氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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夢竜住まいし精神世界

ここはゴルダの精神世界上に作られた談話室。
いつもは1人なのだが、クェムリーヴェスがやってきてからは2人でこの空間を共有している。
魂にくっ付いている関係上、クェムリーヴェスが単体で具現化できるのはこの世界の中のみ。

「しかしなんでまた君はあんな仕事を受けたんだい?」

「受けようが断ろうが、面倒ごとになることは目に見えていたから受けた。結果的には断ったほうが面倒ごとは少なかったが」

精神世界上でのみ面と向かって話せるため、ゴルダとクェムリーヴェスの会話は毎日こんなものばかり。
たまにゴルダがやっているゲームの話や料理の話などもするのだが、大抵は仕事に関する話が多い。

「ま、いいけどさ。君らしいといえば君らしいし。でも受ける仕事は考えた方がいいよ?異界だとそこの警察とかの世話になりかねないし」

「中国に依頼で行ったときの話か?あの時は口止め料で高くついたな」

ゴルダはウォッカ片手に、クェムリーヴェスはジンライムを片手にそれぞれ話をしている。
今日の談話室は暖炉に火はついておらず、窓から見える空は快晴の月夜。

「ところでさ、君も気づいてると思うけどさっきから君と僕以外の気配がするんだよね。少なくとも見知ったものじゃない」

ゴルダのグラスに入っていた氷が溶け、カランと音を立てた瞬間。
クェムリーヴェスが耳をかすかに動かしてそんなことを呟く。

「口には出さんかったが、確かにもう1人いるな。俺とお前くらいに精神属性が強い」

クェムリーヴェスの一言にゴルダはグラスをテーブルへ置き、ソファから立ち上がる。
今のところ敵意は感じられないが、隠しているだけの可能性もあるため油断はならない。

「誰かは分からんが、入り口の前に突っ立ってないで入ってこい」

「ええ、そうさせてもらいますわ。でも、どうしてここでも飲んだくれているのかは存じ上げませんか」

皮肉のようにも聞えるようなことを言いつつ、水色を基調とした竜が扉を開けて談話室へと入って来る。

「君、夢竜だね。闇竜の国が消えたと同時に精神世界へ肉体ごと旅立ったとされる」

夢竜。
精神属性への適性が極めて高いとされる闇竜の一種族であるが、かの闇竜国アルヴァスが国としての概念を消したと同時に
肉体ごと精神世界へ移住し、この世界から姿を消したとされる。
一部の夢竜はこの世界へ残り、現在も暮らしているとのことだが真相は不明。
なぜなら、あのシアですらも夢竜たちの動向を把握しきれていないからだ。

「よくお分かりで、でも無理もないかしら。あなたも精神属性と闇属性の使い手のようだし」

夢竜は意外と大きい右手を口元に当てながらクェムリーヴェスに言う。
一方ゴルダは何事もなかったかのようにウォッカを注ぎ足し、また飲んでいた。

「あらあらあら、そこのも居たの。ただの飲んだくれかと思ったけど、そうでもなさそう」

ウォッカを飲むゴルダに、夢竜はまた飲んだくれなどと馬鹿にするように言いながら近寄り、左手で腹を小突く。

「何がしたい?酒が欲しいなら入れよう、何を飲む?」

腹小突きをそういうニュアンスで汲み取ったのか、酒が飲みたいのならば何がいいと夢竜に聞くゴルダ。
夢竜は少し考えるように顎のあたりに手を置き、沈黙。

「ジントニック」

数十秒沈黙したのち、夢竜はジントニックを所望。
ゴルダは余計なことは何も言わず、ジントニックをそそくさと作って出す。

「ありがとう、でもその動じなさそうな顔はいかがなものかと」

「口の利き方を考えたまえお嬢さん」

夢竜の嫌味ったらしい物言いに、さすがのゴルダもどうなのかと思ったのだろう。
口の利き方を考えろと言ったところ、夢竜は目を怪しげに光らせながら

「そうは言ってもあなた、嫌味言われることを何とも思ってない節があって?」

ゴルダの心を読んできた。
言うまでもなく、この夢竜に嫌味などを言われてもゴルダは何とも思っていない。
なぜかと言うと、ムキになったところでどうしようもないと思っていた節があったからだ。

「どうでもいいことだ、それより名を名乗れ。読めるなら俺の名は名乗らずとも分かるだろ」

どうでもいいことと切り捨て、夢竜に名を名乗れと言い出したゴルダ。
夢竜はまたあらあらあらと呟き、一言。

「ナルファリンシンズ。姓は忘れたわ、私の記憶力も意外とポンコツね」

と名乗り、ジントニックを飲む。
夢竜改めナルファリンシンズは談話室の中を一通り見渡すとソファへ座り、

「あなたもおかけにならない?こちらが座り、そっちが立って話をされるとなんだか嫌なのよね」

遠回しに立って話をされると見下されているようで嫌だと言うナルファリンシンズに、
ゴルダは反論も肯定もせず向かい合うように座る。
ナルファリンシンズはそんなゴルダに一瞬笑いかけると、グラスを置いて自分の爪の手入れを始めた。

どこから爪を手入れする道具を出したのかと思われがちだが、精神世界では自分が欲しいと思ってイメージしたものは
大体具現化して取り出すことができる。
無論、誰もが何でもかんでも出せるわけではなく精神属性への適性によって取り出せるものの種類などが変わる。
ナルファリンシンズレベルの適性であれば、爪の手入れ道具を出すことなど朝飯前。

「ここで爪の手入れはやめていただきたいものだが」

酒を飲む場所で爪の手入れをするなと言うゴルダに、ナルファリンシンズはゴミ箱を出し、その上で爪を削りだす。
ここまでくるとゴルダも言っても無駄だと悟り、葉巻のようなものに火をつけた。

「精神世界で生き始めて何年くらいだ?」

葉巻を吸いながら問うゴルダにナルファリンシンズは爪を削る手を止め、顔を上げるときょとんとした顔で

「さぁ?少なくとも3桁年は経過していると思うわ、精神世界での時の概念は望まないと構築されないのよね。でも、記憶は薄れる薄れる」

覚えているはずがないと言い切り、また爪を手入れしだす。

「そろそろ俺は精神世界から離れるとしよう、いい加減寝る」

「そう、おやすみなさい」

「もう寝るのかい?僕はもう少し居るけど」

寝ると言ってグラスを消し、葉巻を置いたゴルダは談話室を出た。
ゴルダが自身の精神世界に作り出している空間はこの談話室のみで、談話室の外は誰かの精神世界あるいは精神世界からの出口。
なお、ゴルダがこの談話室から出たとしても空間は維持される。
なぜならクェムリーヴェスはこの談話室内でほとんどを過ごしているからだ。
ゴルダが入ってきていないときは勝手に談話室を作り替えたりして使っているようではあるが。

さて、その数時間後。
ゴルダはベッドからいつも通り起き上がり、一通り身支度を済ませると食事当番のため朝食の用意を始める。
半覚醒睡眠という、半分は寝て半分は起きる眠り方をしているゴルダは起床後1秒もかからず行動を開始できるのだが
クェムリーヴェスが魂にくっ付いてからはそれもやや難しくなっているのだという。

「意図的に切り替えられないことが欠点だ、この眠り方は」

サラダチキンをほぐしてサラダを作りつつ、ゴルダはナルファリンシンズのことを考える。
彼女が談話室へ入ってきた瞬間、ゴルダは自分の魂にクェムリーヴェスとは別の何かがくっ付いたような感覚を覚えた。
精神世界と魂も、また切っては切り離せない関係である以上致し方ないと言えば致し方ないのだが、魂にまで干渉してくるものはそう多くない。

「おい、起きてるか?」

ゴルダはクェムリーヴェスに声をかける。
すると、クェムリーヴェスとナルファリンシンズが同時に

「どうしたんだい?」

「おはよう、朝早いのね」

と応答してきたのでゴルダは無意識のうちに舌打ちする。
どうやらナルファリンシンズはゴルダの精神世界に居つくようになったようだ。

「今度から同時に話すな、1人ずつでだ。あとお前が俺の精神世界に居座るようになったことはこの際気にしない」

ゴルダはそれだけを言ってまた朝食の用意へ。
その間クェムリーヴェスとナルファリンシンズが何かを話していたが、聞いている限りではゴルダ自身のことのようであった。

「すでに俺の魂を侵食しているのか?まあそれは確定事項だろう。問題はどこまで入って来るかだが」

ミリシェンスが飲む紅茶用に湯を沸かしながら呟いたゴルダに、ナルファリンシンズがふわっと

「そこまで奥まで入り込めそうにないわね、だらだらと精神世界で生きてきたから魂にはくっつけてもそれ以上は」

魂にくっ付くのが精一杯であると断言。
だがその物言いからして、衰えた力を取り戻せれば全てを侵食することもたやすそうだ。
ナルファリンシンズを含めた夢竜の情報が少ない今は、本人から直接聞き出すか調べるほかない。

「それと、夢竜について私に聞いても無駄よ。精神世界で生きすぎて自分がどういう種族なのかすぐには思い出せないから。セイグリッドへ行ったら?」

聞こうとしていたことを読まれていたのか、ナルファリンシンズに自分がどういう種族だったのかすぐには思い出せないのでセイグリッドへ行けと言われた。
幸いにも今日は特に依頼が1つだけなので時間の余裕は十二分にある。

「こういう時に限ってシアから何の反応もないのも気がかりだ。城の図書室へ行くか」

そそくさと朝食を用意したうえで済ませ、ゴルダは依頼へと向かう。
今日の依頼は決して怪しくはない荷物運び。
ただの建築用の機械運びなのだが、依頼主である建築会社のトラックが1台修理のために足りないので軽トラックでもいいから出してくれというものだった。
依頼主との待ち合わせ場所へと向かう途中、車内でゴルダが流す音楽にナルファリンシンズが反応する。

「この曲、確かとある科学の超電磁砲(レールガン)のオープニングよね。意外だわ」

アニメの曲を聴くことを意外だと言い出したナルファリンシンズ。
だがゴルダは運転に集中しているために話は聞いている反応しない。

「こう見えてゴルダは平沢進とかも聞くから侮れないよ」

「平沢進?なんだか聞いたことがあるわね」

自由奔放に会話する2人を差し置き、ゴルダは引き続き運転に集中する。
自分の精神の中でこんなことをされたら集中もへったくれもないのではと思われがちだが、クェムリーヴェスが意図的に仕切りを作っているので問題ない。
仕切りの向こう側の話は聞こえるが、ゴルダの集中を決して邪魔することはないのだ。

「助かったぜ、いつも悪いな」

「危ないブツでなければお安い御用だ、また用があったら呼べ」

その後何事もなく依頼を終わらせたゴルダは、自分の軽トラへ再び乗り込んで一度家へ戻る。
帰路の途中、ゴルダはナルファリンシンズもとい夢竜が持つ精神属性と闇属性への適性に関し自分なりに探りを入れた結果を頭の中で展開。
正直なところ、本来の力を取り戻せばクェムリーヴェスを超えかねないほどの適性はあると見て間違いはない。
また、ゴルダ自身の精神属性耐性も突破されかねないが、ナルファリンシンズが芯まで侵食してくる可能性は現時点では低い。

「いまだシアからの反応なし、静観しているのかはたまた無視しているのか」

運転しながらそんなことを呟いていると、クェムリーヴェスから

「僕が感知した範囲ではシアは静観モードだね。何の意図があって静観しているのかは不明だけど」

シアが静観モードであることを告げられた。
だいたいこういう時に限って静観している場合はこっちから来るのを待っていることが多く、本当の様子見である。
以前ゴルダはなぜ分かってるなら来いと言わないとシアに問いただしたこともあったが、適当にはぐらかされた。

「ひとまず帰ることが先決だ」
ゴルダはそう決断し、アクセルを踏み込んで帰路を急ぐ。

場所は変わり、セイグリッド城図書室。
あの後飛ばしすぎと2人に言われながらも帰り着いたゴルダは家に鍵を放り投げ、座標指定テレポートでセイグリッドへとやって来た。

「泣竜じゃねえ、それはアルガントだ。かといって吸血竜でもない」

火竜族に関する本と比べると多いが他の種族と比べて少ない闇竜族の本棚を調べる。
闇竜族も火竜族と同じく国が消えたと同時にこの世界のあちこちあるいは異界へ散り、シアですらもまだちゃんとこの世界には居るということ以外は把握できていない。
故にまだ国があったころの本が多く、国が消えた後に出た本はほんのわずか。

「『夢竜備忘録』、この本だけか」

ようやく見つけ出した本は、まだ闇竜の国アルヴァスがあったころに書かれたとしか思えないほどに古い本。
奥付の発刊日は大陸歴2800年後半と実に200年近く前の本だ。
こんなにも古い本が状態の良い状態で置かれているのは、アルカトラスがそういった方向にも力を入れている証拠。

「発刊年見てふと思い出したんだけど、大陸歴2800年後半なら私はまだ子供だったわ」

奥付を調べてたゴルダに、ナルファリンシンズがそんなことを言う。
つまりナルファリンシンズの実年齢は200後半か300手前ということになる。

「でも、年ばかり重ねても何の意味もないことはあなたも分かるでしょう?無駄をひたすら積み重ねるだけの生。精神世界での生がまさにそれだった」

「俺と出会ってそれが変わったと?だがそれはただのきっかけだ、本当に変えられるか否かはお前次第」

遠回しにあなたと出会ったことで変われたと言うナルファリンシンズを、本当に変われるかどうかはお前次第だと言い切るゴルダ。
その後、『夢竜備忘録』を読んでいると、頭に紙飛行機でも当たったかのような違和感を感じたかと思いきや

「来て」

シアがただ一言こっちへ来いとだけ告げてきた。
何ともシンプルな呼びつけ方である。

そうしてシアのところへ行くと、寝起きと言わんばかりの顔で出迎えられた。
ゴルダはそれを見るや無言で目の前に座り、シアが覚醒するのを待つ。
やがて覚醒したシアは一旦人の姿でサフィが運んできた朝食を取り、また元の姿へ戻ってから

「ナルファリンシンズと話をさせて」

単刀直入にナルファリンシンズと話をさせろと言ってきた。
これにゴルダは少し考えた後に

「俺の体を借りて出てこれるか?」

ナルファリンシンズに変身能力を用いて出てこれないかと聞く。
それに対して帰ってきたのは、肉球のある大きな手で頭をぱふぱふされたかのような感覚。
肯定の意思表示とみなして間違いないだろう。

「ならば、出てこい。だが俺の意識は2割は最低でも残しておけよ」

そう言った次の瞬間。
急にゴルダの手、そして腕の骨格が変わりだした。
5本指から4本指へ、手は大きく、腕は太く、そして紫に近い青と水色の毛が生えだす。
さらに今までなかった肉球が出現し、爪も伸びる。

次に体自体の骨格が多少縮み、かなり太い尻尾が生えてきたかと思えば女性っぽい骨格に変わる。
ナルファリンシンズはどうやら女性のようである。
体毛が生えそろい、体のあちこちに模様が浮かび上がり、これまた大きな垂れ耳へと変わったところでゴルダもといナルファリンシンズは顔を上げ、自分の耳をかき上げると軽く頭を振るう。

「初めましてかしら?」

クェムリーヴェスと同じ斜めの瞳孔をした目でシアを見つめながら、ゴルダもといナルファリンシンズはお茶を頂戴という仕草をする。
シアは図々しいとも思わず、サフィを呼んで茶を準備させるとナルファリンシンズと共に飲み始めた。

「実際に会うのは初めてかしらね、夢竜たちは皆肉体を捨てて精神世界へ移り住んでしまったから。その理由を知る由もなかった」

茶を飲みながらナルファリンシンズになぜ精神世界へ移り住んだのかを遠回しに問うシア。
それにナルファリンシンズはこう答えた。

「肉体の縛りを捨てるためとでも言えばよいかしら?必要ならば誰かの精神へ入り込んで乗っ取ればいい話」

肉体の縛りを捨てるため。
精神世界に関してはアルカトラスとあまり触れないよう取り決めていたため無頓着に近い状態であったが、これを聞いてふと考えさせられる。
だがたとえ精神世界へ行けたとしても、その姿を自在に変えたりすることが可能なのは精神属性への高い適性があるもののみ。
それ以外のものは姿を変えることなど叶わない。

「でも肉体を捨てて、精神世界へ移り住めるのは限られたものだけ。だから私は新たな生を提供し続ける」

「私はあなたのしていることを否定するつもりなんてなくてよ?神としての仕事を全うできる、素晴らしいことじゃないの」

その言葉に、なぜかシアは救われた気がした。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

小説(一次) |

出会い-ルァクルと

「誰この子は?」

その日の朝、ゴルダはミリシェンスのその一言で目を覚ます。
どうにも昨夜の記憶が思い出せないあたり、久々に相当な量を飲んできたのだろう。
居間のテーブルの上には、携帯と財布が乱雑に放り投げられており酔っていたことは一目瞭然。

しかし、ミリシェンスの一言がどうにも引っかかる。
自分の頭を軽く掌底で叩きながらゴルダが起き上がると、
そこには狐に似た幻獣族がゴルダをじっと見つめていた。

「知らん、酔っていた時に何をしていたのか思い出せん」

ゴルダは酔っていた時に何をしたのかが思い出せないとはいいつつも、
その幻獣族の名前が「ルァクル」という名であるのはしっかり覚えていた。
脚がかなり発達しており、そこら辺の木であれば忍者のように飛び乗れるだろう。
それ以外に目を引くのは、背に生えたおそらく羽のような何かと、首に下げたペンダント。

「頭が覚醒すれば何か思い出せるでしょうね、はい水」

ミリシェンスから水を受け取り、一気に飲み干すゴルダ。
まだ酔いは覚めていないが、昨夜自分が何をしていたのかを思い出してきた。
それは昨夜依頼を終え、依頼主と飲んでいた時の事---。

「乾杯」

「うむ、乾杯」

外見は人だが、実は異界の魔族だという依頼者からエマセレスとミスリルの買い付け手伝いの依頼を終え、
行きつけのバーでスピリタスのショットグラスで乾杯する2人。
怪しい依頼でもなく、普通に買い付けて依頼者の出身世界へ送るだけで50万ゴールド近い報酬。
こういう羽振りのいい依頼者はごくまれに存在し、
ちょっとしたボディーガードの依頼だけで過去に300万ゴールド近い報酬をもらったことがゴルダにはある。

「やはりスピリタスは効く」

「ほとんどアルコールだがな」

スピリタスを引っ掛けて上機嫌な依頼主と、スピリタスの次は獺祭の磨き二割三分を飲むゴルダ。
2人は次から次へと酒を頼んでいき、滅多に酔わないゴルダも程よく酒が回ってきた辺りで依頼者がこんな話を持ち掛けた。

「あんた、幻想獣医師とか言ってたよな。ちょいと見せたいものがあるんだが、興味はあるか?」

本格的に酔っているわけでもなく、ほろ酔い状態のゴルダはふむと呟いて肯定する。
依頼者はそうこなくてはと言って2人分の勘定を押し付けてゴルダと共に店を出た。

「見せたいもんってのはこれだ」

依頼者にバーの裏へ連れてこられたゴルダは、目の前に狐に似た幻獣族を差し出される。
大きさはレルヴィンより少し小さい程度で、背に羽を生やし、ペンダントを下げている。

「こっちの世界で言う、幻獣族の一種だな」

ゴルダはその狐に似た幻獣族の目線の高さまでしゃがみながら呟く。
すると、狐に似た幻獣族はゴルダの匂いをスンスンと嗅ぐと、その周りを回りだすという仕草を見せた。
おそらく、ゴルダに強い興味を示しているのだろう。

「ふぅむ。ルァクルが他人に秒速で懐くとはあんたやっぱ素質があるな」

依頼者の一言にゴルダは、そうなのかと返し狐に似た幻獣族改めルァクルに自分の手の匂いを嗅がせてから頭をなでる。
それにルァクルは一切嫌がらず、むしろゴルダの手に自ら頭を擦り付けてきた。
依頼者がゴルダにルァクルを会わせた理由は、ほぼ間違いなく里親になってほしいということなのだろう。

「里親になれという追加依頼か?ならさらにドネート(報酬)をもらうぞ。最低20万ゴールドだ」

里親を探せ、一時的に預かってほしいなどの依頼は珍しくはないのだが、里親になれという依頼は初めてである。
ゴルダは里親になれという依頼であれば最低20万ゴールドからだと交渉を持ち掛けた。
依頼者は渋い顔をしながらも、どこからか1万ゴールド紙幣を50枚も取り出して

「向こうへ戻ったら値段ピンパネして売らねぇと大赤字だ。報酬を受け取れ、これで足りるだろ?」

これで足りるだろとゴルダに押し付け、夜の闇へと消えていった。
残されたゴルダは、ルァクルに

「俺はゴルダだ、今後とも見知り置きを」

自らの名を名乗り、帰路へと着いたのだった。

それから30分ほどして、ゴルダは酒の抜けぬまま家へと帰宅。
家の明かりはすでに消えており、ミリシェンス達はもう寝いているようだ。
家の中へ入り、明かりをつけて台所へ行き水を飲もうとしたところルァクルが常について回ることをゴルダは知る。
だが、ルァクルは決してゴルダが歩く邪魔にならないように配慮をしてついて回っていることから、
主人と認めたものにはどうやらとことん尽くす?性格のようだ。

「お前はどうやら俺の言っていることを理解はしているらしいが、お前の話す言語が分からん」

冷蔵庫のミネラルウォーターをぐいと飲み、じっとゴルダを見つめているルァクルにゴルダはそんなことを呟く。
するとルァクルは急に口を開いて

「これでお分かりかと思うが、いかがだろうか?」

聞いた感じではメインは幻獣語、サブ言語としてエルフ語とアストライズ方言の
ドランザニア語が混じったような言語をルアクルは話した。
メインは幻獣語なので、幻獣語が理解できれば十二分な意志疎通は可能だろう。

「とりあえず、俺は寝る。お前は好きなように寝てくれ」

水を飲み終えたゴルダは居間のテーブルに携帯と財布を放り投げ、ソファへ横になってそのまま寝てしまう。
一方ルァクルはソファの傍で丸まって寝ることにした。
これが昨夜の出来事である。

「依頼で、里親になった。それでいいのね?」

ようやく頭が覚醒し、昨夜のことを思い出したゴルダは経緯をミリシェンスに話す。
一方ルァクルは何を食べるか分からないので、ミリシェンスが適当に用意した朝食を何の文句も言わず食べていた。

「それ大金掴まされて、里親にさせられたと言ったほうが早いんじゃないの?」

ミリシェンスの言葉に、ゴルダはあながち間違いでもないと返しながらコーヒーを飲む。
大飯食らいなレルヴィンが居ても家計に全くダメージが入らない程度には収入が潤っているゴルダ家の家計だが、
あまり同居人が増えすぎるのも考えものである。

「なるようになるだろう」

ゴルダのその一言に、ミリシェンスはわずかに呆れるのだった。

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小説(一次) |

時期尚早の氷花

その日はブリザードもなく、澄んだ万年雪国の夜空に下弦の月が淡く光っていた。
そんな月夜の元でエインセルスは雪原移動用の竜に乗り、夜の雪原を駆ける。
なぜこんな夜から城を出て雪原を移動しているのかというと、氷花竜の気配を1月ほど早く感じ、不思議に思って調べるために城を飛び出したのだ。

例年では、氷花竜は3の月から4の月の間しか現れず、それ以降は一切姿を見せなくなる。
それが1月も早く現れたということは何かあったに違いない。
スノーヴァにも気になるなら今すぐ行動を起こせと背中を押され、城の者の制止を振り切ってエインセルスはこうして夜の雪原をスノーヴァと共に駆けている。

「魔力観測所からは今年に入って特に変化はないと最近報告を受けたばかりだが、気づけていない何かが起きているのか?」

ふと独り言を漏らしたエインセルスに、スノーヴァはかすかに尻尾を揺らして

「ほぼ間違いない、実は2の月に入ってすぐからいわゆる『春の魔力』というものが強く感じられた。この魔力は普通2の月の終わり辺りから感じるものだ」
例年より早く春の魔力を感じたと話す。
それに対してエインセルスはそうかと頷き、例年氷花竜が必ず現れる場所へと急ぐ。

一方で、リヴァルスウルフ達も氷花竜の気配を感じ取り、族長のシェリスが行動を起こしていた。
他の同族は連れず、ただ1人で。

「おかしい。現れるには早すぎる」

エインセルスと同じ考えをしていたシェリスは、氷花竜の出現場所へと走る。
例年より早く現れるということは、何かがあるはずだ。
やがてシェリスは氷花竜が現れる場所へと到達した。

「気配はする、でもまだ現れてない。そして氷花が咲いている」

氷花が咲いているところを見ると、出没したのはほぼ間違いないのだが肝心な氷花竜の姿が見えない。
シェリスがしばらく辺りを注意深く調べていると、雪原移動用の竜に乗ったエインセルスとスノーヴァがやって来た。

「来たのね」

シェリスは素っ気なくエインセルスに言うと、顎で氷花を指す。
エインセルスは指された方に咲いている氷花に近寄り、調べようとしたがスノーヴァがふわりと肩から降りてその氷花を食べてしまった。

「無味か、普通はほんのり甘いんだけど」

それがどういう意を示すの?とシェリスに目線で訴えられたスノーヴァは、他にもたくさん咲いていた氷花を前足で1つ摘み取ると

「氷花は例年通り咲いていれば春の魔力を含んでほんのり甘い。だがこの氷花は無味。誰かが人工的な春の魔力を放出したせいだろう」

それをシェリスの前に突き出して、誰かが人工的な春の魔力を放出しているからだと言う。

シェリスはそれに納得したような顔をして、あとはあなた達に任せるわと言わんばかりに去っていく。

「人工的な春の魔力には心当たりがある。農業研究所の連中が最近研究用に置いてあった四季の人工魔力のうち春の魔力を誤って外へ放出したという障害報告が上がっていたのを今思い出した」

人工的な春の魔力が氷花竜を例年よりも早く出没させたというスノーヴァに、エインセルスは農業研究所で四季の人工魔力のうち春の魔力が外へ放出されたことがあったことを思い出したと呟く。

「それでか、なかなか厄介なものだ。以降厳重注意するよう伝えたんだろうな?」

「無論の事」

そんな会話をしながらリャダヴィルチへと戻っていく2人を、1匹の氷花竜が木の陰から見送っていた。

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小説(一次) |

耳掻き、されてみませんか?

ある日のこと、ゴルダは風呂上がりに耳掃除の魔法で自分の耳を掃除していた。
綿棒や耳掻きなどを使わずして耳掃除ができるのは、魔法の発展した世界の特権だろう。
するとそれを見たミリシェンスが

「そんな自分でやらなくても言ってくれればやるわよ?」

などと言い出す。

そこでふと思い出された、ゴルダの薄れていたアルガティアのところで過ごした子供時代の記憶には、アルガティアか王宮の従者にいつも耳掃除をしてもらっていたという記憶。
だがいつしか、耳掃除の魔法を取得してからは自分でやるようになり、人の手を借りなくなった。

「人の手借りずともできることは全て自分でできるようにしろ」

かつて父であるロドルフォや、家庭教師をしていたルライエッタに散々言われてきたこの言葉が、今のほとんどのことを一人でこなせるゴルダを形作ったと言っても過言ではない。
現にこうしてゴルダは1人で耳掃除をしている。

「1人でできることでも、たまには人の手を借りないとすり減っていくだけ。人に差し伸べられた好意はまずは受け取らないと」

そうでしょ?という顔をするミリシェンスを見てゴルダは、耳掃除を止めて思慮にふける。

1人できることは全て1人でやるというゴルダのくだらなくも確固たるアイデンティティが、肯定の意思を示すのをよしとしない。
人に頼るは最終手段であり、切り札。普段は切ってはならないカード。
ゴルダはそれを切るか切るまいかの瀬戸際に立たされている。

「じれったいわね。いいからソファに横になりなさい」

石像かというくらいに微動だにしなかったゴルダに、痺れを切らしたミリシェンスがとにかく横になれと命じてきたので、ゴルダは何も言わずに片耳を天井に向けて横になる。
するとそこへミリシェンスがふわっと寄ってきて耳掻きを出す。

「以外ときれいなのね、あなたの耳って」

有無を言わさず耳掃除を始めたミリシェンスに言われ、ゴルダは

「ほとんど毎日掃除しているからな」

とだけ返し、ミリシェンスにさせたいように耳掃除をさせる。
なおミリシェンスとゴルダでは体格差があるので、ミリシェンスはゴルダの両肩の上に乗る形で耳掃除をしている。
その際首や顔、耳にミリシェンスの体毛が触れているがゴルダは全く気にしていない様子。
おそらく、その違和感が心地よいものなのだろう。

「はいおしまい、逆の耳もするから姿勢変えて」

一旦自分から離れたミリシェンスに言われて、ゴルダは軽く頷いてから寝相を逆の耳が天井に向くようにする。
それを確認したところで、ミリシェンスはまたゴルダに乗っかって耳掻きを始める。
だがしかし、相変わらずの構図であった。

「でもこうして耳掃除していると、前の世界が懐かしくも感じるわ」何故か過去の回想に浸り出したミリシェンスに、ゴルダは「前の契約者にもこうしていたのか?」

とシンプルに聞いた。ミリシェンスはそれにええとだけ答えて耳掃除を続ける。黙々と手を動かし、耳の中を傷つけぬようにだ。

「あんまり汚い耳も考えものよね」

耳掃除を終えたミリシェンスに言われて、ゴルダはまあなと返して体を起こす。
そして今度はミリシェンスに

「今度は俺がやる番だ」

自分の膝の上に頭を乗せるよう促す。
それに対してミリシェンスは変なことをすればただでは済まさないという顔をしてゴルダの膝の上へ頭を置いた。

「動くなよ?」

「動かないわよ」

こうして立場が入れ替わり、今度はゴルダがミリシェンスの耳を掃除する番に。
ミリシェンスはゴルダが余計なことをしないか心配でたまらなかった。
だが結果的に、ゴルダは黙々と診察眼を使いつつミリシェンスの耳掃除をしただけで杞憂に終わった。
やけに耳の中がスッキリした感覚を覚えたミリシェンスはゴルダに

「診察眼って便利ね」

と返し、礼にと言わんばかりにその頬へ軽くキスをする。

いつも自分で耳掃除しているあなたも、たまには子供に戻って誰かに耳掃除をしてもらってはどうだろうか?
きっと懐かしい気分になれるはずだ。

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小説(一次) |

満月のミリシェンスンスとゴルダ

青白い満月の光が地上に住まうものどもをさしたる興味も示さずに見下ろす秋の夜長。
バルコニーで月を眺めながらワインを飲んでいたゴルダの元へ家事を済ませたミリシェンスがやって来た。
今日は満月ということもあり、月の属性が強まっていつもよりどこか魅力的にも見える。
「ふふふ、月がとてもきれいね」

口調がいつもと違うミリシェンスにゴルダは顔を合わせてそうだなと肯定する。
ゴルダは感情欠落により魅力系能力の類はほとんど受け付けないが、それでもどこか惹かれるものを感じていた。しばらく見つめ合っていると、唐突にミリシェンスが膝に座った。

膝に座られたゴルダは、ワイングラスを横のテーブルへと置くと無意識のうちにミリシェンスの頭を撫でていた。
もちろん額の核石を触らないようにしながら。
頭を撫でられたミリシェンスは、クスクスと笑うと

「このまま体起こせるかしら?」

ゴルダに上半身を起こすように促した。

「こうか?」

言われるがままにゴルダが上半身を起こすと、何を目論んでかは一切分からないがミリシェンスはゴルダの右の頬にキスをしてきた。

「これは、どういう意図がある?」

突然頬にキスをされたゴルダは不思議そうにミリシェンスに聞くが、ミリシェンスはクスクス笑うだけ。

ゴルダはこのミリシェンスの行動を満月によるものだと判断してはいたが、普段このようなことをしてこないものがする行為というのは、恐怖の感情を持つものならば畏怖すること間違いなしだろう。
だがゴルダはただただ不思議がるだけで畏怖は感じてなどいなかった。

「何か飲むか?」

取り寄せ魔法で新しいワイングラスを取り寄せようとしたゴルダに、ミリシェンスはいらないと鈴のような声で言い、いつもの前掛けエプロンを外す。

これは従者としてではなく、一介の幻獣として関わることを意味していた。
はたしてミリシェンスは何をする気なのだろうか?

ミリシェンスの一連の行為を見ていたゴルダは、もはや不思議がるというよりはお前は何がしたいんだという目でミリシェンスを見るようになっていた。
やがてミリシェンスは、ゴルダの首輪に手を触れて何かを確かめるようにまさぐる。
その間に首元に感じる違和感にゴルダは渋い顔をする。

「あなたの血、いただいても?」

やがて首輪をまさぐり終えたミリシェンスの一言に、ゴルダは

「竜滅病が持病である以上吸わせるわけにはいかん」

と即答。
竜医滅病の感染経路の一つとして、血液感染があるがための反応だ。しかしながら、幻獣族への竜滅病感染は確認されてないのも事実。
だがそれは、データがないが為であり感染する可能性がゼロとはいえない。
そのためゴルダは自分の血を飲ませるのを拒み続けてきた。あのシャールイズでさえもだ。
だがミリシェンスは、牙のような八重歯をゴルダに見せびらかしながら

「大丈夫、感染はしないから」

と自信たっぷりに言う。

なぜミリシェンスが感染しないと断定できるのか?
いささか疑問ではあったが、素直に許可した方がいいと考えて

「構わんが、違和感感じたら途中でも止めて吐きだせよ?」

首輪を外してミリシェンスが吸いやすいようにする。最近は制御力が高いので、短時間なら首輪を外しても問題はない。

ゴルダが首輪をテーブルに置いたと同時に、ミリシェンスはゴルダの肩と脇の下辺りに手を回すとその首に八重歯を軽く当てて吸う位置を決めると、何の躊躇もなく噛み付いて牙のように鋭い八重歯を首へと突き刺す。
その際ゴルダは採血時に針を刺されたような違和感を感じた。

その後も違和感は感じはしたものの、どちらかというとミリシェンスの顔の毛が頬に当たっていることによる違和感であった。
吸血自体はほんの数分で終わり、ミリシェンスが首元から顔を離すとゴルダは再び首輪をつける。
血を吸ったミリシェンスは満足そうに笑みを浮かべいたが、口元についていた血が何とも言えない雰囲気を醸し出していたので、ゴルダはその口元についていた血を拭き取ってやる。

するとミリシェンスは何も言わずにまた頬にキスをした。これが礼の代わりなのだろう。
ミリシェンスは夜空の方へ向き直り

「あなたと後どれだけの満月を迎えられるのかしら?」

ミリシェンスの独り言ようにも受け止められる問いにゴルダは

「数えるだけ不毛だ、俺がくたばるその日まで何度でも今日のような満月は迎えられる」

契約切れるその日まで何度でも迎えられると返し、また頭を撫でる。
今宵の月は、どこか地上のものどもに興味を示しているようだった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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