背へ落ちた。
どうしたのとアルガティアがエゼラルドに聞くと

「何か落ちてたけど、これ何?」

エゼラルドはアルガティアに筒状の何かを渡す。
それは、謎の印が入った一見何の変哲もない竹筒であった。

「姉さん何それ?」

「触らないで、これは多分ムサヅキの方で使役されてる管狐ね。こういう筒状のものに入れて使役するの」

竹筒が気になったのか、触ろうとするイレーヌをアルガティアは制してこれは管狐を入れている竹筒だと言う。
フィルスは管狐って何?という顔をしながらその竹筒を見ていた。

「ああそうか、姉さんなぜか霊力あるもんね」

イレーヌが言ったように、アルガティアはなぜか霊力、簡単に言えばシャーマンとしての素質を十二分に持っているのだ。
無論、いつもはその霊力は常にゼロに等しい状態に抑えているので「見える」訳ではない。

「あからさまに捨てられてたけど、普通管狐を捨てるなんて行為は使役する者にとっては禁忌なはず」

そう言いながら、アルガティアはエゼラルドから降りて自室の方へと行ってしまった。
姉さんらしいなあという顔をするイレーヌに、フィルスはまあ仕方ないねとそのまま魔法書を読むのに戻る。

「少し調べた感じ、使役関係を切断されてるようね」

自室に戻ったアルガティアは、捨てられていた管狐の入った竹筒を調べて、使役関係が切れているかどうかを調べる。
そうしないと、万が一使役関係が切れていなかった場合、管狐に攻撃される危険性があるからだ。
ちなみに、管狐は使役されることで使役主と霊力を共有して存在することができる。
だが、使役関係のない管狐は、自身の霊力を消費しないと存在できないため、いずれ霊力が尽きて雲散霧消してしまう。

「物は試しで…」

以前、ムサヅキからはるばるやって来たとあるシャーマンから、管狐を持ってみないかと言われたことがあるアルガティア。
その時は特に興味がないと言って拒否したが、今回は事情が事情以前の問題なので興味の有無は関係ない。

「…」

とりあえず使役する意思を管狐に伝えたアルガティア。
しかし、何の反応もない。
既に雲散霧消してしまったのかと思っていると、その竹筒の中から薄い桜色の管狐がぬっと出てきた。

「キー」

「何?もう少しで雲散霧消するところだった、感謝する?いいのよ」

周りはキーと聞こえないが、アルガティアにはこの管狐が何を言っているのかが理解できていた。
薄桜色の管狐はそのまま管から完全に出てくると、頭から足までアルガティアを眺めて何かを察したかのように頷く。
普通、管狐はその媒体となっている管から完全に分離はできないのだが、使役主の霊力によつては一時的ならこのようなこともできるのだ。
アルガティアの場合は、霊力イコール魔力なので長時間完全分離していても管狐の方は何ら問題はない。

「そういえば名前…ああそうね、真名は教えられないのを忘れてたわ」

この管狐から名前を聞き出そうとしたアルガティアだが、真名の概念を思い出してやめた。
真名とは、忌み名と同じ効力を持ち、これが知られると何もかも思い通りに操られてしまうのだ。
もっとも、真名の概念はムサヅキにしかないのだが。

「桜雪時雨、オウセツノシグレでいいかしら?あなたのその薄桜色の体から思いついたけど。それといつもは時雨って呼ぶけどいい?」

薄桜色の管狐改め桜雪時雨こと時雨は、その名を一瞬で気に入ったようで即座に頷く。
こうして、アルガティアのもとに管狐の時雨がやって来たのであった。

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