氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

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出会い-ルァクルと

「誰この子は?」

その日の朝、ゴルダはミリシェンスのその一言で目を覚ます。
どうにも昨夜の記憶が思い出せないあたり、久々に相当な量を飲んできたのだろう。
居間のテーブルの上には、携帯と財布が乱雑に放り投げられており酔っていたことは一目瞭然。

しかし、ミリシェンスの一言がどうにも引っかかる。
自分の頭を軽く掌底で叩きながらゴルダが起き上がると、
そこには狐に似た幻獣族がゴルダをじっと見つめていた。

「知らん、酔っていた時に何をしていたのか思い出せん」

ゴルダは酔っていた時に何をしたのかが思い出せないとはいいつつも、
その幻獣族の名前が「ルァクル」という名であるのはしっかり覚えていた。
脚がかなり発達しており、そこら辺の木であれば忍者のように飛び乗れるだろう。
それ以外に目を引くのは、背に生えたおそらく羽のような何かと、首に下げたペンダント。

「頭が覚醒すれば何か思い出せるでしょうね、はい水」

ミリシェンスから水を受け取り、一気に飲み干すゴルダ。
まだ酔いは覚めていないが、昨夜自分が何をしていたのかを思い出してきた。
それは昨夜依頼を終え、依頼主と飲んでいた時の事---。

「乾杯」

「うむ、乾杯」

外見は人だが、実は異界の魔族だという依頼者からエマセレスとミスリルの買い付け手伝いの依頼を終え、
行きつけのバーでスピリタスのショットグラスで乾杯する2人。
怪しい依頼でもなく、普通に買い付けて依頼者の出身世界へ送るだけで50万ゴールド近い報酬。
こういう羽振りのいい依頼者はごくまれに存在し、
ちょっとしたボディーガードの依頼だけで過去に300万ゴールド近い報酬をもらったことがゴルダにはある。

「やはりスピリタスは効く」

「ほとんどアルコールだがな」

スピリタスを引っ掛けて上機嫌な依頼主と、スピリタスの次は獺祭の磨き二割三分を飲むゴルダ。
2人は次から次へと酒を頼んでいき、滅多に酔わないゴルダも程よく酒が回ってきた辺りで依頼者がこんな話を持ち掛けた。

「あんた、幻想獣医師とか言ってたよな。ちょいと見せたいものがあるんだが、興味はあるか?」

本格的に酔っているわけでもなく、ほろ酔い状態のゴルダはふむと呟いて肯定する。
依頼者はそうこなくてはと言って2人分の勘定を押し付けてゴルダと共に店を出た。

「見せたいもんってのはこれだ」

依頼者にバーの裏へ連れてこられたゴルダは、目の前に狐に似た幻獣族を差し出される。
大きさはレルヴィンより少し小さい程度で、背に羽を生やし、ペンダントを下げている。

「こっちの世界で言う、幻獣族の一種だな」

ゴルダはその狐に似た幻獣族の目線の高さまでしゃがみながら呟く。
すると、狐に似た幻獣族はゴルダの匂いをスンスンと嗅ぐと、その周りを回りだすという仕草を見せた。
おそらく、ゴルダに強い興味を示しているのだろう。

「ふぅむ。ルァクルが他人に秒速で懐くとはあんたやっぱ素質があるな」

依頼者の一言にゴルダは、そうなのかと返し狐に似た幻獣族改めルァクルに自分の手の匂いを嗅がせてから頭をなでる。
それにルァクルは一切嫌がらず、むしろゴルダの手に自ら頭を擦り付けてきた。
依頼者がゴルダにルァクルを会わせた理由は、ほぼ間違いなく里親になってほしいということなのだろう。

「里親になれという追加依頼か?ならさらにドネート(報酬)をもらうぞ。最低20万ゴールドだ」

里親を探せ、一時的に預かってほしいなどの依頼は珍しくはないのだが、里親になれという依頼は初めてである。
ゴルダは里親になれという依頼であれば最低20万ゴールドからだと交渉を持ち掛けた。
依頼者は渋い顔をしながらも、どこからか1万ゴールド紙幣を50枚も取り出して

「向こうへ戻ったら値段ピンパネして売らねぇと大赤字だ。報酬を受け取れ、これで足りるだろ?」

これで足りるだろとゴルダに押し付け、夜の闇へと消えていった。
残されたゴルダは、ルァクルに

「俺はゴルダだ、今後とも見知り置きを」

自らの名を名乗り、帰路へと着いたのだった。

それから30分ほどして、ゴルダは酒の抜けぬまま家へと帰宅。
家の明かりはすでに消えており、ミリシェンス達はもう寝いているようだ。
家の中へ入り、明かりをつけて台所へ行き水を飲もうとしたところルァクルが常について回ることをゴルダは知る。
だが、ルァクルは決してゴルダが歩く邪魔にならないように配慮をしてついて回っていることから、
主人と認めたものにはどうやらとことん尽くす?性格のようだ。

「お前はどうやら俺の言っていることを理解はしているらしいが、お前の話す言語が分からん」

冷蔵庫のミネラルウォーターをぐいと飲み、じっとゴルダを見つめているルァクルにゴルダはそんなことを呟く。
するとルァクルは急に口を開いて

「これでお分かりかと思うが、いかがだろうか?」

聞いた感じではメインは幻獣語、サブ言語としてエルフ語とアストライズ方言の
ドランザニア語が混じったような言語をルアクルは話した。
メインは幻獣語なので、幻獣語が理解できれば十二分な意志疎通は可能だろう。

「とりあえず、俺は寝る。お前は好きなように寝てくれ」

水を飲み終えたゴルダは居間のテーブルに携帯と財布を放り投げ、ソファへ横になってそのまま寝てしまう。
一方ルァクルはソファの傍で丸まって寝ることにした。
これが昨夜の出来事である。

「依頼で、里親になった。それでいいのね?」

ようやく頭が覚醒し、昨夜のことを思い出したゴルダは経緯をミリシェンスに話す。
一方ルァクルは何を食べるか分からないので、ミリシェンスが適当に用意した朝食を何の文句も言わず食べていた。

「それ大金掴まされて、里親にさせられたと言ったほうが早いんじゃないの?」

ミリシェンスの言葉に、ゴルダはあながち間違いでもないと返しながらコーヒーを飲む。
大飯食らいなレルヴィンが居ても家計に全くダメージが入らない程度には収入が潤っているゴルダ家の家計だが、
あまり同居人が増えすぎるのも考えものである。

「なるようになるだろう」

ゴルダのその一言に、ミリシェンスはわずかに呆れるのだった。
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小説(一次) |

時期尚早の氷花

その日はブリザードもなく、澄んだ万年雪国の夜空に下弦の月が淡く光っていた。
そんな月夜の元でエインセルスは雪原移動用の竜に乗り、夜の雪原を駆ける。
なぜこんな夜から城を出て雪原を移動しているのかというと、氷花竜の気配を1月ほど早く感じ、不思議に思って調べるために城を飛び出したのだ。

例年では、氷花竜は3の月から4の月の間しか現れず、それ以降は一切姿を見せなくなる。
それが1月も早く現れたということは何かあったに違いない。
スノーヴァにも気になるなら今すぐ行動を起こせと背中を押され、城の者の制止を振り切ってエインセルスはこうして夜の雪原をスノーヴァと共に駆けている。

「魔力観測所からは今年に入って特に変化はないと最近報告を受けたばかりだが、気づけていない何かが起きているのか?」

ふと独り言を漏らしたエインセルスに、スノーヴァはかすかに尻尾を揺らして

「ほぼ間違いない、実は2の月に入ってすぐからいわゆる『春の魔力』というものが強く感じられた。この魔力は普通2の月の終わり辺りから感じるものだ」
例年より早く春の魔力を感じたと話す。
それに対してエインセルスはそうかと頷き、例年氷花竜が必ず現れる場所へと急ぐ。

一方で、リヴァルスウルフ達も氷花竜の気配を感じ取り、族長のシェリスが行動を起こしていた。
他の同族は連れず、ただ1人で。

「おかしい。現れるには早すぎる」

エインセルスと同じ考えをしていたシェリスは、氷花竜の出現場所へと走る。
例年より早く現れるということは、何かがあるはずだ。
やがてシェリスは氷花竜が現れる場所へと到達した。

「気配はする、でもまだ現れてない。そして氷花が咲いている」

氷花が咲いているところを見ると、出没したのはほぼ間違いないのだが肝心な氷花竜の姿が見えない。
シェリスがしばらく辺りを注意深く調べていると、雪原移動用の竜に乗ったエインセルスとスノーヴァがやって来た。

「来たのね」

シェリスは素っ気なくエインセルスに言うと、顎で氷花を指す。
エインセルスは指された方に咲いている氷花に近寄り、調べようとしたがスノーヴァがふわりと肩から降りてその氷花を食べてしまった。

「無味か、普通はほんのり甘いんだけど」

それがどういう意を示すの?とシェリスに目線で訴えられたスノーヴァは、他にもたくさん咲いていた氷花を前足で1つ摘み取ると

「氷花は例年通り咲いていれば春の魔力を含んでほんのり甘い。だがこの氷花は無味。誰かが人工的な春の魔力を放出したせいだろう」

それをシェリスの前に突き出して、誰かが人工的な春の魔力を放出しているからだと言う。

シェリスはそれに納得したような顔をして、あとはあなた達に任せるわと言わんばかりに去っていく。

「人工的な春の魔力には心当たりがある。農業研究所の連中が最近研究用に置いてあった四季の人工魔力のうち春の魔力を誤って外へ放出したという障害報告が上がっていたのを今思い出した」

人工的な春の魔力が氷花竜を例年よりも早く出没させたというスノーヴァに、エインセルスは農業研究所で四季の人工魔力のうち春の魔力が外へ放出されたことがあったことを思い出したと呟く。

「それでか、なかなか厄介なものだ。以降厳重注意するよう伝えたんだろうな?」

「無論の事」

そんな会話をしながらリャダヴィルチへと戻っていく2人を、1匹の氷花竜が木の陰から見送っていた。

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小説(一次) |

耳掻き、されてみませんか?

ある日のこと、ゴルダは風呂上がりに耳掃除の魔法で自分の耳を掃除していた。
綿棒や耳掻きなどを使わずして耳掃除ができるのは、魔法の発展した世界の特権だろう。
するとそれを見たミリシェンスが

「そんな自分でやらなくても言ってくれればやるわよ?」

などと言い出す。

そこでふと思い出された、ゴルダの薄れていたアルガティアのところで過ごした子供時代の記憶には、アルガティアか王宮の従者にいつも耳掃除をしてもらっていたという記憶。
だがいつしか、耳掃除の魔法を取得してからは自分でやるようになり、人の手を借りなくなった。

「人の手借りずともできることは全て自分でできるようにしろ」

かつて父であるロドルフォや、家庭教師をしていたルライエッタに散々言われてきたこの言葉が、今のほとんどのことを一人でこなせるゴルダを形作ったと言っても過言ではない。
現にこうしてゴルダは1人で耳掃除をしている。

「1人でできることでも、たまには人の手を借りないとすり減っていくだけ。人に差し伸べられた好意はまずは受け取らないと」

そうでしょ?という顔をするミリシェンスを見てゴルダは、耳掃除を止めて思慮にふける。

1人できることは全て1人でやるというゴルダのくだらなくも確固たるアイデンティティが、肯定の意思を示すのをよしとしない。
人に頼るは最終手段であり、切り札。普段は切ってはならないカード。
ゴルダはそれを切るか切るまいかの瀬戸際に立たされている。

「じれったいわね。いいからソファに横になりなさい」

石像かというくらいに微動だにしなかったゴルダに、痺れを切らしたミリシェンスがとにかく横になれと命じてきたので、ゴルダは何も言わずに片耳を天井に向けて横になる。
するとそこへミリシェンスがふわっと寄ってきて耳掻きを出す。

「以外ときれいなのね、あなたの耳って」

有無を言わさず耳掃除を始めたミリシェンスに言われ、ゴルダは

「ほとんど毎日掃除しているからな」

とだけ返し、ミリシェンスにさせたいように耳掃除をさせる。
なおミリシェンスとゴルダでは体格差があるので、ミリシェンスはゴルダの両肩の上に乗る形で耳掃除をしている。
その際首や顔、耳にミリシェンスの体毛が触れているがゴルダは全く気にしていない様子。
おそらく、その違和感が心地よいものなのだろう。

「はいおしまい、逆の耳もするから姿勢変えて」

一旦自分から離れたミリシェンスに言われて、ゴルダは軽く頷いてから寝相を逆の耳が天井に向くようにする。
それを確認したところで、ミリシェンスはまたゴルダに乗っかって耳掻きを始める。
だがしかし、相変わらずの構図であった。

「でもこうして耳掃除していると、前の世界が懐かしくも感じるわ」何故か過去の回想に浸り出したミリシェンスに、ゴルダは「前の契約者にもこうしていたのか?」

とシンプルに聞いた。ミリシェンスはそれにええとだけ答えて耳掃除を続ける。黙々と手を動かし、耳の中を傷つけぬようにだ。

「あんまり汚い耳も考えものよね」

耳掃除を終えたミリシェンスに言われて、ゴルダはまあなと返して体を起こす。
そして今度はミリシェンスに

「今度は俺がやる番だ」

自分の膝の上に頭を乗せるよう促す。
それに対してミリシェンスは変なことをすればただでは済まさないという顔をしてゴルダの膝の上へ頭を置いた。

「動くなよ?」

「動かないわよ」

こうして立場が入れ替わり、今度はゴルダがミリシェンスの耳を掃除する番に。
ミリシェンスはゴルダが余計なことをしないか心配でたまらなかった。
だが結果的に、ゴルダは黙々と診察眼を使いつつミリシェンスの耳掃除をしただけで杞憂に終わった。
やけに耳の中がスッキリした感覚を覚えたミリシェンスはゴルダに

「診察眼って便利ね」

と返し、礼にと言わんばかりにその頬へ軽くキスをする。

いつも自分で耳掃除しているあなたも、たまには子供に戻って誰かに耳掃除をしてもらってはどうだろうか?
きっと懐かしい気分になれるはずだ。

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小説(一次) |

満月のミリシェンスンスとゴルダ

青白い満月の光が地上に住まうものどもをさしたる興味も示さずに見下ろす秋の夜長。
バルコニーで月を眺めながらワインを飲んでいたゴルダの元へ家事を済ませたミリシェンスがやって来た。
今日は満月ということもあり、月の属性が強まっていつもよりどこか魅力的にも見える。
「ふふふ、月がとてもきれいね」

口調がいつもと違うミリシェンスにゴルダは顔を合わせてそうだなと肯定する。
ゴルダは感情欠落により魅力系能力の類はほとんど受け付けないが、それでもどこか惹かれるものを感じていた。しばらく見つめ合っていると、唐突にミリシェンスが膝に座った。

膝に座られたゴルダは、ワイングラスを横のテーブルへと置くと無意識のうちにミリシェンスの頭を撫でていた。
もちろん額の核石を触らないようにしながら。
頭を撫でられたミリシェンスは、クスクスと笑うと

「このまま体起こせるかしら?」

ゴルダに上半身を起こすように促した。

「こうか?」

言われるがままにゴルダが上半身を起こすと、何を目論んでかは一切分からないがミリシェンスはゴルダの右の頬にキスをしてきた。

「これは、どういう意図がある?」

突然頬にキスをされたゴルダは不思議そうにミリシェンスに聞くが、ミリシェンスはクスクス笑うだけ。

ゴルダはこのミリシェンスの行動を満月によるものだと判断してはいたが、普段このようなことをしてこないものがする行為というのは、恐怖の感情を持つものならば畏怖すること間違いなしだろう。
だがゴルダはただただ不思議がるだけで畏怖は感じてなどいなかった。

「何か飲むか?」

取り寄せ魔法で新しいワイングラスを取り寄せようとしたゴルダに、ミリシェンスはいらないと鈴のような声で言い、いつもの前掛けエプロンを外す。

これは従者としてではなく、一介の幻獣として関わることを意味していた。
はたしてミリシェンスは何をする気なのだろうか?

ミリシェンスの一連の行為を見ていたゴルダは、もはや不思議がるというよりはお前は何がしたいんだという目でミリシェンスを見るようになっていた。
やがてミリシェンスは、ゴルダの首輪に手を触れて何かを確かめるようにまさぐる。
その間に首元に感じる違和感にゴルダは渋い顔をする。

「あなたの血、いただいても?」

やがて首輪をまさぐり終えたミリシェンスの一言に、ゴルダは

「竜滅病が持病である以上吸わせるわけにはいかん」

と即答。
竜医滅病の感染経路の一つとして、血液感染があるがための反応だ。しかしながら、幻獣族への竜滅病感染は確認されてないのも事実。
だがそれは、データがないが為であり感染する可能性がゼロとはいえない。
そのためゴルダは自分の血を飲ませるのを拒み続けてきた。あのシャールイズでさえもだ。
だがミリシェンスは、牙のような八重歯をゴルダに見せびらかしながら

「大丈夫、感染はしないから」

と自信たっぷりに言う。

なぜミリシェンスが感染しないと断定できるのか?
いささか疑問ではあったが、素直に許可した方がいいと考えて

「構わんが、違和感感じたら途中でも止めて吐きだせよ?」

首輪を外してミリシェンスが吸いやすいようにする。最近は制御力が高いので、短時間なら首輪を外しても問題はない。

ゴルダが首輪をテーブルに置いたと同時に、ミリシェンスはゴルダの肩と脇の下辺りに手を回すとその首に八重歯を軽く当てて吸う位置を決めると、何の躊躇もなく噛み付いて牙のように鋭い八重歯を首へと突き刺す。
その際ゴルダは採血時に針を刺されたような違和感を感じた。

その後も違和感は感じはしたものの、どちらかというとミリシェンスの顔の毛が頬に当たっていることによる違和感であった。
吸血自体はほんの数分で終わり、ミリシェンスが首元から顔を離すとゴルダは再び首輪をつける。
血を吸ったミリシェンスは満足そうに笑みを浮かべいたが、口元についていた血が何とも言えない雰囲気を醸し出していたので、ゴルダはその口元についていた血を拭き取ってやる。

するとミリシェンスは何も言わずにまた頬にキスをした。これが礼の代わりなのだろう。
ミリシェンスは夜空の方へ向き直り

「あなたと後どれだけの満月を迎えられるのかしら?」

ミリシェンスの独り言ようにも受け止められる問いにゴルダは

「数えるだけ不毛だ、俺がくたばるその日まで何度でも今日のような満月は迎えられる」

契約切れるその日まで何度でも迎えられると返し、また頭を撫でる。
今宵の月は、どこか地上のものどもに興味を示しているようだった。

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小説(一次) |

妹が欲しい?ならば創り出そう

それは珍しく、アルカトラスとシア、とゴルダが酒を飲んでいた時のこと。
今日は特にアルカトラスあるいはシア、またはゴルダが飲もうと言い出したわけではなくただ単に偶然暇だったので飲もうとという話になってこうして飲んでいるだけである。

「うむ、悪くない」

ゴルダがそう呟きながら竹鶴のロックを飲んでいると、人の姿でちょうどウルフ8を飲み終えたシアが百年の孤独を飲んでいるアルカトラスに

「私妹が欲しいんだけど、創造しても構わない?」

などとぼそりと呟く。
これを聞いたアルカトラスと、第三者視点で聞き流していたゴルダは同時に飲んでいた酒を吹き出した。
ほとんどのことに動じないゴルダが酒を吹き出すほどに動揺するのだから、シアの一言はよっぽどの爆弾発言だったようだ。

「汝と同等の力を持つ妹をか?」

吹き出した酒を拭きながら、アルカトラスは淡々とシアに聞く。
一方でゴルダも吹き出した酒を拭きながら聞き耳を立てていた。

「まさか。私より魔力は三分の一にするし、定義改変能力なんかもかなりの制限つけるわ」

今度はサタンレッドを開けて飲みながら、シアはアルカトラスに返す。
この条件でもアルカトラスは素直に首を縦に振れないようで、持っていたグラスを一旦テーブルに置いてから

「一晩ほど考えさせてはもらえないか?」

一晩の猶予を設けるようにシア言う。

その後、数十秒の静寂ののちにアルカトラスのグラスの氷がカランと音を立てて崩れ溶けたところで、シアは一言

「ええ」

と返して草食竜のジャーキーを頬張った。
この時点でゴルダは、もの凄く嫌な予感を感じていたがそれを口にすることはなかったという。

そして翌日。
結構アルカトラスはシアに妹を生み出すことを許可する。
だが、シアの言っていたきつい制限を設けるという前提条件を遵守させた上で。

「ありがとう」

許可を得たシアは、アルカトラスに一言礼を言うその日から数日の間ずっとアルカトラスやサフィの前に姿を見せなかった。
だが、その間にセレノアが抜けた羽根を、イファルシアとフィルスに抜け毛を、そしてゴルダに血液検査用に少量の血をそれぞれもらいに来ていたという話をアルカトラスはサフィから聞かされる。

「何がしたいのか全くもって分からぬな」

「そもそも妹を創造するって言い出す方がおかしいと思うわ私は」

アルカトラスとサフィがそんな会話をしている頃、シアは自分の塔で創造の準備を黙々と進めていた。
生命の創造自体、この世界を創造した時以来数千年に渡ってやっていないので、失敗する可能性も拭えなかったが、妹が欲しいというその目的だけでシアは念入りな準備を進める。

「記憶もある程度定義上で捏造でもしとかないと厄介ねえ。うんうん、記憶はこれでよしと。次は性格を…」

まるでソフトウェアのプログラミングを行うエンジニアめいて、シアは鼻歌まじりに妹という存在の定義の構築を続ける。

「ちょっと浮いている方が妹としてかわいいかしらね、そしてここはこうして」

そのシアの姿は、どこか楽しそうであった。

シアが姿を見せなくなってから一週間。
さすがにそろそろ様子を見て来いと、サフィからそうアルカトラスから伝言を預かっていると言われたゴルダは、そこまで気にかけることか?と思いながらも塔を登る。

「おい、元気してるか?」

難なく塔の頂上へと登り、顔を上げたゴルダの目の前にシアやアルカトラスと瓜二つだが角がなく、フィルスのような耳。
自分と同じ赤と青の目のだいたい10メートルほどの竜が大型犬ほどはあるクッキーを食べながらコーヒーを飲んでいた。

「あらあら、ゴルダちゃん。姉さんは今寝ているわ」

この間までは居なかった竜に名を呼ばれてもなぜ知っているとも突っ込まず、ゴルダは診察眼を発動。
魔力はシアの三分の一といったところだが、それでも膨大な魔力であることは変わらず、聖属性以外に微妙に草の属性を感じ取ることができた。
そして、定義改変能力も持ち合わせているようだがシアがかなりの制限をかけているようで自衛以外の定義改変はできないようである。

「ゴルダちゃん?」

「その呼び方は控えてもらいたい、妙な違和感を感じる」

おそらくシアの妹と思わしき竜にちゃん付けで名を呼ぶのをやめるように言うと、残っていたクッキーを一気に頬張り、食べ終わってから

「姉さん寝ているから私の名前聞いてないと思うけど、姓はアルシェリアで名はメルムーア」

メルムーアと名をと名乗る。
その際一瞬ボンと魔力が爆発した音がしたが、これはという名が幻獣語で「聖母の妹」に似た意を持つのと、詠唱詞だからである。

「メルムーア。『聖母の妹』に似た意を幻獣語で持っているな。だがなぜわざわざシアは幻獣語の名を?」

その名前にふむふむと頷きながらも、なぜ幻獣語の名をつけたのかとゴルダはいつの間にかその場に正座して緑茶を啜りながら考える。

メルムーアは淡々と正座状態で緑茶を啜るゴルダに、尻尾で頭を小突きながら

「姉さんとゴルダって、仲良いのかどうなのかがはっきりしないわよね」

シアとゴルダの仲がいいのか悪いのかはっきりしないと言う。
それにゴルダは、一旦湯呑みを置いてからこう返す。

「悪くはない。ただシアの方ががっつくことが多いだけだ」

それにメルムーアはふうんとだけ返した。

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