氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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ヘルハウンディアとゴルダ

「あらあら、おかしいと思いません?普通サイコパスは自分から自称するはずはないんですけれど」

「あえて自称する真性も居るという。俺はそういう真性に会ったことがないが、サイコパスに共通しているのは厄介極まりないという点だ」

ある日、ゴルダの家に唐突にやって来た瑠璃夢の知り合いと称する黒犬、ヘルハウンディア。
その物腰の柔らかさにフウやユウが懐くのは容易かったのだが、
ゴルダだけはどうにもヘルハウンディアのある一側面が気になって仕方なかった。
それは----

『誰かを殺すことを一切躊躇しない、サイコパスもしくは狂者特有の罪悪感のなさ』

読めない瑠璃夢、人を利用することをいとわないセフィール、暗殺者の顔を持つコロン。
癖のある者たちと関わってきた中でも、ヘルハウンディアのこのサイコパスあるいは狂者特有の罪悪感のなさという顔にゴルダは興味を持った。
だが、ヘルハウンディアも馬鹿ではない故にそれについて触れられてもはぐらかしたりして表に出そうとしない。

「この紅茶、おいしいですね。瑠璃夢が褒めるだけのことはあります」

「あらありがとう。でも私の淹れ方って癖が出るのよね」

ミリシェンスを褒めているところを見るに、サイコパスもとい狂者の一側面をひた隠すために社交性だけは磨きをかけている様子。
ゴルダはそんなヘルハウンディアに探りをかけようとしたが、クェムリーヴェスから

「やめたほうがいいよ。この亜人、精神属性への適性も只者じゃない。ましてや狂者だから『呑まれる』よ?」

などと言われたためやめることにした。

やがてティータイムを終えて、フウとユウに混じってゲームをしだしたヘルハウンディア。
難なくコントローラーを握って遊んでいる辺り、現代文明に疎いというわけでもないらしい。

「あなたはやらないんですか?」

ヘルハウンディアに一緒にマリオパーティをしないのかと聞かれ、ゴルダは首を横に降って

「こいつらが起きているとできないゲームがしたくてな。お前は知っているかは分からんがアウトラスト2とかそういうのだ」

「その無表情な顔で、そんなホラーゲームをするのなら是非とも見てみたいものですね。今夜泊まっても?」

アウトラスト2などをやりたいから今はいいと返したゴルダに、
ヘルハウンディアはにっこり笑ってプレイしているのを見てみたいので泊まっていいかと聞いてきた。

「知り合ったばかりの奴をやれそれ泊めるほど、俺は警戒心が薄いわけではない。
 第一お前が瑠璃夢の知り合いだというのも、半信半疑だ。もう一度言うが、お前には狂者の一面が垣間見える。
 瑠璃夢は読めないだけだったからいい、お前はそういう問題じゃない。だからああいいぞとは答えられん」

完全に信用しているわけではないし、いきなり深く信用するわけにもいかんと言い切ったゴルダに対し、
ヘルハウンディアは顎のあたりに片手を当てながら上目遣いでゴルダをじっと見る。

「色気使いしても俺の意思が変わらんことくらい、お前も片鱗ながら理解しているはずだ。ヘルハウンディア」

「それもそうですよねぇ、ゴルダさんって女の色気とは程遠い世界で生きてきたとしか思えませんし、
 ましてやそういう方向な方でもない。三大欲求の一つがすっぽり抜けた状態でどう生きてきたんでしょうか?」

「俺の性欲は知識を探求する欲ヘと全て消えた。そして言ってしまうと、俺の男にあるべきものは持病の薬の副作用で
 壊死して手術で切除済みだ」

「まぁ」

少々自身の胸を持ち上げるような感じで腕を組みながら話を聞いていたヘルハウンディア。
可もなく不可もなしなどころかやや豊満なそ胸を、ゴルダはまるで診察する医者のような目線で見やる。

「触ろうともしなければ、性的な目でも見てこない。本当に不思議なお方。
 でも、もしそんな目で見てきたら、首をへし折って殺してたところですけどね。ふふ、ふふふ……」

「何が言いたい?その答えを聞くつもりはないから答えんでいいが。
 それと用あって俺は少し出かけるが、あまりフウやユウに変なことするなよ」

「ご心配におよびませんよ、行ってらっしゃい」

これ以上ヘルハウンディアと話していると疲れると判断したゴルダは、
ヘルハウンディアとのティータイム中にミリシェンスから言われた夕食の食材を買いに出る。

「あなたの服、ほつれてない?胸のあたりが」

「直してもすぐほつれるんですよね」

またゲームに没頭していると、ふと隣へやって来たミリシェンスに服がほつれてないかと聞かれたヘルハウンディア。
都度都度自分で縫い直してはいるのだが、それでも自分が気が付かないうちにほつれてしまう事が多い。

「直せるけど直す?一応替えの服はあるし、1時間位もらえれば」

「それじゃあ、着替えとミシンとか貸してもらえますか?自分で直せるので」

ミリシェンスに直すかどうかと聞かれ、着替えとミシンなどを貸してもらえるかどうかをヘルハウンディアは聞く。
その問いにミリシェンスはヘフィアにゴルダと共用で使っているミシンと裁縫道具といつも一着は置いている
聖竜布の服を差し出す。

「それじゃあ、借りますね」

といって着替えるべく、トイレへ。
なぜトイレなのかというと、目に入った限りで着替えられそうな場所がそこしかなかったからだ。

それからしばしの間を置いてトイレから出てきたヘルハウンディアは、
自身の体毛の色とは反発する白い服装をしていた。
着た直後は不釣り合いなサイズでなんでこんなものをと思っていたのだが、
数秒してからヘルハウンディアのサイズに合わせて突如縮んだのでこれまた何この服はとヘルハウンディアは思うのだった。

「大丈夫だったかしら?その服、この世界の創造神である聖竜の毛から作られた布で出来てるから
 あなたのような地獄の住人には属性的にきついかと思ったけど」

ふと着替えてできたところを、ミシンと裁縫道具を用意し終えたミリシェンスに気づかれてそんなことを聞かれたヘルハウンディア。
ヘルハウンディアはそんなミリシェンスにふふっと笑いながら

「なーんとも、ありませんでしたよ?それにしてもこの服って不思議ね。着るもののサイズに合わせて変化するようですし」

なんともなかったと返し、自分のもともと着ていた服のほつれ直しを始める。
それをみたミリシェンスはまあ大丈夫だろうと家事の続きへと戻った。

一方その頃ゴルダはというと、悪い意でタイミングよく瑠璃夢と出くわして共に買い物をしていた。

「なんじゃ、ヘルハウンディアのやつ来ているのか?」

「お前の知り合いだと言うから家に上げたが、黒い部分の見え隠れがすさまじい」

「あやつはそんなやつじゃ。だが正直私も、ヘルハウンディアの殺しに対して躊躇しないという点はいただけぬが」

買い物をしながらそんな会話を交わすゴルダと瑠璃夢。
何も知らないものからすれば、この2人はなんて会話をしているんだと思われがちであるが一切気にしないのもまたこの2人である。

「して、今日は何を作るつもりなのだ?」

「ミリシェンスが考えているから俺は分からん、食材買ってこい言われて来ただけだ」

「なるほどな」

青果コーナーでセロリ、レタスのようでそうでない野菜、ズッキーニを選定しながら瑠璃夢に献立を聞かれるも、
ミリシェンスが考えているので自分は知らないし、買い物に来ているのは買ってこい言われただけだと話すと、
瑠璃夢は無理やり納得したような返事を返す。

「あと一つお前に聞きたいことがある。ヘルハウンディアから地獄出身であることをほのめかされたことはあるか?」

「はて?あやつがその類いのことを言った記憶は私にはない。期待には添えられんな」

ここでふと、瑠璃夢なら知っているだろうとヘルハウンディアから地獄出身であるとほのめかされたことがあるかどうかを聞くゴルダ。
だが、瑠璃夢の答えは記憶にないの即答。
嘘をついているようにも思えたのだが、ゴルダは深く追求せずに軽く瑠璃夢の方を見て頷くと青果コーナーを抜けて缶詰などが並ぶコーナーへ。

「お主に言おうかどうか迷ったが言うことにした。
 ヘルハウンディアとの関わりは程々にしておくのだ。あのセフィールのように利用されても知らんぞ。
 あやつは温和そうに見えて、人を己が掌の上で踊らすのに長けている」

「忠告どうも」

カーバンクルビーンズ(高い魔力を秘めた食用豆、味は食べる者により異なる。合わないと腐った納豆のような味がする)の水煮の缶詰を
3つほどカートへ入れながら瑠璃夢にヘルハウンディアに関わりすぎるなと忠告され、
軽い返事を返してから今度はエーテルパイン(赤土ではなくエーテルを多く含む土でしか育たないパイン、エーテルは果糖になるため害はない)と、
エルフマンゴー(リフィルでしか育たないマンゴー、エルフが多く住む地でしか育たない。甘いというよりすっぱい)のシロップ漬けの缶詰の他にも
いろんな果物の缶詰をカートへ入れるゴルダ。

「フルーツカクテルとやらか?」

「ミリシェンスが買ってこいと渡したメモに書いてあるものからしてそうだろう。だがあいつのフルーツカクテルは若干酒が入る」

「私は酒は平気だ。こう見えて酒は飲める年だ」

「分かった分かった」

そんなこんなでゴルダと瑠璃夢は買い物を済ませて帰路へつくのだった。

「ふう、直りましたよ」

そしてその一方では、ヘルハウンディアが自身の服のほつれを直し終えて着替えるところ。
だがしかし、ほつれを直したことで逆にほつれていたときよりも胸のあたりがきつく感じた。

「ほつれの直し方間違えましたかね?」

着替え終えた瞬間から感じる胸のあたりの違和感を気にしながら言うヘルハウンディアに、
ヘフィアはなるほどねという顔をしてヘルハウンディアの胸の辺りを指すと何かを呟く。
するとどうだろうか、ほつれを直したことで感じていた胸のあたりの違和感がすっと消えて程よい感覚になったのだ。

「サイズ直しの魔法ってやつよ、バストでもウエストでもどこでも直せるわ」

「便利ねぇ」

そんな話をしていると、どうやらゴルダが帰ってきたらしい。
だがヘルハウンディアはゴルダとは違うもう1人の気配を感じて

「瑠璃夢、久しいわね。いつぶりかしら?」

すかさず瑠璃夢の名を口に出して帰ってきたゴルダの方を見やる。
瑠璃夢は一瞬ヘルハウンディアを渋い顔で見たが、何も言わずにユウとフウのところへ。

「ありがとう、これで夕食は大丈夫よ」

「客人が来ている以上お前では手が足りんだろ、今日は当番じゃないが手伝うぞ」

ミリシェンスに買ってきたものを渡すついでに、
瑠璃夢とヘルハウンディアが来ているので自分も料理をすると言い出したゴルダに

「いいわ、ヘフィアにやらせるから。それよりヘルハウンディアを注視してなさい。どうにも引っかかるの」

ミリシェンスはヘフィアにやらせるからヘルハンディアを見ているように言う。
引っかかるとは言うのだが、ゴルダも同じくヘルハンディアのことで引っかかっており、
聞きたいこともあるので二つ返事で了承してハルハウンディアのところへ。

「さて戻ったわけだが」

「お帰りなさい」

ヘルハウンディアと少々距離を置いて座ったゴルダはひとまず戻ったことを伝える。
それに対してヘルハウンディアは器の小さいものならば、
馬鹿にされたとしか思えないような笑みとともにお帰りなさいと返す。

「瑠璃夢とはどう出会った?」

単刀直入に切り出してきたゴルダに、ヘルハウンディアは一瞬不意をつかれたような顔をして
自分の手を見つめながら意味もなく犬歯を舐めつつゴルダにそれを見せ、こう返す。

「それはあなたが知って何かメリットのあることですか?あるからこそ聞くんでしょうけど。
 残念ながら、私も瑠璃夢との慣れ始めはよく覚えてはいないんですよね。
 互いにいつの間にか知り合いになっていた。ただそれだけのことです」

ヘルハウンディアが本当のことを言っているのか?あるいは嘘をついているのか?
試しに精神属性で探りを入れてみたのだが、その戻り値はまるで適当に材料をミキサーにかけてドロドロにした何かのよう。
瑠璃夢のように嘘をついているのかすらも判別できない。

「記憶にございません、といったところか。それはそれで正直でいい。
 もう一つ聞きたいことがある、こっちが本命と言ってもいいかもしれないな」

頭に乗ってきたマティルーネを無視しつつ、
ゴルダはこれが本題だとヘルハウンディアの方へと向き直り、目を細める。

「ふふふ……そんなに怖い顔しなくても、私は答えられる範囲であれば聞かれたことには答えますよ」

目を細めて自分を見てきたゴルダに、
ヘルハウンディアはかすかに笑いつつそんなに怖い顔をしなくてもと言う。

「地獄の出身かそうではないか、それが知りたい。お前から冥府のものの気配を感じて仕方がない」

地獄の出身か否か。
ゴルダがヘルハウンディアに最も聞きたいのはただそれだけ。
ヘルハウンディアはその問いに対し、また自分の胸を両腕で抱え上げるように腕組みすると静かに一言、

「その問いに対する私の答えは、私でも分からない、よ。自分の生い立ちすらも分からないんですもの」

自分でも生い立ちが分からないので答えかねると返した。
そのイレギュラーな返事にゴルダはどこか納得の行かないような感じでふぅむと呟き、
改めてこんな質問をする。

「親の記憶もないか?親が地獄の出身ならお前から冥府のものの気配を感じてもなんらおかしくはない」

親の記憶があるか否か?
ユウやフウには核地雷級の禁則事項であるがゆえに一度も聞いたことが無いその問いをヘルハウンディアに投げたゴルダ。
親の記憶の有無に対してヘルハウンディアは口癖かのように口元をほころばせ、
ゴルダの胸のあたりに人差し指を当てて

「父方、母方、どちらか定かではないけどどっちかが地獄で生まれ育ったことだけは覚えている。
 でも私は親の記憶が判然としないの、まるでそこだけ記憶を切除されたかのようにね。
 ゴルダさんなら分かるかしら?これが第三者が意図的にしたものなのか、それとも私の本能がそうさせているのか」

両親のどちらかは分からないが地獄で一方が生まれ育ったことを覚えていると話すも、
それ以上の記憶は切り取られたかのように覚えていないのだという。
その原因が分かるかと、ヘルハウンディアは上目遣いで聞いてきたがゴルダは首を横に振って

「俺はどっちかというと内科や外科メインだ、精神や神経科は得意ではない」

遠まわしに力になれそうにないと断言。
ゴルダから告げられた冷たくも力強さを感じる返事に、ヘルハウンディアは突然大声で笑いだしたかと思えば

「やっぱりゴルダさんって瑠璃夢から聞いていた以上に面白い人だと分かりましたよ。
 今のであなたのこと気に入りました。私の好奇心をここまで刺激してくる人なんてそうそういませんからね。
 瑠璃夢もこんなに面白い人と知り合いなら早く押してくれてもいいのに」

面白いので気に入ったとゴルダに断言。
一方のゴルダはお前はは何を言っているんだとまたもや目を細めながら、
未だに自分の胸元に触れていたヘルハウンディアの人差し指にそっと両手を置いて

「それは分かった。だから俺の胸元に触れている手をどけるんだ」

触れている手をどけるよう淡々と言い放つ。
だがヘルハウンディアは触れるのをやめるどころか、今度は両手を腰の後ろへと回してハグの動作を取る。

「自分が何をしているか分かっているのか?」

「ええ、もちろんですよ」

分かってなさそうな返事を返しつつ、ゴルダを強く抱きしめるヘルハウンディア。
全くもってヘルハウンディアが何をたくらんでいるのか読めないため、
不機嫌そうに唸るゴルダは強引にヘルハウンディアを引き離して


「そろそろいい加減にしろ、お前の考えていることが微塵にもわか……」

いい加減にしろと言いかけるも、唐突にヘルハウンディアから頬にキスをされてしまう。

「もう好きにしろ。俺やミリシェンス達の邪魔をしたり、危害を加えなければ泊っても構わん」

これにゴルダは折れたと同時に呆れ果てて、邪魔したり危害を加えなければ泊っても構わないと話す。
ヘルハウンディアは怪しげな笑みを浮かべながら、ゴルダにこんな頼みごとをする。

「あなたを瑠璃夢の言っていたもう1つの姿で、抱っこしたいのですけど。変身してくれます?」

ヘルハウンディアの一見かわいいもの好きそうな頼みに、何か裏があるのではと訝しむゴルダ。
今の状況を一言で言うのならば、信用のかけらもない依頼主を相手に報酬交渉をしているようなもの。
今のゴルダは提示された報酬で依頼を受けるか否かの決断を迫られている。

「今でなくともいいだろう」

ゴルダの決断はまさかの返答保留。
なにやらそれを面白おかしそうな目で見ていた瑠璃夢がクックと笑いながら

「なんじゃ、優柔不断じゃの。即決せんか」

その場で決めろと煽る。
しかし瑠璃夢の煽りなど眼中にもないゴルダはまだ寒い外へと出る。

「セフィール以上に調子狂うぞあいつ」

煙草のようなものを吸いつつ頭を冷やしていると、ヘルハウンディアも外へ出てきて何も言わずに横へ立つ。

「どこまでお前は俺に興味を持っている?」

「どこまでかしら?」

そんな会話を1本吸い終えるまで続けた2人。
家の中へ戻ろうとした瞬間、唐突にまだ残っている雪をヘルハウンディアが丸めて投げつけてきた。
ゴルダはそれをカーバンクルの姿になって回避。

「捕まえましたわ」

回避して地面へ着地した瞬間、ヘルハウンディアに後ろから抱きかかえられて思わずゴルダは

「む……」

と声を出す。
だがヘルハウンディアはお構いなしに胸元あたりでゴルダを抱く。
その際、異様に胸を押し付けられる違和感を感じて

「あまり胸を押し付けてくれるな」

胸を押し付けるなと言ったのだが、ヘルハウンディアはゴルダの耳を甘噛みして

「嫌です、だってかわいいんですもの」

拒否の意を示し、しばらくそのまま立った状態で抱いていた。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(交流) |

狐少女と狼少女とゴルダ

今、ゴルダの目の前には狐と狼の亜人族の少女が何かを期待するかのような目線を投げかけている。
この2人はゴルダがとある理由で保護し、この世界の出身ではないことと狐のほうがりりで狼のほうがるるという
名前であることしか分からない。

「参ったな」

ゴルダは街中でそれぞれの髪の色に合わせたへそ出しの服装の少女らの目の前で思慮にふける。
保護した時の状態が状態だったので最初は2人ともゴルダを警戒していたものの、
危害を加える相手ではないと判断したのかりりのほうは警戒を解いてくれたが、
るるだけはゴルダに牙を見せて威嚇するなどまだ警戒を解いてくれない。

ちなみに、この世界で相手に牙を見せるというのは喧嘩を売っているという意思表示になるのだが
ゴルダはそんなことは全く気にも留めない。
むしろ気にするのはならず者を含めたガラの悪い連中ばかりである。

「そういえばお兄さんの名前聞いてないよ?酷いことしないなら教えてほしいな」

りりにお兄さんと呼ばれてゴルダは複雑な気分になった。
なぜならばゴルダの実年齢は200代、とてもお兄さんと呼べる年ではないのである。
それだけ若く見られているということかと思いながらも、りりに一言だけ

「ゴルダ」

と自らの名を名乗った。
りりはその名前を聞いてこう返す。

「かっこいい名前だね!」

一方るるはゴルダとりりが普通に会話をしているのを見て、
何か言いたげな
視線を投げかけていたがゴルダはそれに気づかず

「移動しよう。ここではちょっと話がしにくい」

りりとるるに場所を移動しようと言い、ついて来るよう促す。
るるはそんなゴルダを睨みつけながらもりりと共について行く。

「いらっしゃい、ずいぶん長い間来てくれなかったじゃないの」

「こっちもいろいろある。それくらい汲み取ってくれ」

さすがにいつものカフェではダメと判断したのだろうか、
やって来たのはシャールイズの経営するカフェYrizer(イェリゼラ)。
このカフェならばゴルダを狙う輩が来てもシャールイズが潰してくれるのでまず問題はないといったところか。
欠点としては店内が最小限の照明しかなく暗いところだろう。

「小さいお客さんね」

シャールイズがりりとるるを見てニヤリと笑いながら言う。
ゴルダは手を出すんじゃねえぞという目でシャールイズを見て適当に注文。

「いいわ、ごゆっくり」

注文を聞いたシャールイズは店の入り口の表記を閉店に変え、
誰の邪魔も入らないようにしたうえで店の奥へと消える。
なぜシャールイズがこうしたのかというと、
ゴルダがした注文の中に

「誰の邪魔も入らないようにしてくれ」

という意味合いの注文が紛れていたからである。

「るる、そんなに拗ねるな。だが今から大事な話するから耳だけは貸してほしい」

しゃべろうともせずそっぽを向いたままのるるにゴルダはそう言って、
2人をこの後どうするかを話す。

「このまま俺が面倒を見るのもいいんだが、元の世界へ帰す方法も模索しなければならない」

だがしかし、それを聞いたとたんにりりが

「こっちでゴルダと暮らすの!絶対離れないもん」

ゴルダと暮らすなどとと言い出し、出身世界へは帰らない宣言をする。
それを聞いていたるるも

「りりが言うなら私も同じ。元の世界へは絶対に帰らない」

りりが言うなら自分も帰らないと断言。
それを聞いたゴルダは片手で頭を抱えてどうすんだ俺と言わんばかりの顔をする。

「ゴルダが助けたせいだね。りりは完全に懐いてるし、るるもほんの少しだけ信用してる」

クェムリーヴェスが割り入って言った一言に、ゴルダはさらに頭を抱えることになった。
さらにそこへ魔力切れ後に敵の援軍と(訳注「泣きっ面に蜂」)言わんばかりにメルムーアが

「ゴルダちゃん、その子たちについてだけど元の世界へ帰す術が今のところないわ。詳しくはこっちへ来た時に」

などと言ったがためにゴルダはシャールイズが運んできたコーヒーを一気飲み。
それが淹れたてのホットコーヒーだとすぐに気付いて

「あちっ」

となった。

ちなみにここで、りりとるるがどうやってゴルダと出会ったのかというと
たまたま依頼を終えて帰路に就こうとしていたゴルダの目に、
異界から迷い込んだものを拉致するなどして人身売買などを行う輩が
2人の少女に拘束具をつけてどこかへ連れて行こうとしていたのが目に留まり、
手裏剣投擲からのデザートイーグル発砲でその輩を撃退。
そのまま保護したのだ。

「いまさら1人や2人同居人が増えたところでなんともないではあるが」

頭の中でそう呟きながら2杯目のコーヒーを片手にりりとるるに、
そんなに離れたくないならば無理に引き離すのも慈悲が無さすぎるので、
しばらくは自分のところに住むように話す。

「あとりりはもう呼び捨てにしていたが、るるも基本的に俺のことは呼び捨てでいい。俺はさん付けされるのは複雑な気分になる」

自分のことは呼び捨てにしろと言われたるるは何で?という顔をしたが
ゴルダがしろと言っているならばしたほうがいいのではと思いながら

「よ、よろしく。ゴルダ」

少しかしこまり気味になりながらよろしくと言う。
ゴルダもそれに答えるかのように

「こちらこそ、りり共々な」

このやり取りからゴルダはりりが素直、るるがあまり素直ではない性格だと判断。
しかしゴルダにとっては素直でないのは大した問題ではない。
るるの性格よりも厄介で付き合い難いものと何度も依頼で関わってきているからだ。

「これおまけ、2人とも食べなさい」

そう言ってシャールイズが出したのはレアチーズタルトだがそうには見えないケーキ。
りりとるるはそれに何の迷いもなく食いつき、食べる。
ゴルダはシャールイズになぜまたと聞いたがシャールイズはそれ以上聞いたら噛むわよと言いたげな
目線を投げかけるだけ。

「やはりお前の考えていることは分からんな」

煙草のようなものを吸おうとしてりりとるるが居ることに気づいて片付けながら
ゴルダはおいしそうにケーキを食べる2人を眺めていた。

その後、Yrizer(イェリゼラ)を出て帰宅したゴルダ。
すでにミリシェンスへはメルムーアから話が通っていたらしく、
特に何も言われることは無かったが

「りり、るる。先にお風呂入りなさい。準備はしてるから」

先に風呂に入れとだけは告げて台所へ。
一方マティルーネはるるに若干の興味を示し、
ルァクルはまた同居人が増えるのかとだけ呟き。
レルヴィンはるるに近寄って匂いを嗅ぎ、自分と同じ匂いがするとゴルダに言う。
それ以外にもレルヴィンは何か言っていたが、ゴルダには自分と同じ匂いがする以外は訳せなかった。
なお、ヘフィアは所用でアストライズへ行っていて今日は居ない。

「おいおい、服はどうするんだ」

りりとるるが風呂に入っている間、ゴルダはミリシェンスに着替えをどうするのかと聞く。
するとミリシェンスは聖竜布の服を取り出した。
半袖と半ズボン1組で真っ白、サイズがだいぶ大きいが聖竜布の特性で着用者に合わせて変化するので
これと言って問題はない。
だが、この貴重というレベルを超えた聖竜布の服を2組もどこから持ってきたのかは謎のまま。

「ああ、メルムーアが魔法で投げてよこしたのか」

ゴルダはこの服をよこした主がメルムーアで間違いないと思いながら外へ出て一服。
どれくらい時間がたったかわからないが、吸い終わって家の中へ戻ってくるとミリシェンスに

「あなたも入ってきなさい、りりとるるはもう上がったわ」

そう言うミリシェンスの目線の先にはマリオパーティをするりりとるるの姿が。
ゴルダは分かったと返し、風呂場へ。
湯に入る気はなかったのでシャワーだけを済ませて上がってきたゴルダにりりとるるが

「ゴルダ、マリオパーティしよ?」

マリオパーティをしようと誘ってきたので3人でやることに。
その後はミリシェンスの作った夕食を食べ、
ゆっくりしているとゴルダはいつの間にか寝ていた上にカーバンクルの姿へ変身していた。

「あれ、このもふもふ誰?」

「誰だろ?」

目を開けるとりりとるるが自分を不思議そうに見ていたので

「ゴルダだが?」

自分であると言ってみることに。
すると声が同じだったためかりりとるるはゴルダに唐突に抱き着く。

「ぶっ」

いきなり2人に抱き着かれてゴルダは核石に触れられてビクッとしたものの
匂いで引き離す気にはなれなくなった。

「もふもふー」

りりとるるに左右からもふもふされ、
ゴルダはなんとも言えない顔をしながらしたいようにさせる。

「また寝ていたか」

再び目を覚ました時には時刻は日付が変わり午前1時過ぎ。
りりとるるはゴルダに抱き着いたまますやすやと寝息を立てていた。

「どのみちメルムーアの所に行かねばか」

両手に花の状態など眼中にもないゴルダは今後のことを考えながらまた寝る。
メルムーアとシアから何を言われるかも知らずに。

「起きなさい。りりとるるはもう朝食済ませてるから」

ミリシェンスに起こされ、自身の頬を引っ叩きながら目覚めるゴルダ。
一方りりとるるは2人でスマブラの真っ最中。
耳の辺りを掻きながら人の姿に戻り、朝食を黙々と食すゴルダにりりが

「ゴルダ、スマブラやろうよ」

スマブラをしようと誘ってきた。
まだほんのり湯気の立つコーヒーを片手にゴルダは少し考えたのちに

「後でな」

今は食事中だと言って退ける。
りりはそれにえーと言いたげな顔をしつつるるとのスマブラに戻った。

「お寝坊さんね」

「いきなり意思飛ばすな。コーヒー吹きかけただろうが」

突如メルムーアからの意思飛ばしが入り、ゴルダは吹きかけたコーヒーを飲み込んでから応答。
言わずともりりとるるを連れてこいとのことだろう。

「りりとるるの件か?」

「ええ、今日中に必ずきてね」

ミニトマトを食べつつメルムーアに聞くゴルダ。
メルムーアはそれを肯定、暇が出来たら今日中に一度来るよう告げて意思飛ばしをやめた。

「ゴルダ、スマブラ付き合って。りり弱い」

「弱いって何よー、るる吹っ飛ばし狙いしかしないじゃん」

メルムーアの邪魔がなくなったのでまた黙々と食べ始めたゴルダのところへ今度はるるがやって来て、
りりが弱いのでスマブラの相手をしてほしいと言ってきた。
これにりりは弱いとはなんだと噛み付き、りりとるるは互いに睨み合う。

「そうゲームでカッカするな、別のをやろう」

そう言って立ち上がったゴルダが出したのは、Horizon zero down。
すでにクリア済みなのだが雰囲気がとてもいいのでわざわざ引っ張り出したのだ。

なお、りりとるるはその世界観にあっという間に引き込まれた。

「ゴルダ、このゲーム何?」

しばらくHorizon zero downをプレイしていると、るるがソフトを保管している箱から出した一本のゲームを見て、ゴルダは渋い顔をする。
何を隠そう、そのゲームは色々な意で危ないアウトラスト2。

「るる、そのゲームはダメだ。片付けろ。怖いなんてもんじゃないゲームだ」

ゴルダの言い方から察したのか、るるはアウトラスト2を片付けて他のゲームを出す。

次にるるが出したのは、アウトラスト2よりはマシだがホラーゲームという面ではりりがどんな反応をするか分からないバイオハザード7。

「やりたいのか?」

いつの間にか頭に乗っていたマティルーネに気付いてからゴルダはるるに聞く。
るるは即座に頷いた。
どうやら本気のようだが、りりがどんな反応をするかが分からない。

「俺は構わんが、りりが大丈夫かどうかだな」

そう言いながらゴルダが横目でりりを見ると

「ふえぇ……ホラーゲーム嫌い」

あからさまな拒絶反応を示していた。
それでもるるはやる気のようなので、ゴルダは念押し気味に

「どうなっても知らんぞ」

とだけ言ってりりとマティルーネ、レルヴィンとルァクルを連れて家の外へ。。
その際るるが絶叫する声が聞こえてきたがゴルダは無視して外へと出た。

「まだ少し暑いね」

「この暑さもあと一週程だ。次第に涼しくなって冬を迎える」

いまだに照りつける夏の日差しに手を仰ぎながら言うりりに、
頭上のマティルーネを守るべくどこからか出した日傘をさしながらゴルダは夏もあと一週ほどで終わると返す。

レルヴィンとルァクルはしばしりりについて匂いなどを嗅いでいたがすぐにやめる。

「私と似た匂いだ」

ルァクルがそう言ったのに対して、レルヴィンは判然としない素振り。
それを見ていたゴルダはレルヴィンに何かを命令。
するとレルヴィンはりりを咥えたかと思えば自分の背に乗せる。
超大型犬かそれ以上の大きさのあるレルヴィンならば、りり程度の大きさなら背に軽々と乗せられるのだ。

「大丈夫だ、そのまま乗ってろ」

状況を把握していないりりにゴルダはそう告げ、
レルヴィンの横へと立つ。

「ちょっとごわごわだけどもふもふ」

首の辺りをもふもふしてくるりりにレルヴィンはやれやれと言いたげな顔をする。

「やはりお前は懐かれやすいな」

ルァクルの一言にレルヴィンはなぜか唸ったがそれも一瞬。
すぐにスイッチを切り替えてりりを背に乗せたまま森の方へ。

「好きにさせとけ」

いいのかという目線を投げかけるルァクルにゴルダはレルヴィンなら問題ないと言い、
1人でバイオハザード7をやっているるるのところへ。
ルァクルはレルヴィンの後を追った。

「やはりか」

家の中へと戻ると、るるがミリシェンスに泣きついていたので思った通りだと呟くゴルダ。
ミリシェンスに渋い顔で見られたがゴルダは気にすることなくゲームを片付ける。

「デッドスペースやアウトラスト2じゃなくて幸いだったな」

「ホラーゲームは片付けなさい」

ミリシェンスに言われ、ゴルダはりりとるるがやるとまずいことになるゲームを片付けてるるに視線を移す。

一晩経ってそこまで警戒されることはなくなったのだが、
どこかしら気を許せない雰囲気をるるは醸し出している。
なお、これも狼の気質かとゴルダは微塵にも気にしてはいないのだが。

「そういえば、りりとるるの服直して。レルヴィンはまだ戻ってこないでしょうし」

洗濯し終えて乾いたりりとるるの服をミリシェンスに突き出され、
ゴルダは頭を掻きながらそれを受け取ってソファに座るとヘフィアと共用の裁縫道具を出して、
昨日例の輩にやられたと思わしきほつれや破けを直しだす。

「なにこれ?」

るるが裁縫道具の中に入っていた白い布切れを出して聞く。
それにゴルダは

「万能補修布だ。縫い付けてもつぎはぎしているようには見えなくなる」

万能補修布だと答えてるるからその布を取ると、
適度な大きさに切ってりりの服の背のナイフか何かで切り裂かれた箇所に縫い付けて補修。

「りりはよく傷を負わなかったな。切り裂かれた状態から明らかな殺意を感じる」

その一言にるるがドキッとしてミリシェンスの手を握る。

「あなたも狙われてる身なんだから用心しないと。りりやるるもまた狙われるかもしれない」

淡々とるるに分からないよう、幻獣語で言うミリシェンスにゴルダはそうだなと同じく幻獣語で返す。

「るるはお前には完全に気を許しているようだが」

「さあ?」

ゴルダのるるがミリシェンスに気を許しているという一言に対し、
ミリシェンスはすっとぼけたような返事をする。

手を握ったりなどといったミリシェンスへの仕草を見る限りでは、
るるはミリシェンスに気を許しているようにも見えるが真相は不明。
一方りりはゴルダにもミリシェンスにも気を許しているようだが。

「それはともかく、りりのはこれでいい」

補修し終えたりりの服を横へ置き、るるの服の補修に取り掛かろうとした瞬間。
るるがゴルダの針を持つ手を握って

「私自分でやる」

と言い出したので教えるべきか?と、
ミリシェンスを見ると教えるべきと言わんばかりにニコッとする。

「そうか、ならば教えるとしよう」

ミリシェンスの反応をみたゴルダはるるに糸の通し方から教え始めた。

「なぜにこんなところへ?」

「ここなら静かに過ごせる」

一方レルヴィンの背に乗って森の中へやって来たりりは、背から降りて2人の周辺を散策。
レルヴィンとルァクルが何かを話しているのだが、
りりには全く何を言っているかが分からずじまい。

「戻るか?」

「もう少し居よう」

ちなみにルァクルだけはレルヴィンの言っていることをほぼ完全に理解できるようで、
こうして会話をすることも可能。

「しかしゴルダはなんと言うか、こう言うのを連れて来る能力でもあるのか?」

「かもしれん」

ゴルダはこういう存在を連れて来る能力でもあるのかと話していると、
りりがルァクルを抱き上げようとしたものの重すぎて断念。

「無理はするものじゃないぞ」

理解できるかどうかを度外視して言ったレルヴィンにりりは

「じゃあゴルダは無理してないの?」

ゴルダはどうなのかと返してきた。
どうやらレルヴィンの言っていることを理解しているらしい。

「あいつは異常だ。無理をするの定義が違う」

レルヴィンの一言にりりはぽかんとして2人を見やる。
どうやら何と言ってるかは理解できるが、
言ってる内容までは理解できてないようだ。

「子供に無茶振りしすぎだお前は。弱きものに配慮するお前でもそこまでは頭が回らんか」

ルァクルの辛辣な一言にレルヴィンはぐぬぬと言わんばかりに唸る。
それを聞いていたりりは喧嘩はダメだよと2人を制するも、
レルヴィンとルァクルは何事もなかったかのようにりりに振る舞う。

「変なの、それより戻ろうよ」

りりに言われてルァクルとレルヴィンは顔を見合わせて何かを同意するかのように互いに頷くと

「戻ろう」

レルヴィンはりりを咥えて背に乗せルァクルと共に家へ引き返す。

その頃家ではるるとゴルダが服の補修をしていた。
なおミリシェンスは食器を洗ったり洗濯機を回したりして、一切手を貸す様子は見受けられない。

「るるは手先が器用な方か?初めてにしては縫い方が様になっている」

例の布と魔力の糸で自分の服を補修していたるるに、
ゴルダは縫い上がりを見て手先は器用な方かと聞く。

「分かんない」

るるの一言にゴルダは頭を掻きながらやはり信用されてないかと思う。
クェムリーヴェスが干渉してくるまでもなく、
るるからわずかな拒絶の意を感じたからだ。
素直ではないと分析はしていたのだが、
ここまでされるとりりとは付き合い方を変えるべきかとまで思い始めた。

「だって器用かどうかなんて、今まで気にしなかったもん」

るるが付け加えるように言った一言にそうかとしかゴルダは返せず、
クェムリーヴェスからは

「相変わらず乙女心を掴むのが下手なものだ」

などと称されてしまう。

「開けて」

気付けばりりが戻ってきていたので、
ゴルダはりりを家の中へ入れて裁縫を続けていたるるの手を一旦止めてシアのところへと向かう準備をする。

「行くぞ、お前らの今後を決める上で話さねばならん相手に会いに」

そう言うや、りりとるるを連れ座標指定テレポートでセイグリッドへ向かうゴルダ。

「いらっしゃい」

ゴルダがやって来たのは、シアの居る塔。
高度が高いために寒いのだが、なぜか空気が薄いと感じることはない。
そしてそこに待っていたのはメルムーア。
シアと似た白い有毛竜だが角ではなく耳があり、目の色もゴルダと瓜二つ。
目の前に唐突に現れた大きな存在にりりとるるはぽかんとしていたが、
自分らを襲うような存在ではないことだけは把握している様子。

「大きいもふもふ……」

るるの一言にメルムーアは手招きをして

「触ってみる?遠慮なんていらないわ」

触ってみないかと聞く。
るるは何の警戒心持たずにメルムーアに近づくと前足を触りだす。
ゴルダと比べ一切警戒心を持たないのは、
メルムーアの聖属性と言う面もあるだろうが、
それ以上に癒しの神で全てを受け入れるスタンスであることの方が大きいだろう。

「シアは?」

そんなるるを見てかすかに鼻で笑いながらシアはどこに居るとゴルダは聞く。
メルムーアは一瞬言わなくても分かるでしょ?と言いたげな顔をしてから

「応接室、2人の身分証作って待ってるわよ」

シアがりりとるるの身分証を作って待っている。
これはどういうことかと言うと、ゴルダは幻想獣医や何でも屋以外に異界から迷い込んだものを保護した上でシアやメルムーアに報告。
その後元の世界へ帰すまでの間面倒を見たりするという仕事も請け負っている。

なおこの仕事をしているものは、
ゴルダ以外にも多数居るがゴルダは会ったことがない。
そして、メルムーアが2人を帰す術が今のところないと言っていたあたり、身分証を用意しているのはそう言うことだろう。

「りり、るる行くぞ。メルムーアも」

そう言ってゴルダはシアの居る応接室へと向かう。

「法があるとはいえ、こんな簡単にセイグリッド国籍の身分証をポンポン発行していいのかと俺は疑問になることがある」

「いいのよ、アルカトラスの許可もあるから」

念写で作成されたと思わしきりりとるるの顔写真が貼られた、
パスポートとはまた別のセイグリッド国籍であることを示すゴルダと同じアルカトラス姓の身分証を見ながら、
応接室へやって来たゴルダは呟くがシアはアルカトラスも許可してるから問題ないと返す。
その一方でるるはメルムーアを、りりはシアをもふもふしていたがゴルダはさせたいようにさせて話を続ける。

「それで昨日の話だけど、どうやってもりりとるるの持つ波形と部分一致する世界すらも引っかからないのよ。1000万に1の割合でしか起こり得ない事象だから暗中模索」

自分の前足に頬ずりするりりをよそに、
シアはゴルダにりりとるるをすぐに元の世界へ帰せない理由を説明。
本来そのものが持つ出身世界の波形は、部分的にでもどこかの世界と必ず一致するもの。
だが今回のケースのように部分一致でも全く引っかからない場合もあるのだ。
こうなると世界の検索に通常の倍以上の時間がかかり、いつ一致する世界が出てくるかも不明。

「厄介だな、しかしりりとるるは俺と離れる気はないようだが」

「絶対ゴルダと暮らすのー」

一通り話を終えて厄介だなと言ったゴルダにりりは、
一緒に暮らすと考えを曲げる気は無いという意思表示をした。
その後ろでは黙ってメルムーアをもふもふしていたるるも頷いていたがゴルダは気付いてない。

「しかしまあ、よく念写でここまでできるな」

りりとるるの身分証を手に取り、貼られている顔写真を見たゴルダの一言にシアは

「難易度低いのはそんなに多くないわ」

簡単な相手は少ないことを告げる。
それもそうだろうとゴルダは2人の身分証をしまってソファに座ると同時に、
カーバンクルの姿に変身して腕組みの状態で片目だけを開けたまま黙りこくる。

それを見たるるが黙りこくるゴルダに近寄り、その頰を左右へと引っ張ってみたが反応がない。

「あれ?」

今度は面白半分で嚙みつこうとしたが、噛みつく寸前でゴルダの片手に押さえつけられて

「さすがにそれは、いかん。いいな?」

やめろと諭された。
るるはそれにしょぼくれたかのような顔をしてまたメルムーアをもふもふしだす。

「というわけで、よろしくね」

「出るもん出なかったら流石の俺でも渋るぞ」

頼んだわと言ったシアに対してゴルダが返した一言を聞いて、
メルムーアとシアはあらあらと同時に言い放った。

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特に題名の無いフォルテの森での出来事

「そんなに美味くもない」

イファルシアから貰ったミントテロにならないミントを食みながら、
カーバンクルの姿をしたゴルダはフォルテの森をのそのそと歩く。
後ろからマティルーネとルァクルが付いてきているがゴルダは一切気に留めない。

「あっ、危なっかしいやつ!」

たまたま通りかかったミスティに安定の危なっかしいやつ呼ばわりされ、
ゴルダは目を細めてミスティを見る。
最初は自信たっぷりにカーバンクルのゴルダを見ていたミスティは、
何かを悟ったかのようにぷいとそっぽを向いて森の奥へ飛んで行ってしまう。

「あいつは相変わらず分からん」

そこまで森の中は暑くないので自己冷却魔法を止めたゴルダの目の前に今度はスノーウィーが現れる。

「あらこんにちは」

スノーウィーは目の前に居るカーバンクルがゴルダだとは気付かずに声をかけてきた。
それを見たマティルーネが空気を読まずに

「このカーバンクルはゴルダ」

などと言ったがためにスノーウィーはハッとし、じっとゴルダを見つめる。
一方ゴルダは額のアメジストを怪しく光らせ、スノーウィーの爪を見て

「手入れしてるか?乙女の嗜みだろう?あまり映えてない気がするが」

淡々と手入れをしているかを聞いた。
スノーウィーはそれに余計なお世話よと言いかけたが

「してくれるかしら?そこまで言うならできるでしょ?」

ゴルダの腕を試すかのようにやってくれないかと頼む。

「バウムのところでな」

それに対してゴルダはバウムのところでやると一言言い放ち、
スノーウィーを置いて奥へ進む。

「今日も今日とて分からん奴だゴルダは」

ルァクルの一言にスノーウィーとマティルーネはそっと頷く。

「スノーウィー以外の冷たき雰囲気を感じる」

その頃バウムは以前シアが持ってきた本を読みながらまったりしていたが、
唐突なスノーウィー以外の冷たい雰囲気を感じて顔を上げる。

「ゴルダのようだがそうではない気もする」

バウムが思慮に更けているとその視界にスノーウィーとマティルーネにルァクルと、
とても濃い紫毛の黄色目のカーバンクルがやって来た。

「そんな姿になれたのか?」

「つい最近からだ」

一言二言の会話を交わし、ゴルダはスノーウィーの前足を持ってその爪をまじまじと見る。
一応綺麗には見えるのだが、診察眼を使って見ているゴルダにはそうは見えてない様子。

「やりますかね。と言いたいところだが一つだけ聞いておく、お前は俺を信用しているか?」

ゴルダの一言にスノーウィーはどう言う意よ?と問いただす。

「最初に爪の話をした時、お前は不快とも何とも思ってないように思えた。単に寛容なのか、あるいは俺を信用しているのかのどっちでしかない」

その問いただしに爪の話をした時のことを言い、
スノーウィーが不快とも気にしてくれて嬉しいのどちらにも属さない感情を抱いているように思えたと話す。

なぜこんなことをゴルダが聞いたのかというと、
クェムリーヴェスが信用されているかも分からないのにそんな話をしない方がいいなどと言ったがためだ。

「そんなのどうだっていいでしょ。さあやって」

スノーウィーがゴルダを信用しているというのが図星だったのかは不明だが、
そんなことはいいから早くしなさいと前足を突き出すスノーウィー。

ゴルダもそれ以上問うことはなく、
どこからか出した爪の手入れセットでスノーウィーの前足の爪を手始めに拭き始めた。

「何をしているのだ?」

横からバウムに聞かれてゴルダは手入れ前の下準備用の薬と思わしき液体で布を湿らせ、
右前足を拭きながら

「爪を手入れしている限りはこの外の世界では普通にやっていることだ。それが竜族であれど」

爪を手入れしていると返す。
バウムはそれを聞いて

「なるほど、乙女の嗜みに必要な行為か」

と今一つ理解してないような顔をしつつ強引に理解したように振舞う。

「本格的に削る必要はなさそうだ」

「削っちゃ嫌」

削ろうと爪用のやすりを取り出したゴルダにスノーウィーは削ることを拒否。
ゴルダも本人が嫌なら削るまいとやすりを置き、
スノーウィーの爪の先を切る。

「あまり切りすぎるのも良くない。これだけだ」

爪の先を切られたスノーウィーは自分の前足をまじまじと見た。
いつもは樹木で爪研ぎをするので、
いざ爪を切られると若干の違和感を感じるようになったが特段気にするものでもないので気にしないことに。

「他の爪も切ろう」

そう言ってゴルダはスノーウィーの前足の爪だけではなく後ろ足の爪も切る。

「整えるために削ってもいいか?」

「やり過ぎないでよ?あと角も手入れして」

さすがに切った後の整えのためにやすりで削っていいかを聞いたところ、
スノーウィーはやり過ぎないことを条件に許可。
その上角の手入れまでしろと言って来た。

「どうせなら体毛の手入れ含め全種やってやる。後出しジャンケンは俺はあまり好きじゃない」

爪をやすりで削って整えながらゴルダはどうせなら全身やってやると言い出す。
スノーウィーが後からここもこっちもと言うのを防ぐためだろう。

「気が効くのね、無表情な割には」

スノーウィーの皮肉交じりの一言にゴルダはさらっとそうかとだけ返し、
爪の整えを続行。

「このような技術を元からゴルダは持っていたのか?」

スノーウィーの身だしなみを整えているゴルダを見、
バウムはマティルーネとルァクルに聞く。

「知らない。ゴルダはいつの間にか技術を身につけていたりするから」

マティルーネはそれに、
いつの間にか身につけていることが多いので知らないと返す。
一方でルァクルは

「アルガティアから教わったとは聞いたことがある」

アルガティアが教えたと言う。
それを聞いたバウムはアルガティアなら教えかねないと思いつつ咳払い。
2人の様子を眺めるのに戻る。

「ストレスを感じている、あるいは疲労が溜まってないないか?体毛がごわついている」

「自覚ないわ」

角よりも先に体毛を有毛竜用の櫛で梳かしている最中に、
違和感に気付いたゴルダがスノーウィーに聞いてみるが自覚はないようだ。
自覚のないストレスと疲労ほど厄介というのは一応診る立場にあるゴルダには考えるまでもない事実。
しかしスノーウィーから返ってきた答えは自覚なし。

「たまには気を休めろ」

自覚がないと言うスノーウィーにゴルダはたまには休めとだけ告げて角を磨く。
スノーウィーの角は溶けたり凍結したりを繰り返して形の変わる代物。
角ゆえそれなりの強度はあるのが、
折れる時は折れるので手入れは慎重にしなければならない。

「日々形を変える角、心も森も等しく日々変わり行く。変わらぬものなどあまりない」

意味深なことを呟きながら角を磨き終えたゴルダは今度はバウムのところへやって来て

「前足出してみろ、少し毛を剃ろう」

バウムに前足を出すように言い、
自分はハサミと剃刀を出す。

「あまり触るでないぞ」

バウムの話を聞いていたのか不明だが、
ゴルダはそれを聞いていたのかは分からないが手始めに前足の爪を無理矢理出して状態を見る。

「良好良好」

そう言うや、口笛を吹きながらバウムの前足の毛をちまちま切っていくゴルダ。
端から見れば、狂人が前足を切り落とすための下準備をしているようにしか見えないが。

「あまり私の肉球を触ってくれるな」

ハサミで肉球と肉球の間からはみ出した毛を切っているゴルダに、
バウムは肉球を触るなと言うがやはりゴルダは口笛を吹きながらハサミで毛を切るだけ。

「あれ絶対楽しんでるわ」

ゴルダに綺麗にされたスノーウィーがそう呟く。
その一方でマティルーネは昼寝中で、ルァクルはなぜか蝶を追いかけている。

「むぅ」

今度はゴルダに前足をマッサージされてバウムは渋い顔をしていた。
決して不快ではないのだが、どうにもくすぐったくて仕方がないのだ。

「揉み甲斐がある」

前足に止まらず、足首までマッサージの手が伸びてきたことにバウムは何かを言いかけたが、
不思議と落ち着くので何も言わないことに。

「その技術は我流か?」

「いや違う、癒しの竜から教えてもらった。揉み方から魔力の流し方まで」

なおも口笛を吹きつつマッサージをするゴルダにバウムは我流かと聞いたが、
癒しの竜からの伝授だと返される。

「技術と知識は受け継ぎ受け継いでこそ真価がある。受け継がれない技術や知識は結局そこまでだったと言うことだ」

トントンとバウムの右前足首を叩きながら言うゴルダにバウムは

「確かに、知識と技術は受け継いだら誰かにまた受け継がせないと廃れてしまうな」

ゴルダの言うことに淡々と納得するのであった。

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ゴルダと輝星と昏黒

「昏黒こっちだよ、早く早く」

夏もまだ日の高いうちから昏黒を連れてセイグリッドへやってきた輝星。
だが昏黒の方は夏の日差しの強さを物ともしてない様子で輝星に淡々とついていく。

今日セイグリッドへとやってきたのは以前シアに

「自分に足りないものの探し方にはコツがある」

といったようなことを言われたのを思い出し、
それを聞きに来たのである。

「あれー?シア様どころかメルムーア様もいないや」

城の中を歩き回るも、シアどころかメルムーアの姿も見えず。
居ないねと言いながら輝星が昏黒と城の中を歩いていると、
イファルシアに似た体型に濃い紫毛で額にアメジスト。
満月のような黄色い目のカーバンクルが体から冷気をほんのり出しながら歩いているのを発見。

「昏黒、あのカーバンク知ってる?見たことないけど」

誰だろうと輝星が昏黒に聞くも首を横に振られて分からないという意思表示をされてしまう。
だが、いま2人の目の前に居るカーバンクルは姿こそはかわいいのだが無表情だ。
無表情というと、輝星は昏黒の他にもう1人を思い浮かべた。
それはアルカトラスの孫である

「もしかしてとは思うけど、ゴルダさん?」

ゴルダ、輝星が頭に浮かんだ無表情のもう1人の名がそれだった。
濃い紫毛のカーバンクルは輝星と昏黒をまじまじと眺めてから

「よく俺だと分かったな、ご無沙汰といったところか?」

自分がゴルダであることを認めたうえで久々かと聞く。
輝星はその問いに対して

「久しぶりだね。ところでゴルダさんってアルカトラス様以外にも変身できるの?」

久々に会ったことを肯定しつつアルカトラス以外にも変身できるのかと聞く。
ゴルダはそれにこの姿が何よりの証明だろと言いたげな目線を輝星へ投げる。
なお、昏黒はカーバンクルの姿のゴルダを見て

「輝星が好きそうだ。無表情なのを除けば」

と思うのだった。

その後2人はなおも冷気を出し続けるゴルダに連れられて応接室へ。
ゴルダの話によるとシアとメルムーアはどちらも今日は仕事があって忙しいのだという。
だが、メルムーアは大学で講義をしているので昼過ぎには戻ってくるだろうとのこと。

「ゴルダさん、触ってもいい?」

応接室で互いにソファに無言で座っていると唐突に輝星から触っていいかと聞かれるゴルダ。
輝星がもふもふ好きなのはシアやアルカトラスから聞いているので知ってはいたものの、
実際に触っていいかと聞かれるといかんともしがたい。

だが、断れば輝星ががっかりして信用を無くしそうなので
触るなとは言わずに

「フィルスやイファルシアのように額は触るな。いいな?」

額に触らないようにという条件を課してもふもふを許可。
許可されるや輝星はわーいとゴルダを手始めにハグ。
いきなりのハグにゴルダは渋い顔をしたが輝星から漂う甘い匂いを感じてすぐ無表情に戻る。

「やっぱりフィルス君やイファルシアちゃんみたいにかわいさが物足りないなぁ」

子供ゆえの純粋な意見にもゴルダは強いことはあえて言わずに

「もふもふさえあれば、かわいさがそこまでなくても大丈夫。お前はそうじゃないのか輝星?」

と静かに返す。
それを横で聞いていた昏黒は同意するかのように頷いていた。
基本的に喋らないことが多い昏黒だが、
こういったジェスチャーなどで意思表示はしてくれるので意思疎通が全くできないわけではない。

「もふもふもいいけど、やっぱりかわいさも必要だと僕は思うんだ。ゴルダさんはどう思う?」

深く考えれば哲学の域に達しそうな問いにゴルダは軽くこう返す。

「もふもふイコールかわいいではない、かっこよさや美しさもまたもふもふを惹きたてる。俺の考えはそれだけだ」

輝星はその返しを聞いて少し考えるような仕草をしてから、
ゴルダの耳のあたりを触りながらこんなことを言う。

「惹きたて方って色々なんだね。昏黒も言ってたよ、物事を一方向からだけ見ちゃいけないって」

「王子になるということは将来竜王となる。つまり国を治める存在になるということだ。そうなれば物事を一点集中で見ても仕方がない」

昏黒から物事を一方向からのみ見てはいけない。
多方向から見る必要があると言われたと話され、
ゴルダは将来国を治めることになる以上、
物事を一点からしか見れないようでは国はまとめきれないと返しつつ輝星に触られた耳を動かした。

「そこに居たのね、やっと講義終わったわ」

スッと応接室に入ってきたメルムーアに、昏黒は軽く頭を下げて挨拶。
輝星はゴルダをもふもふしていたのですぐには気づかなかったが昏黒が頭を下げているのに気付き

「あっ、メルムーア様」

「いらっしゃい」

遅れて挨拶。
なおゴルダは輝星の方をずっと見ていたので気配だけを感じて

「来るとは思っていた」

と呟き輝星を撫でた。
なおその後はメルムーアが輝星にゴルダには関係のないことを話しっぱなしだったとか。

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真夏の昼下がりのひと時

外が昇華しかねない暑さにもかかわらず、
快適な温度と湿度が保たれたゴルダの家の中。

そんな家の中で、
瑠璃夢の膝に座るミリシェンスよりも濃い紫の毛で満月のような黄色い目のカーバンクル。
その隣にはルーナの膝に座るアイレ。
床ではフウがレルヴィンにもたれてポケモンのムーンをプレイ中。
ミリシェンスはユウとマティルーネと共にブレイクタイム。
ヘフィアは家中の刃物を研ぐ作業をしていた。

「しかし、お前がこんなかわいい姿に変身できるとはな」

「俺とて色々ある、追求するな。あと額を触らないでくれ」

クックと笑いながら、膝の上の濃い紫毛のカーバンクルことゴルダを撫でる瑠璃夢。
ゴルダは瑠璃夢の手が自分の額に宿るアメジストこと核石に触れようとしたので、
額に触るなと言ったが瑠璃夢はお構いなしに触れる。
それに一瞬ビクッとしたゴルダは瑠璃夢の手を掴んで

「やめろ、俺でも不意打ちはたまにはびっくりする」

今一度やめろと強めに鋭い目付きをしながら言う。

「なんじゃ、アイレは触っても平気だと言うのにつまらぬの」

それに瑠璃夢はアイレなんともないのにつまらんと不満を漏らし、
掴まれていた手を振りほどく。

「瑠璃夢さん、この世界のカーバンクルたちは下手に額の石を触られるのを良しとしないんですよ。魔力制御が乱れるとかで」

そこへルーナがフォローを入れるように触ってはいけない理由を説明。
瑠璃夢はそれでも納得いかないような様子で

「そこまで触られるのが嫌なら私もう触らん。確約はできぬが。だが私の膝には座れ」

渋々触らないことに了承するも、
膝には座れとそこは譲らなかった。

「あっ、アローラロコンの色違い」

フウの一言にゴルダはピクリと耳傾け、
瑠璃夢の膝から降りてフウの3DSを覗く。
確かにそれはアローラロコン色違いで、
色違いを示す星もついていた。

「色違いはやれそれ出る代物じゃないからな」

「やったー」

なんだかんだでムーンを殿堂入りまでクリアしたフウが始めたのは、
野生で手に入る伝説や幻を除いたポケモンの色違い集め。

ネットなどを使ってコツコツとではあるが、
集まってはきてはいるようである。

「あれがソシャゲだったら、とんでもないことになってるわね」

アローラロコン色違いではしゃぐフウを見て、
ミリシェンスはあれがソシャゲだったらどうなっていたか分からないと話す。
「使う人はいくらでも使うみたいですね、ちょっと怖いです」

ミリシェンス一言にユウは、
ソシャゲに際限なく注ぎ込める者が怖いと返す。

「種類と腐ってる以外の状態問わずの、人参というか野菜ガチャがあったらいいのに」

2人のソシャゲのガチャの話に反応したのだろうか、
マティルーネが人参もとい野菜ガチャでもあればいいのにと呟く。
それに対しユウは苦笑いし、ミリシェンスはそれはそれでと言いたげな顔をしながらコーヒーを飲む。

「これ、私の膝に戻れ」

「もう十分だろう?」

フウとポケモンをし始めたゴルダに瑠璃夢は膝に戻れと言うが、
ゴルダは本来の人の姿へ戻り、もう十分だろと断言。
だが瑠璃夢はまだ満足してない様子である。

「あー、なるほど。これは簡単に満足しないね」

クェムリーヴェスが瑠璃夢に探りを入れたらしく、
簡単に満足するはずがないと断言。

相変わらず不満げな顔をする瑠璃夢にゴルダはいつものように

「雪見だいふくで手を打とう。俺もあの姿は気に入っているがあのままずっとというのは厳しい」

ともかく瑠璃夢をどうにか文句を言わせないようにしようと、
雪見だいふくを出そうと言ったが瑠璃夢は首を横へ降り

「今日はその手には乗らぬ。私の膝に戻るか居座られるかを選ぶがよい」

膝に戻るか居座られるかを選べと言い出す。
それを聞いたクェムリーヴェスはゴルダに

「遅かったや。今日はいつもと同じ手が通用しないよって忠告しようしたのに」

いつもと同じ手は通用しないと言おうとしたが遅かったと話すが、
クェムリーヴェスの場合最初から言う気などなかったことをゴルダは知っていた。

「ダメですよ瑠璃夢さん、ゴルダさんを困らせちゃ。変身能力って意外と魔力使うから難しいんだよ。下手すれば元に戻れなくなるってシアさん言ってたよ」

すると、今の今までルーナの膝の上でボーっとして黙っていたアイレが唐突に瑠璃夢へ向けてそんなことを言い放つ。
予想外の者からの一言に、
瑠璃夢は一瞬たじろいだがすぐ何事もなかったかのように

「そこまで言うなら、お前が私の膝に来い。私を満足させてみるがよ」

アイレに自分の膝へ来いと膝をポンポンと叩いて促す。

だがアイレは渋い顔を投げかけるだけで拒否。
瑠璃夢も知っていたと言わんばかりの顔をしてから

「仕方ない。雪見だいふくで勘弁しようではないか。だが条件がある。私にそれを食べさせるのだ。膝の上で」

雪見だいふくで勘弁するが、
膝の上で自分に食べさせろという我儘な条件を押し付けてきた。

「それでお前が満足するとは思えんのだが、本当にそれでいいのか?」

ゴルダの問いに瑠璃夢は今さら何をと言わんばかりの顔で

「早くやるがよい」

早くしろと催促。

ゴルダはそれに分が悪そうな顔をしながら変身能力を発動。
次の瞬間ゴルダ居た場所には濃い紫毛で満月のように黄色い目、アメジストを額に宿したカーバンクルがそこには居た。

「一瞬で変身出来ちゃうんですね」

変身したゴルダを見てのルーナの一言を軽い頷きで流し、
台所の方へと歩いていくゴルダ。

「妙だな、買い置きがあったはずだが」

冷凍庫を引っかき回すゴルダに、
見かねたミリシェンスが奥の方にあった雪見だいふくを差し出す。

「最近こっちの世界で作られなくなって、全部日本からの輸入になってるのよね」

ミリシェンスの「最近は買うと高い」という、
遠回しな一言をこれまた首を縦に振る返事で済ませたゴルダは瑠璃夢の元へ。

「早くするのだ」

せかす瑠璃夢にゴルダは待てと制し、
無表情な顔で瑠璃夢の膝にふわりと座って開封。
中には餅に包まれたバニラアイスが二つ、
若干の白い煙を上げて白い餅の肌をさらけ出していた。

「そしてこれを、こうする」

次にゴルダが取り出したのはなんの変哲もない皿にナイフ。
その皿に雪見だいふくを取り分け、
ナイフでさらに切り分ける。

「私の取り分が少ないのだが」

そんな文句を言う瑠璃夢にゴルダは切り分けた一つを取り、
瑠璃夢の口に近づける。

瑠璃夢は自分の言いだしたことなので黙って口を開け、
ゴルダが近づけた雪見だいふくを受け入れた。

「溶け始めてるが、美味じゃの。もっとだ」

一欠片で満足するとでも思っていたのかと言わんばかりに、
美味とは言いつつも次を要求する瑠璃夢。

そして二欠片目を口に入れた後、
ゴルダは瑠璃夢の膝に座ったままアイレとルーナに

「お前達も口開けろ、食わせてやるから」

食わせるから口を開けるように言う。
アイレとルーナは言われた通りに口を開けていると雪見だいふくが入れられる。

いきなり口の中へ雪見だいふくを入れられ、
アイレもルーナもぽかんとしたものの、
口の中で溶けて広がる甘さに思わず顔がほころぶ。

「うまいか?」

ほんのりと口元に笑みを浮かべ、
うまいかとゴルダに聞かれた2人はそっと頷く。

「それは良かった」

無表情かつ怒り以外の表情を見せたことのないゴルダが、
カーバンクルの姿ではあるものの笑顔を見せたことで瑠璃夢はそんなゴルダを思いっきり抱きしめる。

「やめろ」

いきなり抱きしめられれてびっくりしたのだろうか、
やめろと言ったゴルダに瑠璃夢は頬ずりをしながら不敵に笑い

「私がかわいいものに目がないことは知っておるだろうに」

と言ってまた額を触る。
するとどうだろうか、魔力制御に異常をきたしたらしくゴルダは黄昏たような状態に。

「だっ、大丈夫ですか?ゴルダさん」

それを見たルーナが慌てて声をかけるとゴルダは手を追い払うような仕草をした。
問題ないということらしい。

「やっぱり触らない方がいいよ」

アイレに触らない方がいいと言われた瑠璃夢は少し考えてから、
急にアイレも引き寄せてゴルダと一緒にまた抱きしめる。

「お前達、今日は私のところに泊まれ。異論は認めぬぞ」

その直後の瑠璃夢の一言にゴルダとアイレは

「きついジョークだ」

「えー?」

それぞれ苦笑いに困った顔をした。
だが瑠璃夢はそんなことはお構いなしに2人を連れて行ってしまったという。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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