氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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大狼神の暇つぶし

秋の深まるドランザニア、裏の大陸も秋を迎えている。
そんな裏の大陸の一国に犬神国ムサヅキという国がある。
日本と同じ文化や風習を持ち、犬と狐と狼を神、あるいはその使いとして崇拝している国だ。
そんな国の、紅葉で染まったある山に1匹の大狼神の肩書きを持つ狼が住んでいる。
白と銀の毛に紫の目、微妙に長い2つの尻尾。名はこの国の名を取ってムサヅキと言う。
本名はあるらしいが、自身すらその名を忘れてしまったという。

「むぅ…」

「こんなに紅葉が綺麗なのに、人間どもはつくづく勿体ない事するぜ」

「我の性格がすべて悪いのだ…」

紅葉が一望できる場所から、ムサヅキは数少ない友人の八咫烏と紅葉を楽しんでいた。
この風景は、毎年恒例でその度にムサヅキはしょんぼりしている。
それもそのはず、ムサヅキの性格は人里に暮らす人間だけではなく。九十九神達からも読みにくく何を考えているか分からないので怖いと言われている。
ムサヅキ自身はそんなつもりはないらしいが、口々に言われるのでムサヅキは認めざるを得なかった。
しかし、そんな性格を唯一理解しているのがこの八咫烏である。
こちらも似た者同士で、あまりにも悪知恵を働かせるので煙たがられていた。

「少し、別の国にでも行ってみたらどうだ?何か変わるかもしれないぞ」

八咫烏に言われ、ムサヅキは少し考え込む。
大狼神ももはや肩書き、仕事と言えばこの国の行く末を静観し、見守るだけ。
気晴らしにはいいかもしれないなとムサヅキは思い

「ではちょっと行ってくる」

といきなりその場に妖力で時空に裂け目を作り出し、どこかへ行ってしまった。
それをやれやれと言う顔で八咫烏は見送り、帰る事にした。

「っと…随分と田舎だな、ここは確か…ドランザニアか」

ムサヅキがやって来たのは、ドランザニア民主共和国中部。
丁度ゴルダが住んでいる付近だ。

「確かアルカトラスの孫がこの辺に住んでたはずだが…」

少し前に来ていたアルカトラスからそんな話を聞いていたムサヅキは、その場所を探しだす。
ちなみに、妖術で姿は見えないようにしているので騒がれる心配は無い。
その頃、ゴルダはというと

「たまの休日も悪くないな」

家のバルコニーで煙草のようなものを吹かしながらくつろいでいる。
セレノアは出かけてて居ないので、家に居るのはゴルダだけだ。

「さて、今のうちにアレを…」

とゴルダは家の中へ入った。
その様子を見ていたムサヅキは、ほとんど収穫が終わってがら空きの畑の中へ飛び込む。
多少自分の足跡を付けてしまったが、ムサヅキは気にしない。
そして、そのまま待機する。

「あいつが居るとまともにこれも書けやしねぇぜ」

と言って、ゴルダが持って来たのはノートパソコン。
何をしているのかは分からないが。
数十分ほどいじっていると、急にゴルダは畑の方を見る。

「ん?異様にでかい足跡が…」

畑にあった足跡に気付いたゴルダはハンドガンではなく山刀を取り出してその足跡の方へ近付く。
この時、まだムサヅキは妖術を解除していない。

「結構でかい狼だなこりゃ、しかしこんなサイズがここら辺に住んでただろうか」

とゴルダは首をかしげながら足跡を調べる。
収穫は全て終わっており、耕してもいないので足跡などどうでもいいと言う考えなのでその面では気にしない。
しかし、よく足跡を見ようと近付いたところ。何かふさふさした物体に阻まれて近付けない。

「おかしいな、何か居るのか?」

ゴルダは山刀の背でその物体を叩いてみるが、反応は無い。
どうなってんだと思いつつ、今度はもふもふと触ってみる。
すると、その物体は若干の反応を見せた。

「おい、正体表せ」

「言われなくとも」

謎の物体は、ゴルダの前にその正体を現す。

「ほう、お前がアルカトラスの孫…」

ムサヅキはゴルダをまじまじと見る、武器こそは持ってるがあまり警戒はしてないようだ。

「でかいな、お前」

「8メートルほどある」

「なるほど、そりゃでかい訳だ」

普通の者ならば、警戒したり逃げ出すはずなのに。全く動じない。
アルカトラスから聞いていた、図太い性格は間違いではなかった。

「話は聞いていたが、おかしな奴だお前は。あまりにも動じなさすぎる」

ムサヅキが言うとゴルダはそれが俺だと言い返す。

「やめろ」

正面に回ってきたゴルダの顔を、ムサヅキは舐め上げたがやめろと手で押しのけられる。

「んで、何の用だ?爺さんからは色々聞いてたが…読みにくい性格らしいな。せいぜい問題起こさんでくれよ」

顔を拭きながらゴルダはムサヅキに言う。
ムサヅキはそれを聞いて冗談半分に

「そうだな、ここに紅葉の落ち葉を山積みにしてやろうか?」

と言う。
するとゴルダはどこからかサツマイモを引っ張り出して来て

「いいだろう、やろうじゃないか」

焼芋をやる気緩慢の様子で言う。
ムサヅキはどうなっても知らんぞという顔をし、妖術でどこからか大量の落ち場を集めた。
その量は、2人が見上げられるほどの量だ。

「集め過ぎたな」

「いや、十分だ」

そんな話を交わし、ゴルダは火起こしの準備をする。
ムサヅキはその間尻尾を揺らしてその様子を見ていた。
その間に、どこからともなく近所の者や近くの山に住んでいる竜などが集まって来た。

「なんか増えてないか?まあいいや、俺とお前じゃ食いきれないほどあるしな」

と言って、ゴルダは火が付いた着火剤を落ち葉の山の中へ放り込む。
それと同時に、落ち葉が勢いよく燃えだす。

「よし、焼いてくぞ」

そう言って、ゴルダは火の中へ芋を放り込む。
何故こんなに集まって来たのかというと、実はムサヅキが妖術でおびき出したせいだが。ゴルダは全く気付いてない。
畑の真ん中で落ち葉が煙をもうもうと上げて、芋を焼く。
かなり火に近い位置に居るのも関わらず、ゴルダは平然とした顔で火傷もせずに芋を焼いている。

「どうだ、どれくらいで焼ける?」

ムサヅキは早く焼芋が食べたいのでゴルダに聞く

「時間掛かるぞ、時々串を通して火加減を見ないといけないからな」

ゴルダは時間がかかるとだけ返事を返し、芋の焼き加減を1つづ丁寧に調べて行く。
集まって来た者たちは、暇疎にしていたりムサヅキを触ったりして遊んでいる。
ムサヅキはそれを気にせず、させたいようにさせる。
さすがに体に上って来てもふったりするのには渋い顔をしたが。

「なあなあ、これもやろうぜ」

獣人がムサヅキにどこからか持って来た魚の干物を差し出して言う。
これまたうまそうだと思ったムサヅキは獣人に

「1匹よこすのだ」

と言う。

「まあ、いいですけど…」

獣人はムサヅキに干物をすんなりと差し出す。
ムサヅキは干物を差し出されると、そのまま一口で食べてしまう。
悪くない味だったので、ムサヅキはゴルダに

「悪くないな、ゴルダ。この干物もやってくれんか?」

と先ほどの干物を差し出すが、ゴルダは

「勝手にやってくれ、芋を焼く邪魔にならない程度にな。他の奴らにも言え」

とムサヅキに言う。
ムサヅキがそれを他の者達に言うと、集めて来た落ち葉や薪を勝手に使って個々であれこれ焼きだす。
それを見てムサヅキは

「まあよいか」

の一言で片づけた。
そしてゴルダが芋を焼き始めて40分ほど経過した頃

「おい、最初のが焼けたぞ」

ゴルダが最初に焼けた芋を火の中から出すと、餌に群がるピラニアのように一斉に集まって来て。一瞬で無くなる。
早すぎるだろと心の中でツッコミを入れながら、ゴルダはさらに芋を追加する。

「しかし、この家の敷地は広いな」

「まあな、畑がほとんどだ」

他愛もない話をしていると、セレノアが帰って来た。

「あら、たいそうな客の数ですこと。で?あんたはなにやってんの?」

あちこちで焚火をしている者たちを見てセレノアはゴルダに言う。
ゴルダはまだ3分の2は残っているサツマイモの箱を指して

「焼芋だ」

とセレノアにぶっきらぼうに言う。
セレノアはそのサツマイモを見て

「ねえねえ、これ全部焼芋にしちゃダメよ。来年植える種芋もこれから使うんだから」

と言う。
ゴルダは分かったと背を向けたまま返事をした。

「で、あなた様の名は?私はセレノア、それにしても随分立派な毛ね。手入れしてる?」

やれやれと言う顔をしながらセレノアはムサヅキに名を聞く。
ムサヅキは毛の事を聞かれて

「いや、手入れは全くしとらん。我はムサヅキ、見知り置きを」

自らも名を名乗る。
そして、そんなこんなで芋を3分の1残して謎の集会は終わった。
ゴルダが燃えカスの始末をしている間、セレノアはずっとムサヅキの毛の手入れをしていた。

「本当に手入れしてないの?してない割には綺麗すぎるんだけど」

「生まれてこの方、1度もやったことはない」

「そうなの、しっかし不思議ねぇ…」

1度も手入れをしていないのに、毎日手入れをしているかのように綺麗なムサヅキの毛にセレノアは首をかしげる。
何か術でも使っているのではとこっそり調べるもそんなことは無かった。

「不思議でたまらないわ…」

「我にも分からんよ、蚤はひっ付くがな」

蚤と聞いて、セレノアは蚤殺しの薬を取り出してムサヅキの全身に振り撒きだす。
すると、ポロポロと大量の蚤の死骸が落ちて来た。
ちなみにこの蚤殺しの薬、サフィが調合した即効性のものである。

「これでしばらくは付かないわ」

「ふむ、便利だな」

「でしょ?」

そうしている間に、ゴルダは燃えカスの片付けが終わったようだ。
しかし、ここでムサヅキは

「おっと、そろそろ帰らねば」

「もう帰るのか、また来いよ」

「無論、ではな」

ムサヅキはその場にスキマを開けて帰ってしまった。
この日はこれで終わったのだが、その翌日。

「っと…冬が来る前に畑を耕さねば」

昨日休んでいた分、ゴルダは畑を耕していた。
燃えカスを畑の土に混ぜ込み、休作の準備を進める。
しかしそこへ

「また来たぞ」

とムサヅキが時空の裂け目から現れた、それもゴルダの真上に

「ん?どこ行った?」

「お前の足元だ…」

ムサヅキがふと足元を見ると、ゴルダの頭が畑の土に完全に埋まっていた。
これは失礼とムサヅキが足をどかすと、ゴルダは土の中から頭を引き抜いて髪に付いた土を落とす。

「出てくる時は、位置と場所を確認しようか?」

「すまんすまん、詫びに畑を耕すのを手伝おう」

と言って、ムサヅキは前足で深々と土を掘り起こす。
その深さにゴルダはムサヅキに

「深すぎな上に掘り起こし過ぎだ、何かを埋葬するんじゃないんだからな…まあいいさ」

ここまで掘り起こしてしまった以上は、この深さを維持して耕そうと考えたゴルダは

「この深さで掘り返し続けてくれ、後は俺が戻す」

深さを維持したまま掘り起こすように言い、ムサヅキに後を任す。
それに調子に乗ったムサヅキは、次々と畑を深々と掘り起こして行く。

「やれやれだぜ」

その後からゴルダが後を追って土を戻して行った。
これ以降、ムサヅキは何かある度にゴルダの所へ来るようになったと言う。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

風癒竜との日常

ドランザニア民主共和国中部、都市が発展している南部と違い。ここはすごく小さな町がいくつかある程度。
ほとんど田舎状態の中部某所にそこそこ大きな畑を構えた民家がある。
そこに住んでいるのは、半人半竜の男と風癒竜。
風癒竜とは、その骨までもが余すことなく薬となり。また風の魔法と癒しの魔法に長けた種族でもある。
しかし現在では、それを狙った者達に多数が狩られて絶滅寸前にまで数が減り。光竜王国セイグリッドで保護されているという。
なぜこの男の元に風癒竜がいるかというと、ある依頼で行った山で偶然出会った。
しかし、その依頼主が実は風癒竜を狙っていたので男がそれを阻止し。風癒竜は男に付くようになり、現在の相棒という関係になっている。

「おはよ」

「ああ、おはようセレノア」

桃色と白い毛に桃色の目、体に羽を持つ竜が起きて来た男に言う。
男はその竜をセレノアと呼んでおはようと返す。

「あー、今日はそんな仕事ないな。依頼もほとんど片付いてるし」

男は依頼のリストをチラリと見て言った。
男の名はゴルダ=アルカトラス、ドランザニア共和大学を卒業後、謎の空白の時間を過ごし、現在はこの中部某所の民家で何でも屋と竜医の診療所をして生計を立てている。
今はセレノアが居るもほとんど1人暮らし同然の状態なので、生活に余裕はある。

「さて、今日はどうするか」

まだ終わってない依頼のリストを見ながらゴルダは言う。
残っているのは2つ、どちらも畑の収穫手伝いだ。
1人でもできる仕事なので、そそくさと朝食を取ったゴルダは準備をして

「んじゃ、行ってくる。留守番頼むぞ」

「ええ、行ってらっしゃい」

こうしてゴルダは出かけて行った。
家の残されたセレノアは、ゴルダが居ない間に掃除を始める。

「暇してるなら自分の部屋以外も掃除すればいいのに、全くもう…」

ゴルダは自分の部屋以外は、気が向いた時にしか掃除しないのでそこそこ汚れている。
当初、セレノアがやってきた時の汚れっぷりは呆れる程だったとか。
そして台所を掃除していると、何者かが家の扉を叩く。
誰かしらとセレノアが出る。
するとそこには紫の髪に赤い目でメイド服姿の女が荷物を大量に持って立っていた。

「どちら様?」

多少警戒するようにセレノアは聞く。
女はそう聞かれて

「ゴルダの親友よ、上がっていいかしら?」

ゴルダの親友と答えて上がっていいかと聞いて来る。

「どうぞ」

ゴルダの親友なら信用するに値すると思い、中へ入れる。

「ああ、名乗って無かったわ。サフィ=アルヴォールドよ」

女はサフィと名乗った。

「よろしく、私はセレノアよ」

それにセレノアも名乗り、また掃除へ戻る。
その頃、サフィが来ている事を知らないゴルダは収穫手伝いに集中していた。
今収穫しているのは、ジャガイモなどの根菜類。
出荷されるものでもあるので、慎重に掘り出さなければならない。

「やっと半分か、やれやれ」

ゴルダはそう言って汗をぬぐう、畑が広いので依頼主の獣人夫婦だけではかなりの日数を要する。
ちなみにその息子達は皆して南部に行ってしまって居ない。
そのため、定期的にゴルダが手伝っている。

「さて、残り半分もさっさと終わらすか」

手の骨を鳴らし、ゴルダは残り半分にも取り掛かる。
その頃、サフィとセレノアはというと。

「へえ、そうなの」

「あんたも大変ね」

2人して自分の今までを語っていた。
一見お互い友好的そうだが、本心は2人して疑いを持っている。

「まあいいわ…」

サフィはそう言って、テーブルの上へナイフと手入れ用の道具を出してナイフの手入れを始める。
もう話す事は無いのかと判断したセレノアは掃除の続きに戻った。

「御苦労さん、また頼むよ」

「あいよ」

そう言ってゴルダは次の場所へ向かう。
今度はあれこれ竜を多頭飼いしている家だ、ゴルダはあまりここに来たがらない。
なぜならば、来るたびに無傷では帰れないからだ。

「この間は胸のあたりをザックリ、今日はどこだろうな…」

そんな事を言いながら今日の依頼を聞くために敷地へ入る。
ここに住んでいるのは、一見普通の竜使い。そう、多頭飼いをしている以外は。

「おう、よく来たな。早く早く」

竜使いに言われてゴルダは駆け寄る

「んで、今日はどんな仕事だ?」

ゴルダは雰囲気的にこれが必要かと治療道具を出して調べながら聞く。
竜使いは少し慌てたように

「あいつらがまた昨日喧嘩してな、両方とも深手の傷負っちまった」

と言う。
それを聞いてゴルダは

「あれほど喧嘩するなら分けておけと言っただろ全く…」

呆れたようにゴルダは言うと治療に取り掛かる。
もちろん、1人で何とかしないといけないのでやはり治療を終えることには傷だらけになった。

「いいか、今度また同じ状態で飼ってたらもう治療しないからな」

今日は肩を引っ掻かれ、応急処置もしないままほったらかしているので血が垂れている。
竜使いははいはいと頭をヘコヘコと下げてゴルダを見送った。

「ただいま、ああ来てたかサフィ」

「大丈夫なのその傷?」

帰宅するや来ていたサフィに聞かれてゴルダは

「大丈夫だこれくらい」

と言って部屋へ行く。
その傍らでセレノアは床に垂れていた血を吹き始める。
サフィは何やらそれを勿体ないという目で見ていた。

「ったく、喧嘩するようなら分けろと言ってもあいつは聞かないからな。くっそ…」

傷に薬をかけながら、ゴルダはぶつくさ言う。
それもそのはず、あの竜使いは再三度言っているにもかかわらず口だけで行動に移そうとしないからだ。
そろそろ最終手段でも講じてやろうかとゴルダは思っている所だ。

「これでよし…」

ゴルダはそう呟いて部屋を出る、居間ではサフィが何本あるか分からないナイフ手入れしている。
セレノアはゴルダが普段やってない所の掃除を続けていた。
これは話しかけづらいと思ったゴルダは傷などお構いなしに風呂の準備をする。

「後は湧くのを待つだけか」

外で煙草のようなものを吸いながら湯を沸かすゴルダの側へ、セレノアがやって来た。
無論、いつものようにもふっと抱き付いて来る。
セレノアはこれでも体長が5メートルほどあるので、ちょっとでもバランスを崩せばゴルダは簡単に押し倒される。
ゴルダもそこまでヤワではないので、それはあまりありえないが。

「またこんなに傷負って来て、防具装備するとか対策なさいな」

「どうでもいいだろ、俺の自由だ」

「んもう、全く…傷出して」

セレノアに傷を出せと言われ、ゴルダは傷を出す。
肩から背にかけて左下へ向けて付けられた引っ掻き傷が生々しい。
セレノアがその傷を前足でなぞると、傷はそこから癒えていく。

「いっつも無茶して、ゴルダが信用できるし強いから付いて来てるって事忘れて無い?」

「分かってる、それは肝に銘じてるさ」

いつもの小言を食らい、ゴルダは適当な返事をした。
そして、いつの間にか湯が沸いているので入ろうとするゴルダだが

「あいつ…」

脱衣場に脱いで置かれていたメイド服を見て、ゴルダはやれやれと言う。
サフィに先に入られていたのだ。
さすがに混浴する気は無いしそれほど風呂場は広くは無いのでゴルダは部屋へ戻った。
床に垂れた血を掃除し、ベッドへ寝転がると

「どうせ飯まで時間あるから寝るか」

そのまま目を閉じて寝てしまう。
それから数時間後、なぜか部屋へ入って来たサフィに頬を引っ叩かれてゴルダは目を覚ます。

「飯」

「言わずとも」

ゴルダは起き上がって居間へ向かう。
居間ではセレノアがサフィを何なのこいつという目で見ている。
それもそのはず、テーブルの上にはサフィが作った料理が並んでいるのだから。

「…これ嫉妬してるぞ、絶対」

2人に聞こえないようにゴルダは言う、これが2人の対立の引き金になるとはまだ知らないが。
サフィは数日だけ泊めてほしいと言っていたので、大した問題にはなるまいとゴルダはタカをくくる。

「まあ、悪くは無い…な」

と感想を漏らすゴルダだが、セレノアが嫉妬と怒りの目付きで2人を見ているのでゴルダは控えめに言う。
それでもセレノアの態度は相変わらずだが。
これはとっとと部屋へ籠ろうと、さっと食べ終えたゴルダは部屋へ戻る。

「あいつがあんな態度とったのは初めてだな、やれやれ」

読みかけの小説を開き、読みながらゴルダは言う。
一緒になって以来、あんな態度は見たことが無かった。
何度か難色を示したことはあったが…。

「まあ、何も起きなければいい…?」

などと言っていると、急に居間のほうが騒がしくなる。
何かと思って、チラッと居間を見るとサフィとセレノアが戦闘態勢になって互いに身構えていた。
ゴルダは見なかった事にしようとそっと部屋の扉を閉める。

「あー、うるせぇ」

ベッドに入って寝たふりをしていたが、居間の方からする音で寝ようにも寝れない。
しばらく音が続いた後、窓が割れる音がして家の中が静かになる。
どうなったんだと、ゴルダが居間へ行くと

「これはひどい」

台所などが盛大に荒らされ、窓もほとんど割れている。
ゴルダはため息をつきながら、それらを片付けて元に戻す。

「まあ、サフィの奴は本気で殺しにはかからないだろう。風癒竜の事知ってるしな」

外で2人とも暴れているのだろうかと心配したが、互いに本気で殺し合うようなことはしないだろうと言う楽観的態度で考える。
片付けている最中、外が色々と騒がしかったが無論気にしていない。

「朝になったらまた荒れてるなんて事が無けりゃいいが」

と言って、部屋へ戻ってその日は寝た。
しかし翌日、気になって外へ出たゴルダの前には

「おいおいおい…」

とことん荒らされた畑が広がっていた、所々ナイフや羽が土に刺さってるあたり2人の仕業なのは明らかだ。
ところが2人はどこにも居ない。

「どこ行ったんだ?あーあー、全く…こんなの取っても美味しくないんだがな」

掘り起こされたニンジンなどを集めながらゴルダは言う。
そして、朝食を1人で作っているとどこ吹く風で2人が帰って来た。

「よくもまあ、畑荒らしてくれたな…」

「あら、悪かったわね」

「暗かったし、仕方ないでしょ」

「まあいい、気を付けてくれ」

そんな会話を交わし、朝食を取る。
この日は依頼も何もないので、珍しく休みの日だ。
ダラダラしているゴルダにセレノアがメモをぐいと押し付けた。

「買い物」

「ああ、そうか。今日はお前だけで行って来い」

ほんの冗談のつもりで言った事を真に受けたセレノアは

「調子乗るんじゃないの」

と言って、前足でビンタを食らわせる。
人あらざる者のビンタ故に、その威力は桁違い。それをもろに受けたゴルダは窓を割って外まで吹っ飛んだ。
それでもゴルダは平然とした様子で立ち上がる。

「威力上がったなお前」

動じない態度でそんな事を言うゴルダにセレノアはさらにもう一発食らわせた。
今度は台所の方へ突っ込んで、サフィが何やってんのよという顔で見てくる。

「分かったよ、行くぞ。サフィは留守番頼む」

ゴルダはサフィに留守番を頼む。
2回もビンタを食らっても平気な様子のゴルダを、サフィはおかしいとでも言いたげな目をして頷いた。
そんなこんなでゴルダとセレノアが来たのは、中部でも大きめの町。
家から普通に歩いてくれば日が暮れるような距離なので、移動呪文を使って来ている。
なぜかセレノアはゴルダを乗せたがらない。
理由を聞いても、ただめんどくさいからとしか答えないとか。

「まあ、今日は少ないな」

「そうね」

そんな会話をし、買い物を終わらせて2人は帰宅する。
帰宅すると、サフィが洗濯物を終わらせていた。

「溜めすぎ」

「悪い悪い」

こんな話も、セレノアはプチッと来ていたが抑え込んで表に出さずに済んだ。
こんな些細なことでプチッと来るのは、独占欲が強いからだろうか。
ゴルダはそれに気付いてないが。

「ああ、明日の朝で私は帰るから」

サフィの一言に、セレノアは邪魔者がやっと居なくなると思った。
正直、セレノアにとってサフィは邪魔もの以外の何者でもない。

「じゃあ、昼飯作るわ」

ゴルダが昼食作りを始めると、2人はまた向き合った状態になる。
互いに何も喋らず、ただ向き合う。
数十分してゴルダが出来た飯をテーブルに出すと、2人は無言で食べ始めた。

「お前らどうした、様子変だぞ?」

とゴルダが聞くも2人は

「何でもないわ」

「別に」

と白を切った。
何か絶対におかしいと思いつつ、ゴルダもまた黙って飯を食う。
昼食後、荒らされた畑の野菜を収穫して再度耕し直すゴルダの横でサフィが呑気に紅茶でティータイムをしている。
メイド服姿で手伝えとは言えず、渋い顔で見続けるゴルダにサフィは

「鍬あと1つ貸して」

と言っていきなりジーパンと半袖シャツの姿になって鍬を貸せと言う。
貸せと言われたからには仕方ないと、倉庫からもう1つを出してサフィへ渡す。

「素直に言えばいいのに」

とサフィはゴルダに言った。
そして、それを家の中から妬ましそうに見ているのはセレノア。
サフィが帰る前に白黒ハッキリさせようと思いつつもどうするかを考えるも、考えが思いつかない。
そうしている間にも、妬ましさは積もっていく。

「…」

この時サフィはセレノアが白黒付けようとしている事を感じ、ある計画を思いつく。
しかしあえて夜に実行しようと今は保留にした。
そして、時間は過ぎて夕方。耕し直し終わったゴルダが風呂に入っている間、サフィは帰る準備を済ませてその時が来るのを待つ。

「時間は晩飯後辺り…あっちも同じ考えなら好都合だわ」

頭の中で作戦を組み立て、どう戦うかを考える。
その一方でセレノアも

「絶対に白黒ハッキリさせてやるわ、よくもゴルダにベタベタと…」

サフィと白黒ハッキリさせるべくあれこれ考えていた。
もちろんゴルダはそんな事など知らないが。
そして夕食の時間、サフィが作ったのかかなり豪華だ。
互いにどんな風に戦うかと思考を張り巡らす2人と、そんな事など知る由も無いゴルダ。
夕食の時間は何事もなく流れていく、作戦を考える2者とそんなことはどこ吹く風の1人という状態で。
そして夕食が終わった。ゴルダはどこ吹く風で酒を飲み、サフィとセレノアはその時を待つ。

「ま、その…なんだ。あれこれあったが久々に会えてよかったぜサフィ」

「私もよ」

「んじゃ、俺寝るわ」

この一言で、サフィは実行の時と見計らう。
まずはゴルダをどこかへ連れ出さねば、そう考えたサフィが出した作戦は

「ねえ、ちょっと月でも見ながら2人で話しない?」

2人だけで話をしようと持ちだす、ゴルダはこれに

「ああ、構わんが」

すんなり了承する。
作戦はここまでは順調だ、後は外へ連れ出してどこかへ行き。セレノアをおびき出すだけだ。

「ただし、ちょっと酒に付き合ってもらうがな」

「げっ…まあいいけど」

これから白黒つける勝負という時に酒を飲むのは少々厄介なことになりかねないが、こればかりは仕方ないと了承する。
そして場所は変わって、ある小さい山の頂上に建てられた展望台。

「まあ、飲もうぜ。2人だけで久々に話す機会が出来たんだからな」

「そ、そうね…」

ウォッカ系の強い酒を渡しながらゴルダはサフィに言う。
あまり気が進まなさそうにするサフィに、ゴルダは多少首をかしげるも深くは問わない。
サフィも、このまま話をしていればあっちから来るだろうと推測して酒を受け取って飲む。

「居た…」

サフィが酒を飲み始めた直後、セレノアが後を追ってやって来た。
ゴルダは待ってましたとばかりにまた酒を出して

「まあ、お前も飲めよ」

「あら、良いわね」

何の疑いも無く、セレノアは酒を受け取って飲み始める。
3人で月夜の下で飲みを始めて1時間後、サフィもセレノアもほどよく酔って来ていた。
吸血鬼と竜のハーフなので相当酒に強いはずのサフィが、顔を赤くするほどに酔うのは初めてだ。
セレノアもかなり強いはずだが、そこそこ酒が回ってゴルダにデレデレな状態である。
実はこれ、なんとなく2人が対立していたのを知っていた上で今日あたり白黒つけるだろうと睨んだゴルダがそれを阻止するために2人に酒を飲ませたのだ。
しかも、ただの酒ではなく吸血鬼や竜ですら酔わせられるほどの酒を用意して。
ちなみにその酒は、この前セレノアと買い物に行った時に密かに購入していたもの。

「このこのー」

2人で互いにもふもふしているのを見ながら、ゴルダは自分だけ別の酒を飲む。
そもそも、そんなに量を買って無かったので2人に飲ませた所で無くなった。

「うーん、足りない…あれ?」

持ってきた酒を探ってると、あの酒がもう1本入っていた。
買ったのは1本だけだがと思っていたが、と思っていたが気にせずに開けるとセレノアがそれを奪って飲んでしまう。

「ったく、俺も買っただけでどんな味か分からんってのに」

と言いつつ、ジンをストレートで飲もうとしたゴルダにセレノアが

「あんたも飲みなさいよ」

と口移しで酒を飲ませて来た、それも抱き付いて来た状態で。
これでゴルダも酔い、その場で突っ伏して寝てしまう。

「あーもー、こんなところで寝て―」

少し酔いがさめて来たのかどうかは知らないが、セレノアはそんな事を言いながらゴルダを抱いて自分もその場で寝てしまう。
サフィもそばに寄り添い、3人ともその場で夜を過ごした。
翌朝、最初に起きたのはセレノア、爆睡中の2人を抱えて家へ戻る。

「えーっと、昨日何してたんだっけ…まあいいや」

昨日何をしていたのかが思い出せなかったが、セレノアは気にせず2人を起こす。
起こされてしばらくした後、朝飯を作ったにもかかわらずサフィは食べずに帰って行った。

「何なのよもう、せっかく作ったのに」

「態度変わったか、お前?」

ゴルダに言われ、セレノアは

「別に」

と答えた。
これ以降、サフィはちょくちょく遊びに来るようになり。セレノアとの仲も好調だと言う。
その原因が何なのかは誰も知らない。
そして、今日も2人は何気ない瀬渇をしている。

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小説(一次) |

孤独は、他者不信の者のために 下

最初にエルフィサリドがやって来て数週間ほど経ったある日、エルフィサリドは再びシスイの元を訪れた。
今度は、僅かながら野菜などの食料を手にして。
だが、エルフィサリドから食べろと渡されたその食料をシスイは全く受取ろうとしなかった。
それもそのはず、他者との関わりどころか外界との関わりを長らく絶ち。一人で生きてきた者がいきなり名しか知らぬ者に食料を施されても受け取るはずがない。
まじまじと食料を見つめるだけで、全然受取ろうとしないシスイを、エルフィサリドはさっさと受け取れとでも言いたげな目付きで見つめる。
だが最終的にエルフィサリドの目付きに折れたシスイは仕方なくその食料を受け取った。

「なぜ私がここに住んでいることを知っていた?」

仕方なく食料を受け取りながら、シスイはエルフィサリドになぜ自分がここに住んでいることを知っているのかと理由を問いただす。

「それは教えられない、あえて言うならば直感だ」

エルフィサリドの答えに機嫌を悪くしたシスイは、さっさと帰れとエルフィサリドを追い出した。

「また来る」

「もう来るな、今度から来たら追い返してやるわ」

また来ると言ったエルフィサリドに、シスイは今度から来たら追い返してやると言い放つ。
それを聞いたエルフィサリドは、面白そうだと言う顔をして帰って行った。

それ以来、一週ごとにエルフィサリドはシスイの元を訪れるようになった。
その度にエルフィサリドは食料を持ってきては、シスイに追い返されるの繰り返しをしている。
毎回、シスイは仕方なくと言った感じでそれを受け取り。一応消費はしている模様。
いつしか、シスイは無意識のうちにエルフィサリドを追い返すのを楽しみの一つとするようになった。
これこそが、エルフィサリドの狙いだったとも知らずに。

時は流れ、一年が過ぎた。相変わらず定期的にやって来るエルフィサリドとそれを毎回追い返すシスイ。
いい加減鬱陶しく思ってきていたシスイは、そろそろ本気で追い返そうかと考える。
だが、未だエルフィサリドの実力がどの程度のものなのかが分からない。
下手に突っかかって返り討ちにされては、元も子もなし。
なぜシスイがエルフィサリドを鬱陶しく思ってきているのかと言うと。
それは、心のどこかでエルフィサリドなら表面的にでも信用してもいいだろうと言う気持ちがあったから。

「あの時の誓いをこのままだと捻じ曲げてしまう、だから金輪際二度と来るなと本気で追い返さないと」

誓いを曲げてしまう、シスイにとってそれは死に値する罪。
ならば、その誓いを曲げてしまいかねない原因を排除する他ない。
そうとなればと、シスイは準備を始めた。

「元気にしてた?」

それから一カ月ほど経ったある日、エルフィサリドはひょっこりやって来た。
もう来ないのかと思って安心していたシスイは、かなり渋い顔でエルフィサリドを迎える。

「ほら、持ってきたから食べなさいな」

押し付けられた食料の中には、水揚げされたばかりと思わしき下処理済みの魚にいつもの野菜が入っていた。

「ありがと…でもね、もう私とは関わらないでもらえる?このままだと私は過去の誓いを破る事になる」

スッと受け取った食料を邪魔にならない所へ置き、シスイはやや構えを取りつつ言う。
それを聞いたエルフィサリドは、やはりかと言う顔をして

「気付いていたようね、偶然にもお前と言う存在を確認し。お前が外界との関わりを絶っていることに気付いた私が、信用を表面的にでも得ようとこのようなやっていたことを」

と静かに言い放つ。
それを聞いたシスイは、深く構えを取ると

「これ以上私に関わらないで、これ以上関わると言うなら。実力行使してでも関わらないようにする」

実力行使も辞さないことをエルフィサリドに示す。
エルフィサリドはそうかと一言だけ言って、その場に佇み続ける。

「今すぐ帰れ、さもなくば本当に実力行使する」

最終通告とも取れる口調で、シスイはエルフィサリドに帰るよう促すが帰る様子は無し。

「致し方ないな、実力行使…!」

助走をつけて飛び膝蹴りを放つシスイ、だがエルフィサリドは煙のようにその場から消えて回避。
攻撃を回避されたシスイは、そのままエルフィサリドの背後にあった木に激突して僅かながら痛手を負う。

「私の使える魔法は知っているだろうに、それにお前自身も水の使い手。考えてみるといい」

シスイの背後を取ったエルフィサリドはまた静かに言い放つ。
この後、攻撃しては回避されが二時間ほど続く。

「さっさと帰ってもらえないか?」

十何回目の飛び膝蹴りを回避されたシスイが立ち上がりながらエルフィサリドに言う。
エルフィサリドは顔色一つ変えず、またシスイの背後に現れるとこう言った。

「誓いの書き換えは大きな変化よ、なぜ変化を受け入れようとしないのかしら?」

エルフィサリドの一言に、シスイはこう返す。

「許されざる行為だから誓いを書き換えないし、変化を受け入れたくないのよ」

それを聞いたエルフィサリドは、帰る仕草を見せながら

「変化は受け入れなさい、何があろうと。もしそれを拒否すると言うならば…あとは分かるわね?」

と言い残して煙のように消える。。

「っ…」

シスイは軽く悪態をつきながらたまったものではないと言う顔をした。

そのようなことが重なり、徐々に表面だけながらもシスイはエルフィサリドだけは信用するようになった。
ようやくシスイが表面だけでも信用すると言った時、エルフィサリドはシスイにある書物を渡したという。
それが、撲竜拳と呼ばれる拳法を会得するための書物であったが。エルフィサリドがなぜそのような物を持っていたかはいまだ不明。
そして、百年ほどの月日を得て今に至っている。

「洗濯しないと」

霧を晴らし、朝食前に溜まっていた汚れ物を片付けるために洗濯を始める。
水はそこらじゅうに漂う霧をかき集めればいいので、汲みに言ったり川などまで行く必要はない。

「来たわよ」

「何でこんな朝早くに来るのかしら?」

突然朝早くにやって来たエルフィサリドに、シスイは少々呆れた様子で言う。
前のような、警戒している口調は、信用しているのは表面だけとはいえすっかり無くなっている。

「お前と私の関係だ、そうカリカリするな」

「ふっ…そうだったな」

二三言会話を交わした後、シスイは洗濯に戻りエルフィサリドは何やら周辺の湿気を集め始める。
あそこまで他者不信だったシスイを動かしたものとは、はたして何だったのだろう。
答えは誰にも分からない。

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小説(一次) |

孤独は、他者不信の者のために 上

孤独は人に限らず、多種の者の心を歪めてしまう。
孤独とは、他の者との関係を一切合財絶ち。全てを己自身で判断して行動し、己で何かあった時に代償を償うと言うことをする。
無論、孤独…すなわち身勝手に己ですべてを判断したりすると言う自己中心的な考えは社会では通用しない。
時に、そのような自己中心的な考えを持つ者は社会から離反して影に生きることもある。
これは、そんな社会から離反して一人で暮らす。ある一人の者の話。

聖竜により創造され、聖竜の手で管理されている世界。ドランザニア。
竜などの幻獣と言った生物から、亜人に人間と言った様々な種族がそれぞれ国を持ち。生活している。
その中で、ドランザニアと地竜国アストライズとの国境付近に位置する誰も名を知らない山。
この山の頂上付近は、年間の平均の湿度が70パーセント以上と、とてつもなく高く。一年中晴れない霧に覆われている。
そんな、人が到底住めるような場所ではないこの場所に、一人の女が人一人がかろうじて不便なく住める広さの小屋をドランザニア側に構えて住んでいた。
その女の容姿は、紫の髪と青い目で一般的な女性の標準体型をしている。その名はシスイ=アルディリス。
元はドランザニアのある竜族の村出身だが、まだ幼い時に両親共にとある理由で村八分され。追い出された村の刺客に両親を殺害された。
そして、ある空白の時間を得てこの山で生活している。

「今日もいい霧だ」

早朝、濃い霧の中に射し込む日の出の光を受けてシスイは起床して小屋から出てきた。
湿気が高いにもかかわらず、さらっとしている髪をいじりつつ。シスイはその場で軽く体操をする。

「さてと」

軽い体操を終えると、シスイは突然謎の構えをした。
まるで、拳法でも使うかのようなその構えははたから見れば警戒されることは間違いないだろう。
だが、シスイのこの構えは拳法を使う構えではない。その理由はこの直後に分かる。

「…はっ!」

両手を平行に体の前で構え、ゆっくりと体の方へ引くシスイ。
体の方へ手を引いた直後、すぐさまシスイは引いた手を体の方へ突き出す。
すると、どういう訳かシスイの住む小屋の周りの霧だけが綺麗に晴れてまともに日差しが射し込む。
これはシスイが水の属性の力を持っているからこそ使える技。
だが、シスイの本当の属性は水ではなく闇。それはなぜなのか、理由はその生い立ちにある。


今から百五十年ほど前、前述通りシスイは闇属性の竜族だけが暮らす厳しい仕来りや掟を持つ村に住む闇竜の両親の間に産まれた。
生まれた当初、シスイを見た村の占い師は両親にこう告げたと言う。

「この子供はこの村に生まれてはならん存在だ、闇の力を有していない。無の属性の力を有している、この村の危険因子となり得るから始末しろ」

だが、両親は占い師の忠告に耳を貸さず。シスイを匿い、占い師以外の村の誰にも悟られないように注意しながら育てた。
しかしそれも長くは続かずじまい。
シスイが人間換算で十歳を迎えたある日、占い師が村の長にシスイの事を密告。
それを聞いた村の長は怒り、シスイとその両親を村八分して村に居られないように仕向けた。
シスイの両親は、このままではまともに育てることができないとシスイと共に村を去り。新たな場所での生活を始める。
しかし、危険因子の芽は摘まなければならないと長は刺客を送り。シスイとその両親を殺害しようとした。
刺客は両親を殺害することには成功したが、両親を殺されて怒り狂ったシスイに撃退されシスイの殺害には失敗。
両親を失ったシスイは、両親の遺体と僅かな家具と共にこの山へ登り、この山へたどり着いた。
その後シスイは、その山の頂上付近に自分が住む小屋と、その傍に両親の墓を作って埋葬した。

「もう誰も信用しない、信用できるのは自分だけ。他は皆敵だ」

両親を埋葬し終え、未熟な魔法を使って墓石を作りながらシスイはそう心に決めたという。
この頃からシスイは他者との関係を一切合切絶ち、一人孤独に人の姿をして小屋で生活していた。
食べるものと言えば、かろうじて自生している山草を採ったり山鹿の類などの生物を狩って食料にして生き延びた。
食料が無い時には、物心付いたころからなぜか使えた水属性の魔法で霧を集めて水としてそれだけを飲んで生活したことも。

ここで言っておくが、シスイは完全に闇竜の血を引いて生まれてこなかったわけではない。
後天覚醒症---それは生まれた当初は本ら両親から引いているべき血の力が覚醒しておらず。無属性と判断される病気。
竜を専門に診る竜医でも、あまり例を知らないと言う珍しいこの病気はシスイの場合に様に厄介事を引き起こす原因にもなる。
治療法はなく、無理に覚醒させようとすると体に何らかの障害や寿命の減少。最悪の場合死に至る場合もある。
なので、本来引くべき血が覚醒するまで根気よく待つしかないのだ。
だが、知名度が低いこの病気は属性差別や竜族差別にもつながる原因にもなるので一刻も早い知名度の向上が叫ばれている。

ここで、話はシスイへ戻る。
両親の死後から十数年、すっかり大人になったシスイにある転機が訪れた。
それは、いつものように自分の小屋の周りの霧払いをして朝食の支度をしていた時の事。

「…?」

その時、シスイが感じたのはいつもの狩りの対象とは違う何かの気配。
どこに居るかは分からないが、僅かながら感じる霧とは違う大きな水の塊の存在。

「そこ!」

その水の塊の存在がした方に蹴りを入れるシスイ、だがその足は空しく空気を貫く。
そこに居ると言うことは分かるのに、攻撃が通用しない。
どういうことだと疑問に思っていると、その存在は姿を現す。
薄緑色の鱗の無い体で竜人体系のかなり尻尾が長い西洋竜、そして目は青くただの竜ではない雰囲気を出している。
どこかの国の長でもしているのだろうか、その雰囲気にシスイは少々驚く。

「ふむ、なかなかいい身のこなしだ。だが…敵意のない者にいきなり攻撃とはいただけないものだ」

尻尾の長い竜は、警戒を解かないシスイを見て少々呆れたように言う。
それもそのはず、シスイは自分以外は信用しないと決めてこの数十年を過ごしてきた。
もはや他者を信用すると言うことを忘れたその思考では、警戒を解くことは無いだろう。

「何者だ?」

シスイは尻尾の長い竜に問う。
尻尾の長い竜は、さらに呆れた顔をして

「自ら名乗るのが礼儀ではないのかな?…だが、その様子だとだいぶ長い間外界との関わりを絶っているようにも見える」

と言うと少し沈黙した後に

「私はエルフィサリド、エルフィサリド=スリュムヴォルド。水竜王国スリュムヴォルド現女王…と言ってもやはり分からないか」

エルフィサリドと自らの名を名乗った。
シスイはその名前を聞いて、どこか聞き覚えがあるような顔をした後に

「シスイ、シスイ=アルディリスよ。用が無ければ帰って」

自らの名も名乗り、エルフィサリドに帰るように言う。
エルフィサリドはふむと頷き、シスイに背を向けて

「また来る、お前が私に少しでも心を開くまで」

と言って霧のようにその場から消えた。
エルフィサリドが帰った後、シスイは小屋に引き籠ってずっと考え事をしていた。
何のためにエルフィサリドはこんなところへ来たのか、ここは誰もが行くのをためらう場所。
そして何より、エルフィサリドはなぜ自分かここに住んでいることが分かっていたのだろうか。
信用はせずとも、今度来た時に問いただしてみよう。
シスイはそう心に決めた。

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