氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

もふサンド

それは、ある一通の飛竜郵便が始まりだった。
その手紙は住所が全く読めず、唯一読めるのはフィーナと言う名前だけ。

「フィーナ……ああ、懐かしい名前だな」

フィーナと言う名前の誰かを思い出し、ゴルダは家のバルコニーで椅子に寝転がりながらその手紙を読みつつ記憶を掘り起こす。
かつて、異界によく赴いて遊んだりしていた頃に関わりを持ち、友人でもあった女性の竜人であった。
今は仕事でもなければ異界へ赴くこともなくなり、異界で関わりのあった者とも付き合いはすっかり無くなっていた。

「それはさておき、俺の出身世界は知っていたにしろ。住所までは分からんかっただろうに。どうやって割り出したんだ?」

ここでゴルダに一つの疑問が浮かんだ。
フィーナには自分の出身世界の事を話したことはあるにせよ、どこの国のどの地方に住んでいるかは一切話したことが無い。
ましてや、異界からの手紙は名前だけでは住所不定で届かない可能性が非常に高い。
なのにこの手紙は届いた、となると考えられるのはこの手紙が一度シアの所へ送られ、住所を調べて改めて送られてきたのだと考えるのが普通だ。

「やれやれ、お人好しめ」

ゴルダは椅子から起き上がり、自分の部屋で返事を書いた。
ちなみに、フィーナからの手紙にはそっちの世界へ遊びに来てもいいかという旨の事が書かれており、ゴルダはその返事に来ても構わんが大したことはできないと書いた。

「さて、こいつを送り返すにはシアのところへ行かねば」

あまり行きたくないなと思いつつ、ゴルダはシアの所へ向かう。
セイグリッドへ行くと、相変わらずシアはアルカトラスが異界会談へ行っている間に溜まっている国務を片付けていた。

「あら、もう返事書いたの?」

「中身はさすがに読んでないよな?」

「読むわけないでしょ神が通信の秘密を侵してどうするのよ」

「それもそうか」

もう返事を書いたのかとシアに聞かれ、ゴルダは頷く。
まさか中身を読んでないよなと、冗談混じりに言ったゴルダに神が通信の秘密を侵すはずがないとシアはむすっとした様子で返し、異界用の郵便飛竜を呼んで何かを伝えるとそのまま飛び立たせた。

「私の所へ来るようにさせなさいな、下手にあちこち行かせるとアレよ」

「そういう風に書いた、問題ない」

空の遠くへ消えた飛竜を見て、シアはフィーナを自分の所へ来させるようにしろと言うが、ゴルダはそういう風なことを書いたと答える。
そして帰ろうとするゴルダの頭を、シアは軽く撫でてじゃあねと言うとまた国務代行へ戻る。
今日は無理矢理引き留めようとするようなことはしないんだなと、ゴルダはそそくさと帰った。

それから1週間も経たないある日、ゴルダがいつものようにバルコニーでだらけているとまた飛竜郵便が1通の手紙を届けに来た。
今度はフィーナからではなく、シアからだった。
手紙には

「受け取ったら早く私の所来なさい、客人を待たせるような真似はしないように」

とだけ書かれている。
要約すると、フィーナが自分の所に来ているのでこの手紙を見たら早く来いという事だ。
一応知ってはいたが、フィーナとシアは顔見知り程度ながら面識はあるという。
しかも、今のシアはやたらと物理的な意味でくっ付きたがるのでフィーナが困っていないか若干心配である。

「まあ、行くしかねえか」

軽く準備をし、ゴルダはシアの所へ向かう。
案の定、ゴルダがシアのところへ行くと丁度サフィが3人分の茶を置いて行ったところで、シアはやたらとフィーナといちゃついていた。

「よく異界からこっちへ手紙出せたな、と言うのは置いといて。久しぶりだな」

「うん、久しぶりね。元気そうで何より」

フィーナの姿が以前会った時のような姿ではなく、1.8メートルほどの新緑色の毛の竜の姿になっていたがゴルダはさほど気にしていない。
それもそのはず、手紙にはその事もちゃんと書かれていたからだ。
もっとも、フィーナがその姿になれることはまだ程よく関わりがあった頃から知っていたのだが。

「つもる話は茶でも飲みながらしようか」

「そうね」

シアはフィーナを解放し、ゴルダと2人だけで話をさせるためか他に邪魔が入らぬように見張るような体勢になった。
ゴルダは茶を片手に、フィーナに

「どうだこっちの世界は?」

ドランザニアはどうかと聞いてみた。
フィーナは少し茶を飲んで

「ええ、とてもいい所ね」

と静かに答えた。
シアはこちらをチラチラと見ては、尻尾をパタパタさせている。
何だかなとゴルダがシアを見ていると、今度はフィーナの方から

「そう言えばゴルダさん、この数年の間に何か変わったことってある?」

と質問を投げかけてきたので、ゴルダは軽くうなずいてこの数年にあった出来事を話す。
首輪の封印石現状で最強クラスの物に換えた事や、人付き合いの事などを話し、最後に

「それと、最近どうもこうにも厄介な持病が発覚してな」

最近発覚した竜滅病の話を持ち出すと、フィーナの表情がまさかと言う顔になる。

「じ、持病って…」

「うむ、発症すると足の神経から徐々に蝕まれて最後は脳や心臓をやられてポックリ逝く。今のところ特効薬は存在しないが、発症してない段階、潜伏期間の段階なら発症しないように抑えておく薬があるんでそれを飲んで今は抑えている」

「特効薬って、無いの?」

一通り話した後で、フィーナが特効薬はないのかと改めて聞いてきたのでゴルダはまた頷くと

「今のところはな、無論特効薬に関する研究はされている。今日までの進展では特効薬と思わしき薬が見つかった段階だ」

竜滅病は研究が進んでおり、今日までに特効薬になり得る薬が見つかった段階である事を説明するとフィーナは安堵の表情を浮かべた。
ここでチラッとシアの方を見ると、暇だと言わんばかりに尻尾をブンブン上下させている。
流石に構ってやろうかとゴルダは思ったが、あと一つだけフィーナに話していないことがあったのでそれをやってからにしようと決めた。

「そう言えばフィーナ、俺が竜医だというのは教えてなかったな?」

すっかり温くなった茶を飲み干し、ゴルダはフィーナに問う。
フィーナは首を縦に振ると

「初耳、かな?」

少し興味深そうにそう答えた。
ゴルダはフィーナに竜医とは何かを軽く説明し、背を向けてから煙草のようなものに火を付ける。

「素敵だね、そういう仕事って。私はそういう取り得ないからなあ」

話を聞き終えて、フィーナはそんな一言漏らす。
それに対し、ゴルダは煙草のようなものを手で握りつぶして消すと

「フィーナ、それは違う。取り柄がない奴は居ない、そんなことを言っているという事は自分の取り柄に気付いていない、あるいはまだ見つけていないに過ぎない」

取り柄がないやつなど居ないと静かに言い放つ。

「うん…そうかな?」

「俺はまだフィーナが自分自身の取り柄に気付いていないだけだと思っている。俺が思うフィーナの取り柄として、治癒系魔法と弓術がある。違うか?」

「そうは思わないけど、何と言うか…」

「自信が無いと見ていいのか?」

ゴルダは自分が思うフィーナの取り柄を言うが、芳しくない返事をされる。
その芳しくない返事に、ゴルダは自身が無いと見ていいのかと聞くがフィーナは答えない。

「無理に答える必要はないからな」

塔の天井もとい、床を壊しそうなほどに尻尾をバンバン打ち付けているシアに来いよと目線で伝えながらゴルダは言う。
シアはやったと言う感じでゴルダの所へ来るや、ぎゅっと抱き着いてもふもふしだす。

「シアさんも変ったわね、昔と違って性格的に柔らかくなったというか」

「あらそう?」

フィーナにも来なさいなと目線だけで訴えつつ、尻尾を満足げにパタパタさせながらシアは言った。
シアのその目線に、フィーナは少し戸惑うようなしぐさを見せる。

「やましいことなんて何もないわ、ゴルダを見なさい?」

「えーっと、何と言うか。本当に甘えても?さっきみたいに」

「ええ」

「じ、じゃあお構いなく」

無表情ながら、一切警戒していないゴルダを見てフィーナはこれは大丈夫だろうと思ってシアへ近づく。
シアはこれでは大きいかもと思ったのか、体の大きさを5メートルほどにまで縮めた。
それでも、ゴルダとフィーナを抱くには十分な大きさだ。

「もふぅ」

ゴルダの左に抱き寄せられ、シアの毛と自分の毛が触れ合う感覚を感じてフィーナは若干うっとりした状態になる。
それを見たシアは、手加減しつつもさらに強くむぎゅっと2人を抱きしめた。

「ぶはふっ」

その際、ゴルダはシアの腹とフィーナの背に挟まれるような感じで抱きしめられて、ろくに息もできない状態にされてしまう。
無論、シアはそれに気付いていないらしくなおもむぎゅっと抱きしめている。

「あの、ゴルダさんが私の背とシアさんのお腹で挟まれてるみたいなんだけど」

「あら大変」

シアは悪びれる様子もなく、抱きしめていた力を弱める。
抱きしめていた力を弱めると、フィーナの背とシアの腹の間からズルッと伸びたゴルダがずり落ちてきた。
その時に何を見たのかは不明だが、ずり落ちてきてからわずか3秒後に復活して2人に背を向ける。

「どうしたの?」

フィーナが心配になって聞くも、ゴルダは沈黙を破らない。
様子からして、見てはいけないものを見てしまったようだ。

「何でもないがその、悪かったな」

「えっ?」

「気にしないでくれ」

「そう、分かったわ」

一体ゴルダが何を見てしまったのかが気になるフィーナだったが、それ以上は追及しなかった。
シアは、ずっとこちらに背を向けたままのゴルダを尻尾で引き戻し、再びもふっとフィーナと共に抱きしめる。
またもやフィーナとシアの間に挟まれるゴルダだが、今度はまともに息ができるので問題はなかった。

「なんだか、幸せな時間」

「うふふ、そうでしょ?」

「もふもふ、か…もふもふ…」

フィーナとシアがのほほんとしているのに対して、ゴルダは何かにとりつかれたかのように同じような言葉を繰り返している。
それは、もふもふともふもふに挟まれて正気を保てなくなった者の末路のようだ。

「フィーナもここで暮らさない?」

「えっ、でも兄さんとかが居るから…」

「そうだったわね」

何を考えたのかは分からないが、シアはフィーナにここで暮らさないかと持ち出す。
だが、フィーナは兄が居ると言って戸惑う様子を見せ、シアはそれにそうねと頷く。

「もふぅ…」

一方のゴルダは、その一言を最後に以降ずっと黙り込んだままになった。
もふもふに引き込まれ過ぎた者は、皆こうなるかのような暗示を思わせる。

「時々こっちに来ちゃおうかな?」

「歓迎するわ、ここなら変なのも来ないからね」


もふもふっ。
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小説(交流) |

もふ日和

「芳しくないというかなんというか、抑え込みはできているようだな」

「そうか、ならいい」

聖リフィル王国、賢者の竜の里のルライエッタの部屋。
今日は竜滅病の定期診察の為に、ゴルダはルラエイッタを訪れていた。
定期診察は月に1度のペースで、その際に血液検査を行って竜滅病の進行度が上昇していないかを確かめるのだ。
検査結果は薬の服用による保存療法のおかげで、竜滅病は潜伏期間状態のままで以前と変わらず抑え込みはできているという結果だった。

「ただ、ちょっと薬を別のに変える必要はあるかもしれないな。抗体持たれたらどうしようもないし。今お前はたまに副作用が出ているからな」

「増やすのは勘弁な、種類を変えるのはいいが」

「増えはせん、薬の量は今の量で十分だ。発症しない限りはな」

時々笑い飛ばしたりしながらそんな会話をし、ゴルダはルライエッタから処方された薬を受け取って里を後にする。
その帰る途中、ゴルダが煙草のようなものに火を付けようとして躍起になっていると

「久しぶりねゴルダ、元気してた?」

「イレーヌか、どうしてまた今日はエゼラルドを引き連れている?」

「散歩よ」

アルガティアの妹のイレーヌがエゼラルドに乗って通りすがった。
エゼラルドはゴルダに目線で久しぶりだねと挨拶をするや、どこからともなく出した蜜柑を投げつける。

「おっと、ありがとよ」

投げつけられた蜜柑を受け取り、それを食べながらゴルダはイレーヌとエゼラルドと並んで歩く。
エゼラルドが歩くたびに、どこからともなくハーブの香りが漂う。

「大変ね、闘病生活も」

「いや、まだ発症してないだけマシだ。たまに吐血して動悸が起きる発作はあるが」

ゴルダが持っていた薬に気付いたのか、イレーヌは急に竜滅病の話題を切り出してきた。
大変ねとイレーヌ言われたゴルダは淡々とそうでもないと切り返す。
竜滅病は、ゴルダのように潜伏期間中でも発作を起こす場合がある。
その発作が元で検査をして、竜滅病に感染していると分かる事も多いが、発作などの自覚症状が無いまま発症して気が付けば時すでに遅しというパターンも珍しくない。
そのため、大陸幻想獣医師会では竜滅病に関して心当たりがあれば早めに検査をして欲しいと呼び掛けているが、現実はそうもいかないのがオチだ。

「でも、私ゴルダはすごいと思うな。竜滅病に感染してるって分かってても竜医を続けてるってところが」

「昔からの夢だったからな、病気程度で挫折してたら親父に説教喰らう」

「それもそうね」

イレーヌと会話をしている内に、急にエゼラルドが立ち止まったかと思えば、蔦でぐいぐいとゴルダを引っ張る。
どうやら背に乗れという事らしい。
そのエゼラルドの行動に、ゴルダははいはいと背へ飛び乗る。
ゴルダが背に乗ると、エゼラルドは城の庭園へと向かって飛び始めた。
庭園では、アルガティアと従者がお茶をしていてエゼラルドは邪魔にならない所へ降り立つ。

「定期診察?」

「ああ、薬も切らしてたからな」

アルガティアにふわふわした口調で聞かれ、ゴルダはそうだと答える。
従者はゴルダとイレーヌに挨拶し、茶を出してきたがゴルダはいいと言って受け取らなかった。

「もう帰るの?」

「今日はゆっくりしたい気分だ」

ゴルダはアルガティア達にじゃあなと言って転移魔法で家へ帰宅。
セレノアは6の月あたりから家を空けており、今住んでいるのはゴルダだけだ。
薬をいつも置いている場所へ片付け、冷房を全開にして自室へ入り、去年の誕生日にアルガティアから送られてきたもふもふなエゼラルドのぬいぐるみが置かれているベッドへ寝転がる。
エゼラルドのぬいぐるみの横には、今年の誕生日にまたアルガティアから送られてきたシアとアルカトラスのもふもふなぬいぐるみも置かれている。
ちなみにこのぬいぐるみ、アルガティアの一からの手作りと言うから驚きである。

「ぬいぐるみにも、魂は宿るんだったか?」

エゼラルドのぬいぐるみの頭をもふっと撫でながらゴルダは呟く。
人形に魂が宿るとはよく言われていることだが、ぬいぐるみは聞いたことが無い。

「おっと、シアからなんかわからんが呼び出されてるんだっけな」

しばらくベッドでぬいぐるみを触ったりしていると、急にゴルダの携帯のアラームが鳴った。
携帯を調べるとスケジュールに「シアから呼び出し」と記されている。

「ったく、またもふられるんだろうな」

ほんの1週間くらい前にサフィとシアが家へやって来て、サフィと一緒にシアにもふられて以来、シアは忙しいサフィではなくほとんど暇をしているゴルダをしょっちゅうもふろうとしているのだ。
もっとも、ゴルダ自身はめんどくさがって拒否はしているが。

「やれやれ」

多少の着替えを済ませ、ゴルダはため息混じりにセイグリッドへ向かう。
別にもふられるのが嫌いではないが、もふるという単純な理由で呼ばれるのが好かないのだ。
もっとも、相手が相手なだけに大した拒否の意を示すことができないが。

「あら、今日はさすがに来たのね」

「しつこいからな」

転送魔法で城の中へ入った瞬間、目の前にサフィが居た。
サフィと二言会話を交わすとゴルダは、シアが居る塔へ向かう。
だが、塔にはシアはおらずがらんとしていた。

「爺さんところか?」

ゴルダは塔から城の方へ逆戻りし、今度はアルカトラスの部屋へ向かう。
部屋にはアルカトラスはいなかったが、代わりにシアが国務の書類の処理をしていた。

「こうもしつこくされたんじゃ行かざるを得ないだろうよ」

「少し塔の方で待ってなさい、すぐ行くから」

「あいよ」

シアに塔で待ってろと言われ、ゴルダはまた塔の方へ逆戻りする。
寝室であろう塔の一角のスペースには、いつものようにところせましと並べられた魔法書や魔道具が整理されて置かれていた。

「ここまできっちり整理したら、何があるか分からんだろ」

とゴルダは思いつつもシアが戻ってくるのを待つ。
30分後、戻ってきたシアは不意打ちを掛けるかのように

「もふっ」

「後ろからはやめろ」

後ろから抱きついたが、ゴルダにやめろと言われてすぐに放す。
そしてシアは、サフィに言って準備させたと思わしき茶とケーキをどこからともなく出した。

「ふうむ」

茶を手に取って、物思いにふけながら飲んでいるとシアに尻尾で頭を撫でられたのでゴルダは軽く咳払いをして今はやめろと遠まわしに言う。
シアは頭を撫でるのはやめたが、今度は背中をスッと触ったりしてきたのでこれにはゴルダも驚き、思わず茶が気管支の方へ入ってしまい、むせ返る。

「あらごめんなさい?」

「少し考えたら分かるだろうが、まだ喉が痛むな全く」

少し落ち着いたところで、また物思いにふけながら茶を飲むゴルダ。
シアはそんなゴルダを後ろからもふっと優しく抱きついて、魔法でケーキの皿を取ると

「あーん、して?」

「俺はガキじゃない、自分で食える」

ゴルダに食べさせようとしたが、当の本人は子供じゃないので自分で食えると拒否。
シアはゴルダの態度にしょんぼりするかと思いきや、食い下がって

「たまには甘えたっていいじゃない、ね?」

「やめんか」

たまには甘えなさいよと言うものの、なおもゴルダは拒否。
その間も、シアはさりげなくもふもふを続けていた。
それから5分ほど甘えろと断るの押し問答を続け、埒が明かないと思ったゴルダが

「今日だけだぞ、恥ずかしいことこの上ない」

今日だけという条件を付けて折れた。
それを聞いたシアは、心の中でやったと思いつつ再び

「あーんして?」

と言って口を開けさせる。
折れたゴルダは無表情かつ、不機嫌な様子で口を開けた。
シアはその口の中へ、フォークて取り分けたケーキを入れる。

「なんだか昔を思い出すわ」

「そうかい」

ケーキを食べさせながら呟いたシアの一言に、ゴルダはぶっきらぼうに返す。
その体はシアの前足の所、胸から腹にかけての所に寄りかかっており、一番毛がふわふわしていて心地いい場所に当たっている。

「子供の時から、ほとんどの事を自分1人で解決しようとする一面。あったわよねえ」

「だからどうした」

シアに前足で頭を撫でられているゴルダは、心なしかシアに撫でられることに対して心を許している気がしないでもなかった。
やがて1時間ほど時間が経ち、ケーキを食べさせ終え、温くなった茶も横にどけてシアは胸の辺りの一番毛深いところにゴルダを座らせ、無表情で何も語らないのをいいことに、時折尻尾で毛の中へ押し込んだり、前足で頭をわしゃわしゃすると同時に背や足を触ったりするなどをしている。
それにゴルダは若干反応を示すが、シアに何を言っても無駄だと開き直ったのか何なのかは不明だが依然として何も言わない。

「ずいぶん大人しくなったわね」

「言ったところで無駄、と思うからさ。得にお前には」

「ふふっ、そういうところがまたかわいいわ」

「よせ、俺にはそぐわない」

かわいいと言われることに抵抗を感じるのか、シアにそう言われたゴルダはよせと否定の意を示す。
ゴルダに拒否の意を示され、それにまた何らかのかわいさを感じ取ったのか

「そういうところがよ」

と言ってむぎゅっと強くゴルダを抱きしめた。

「むぶっ」

今まで以上に強く抱きしめられ、体が完全に毛の中に埋もれた上に毛の中に埋もれたことで息をするもへったくれもなくなってしまう。
だがすぐにシアがやりすぎに気付いたのか、開放してくれたので事なきを得た。

「窒息するかと思った」

「うふふ」

やや息を切らしながらそう言ったゴルダに、シアは笑ってごまかす。
先ほどのようなことがあったにもかかわらず、シアは尚もゴルダをぎゅっと抱きしめている。
無論、加減はしてはいるのだが。

「ふう、抱かれ心地はセレノアと同等かそれ以上だな」

「あら、そんなこと言っていいの?嫉妬されない?」

「構わんよ」

セレノアと同じかそれ以上の抱かれ心地と言ったゴルダに、シアは嫉妬されないかと聞いたがそれにゴルダは構わんと言い返す。
すると、シアはゴルダの首のあたりを尻尾で触れる。

「間違えても俺の首輪外すなよ?」

「外しちゃおうかな?」

「やめろ」

首輪についた封印席に尻尾で触れ、外そうとしたシアにゴルダは外すなと釘を刺す。
それもそのはず、この首輪は変身能力を自己制御できないゴルダが制御するためにつけている物なので外せば間違いなく変身する。
そのうえ、ゴルダは変身することを好ましくは思っていないので外せば機嫌を悪くするのは間違いない。

「えー?」

「ダメだ、お前が何をするかが分からん」

なんで外したらダメなのと言いたげに言うシアに対し、ゴルダは頑なに断る。
最終的にシアは、少しがっかりしたように首輪をさわさわと尻尾でいじっていた。

「んー」

「おい、俺の頭に顎乗っけて体重かけるな。重い」

シアはゴルダの頭に軽く顎を乗せたつもりだが、体重がかかっていたらしく重いと言われてゴルダの頭に乗っけていた顎を下す。
それからさらに1時間、シアは一向にゴルダを解放する気はないらしい。
前足を交差させ、胸から腹の間に抑え込むようにして抱き込んで絶対に逃がさない体勢になってだ。
ゴルダの方は、それさえ気にすることもなくゆったりとした様子でシアにもふもふされっぱなしである。

「もう抵抗しないのね、抵抗したところで離さないけど」

「なんか落ち着くようになってきてな、セレノアの場合より」

セレノアに抱きつかれた場合よりも落ち着く理由が良く分からなかったが、おそらくシアが遠いながらも血が繋がっている存在であると共に、生の創造神であるからだろう。

「もっふもふ」

「もふもふなのは分かってる」

「ぎゅっぎゅー」

今日もゴルダは、シアにもふもふされている。

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真夏の暇つぶし

「なんでまた呼び出したの?」

久しぶりの休暇をアルカトラスから言い渡され、実家の墓掃除と墓参りに行こうとしていた時にシアに呼び出されたサフィはやや不機嫌そうにシアに聞く。
サフィがシアに呼び出されることはそうそうなく、赴くのは朝の健康チェックの時ぐらいだ。

「これと言ってはないけど、暇つぶしに付き合ってくれない?」

呼び出された理由が暇つぶしであると知り、サフィは後にしてくれないかと言ってそそくさと去ろうとする。
だが、シアは座標指定テレポートで去ろうとしたサフィを魔法で引き留めた。

「ああもう、じゃあ墓参りから付き合って」

そこまでして暇つぶしに付き合わせたいのかとサフィは若干呆れるが、墓参りから付き合うことを条件にシアの暇つぶしに付き合ってやる事にした。

「ずいぶんとこれまた寂れた場所ね」

「アルヴォールド家の私有地だからよ、この山のほとんどが」

何だかんだで最初にやって来たのは、ドランザニア北西部のとある山中。
その中に、サフィの実家はぽつりと佇んでいた。
父親が吸血竜だったこともあってか、親子3人で住むには少し大き過ぎる家である。
家自体はしっかりと戸締りがされ、玄関も良く分からない結界で封印されており入ることはできない。

「雑草伸び放題で何だか荒れてるわ」

「草抜きしててくれると助かるんだけど?」

「あら、じゃああなたが墓掃除と墓参りを終わらせて来るまでには綺麗にしておくわ」

家の裏手の方へ回っていったサフィをよそに、シアは家の正面の伸び放題の雑草を見渡す。
この伸び具合だと、数年はほったらかされていたに違いない。
とりあえず、魔法で抜くにしてもまずは範囲を指定しなければとシアは端から端までを改めて見渡して、大方の範囲を割り出した。

「ほいっ」

範囲を指定して草抜きの魔法を使うと、その範囲だけの草がいともたやすく抜かれ、一まとめの塊になったかと思えばシュッと煙が上がって一瞬で燃え尽きて灰と化し、辺りにまき散らされた。
雑草が抜かれた家の正面で、シアはパタパタと尻尾を動かしてサフィを待つことにした。

「最近全然暇が取れなくてね、今日はようやく暇が取れたのよ」

墓を掃除し終え、墓前で手を合わせながらサフィは呟く。
最後に墓参りをしたのは、数年前の初夏。
その時はたまたまアルカトラスが墓参りの事を切り出してくれたので、難なく行く事が出来たが。

「よし、そろそろ行くわ。次はいつ来れるか分からないけど」

サフィはスッと立ち上がり、その場を離れる。
家の正面では、シアが尻尾をパタパタさせてサフィが戻ってくるのを待っていた。

「うふふっ」

「ちょっと、何するのよ」

戻って来るや、シアにもふっと抱きつかれて多少動揺するサフィ。
あまりにもいきなりの事だったので、引き離そうとするが吸血鬼と吸血竜のハーフによる力をもってしてもシアを引き離すことはできなかった。
それどころか、どことなくシアから香る匂いで引き離そうとする気もだんだんと消えていき、最後は顔はむすっとしているもののシアにさせたいようにさせていた。
そのまま30分ほどもふもふと抱かれていたサフィだが

「ここじゃ何だかアレよ」

とシアに場所を移らないかと遠まわしに言う。
それを聞いて、シアはそう?という顔をしてサフィを背に乗せて飛び立つ。
背に乗せられたサフィは、その背でちょこんと座って時々髪をいじる以外は何もしない。

「そうだ」

シアは今度は何を思いついたのか、今いる北西部から中部へ向けて飛び始めた。
サフィにはどこへ行くかが大方の検討がついていたが。

「居るかしら?」

「居るでしょ、こんな暑い日に堂々と出かけるような奴じゃないわ」

「それもそうね」

シアが向かっているのは、何を隠そうゴルダの家だ。
最近、セイグリッドの方へ全くと言っていいほど来ないのでシアは心配になっていた。

「あそこよ」

「そう、あまり行った事ないから分からなかったわ」

中部へ入って10分ほど飛んでいると、眼下に広がる田舎のある場所をサフィが指す。
シアはサフィが指差した場所へと降下し、何も植えられていない畑の一角へと降り立った。
畑の少し向こうにはそこそこの一軒家が建っていて、そのバルコニーで誰かが雑誌か何かを顔にかぶせて昼寝をしているのが見えた。
シアとサフィはそのまま家まで歩いて行き、そのバルコニーで寝ている誰かをシアは尻尾でつついて起こす。

「ん、ああシアとサフィか。何か用か?」

顔から竜医関係の雑誌を取り去り、眼を覚ましたのはゴルダ。
この暑い時期にはそんなに依頼が入ってこないのか、暇を持て余してバルコニーでゴロゴロしていたようだ。
だが、シアとサフィが来てパッチリと目を覚まし、いつもの無表情な顔で二人を見る。

「セレノアは?」

「しばらくセイグリッドとリフィルでやる事があると言って6の月の終わりから居ない」

「そう」

サフィにセレノアはいないのかと聞かれ、ゴルダは煙草のようなものを吸いながら6の月の終わりから居ないと答えた。
シアは直射日光にさらされて暑いのか、体を縮小させてバルコニーの屋根の下へとやって来ている。

「何か臭わない?」

「気のせいだろ」

家の中から漂う妙な臭いに気付いたサフィは、ゴルダに鎌をかけてみたが当の本人はすっとぼけるだけでまともな返事を返さない。
その横で、シアはやたらとゴルダを撫でようとしている。

「この臭い、台所からね」

「おいやめろ」

ゴルダの制止を振り切り、サフィはズカズカと家の中へ上がる。
居間はたいして汚れておらず、しいて汚れていると言えば一人用ソファの上に積み上げられた汚れ物くらいだ。
台所もさほど散らかってはおらず、ラジオがつけっぱなしでうるさい以外はスッキリしていた。
サフィは流しのそばにあったゴミ箱を開けるや、悪臭に渋い顔をしてゴルダに

「生ごみ、捨ててなかったの?しかもこんな暑い時期に。腐ってるじゃない」

生ごみを捨てていなかったのかと聞くと、ゴルダはまあなと答える。

「堆肥製造機に入れるのすら暑くてめんどくさくてな、ほったらかしてたらこの有様だ」

「呆れた」

暑いから捨てるのがめんどくさかったと言い訳するゴルダに、サフィはため息をつく。
流石にこれ以上腐っている生ごみを置いとく訳にはいかないと、サフィはゴルダにさっさと中身を堆肥製造機に突っ込んできなさいと言って生ごみを処理しに行かせた。
サフィはその間に、ソファの上に積み上げられていた汚れ物を洗濯機に入れて洗濯を済ませる。
そんなサフィの姿を見たシアは思わず

「あなたって、一人暮らしの息子のアパートを訪ねたらだらしない生活してて、息子に喝入れるついでに家事を済ませちゃう母親みたいね」

「一応これでもドランザニア共和大学の同期で友人だからね、どうしても気になるものよ」

母親みたいと言ったが、サフィはそれに友人だから気になるのよと答えた。
その一方、腐っていた生ごみを堆肥製造機に捨ててきたゴルダが戻ってきたがサフィはゴルダに今度は風呂に入れと言う。

「そう言えばここ数日着替えぐらいしかしてないな」

「不潔ね」

鼻で笑いながらここ数日風呂に入ってないと言ったゴルダに、サフィは不潔ねと厳しい一言を放つ。
無論、ゴルダはそれにも動じずまた鼻で笑いつつ風呂場へ消えた。

「もふっ」

「また?全くもう」

サフィがようやく一息ついて、居間の床に座っているとさらに縮小して数メートル程度の大きさのシアが後ろから抱きついて来た。
正直な話、サフィは抱きつかれるなどの行為が苦手で、以前副メイド長に抱きつかれた時は重いげんこつからの本気の巴投げを繰り出したほどである。
だが、今日は相手がシアだ。
ちょっとどころではない力の差があるので、抵抗したところでまず無意味な上に始末されないにしろその気になれば確実にボコボコにされてしまうだろう。

「なんでまた今日はこんなに抱きつくのよ?いつもはしないのに」

「アルカトラスはしてくれないからね、兄妹だから気を使っているのかもしれないんだけど」

シアのふわふわした毛が、首や耳に触れて時折ビクッとすることもあるが、基本シアに身をゆだねるような感じでサフィは座っていた。

「そういえば、なんで他者と直に触れ合うのが好きじゃないの?」

もふもふされながらシアに聞かれて、サフィは少しの沈黙の後に

「私の場合はそう言う行為がトラウマと直結しているだけ、それが誰にされようとね」

抱きつくなどの行為がトラウマに直結していると話す。
シアはそうと言って、サフィの頭に自分の顎を軽く乗せる。
髪を通して、シアのふんわりとした毛の感触が伝わってくると同時になぜか甘い香りも漂ってきた。

「悪くないかも、抱きつかれるのも。だけどシア、あんた限定よ」

「変な方向に目覚めたりしてね?」

「それはないわ、断じて」

互いにもふもふしながらそんな会話を続けていると、ゴルダが風呂から上がって来て2人に茶を注いで持ってきた。
出されたのは麦茶で、グラスに大量の氷を入れて程よく冷えて飲みごたえがありそうだった。

「ずいぶんと孤独で居る時間が長いようだけど、大丈夫なのかしら?」

麦茶を飲みつつ、シアは竜医関係の雑誌を読んでいるゴルダにふとそんな話を切り出した。
ゴルダは少し雑誌から目を離し、縦に頷くとまた雑誌に目を戻す。

「大丈夫じゃないかしら?完全に引き籠って孤独という訳ではないし」

「時々しか姿を見ないから心配なのよ、ゴルダをいつも監視しているわけにはいかないし」

「監視とは人聞きの悪い」

四六時中監視しているわけにもいかないと言ったシアに、ゴルダはまた雑誌から目を離して人聞きの悪いと返す。
シアとサフィがもふもふしていちゃついているのには、ゴルダは全く気にしていない様子である。

「うらやましくないの?」

「これと言ってはだな、セレノアなら一方的に抱きついて来るし」

全く気にしていないことを不思議に思ったサフィがうらやましくないかと聞くと、ゴルダはこれと言ってはと淡々と返してきた。
これにはサフィもシアも、いつものゴルダだなと確信する。

それから1時間後。
空になったグラスに入っていた氷が溶けてずれ落ち、カランと音を立てた。
サフィとシアはもふもふしながら会話をしている一方、ゴルダはいまだに黙々と雑誌を読んでいる。
2人が出たのは昼をちょっと過ぎたぐらいの時間だったが、今の時間は日も傾いて来る時間になっていた。
と、ここで何を思い出したのか、ゴルダは雑誌を横に投げ捨てて立ち上がるや台所の方へ。

「昼の分飲んでなかったな、そういえば」

何のことだろうかと、シアは台所にいるゴルダの方を向く。
薬を飲むようだが、シアにはゴルダが持病を持っているとは聞いたことが無かった。
そこでシアはサフィにゴルダが持病を持っているのかと聞くと

「そうね、竜滅病。だったかしら?去年何気なしにルライエッタの所で検査したら発覚したそうよ、まだ発症はしてないらしいけど」

「そうか、竜滅病なのか」

一応ひ孫に当たる存在がそんな持病をと、シアは今一つピンと来なかったが竜滅病がどんな病気で逢ったかを思い出し、察した。
竜滅病は、血液感染が主な感染経路の病だ。
発症すれば足の神経から蝕まれていき、最終的には脳や心臓の神経を蝕まれて死に至る病気で、今の所は完全な特効薬は開発されておらず、抑え込む薬などで手一杯だという。

「ふう」

薬を飲んで戻ってきたゴルダを、シアはさりげなく尻尾で引き寄せて自分の横腹辺りに座らせてそのまま尻尾で撫でたりし始める。
ゴルダにはなぜシアがこんなことをするのかが理解できなかった。
だがすぐに自分が未発症ながら竜滅病であるからだと分かり、生の創造神かつ曾祖母でありながら何もできないシアが唯一できる事なのだろう。

「シア、心配することはない。俺は絶対にこの病に打ち勝つ」

「そうであって欲しいわ、もし竜滅病に負けたら許さないわよ?」

「俺とて男だ、約束は守る。親父と母さんの分も生き抜いてみせるさ」

竜滅病に打ち勝つと約束しろとシアに言われ、ゴルダは煙草のようなものに火を付けてシアの毛に灰を落とさないように注意しながら約束は守ると答えた。
それを聞いたシアは、ふふっと笑って尻尾で撫でると見せかけてむぎゅっと横腹の毛の中へ押し込む。

「ぶっ」

いきなり押し込まれたゴルダは、慌てて煙草のようなものの火を手で握りつぶして消した。
その際に、火の粉と灰が若干シアの毛にかかったが何とも無いようだ。

「お前はなんでこんな匂いがするんだろうな」

「どうしてかしらね」

抱きつかれたまますやすや寝ているサフィに対し、横腹の毛の中へ押し込まれた状態で酒を片手にゴルダはふと呟く。
毛を持つ竜は、その9割が独特の獣臭さを持つと言われているが、中にはシアのように特定の匂いを持つ竜が少数ながら存在する。
その多くは草食性で何かと香りを発する植物を主食としているか、果物や甘い木の実などを主食としている事が多い。
一応、シアやアルカトラスのような存在の竜がなぜいい匂いがするのかという論文もないことはないが、全てそう言う存在だから、高位な力がそういう匂いを出すようにしているなどの結論が出ているに過ぎないのだ。

「もふもふ?」

「ああ、だがあまり押し込むのはやめてほしいな」

夕刻の時間がゆったりと過ぎていき、やがて夜が訪れる。
夜になってからも、ずっとそのままの体勢を続けている内にシアもゴルダもぐっすりと眠りに就いていた。
逆に起きたサフィは、その2人の寝顔をちらりと見るとこっそりと夕食の支度をし出す。
昼寝をしたまま起きない息子を見守りつつ、食事を作る母親のように。
真夏の終わりは、もう近い。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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