氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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初夏の墓参り

セイグリッドの万年桜が花を咲かせ終わらせ、緑に染まり始めた五の月。
だんだんと暑くなる中、城のある場所に建てられている墓の前で国王でもあるアルカトラスが墓前で手を合わせている。
この墓に眠るのは、他でもないアルカトラスの妻キルファとその一人息子ロドルフォにその妻エルナ。
妻のキルファは、年による病死。一人息子であるロドルフォとその妻エルナは、ロドルフォが掴んだある情報が原因でドランザニア政府の闇の組織に葬られた。
ロドルフォは不死能力を持っていたのだが、どう言うわけか殺された。
これを裏で賢竜たちに調べさせたところ、シアとアルカトラスの力を何らかの要因で強く受けて生まれた聖子(ひじりのこ)と呼ばれる者の仕業である事が分かっている。
だが、それ以上の事は分からず。結局犯人も捕まらずじまいで終わっているが。
アルカトラスはロドルフォの訃報を聞いた時、キルファが死去した時以上に悲しんだと言う。
それもそのはず、ロドルフォはアルカトラスのただ一人の子供だったのだから。
アルカトラスは司法解剖を済ませたのち、ロドルフォとエルナの遺体をセイグリッドへ運ばせ。そこで葬儀をあげてキルファと同じ墓へ埋葬した。
ちなみにロドルフォの息子であり、アルカトラスの孫であるゴルダを含めた3人は、現在ゴルダを除いて行方が分からない。
これもまた、アルカトラスの取れない心配の種であることに変わりはない。

「ちょうど、初夏のころだっただろうか」

そう、ロドルフォとエルナの訃報が入ったのはもはや何年前かは分からないが、今日のような初夏の暑い日だった。

「暑いな」

風神の扇を尻尾に持ち、自分へかなり軽く扇ぎがらアルカトラスは仕事をしている。
セイグリッドの夏は早く、この時期に梅雨に入るスリュムヴォルドからの湿気がこちら側へ伝わってくるので蒸し暑くて雨も降りやすい初夏を五の月から六の月にに迎える。
ちなみに今日はとても蒸し暑く、夕方にかけて雨が降ると言われていた。

「仕事もろくすっぽ出来ぬな」

風神の扇で自分を扇いでも、一向に涼しくならないのでアルカトラスは仕事の手を止めてそばにあった麦茶を飲もうとする

「しまった、割ってしまったか」

がしかし、麦茶が入っていたグラスを床へ落して割ってしまう。
何だかなと修復魔法でグラスを元に戻し、メイドを呼んで新しく淹れさせようとしたが突然謎の寒気を感じて止める。

「嫌な予感がするな、何も起こらねばいいが」

アルカトラスがそう呟いた直後だった、メイドではない従者が慌てて部屋へ入って来た。
何事だとアルカトラスが聞く前に、従者は

「こ、国王陛下…訃報が入りました。陛下の息子のロドルフォとその妻エルナが何者かに殺されたとの事です」

ロドルフォが死んだ、アルカトラスはそんな馬鹿なと思いながら従者に

「それは本当なのか…?」

確認の意を込めて聞き直す。
従者は頷くとさらに

「ちなみにこの情報は、聖リフィル王国のアルガティア女王陛下より入りました」

この情報は聖リフィルのアルガティアから入ったと説明する。
一瞬、アルカトラスの頭の中は真っ白になった。
何にせよ、妻のキルファが逝去した時以上の衝撃とショックが覆いかぶさってきたのだ。
だが感傷に浸ってばかりはいられない、アルカトラスは従者に二人の遺体はどうなっているのかを聞く

「現在、賢者の竜の里で検死をしているそうです。終わり次第納棺してこちらへ連れてくるとの事でした」

検死が終った後にこちらへ納棺されて連れて来られるとの事だったので、アルカトラスは従者に

「葬儀の手配を、妻のキルファの時と同等のものを」

キルファの時と同等の葬儀を手配しておくように言い、無言で仕事へ戻る。

「承知しました、お悔やみ申し上げます」

仕事に没頭するアルカトラスにそう声をかけ、従者は部屋を後にした。
現実逃避はしたくないがせめて今は考えたくはない、そんな気持ちでアルカトラスは仕事を続ける。
その日の夜、アルカトラスの配慮したのかどうかは分からないがメイドと従者たちは食事をとれとは言わずにそっとしていた。
もちろん、アルカトラスもあまり食欲が無いので風呂に入って寝てしまうことにした。

「…」

無言で風呂の湯に浸かるアルカトラス。
浴場の中で聞こえてくるのは、汲み上げられている温泉の湯が流れ出てくる音のみ。
そして、時々アルカトラスが湯を垂らす音がするくらいだ。

「ロドルフォ、どうしたと言うのだ。汝は不死能力があったはず」

かつてロドルフォが生まれた時、シアに不死能力があると言われたアルカトラスは賢者の竜達にそれを調べさせた。
結果的に、主神アルシェリアがやらかしたことであることが分かり、アルカトラスはアルシェリアと口論になってその時最初で最後の怒りをあらわにた。
怒ったアルカトラスは、アルシェリアと絶縁して高次元世界との関係をも完全に遮断してしまったという。
やがてロドルフォは結婚して妻との間に三人の子供を持ったが、その子供にも不死能力は遺伝していた。
これに疑問を抱いたアルカトラスは、賢者の竜に三人の子供を含めて調べるように頼む。
結果は、この不死能力は遺伝してしまうとの事だった。

「能力を打ち破る力と言うのはほんの一握り、シアの『構造』を書き換える能力がそうだが」

そう頭の中で呟きながら顔を前足で拭うと、アルカトラスはここである事を思い出した。
それは聖子(ひじりのこ)と呼ばれる、何らかの要因で自分とシアの力の影響を大きく受けた者達の総称。
あまり詳しくは調べられてないが、自分とシアの能力などを場合によっては使える可能性もあるとされていた。
それが本当なら、シアの能力を持った聖子が居てもおかしくはないはずである。

「ぐぅ」

考えるのこの辺にして、さっさと寝ようとアルカトラスは湯から上がって犬のように体を震わせて水気を飛ばす。
浴場を出たアルカトラスは、そのまま部屋へ戻って寝た。
翌日、検視結果と共にロドルフォとエルナの遺体が納棺された状態でセイグリッドへ連れて来られた。
その際、ロドルフォの三人の子供であるゴルダ、バハムード、サマカンドラも共にセイグリッドから来ていた。
三人とも親が亡くなったにも関わらず、淡々とした状態で居た。

「『俺とエルナが死んでも泣くな』親父から生前散々言われてたことだ」

「ああ、言ってたな」

「言ってたわね」

アルカトラスの部屋で話をしている時に、三人は口をそろえて言う。
アルカトラスはその横で検死結果を読んでいた。
検死結果には、エルナは普通に殺されたとあったが、ロドルフォは何らかの力で不死能力を無効化された上で殺されたと記されている。
検死結果を読み終えたアルカトラスは、三人に明日ロドルフォとエルナの葬儀を執り行うと伝え、火葬で埋葬するのでそれまでに最期の別れをするように言った。
ドランザニアでの埋葬法は土葬と火葬と鳥葬ならぬ竜葬があるが、その割合は土葬から順に五分三分二分である。
ちなみに、キルファの葬儀の際も火葬で埋葬している。

「申し訳ない、わざわざ来てもらえるとは」

「一応はあなたの息子でしょうに、行かないわけにはいかない」

今アルカトラスが話しているのは、風水竜王国スリュムヴォルドの女王エルフィサリド。
ロドルフォの死を聞きつけ、逸早くセイグリッドへやってきたのだ。

「葬儀は明日だ」

「分かった」

葬儀が明日であることを聞くと、エルフィサリドは一旦国へ帰って行った。
エルフィサリドが帰った後、アルカトラスが二人の棺が安置されている場所へ来ると

「これはスリュムヴォルドにしかないミズウミキクか」

献花用の台に、アルカトラスの両手に抱えられるほどのミズウミキクが献花されていた。
どうやらエルフィサリドが献花したらしい。
一応の国王の息子という事もあってか、セイグリッドの民たちも二人に花を献花したり手を合わせるなどのことをしてくれていた。
キルファの葬儀の時と、同じ光景である。

「弔う気持ちと言うのは、実に大切なものだ」

独り言のように呟き、アルカトラスは葬儀の予定を確認するためにある従者の所へ。

「各国代表の献花が終わり次第、シア様の鎮魂の詩の後に火入れです。その数時間後に収骨と納骨を行います」

「分かった、それで問題はない」

そして葬儀の予定を確認した後、再び二人が安置されている場所へ。
さっきより献花された花が増えて献花台が増設され、花の香りが充満している。
するとそこに、薄いグレー系統の体毛を持った竜が献花に訪れていた。

「お悔やみ申し上げる、なのね」

「いや、献花に来てもらえるだけでもありがたい」

この竜の名はアワパラゴン、地竜国アストライズの国王だ。
ちなみに、性別不明である。

「悪いけど葬儀は出られないのね」

「献花だけでも十分」

二三言話した後、アワパラゴンは失礼するのねと言って帰った。
アルカトラスはふうとため息をついて、献花者名簿に目を通す。
葬儀の予定を確認している間に、アルガティアと氷竜国リヴァルスのリヴァイドが来ていたようだ。

「アルカトラス」

不意に後ろから声を掛けられてアルカトラスが振り向くと、そこには花と酒を持ったムサヅキとその知り合いの妖狐の三姉妹が居た。
どうやら一緒に献花に訪れたようだ。

「ん、ああ。紫月三姉妹も一緒か、手を合わせてやってくれ」

「お悔やみ申し上げます、アルカトラス様」

と言って頭を下げたのは、紫月三姉妹の長女の藍。それに次いで、次女と三女の氷雨と未帆も頭を下げた。
ムサヅキは頭を下げずにその場に持ってきた神酒を置いて

「供えておいてくれないか?それと、少し話をしようではないか」

「少し待ってろ」

アルカトラスは、ムサヅキが持ってきた神酒を献花台の横にこれまた増設された供え物台の上へ置く。
神酒を供え物台へ置いたアルカトラスは、何かををぶつぶつと呟く三姉妹を後目にムサヅキとその場を離れる。

「とてつもない不幸だったな、キルファが亡くなってまだ十年も経ってはいないのだろう?」

「立ち止まってばかりはいられぬ、我は国王にしてこの世界の管理者。そして主神。為すべきことはこれからも為さなねば」

城の中を、アルカトラスとムサヅキはロドルフォとエルナの事を話しながら並んで歩く。
しばらく歩いて行くうちに、アルカトラスとムサヅキはシアが日ごろ生活している塔の近くまでやって来た。

「はぁ…」

アルカトラスは塔を見上げて深いため息をつく。
既にシアの耳には二人の訃報は入っているだろう、なぜならシアは生の創造神であり管理者なのだから。

「しかと耳に入っているぞ、アルカトラス」

「む、背後に立つでない」

いつの間に後ろに立っていたシアに気付いて、アルカトラスは渋い顔をする。
表情はいつもと変わりないが、その眼だけは何とも言えない雰囲気を醸し出していた。

「私は明日の準備がある、また夕食時に」

ムサヅキとアルカトラスにシアはそう言うと、座標指定テレポートで消える。
これ以上することもないだろうと、ムサヅキとアルカトラスは城へ戻ることに。

夜、未だに献花者が絶えない二人の安置所でアルカトラスは夕食を終えてから日付が変わって寝るまでずっと傍にいたという。
その翌日、葬儀は昼からであったが駆け込み的に献花者が訪れ、アルカトラスは対応に追われた。
献花は昼前に閉められ、アルカトラスは昼からの葬儀のためにメイドに毛を梳かしてもらって備える。
葬儀自体は一時間ほどで終わり、火葬のための火入れには百人単位が立ち会い、ゴルダが火葬炉の火を入れた。
火が入れられた炉は、一瞬炎が激しく燃え上がるような音を出して再び沈黙を取り戻して煙突から煙を立ち上らせるだけとなった。
以降は身内と生前の二人と親しかったものだけが残って収骨を行い、墓へ納骨を済ませて葬儀の全日程は終了。
それ以降は毎年この月を命日ではなく命月として二人の供養をしている。

「ふっ…」

そして現在、また今年も命月が訪れ。アルカトラスは二人に手を合わせている。
今日はあいにくゴルダが来ていないが、五の月の間には来るだろう。
なぜなら、親の命月なのだから。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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